• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B65H
管理番号 1272050
審判番号 不服2011-19499  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-09-09 
確定日 2013-03-27 
事件の表示 特願2001- 621「空気案内システムを調整する方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 8月28日出願公開、特開2001-233498〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願は、平成13年1月5日(優先権主張2000年1月5日ドイツ連邦共和国)の特許出願であって、平成22年8月16日付けで拒絶の理由が通知され、同年11月16日に手続補正がなされ、平成23年4月26日付けで拒絶査定がされた。
これに対し、平成23年9月9日に本件審判の請求がなされ、当審において平成24年3月22日付けで拒絶理由が通知され、同年6月20日に手続補正がなされ、同年7月5日付けで拒絶理由が通知され、同年10月3日に手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成24年10月3日に補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりと認められる。

「枚葉紙印刷機において、さまざまなアクチュエータを有している空気案内システムを調整する方法であって、
枚葉紙の搬送にとって基準となる噴射空気圧を含んでいるとともに印刷機速度の上にプロットされた特性曲線を、枚葉紙固有のパラメータについて最適に作成するステップと、
前記特性曲線を記憶装置に保存するステップと、
印刷ジョブに対して設定されている前記枚葉紙固有のパラメータ及び前記印刷機速度をCPUに供給するステップと、
前記CPUが、前記CPUに供給された前記枚葉紙固有のパラメータ及び前記印刷機速度にとって最適な前記特性曲線を前記記憶装置から取り出して、個々のアクチュエータに相応の指令を与えるステップと、
前記CPUによって選択された前記特性曲線の手動による修正のための入力が可能なステップと、
を有する、空気案内システムを調整する方法。」

3.刊行物記載の発明
(1)刊行物1
これに対し、本願優先日前に頒布された刊行物であって、当審で通知した拒絶理由に引用された特開平3-143846号公報(以下「刊行物1」という。)には、次のように記載されている。

ア.特許請求の範囲
「1.経験的に得られた紙質対応調整のためのデータを数種類にパターン化して基本データとしておき、
パターン化された基本データを随時に選択し、
選択された基本データに基づいて紙質対応調整を行なう、
枚葉式印刷機の紙質対応調整方法。」

イ.第1ページ右下欄第7?12行
「多種多様な紙質に対応して、印刷機の給紙部や排紙部の諸装置の作動強度等を調整しなければならないのである。ちなみに、紙質対応調整の対象となる装置としては、給紙部の紙さばき装置のエアー強度や排紙部のデリバリ-フアンの回転数等が挙げられる。」

ウ.第2ページ右上欄第12行?右下欄第3行
「第1図は、本発明に係る枚葉式印刷機の紙質対応調整方法において使用されるパターン化された基本データの一例を示す一覧表、第2図は、本発明方法を実施するための制御回路の一例を示すブロツク図、第3図は、本発明方法を実施するためのフローチヤートの一例である。
第1図において、0、1、2、・・・8、9とあるのは、当該枚葉式印刷機に使用される頻度の多い、経験的に10種類にパターン化された紙質の種別を示し、各々の種別の内容は、以下の通りである。
0?第1のアート紙。
1?第2のアート紙。
2?第3のアート紙。(但し、これら3種のアート紙は、紙厚等の諸元が異なるものとする。)
3?純白包装紙。
・・・
また、A、B、C、・・・I、Jとあるのは、各種の紙質に対応して調整がなされなければならない枚葉式印刷機の諸装置を示し、その内容は、以下の通りである。
A?給紙部の紙さばき装置のエアー強度。
B?同じく、吹足のエアー強度。
C?同じく、送り出しゴムローラのタイミング。
D?同じく、サツカーのエアー圧。」

エ.第3ページ左上欄第13行?右下欄第2行
「第2図において、1はオペレーシヨンスタンドのうち、紙質対応調整を行なうためのキーボード、2は中央制御装置(CPU)、3は表示手段であつて、バーグラフ及び数字によつて、各装置毎の調整量を示す。また、4は実際に紙質対応調整がなされる諸装置の駆動モータ等の被制御部を概念的に示す。
なお、キーボード1にあつては、本発明方法に直接関連する部分のみが示されており、5は紙質対応調整作業を指令するキー、6は基本データを選択するためのキー、7はメツセージ表示部を示し、更に、A、B、C、・・・I、Jの下にあるキー群は、上段のもの8が各装置の調整量を増加させるためのもの、下段のもの9が減少させるためのものである。
また、中央制御装置2は、前記した基本データ0?9を記憶しておく基本データ記憶領域10、選択された基本データ及びその他の印刷データを一時的に記憶しておく共用メモリー11、現在実行中の印刷データを記憶しておく印刷機側制御メモリー12を有しており、更に、13はA/D変換手段を示す。
次に、第3図のフローチヤートを参照しつつ、本発明方法の実行手順を説明する。
まず、ステツプ1(S-1)において、共用メモリー11に読み出すべき内容を選択する、もしも、印刷機側制御メモリー12を選択した場合には、キーボード1のキー8,9を適宜に操作することによつて、各装置毎に紙質対応調整を個別に行なう(ステツプ2(S-2))。また、基本データ領域10側を選択した場合には、以下に場合分けする作業内容に応じて、手順が進行する。
共用メモリー11に前記基本データを入力する場合には、キーボード1のキー6によつて基本データの種別0?9を選択し(ステツプ3(S-3))、これにより選択された基本データ(例えば1)が共用メモリー11に入力される(ステツプ4(S-4))。
そして、このようにして共用メモリー11に入力された特定の種別の基本データが印刷機側制御メモリー12に送出され、A/D変換手段13を経た後、被制御部4が調整されて、紙質対応調整が行なわれるのである(ステツプ5(S-5))。
また、本発明方法は、前述の如く基本データを選択して利用することのみならず、基本データを具体的な条件により一層適合するように修正したり、そのようにして修正された基本データを基本データ記憶領域10に新たに登録することも容易に行なえる(第3図に、基本データを修正する場合として示す。)。」

これらを、図面を参照しつつ、技術常識を踏まえ、本願発明に照らして整理する。
刊行物1には、次の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

「枚葉式印刷機において、諸装置A?Jを有している空気案内システムを調整する方法であって、
CPU2に、各種の紙質の種別0?9に対応して調整がなされなければならない、サツカーのエアー圧Dを含む諸装置A?Jの基本データを記憶しておく基本データ記憶領域10及び一時的記憶領域のための共用メモリー11を有し、
各種の紙質の種別0?9を選択するステツプ3と、
選択された紙質の種別0?9に対応する基本データが、CPU2の共用メモリー11に入力されるステツプ4と、
選択された紙質の種別0?9に対応する基本データがCPU2の印刷機側制御メモリー12に送出され、諸装置の被制御部4が調整されるステツプ5と、
キー8,9により基本データを一層適合するように修正し、基本データ記憶領域10に新たに登録可能なステツプと、
を有する方法。」

(2)刊行物2
同じく、特開平5-170344号公報(以下「刊行物2」という。)には、次のように記載されている。

ア.特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】 輪転印刷機(37)の給紙装置(38)における個別化ノズル(7,8)の所要ブロー空気量を制御弁(9)を介して調整する装置において、ブロー空気発生器(1)と、前置された制御弁(9)を備えた、ブロー空気を消費する個別化ノズル(7,8)との間に調整弁(3)が配置され、該調整弁(3)が機械操作スタンド(10)の計算器と増幅器(45)を介して接続されており、計算器が圧力及び機械回転数のセンサと入力装置(47)と接続されており、計算器が印刷担体のグラムチュアのための特性線(43;44;46)及び(又は)種類に関連して調整弁(3)の調節装置(16;29)をコントロールする生産データで負荷可能であることを特徴とする、輪転印刷機の給紙装置における個別化ノズルの所要ブロー空気量を調整するための装置。」

イ.段落0008
「【0008】
【発明の効果】空気量もしくは空気量を調整するために本発明による装置を用いることにより、ブローノズルに供給するために必要な空気圧を有する必要な空気量の基本所要量を被印刷担体の特性と種類に応じて調整することも、ブローノズルのためのブロー空気所要量を速度に関連して調整することもできる。・・・。むしろ必要であるのは、機械操作スタンドにおける計算機のキーを介して必要な生産データ、例えば被印刷材料のグラムチュアと種類と機械速度を入力するだけである。」

ウ.段落0016
「【0016】図6によれば調整弁3のための種々の特性線が概略的に示されている。この場合特性線43は厚紙(150g/m^(2)よりも大きい)のため、特性線44は平均のグラムチュア(約70?90g/m^(2))のため、特性線46は薄い印刷紙(40g/m^(2)よりも小さい)のために示されている。しかしながらここには示されていないきわめて多くの特性線もある。」

エ.段落0020
「【0020】・・・。この場合には図1に示されているように機械操作スタンド10の計算器にはキーボード47を介して生産データが入力される。このようなデータとしては例えば生産速度を枚葉紙/時間でかつ被印刷材料の種類とグラムチュアが入力される。・・・。計算器は実際値を目標値と比較し、特性線43から46までを使って、実際値が目標値に相応するまで調整を行う。・・・。」

これらを、図面、特に図6を参照しつつ、技術常識を踏まえ整理する。
刊行物2には、次の事項(以下「刊行物2事項」という。)が記載されていると認められる。
「輪転印刷機(37)の給紙装置(38)における個別化ノズル(7,8)の所要ブロー空気量を調整する装置において、必要な空気量の基本所要量を被印刷材料のグラムチュアと機械速度の特性線(43;44;46)を使って調整するもの。」

4.対比・判断
刊行物1発明の「枚葉式印刷機」は本願発明の「枚葉紙印刷機」に相当し、同様に、「諸装置A?J」は「さまざまなアクチュエータ」に、「サツカーのエアー圧D」は「枚葉紙の搬送にとって基準となる噴射空気圧」に、「基本データ記憶領域10及び一時的記憶領域のための共用メモリー11」は「記憶装置」に、「諸装置の被制御部4」は「個々のアクチュエータ」に、それぞれ相当する。
刊行物1発明の「紙質」は、「これら3種のアート紙は、紙厚等の諸元が異なる」とされているように、「紙の単位面積当たり重量」が異なるものである。また、本願発明の「枚葉紙固有のパラメータ」は、明細書の段落0005の記載からみて、「単位面積当たり重量」、「枚葉紙の剛性や表面性質」が含まれる。よって、刊行物1発明の「紙質の種別0?9」は本願発明の「枚葉紙固有のパラメータ」に相当する。

刊行物1発明の「CPU2に、各種の紙質の種別0?9に対応して調整がなされなければならない、サツカーのエアー圧Dを含む諸装置A?Jの基本データを記憶しておく基本データ記憶領域10及び一時的記憶領域のための共用メモリー11を有し、各種の紙質の種別0?9を選択するステツプ3と、選択された紙質の種別0?9に対応する基本データが、CPU2の共用メモリー11に入力されるステツプ4と、選択された紙質の種別0?9に対応する基本データがCPU2の印刷機側制御メモリー12に送出され、諸装置の被制御部4が調整されるステツプ5」と、
本願発明の「枚葉紙の搬送にとって基準となる噴射空気圧を含んでいるとともに印刷機速度の上にプロットされた特性曲線を、枚葉紙固有のパラメータについて最適に作成するステップと、前記特性曲線を記憶装置に保存するステップと、印刷ジョブに対して設定されている前記枚葉紙固有のパラメータ及び前記印刷機速度をCPUに供給するステップと、前記CPUが、前記CPUに供給された前記枚葉紙固有のパラメータ及び前記印刷機速度にとって最適な前記特性曲線を前記記憶装置から取り出して、個々のアクチュエータに相応の指令を与えるステップ」とは、
「枚葉紙の搬送にとって基準となる噴射空気圧と、枚葉紙固有のパラメータとの関係について最適に作成するステップと、前記関係を記憶装置に保存するステップと、印刷ジョブに対して設定されている前記枚葉紙固有のパラメータをCPUに供給するステップと、前記CPUが、前記CPUに供給された前記枚葉紙固有のパラメータにとって最適な前記関係を前記記憶装置から取り出して、個々のアクチュエータに相応の指令を与えるステップ」である限りにおいて一致する。
刊行物1発明の「キー8,9により基本データを一層適合するように修正し、基本データ記憶領域10に新たに登録可能」と、本願発明の「CPUによって選択された特性曲線の手動による修正のための入力が可能」とは、「手動による修正が可能」である限りにおいて一致する。

そうすると、本願発明と刊行物1発明とは、以下の点で一致する。
「枚葉紙印刷機において、さまざまなアクチュエータを有している空気案内システムを調整する方法であって、
枚葉紙の搬送にとって基準となる噴射空気圧と、枚葉紙固有のパラメータとの関係について最適に作成するステップと、
前記関係を記憶装置に保存するステップと、
印刷ジョブに対して設定されている前記枚葉紙固有のパラメータをCPUに供給するステップと、
前記CPUが、前記CPUに供給された前記枚葉紙固有のパラメータにとって最適な前記関係を前記記憶装置から取り出して、個々のアクチュエータに相応の指令を与えるステップと、
手動による修正が可能なステップと、
を有する、空気案内システムを調整する方法。」

そして、以下の点で相違する。
相違点1:本願発明では「枚葉紙の搬送にとって基準となる噴射空気圧を含んでいるとともに印刷機速度の上にプロットされた特性曲線を、枚葉紙固有のパラメータについて最適に作成するステップと、前記特性曲線を記憶装置に保存するステップと、印刷ジョブに対して設定されている前記枚葉紙固有のパラメータ及び前記印刷機速度をCPUに供給するステップと、前記CPUが、前記CPUに供給された前記枚葉紙固有のパラメータ及び前記印刷機速度にとって最適な前記特性曲線を前記記憶装置から取り出して、個々のアクチュエータに相応の指令を与えるステップ」、すなわち「枚葉紙固有のパラメータ」について、「噴射空気圧」に加え、「印刷機速度」をも勘案した「特性曲線」を作成・記憶し、「枚葉紙固有のパラメータ及び印刷機速度」の入力により「最適な特性曲線」を選択して制御するものであるが、
刊行物1発明では「CPU2に、各種の紙質の種別0?9に対応して調整がなされなければならない、サツカーのエアー圧Dを含む諸装置A?Jの基本データを記憶しておく基本データ記憶領域10及び一時的記憶領域のための共用メモリー11を有し、各種の紙質の種別0?9を選択するステツプ3と、選択された紙質の種別0?9に対応する基本データが、CPU2の共用メモリー11に入力されるステツプ4と、選択された紙質の種別0?9に対応する基本データがCPU2の印刷機側制御メモリー12に送出され、諸装置の被制御部4が調整されるステツプ5」、すなわち「枚葉紙固有のパラメータ」について、「噴射空気圧」との関係を作成・記憶し、「枚葉紙固有のパラメータ」の入力により「最適な関係」を選択して制御するものである点。
相違点2:手動による修正について、本願発明では「CPUによって選択された特性曲線の手動による修正のための入力が可能」であるが、刊行物1発明では「キー8,9により基本データを一層適合するように修正し、基本データ記憶領域10に新たに登録可能」である点。

相違点1について検討する。
印刷においては、効率向上は当然の課題であるから、刊行物1発明においても、印刷速度について可変とすることが望ましいことは明らかである。
刊行物1発明と同様、印刷機の用紙搬送における空気圧に関するものである刊行物2事項は、上記のとおり、空気圧の調整を、本願発明の「印刷機速度」に相当する「機械速度」をも含めて、被印刷材料のグラムチュア(本願発明の「枚葉紙固有のパラメータ」)と機械速度の特性線(本願発明の「特性曲線」)により行うものである。
よって、「印刷機速度」をも勘案する刊行物2事項を、「枚葉紙固有のパラメータ」の入力により制御するものである刊行物1発明に適用し、相違点1に係るものとすることは、必要に応じてなしうる設計的事項にすぎない。

なお、枚葉紙固有のパラメータである紙の重量と印刷速度が、空気量に影響を与えることは、上記刊行物2のほか、拒絶理由で引用した特開平3-293239号公報の第2ページ左上欄第11?15行にもみられるごとく周知である。

相違点2について検討する。
刊行物1発明においても、手動により空気圧の調整を行うものであるが、 相違点1に伴う刊行物2事項を適用したものにおいては、「特性曲線」を利用して、空気圧を調整することとなる。
したがって、空気圧調整のため、手動調整の対象として、「特性曲線」を選択することに困難性は認められない。

また、これら相違点を総合勘案しても、格別の技術的意義が生じるとは認められない。

請求人は、意見書で、刊行物1?2は、「最適な特性曲線を取出すことを開示」していない旨、主張する。しかし、特性曲線については、刊行物2に記載されており、また、刊行物1に「一層適合するように修正」と記載されているごとく、修正を行うにしても最小限にとどめることが通例であるから、「最適な」ものを取り出すことは当然のことである。
よつて、請求人の主張は根拠がない。

5.むすび
本願発明は、刊行物1発明、刊行物2事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものであるから、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-10-24 
結審通知日 2012-10-30 
審決日 2012-11-12 
出願番号 特願2001-621(P2001-621)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B65H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石井 孝明  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 刈間 宏信
野村 亨
発明の名称 空気案内システムを調整する方法および装置  
代理人 宮崎 昭夫  
代理人 緒方 雅昭  
代理人 石橋 政幸  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ