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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04J
管理番号 1272037
審判番号 不服2011-9926  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-05-11 
確定日 2013-03-27 
事件の表示 特願2006-525457「無線マルチキャリアにおける複数のデータストリームの多重化と送信」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 3月10日国際公開、WO2005/022811、平成19年 8月30日国内公表、特表2007-525102〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2004年9月2日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2003年9月2日 米国、2004年4月5日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成22年12月28日に拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年5月11日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。

第2.補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年5月11日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本願発明と補正後の発明
上記手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の平成22年5月19日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項11に記載された、

「【請求項11】
無線マルチキャリア通信システムにおいてデータをブロードキャストおよびマルチキャストする方法において、
複数のデータストリームを処理し、各データストリームに対して1つのデータシンボルストリームの割合で複数のデータシンボルストリームを得ることと、
複数のデータストリームの各々に送信単位を割り当てることであって、各送信単位は、1つのシンボル期間内の1つのサブバンドに対応し、1つのデータシンボルを送信することに使用可能であることと、
各データシンボルストリーム内のデータシンボルを前記対応するデータストリームに割り当てられた送信単位上にマッピングすることと、
前記割り当てられた送信単位上にマッピングされる前記複数のデータストリームのためのデータシンボルを有する合成シンボルストリームを形成することであって、各データストリームは、前記データストリームのための前記合成シンボルストリームに含まれる前記データシンボルに基づいて受信機によりリカバー可能であることと、
前記複数のデータストリームの中で少なくとも1つのデータストリームの各々は、前記データストリームのための異なる情報を運ぶベースストリームおよびエンハンスメントストリームを含むことと、
を備えた方法。」

という発明(以下、「本願発明」という。)を、補正後の特許請求の範囲の請求項11に記載された、

「【請求項11】
無線マルチキャリア通信システムにおいてデータをブロードキャストおよびマルチキャストする方法において、
複数のデータストリームを処理し、各データストリームに対して1つのデータシンボルストリームの割合で複数のデータシンボルストリームを得ることと、
複数のデータストリームの各々に送信単位を割り当てることであって、各送信単位は、1つのシンボル期間内の1つのサブバンドに対応し、1つのデータシンボルを送信することに使用可能であることと、
各データシンボルストリーム内のデータシンボルを前記対応するデータストリームに割り当てられた送信単位上にマッピングすることと、
前記割り当てられた送信単位上にマッピングされる前記複数のデータストリームのためのデータシンボルを有する合成シンボルストリームを形成することであって、各データストリームは、前記データストリームのための前記合成シンボルストリームに含まれる前記データシンボルに基づいて受信機によりリカバー可能であることと、
前記複数のデータストリームの中で少なくとも1つのデータストリームの各々は、前記データストリームのための異なる情報を運ぶベースストリームおよびエンハンスメントストリームを含むことと、
を備え、
前記少なくとも1つのデータストリームの各々のための前記ベースストリームおよび前記エンハンスメントストリームは、異なるサービスエリアを有する、方法。」

という発明(以下、「補正後の発明」という。)に補正することを含むものである。

2.新規事項の有無、補正の目的要件について
本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、補正前の特許請求の範囲の請求項11に記載されたベースストリームおよびエンハンスメントストリームに関し、「前記少なくとも1つのデータストリームの各々のための前記ベースストリームおよび前記エンハンスメントストリームは、異なるサービスエリアを有する、」という構成を付加して特許請求の範囲を減縮するものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項(新規事項)及び平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項(補正の目的)の規定に適合している。

3.独立特許要件について
上記本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、上記補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下に検討する。

(1)補正後の発明
上記「1.本願発明と補正後の発明」の項で「補正後の発明」として認定したとおりである。

(2)引用発明
原審の拒絶理由に引用文献7として引用された、特開2001-223665号公報(以下、「引用例」という。)には「信号符号化伝送装置,信号復号化受信装置、およびプログラム記録媒体」として図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「【0030】(実施の形態1)以下では、本実施の形態1における信号符号化伝送装置および信号復号化受信装置の構成および動作について、主として図1?3を参照しながら説明する。
【0031】はじめに、主として図1を参照しながら、本実施の形態1における信号符号化伝送装置の構成および動作について説明する。
【0032】図1において、101は映像信号階層型符号化部、102はデジタル変調部、103はマルチキャリア伝送部である。
【0033】なお、本実施の形態1における映像信号階層型符号化部101は、本発明の階層型符号化手段に対応する。また、本実施の形態1におけるデジタル変調部102およびマルチキャリア伝送部103を合わせた手段は、本発明の変調・伝送手段に対応する。
【0034】映像信号階層型符号化部101は、入力された映像信号を、MPEG2(ISO/IEC13818-2)で規定されているSpatial Scalable Profileによって2階層に階層化して符号化し、2個の圧縮ビットストリームを生成する。以下では、第1階層の圧縮ビットストリームをベースレイヤビットストリーム(最低階層ビットストリーム)と呼び、第2階層の圧縮ビットストリームをエンハンスメントレイヤビットストリーム(最高階層ビットストリーム)と呼ぶ。
【0035】デジタル変調部102は、前述のようにして生成された2個の圧縮ビットストリームを、所定のビット数(本実施の形態1においては64ビット)ごとに合計13個に分割した後に、それぞれを所定の変調方式によってデジタル変調信号に変調し、マルチキャリア伝送部103は、これらをマルチキャリア方式によって伝送する。なお、前述の所定のビット数が64ビット以外の任意のビット数であってもよいことは、いうまでもない。
【0036】ここで、図3を参照しながら、本実施の形態2における変調方式およびマルチキャリア方式による伝送方式(以下ではマルチキャリア伝送方式ともいう)について、さらに詳しく説明する。
【0037】本実施の形態1においては、理想的な形態として地上波デジタル放送を仮定し、マルチキャリア伝送方式をOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplex、直交周波数分割多重)とする。ここに、現在検討されている地上波デジタル放送では、全帯域が5.6MHzであり、OFDMでは、OFDM segmentとよばれる13個のキャリアが5.6MHzの帯域で伝送される。
【0038】仮に、映像信号ビットストリームが、図3(a)に示したように一つであれば、この一つの映像信号ビットストリームを符号化し、64ビットごとに13個に分割し、それぞれをDQPSK(Differential Quadrature Phase Shift Keying、差分4相位相偏位変調)、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying、4相位相偏位変調)、16QAM(Quadrature Amplitude Modulation、直交振幅変調)、64QAMのようなデジタル変調方式によって変調した後に、一つのキャリアとしてOFDM seqmentに割り振ればよい。
【0039】本実施の形態1においては、前述されたように、一つの映像信号を2階層に階層化し、各階層の信号をそれぞれ符号化することによって、ベースレイヤビットストリームおよびエンハンスメントレイヤビットストリームの二つの圧縮ビットストリームを生成した。そこで、ベースレイヤビットストリームを7個に分割してそれぞれをデジタル変調信号に変調し、エンハンスメントレイヤビットストリームを6個に分割してそれぞれをデジタル変調信号に変調し、これら合計13個の変調信号を、それぞれ一つのキャリアとしてOFDM seqment(図3(b)参照)に割り振り、OFDMによって伝送する。
【0040】さらに具体的には、7個に分割されたベースレイヤビットストリームを、伝送雑音に対して強い耐性を有するデジタル変調方式であるQPSKによってそれぞれ変調し、6個に分割されたエンハンスメントレイヤビットストリームを、伝送効率の高いデジタル変調方式である16QAMによってそれぞれ変調する。そして、周波数帯域の中心部分を利用するキャリアの方が、両端部分を利用するキャリアよりも伝送状態がよいので、周波数帯域の中心部分を利用する7個のキャリア(図3(b)参照)を用いてベースレイヤビットストリームを伝送し、周波数帯域の両端部分を利用する6個のキャリア(図3(b)参照)を用いてエンハンスメントレイヤビットストリームを伝送する。なお、伝送効率の高いデジタル変調方式の他の例としては、たとえば32QAMなどがある。
【0041】本実施の形態1の信号符号化伝送装置は、ベースレイヤビットストリームのように重要度の高い圧縮ビットストリームを、デジタル変調部102で伝送雑音に対する耐性の高いデジタル変調方式によって変調し、マルチキャリア伝送部103でマルチキャリア伝送中の伝送効率の高いキャリアを用いて伝送することによって、雑音などの影響を大きく受けずに伝送することができる。したがって、後述されるように、伝送雑音の多い場合でも、信号復号化受信装置側においては、ベースレイヤビットストリームを復号化することにより得られる映像信号を再生することができる。」(5頁7欄?6頁9欄)

ロ.「【0042】つぎに、主として図2を参照しながら、本実施の形態1における信号復号化受信装置の構成および動作について説明する。
【0043】図2において、201はマルチキャリア受信部、202はデジタル復調部、203は映像信号階層型復号化部である。
【0044】なお、本実施の形態1におけるマルチキャリア受信部201は、本発明の受信手段に対応する。また、本実施の形態1におけるデジタル復調部202は、本発明の復調手段に対応する。また、本実施の形態1における映像信号階層型復号化部203は、本発明の階層型復号化手段に対応する。
【0045】マルチキャリア受信部201は、前述のようにして伝送されてくるマルチキャリア方式の信号から、指定された帯域の信号を受信し、受信した信号をデジタル復調部202に出力する。
【0046】具体的には、ベースレイヤビットストリームが周波数帯域の中心部分を利用する7個のキャリア(図3(b)参照)を用いて伝送されてくることに基づいて、マルチキャリア受信部201は、ベースレイヤビットストリームに対応する変調信号を受信し、デジタル復調部202に出力する。また、エンハンスメントレイヤビットストリームが周波数帯域の両端部分を利用する6個のキャリア(図3(b)参照)を用いて伝送されてくることに基づいて、マルチキャリア受信部201は、エンハンスメントレイヤビットストリームに対応する変調信号を受信し、デジタル復調部202に出力する。
【0047】デジタル復調部202は、64ビットごとに分割されていたデジタル変調信号に対して、デジタル変調部102で行なわれた変調とは逆の変換である復調を行なって、復調された信号を一つに合成することにより得られる圧縮ビットストリームを、映像信号階層型復号化部203に出力する。
【0048】具体的には、7個に分割されたベースレイヤビットストリームがそれぞれデジタル変調方式QPSKによってデジタル変調されていたことに基づいて、デジタル復調部202は、これら7個の変調信号をQPSKによる変調とは逆の変換によって復調し、これら7個の復調された信号を一つに合成して得られるベースレイヤビットストリームを、映像信号階層型復号化部203に出力する。また、6個に分割されたエンハンスメントレイヤビットストリームがそれぞれデジタル変調方式16QAMによってデジタル変調されていたことに基づいて、デジタル復調部202は、これらを6個の変調信号を16QAMによる変調とは逆の変換によって復調し、これら6個の変調信号を一つに合成して得られるエンハンスメントレイヤビットストリームを、映像信号階層型復号化部203に出力する。
【0049】映像信号階層型復号化部203は、デジタル復調部202より出力された2個の圧縮ビットストリームに対して、前述の階層型符号化の逆変換である復号化を行なって、映像信号を再生する。
【0050】具体的には、ベースレイヤビットストリームのみがデジタル復調部202より入力されたときには、映像信号階層型復号化部203は、このベースレイヤビットストリームを復号化することにより、映像信号を再生する。また、ベースレイヤビットストリームおよびエンハンスメントレイヤビットストリームがともにデジタル復調部202より入力されたときには、映像信号階層型復号化部203は、これら2個の圧縮ビットストリームを復号化することにより、映像信号を再生する。
【0051】なお、本実施の形態1における信号復号化受信装置は、ベースレイヤビットストリームおよびエンハンスメントレイヤビットストリームがともにデジタル復調部202より入力されたときにも、ベースレイヤビットストリームのみの復号によって、映像を再生することができる。このようにすることにより、信号復号化受信装置に過大な負荷が生じる事態をあらかじめ回避することできる。
【0052】また、ベースレイヤビットストリームのみの復号によって再生される映像の品質が、ベースレイヤビットストリームおよびエンハンスメントレイヤビットストリームの復号によって再生される映像の品質よりも低い場合があることはもちろんであるが、前述されたように、ベースレイヤビットストリームは雑音の影響を大きく受けずに伝送することができるので、伝送雑音の多い場合でも、本実施の形態1における信号復号化受信装置は、映像信号を再生することができる。」(6頁9欄?10欄)

ハ.「【0054】また、たとえば、移動体内のテレビにおいて、本発明の信号符号化伝送装置から出力される映像信号を受信するときに、伝送雑音が多いなど受信状態のよくない地域を移動している場合においても、ベースレイヤビットストリームのみの復号によって、映像信号の再生を行うことができる。」(7頁11欄)

上記イ.?ハ.の記載及び関連する図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、
引用例には、OFDM方式によるマルチキャリア伝送方式により地上波デジタル放送を行う信号符号化伝送装置および信号復号化受信装置における送受信方法が記載されている。
上記イ.に記載のように、OFDM方式によるマルチキャリア伝送方式により映像信号が送信され、上記ハ.に記載のように移動体内のテレビにおいて受信するとしているから、映像信号は無線放送されている。
上記イ.の段落【0034】に記載されるように、前記映像信号は2階層に階層化され、符号化されてベースレイヤビットストリームとエンハンスメントレイヤビットストリームという2個の異なるビットストリームとされ、段落【0035】に記載されるように、前記2個のビットストリームはそれぞれ複数個に分割(ベースレイヤビットシーケンスは7個に分割。エンハンスメントレイヤビットストリームは6個に分割。)され、それぞれビットストリーム毎の所定の変調方式によってデジタル変調信号に変調される。すなわち、各ビットストリームに対して一群(ベースレイヤビットシーケンスは7個。エンハンスメントレイヤビットストリームは6個。)のデジタル変調信号の割合で複数のデジタル変調信号を得ている。
そして、上記イ.の段落【0039】に記載されるように、個々のデジタル変調信号がそれぞれ1つのOFDM segmentに割り振られてOFDMによって伝送されている。(段落【0039】のseqmentは、段落【0037】や【図3】(a)に記載されるsegmentの誤記であると認められる。)
ここで、前記OFDM segmentは、【図3】に記載されるように、OFDM帯域を13分割したものであり、各OFDM segmentが複数のサブキャリア(各サブキャリアは1シンボルを送信するので『送信単位』であるといえる。)から構成されていることは技術常識である。そして、デジタル変調信号をOFDM segmentに割り振ることは、OFDM segmentを構成する複数のサブキャリアにデジタル変調信号の1つ1つのシンボルを割り振ることに相当する。
このように、ベースレイヤビットストリームとエンハンスメントレイヤビットストリームそれぞれのデジタル変調信号の各シンボルは、それぞれのビットストリームに割り当てられたOFDM segmentのサブキャリアに割り振られ、【図3】(b)のような合成信号からなる信号列となり、OFDMによりマルチキャリア方式の信号列が形成されることになる。そして、このマルチキャリア方式の信号列は、上記ロ.の記載及び【図2】に記載から、信号復号化受信装置においてベースレイヤビットストリームとエンハンスメントレイヤビットストリームとして復調される。

したがって、上記引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されている。

(引用発明)
「無線マルチキャリア通信システムにおいて映像信号を放送する方法において、
2個のビットストリームを処理し、各ビットストリームに対して一群のデジタル変調信号の割合で複数のデジタル変調信号を得ることと、
複数のデジタル変調信号の各々に送信単位を割り振ることであって、各送信単位は、1つのマルチキャリア方式の信号内の1つのサブキャリアに対応し、1つのシンボルを送信することに使用可能であることと、
各デジタル変調信号内のシンボルを前記対応するビットストリームに割り当てられたOFDM segmentの送信単位上に割り振ることと、
前記割り当てられたOFDM segmentの送信単位上に割り振られる前記2個のビットストリームのためのシンボルを有する合成信号の信号列を形成することであって、各ビットストリームは、前記ビットストリームのための前記合成信号の信号列に含まれる前記シンボルに基づいて信号復号化受信装置により復調可能であることと、
前記2個のビットストリームは、前記ビットストリームのための異なる情報を運ぶベースレイヤビットストリームおよびエンハンスメントレイヤビットストリームを含むことと、
を備える方法。」

(3)対比・判断
引用発明の「映像信号」は「データ」であり、「放送」は「ブロードキャスト」であるから、引用発明の「映像信号を放送する」は、補正後の発明の「データをブロードキャストおよびマルチキャストする」と「データをブロードキャストする」点で共通する。
引用発明の「2個のビットストリーム」に関し、「2個」は「複数」に含まれ、「ビットストリーム」は映像信号を符号化したビットからなるストリーム、即ちデータのストリームであるから、補正後の発明の「複数のデータストリーム」に相当する。
引用発明の「デジタル変調信号」は、ビットストリームをデジタル変調して得られた信号であり、技術常識からシンボル列となるから、補正後の発明の「データシンボルストリーム」に相当する。そして、引用発明の「各ビットストリームに対して一群のデジタル変調信号の割合で複数のデジタル変調信号を得る」に関しては、補正後の発明のように「各データストリームに対して1つのデータシンボルストリームの割合」で「複数のデータシンボルストリームを得」ていないが、両発明は、「各データストリームに対して特定のデータシンボルの割合で複数のデータシンボルストリームを得る」点で共通している。
引用発明の「1つのマルチキャリア方式の信号内の1つのサブキャリア」に関し、「1つのマルチキャリア方式の信号」は、いわゆる『OFDMシンボル』であり、補正後の発明の「1つのシンボル」に相当し、また「サブキャリア」は「サブバンド」と同義であるから、引用発明の「1つのマルチキャリア方式の信号内の1つのサブキャリア」は補正後の発明の「1つのシンボル期間内の1つのサブバンド」に相当する。
引用発明の「シンボル」は、サブキャリアにおけるシンボルであり、補正後の発明の「データシンボル」に相当する。
引用発明の「割り振る」は、補正後の発明の「マッピング」に相当する。
引用発明の「合成信号の信号列」は、補正後の発明の「合成シンボルストリーム」に相当する。
引用発明の「信号復号化受信装置」は、補正後の発明の「受信機」に相当する。
引用発明の「復調」は、受信されたマルチキャリア方式の信号から2個のビットストリームを回復する処理であるから、補正後の発明の「リカバー」に相当する。
引用発明の「ベースレイヤビットストリーム」、「エンハンスメントレイヤビットストリーム」は、補正後の発明の「ベースストリーム」、「エンハンスメントストリーム」に相当する。

したがって、補正後の発明と引用発明は、以下の点で一致ないし相違している。

(一致点)
「無線マルチキャリア通信システムにおいてデータをブロードキャストする方法において、
複数のデータストリームを処理し、各データストリームに対して特定のデータシンボルの割合で複数のデータシンボルストリームを得ることと、
複数のデータストリームの各々に送信単位を割り当てることであって、各送信単位は、1つのシンボル期間内の1つのサブバンドに対応し、1つのデータシンボルを送信することに使用可能であることと、
各データシンボルストリーム内のデータシンボルを前記対応するデータストリームに割り当てられた送信単位上にマッピングすることと、
前記割り当てられた送信単位上にマッピングされる前記複数のデータストリームのためのデータシンボルを有する合成シンボルストリームを形成することであって、各データストリームは、前記データストリームのための前記合成シンボルストリームに含まれる前記データシンボルに基づいて受信機によりリカバー可能であることと、
前記複数のデータストリームの中で少なくとも1つのデータストリームの各々は、前記データストリームのための異なる情報を運ぶベースストリームおよびエンハンスメントストリームを含むことと、
を備える、方法。」

(相違点)
(1)「ブロードキャスト」に関し、補正後の発明では、「ブロードキャストおよびマルチキャスト」であるのに対し、引用発明では、「放送」である点。
(2)「各データストリームに対して特定のデータシンボルの割合で複数のデータシンボルストリームを得る」に関し、補正後の発明では、「各データストリームに対して1つのデータシンボルストリームの割合で複数のデータシンボルストリームを得る」のに対し、引用発明では、「各ビットストリームに対して一群のデジタル変調信号の割合で複数のデジタル変調信号を得」ている点。
(3)補正後の発明は、「前記少なくとも1つのデータストリームの各々のための前記ベースストリームおよび前記エンハンスメントストリームは、異なるサービスエリアを有する」のに対し、引用発明では、そのような構成が記載されていない点。

そこで、上記相違点について検討する。
まず、相違点(1)について検討する。
引用発明では、無線マルチキャリア通信システムによって、引用例の段落【0037】に「地上波デジタル放送」、段落【0054】に「テレビ」と記載されているように「放送」を行っている。ここで、前記「放送」は不特定多数に対して行われる通信、すなわちブロードキャストである。
一方、マルチキャストは特定多数に対して行われる周知の通信形態であり、ブロードキャストにおける同報通信の宛先を限定した通信形態である。
当業者であれば、ブロードキャストを行う引用発明をマルチキャストする通信にも適用することを容易に想到し得るものである。

つぎに、相違点(2)について検討する。
引用発明では、「各ビットストリームに対して一群のデジタル変調信号の割合で複数のデジタル変調信号を得」ており、そして、前記複数のデジタル変調信号の各々に送信単位(サブキャリア)を割り振っている。
このように引用発明では、補正後の発明のように各ビットストリームに対して1つのデジタル変調信号の割合で複数の変調信号を得る構成とはなっていないが、これは、引用発明が、OFDM segment(送信単位であるサブキャリアの集合)の個数に合わせて、デジタル変調の『前』にビットストリームを分割する構成としているからである。しかしながら、各ビットストリームに対して1つのデジタル変調信号の割合で複数のデジタル変調信号を得た『後』に、該複数のデジタル変調信号をOFDM segmentの個数に合わせて分割して送信単位に割り振る構成としても、技術的に同等であることは当業者に自明のことであるから、引用発明において分割のタイミングを変えて、「各データストリームに対して1つのデータシンボルストリームの割合で複数のデータシンボルストリームを得る」ように為すことは当業者が容易に為し得ることにすぎない。

最後に、相違点(3)について検討する。
OFDMによるマルチキャリア通信システムにおける階層変調において、複数の階層の信号がそれぞれ割り当てられたサブキャリア群の送信電力を変える技術は、特開平7-99522号公報(例えば、段落【0319】?【0323】,【図108】,【図126】(b)の記載参照)、特開平10-336140号公報(例えば、段落【0003】?【0004】の記載参照)に記載のように周知である。
当業者であれば、上記周知技術を引用発明の階調変調に係る2個のビットストリーム(ベースレイヤビットストリームおよびエンハンスメントレイヤビットストリーム)を割り当てたサブキャリア群に対して適用し、2個のサブキャリア群の送信電力を変えることを容易に為し得るものである。ここで、2個のサブキャリア群の送信電力を異なる大きさとすれば、2個のビットストリームの送信範囲、すなわち「サービスエリア」が異なるものとなることは自明であり、引用発明においても、「前記少なくとも1つのデータストリームの各々のための前記ベースストリームおよび前記エンハンスメントストリームは、異なるサービスエリアを有する」こととなる。

以上のとおり各相違点は格別なものでなく、そして、補正後の発明に関する作用・効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、上記補正後の発明は上記引用発明及び周知技術に基いて容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.結語
以上のとおり、本件補正は、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、平成18年法律第55号附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合していない。
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、上記「第2.補正却下の決定」の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。

2.引用発明及び周知技術
引用発明及び周知技術は、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の「(2)引用発明」及び「(3)対比・判断」の項で認定したとおりである。

3.対比・判断
そこで、本願発明と引用発明とを対比するに、本願発明は上記補正後の発明から、本件補正に係る構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成に本件補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項で検討したとおり、引用発明及び周知例に基いて容易に発明することができたものであるから、上記補正後の発明から本件補正に係る限定を省いた本願発明も、同様の理由により、容易に発明できたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、上記引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-10-25 
結審通知日 2012-10-30 
審決日 2012-11-12 
出願番号 特願2006-525457(P2006-525457)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 洋  
特許庁審判長 藤井 浩
特許庁審判官 山本 章裕
竹井 文雄
発明の名称 無線マルチキャリアにおける複数のデータストリームの多重化と送信  
代理人 高倉 成男  
代理人 河野 直樹  
代理人 野河 信久  
代理人 井関 守三  
代理人 中村 誠  
代理人 村松 貞男  
代理人 堀内 美保子  
代理人 河野 哲  
代理人 佐藤 立志  
代理人 竹内 将訓  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 峰 隆司  
代理人 砂川 克  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 白根 俊郎  
代理人 岡田 貴志  
代理人 福原 淑弘  

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