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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02D
管理番号 1271988
審判番号 不服2011-26885  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-12-13 
確定日 2013-03-28 
事件の表示 特願2009-139803「エンジン」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 9月 3日出願公開、特開2009-197814〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成13年3月5日に出願した特願2001-59701号(以下、「原出願」という。)の一部を平成21年6月11日に新たな特許出願としたものであって、平成21年6月11日に上申書が提出され、平成23年3月25日付けの拒絶理由通知に対して平成23年6月14日付けで意見書が提出されたが、平成23年9月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年12月13日に拒絶査定不服審判請求がなされると同時に、同日付けの手続補正書によって明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正がなされ、その後、当審において平成24年5月30日付けで書面による審尋がなされ、これに対して平成24年7月31日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成23年12月13日付けの手続補正についての補正却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
平成23年12月13日付けの手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正について
(1)本件補正の内容
平成23年12月13日付けの手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、願書に最初に添付された)特許請求の範囲の下記(a)を、下記(b)と補正するものである。

(a)本件補正前の特許請求の範囲
「 【請求項1】
左右方向に並列配置された複数の気筒と、
吸気ポートを介して前記各気筒に接続されたスロットルボディと、
前記各スロットルボディ内に配置されたスロットル弁と、
前記スロットル弁を開閉駆動する駆動モータと、
前記スロットル弁の下流側において吸気通路に燃料を噴射する燃料噴射弁と、
スロットル部材の人為操作によるスロットル操作量に基づいて前記各スロットル弁の開度を前記駆動モータにより制御するコントローラと、を備え、
前記燃料噴射弁及び前記駆動モータは、前記スロットルボディに取付けられ、
側面視において、前記駆動モータは、前記スロットルボディの前記燃料噴射弁が配置されている側と同じ側に配置されている、エンジン。
【請求項2】
前記スロットル弁を連結する左右方向に延びる弁軸を備え、
前記駆動モータの回転軸は、前記弁軸と平行に延びている、請求項1に記載のエンジン。
【請求項3】
前記駆動モータは、複数の前記スロットルボディに架け渡して取付け固定されている、請求項1に記載のエンジン。」

(b)本件補正後の特許請求の範囲
「 【請求項1】
左右方向に並列配置された複数の気筒と、
吸気ポートを介して前記各気筒に接続されたスロットルボディと、
前記各スロットルボディ内に配置されたスロットル弁と、
前記スロットル弁を開閉駆動する駆動モータと、
前記スロットル弁の下流側において吸気通路に燃料を噴射する燃料噴射弁と、
スロットル部材の人為操作によるスロットル操作量に基づいて前記各スロットル弁の開度を前記駆動モータにより制御するコントローラと、を備え、
前記燃料噴射弁及び前記駆動モータは、前記スロットルボディに取付けられ、
側面視において、前記駆動モータは、前記スロットルボディの前記燃料噴射弁が配置されている側と同じ側に配置され、
側面視において、前記駆動モータの一部は、前記燃料噴射弁の前記吸気通路から最も離れた部分よりも前記吸気通路側に位置しており、
側面視において、前記駆動モータは、前記燃料噴射弁の軸線の延長線と重ならないように配置されている、エンジン。
【請求項2】
前記スロットル弁を連結する左右方向に延びる弁軸を備え、
前記駆動モータの回転軸は、前記弁軸と平行に延びている、請求項1に記載のエンジン。
【請求項3】
前記駆動モータは、複数の前記スロットルボディに架け渡して取付け固定されている、
請求項1に記載のエンジン。」(なお、下線は審判請求人が補正箇所を明示するために付したものである。)

(2)本件補正の目的について
特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、特許請求の範囲の請求項1における発明特定事項である「駆動モータ」及び「燃料噴射弁」の配置について、「側面視において、前記駆動モータの一部は、前記燃料噴射弁の前記吸気通路から最も離れた部分よりも前記吸気通路側に位置しており、側面視において、前記駆動モータは、前記燃料噴射弁の軸線の延長線と重ならないように配置されている、」という事項を追加することにより限定したものであり、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。


2 独立特許要件についての検討
本件補正における特許請求の範囲の補正は、前述したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。

2-1 引用文献
2-1-1 引用文献1
(1)原査定の拒絶理由に引用された原出願前に頒布された刊行物である特開平5-312045号公報(以下、「引用文献1」という。)には、例えば、以下の記載がある。(なお、下線は、理解の一助のために当審で付したものである。)

(a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明はエンジンの燃焼室に吸気を導くエンジンの吸気装置に関し、特に吸気通路の構造に関するものである。」(段落【0001】)

(b)「【0009】
【実施例】以下、本発明の一実施例を図1ないし図6によって詳細に説明する。図1は本発明に係る吸気装置を備えた自動二輪車用エンジンの正面図で、同図では要部を破断して示す。図2は本発明に係る吸気装置を備えた自動二輪車の側面図、図3はエンジンの燃焼室をピストン側から見た状態を示す図、図4は図1におけるIV-IV線断面図、図5は図1におけるV-V線断面図、図6は図1におけるA矢視図である。
【0010】これらの図において、1は並列多気筒式のDOHC型エンジンで、このエンジン1は吸気弁2が3本設けられると共に排気弁3が2本設けられている。1aはこのエンジン1のクランクケース、1bはシリンダブロックである。1cは前記吸気弁2および排気弁3を支持すると共に、後述するスロットル弁装置と排気管4とが接続されたシリンダヘッド、1dはシリンダヘッドカバーである。また、1eは前記3本の吸気弁2をリフターを介して駆動する吸気カム軸、1fは前記2本の排気弁3をリフターを介して駆動する排気カム軸で、これらの両カム軸は図1の紙面と直交する方向に延設され、シリンダヘッド1cとシリンダヘッドカバー1dとに回転自在に支持されている。なお、前記3本の吸気弁2の弁軸は、各々が前記吸気カム軸1eと直交する平面上に配置されている。すなわち、弁軸はエンジン前方からみてそれぞれ平行とされている。」(段落【0009】及び【0010】)

(c)「【0011】このエンジン1は図2に示すようにシリンダ部分を前傾させた状態で自動二輪車5に搭載される。なお、図2に示した自動二輪車5の車体構造は従来周知の自動二輪車と同等とされ、前輪6を有するフロントフォーク7がフレーム1aのヘッドパイプ1bに操舵自在に支持されている。そして、この自動二輪車5ではエンジン1の前方にラジエーター8が装着されている。
【0012】このエンジン1のシリンダヘッド1cには、図1および図4に示すように吸気弁2毎に吸気ポート9,10,11が形成されると共に、排気弁3毎に排気ポート12,13が形成されている。前記吸気ポート9,10,11は、その内部に形成される吸気通路の断面形状が上流端から燃焼室14側開口部に至るまで略等しくなるように形成されている。すなわち、各吸気ポート9,10,11内の吸気通路は、全域にわたって断面円形状に形成されている。さらに、これらの吸気ポート9?11は、上流側の開口端部から略等しい角度をもってそれぞれ直線的に燃焼室側屈曲部へ延ばされている。換言すれば、その直線部分は図1に示すようにエンジン側方からみて略平行とされている。」(段落【0011】及び【0012】)

(d)「【0016】15はスロットル弁装置で、このスロットル弁装置15は板状のスライド式弁体16を備え、シリンダヘッド1cに固定された吸気マニホールド17を介してエンジン1に接続されている。18はスロットル弁装置15を吸気マニホールド14に連結するためのゴムジョイント、19はスロットル弁装置15の吸気流の上流側に連結された吸気管で、この吸気管19は燃料噴射用インジェクタ20が装着されており、エアファンネル21を介して大気に連通されている。
【0017】前記スロットル弁装置15は、弁体16の開き側端部に駆動アーム15aが連結されており、この駆動アーム15aを図1中矢印Aで示す方向へ回動させることにより前記弁体16を矢印Bで示す方向へスライドさせ、吸気通路15bを開閉するように構成されている。なお、前記駆動アーム15aは、不図示のアクセルグリップや電動式駆動装置等に連結されて回動駆動されるように構成されている。また、駆動アーム15aを駆動する軸は各気筒に1本ずつ設けられ、各軸が不図示の同調機構を介して連結されている。そして、不図示のスロットルグリップ等に連結されたプーリーが前記各軸のうち何れかに軸装されている。すなわち、スロットルグリップを操作すると全ての駆動アーム用軸が回動し、気筒当たり1つ設けられたスロットル弁装置15の全ての弁体16が同時に開閉することになる。
【0018】さらに、このスロットル弁装置15内の吸気通路15bは、図5に示すように断面長穴状に形成されている。そして、前記弁体16は図6に示すように吸気流の上流側からみて四角形状に形成されており、その幅寸法およびスライド方向の寸法は吸気通路15bの開口寸法より大きく設定されている。すなわち、弁体16のスライド位置を図6中二点鎖線a,bに示すように変えることによって吸気通路15bを通る吸気の流量が変わることになる。」(段落【0016】ないし【0018】)

(e)「【0023】前記インジェクタ20は従来周知のものが採用され、予め定めた噴射時期に基づいて燃料を噴射するように構成されている。そして、このインジェクタ20は、スロットル弁装置15の弁体16に向けて燃料を噴射するように吸気の流れ方向に対して傾斜して取付けられている。このインジェクタ20の取付け角度としては、図1および図4に示すように、噴射方向がスロットル弁装置15の開き口側であって前記通路形成穴17bと通路形成穴17cとの間を指向するように設定されている。
【0024】なお、図1において符号22はこのエンジン1のピストン、23はクランク軸である。また、図1中一点鎖線Cはシリンダ軸線を示す。図1に示したエンジン1は、クランクケース1aとシリンダブロック1bとの合わせ面Dが仮想線Eに対して角度θだけ傾斜している。仮想線Eは、前記シリンダ軸線Cと合わせ面Dとの交点Fと、クランク軸23の軸心とを結ぶ仮想線Gに対して直交している。そして、シリンダ軸線Cがクランク軸23の軸心に対して寸法Lだけオフセットされている。」(段落【0023】及び【0024】)

(f)「【0027】次に、上述したように構成された吸気装置の動作を説明する。エンジン1がアイドリング状態のときにはスロットル弁装置15の弁体16は図1に示す全閉位置から僅かに開いた状態で保持される。そして、その弁体16をスライドさせて徐々に開くことによってエンジン1に供給される吸気量が次第に増加し、その吸入空気量に応じた量だけインジェクタ20から燃料が噴射されてエンジン回転数が上昇する。吸入空気量としては直接あるいは間接的に検出されるが、本実施例では弁体16のスライド量およびエンジン回転数から演算して算出する。
【0028】エンジン回転数が低,中回転域にあるとき、言い換えれば、弁体16がスライドしてその端縁が図6中二点鎖線aの位置に達するまでは、吸気マニホールド17の3つの通路形成穴17a?17cのうち両側の通路形成穴17a,17cは丁度弁体16の裏側になる関係から、燃料の混ざった混合気はスロットル弁装置15の開き口側から主に中央の通路形成穴17bに流れ込む。
(中略)
【0031】スロットル弁装置15を開操作して弁体16の端縁が図6中二点鎖線aの位置から同図において上側へずれると、吸気マニホールド17の両側の通路形成穴17a,17cにも混合気が流れ込むようになり、エンジン1に供給される混合気量が増えてエンジン回転数が上昇する。そして、このスロットル弁装置15は、図6中二点鎖線bの位置に弁体16の端縁が位置づけられたときに全開となる。
(中略)
【0033】なお、本実施例ではインジェクタ20をスロットル弁装置15の上流側に1つだけ設けた例を示したが、図1および図6中に二点鎖線で示すようにスロットル弁装置15の下流側に補助インジェクタ20aを設けることもできる。この補助インジェクタ20aは、吸気マニホールド17の中央の通路形成穴17bに燃料を噴射するように描かれているが、その取付け位置や数量は適宜変更することができる。例えば、通路断面積が比較的大きく吸気流量が多くなる吸気通路にこの補助インジェクタ20aから燃料を噴射させるようにすることもできる。
【0034】そして、特に加速時にこの補助インジェクタ20aから燃料を通路形成穴17b等に噴射することで加速性能を高めることができるようになる。
【0035】また、本実施例では、吸気マニホールド17の中央の通路形成穴17bを両側の通路形成穴17a,17cよりスロットル弁装置15の開き口側に位置づけた例を示したが、各通路形成穴17a?17cの開口位置および開口寸法は図7(a)?(d)に示すように適宜変更することができる。」(段落【0027】ないし【0035】)

(g)「【0042】さらに、スロットル弁装置15の取付け位置は図9に示すように変更することができ、図10に示すようにスロットル弁装置を従来周知のバタフライ弁式のものに変更することもできる。図9はスロットル弁装置の位置を変えた他の実施例を示す断面図、図10はバタフライ弁式スロットル弁装置を使用した他の実施例を示す断面図である。これらの図において前記図1で説明したものと同一もしくは同等部材については、同一符号を付し詳細な説明は省略する。
【0043】図9に示されたスロットル弁装置15は、駆動アーム15aがシリンダヘッド1cとは反対側に位置づけられ、弁体16が吸気流の流れ方向に対して斜めに傾斜している。このようにすると、スロットル弁装置15の不図示の駆動機構がシリンダヘッド1cと干渉するのを避けることができる。また、弁体16の開度が大きくなるにしたがって通路形成穴の開口位置の違いによる影響を受け難くなるので、混合気が吸気マニホールド17の全ての通路形成穴に流れ込むようになる。
【0044】図10において41はバタフライ弁42を備えたスロットル弁装置である。このスロットル弁装置41は、吸気マニホールド17での通路形成部17a?17cの並び方向にバタフライ弁42の軸線が向けられている。このようにバタフライ弁42を用いても上述した各実施例と同等の効果が得られる。」(段落【0042】ないし【0044】)


(2)上記(1)及び図1ないし10の記載から、以下のことが分かる。

(ア)上記(1)(a)ないし(g)及び図1ないし10の記載から、引用文献1には、エンジンの吸気装置に関する発明が記載されていることが分かる。

(イ)上記(1)(b)及び(c)並びに図1及び2の記載から、引用文献1に記載されたエンジン1は、「並列多気筒式のDOHC型エンジン」であり、また、図1及び図2のエンジン1が「シリンダ部分を前傾させた」状態であり、吸気カム軸及び排気カム軸が「図1の紙面と直交する方向に延設され」ていることから、図1及び図2における左側が車両の前側、右側が車両の後側に対応していることが分かる。また、エンジン1の複数の気筒は、「図1(及び図2)の紙面と直交する方向」すなわち車両の左右方向に並列配置されていることが分かる。

(ウ)上記(1)(a)ないし(g)及び図1ないし10の記載から、引用文献1に記載されたエンジンは、吸気ポート9ないし11を介して各気筒に接続された吸気マニホルド17、スロットル弁装置15、及び吸気管19を備えていることが分かる。

(エ)上記(1)(a)ないし(g)及び図1ないし10の記載から、引用文献1に記載されたエンジン1は、前記スロットル弁装置15内に配置されたスライド式弁体16と、前記スライド式弁体16を開閉駆動する駆動アーム15a及び不図示の電磁式駆動装置等を備えていることが分かる。また、上記(1)(g)及び図10の記載から、スライド式弁体16に代えて、バタフライ弁42を用いてもよいことが分かる。

(オ)上記(1)(a)ないし(g)及び図1ないし10の記載から、引用文献1に記載されたエンジン1は、前記スライド式弁体16の下流側において吸気マニホールド17に燃料を噴射する補助インジェクタ20aと、前記スライド式弁体16の上流側において吸気管19に燃料を噴射するインジェクタ20とを備えていることが分かる。

(カ)上記(1)(d)ないし(f)及び図1ないし10の記載及び技術常識から、引用文献1に記載されたエンジン1が燃料噴射量、噴射時期、スロットル弁開度等を演算するコントローラを備えていることが分かる。また、スライド式弁体16を駆動する駆動アーム15aを電磁式駆動装置により駆動する場合には、スロットルグリップの人為操作によるスロットル操作量に基づいてスライド式弁体16の開度を前記駆動アーム15a及び電磁式駆動装置により制御するコントローラを備えることが技術常識から明らかである。

(キ)上記(1)(a)ないし(g)及び図1ないし10の記載から、引用文献1に記載されたエンジン1において、インジェクタ20は吸気管19に取付けられ、駆動アーム15aはスロットル弁装置15に取付けられていることが分かる。

(ク)上記(1)(a)ないし(f)及び図1の記載から、引用文献1に記載されたエンジン1において、側面視において、駆動アーム15aは、吸気通路に対して、インジェクタ20が配置されている側と同じ側に配置されていることが分かる。なお、図示されていない電磁式駆動装置(段落【0017】参照。)は、駆動アーム15aを駆動するためのものであるから、側面視において、駆動アーム15aと同じ側に配置されていると考えられる。


(3)上記(1)、(2)及び図面の記載から、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「左右方向に並列配置された複数の気筒と、
吸気ポート9ないし11を介して前記各気筒に接続された吸気マニホルド17、スロットル弁装置15、及び吸気管19と、
前記各吸気マニホルド17、スロットル弁装置15、及び吸気管19内に配置されたスライド式弁体16と、
前記スライド式弁体16を開閉駆動する駆動アームと、
前記スライド式弁体16の上流側において吸気管19に燃料を噴射するインジェクタ20と、
スロットルグリップの人為操作によるスロットル操作量に基づいて前記各スライド式弁体16の開度を前記駆動アーム15aにより制御するコントローラと、を備え、
前記インジェクタ20は前記吸気管19に取付けられ、前記補助インジェクタ20aは前記吸気マニホルド17に取り付けられ、前記駆動アーム15aは、スロットル弁装置15に取付けられ、
側面視において、前記駆動アーム15aは、スロットル弁装置15の前記インジェクタ20が配置されている側と同じ側に配置され、
側面視において、前記駆動アーム15aは、前記インジェクタ20の軸線の延長線と重ならないように配置されている、エンジン1。」

2-1-2 引用文献2
(1)原査定の拒絶理由に引用された原出願前に頒布された刊行物である特開2001-41058号公報(平成13年2月13日出願公開。以下、「引用文献2」という。)には、例えば、以下の記載がある。(なお、下線は、理解の一助のために当審で付したものである。)

(a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば自動車用エンジン等の吸入空気量をアクセル操作量に応じて可変に制御するのに好適に用いられるスロットルバルブ装置に関する。」(段落【0001】)

(b)「【0002】
【従来の技術】一般に、例えば自動車用エンジン等に用いられるスロットルバルブ装置としては、運転者のアクセル操作量に応じて電動モータにより弁体を開,閉する構成とした電動式スロットルバルブ装置が知られている。
【0003】そして、この種の従来技術による電動式スロットルバルブ装置は、エンジンの吸気管等に接続される吸気通路が設けられたスロットルボディと、該スロットルボディに回動可能に設けられた弁軸と、該弁軸に設けられ、該弁軸と一体に回動して前記吸気通路を開,閉する弁体と、前記弁軸を該弁体の開弁方向に向けて回動させる電動モータと、該電動モータと弁軸との間に設けられ、該電動モータの駆動力を弁軸に伝える減速歯車機構と、前記弁軸を弁体の閉弁方向に向けて付勢する戻しばねとから構成されている。
【0004】ここで、減速歯車機構は、電動モータの出力軸に設けられた駆動歯車と、弁軸に設けられた従動歯車と、駆動歯車と従動歯車との間に設けられた中間歯車とからなり、これらの各歯車は互いに噛合することにより、電動モータの駆動力を減速し、弁軸に大きな回転トルクを与えるものである。
【0005】そして、エンジンの運転中には、例えば電動モータがアクセル操作量に応じた回転力を発生させ、この回転力を減速歯車機構で減速することにより、弁軸に対して大きな回転トルクを伝える。これにより、弁軸は戻しばねの付勢力に抗して弁体の開弁方向に回動され、エンジンの吸入空気量が弁体の開度に応じて調整されるものである。」(段落【0002】ないし【0005】)

(c)「【0021】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態によるスロットルバルブ装置として、自動車用エンジン等に用いられる電動式スロットルバルブ装置を例に挙げ、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0022】ここで、図1ないし図6は本発明による第1の実施の形態を示し、図中、1はアルミダイキャスト等の手段を用いて成形されたスロットルボディで、該スロットルボディ1内にはスロットルチャンバ2が形成され、該スロットルチャンバ2はエンジンの燃焼室(図示せず)内と連通する吸気通路の一部を構成している。
【0023】また、スロットルボディ1の外面側には、後述の弁軸5とほぼ平行に延びる略有底筒状のモータ収容ケース3と、弁軸5の一端側に位置する歯車取付部4とが設けられ、これらのモータ収容ケース3の開口側と歯車取付部4とは後述のカバー21によって閉塞されている。
【0024】5はスロットルボディ1内に軸受6,7等を介して回動可能に設けられた弁軸で、該弁軸5は、スロットルチャンバ2内を径方向に延びる支軸部5Aと、該支軸部5Aの一端側に位置して段付き形状をなし、スロットルボディ1の歯車取付部4側に突出した小径部5Bとから構成されている。
【0025】そして、小径部5Bは、図2、図4に示す如く、面取り部5Cが形成されることにより非円形状の横断面を有し、その外周側には後述のばね保持部材9が廻止め状態で挿嵌されている。また、小径部5Bの一端側には、後述の係合ピン20が径方向に貫通して設けられている。
【0026】8はスロットルチャンバ2内に位置して弁軸5の支軸部5Aに設けられた弁体で、該弁体8は、スロットルチャンバ2の内径に対応する外径を有した円形の弁板からなり、弁軸5と一体に回動することによってスロットルチャンバ2を開,閉し、エンジンの吸入空気量を可変に調整するものである。
【0027】9は弁軸5の小径部5Bに廻止め状態で設けられたばね保持部材で、該ばね保持部材9は、図2に示す如く、例えば金属材料、樹脂材料等により2重の筒状に形成され、内側筒部9Aと外側筒部9Bとから構成されている。
【0028】10はばね保持部材9の内側筒部9Aと外側筒部9Bとの間に配設された付勢手段としての戻しばねで、該戻しばね10は、一端側10Aがばね保持部材9の外周側に掛止めされ、他端側10Bがスロットルボディ1の歯車取付部4に取付けられている。そして、戻しばね10は、弁軸5を弁体8の閉弁方向(図3中の矢示A方向と逆向き)の付勢力Fをもって常時付勢するものである。
【0029】11はスロットルボディ1に設けられた弁駆動手段としての弁駆動機構で、該弁駆動機構11は、図1に示す如く、後述の電動モータ12と、減速歯車機構13とから構成されている。
【0030】12はスロットルボディ1のモータ収容ケース3内に収容された電動モータで、該電動モータ12は、弁軸5とほぼ平行に配置された出力軸12Aを有し、外部から給電されることにより弁軸5を戻しばね10の付勢力Fに抗して弁体8の開弁方向(図3中の矢示A方向)に回転駆動するものである。
【0031】13はスロットルボディ1の歯車取付部4に設けられた減速歯車機構で、該減速歯車機構13は、電動モータ12の出力軸12Aに固着された駆動歯車14と、歯車取付部4に回転可能に設けられ、該駆動歯車14に連結された中間歯車15と、後述の従動歯車16とからなり、これらの歯車14,15,16は、例えば金属材料、樹脂材料等によって形成されている。
【0032】また、中間歯車15には、駆動歯車14と噛合する大径ギヤ部15Aと、従動歯車16と噛合する小径ギヤ部15Bとが設けられている。そして、減速歯車機構13は、電動モータ12の回転を歯車14,15,16間で減速し、弁軸5に大きな回転トルクを伝達するものである。
【0033】16は弁軸5に設けられた従動歯車で、該従動歯車16は、図2ないし図4に示す如く、その中央部に形成された円形状の軸挿嵌穴16Aを介して弁軸5の小径部5B外周に回転可能に挿嵌され、弁軸5の一端側に取付けられた止め輪17とばね保持部材9との間で軸方向に位置決めされている。
【0034】また、従動歯車16は、その外周側に設けられたギヤ部16Bが中間歯車15を介して駆動歯車14と連結されている。さらに、従動歯車16の一側面には、後述の扇状溝部19,19が設けられている。」(段落【0021】ないし【0034】)

(d)「【0042】本実施の形態による電動式スロットルバルブ装置は上述の如き構成を有するもので、次にその作動について説明する。
【0043】まず、エンジンの運転中には、運転者がアクセルペダル等を操作すると、例えばアクセル操作量に応じた駆動信号が電動モータ12に給電され、電動モータ12が駆動力を発生する。そして、電動モータ12の駆動力が減速歯車機構13と回転伝達機構18とを介して弁軸5に伝わると、弁軸5は、図5に示す閉弁位置から戻しばね10の付勢力Fに抗して矢示A方向に回動し、弁体8はアクセル操作量に対応した開度をもって開,閉制御される。
【0044】このとき、回転伝達機構18は、係合ピン20が戻しばね10の付勢力Fによって扇状溝部19の周壁19Aに押付けられ、弁軸5と従動歯車16とは回転伝達機構18により弁体8の開弁方向に対して連結された状態となっている。これにより、弁軸5は、従動歯車16により係合ピン20を介して押動され、戻しばね10の付勢力Fに抗して矢示A方向に回動する。」(段落【0042】ないし【0044】)

(e)図面の【図1】には、スロットルボディ1内に配置されたスロットル弁の弁体8と、前記弁体8を開閉駆動する電動モータ12と、を備え、前記電動モータ12は、前記スロットルボディ1に取付けられている電動式スロットルバルブ装置が記載されている。

(2)上記(1)及び図面の記載から、以下のことが分かる。

(ア)上記(1)(d)及び図1ないし8の記載から、引用文献2に記載された電動式スロットルバルブ装置は、運転者がアクセルペダルを操作すると、アクセル操作量に応じた駆動信号が電動モータ12に給電され、電動モータ12が駆動力を発生して、弁体8はアクセル操作量に対応した開度をもって開,閉制御されるものであることが分かる。このとき、アクセル操作量に応じた駆動信号を得るためのコントローラを備えていることは技術常識である。

(3)上記(1)、(2)及び図面の記載から、引用文献2には次の技術(以下、「引用技術2」という。)が記載されているといえる。

「スロットルボディ1内に配置されたスロットル弁の弁体8と、
前記弁体8を開閉駆動する電動モータ12と、
運転者によるアクセルペダルのアクセル操作量に基づいて前記各弁体8の開度を前記電動モータ12により制御するコントローラと、を備え、
前記電動モータ12は、前記スロットルボディ1に取付けられている、電動式スロットルバルブ装置。」


2-1-3 引用文献3
(1)原査定の拒絶理由に引用された原出願前に頒布された刊行物である特開2000-18054号公報(以下、「引用文献3」という。)には、例えば、以下の記載がある。(なお、下線は、理解の一助のために当審で付したものである。)

(a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車のスロットル弁を電気的に制御されるモータにより開閉するいわゆる電子制御スロットル装置に関する。」(段落【0001】)

(b)「【0034】図1は、本発明の一実施例に係わるスロットル装置を示す正面図、図2は、図1のA方向矢視図、図3は、図1のB方向矢視図、図4は、図3のA-A断面矢視図、図5は、図4のギヤカバー21を外して視たC方向矢視図、図6?図10は、要部断面図、図13,図14は、本発明の他の実施例を示す図、図15は、リンプホーム機構の特性図、図16は、図4のセンサカバー22を外して視たD方向矢視図である。
【0035】これらの図において、スロットルボディ15は、例えばアルミダイカスト製であり、内部に吸気通路(ボア)30が形成される。スロットルボディ15には、吸気通路30と直交してスロットルシャフト18が貫通し軸受け28,29を介して回転自在に支持され、スロットルシャフト18に吸気通路30内の吸入空気量を制御するスロットル弁24が固着される。26はエンジン冷却水通路で、温水入口パイプ26aから入り、出口パイプ26bから出る。通路を流れるエンジン冷却水によりスロットル弁の周囲の加熱および/または後述のモータ12の冷却を行う。
【0036】冷却水への放熱および/または冷却水からの熱の伝達は一部リブ15Aを通して行われる。一部はスロットルボディを通して行われる。
【0037】スロットルボディ15の側壁のうちスロットルシャフト18と直交する左右の側壁面には、一方側の面に軸受け29、及び32を収容する軸受け収容部15Cと電子スロットル制御系の駆動用のギヤ群を収容するケース部15Aとがボディ15と一体に成形され、その反対側の面に軸受け28及び31を収容する軸受け収容部15Dと、リンプホーム機構及びスロットル弁のデフォルト開度設定機構を収容するケース部15Bとが配設してある。」(段落【0034】ないし【0037】)

(c)「【0044】スロットルボディ15の側壁の一部(図8(a)(b)では下部)にはモータケース部15Eがスロットルシャフト18と並行配置の態様で設けられ、モータケース部15Eに電子スロットル用のモータ12が収容される。モータ12は、直流モータ,ステッピングモータ等が使用される。また、図8(a)においてエンジンはスロットル装置の奥側(紙面の裏側)にありスロットル装置の天地方向は図の通りである。図10に示すようにモータ内のブラシ12Cはいかなる場合も水平でモータの端子12Aはモータシャフトの上側(天側)にくる。また、図8(a)において、スロットル装置のギヤボックス(15A,21)側及びアクセルボックス側(15B,22)側の両方に呼吸孔を設けた。これにより、シリコンガスのガス抜きが可能となり、酸化皮膜の生成を防ぎセンサの導通不良を防止できた。
【0045】モータケース部15Eの内周はテーパ形状を呈して、モータ12を挿入し易くし、ケース部15Eの奥端に弾性部材27を介在させ、ケース開口部にモータ止め板96を配置しさらにその上からモータとは別体のモータ止め板96Aを重ね、ねじ97の締め付けで、弾性部材27及びモータ止め板96,96Aがモータ12を固定している。
【0046】モータ12のシャフト12Bに設けたモータギヤ(ピニオンギヤ)11が中間ギヤ9Aと噛み合う。中間ギヤ9Aはモータギヤ11よりギヤ径(歯数)を大きくし減速及びトルク増大の機能をなし、この増大された回転トルクが更に中間ギヤ9B,スロットルギヤ10を介してスロットルシャフト18に伝達される。」(段落【0044】ないし【0046】)

(d)「【0050】本実施例のスロットル装置は、電子スロットル方式を採用するため、スロットル制御系の駆動用モータ12が正常に作動している限り、モータ12の動力で上記ギヤ機構を介してスロットルシャフト18に回転トルクが与えられる。
【0051】モータ12へは、図示されていないスロットルコントロールモジュール(TCM)から駆動電流が供給される。TCMは上記駆動電流指令値を次のように生成する。即ち、アクセルポジションセンサ(図11に示すアクセルペダル53の踏み込み量を検出するものである)からのアクセル踏み込み量信号やスロットル開度信号やエンジン回転数,スリップ信号等を入力して、通常のエンジン運転制御やトラクション制御あるいは、アイドルスピードコントロール,始動時のアイドルスピードコントロール等の運転形態に応じた信号を生成する。」(段落【0050】及び【0051】)

(2)上記(1)及び図面の記載から、以下のことが分かる。

(ア)上記(1)(d)及び図1ないし22の記載から、引用文献3に記載されたスロットル装置は、アクセルペダル53の踏み込み量を検出して、アクセル踏み込み量信号等に対応した駆動電流がスロットルコントロールモジュール(TCM)からモータ12に供給され、モータ12の動力でギヤ機構を介してスロットルシャフト18に回転トルクが与えられるものであることが分かる。

(3)上記(1)、(2)及び図面の記載から、引用文献3には次の技術(以下、「引用技術3」という。)が記載されているといえる。

「スロットルボディ15内に配置されたスロットル弁24と、
前記スロットル弁24を開閉駆動するモータ12と、
アクセルペダル53踏み込み量に基づいて前記各スロットル弁24の開度を前記モータ12により制御するスロットルコントロールモジュール(TCM)と、を備え、
前記モータ12は、前記スロットルボディ15に取付けられている、内燃機関の電子制御スロットル装置。」


2-2 対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「吸気ポート9ないし11」は、その機能及び作用又は技術的意義からみて、本願補正発明における「吸気ポート」に相当し、以下同様に、「スライド式弁体16」は「スロットル弁」に、「スロットルグリップ」は「スロットル部材」に、それぞれ相当する。
また、引用発明における「吸気マニホルド17、スロットル弁装置15、及び吸気管19」は、その機能及び作用又は技術的意義からみて、「スロットル弁に近い吸気管」という限りにおいて、本願補正発明における「スロットルボディ」に相当する。
また、引用発明における「駆動アーム」は、(スロットル弁の開度を制御するための)「駆動機構」という限りにおいて、本願補正発明における「駆動モータ」に相当する。
また、引用発明における「インジェクタ20」は、エンジンの吸気通路に燃料を噴射する噴射弁であるから、本願補正発明における「燃料噴射弁」に相当する。

そうすると、本願補正発明と引用発明とは、
「左右方向に並列配置された複数の気筒と、
吸気ポートを介して前記各気筒に接続された、スロットル弁に近い吸気管と、
前記スロットル弁に近い部分の吸気管内に配置されたスロットル弁と、
前記スロットル弁を開閉駆動する駆動機構と、
吸気通路に燃料を噴射する燃料噴射弁と、
スロットル部材の人為操作によるスロットル操作量に基づいて前記スロットル弁の開度を前記駆動機構により制御するコントローラと、を備え、
前記燃料噴射弁及び前記駆動機構は、前記スロットル弁に近い吸気管に取付けられ、
側面視において、前記駆動機構は、前記スロットル弁に近い吸気管の前記燃料噴射弁が配置されている側と同じ側に配置され、
側面視において、前記駆動機構は、前記燃料噴射弁の軸線の延長線と重ならないように配置されている、エンジン。」
という点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
(1)「吸気ポートを介して前記各気筒に接続された、スロットル弁に近い吸気管」が、本願補正発明においては、「スロットルボディ」であるのに対し、引用発明においては、「吸気マニホルド17、スロットル弁装置15、及び吸気管19」である点(以下、「相違点1」という。)。
(2)「スロットル弁を開閉駆動する駆動機構」が、本願補正発明においては、「駆動モータ」であるのに対し、引用発明においては、「駆動アーム」(及び電磁式駆動装置等)である点(以下、「相違点2」という。)。
(3)「吸気通路に燃料を噴射する燃料噴射弁」に関して、本願補正発明においては、「スロットル弁の下流側において吸気通路に燃料を噴射する」のに対して、引用発明においては、「スライド式弁体16の上流側において吸気通路に燃料を噴射する」点(以下、「相違点3」という。)。
(4)「燃料噴射弁及び駆動機構は、スロットル弁に近い吸気管に取付けられ」に関して、本願補正発明においては、「燃料噴射弁及び駆動モータが、スロットルボディに取り付けられ」ているのに対し、引用発明においては、「インジェクタ20は吸気管19に取付けられ、駆動アーム15aは、スロットル弁装置15に取付けられ」ている点(以下、「相違点4」という。)。
(5)本願補正発明においては、「側面視において、駆動モータの一部は、燃料噴射弁の吸気通路から最も離れた部分よりも吸気通路側に位置して」いるのに対し、引用発明においては、本願補正発明における「駆動モータ」に相当する「駆動アーム15a」(及び電動式駆動装置等)の一部が、そのような位置に配置されているのかどうか明らかでない点(以下、「相違点5」という。)。


2-3 判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
引用発明においては、「スロットル弁に近い吸気管」が、「吸気マニホルド17、スロットル弁装置15、及び吸気管19」に分かれているが、スロットル弁装置15の吸気管部分を長くして「スロットルボディ」とすることは、従来周知の技術(以下、「周知技術1」という。例えば、引用技術2及び3並びに拒絶査定時に示された特開2000-282986号公報[特に図3を参照。]、特開平11-166426号公報[特に図4を参照。]、特開平10-212980号公報[特に図11を参照。]、等の記載を参照。)にすぎない。
また、その際、スロットルボディを、吸気ポートを介して各気筒に接続されるようにすることは、当業者が必要に応じて行う設計事項にすぎない。
してみれば、引用発明において、「吸気マニホルド17、スロットル弁装置15、及び吸気管19」を、「スロットルボディ」に置換して設計変更を行うことにより、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到できたことである。

(2)相違点2について
引用発明においては、「スロットル弁を開閉駆動する駆動機構」が「駆動アーム」(及び電磁式駆動機構等)であるが、「スロットル弁を開閉駆動する駆動機構」として、「駆動モータ」を用いることは、周知技術(以下、「周知技術2」という。例えば、引用技術2及び3並びに特開平10-159627号公報、特開平10-205370号公報、前置審査において示された特開昭61-40438号公報[特に第2ページ左上欄第7ないし16行及び第1図の記載を参照。]等を参照。)である。
してみれば、引用発明において、「駆動アーム」(及び電磁式駆動機構等)に代えて、周知技術3を採用することにより、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到できたことである。

(3)相違点3について
引用発明においては、「スライド式弁体16の上流側において吸気通路に燃料を噴射するインジェクタ20」を備えているが、引用文献1には、スライド式弁体16の下流側において吸気通路に燃料を噴射するインジェクタ20aを備える技術も記載されており、また、スロットル弁の下流側において吸気通路に燃料を噴射する燃料噴射弁を設ける点は、従来周知の技術(以下、「周知技術3」という。例えば、拒絶査定時に示された特開平10-212980号公報[特に段落【0026】、図11等の記載を参照。]、特開平11-166426号公報[特に段落【0022】、図4等の記載を参照。]、特開2000-282986号公報[特に段落【0018】、図3等の記載を参照。]、前置審査において示された特開昭61-40438号公報[特に第2ページ左上欄第7ないし16行及び第1図の記載を参照。]等を参照。)でもある。
このように、引用発明において、スロットル弁の下流側において吸気通路に燃料を噴射する燃料噴射弁を備えることは、当業者が適宜なし得る設計的事項であるともいえる。
してみれば、引用発明において、周知技術3を適用することにより、上記相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到できたことである。

(4)相違点4について
引用発明においては、インジェクタ20は吸気管19に取付けられ、駆動アーム15aはスロットル弁装置15に取付けられているが、燃料噴射弁及び駆動モータをスロットルボディに取り付ける技術は、周知技術(以下、「周知技術4」という。例えば、拒絶査定時に示された特開平10-212980号公報[特に段落【0026】及び図11を参照。]、特開平11-166426号公報[特に段落【0022】及び図4を参照。]、特開2000-282986号公報[特に段落【0018】及び図3を参照。]、前置審査において示された特開昭61-40438号公報[特に第2ページ左上欄第7ないし16行及び第1図の記載を参照。]等を参照。)にすぎない。
してみれば、引用発明において、周知技術4を適用することにより、上記相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到できたことである。

(5)相違点5について
本願補正発明において「側面視において、駆動モータの一部は、燃料噴射弁の吸気通路から最も離れた部分よりも吸気通路側に位置して」いることの技術的意義については、本願の明細書に記載されていないから、このような事項は、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないとも考えられる。
しかしながら、請求人は、平成24年7月31日付け回答書において、「本願発明は、エンジンの小型化だけでなく、エンジンの小型化と駆動モータ及び燃料噴射弁のメンテナンス性とを両立させるため、側面視において駆動モータの一部を燃料噴射弁の吸気通路から最も離れた部分よりも吸気通路側に配置し、更に、側面視において駆動モータを燃料噴射弁の軸線の延長線と重ならないように配置したものである。」(上記回答書第2ページ第11ないし15行)と主張しているので、請求人の主張について更に検討する。
本願補正発明において「側面視において駆動モータの一部を燃料噴射弁の吸気通路から最も離れた部分よりも吸気通路側に配置」することによって、駆動モータが燃料噴射弁の吸気通路側に入り込み、駆動モータのメンテナンスが困難になる可能性がある。(なお、本願の明細書においては、「また上記駆動モータ22は、平面視で上記燃料供給管16とエンジン1との間において上方に露出するように配設されている。これにより燃料タンクを取り外すことによりエンジン上方から駆動モータ22のメンテナンスが行えるようになっている。」(段落【0021】)と記載され、駆動モータ22が上方に露出することによりメンテナンスが容易な構成となっている。)また、「駆動モータの一部」の配置について言及されているので、「駆動モータの全体」がどのように配置されているかは不明である。また、「側面視において」と規定されているから、実際の立体的な配置はどのようになっているか必ずしも明らかではない。また、駆動モータは、「側面視において」「スロットルボディの燃料噴射弁が配置されている側と同じ側」に配置されているが、「同じ側」とはスロットルボディのどちら側であるのか限定されておらず、エンジンの他の部材との位置関係も明らかではない。
してみれば、請求人の上記主張の効果は、本願補正発明の相違点5に係る構成によって必ず得られるわけではなく、実施例に記載されたようなごく限られた配置によってのみ得られる可能性があるものである。
また、引用発明においても、側面視において、駆動アーム15a及び電磁式駆動装置等の一部を、燃料噴射弁の吸気通路から最も離れた部分よりも吸気通路側に位置して配置することは十分可能である。
そうすると、本願補正発明の相違点5に係る発明特定事項は、やはり当業者が適宜なし得る設計的事項であるといわざるを得ない。

してみれば、引用発明において、上記相違点5に係る本願補正発明の発明特定事項をなすことは、当業者が適宜設計変更を行うことにより容易に想到できたことである。

そして、本願補正発明を全体としてみても、その奏する効果は、引用発明及び周知技術1ないし4から当業者が予測できた範囲内のものであり、格別に顕著な効果ではない。

以上のように、本願補正発明は、引用発明及び周知技術1ないし4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

2-4 むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成23年12月13日付けの手続補正は前述したとおり却下されたので、本件出願の請求項1ないし3に係る発明は、願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2〔理由〕1(1)(a)の請求項1に記載したとおりのものである。

2 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1ないし3及びその記載事項並びに引用発明、引用技術1及び2は、前記第2〔理由〕2 2-1-1ないし2-1-3に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記第2〔理由〕2 2-2及び2-3において検討した本願補正発明における限定の一部を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えたものに相当する本願補正発明が、前記第2 〔理由〕2 2-3に記載したとおり、引用発明及び周知技術1ないし4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知技術1ないし4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術1ないし4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-01-21 
結審通知日 2013-01-29 
審決日 2013-02-12 
出願番号 特願2009-139803(P2009-139803)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02D)
P 1 8・ 575- Z (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 恭司  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 金澤 俊郎
久島 弘太郎
発明の名称 エンジン  
代理人 後藤 高志  

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