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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04W 審判 査定不服 出願日、優先日、請求日 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04W 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04W |
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管理番号 | 1272039 |
審判番号 | 不服2011-12890 |
総通号数 | 161 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-05-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-06-15 |
確定日 | 2013-03-27 |
事件の表示 | 特願2009-166518「可変通信容量を備えるモジュール式基地局」拒絶査定不服審判事件〔平成21年12月 3日出願公開、特開2009-284511〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続きの経緯 本願は、平成11年3月17日を国際出願日とする特願2000-537330号(以下、「原原出願」と呼ぶ。)の一部を新たな特許出願とするものとして出願された特願2008-309139(出願日は平成20年12月3日;以下、「原出願」と呼ぶ。)の一部を更に新たな特許出願とするものとして、平成21年7月15日(パリ条約による優先権主張平成10年3月17日、アメリカ合衆国)に出願されたものであって、平成23年2月8日付けで拒絶査定がなされ、平成23年6月15日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされると共に手続補正がなされ、平成24年7月12日付けで拒絶理由が通知され、平成24年10月10日付けで手続補正がなされるとともに意見書が提出されたものである。 2.本願の出願日 特許請求の範囲の請求項1、5の「前記報知チャネルから復元された情報から抽出されるアクセス手順において複数の符号を送信」という技術的事項(以下、「技術的事項A」と呼ぶ。)は、原出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面」のことを「当初明細書等」と呼ぶ。)にはその記載が認められる(請求項4、11)ものの、原原出願の当初明細書等にはその記載が認められない。また、該技術的事項Aは、原原出願の当初明細書等に記載された事項から当業者に自明な事項とも認められない。 したがって、本願は原出願の出願の時(平成20年12月3日)に出願されたものとみなす。 なお、原原出願の当初明細書等の記載内容と本願の発明の詳細な説明の記載内容とは、請求人が上記技術的事項Aに対応する事項が記載されていると主張する部分において共通しているので、上記技術的事項Aが原原出願の当初明細書等に記載されておらず、また、原原出願の当初明細書等に記載された事項から当業者に自明な事項とも認められない理由の詳細は、下の「4.特許法第36条第1項の要件について」の「(3)上記請求人の意見を踏まえた当審の判断」の欄に示す理由と共通する。 3.本願発明 本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は、平成24年10月10日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであり、次のとおりのものと認める。 「 【請求項1】 符号分割多重アクセス(CDMA)加入者ユニットであって、 複数の同期化信号のそれぞれが複数の不連続の時間区画において受信されるように複数の同期化信号を単一の基地局から受信するように構成された電気回路であって、それぞれの不連続の時間区画では異なる同期化信号を受信し、前記同期化信号のそれぞれは最大強度電力レベルで連続的に送信されない、電気回路と、 報知チャネルから情報を受信し、復元するように構成された電気回路であって、情報を受信し復元する電気回路は前記同期化信号の少なくとも1つに基づいて同期化される、電気回路と、 前記報知チャネルから復元された情報から抽出されるアクセス手順において複数の符号を送信するように構成された電気回路と を備えることを特徴とするCDMA加入者ユニット。」 4.特許法第36条第6項第1号の要件について (1)拒絶理由通知で通知した拒絶理由 特許法第36条第6項第1号の要件に関して平成24年7月12日付けの拒絶理由通知で通知した拒絶理由のうち、本願発明に関する部分の内容は、以下のとおりである。 「 この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 技術的事項Aは、本願の発明の詳細な説明に記載されておらず、また、本願の発明の詳細な説明に記載された事項から当業者に自明な事項とも認められない。 よって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。」 (2)審判請求人の意見 上記拒絶理由に対して平成24年10月10日付けの意見書で審判請求人が主張した意見の内容は、以下のとおりである。 「上記技術的事項Aは、例えば、下記の記載に基づいている。 (A)「基地局による初期捕捉で逆方向リンクを確立するために、加入者局は所定のランダムアクセスチャネル(RACH)経由でランダムアクセスパケットを送信する。」(段落0005) (B)「加入者ユニット25は好ましいBSUを特定する選択処理を行う。加入者ユニット25がアクセスチャネルを要求すると、その好ましいBSUを選択して適切な符号をロードし通常の立上げ処理を起動する。」(段落0030) (C)「加入者ユニット25とBSUとの間の同期が確保されている場合は、加入者ユニット25は送信電力レベルを徐々に上げながらシンボル長の短符号を送信する。加入者ユニット25はBSUからの受信確認信号、すなわちBSUによる受信の有無の判定のための交通信号灯として作用し上記の短符号の受信確認として作用する受信確認信号を監視する。」(段落0031) また、本願明細書には、次の記載もある。 (D)「高速報知チャネル139は加入者ユニット25に対し交通信号灯として作用しそれぞれのBSU69の空塞状態および電源立上り状態を知らせる。低速報知チャネル141はパーソナル通信サービスのためにBSU69からアクティビティ情報および着呼情報を加入者ユニットに伝達する。」(段落0047) (E)「加入者ユニット25は、この着呼メッセージを認識すると、接続相手として最適のBSUを選択する。この選択は空塞の度合および信号強度などの情報によって決める。加入者ユニット25は、交通信号灯や空塞状態などで定まる通話容量最大値近傍までBSUが達していない場合は、受信パイロット信号レベル最大値を示すBSUを選択する。」(段落0026) このように、報知チャネルから復元された情報から抽出されるアクセス手順において複数の符号を送信することは、一例として、報知チャネルから復元された情報によって選択されたBSUに対して複数の符号を送信することが挙げられる。 以上のとおり、本願発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。」 (3)上記請求人の意見を踏まえた当審の判断 当審は、上記審判請求人の意見を考慮しても、技術的事項Aは、本願の発明の詳細な説明に記載されているとはいえず、また、本願の発明の詳細な説明に記載された事項から当業者に自明な事項とも認められないから、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない、と判断する。理由は以下のとおりである。 ア.上記審判請求人の意見は、「発明の詳細な説明の審判請求人が摘記した箇所の記載から、当業者は『報知チャネルから復元された情報によって選択されたBSUに対して複数の符号を送信する』という技術的事項を理解することができ、該『報知チャネルから復元された情報によって選択されたBSUに対して複数の符号を送信する』という技術的事項は、技術的事項Aの一例といえるから、技術的事項Aは発明の詳細な説明に記載されたものといえる。」といった趣旨の意見と解されるが、以下に示すように、審判請求人がいう上記「報知チャネルから復元された情報によって選択されたBSUに対して複数の符号を送信する」という技術的事項(以下、「技術的事項B」と呼ぶ。)を技術的事項Aの一例ということはできないから、上記審判請求人の意見は当を得たものではない。 すなわち、技術的事項Aは、「前記報知チャネルから復元された情報から抽出されるアクセス手順において複数の符号を送信」というものであり、複数の符号を送信する際の「アクセス手順」が「報知チャネルから復元された情報」から抽出されること、及びその抽出された「アクセス手順」に従って複数の符号が送信されること、を要件とするものであるが、技術的事項Bは「アクセス手順」といえるものを抽出することを表すものではないし、複数の符号の送信が「抽出されたアクセス手順」といえるものに従って行われることを表すものでもないから、技術的事項Bを技術的事項Aの一例ということはできない。 イ.請求人が摘記した箇所の記載を含め、発明の詳細な説明の記載全体を精査しても、複数の符号を送信する際の「アクセス手順」が「報知チャネルから復元された情報」から抽出されることや、その抽出された「アクセス手順」に従って複数の符号が送信されることを表していると解することができる記載は見当たらない。 ウ.複数の符号を送信する際の「アクセス手順」が「報知チャネルから復元された情報」から抽出されることや、その抽出された「アクセス手順」に従って複数の符号が送信されることが、本願の発明の詳細な説明に記載された事項から当業者に自明な事項であることを示す証拠はない。 エ.したがって、技術的事項Aは、本願の発明の詳細な説明に記載されているとはいえず、また、本願の発明の詳細な説明に記載された事項から当業者に自明な事項とも認められない。 よって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。 5.特許法第36条第6項第2号の要件について (1)拒絶理由通知で通知した拒絶理由 特許法第36条第6項第2号の要件に関して平成24年7月12日付けの拒絶理由通知で通知した拒絶理由のうち、本願発明に関する部分の内容は、以下のとおりである。 「 この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 記 上で指摘したように、技術的事項Aは発明の詳細な説明に記載されておらず、該技術的事項Aの技術的意義も具体例も不明であるため、該技術的事項Aが具体的にどのような技術的事項を表しているのか、特に、請求項1でいう「アクセス手順」にどのようなものまでが含まれるのかが不明確である。 よって、本願発明は明確でない。」 (2)審判請求人の意見 上記拒絶理由に対して平成24年10月10日付けの意見書で審判請求人が主張した意見の内容は、以下のとおりである。 「上記技術的事項Aは、例えば、下記の記載に基づいている。 (A)「基地局による初期捕捉で逆方向リンクを確立するために、加入者局は所定のランダムアクセスチャネル(RACH)経由でランダムアクセスパケットを送信する。」(段落0005) (B)「加入者ユニット25は好ましいBSUを特定する選択処理を行う。加入者ユニット25がアクセスチャネルを要求すると、その好ましいBSUを選択して適切な符号をロードし通常の立上げ処理を起動する。」(段落0030) (C)「加入者ユニット25とBSUとの間の同期が確保されている場合は、加入者ユニット25は送信電力レベルを徐々に上げながらシンボル長の短符号を送信する。加入者ユニット25はBSUからの受信確認信号、すなわちBSUによる受信の有無の判定のための交通信号灯として作用し上記の短符号の受信確認として作用する受信確認信号を監視する。」(段落0031) また、本願明細書には、次の記載もある。 (D)「高速報知チャネル139は加入者ユニット25に対し交通信号灯として作用しそれぞれのBSU69の空塞状態および電源立上り状態を知らせる。低速報知チャネル141はパーソナル通信サービスのためにBSU69からアクティビティ情報および着呼情報を加入者ユニットに伝達する。」(段落0047) (E)「加入者ユニット25は、この着呼メッセージを認識すると、接続相手として最適のBSUを選択する。この選択は空塞の度合および信号強度などの情報によって決める。加入者ユニット25は、交通信号灯や空塞状態などで定まる通話容量最大値近傍までBSUが達していない場合は、受信パイロット信号レベル最大値を示すBSUを選択する。」(段落0026) このように、報知チャネルから復元された情報から抽出されるアクセス手順において複数の符号を送信することは、一例として、報知チャネルから復元された情報によって選択されたBSUに対して複数の符号を送信することが挙げられる。 以上のとおり、本願発明は明確である。」 (3)上記請求人の意見を踏まえた当審の判断 当審は、上記審判請求人の意見を考慮しても、技術的事項Aが具体的にどのような技術的事項を表しているのか、特に、請求項1でいう「アクセス手順」にどのようなものまでが含まれるのか、は不明確なままであり、本願発明は明確でない、と判断する。理由は以下の通りである。 すなわち、審判請求人の意見は、請求項1でいう「アクセス手順」にどのようなものまでが含まれるのかを何ら明らかにするものではないし、本願の特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載の全体を精査しても、請求項1でいう「アクセス手順」にどのようなものまでが含まれるのかを明らかにする記載は見当たらないから、上記審判請求人の意見を考慮しても、技術的事項Aが具体的にどのような技術的事項を表しているのか、特に、請求項1でいう「アクセス手順」にどのようなものまでが含まれるのか、は不明確なままである。 よって、本願発明は明確でない。 6.特許法第29条第2項の規定について 上述したように当審は、本願発明は特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定される要件を満たしておらず、それらの理由で本願は拒絶されるべきものと考えるものであるが、予備的に、平成24年7月12日付けの拒絶理由通知の5.で触れた事項についての判断、すなわち、上記技術的事項Aの仮定的解釈を前提とした特許法第29条第2項の規定についての判断も以下に示しておくことにする。 上記4.の(3)で触れたように、審判請求人は「技術的事項Bが技術的事項Aの一例である」旨の主張をしていること、平成24年7月12日付けの拒絶理由通知の5.で触れた予備的な判断、すなわち、「技術的事項Aでいう『アクセス手順』が仮に『加入者ユニットからの符号送信のタイミングや拡散符号自体』を含むものだとすると本願発明の進歩性は引用文献1、2によって否定される」旨の判断における上記「技術的事項Aでいう『アクセス手順』が仮に『加入者ユニットからの符号送信のタイミングや拡散符号自体』を含むものだとすると」という「アクセス手順」についての仮定的解釈に何ら異論を唱えていないこと、等の事情を勘案すると、審判請求人が意図する技術的事項Aは、「前記報知チャネルから復元された情報を(何らかの形で)使用して複数の符号を送信」といった程度のものとも推察される。 そして、仮に、技術的事項Aをそのようなものと解釈した場合には、上記4.の(3)、及び上記5.の(3)に示した判断は妥当しないことになる(ただし、当審は、技術的事項Aをそのようなものと解釈し得る、と考えるものではない。)。 しかし、技術的事項Aをそのようなものと解釈した場合には、以下に示すように、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものということになる。 (1)本願発明の仮定的解釈 技術的事項Aについての上記仮定的解釈を採用した場合における本願発明は、以下のとおりのものである。 「符号分割多重アクセス(CDMA)加入者ユニットであって、 複数の同期化信号のそれぞれが複数の不連続の時間区画において受信されるように複数の同期化信号を単一の基地局から受信するように構成された電気回路であって、それぞれの不連続の時間区画では異なる同期化信号を受信し、前記同期化信号のそれぞれは最大強度電力レベルで連続的に送信されない、電気回路と、 報知チャネルから情報を受信し、復元するように構成された電気回路であって、情報を受信し復元する電気回路は前記同期化信号の少なくとも1つに基づいて同期化される、電気回路と、 前記報知チャネルから復元された情報を使用して複数の符号を送信するように構成された電気回路と を備えることを特徴とするCDMA加入者ユニット。」 (2)引用文献 ア.平成24年7月12日付けの拒絶理由通知で引用した特開平9-261763号公報(以下、上記拒絶理由通知と同様に「引用文献1」と呼ぶ。)には、以下の記載がある。 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、スペクトル拡散通信を用いた符号分割多元接続(CDMA:Code Division Multiple Access)移動体通信システムおよび送受信機に関する。」 「【0020】 【発明の実施の形態】本発明のCDMA移動体通信システムの第1の実施の形態における基地局送信機と移動局受信機の構成を、図1および図2に示す。図1は本発明における基地局送信機の構成例を示す図であり、15は定期的にパイロット・チャネルの送信/停止を行うためのタイミング信号を生成するパイロット送信タイミング生成部、40はパイロット・チャネル送信部、41、42、43は、それぞれ、1番目、2番目、n番目の移動局に対するトラヒック・チャネル送信部である。また、パイロット・チャネル用のデータ発生部1、情報変調部2、パイロット・チャネルのスペクトル拡散変調部3、送信データ4、トラヒック・チャネルのスペクトル拡散変調部5?7は前記図10に示したものと同一であり、その詳細な説明は省略する。 【0021】図1と前記図10とを比較することから明らかなように、本発明における基地局送信機においては、パイロット・チャネル送信部40内にパイロット送信タイミング生成部15が設けられており、その出力がパイロットデータ発生部1、情報変調部2およびスペクトル拡散変調部3に印加されている点で、前記図10の従来技術の基地局送信機と相違している。これにより、従来の基地局送信機においてはパイロット・チャネルの信号を連続的に送信していたのに対し、本発明の基地局送信機は定期的に送信/停止を繰り返すことが可能となる。 【0022】図2は本発明における移動局受信機の第1の実施の形態の構成を示す図であり、この図において、18は送信電力制御のための受信レベル測定部、44はパイロット・チャネル受信部、45はトラヒック・チャネル受信部を示す。また、パイロット・チャネル用の逆拡散部8、トラヒック・チャネル用の逆拡散部9および10、パス検出部11、RAKE合成部12および情報復調部13は前記図11に示したものと同一であり、その詳細な説明は省略する。 【0023】以下では、前記図13に示したセル構成に本発明のCDMA移動体通信システムを適用した場合について説明する。図1の本発明の基地局送信機において、パイロット送信タイミング生成部15は図3に示す時間間隔でパイロット・チャネルの送信/停止を行うためのタイミングを生成する。このタイミングを基にパイロット・チャネル送信部40のパイロットデータ発生部1、情報変調部2、スペクトル拡散変調部3は図3に示す時間間隔でパイロット・チャネルの送信/停止を繰り返す。なお、図1のスペクトル拡散変調部3で用いるパイロット・チャネルの拡散符号は図3に示すパイロット送信区間で1回の周期を持つ拡散符号を用いる。すなわち、本発明における基地局は、時間間隔τ毎に拡散符号1周期分のパイロット・チャネルのデータを送信する。 【0024】この時の各セル間でのパイロット・チャネルの送信タイミングを図4に示す。図4に示すように、各基地局21?24はそれぞれパイロット送信間隔τ毎に断続的にパイロット・チャネルのデータを送信しており、かつ、各基地局21?24のパイロット・チャネル送信開始時刻は、それぞれ固有の時間オフセットだけずらされて、同時に複数の基地局がパイロットを送信することはないようになされている。 【0025】なお、図4に示した例においては、ある基地局がパイロット・チャネルデータを送信した後には、総ての基地局がパイロットを送信しない時間があり、その後、他の基地局がパイロットを送信するようになされている。この総ての基地局がパイロットを送信しない時間をマルチパスの遅延時間よりも大きく設定することによって、遅延波が次にパイロットを送信する基地局のパイロットに重なることを防止することが可能となる。なお、無線LANの場合のように基地局との距離が短く遅延時間が小さい場合には、このような時間を設けなくてもよい。 【0026】図2に示した本発明の移動局受信機におけるパイロット・チャネル受信部44の逆拡散部8において、各基地局21、22、23、24から送信されたパイロット・チャネルの信号は逆拡散される。この時、各基地局からの信号の逆拡散結果は図5(a)?(d)に例示するような波形となり、逆拡散部8の出力は図5(a)?(d)を重畳した形で得られる。この図に示すように、本発明においては、移動局25の属する基地局21のパイロット送信タイミングでは、他の基地局22、23、24はパイロット・チャネルを送信しない。従って、移動局25の属する基地局21のパイロット・チャネルの送信タイミングにおいては、移動局25の属さない基地局22、23、24のパイロット・チャネルの信号が基地局21の信号に雑音成分として重畳して受信されることはなく、S/N比が劣化することは無い。」 そして、その段落【0026】の記載によれば、引用文献1における「移動局受信機」が「複数のパイロット・チャネルの信号のそれぞれが複数の不連続の時間区間において受信されるように複数のパイロット・チャネルの信号を基地局から受信するように構成された電気回路であって、それぞれの不連続の時間区画では異なるパイロット・チャネルの信号を受信し、前記パイロット・チャネルの信号のそれぞれは最大強度電力レベルで連続的に送信されない、電気回路」に相当するものを有していることは明らかである。 したがって、引用文献1には以下の発明(以下、「引用文献1記載発明」と呼ぶ。)が記載されているといえる。 「符号分割多重アクセス(CDMA)移動局受信機であって、 複数のパイロット・チャネルの信号のそれぞれが複数の不連続の時間区間において受信されるように複数のパイロット・チャネルの信号を基地局から受信するように構成された電気回路であって、それぞれの不連続の時間区画では異なるパイロット・チャネルの信号を受信し、前記パイロット・チャネルの信号のそれぞれは最大強度電力レベルで連続的に送信されない、電気回路 を備える移動局受信機。」 イ.平成24年7月12日付けの拒絶理由通知で引用した特開平9-233051号公報(以下、上記拒絶理由通知と同様に「引用文献2」と呼ぶ。)には、以下の記載がある。 「【0039】また、各移動局の制御部42は、報知チャネル20を介して送信されてきた自局宛の送信許可信号を周波数変換したベースバンド信号から、上記送信タイミングおよび拡散符号を抽出し、当該拡散符号を使用し、かつ当該送信タイミングで、当該送信許可信号に対応するデータ(すなわち送信要求信号に応じたデータ)を送信するようベースバンド信号処理部43を制御する。」 そして、上記引用文献2の段落【0039】の記載を技術常識と引用文献2の他の箇所の記載に照らせば、引用文献2には、以下の発明(以下、「引用文献2記載発明」と呼ぶ。)が記載されているといえる。 「報知チャネルから情報を受信し、復元するように構成された電気回路であって、情報を受信し復元する電気回路は前記同期化信号の少なくとも1つに基づいて同期化される、電気回路と、前記報知チャネルから復元された情報を使用して複数の符号を送信するように構成された電気回路とを備えるCDMA加入者ユニット。」 (3)本願発明と引用文献1記載発明との対比 上記仮定的解釈を採用した場合における本願発明と引用文献1記載発明とを対比すると、以下のことがいえる。 ア.一般に、「パイロット・チャネルの信号」と呼ばれる信号は、移動局と基地局の動作を同期させるために使用されるのが通常であり、引用文献1記載発明でいう「パイロット・チャネルの信号」もそのような通常の「パイロット・チャネルの信号」と異なるものであるとはされていない。したがって、引用文献1記載発明の「パイロット・チャネルの信号」も、移動局と基地局の動作を同期させるために使用される通常の「パイロット・チャネルの信号」であると解するのが妥当であり、それは本願発明の「同期化信号」に相当するものということができる。 イ.一般に、「移動局受信機」は、加入者の使用に供されるのが通常であり、引用文献1記載発明の「移動局受信機」もそのような通常の「移動局受信機」と異なるものであるとはされていない。したがって、引用文献1記載発明の「移動局受信機」も、加入者の使用に供される通常の「移動局受信機」であると解するのが妥当であり、それは本願発明の「加入者ユニット」に相当するものということができる。 したがって、本願発明と引用文献1記載発明との間には、以下の一致点、相違点があるといえる。 (一致点) 「符号分割多重アクセス(CDMA)加入者ユニットであって、 複数の同期化信号のそれぞれが複数の不連続の時間区画において受信されるように複数の同期化信号を基地局から受信するように構成された電気回路であって、それぞれの不連続の時間区画では異なる同期化信号を受信し、前記同期化信号のそれぞれは最大強度電力レベルで連続的に送信されない、電気回路 を備えることを特徴とするCDMA加入者ユニット。」 である点。 (相違点1) 本願発明の「複数の同期化信号を基地局から受信するように構成された電気回路」は、「複数の同期化信号を単一の基地局から受信するように構成された電気回路」であるのに対し、引用文献1記載発明の「複数の同期化信号を基地局から受信するように構成された電気回路」は、「複数の同期化信号を単一の基地局から受信するように構成された電気回路」であるとはされていない点。 (相違点2) 本願発明の「CDMA加入者ユニット」は、「報知チャネルから情報を受信し、復元するように構成された電気回路であって、情報を受信し復元する電気回路は前記同期化信号の少なくとも1つに基づいて同期化される、電気回路と、前記報知チャネルから復元された情報から抽出されるアクセス手順において複数の符号を送信するように構成された電気回路」をも備えるものであるのに対し、引用文献1記載発明の「CDMA加入者ユニット」は、「報知チャネルから情報を受信し、復元するように構成された電気回路であって、情報を受信し復元する電気回路は前記同期化信号の少なくとも1つに基づいて同期化される、電気回路と、前記報知チャネルから復元された情報から抽出されるアクセス手順において複数の符号を送信するように構成された電気回路」を備えるものではない点。 (4)当審の判断 ア.(相違点1)について 引用文献1記載発明の「複数の同期化信号を基地局から受信するように構成された電気回路」が、「複数の同期化信号(パイロット・チャネルの信号)」の送信元基地局が単一か複数かにかかわらず該「複数の同期化信号(パイロット・チャネルの信号)」を受信可能であることは、無線通信の原理上、自明である。そして、このことは、相違点1が、本願発明の「複数の同期化信号を基地局から受信するように構成された電気回路」と引用文献1記載発明の「複数の同期化信号を基地局から受信するように構成された電気回路」との間の構成上の相違点ではなく、用途上の相違点に過ぎないこと意味している。 一方、物についての特許発明の技術的範囲が、その用途とは無関係なその物自体の生産や譲渡等の行為にも及び得ることを考慮すると、上記のような構成上の相違ではなく用途上の相違に過ぎない相違点は、物の発明どうしを相互に相違する発明とする相違点ではない、換言すれば、物の発明に新規性や進歩性をもたらす相違点ではないというべきである。 よって、上記相違点1の存在をもって、本願発明の進歩性を肯定することはできない。 イ.(相違点2)について 引用文献2記載発明は、CDMA移動通信システムの加入者ユニットに関するものであるという意味において、引用文献1記載発明と同一の技術分野に属する発明であること、引用文献2記載発明が引用文献1記載発明の加入者ユニットにおいても有用であることは当業者に自明であること、引用文献1記載発明に引用文献2記載発明の適用を妨げる事情はないこと、等の事情を勘案すると、引用文献1記載発明に引用文献2記載発明を適用すること、換言すれば、引用文献1記載発明の「CDMA加入者ユニット」を、「報知チャネルから情報を受信し、復元するように構成された電気回路であって、情報を受信し復元する電気回路は前記同期化信号の少なくとも1つに基づいて同期化される、電気回路と、前記報知チャネルから復元された情報から抽出されるアクセス手順において複数の符号を送信するように構成された電気回路」をも備えるものとすることは、当業者が容易に推考し得たことというべきである。 よって、上記相違点2の存在をもってしても、本願発明の進歩性を肯定することはできない。 ウ.本願発明の効果について 本願発明の構成によってもたらされる効果は、引用文献1、2の記載事項や技術常識から当業者ならば容易に予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。 (5)まとめ 以上によれば、上記仮定的解釈による本願発明は、引用文献1記載発明、引用文献2記載発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条第2項の規定により特許を受けることができない。 7.むすび 以上のとおり、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定される要件及び同第2号に規定される要件を満たしておらず、また、上記仮定的解釈による本願発明は、特許法29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、他の拒絶理由について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-10-29 |
結審通知日 | 2012-10-30 |
審決日 | 2012-11-12 |
出願番号 | 特願2009-166518(P2009-166518) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H04W)
P 1 8・ 537- WZ (H04W) P 1 8・ 03- WZ (H04W) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 清水 祐樹、中元 淳二 |
特許庁審判長 |
小曳 満昭 |
特許庁審判官 |
江口 能弘 近藤 聡 |
発明の名称 | 可変通信容量を備えるモジュール式基地局 |
代理人 | 特許業務法人 谷・阿部特許事務所 |
復代理人 | 濱中 淳宏 |