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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06Q
審判 査定不服 特29条特許要件(新規) 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06Q
管理番号 1271979
審判番号 不服2011-13248  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-06-22 
確定日 2013-03-28 
事件の表示 特願2000-374784「電子商取引システムおよび電子商取引方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 6月28日出願公開、特開2002-183433〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年12月8日の出願であって、平成22年4月6日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年6月14日付けで意見書が提出され、さらに同年10月4日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年12月13日付けで意見書が提出されたが、平成23年3月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年6月22日付けで拒絶査定不服審判請求及び手続補正がなされた。
その後、平成24年1月26日付けで審尋がなされ、同年3月26日付けで回答書が提出され、当審がした同年7月19日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年9月24日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成24年9月24日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項2に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項2】 ネットワーク上で商品を販売する商品販売端末が、商品の購入依頼を行う購入者端末に対して、少なくとも、商品情報と、運送会社情報とを送信し、
前記購入者端末が、前記商品販売端末に対して、少なくとも、購入希望する商品を示す購入希望商品情報と、商品代金の決済を行う金融決済端末から商品代金を回収可能な、過去に発行した電子マネーと重複しない商品購入希望者の個人情報を含まない電子マネー識別子とを、通知し、
前記商品販売端末が、前記運送会社の運送会社端末に対して、前記購入希望商品の配送依頼を送信することにより、商品取引を成立させることを特徴とする電子商取引方法。」

3.当審の拒絶理由
当審において、平成24年7月19日付けで通知した拒絶理由のうち理由1と理由3の概要は、次のとおりである。

3-1.理由1(特許法第29条第1項柱書違反)
本件出願の請求項1,2に係る発明は、下記の点で特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないので、特許を受けることができない。

請求項1において、かかる記載では、購入者端末から商品販売端末に通知する情報の内容を特定したにすぎないといえ、商品取引を成立させるにあたって、当該「電子商取引システム」における如何なるハードウェア資源を用いてどのような処理がなされるのかは特定することができないものであることから、この請求項1に係る発明は、全体として「自然法則を利用した技術的思想の創作」である発明に該当するとはいえない。
請求項1と同様、請求項2についても、かかる記載では、購入者端末から商品販売端末に通知する情報の内容を特定したにすぎないといえ、商品取引を成立させるにあたって、そのための各処理が如何なるハードウェア資源をどのように用いて実現されるのかは特定することができないものであることから、この請求項2に係る発明は、全体として「自然法則を利用した技術的思想の創作」である発明に該当するとはいえない。

3-2.理由3(特許法第29条第2項違反)
本件出願の請求項1,2に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された特開平9-54808号公報(引用文献1)に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.当審の判断
4-1.理由1(特許法第29条第1項柱書違反)について
特許法2条1項には、「この法律で『発明』とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と規定され、同法29条1項柱書には、「産業上利用することができる発明をしたものは、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。」と規定されている。
したがって、請求項に係る発明が「自然法則を利用した技術的思想の創作」でないときは、その発明は特許法29条1項柱書に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない。例えば、請求項に係る発明が、自然法則以外の法則(例えば、経済法則)、人為的な取決め、人間の精神活動に当たるとき、あるいはこれらのみを利用しているときは、その発明は、自然法則を利用したものとはいえず、「発明」に該当しない。
ただし、その発明がいわゆるソフトウェア関連発明(その発明の実施にプログラムを必要とする発明)である場合には、コンピュータ上で実行されるプログラムが自然法則に基づいた制御等を行っていない場合や、自然法則以外の経済法則などに基づいた情報処理を行っている場合であっても、請求項の記載において、コンピュータで実現される機能要素がソフトウェアとハードウェア資源とが協働した具体的手段として特定され、それによってソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて具体的に実現されていることが提示されていれば、自然法則を利用したコンピュータシステムの発明であるとすることができ、「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当すると認められる可能性がある。

そこで、本願発明について検討すると、
本願発明は、商品取引を成立させる電子商取引方法として、下記のa.?c.の発明特定事項からなるものである。
a.ネットワーク上で商品を販売する商品販売端末が、商品の購入依頼を行う購入者端末に対して、少なくとも、商品情報と、運送会社情報とを送信し、

b.前記購入者端末が、前記商品販売端末に対して、少なくとも、購入希望する商品を示す購入希望商品情報と、商品代金の決済を行う金融決済端末から商品代金を回収可能な、過去に発行した電子マネーと重複しない商品購入希望者の個人情報を含まない電子マネー識別子とを、通知し、

c.前記商品販売端末が、前記運送会社の運送会社端末に対して、前記購入希望商品の配送依頼を送信する。

これらa.?c.の各発明特定事項は、結局のところ、商取引を実現する手順として、所定の端末から所定の端末へ送信あるいは通知される情報の内容を特定したにすぎず、情報の内容をどのようなものとするかは人為的取決めそのものである。そして、ここで使用される各端末(コンピュータ)やネットワークは、商取引に必要な情報の伝達のための単なる道具でしかなく、請求項2の記載全体としてみると、コンピュータを情報伝達の道具として使用した商取引の手順を人為的に取決めたものであるから、自然法則を利用したものとはいえない。
また、これらa.?c.の各発明特定事項は、端末が実行する機能として記載されており、一応ソフトウェアによる情報処理を特定しようとするものであると解することもできるが、ここでの各情報処理をみても、単にコンピュータ(端末)が果たすべき機能を特定したにとどまり、商品取引を成立させるにあたって、コンピュータで実現される機能要素がソフトウェアとハードウェア資源とが協働した具体的手段として特定され、それによってソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて具体的に実現されているとはいえず、全体として「自然法則を利用した技術的思想に創作」には該当しないものである。

したがって、本願発明は、「自然法則を利用した技術的思想に創作」である発明に該当するとすることはできない。

4-2.理由3(特許法第29条第2項違反)について
上記「4-1.」で検討したとおり、本願発明は特許法第2条第1項でいう「自然法則を利用した技術的思想の創作」である発明に該当しないものであるが、仮に、本願発明が同法第2条第1項でいう「自然法則を利用した技術的思想の創作」である発明に該当すると認められるものとして、本願発明が、その出願前日本国内または外国において頒布された引用例に記載された発明に基づいて、いわゆる当業者が容易に発明をすることができたものであるかについての検討もしておく。

(1)引用例
当審が通知した拒絶の理由に引用された特開平9-54808号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した)。
ア.「【0002】
【従来の技術】図7は、オンラインショッピング等における、顧客・銀行/カード会社・販売者の間でのオンライン決済のフローチャートである。利用者は商品の購入申込書の電子文書を作成し、申込書に代金の支払い方法を指定する(S11)。利用者が銀行振替、クレジットカード払いを利用して代金を支払う場合、銀行振替であれば口座番号を、またクレジットカード払いであればクレジットカード番号を申込書に記入する。
【0003】申込書を取引先に送信すると(S12)、取引先は申込書の内容を確認し、利用者に指定された方法での代金の決済が可能であるかを決済代行者である銀行又はクレジットカード会社に問い合わせる(S13)。銀行又はクレジット会社は、口座の残高、又は銀行、クレジットカード会社から貸越可能な金額が支払い金額以上であって支払い可能な状態であれば、決済を行い(S14)、代金の支払いに前後して購入申込のあった品物が利用者に発送されて取引が成立する(S15)。しかし、支払い不可能な状態であれば、取引は不成立となる(S16)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】以上のように、従来のオンライン取引では、取引の都度、銀行の口座番号、クレジットカード番号といった個人情報を取引先に通知せねばならず、個人情報の漏洩、さらには不正使用の危険性をはらんでおり、さらに個人情報の不正使用による不正取引が行われても検出が困難である。このような危険性のため、オンライン取引に対する信頼性が低く、また不正使用されても被害が小さくてすむように取引額の上限が少額に抑えられている。一方、専用回線によるアクセスのみを許すオンライン取引では取引に対する信頼性は高いが利用者が限定され、汎用性が低い。
【0005】本発明はこのような問題点を解決するためになされたものであって、発行人の電子署名と決済額の情報を含む電子小切手に、振出人が電子署名をして決済可能となる構成とすることにより、改竄、偽造が事実上不可能であって、口座番号、クレジットカード番号等の個人情報が第三者に漏洩せず、また汎用の通信システムでサービスの提供が可能なオンライン決済システム、電子小切手の発行システム、及び計算機による計算で電子小切手の正当性を判定できて自動化が容易な検査システムの提供を目的とする。」

イ.「【0024】
【発明の実施の形態】図1は本発明のオンライン決済システムの第1実施例の構成を示すブロック図であって、クレジットカード会社を決済代行者とする。クレジットカード会社は、利用者から申請された電子小切手の発行が可能であるかを確認するとともに、発行可を確認した場合は利用者から申請された決済額とシリアルな発行番号とを付与した電子小切手を電子小切手発行プログラム52を用いて発行するための電子小切手発行管理プログラム51と、電子小切手発行プログラム52により発行された電子小切手にクレジットカード会社の電子署名をするためのPEMシステム(署名用)53と、取引先から決済を要求された電子小切手の内容(クレジットカード会社及び利用者の電子署名、発行番号等)を検査して決済の可否を判定するためのPEMシステム(認証/検査用)31と、PEMシステム31の判定結果が決済可を示す場合に、電子小切手の決済額を決済するための電子小切手決済プログラム41とを格納している、ホストコンピュータ、及びホストコンピュータに接続されたパーソナルコンピュータ等の端末装置を備える。
【0025】利用者は、電子メールにより電子小切手の発行をクレジットカード会社に申請するための電子小切手発行申請プログラム11と、クレジットカード会社がPEMシステム(署名用)53により電子署名した電子小切手に利用者の電子署名をするためのPEMシステム(署名用)61と、購入する品物名等を記入して電子小切手とともに取引先に送信する申込の電子文書を作成するための取引申込書作成プログラム21とを格納しているパーソナルコンピュータ等を備える。
【0026】取引先は、電子小切手の振出人を認証するために、利用者から送信されてくる電子小切手に含まれる利用者の電子署名を検査するPEMシステム(認証/検査用)31を格納しているパーソナルコンピュータ等を備える。
【0027】図2は本発明のオンライン決済システムに用いる電子小切手の概念図である。本発明に用いる電子小切手は、銀行、クレジットカード会社等の決済代行者である電子小切手の発行人の電子署名と決済額とを少なくとも含み、発行後に電子小切手の振出人の電子署名が付加されて初めて決済可能となるものである(a) 。また、本発明に用いる電子小切手は、上述の情報の他に、二重発行を防止するための一意な発行番号を含んでもよい(b) 。さらに、本発明の電子小切手は、盗難による不正換金を防止するための受取人の情報を含んでもよい(c) 。このような本発明の電子小切手において、発行人の電子署名は小切手の透かし及び割印の働きをし、振出人の電子署名は手書きのサインの働きをするものである。」

ウ.「【0032】次に、第1実施例の動作を、図3に示す電子小切手の流通過程の概念図、及び図4に示すオンライン決済のフローチャートを基に説明する。利用者は商品の購入申込書の電子文書を作成し、申込書に代金の支払い方法を指定する(S1)。利用者がクレジットカード会社を決済代行者とする場合、利用者は電子小切手発行申請プログラム11を起動して、クレジットカード会社に、代金に相当する決済額の電子小切手の発行を、電子メールシステムを用いて申請する。この請求を受けたクレジットカード会社は、電子小切手発行管理プログラム51を起動して、請求された電子小切手の発行が可能であるかを確認した後、電子小切手発行プログラム52を起動して、シリアルな電子小切手の発行番号(ID)と決済金額とを含む電子小切手を発行し、PEMシステム53を用いてクレジットカード会社の持つ発行用秘密鍵で電子署名した電子小切手を電子メールシステムを用いて利用者に送信する(S2)。
【0033】利用者は送信されてきた電子小切手の決済額を確認し、PEMシステム61を起動して利用者自身の持つ承認用秘密鍵で電子小切手に承認用の電子署名して決済可能な状態にする(S3)。なお、このとき利用者が取引を中止したい場合は電子署名を実行せずに電子小切手の電子文書を放棄すればよい。利用者は、電子署名をした電子小切手と、取引申込書作成プログラム21を起動して作成した取引申込書とを電子メールシステムを用いて取引先に送信する(S4)。
【0034】取引先は、受け取った電子メールから電子小切手を取り出し、利用者の秘密鍵と対である承認用公開鍵と、クレジットカード会社の秘密鍵と対である発行用公開鍵とを入手し、PEMシステム31を起動して電子小切手の内容を検査する(S5)。この検査に合格した場合は電子小切手は正当なものであり、決済可能な状態であると判定できる。取引先は、PEMシステム31での検査に合格した電子小切手を電子メールシステムを用いてクレジットカード会社に送信する。
【0035】クレジットカード会社はPEMシステム31を起動して、取引先から送信されてきた電子小切手の内容を検査し、電子小切手決済プログラム41を起動して、同一の発行番号の電子小切手が換金済みでないことを検査する(S5)。電子小切手の正当性が確認された時点で電子小切手を決済し(S6)、取引が成立する(S7)。しかし、正当性が確認されない場合は、取引が不成立となる(S8)。」

エ.「【0041】なお、本実施例ではクレジットカード会社、利用者、取引先の間で電子メールシステムを利用して電子小切手を流通させるオンライン決済システムについて説明したが、電子小切手の送受信に使用するシステムは電子メールシステムに限らず、インターネット等のネットワーク上で利用可能な他のシステムであってもよい。また、本実施例では電子小切手の発行人と決済代行者が同一である場合について説明したが、決済代行者は必ずしも発行人と同一人である必要はなく、電子小切手の決済の可否を判定する手段を有する決済代行者であればよい。」

上記「エ.」に記載のように、インターネット等のネットワーク上で利用可能な他のシステムである場合に着目し、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「オンラインショッピング等における、利用者(顧客)・クレジットカード会社・取引先(販売者)の間でのオンライン決済により取引を成立させる方法であって、
利用者がクレジットカード会社を決済代行者とする場合、利用者はパーソナルコンピュータを用いてクレジットカード会社のコンピュータに対して、代金に相当する決済額の電子小切手の発行を、インターネット等のネットワークを介して申請すると、クレジットカード会社のコンピュータは決済額や二重発行を防止するための一意(シリアル)な発行番号を含む電子小切手を発行して前記ネットワークを介して利用者に送信し、
利用者は送信されてきた前記電子小切手に電子署名し、パーソナルコンピュータを用いて、当該電子署名した電子小切手と、購入する品物名等を記入した電子文書である取引申込書とを前記ネットワークを介して取引先のパーソナルコンピュータに送信し、
取引先は受け取った前記電子小切手に含まれる利用者の電子署名を検査し、検査に合格した電子小切手をパーソナルコンピュータを用いて、前記ネットワークを介して前記クレジットカード会社のコンピュータに送信し、
クレジットカード会社は取引先から送信されてきた前記電子小切手について、同一の発行番号の電子小切手が換金済みでないことを検査し、当該電子小切手の正当性が確認された時点で電子小切手を決済し、取引先に対して代金を支払い、
購入申込のあった品物が利用者に発送されて取引が成立するようにした、 口座番号、クレジットカード番号等の個人情報が取引先等の第三者に漏洩せず、また汎用の通信システムでサービスの提供が可能なオンライン決済により取引を成立させる方法。」

(2)対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、
ア.引用発明における、利用者の「パーソナルコンピュータ」、取引先の「パーソナルコンピュータ」、クレジットカード会社の「コンピュータ」、「インターネット等のネットワーク」、「品物」は、それぞれ本願発明における、商品の購入依頼を行う「購入者端末」、商品を販売する「商品販売端末」、商品代金の決済を行う「金融決済端末」、「ネットワーク」、「商品」に相当し、
引用発明における「オンラインショッピング等における、利用者(顧客)・クレジットカード会社・取引先(販売者)の間でのオンライン決済により取引を成立させる方法であって」によれば、利用者の「パーソナルコンピュータ」、取引先の「パーソナルコンピュータ」及びクレジットカード会社の「コンピュータ」は、「ネットワーク」を介して接続されていることは明らかである。

そして、「オンラインショッピング」における取引では、まず、取引先の「パーソナルコンピュータ」から利用者の「パーソナルコンピュータ」へ、利用者が購入を希望する品物(商品)を選ぶことができるように、少なくとも品物(商品)情報が送信されることは当然のことであるから、本願発明と引用発明とは、「ネットワーク上で商品を販売する商品販売端末が、商品の購入依頼を行う購入者端末に対して、少なくとも、商品情報を送信し」の点で共通するといえる。

イ.引用発明における「利用者がクレジットカード会社を決済代行者とする場合、利用者はパーソナルコンピュータを用いてクレジットカード会社のコンピュータに対して、代金に相当する決済額の電子小切手の発行を、インターネット等のネットワークを介して申請すると、クレジットカード会社のコンピュータは決済額や二重発行を防止するための一意(シリアル)な発行番号を含む電子小切手を発行して前記ネットワークを介して利用者に送信し、・・・・取引先は受け取った前記電子小切手に含まれる利用者の電子署名を検査し、検査に合格した電子小切手をパーソナルコンピュータを用いて、前記ネットワークを介して前記クレジットカード会社のコンピュータに送信し、クレジットカード会社は取引先から送信されてきた前記電子小切手について、同一の発行番号の電子小切手が換金済みでないことを検査し、当該電子小切手の正当性が確認された時点で電子小切手を決済し、取引先に対して代金を支払い、口座番号、クレジットカード番号等の個人情報が取引先等の第三者に漏洩せず、また汎用の通信システムでサービスの提供が可能なオンライン決済・・」によれば、
引用発明における「電子小切手」は、商品(品物)の代金に相当する決済額の情報と、二重発行を防止するための一意(シリアル)な発行番号とを含み、クレジットカード会社のコンピュータにより発行され、また、同コンピュータにより、同一の発行番号の電子小切手が換金済みでないことを検査し、当該電子小切手の正当性が確認された時点で決済され、代金を支払いが行われるものである。
したがって、引用発明の「電子小切手」における、二重発行を防止するための一意(シリアル)な「発行番号」は、本願発明における、「商品代金の決済を行う金融決済端末から商品代金を回収可能な、過去に発行した電子マネーと重複しない」「電子マネー識別子」に相当するということができる。
さらに、引用発明における「電子小切手」は、「口座番号、クレジットカード番号等の個人情報が取引先等の第三者に漏洩」することのないものであり、「商品購入希望者の個人情報を含まない」ものである点でも一致する。
なお、引用発明における「電子小切手」には、利用者の電子署名がなされるが、改竄、偽造防止のためのものであり、いわゆる「個人情報」には当たらない(本願明細書の段落【0024】によれば、本願発明における「電子マネー」にあっても、電子署名がなされることが記載されている)。

以上のことを踏まえると、引用発明における「利用者は送信されてきた前記電子小切手に電子署名し、パーソナルコンピュータを用いて、当該電子署名した電子小切手と、購入する品物名等を記入した電子文書である取引申込書とを前記ネットワークを介して取引先のパーソナルコンピュータに送信し」によれば、「購入する品物名等を記入した電子文書である取引申込書」は、本願発明における「購入希望商品情報」に他ならないから、
本願発明と引用発明とは、「前記購入者端末が、前記商品販売端末に対して、少なくとも、購入希望する商品を示す購入希望商品情報と、商品代金の決済を行う金融決済端末から商品代金を回収可能な、過去に発行した電子マネーと重複しない商品購入希望者の個人情報を含まない電子マネー識別子とを、通知し」の点で一致する。

ウ.引用発明における「購入申込のあった品物が利用者に発送されて取引が成立するようにした」によれば、本願発明と引用発明とは、「前記購入希望商品の配送により、商品取引を成立させる」ものである点で共通するといえる。

エ.そして、引用発明における「オンライン決済により取引を成立させる方法」は、本願発明における「電子商取引方法」に相当する。

よって、本願発明と引用発明とは、
「ネットワーク上で商品を販売する商品販売端末が、商品の購入依頼を行う購入者端末に対して、少なくとも、商品情報を送信し、
前記購入者端末が、前記商品販売端末に対して、少なくとも、購入希望する商品を示す購入希望商品情報と、商品代金の決済を行う金融決済端末から商品代金を回収可能な、過去に発行した電子マネーと重複しない商品購入希望者の個人情報を含まない電子マネー識別子とを、通知し、
前記購入希望商品の配送により、商品取引を成立させることを特徴とする電子商取引方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
商品販売端末が購入者端末に対して送信する情報として少なくとも商品情報以外に、本願発明では「運送会社情報」が含まれると特定するのに対し、引用発明ではそのような特定がない点。

[相違点2]
購入希望商品を配送するに際し、本願発明では「前記商品販売端末が、前記運送会社の運送会社端末に対して、前記購入希望商品の配送依頼を送信する」ことが行われる旨特定するのに対し、引用発明ではそのような特定がない点。

(3)判断
上記相違点について検討する。
[相違点1]について
引用発明においても、「購入申込のあった品物が利用者に発送されて」取引が成立するものであるところ、品物(商品)の発送に運送会社(宅配会社)を利用することはごく普通のことであり、商品販売端末が購入者端末に対して送信する情報、すなわち販売者側から購入者側に知らせる情報として品物(商品)情報以外に、品物(商品)を配送する運送会社(宅配会社)情報を含むようにすることも、例えば、土肥 莊,物流経営管理の動向・課題 ネット物流最新事情 サイバーモール「あおぞら市場」(ニフティ)にみるインターネット物流?iLOGi?,物流情報,日本,2000.09.10発行,第2巻 第5号,p.17?21(以下、「刊行物1」という。)の18頁左欄11?15行における「『iLOGi』では、顧客が必要とする場合は、『iLOGi』に登録されている宅配業者のなかから必要に応じて業者を指定することができる。例えば、購入者からみて、近所に営業所のある宅配業者を指定できる等のメリットがある。」なる記載や、スミに置けない「訪問販売法に基づく表示」 ネットショップはこう作れ目からウロコ!正攻法のホームページ,月刊CYBIZ SOHO コンピューティング,日本,2000.12.01発行,第5巻 第14号,p.93?101の94頁における「3 商品の引渡し時期と方法を書く! 注文してからどれくらいの間を置いて商品がお客さまの手に届くかである。また、商品を発送する際に依頼する配送業者名も具体的に挙げるべきだ。」なる記載と同じく97頁における「作例3 長くなったページは分割してリンクしていく」なる項の「商品引き渡し方法と時期」に係るページ中の「配送→郵便局『ゆうメール』により、指定住所へお届けします。」なる表示に見られるように周知ともいえる事項であり、引用発明においても、商品販売端末が購入者端末に対して送信する情報として商品情報以外に、商品を配送する運送会社情報を含むようにすることは当業者であれば適宜なし得ることである。

[相違点2]について
上述のとおり、品物(商品)の発送に運送会社(宅配会社)を利用することはごく普通のことであり、その際、販売者側から運送会社(宅配会社)側に対して品物(商品)の配送依頼が何らかの方法により伝えられることは当然のことであるところ、かかる配送依頼を商品販売端末から運送会社端末へ送信することにより行うこと、すなわちネットワークを介して行うことは、例えば上記刊行物1(19頁左欄3?9行目を参照)、特開平9-311888号公報(段落【0011】5?9行目を参照)、及び特開平11-3375号公報(段落【0024】を参照)に記載のように周知の技術事項であり、引用発明においても、商品取引を成立させるに際し、商品販売端末が、運送会社の運送会社端末に対して、購入希望商品の配送依頼を送信するようにすることは当業者がごく普通になし得ることである。

そして、上記各相違点を総合的に判断しても本願発明が奏する効果は、引用発明及び周知の技術事項から当業者が十分に予測できたものであって、格別顕著なものがあるとはいえない。

したがって、本願発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願の請求項2に係る発明は、特許法第2条第1項でいう「自然法則を利用した技術的思想の創作」である発明に該当せず、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。
また仮に、本願の請求項2に係る発明が、同法第2条第1項でいう「自然法則を利用した技術的思想の創作」である発明に該当するとしても、本願の請求項2に係る発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-01-28 
結審通知日 2013-01-29 
審決日 2013-02-12 
出願番号 特願2000-374784(P2000-374784)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G06Q)
P 1 8・ 1- WZ (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小島 哲次  
特許庁審判長 金子 幸一
特許庁審判官 須田 勝巳
井上 信一
発明の名称 電子商取引システムおよび電子商取引方法  
代理人 志賀 正武  

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