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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16H
管理番号 1272061
審判番号 不服2012-7331  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-04-20 
確定日 2013-03-27 
事件の表示 特願2008-537010「ギア変換のための方法および伝動装置配置構造物」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 5月 3日国際公開、WO2007/048631、平成21年 4月 2日国内公表、特表2009-513903〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯

本願は、平成18年(2006年)10月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年10月27日、ドイツ連邦共和国、2005年12月9日、ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成23年12月15日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年4月20日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2 本願発明

本願の請求項1ないし15に係る発明は、平成23年6月30日付けの手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1及び9に係る発明(以下、請求項1に係る発明を「本願発明1」といい、また同様に、請求項9に係る発明を「本願発明9」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
液圧伝動装置と、その下流に連結された手動ギアボックス(4)と、該手動ギアボックス(4)内にあるシンクロナイザとを有する伝動装置において、ギア(12、13)を変換する方法であって、
液圧モータ(9)および該液圧モータ(9)と連結した伝動装置入力軸の出力トルクを減少させる工程、
下流で連結される該手動ギアボックス(4)の係合していたギア(12、13)を外す工程、
係合させるギア(12、13)に相当する該液圧モータ(9)および該液圧モータ(9)と連結した伝動装置入力軸の回転速度を決定する工程、
該液圧モータ(9)および該液圧モータ(9)と連結した伝動装置入力軸の回転速度が、ギア変換の方向に関係なく決定された相当回転速度よりも高くなるように、該液圧伝動装置の歯数比を調節する工程、および
係合させるギア(13、12)を係合させる工程、を含む方法。」
「【請求項9】
油圧ポンプ装置(2)および
液圧モータ(9)を含む液圧伝動装置と、
該液圧伝動装置の下流に連結され、少なくとも1個の第1伝動段階(12)および第2伝動段階(13)を有する手動ギアボックス(4)とを有する伝動装置配置構造物であって、
該手動ギアボックス(4)がシンクロナイザを有し、
伝動段階(12、13)が係合する前に、該液圧モータ(9)および該液圧モータ(9)と連結した伝動装置入力軸の回転速度を、ギア変換の方向に関係なく、係合させる伝動段階(12、13)に比較して速い速度に設定し得ることを特徴とする、伝動装置配置構造物。」

3 引用刊行物とその記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、上記優先権主張日前に日本国内において頒布された刊行物は、次のとおりである。

刊行物1:特開平8-14384号公報
刊行物2:特開平7-167281号公報

(1)刊行物1(特開平8-14384号公報)の記載事項

刊行物1には、「油圧機械式変速機及びその変速方法」に関し、図面(特に、図1,2,4,6,8)とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ホイール式建設車両、農業車両、自動車等の自走車両に使用される油圧機械式変速機及びその変速方法に関する。」

イ 「【0002】
【従来の技術】油圧機械式変速機には、油圧モータで回された入力ギヤと、外部へ出力を伝達する出力ギヤとの噛合を切り換えることにより変速可能とされるものがある。この噛合の切り換えはスライディング式やコンスタント式が採用されるている。シンクロ式は部品点数が多くかつ細かいため、低速度段で高トルクを伝達させるには、各部品を高強度化する必要があり、大形化かつコスト高となる。従ってシンクロ式は油圧機械式変速機に採用されないのが普通である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところが上記油圧機械式変速機の機械部は、スライディング式やコンスタント式であるため、変速の都度、車両を一旦停止させる必要がある。この結果、次の問題が生ずる。
【0004】(1)起伏、交通信号等が多い走路での走行では、頻繁な変速操作が必要となる。そして変速の都度、停車させる必要があるため、最適走行速度の維持が難く、長時間走行となる。かかる事情からオペレータの疲労も激しく、満足度を得られないのが実情である。
【0005】(2)上述の通り、変速の都度、停車させる必要があるため、全速度段においてそれぞれ発進牽引力を要求される。このため低速度段は元より、全速度段において、発進時の高トルクに耐える構造とする必要がある。従って各部品の高強度化、かつ、大形化している。
【0006】本発明は、上記従来技術の問題点に着目し、機械部がスライディング式やコンスタント式であっても、シンクロ式並みに変速でき、かつ、コンパクトな油圧機械式変速機及びその変速方法を提供することを目的とする。」

ウ 「【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、第1発明なる油圧機械式変速機は、図1を参照して説明すれば、固定容量式又は可変容量式の油圧モータ14で回された入力ギヤ15と、外部へ出力を伝達する出力ギヤ17との噛合を切り換えることにより変速することを達成してなる油圧機械式変速機において、前記油圧モータ14とこれに油を供給する可変容量式油圧ポンプ7との間に、開口面積Aを自在に変更可能とされたクローズドセンタ形切換弁9を設けると共に、前記可変容量式油圧ポンプ7に、前記切換弁9の前後圧Pp、Prを入力してこれらの差圧ΔPが一定となるように該可変容量式油圧ポンプ7の吐出量Qpを制御する制御機構72を設けたことを特徴としている。
【0008】第2発明なる上記油圧機械式変速機の変速方法は、上記第1発明なる油圧機械式変速機において、変速時、先ず、切換弁9の開口面積Aを変更することにより現在噛み合っている入力ギヤ15bと出力ギヤ17bとの噛合トルクを最小化させ、この最小化後直ちに該噛合を外し、次いで、再び切換弁9の開口面積Aを変更することにより次に噛み合わせる入力ギヤ15aと出力ギヤ17aとにおける前者入力ギヤ15aの回転速度を後者出力ギヤ17aの回転速度に同期させ、この同期後直ちにこれらを噛み合わせることにより変速することとした。
【0009】さらに第3発明なる上記油圧機械式変速機の変速方法は、上記第1発明なる油圧機械式変速機において、油圧モータ14が可変容量式であるとき、変速時、先ず、該油圧モータ14の押しのけ容積を最小化すると共に切換弁9の開口面積Aを小さくし、これにより現在噛み合っている入力ギヤ15bと出力ギヤ17bとの噛合トルクを最小化させ、この最小化後直ちに該噛合を外し、次いで、再び切換弁9の開口面積Aを変更することにより次に噛み合わせる入力ギヤ15aと出力ギヤ17aとにおける前者入力ギヤ15aの回転速度を後者出力ギヤ17aの回転速度に同期させ、この同期後直ちにこれらを噛み合わせることにより変速することとした。」

エ 「【0014】
【実施例】本発明に係わる油圧機械式変速機の好適な実施例を図1を参照して説明する。同図は、実施例なる油圧機械式変速機を搭載し、かつ実施例なる変速方法を使用するホイール式建設機械の図である。説明を分かり易くするため、先ず本車両を油圧部、機械部、制御部に分けて述べ、その後、実施例の特徴を述べる。
【0015】油圧部を述べる。電気モータやエンジン等の動力源5で駆動された油圧ポンプ7により油溜6から吸い出された油Qpは、作業機用油圧アクチュエータ81、82用の制御油器8へ流れる油Q1と、圧力補償弁74を経て切換弁9へ流れる油Q2とに分流する。尚、走行中に作業機が使用されることはほとんどなく、走行中はポンプ吐出量QpがQ2となると考えて差し支えない。切換弁9は図示上部の後進位置R、図示下部の前進位置F、図示センタの停車用中立位置Nを備えた3位置切換弁であり、制御器1からの切換信号S3R、S3Fにより切り換わる。また後進位置Rと前進位置Fとのそれぞれには比例ソレノイド9R、9Fが備えられ、各切換信号S3R、S3Fの大きさに比例し開口面積Aが変化可能とされている。切換弁9で切り換えられた油Q2は可変容量式油圧モータ14(以下、単に油圧モータ14とする)に至り、これを後進方向又は前進方向に回転させ、その後、ドレン回路83から2段背圧弁12を経て油溜6へ還流される。油圧モータ14はサーボ機構141を備え、制御器1からの容量可変信号S2を受け、例えば斜板や斜軸の傾転角等を変更してその押しのけ容積を変化する。
……
【0017】機械部を述べる。機械部はコンスタント式変速機とした。入力ギヤ15は油圧モータ14の回転軸142に接続されて正逆転する。出力ギヤ17は外部の車軸20へ接続され、常噛ギヤ16を介して入力ギヤ15に噛み合い、入力ギヤ15の正逆転を車軸20へ伝達する(つまり車両を前後進させる)。同図において、左側入力ギヤ151と出力ギヤ17とは常噛ギヤ16を介して噛み合い、その噛合は低速走行段であり、他方右側入力ギヤ152と出力ギヤ17とは常噛ギヤ16を介して噛み合い、その噛合は高速走行段である。常噛ギヤ16は出力ギヤ17に常時噛み合っており、かつ左右入力ギヤ151、152のいずれへも摺動可能とされ、これによりこれらのいずれか一方と選択的に噛み合い可能とされている。本車両では、後進1段(後進Rとする)、中立(中立Nとする)及び前進2段(前進F1、前進F2とする)の変速度段としてある。
【0018】変速は、サーボ機構19が制御器1からの変速信号S1を受けることによりシフタ18を図示中央から左右のいずれか一方へ動かし、シフタ18の先端に回転摺動自在に係合された常噛ギヤ16を左右入力ギヤ151、152のいずれか一方に噛み合わせることにより、達成される。従って本車両での停車は、切換弁9の中立位置Nと、このシフタ18の中央位置とのいずれか一方又は双方によって達成される。勿論、常噛ギヤ16を低速走行側の入力ギヤ151と常時噛み合わせておき、停車は切換弁9の中立位置Nだけで行うようにしてもよいことは言うまでもない。
【0019】制御部を述べる。変速度段(後進R、中立N、前進F1、前進F2)の選択はシフトレバー2をオペレータが操作して行う。シフトレバー2から変速信号S5は一旦制御器1へ入力され調整された後、変速信号S1、容量可変信号S2、切換信号S3R、S3F、切換信号S4となる。尚、変速完了後の増減速は、制御器1において容量可変信号S2や切換信号S3R、S3Fを、アクセルベダル4から踏込量信号S7に連動させて行う。」

オ 「【0030】次に上記実施例なる油圧機械式変速機の変速方法の実施例を、図2?図9を参照して説明する。図2及び図6は第1実施例なる通常走行時のシフトアップ、図3及び図7は第2実施例なるリターダ走行時のシフトアップ、図4及び図8は第3実施例なる通常走行時のシフトダウン、図5及び図9は第4実施例なるリターダ走行時のシフトダウンの説明図であり、図2?図5はフローチャート、図6?図9はタイムチャートである。また図6?図9の各(a)は油圧モータ14の容量制御、各(b)は切換弁9の開口面積制御、各(c)はシフタ18の制御、各(d)は油圧モータ14の回転速度、各(e)は2段背圧弁12の切替制御を示す。
【0031】第1実施例は、通常走行時におけるシフトアップ方法であり、図2を参照し、かつ、図6で補足しつつ説明する。即ち、前進F1の噛合ギヤ(常噛ギヤ16を介した、入力ギヤ15bなる151と、出力ギヤ17bなる17との噛合)を前進F2の噛合ギヤ(常噛ギヤ16を介した、入力ギヤ15aなる152と、出力ギヤ17aなる17との噛合)へ切り換える方法である。
【0032】図2に示す通り、
工程(1a):前進F1走行中、
工程(2a):シフトレバー2をF1位置からF2位置に移すと、その変速信号S5がシフトレバー2から制御器1へ出力される。
工程(3a):制御器1は、変速信号S5を入力すると、図6(a)のt1に示すように、サーボ機構141へ容量可変信号S2を出力し、油圧モータ14の押しのけ容積を最小化すると共に、図6(b)のt1に示すように、切換弁9の比例ソレノイド9Fへ切換信号S3Fを出力して油圧モータ14への流量を制御することにより入力ギヤ151を現行速度に維持する。このようにすると、噛合ギヤ151、16との噛合トルクが小さくなり、ギヤ抜きし易くなる。……
工程(4a):図6(c)のt2に示すように、所定時間t1?t2経過後、制御器1はサーボ機構19へ最初の変速信号S1を出力し、シフタ18を駆動して常噛ギヤ16を入力ギヤ151から抜く。
工程(5a):その後、制御器1は、図6(b)のt2?t3に示すように、切換弁9へ切換信号S3Fを漸減しつつ出力し、図6(d)のt2?t3に示すように、油圧モータ14の回転速度を下げる。シフトアップするには入力ギヤ152の回転速度を常噛ギヤ16の回転速度まで下げて同期させる必要があるからである。
工程(6a):次に、図6(d)のt3に示すように、入力ギヤ152の回転速度と常噛ギヤ16の回転速度とが同期次期を見計らい、制御器1は、図6(c)のt3に示すように、サーボ機構19へ次の変速信号S1を出力し、シフタ18を駆動して常噛ギヤ16を入力ギヤ152へ噛み合わせる。
工程(7a):常噛ギヤ16が入力ギヤ152に噛み合った後、制御器1は、図6(b)のt3に示すように、切換弁9への切換信号S3Fの漸増を開始し、図6(a)のt4に示すように、サーボ機構141へ容量可変信号S2を出力し、かつ、図6(e)に示すように、切換信号S4を出力し、2段背圧弁12を低圧側に切り換えることにより前進F2走行する。」

カ 「【0041】第3実施例は、通常走行時おけるシフトダウン方法である。即ち、前進F2の噛合ギヤ(常噛ギヤ16を介した、入力ギヤ15bなる152と、出力ギヤ17bなる17との噛合)を前進F1の噛合ギヤ(常噛ギヤ16を介した、入力ギヤ15aなる151と、出力ギヤ17aなる17との噛合)へ切り換える方法である。
【0042】この第3実施例を第1実施例との相違点により説明する。第1実施例のシフトアップは、シフトアップ時に入力ギヤ152の回転数を入力ギヤ151の回転数よりも下げたが、シフトダウンでは、図4(3c)と(5c)、及び、図8(b)と(d)とのt1?t3に示すように、入力ギヤ151の回転数を入力ギヤ152の回転数よりも高める必要がある。他は第1実施例とほぼ同じである。」

キ 「【0046】(2)シンクロ式には高速変速が可能な高級なものから、低速変速しかできない低級なものまで多種多様である。そこで本発明の機械部を低級なシンクロ式とすると、高級なシンクロ式を使うことなく、高速変速が可能となる。」

上記記載事項ア?キ及び図面(特に、図1,2,4,6,8)の記載を総合すると、刊行物1には、油圧機械式変速機の変速方法に関し、
「油圧部と、その下流に連結された機械部(コンスタント式変速機)とを有する油圧機械式変速機において、入力ギヤ15と出力ギヤ17との噛合を切り換えることにより変速する方法であって、
切換弁9の開口面積Aを変更することにより現在噛み合っている入力ギヤ15bと出力ギヤ17bとの噛合トルクを最小化させ、
この最小化後直ちに該噛合を外し、
次いで、再び切換弁9の開口面積Aを変更することにより次に噛み合わせる入力ギヤ15aと出力ギヤ17aとにおける前者入力ギヤ15aの回転速度を後者出力ギヤ17aの回転速度に同期させ、
この同期後直ちにこれらを噛み合わせる、
ことにより変速する方法。」
の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
また同様に、刊行物1には、油圧機械式変速機に関し、
「油圧ポンプ7および
油圧モータ14を含む油圧部と、
該油圧部の下流に連結され、左側入力ギヤ151(審決注:引用発明1の「入力ギヤ15b」に相当する。上記記載事項オの段落【0031】を参照。以下同様に、引用発明1に相当する符号を括弧書きする。)と出力ギヤ17(17b)とは常噛ギヤ16を介して噛み合い、その噛合は低速走行段であり、他方右側入力ギヤ152(15a)と出力ギヤ17(17a)とは常噛ギヤ16を介して噛み合い、その噛合は高速走行段である機械部(コンスタント式変速機)とを有する油圧機械式変速機であって、
切換弁9の開口面積Aを変更することにより次に噛み合わせる入力ギヤ15aと出力ギヤ17aとにおける前者入力ギヤ15aの回転速度を後者出力ギヤ17aの回転速度に同期させる、油圧機械式変速機。」
の発明(以下、「引用発明9」という。)が記載されているものと認められる。

(2)刊行物2(特開平7-167281号公報)の記載事項

刊行物2には、「機械式自動変速機の制御装置及び方法」に関し、図面とともに次の事項が記載されている。

ク 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、少なくとも半自動化した車両用機械式変速装置における噛み合いジョークラッチの連結を制御する装置および方法に関するものである。特に、本発明は、エンジン/入力軸で駆動されるクラッチ部材が出力軸と駆動関係にあるクラッチ部材よりわずかに(好ましくは約10ないし50rpm だけ)高速の回転速度で回転している時、変速機ジョークラッチを連結させるか、連結するように押し付ける、自動化した車両用機械式変速装置用の制御装置/方法に関するものである。」

ケ 「【0002】
【従来の技術】例えば重量形トラクタ-セミトレーラ車両等の車両用の全自動または半自動機械式変速装置は公知であり、米国特許第4,361,060 号、第4,595,986 号、第4,614,126 号、第4,648,290 号、第4,676,115 号第4,784,019 号、第4,874,881 号、第4,899,607 号、第5,050,427 号及び第5,136,897 号に記載されており、これらの開示内容は参考として本説明に含まれる。
【0003】簡単に説明すると、これらの自動変速装置は一般的にセンサを利用して、駆動モードまたはシフト選択、スロットルペダル位置、現在の連結比、及びエンジン、入力軸及び/または出力軸の速度等の情報をコントローラへ送っていた。一般的にマイクロプロセッサベースのコントローラがこれらの入力を所定の論理規則に従って処理して、コマンド出力信号を様々なアクチュータ、例えばエンジン燃料供給装置、マスタークラッチオペレータ及び/または変速機シフトアクチュエータへ送った。一般的に、入力軸及びそれに関連した歯車機構を出力軸回転速度にほぼ同期した回転速度で目標歯車比で回転させるために、エンジン燃料供給操作、入力軸またはエンジンブレーキ及び/または動力シンクロナイザが用いられていた。
【0004】様々なアクチュエータの既知の応答時間を考えて、入力軸速度(IS) が同期域(同期ウインドー)に、すなわち出力軸速度に目標歯車比の数値を掛けた積(OS・GRt )±許容値(一般的に約±40rpm )に接近すると、目標比ジョークラッチ部材が初期連結した時に予想入力軸速度(ISe )が許容範囲に入ると予想して、目標歯車比に対応したジョークラッチが連結するように命じられた。
【0005】従来形車両用機械式自動変速装置のコントローラは、一般的に満足できるもので、十分に同期したジョークラッチ連結を行うことができたが、完全には満足できるものではなく、特にダウンシフトでは、連結中の目標歯車比に対応したジョークラッチが、入力軸と駆動関係にあるジョークラッチ部材が出力軸と駆動関係にあるジョークラッチ部材より低速で回転している時に連結する傾向があった。入力軸が正確な同期速度よりわずかに低速である時にジョークラッチを連結することによって、車両がわずかに制動されるが、これは、運転者にとっては、入力軸が真の同期速度よりわずかに高速である時にジョークラッチを連結することによって得られるわずかな『プッシュ』ほど心地よいものではない。」

コ 「【0006】
【発明が解決しようとする課題】従って、本発明の目的は、現在の車両速度(OS)で目標歯車比(GRt )の連結を行うための入力軸の正確な同期速度と同じか、それよりわずかに高速の入力軸速度でジョークラッチを連結させる、または連結するようにする車両用の少なくとも半自動化された機械式変速装置の制御装置/方法を提供することである。」

サ 「【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明は、請求項1,10,16,23,40,47,55,57に記載する構成を備えており、各項における式の判定条件での入力軸速度でジョークラッチを連結させるものである。
【0008】即ち、本発明の車両用全自動または半自動化機械式変速装置の制御方法/装置では、アップシフト及びダウンシフトの両方に対して、入力軸が正確な同期速度(OS・GRt )と同じか、それよりわずかに高速である時にジョークラッチを連結させる。
【0009】これにより、従来技術の欠点を解決または最小限に抑え、ジョークラッチの連結時に車両はわずかな『プッシュ感』を感じるが、これは非常に望ましいものである。
【0010】好適な実施例では、これは、IS=入力軸速度、0S=出力軸速度、GRt =目標歯車比における減速率の数値、K=正の定数(約20ないし40rpm )である場合、同期域を(OS・GR)+K≧IS≧(OS・GR)-Kから(OS・GR)+K≧IS>(OS・GR)に変更することによって達成される。」

シ 「【0043】ジョークラッチ60、62及び64は3位置クラッチであって、アクチュエータ27によって図示の中央非連結位置、最右側連結位置または最左側連結位置に位置決めされる。公知のように、一度にクラッチ60、62及び64のうちの1つだけが連結可能であり、他のクラッチをニュートラル状態にロックするために主部インターロック手段(図示せず)が設けられている。」

ス 「【0046】レンジ形補助部14は、平歯車またはらせん形歯車機構を用いた2速度部として図示されているが、本発明は、スプリッタまたはスプリッタ/レンジ結合形補助部を用いた複式変速機、選択可能なレンジ比が3つ以上あるもの、及び/または遊星形歯車機構を用いたものにも適用可能である。また、クラッチ60、62または64のいずれか1つまたは複数が同期ジョークラッチ形式であり、変速部12及び/または14が単一副軸形でもよい。」

セ 「【0050】公知のように、歯車54を主軸28に滑らかに連結するため、主軸歯車54が主軸28及びそれと共転しているクラッチカラー62の回転速度にほぼ等しい回転速度で回転している時に、クラッチカラー62を最右側へ移動させてクラッチ歯112 をクラッチ歯114 に噛み合わせなければならない。
【0051】補助レンジ部14がその高速または低速比に連結したままであるとすると、クラッチカラー及び主軸28の回転速度は、レンジ部の比及び出力軸の回転速度(OS)によって決定される。主変速部12のギヤチェンジ作業中は、車両の対地速度、従って出力軸90の回転速度がほぼ一定のままである。主軸歯車54及び56の回転速度は、その歯車比及び入力軸16の回転速度(IS)の関数である。
【0052】従って、主軸歯車の1つを連結するためのほぼ同期した状態を得るため、エンジンEへの燃料供給の制御及び/またはアップシフトブレーキBの操作によって入力軸16の速度を調整する。
【0053】従来から公知のように、特定の目標歯車比を連結するために正確に同期した状態であれば、IS=OS×GRt であり、クラッチCがすべりを生じずに完全に連結した場合、ES=IS=OS×GRt である。実際に、ジョークラッチ部材が所定量、例えば約20?40 rpmだけ同期が外れていても、許容シフトを達成できる。従って、特定の目標歯車比に連結するするためのシフト同期域は、IS=(OS×GRt )±20?40 rpmになる。
【0054】従来の全自動または半自動化変速装置では様々なアクチュエータの反応時間は、エンジン及び/または入力軸の回転速度の変化率と同様に、既知または所定値であった。これらのパラメータに基づいて、入力軸がほぼ同期速度に近づくと、予想入力軸回転速度(ISe )が出力軸速度に目標歯車比を掛けた積±所定の定数になった時にクラッチ歯が連結すると予想して、ECU31は様々なアクチュエータへコマンド出力信号を送って、選択された目標歯車比へのシフトを開始できるようにした。
【0055】従来形車両用機械式自動変速装置コントローラは一般的に満足できるもので、十分に同期したジョークラッチ連結を行うことができたが、完全には満足できるものではなく、特にダウンシフトでは、連結中の目標歯車比に対応したジョークラッチが、入力軸と駆動関係にあるジョークラッチ部材、すなわち主軸歯車側のクラッチ歯が、出力軸と駆動関係にあるジョークラッチ部材(すなわちジョークラッチカラー側のクラッチ歯)より低速で回転している時に連結する傾向があった。
【0056】その結果、入力軸が正確な同期速度よりわずかに低速である時にジョークラッチが連結することによって、車両がわずかに制動される。この制動は、入力軸が真の同期速度よりわずかに高速の回転速度である時にジョークラッチを連結することによって得られるわずかな「プッシュ動作」と比べると、運転者には心地よいものではない。
【0057】本発明の制御装置/方法によれば、図4のフローチャートに概略的に示されているように、入力軸が目標歯車比に連結するための正確な同期速度と同じか、それよりわずかに高速で回転している時、ECUがジョークラッチを連結させるか、させようとする。これによって、ジョークラッチの連結時に車両はわずかな『プッシュ感』を感じるか、感じる傾向にあり、これは運転者に非常に望ましい感覚であることがわかっている。
【0058】これは、IS=予想入力軸速度、0S=出力軸速度、GRt =目標歯車比における減速率の数値、K=正の定数(例えば40 rpm以上)である場合、同期域を
(OS×GRt )+K≧ISe >(OS×GRt )-K
から
(OS×GR)+K≧IS≧(OS×GRt )
に変更することによって達成される。」

4 本願発明1について

(1)発明の対比

本願発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「油圧部」は、本願発明1の「液圧伝動装置」に相当し、以下同様に、引用発明1の「機械部」は、油圧部の下流に連結された変速機であるという限りにおいて、本願発明1の「手動ギアボックス(4)」に、引用発明1の「油圧機械式変速機」は、本願発明1の「伝動装置」に、引用発明1の「入力ギヤ15と出力ギヤ17との噛合を切り換えることにより変速する方法」は、本願発明1の「ギア(12、13)を変換する方法」に、それぞれ相当する。
また、引用発明1の「切換弁9の開口面積Aを変更することにより現在噛み合っている入力ギヤ15bと出力ギヤ17bとの噛合トルクを最小化させ」ることは、具体的には、刊行物1の上記記載事項オの段落【0032】の工程(3a)の「制御器1は、変速信号S5を入力すると、図6(a)のt1に示すように、サーボ機構141へ容量可変信号S2を出力し、油圧モータ14の押しのけ容積を最小化すると共に、図6(b)のt1に示すように、切換弁9の比例ソレノイド9Fへ切換信号S3Fを出力して油圧モータ14への流量を制御することにより入力ギヤ151を現行速度に維持する。このようにすると、噛合ギヤ151、16との噛合トルクが小さくなり、ギヤ抜きし易くなる。」ことであり、油圧モータ14とその回転軸142に接続された入力ギヤ15の回転軸(符号なし)のトルクを最小化することであるから、本願発明1の「液圧モータ(9)および該液圧モータ(9)と連結した伝動装置入力軸の出力トルクを減少させる工程」に相当する。
更に、引用発明1の「この最小化後直ちに該噛合を外」すことは、本願発明1の「下流で連結される該手動ギアボックス(4)の係合していたギア(12、13)を外す工程」に相当する。
更に、引用発明1の「次いで、再び切換弁9の開口面積Aを変更することにより次に噛み合わせる入力ギヤ15aと出力ギヤ17aとにおける前者入力ギヤ15aの回転速度を後者出力ギヤ17aの回転速度に同期させ」ることは、具体的には、刊行物1の上記記載事項オの段落【0032】の工程(5a)の「その後、制御器1は、図6(b)のt2?t3に示すように、切換弁9へ切換信号S3Fを漸減しつつ出力し、図6(d)のt2?t3に示すように、油圧モータ14の回転速度を下げる。」ことであり、油圧モータ14とその回転軸142に接続された入力ギヤ15の回転軸(符号なし)の回転速度を調節するものであるから、本願発明1の「該液圧モータ(9)および該液圧モータ(9)と連結した伝動装置入力軸の回転速度が、ギア変換の方向に関係なく決定された相当回転速度よりも高くなるように、該液圧伝動装置の歯数比を調節する工程」とは、「該液圧モータ(9)および該液圧モータ(9)と連結した伝動装置入力軸の回転速度を調節する工程」である点で共通する。
更に、引用発明1の「この同期後直ちにこれらを噛み合わせる」ことは、本願発明1の「係合させるギア(13、12)を係合させる工程」に相当する。

よって、本願発明1と引用発明1とは、
[一致点1]
「液圧伝動装置と、その下流に連結された手動ギアボックスとを有する伝動装置において、ギアを変換する方法であって、
液圧モータおよび該液圧モータと連結した伝動装置入力軸の出力トルクを減少させる工程、
下流で連結される該手動ギアボックスの係合していたギアを外す工程、
該液圧モータおよび該液圧モータと連結した伝動装置入力軸の回転速度を調節する工程、および
係合させるギアを係合させる工程、を含む方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
伝動装置の構成に関し、本願発明1は、「該手動ギアボックス(4)内にあるシンクロナイザ」を有するのに対して、引用発明1は、機械部がコンスタント式変速機であるため、シンクロナイザを有しない点。

[相違点2]
係合させるギアを係合させる工程の前の工程に関し、本願発明1は、「係合させるギア(12、13)に相当する該液圧モータ(9)および該液圧モータ(9)と連結した伝動装置入力軸の回転速度を決定する工程」を含むとともに、「該液圧モータ(9)および該液圧モータ(9)と連結した伝動装置入力軸の回転速度が、ギア変換の方向に関係なく決定された相当回転速度よりも高くなるように、該液圧伝動装置の歯数比を調節する工程」を含むのに対して、引用発明1は、「次いで、再び切換弁9の開口面積Aを変更することにより次に噛み合わせる入力ギヤ15aと出力ギヤ17aとにおける前者入力ギヤ15aの回転速度を後者出力ギヤ17aの回転速度に同期させ」るという工程を含む点。

(2)当審の判断

ア 相違点1について

刊行物1の上記記載事項イの段落【0002】の「この噛合の切り換えはスライディング式やコンスタント式が採用されるている。シンクロ式は部品点数が多くかつ細かいため、低速度段で高トルクを伝達させるには、各部品を高強度化する必要があり、大形化かつコスト高となる。従ってシンクロ式は油圧機械式変速機に採用されないのが普通である。」との記載を参酌すれば、引用発明1においては、大形化かつコスト高となることを防止するために、上記相違点1のように、シンクロナイザを有しない機械部(コンスタント式変速機)を採用したものと解されるところ、刊行物1の上記記載事項キには、「シンクロ式には高速変速が可能な高級なものから、低速変速しかできない低級なものまで多種多様である。そこで本発明の機械部を低級なシンクロ式とすると、高級なシンクロ式を使うことなく、高速変速が可能となる。」との記載があり、当該記載は、引用発明1の機械部を低級なシンクロ式の機械部となし得ること、すなわち、低コストのものであれば、シンクロナイザを有する変速機となし得ることを示唆するものである。
また、入力ギヤと出力ギヤとの噛合を切り換える変速機の変速においては、シンクロナイザのような同期機構又は引用発明1のような同期制御の少なくともいずれか一つが必要とされるところ、同期機構と同期制御とを併用することも、上記優先権主張日前に周知の技術である(例えば、特開2003-335152号公報の段落【0025】、【0040】、特開2005-127336号公報の段落【0029】を参照)。
そうすると、刊行物1には、引用発明1の機械部(コンスタント式変速機)をシンクロナイザを有する変速機となし得ることが示唆されているし、また、同期機構と同期制御とを併用することが周知の技術であることを考慮すれば、引用発明1の機械部(コンスタント式変速機)に代えて、シンクロナイザを有する変速機を採用することによって、上記相違点1に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について

刊行物2の上記記載事項ク?セ(特に、上記記載事項サ)及び図面の記載を総合すると、刊行物2には、
「車両用全自動または半自動化機械式変速装置の制御方法であって、
アップシフト及びダウンシフトの両方に対して、入力軸が正確な同期速度(OS・GRt )と同じか、それよりわずかに高速である時にジョークラッチを連結させるために、
IS=入力軸速度、OS=出力軸速度、GRt =目標歯車比における減速率の数値、K=正の定数(約20ないし40rpm )である場合、同期域を(OS・GRt)+K≧IS≧(OS・GRt)-Kから(OS・GRt)+K≧IS>(OS・GRt)に変更する方法。」(審決注:上記記載事項サの段落【0010】に記載の各「GR」は誤記で、正しくは「GRt 」であると認められるので、上記のとおり認定する。)
の発明(以下、「刊行物2記載の発明1」という。)が記載されているものと認められる。
刊行物2の上記記載事項セの段落【0052】には、「主軸歯車の1つを連結するためのほぼ同期した状態を得るため、エンジンEへの燃料供給の制御及び/またはアップシフトブレーキBの操作によって入力軸16の速度を調整する。」との記載があり、当該「入力軸16の速度」は、本願発明1の「伝動装置入力軸の回転速度」に相当するので、刊行物2記載の発明1の「入力軸が正確な同期速度(OS・GRt )」となる回転速度を決定することは、本願発明1の「係合させるギア(12、13)に相当する伝動装置入力軸の回転速度を決定する工程」に相当する。
また、刊行物2記載の発明1の「アップシフト及びダウンシフトの両方に対して、入力軸が正確な同期速度(OS・GRt )よりわずかに高速である時にジョークラッチを連結させるために、同期域を(OS・GRt)+K≧IS≧(OS・GRt)-Kから(OS・GRt)+K≧IS>(OS・GRt)に変更する」ことは、本願発明1の「伝動装置入力軸の回転速度が、ギア変換の方向に関係なく決定された相当回転速度よりも高くなるように調節する工程」に相当する。
以上をまとめると、刊行物2記載の発明1は、上記相違点2に係る本願発明1の特定事項のうちの、
「係合させるギア(12、13)に相当する伝動装置入力軸の回転速度を決定する工程、及び、伝動装置入力軸の回転速度が、ギア変換の方向に関係なく決定された相当回転速度よりも高くなるように調節する工程」
に相当する工程を含むものである。

次に、引用発明1に刊行物2記載の発明1を適用することについて検討する。
引用発明1は、自走車両に使用される油圧機械式変速機の変速方法に関するものであり(刊行物1の上記記載事項ア)、また、刊行物2記載の発明1は、自動化した車両用機械式変速装置用の制御方法に関するものであり(刊行物2の上記記載事項ク)、両者は、車両用変速機の変速方法という共通の技術分野に属するものである。
そして、刊行物2に「入力軸が目標歯車比に連結するための正確な同期速度と同じか、それよりわずかに高速で回転している時、ECUがジョークラッチを連結させるか、させようとする。これによって、ジョークラッチの連結時に車両はわずかな『プッシュ感』を感じるか、感じる傾向にあり、これは運転者に非常に望ましい感覚であることがわかっている。」(上記記載事項セの段落【0057】)と記載されているように、変速時における「プッシュ感」は引用発明1の自走車両においても望ましいものであることは、当業者にとって自明の事項であるから、引用発明1に刊行物2記載の発明1を適用する動機付けは十分にあるものといえる。
また、刊行物2記載の発明1の機械式変速装置は、「ジョークラッチ60、62及び64は3位置クラッチ」(刊行物2の上記記載事項シ)であって、「クラッチ60、62または64のいずれか1つまたは複数が同期ジョークラッチ形式」(刊行物2の上記記載事項ス)であるとの記載から、シンクロナイザを有することを予定しているから、上記「ア 相違点1について」で説示した、引用発明1の機械部(コンスタント式変速機)に代えて、シンクロナイザを有する変速機を採用したものにおいて、刊行物2記載の発明1を適用することは、その構成上容易なことである。
更に、刊行物2記載の発明1は機械式変速装置を用いるものであるので、入力軸16の速度の調整は、刊行物2の上記記載事項セの段落【0052】に記載のとおり、「主軸歯車の1つを連結するためのほぼ同期した状態を得るため、エンジンEへの燃料供給の制御及び/またはアップシフトブレーキBの操作によって入力軸16の速度を調整する。」ものであるのに対し、引用発明1は油圧機械式変速機を用いるものであるので、上記刊行物2記載の発明1の入力軸16の速度を調整することは、引用発明1では、油圧モータ14とその回転軸142に接続された入力ギヤ15の回転軸(符号なし)の回転速度を調節することに相当する。
そうすると、引用発明1に刊行物2記載の発明1の「入力軸が正確な同期速度(OS・GRt )」となる回転速度を決定することを適用すると、引用発明1は、次に噛み合わせる入力ギヤ15aと出力ギヤ17aとが同期する油圧モータ14とその回転軸142に接続された入力ギヤ15aの回転軸(符号なし)の回転速度を決定する工程を含むものとなり、当該工程は、上記相違点2に係る本願発明1の「係合させるギア(12、13)に相当する該液圧モータ(9)および該液圧モータ(9)と連結した伝動装置入力軸の回転速度を決定する工程」に相当する工程である。
また同様に、引用発明1の「次いで、再び切換弁9の開口面積Aを変更することにより次に噛み合わせる入力ギヤ15aと出力ギヤ17aとにおける前者入力ギヤ15aの回転速度を後者出力ギヤ17aの回転速度に同期させ」るという工程に代えて、刊行物2記載の発明1の「アップシフト及びダウンシフトの両方に対して、入力軸が正確な同期速度(OS・GRt )よりわずかに高速である時にジョークラッチを連結させるために、同期域を(OS・GRt)+K≧IS≧(OS・GRt)-Kから(OS・GRt)+K≧IS>(OS・GRt)に変更する」ことを適用すると、油圧モータ14とその回転軸142に接続された入力ギヤ15aの回転軸(符号なし)の回転速度が、アップシフト及びダウンシフトの両方に対して、すなわち、ギヤ変換の方向に関係なく、同期回転速度よりも高くなるように調節する工程となり、当該工程は、上記相違点2に係る本願発明1の「該液圧モータ(9)および該液圧モータ(9)と連結した伝動装置入力軸の回転速度が、ギア変換の方向に関係なく決定された相当回転速度よりも高くなるように、該液圧伝動装置を調節する工程」に相当する工程である。
更に、本願明細書の段落【0029】の「駆動速度は、駆動モータ1の回転速度ならびに油圧ポンプ装置2および油圧モータ3からなる液圧伝動装置の指定の歯数比によって決定される。」との記載を参酌すれば、上記相違点2に係る本願発明1の該液圧伝動装置の「歯数比」を調節する工程とは、液圧モータ(9)および該液圧モータ(9)と連結した伝動装置入力軸の回転速度が、ギア変換の方向に関係なく決定された相当回転速度よりも高くなるように、油圧ポンプ装置2および油圧モータ装置3の少なくとも一つを調節することを意味するものと解されるところ、引用発明1の油圧部は、可変容量式油圧ポンプ7、開口面積Aが変化可能とされている切換弁9及び可変容量式油圧モータ14を有するものであるから、引用発明1においては、上記の油圧モータ14とその回転軸142に接続された入力ギヤ15aの回転軸(符号なし)の回転速度が、ギア変換の方向に関係なく相当回転速度よりも高くなるように調節する手段として、上記油圧ポンプ7、切換弁9及び油圧モータ14の少なくとも一つを調節することにより、引用発明1の油圧部の歯数比を調節する工程となし得るものである。
以上のとおり、引用発明1に刊行物2記載の発明1を適用する動機付けはあるものといえるし、また、引用発明1に刊行物2記載の発明1を適用すると、上記相違点2に係る本願発明1の各工程に相当する工程となし得るものであるから、引用発明1の機械部(コンスタント式変速機)に代えて、シンクロナイザを有する変速機を採用したものにおいて、刊行物2記載の発明1を適用することによって、上記相違点2に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 作用効果について

本願発明が奏する作用効果は、刊行物1及び2に記載された発明並びに上記周知の技術から当業者が予測できる程度のものである。

エ 審判請求人の主張について

審判請求人は、平成24年4月20日付けで提出した審判請求書の請求の理由において、刊行物1は、シンクロナイザの存在を明確に排除しており、当業者が刊行物1及び2を組み合わせることを妨げる事情となる旨を主張するとともに、刊行物2には、入力軸回転速度を能動的に調節するものについては記載されておらず、また、入力軸回転速度を液圧伝動装置によって調節ことについて記載されていない旨を主張している。
しかしながら、上記「ア 相違点1について」で説示したとおり、刊行物1の上記記載事項キには、「シンクロ式には高速変速が可能な高級なものから、低速変速しかできない低級なものまで多種多様である。そこで本発明の機械部を低級なシンクロ式とすると、高級なシンクロ式を使うことなく、高速変速が可能となる。」との記載があり、当該記載は、引用発明1の機械部を低級なシンクロ式の機械部となし得ること、すなわち、低コストのものであれば、シンクロナイザを有する変速機となし得ることを示唆するものであるし、また、同期機構と同期制御とを併用することも、上記優先権主張日前に周知の技術である。
また、上記「イ 相違点2について」で説示したとおり、刊行物2の上記記載事項セの段落【0052】には、「主軸歯車の1つを連結するためのほぼ同期した状態を得るため、エンジンEへの燃料供給の制御及び/またはアップシフトブレーキBの操作によって入力軸16の速度を調整する。」との記載があるし、また、引用発明1は油圧機械式変速機を用いるものであるので、上記刊行物2記載の発明1の入力軸16の速度を調整することは、引用発明1では、油圧モータ14とその回転軸142に接続された入力ギヤ15の回転軸(符号なし)の回転速度を調節することに相当する。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

5 本願発明9について

(1)発明の対比

本願発明9と引用発明9とを対比すると、引用発明9の「油圧ポンプ7」は、本願発明9の「油圧ポンプ装置(2)」に含まれる油圧ポンプ(6)に相当し、以下同様に、「油圧モータ14」は「液圧モータ(9)」に、「油圧部」は「液圧伝動装置」に、「油圧機械式変速機」は「伝動装置配置構造物」に、それぞれ相当する。
また、引用発明9の「該油圧部の下流に連結され、左側入力ギヤ151(審決注:引用発明1の「入力ギヤ15b」に相当する。上記記載事項オの段落【0031】を参照。以下同様に、引用発明1に相当する符号を括弧書きする。)と出力ギヤ17(17b)とは常噛ギヤ16を介して噛み合い、その噛合は低速走行段であり、他方右側入力ギヤ152(15a)と出力ギヤ17(17a)とは常噛ギヤ16を介して噛み合い、その噛合は高速走行段であるコンスタント式変速機の機械部」は、油圧部の下流に連結される、2段階の走行段を有する変速機であるという限りにおいて、本願発明2の「該液圧伝動装置の下流に連結され、少なくとも1個の第1伝動段階(12)および第2伝動段階(13)を有する手動ギアボックス(4)」に相当する。

よって、本願発明9と引用発明9とは、
[一致点2]
「油圧ポンプ装置および
液圧モータを含む液圧伝動装置と、
該液圧伝動装置の下流に連結され、少なくとも1個の第1伝動段階および第2伝動段階を有する手動ギアボックスとを有する伝動装置配置構造物。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点3]
本願発明9は、「該手動ギアボックス(4)がシンクロナイザ」を有するのに対して、引用発明9は、機械部がコンスタント式変速機であるため、シンクロナイザを有しない点。

[相違点4]
本願発明9は、「伝動段階(12、13)が係合する前に、該液圧モータ(9)および該液圧モータ(9)と連結した伝動装置入力軸の回転速度を、ギア変換の方向に関係なく、係合させる伝動段階(12、13)に比較して速い速度に設定し得る」のに対して、引用発明9は、「切換弁9の開口面積Aを変更することにより次に噛み合わせる入力ギヤ15aと出力ギヤ17aとにおける前者入力ギヤ15aの回転速度を後者出力ギヤ17aの回転速度に同期させる」点。

(2)当審の判断

ア 相違点3について

刊行物1の上記記載事項イの段落【0002】の「この噛合の切り換えはスライディング式やコンスタント式が採用されるている。シンクロ式は部品点数が多くかつ細かいため、低速度段で高トルクを伝達させるには、各部品を高強度化する必要があり、大形化かつコスト高となる。従ってシンクロ式は油圧機械式変速機に採用されないのが普通である。」との記載を参酌すれば、引用発明9においては、大形化かつコスト高となることを防止するために、上記相違点3のように、シンクロナイザを有しない機械部(コンスタント式変速機)を採用したものと解されるところ、刊行物1の上記記載事項キには、「シンクロ式には高速変速が可能な高級なものから、低速変速しかできない低級なものまで多種多様である。そこで本発明の機械部を低級なシンクロ式とすると、高級なシンクロ式を使うことなく、高速変速が可能となる。」との記載があり、当該記載は、引用発明9の機械部を低級なシンクロ式の機械部となし得ること、すなわち、低コストのものであれば、シンクロナイザを有する変速機となし得ることを示唆するものである。
また、入力ギヤと出力ギヤとの噛合を切り換える変速機の変速においては、シンクロナイザのような同期機構又は引用発明9のような同期制御の少なくともいずれか一つが必要とされるところ、同期機構と同期制御とを併用することも、上記優先権主張日前に周知の技術である(例えば、特開2003-335152号公報の段落【0025】、【0040】、特開2005-127336号公報の段落【0029】を参照)。
そうすると、刊行物1には、引用発明9の機械部(コンスタント式変速機)をシンクロナイザを有する変速機となし得ることが示唆されているし、また、同期機構と同期制御とを併用することが周知の技術であることを考慮すれば、引用発明9の機械部(コンスタント式変速機)に代えて、シンクロナイザを有する変速機を採用することによって、上記相違点3に係る本願発明9の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点4について

刊行物2の上記記載事項ク?セ(特に、上記記載事項サ)及び図面の記載を総合すると、刊行物2には、
「車両用全自動または半自動化機械式変速装置の制御装置であって、
アップシフト及びダウンシフトの両方に対して、入力軸が正確な同期速度(OS・GRt )と同じか、それよりわずかに高速である時にジョークラッチを連結させるために、
IS=入力軸速度、OS=出力軸速度、GRt =目標歯車比における減速率の数値、K=正の定数(約20ないし40rpm )である場合、同期域を(OS・GRt)+K≧IS≧(OS・GRt)-Kから(OS・GRt)+K≧IS>(OS・GRt)に変更する装置。」(審決注:上記記載事項(サ)の段落【0010】に記載の各「GR」は誤記で、正しくは「GRt 」であると認められるので、上記のとおり認定する。)
の発明(以下、「刊行物2記載の発明9」という。)が記載されているものと認められる。
刊行物2の上記記載事項セの段落【0052】には、「主軸歯車の1つを連結するためのほぼ同期した状態を得るため、エンジンEへの燃料供給の制御及び/またはアップシフトブレーキBの操作によって入力軸16の速度を調整する。」との記載があり、当該「入力軸16の速度」は、本願発明9の「伝動装置入力軸の回転速度」に相当するので、刊行物2記載の発明9の「アップシフト及びダウンシフトの両方に対して、入力軸が正確な同期速度(OS・GRt )よりわずかに高速である時にジョークラッチを連結させるために、同期域を(OS・GRt)+K≧IS≧(OS・GRt)-Kから(OS・GRt)+K≧IS>(OS・GRt)に変更する」ことは、本願発明9の「伝動段階(12、13)が係合する前に、伝動装置入力軸の回転速度を、ギア変換の方向に関係なく、係合させる伝動段階(12、13)に比較して速い速度に設定し得ること」に相当する。

次に、引用発明9に刊行物2記載の発明9を適用することについて検討する。
引用発明9は、自走車両に使用される油圧機械式変速機に関するものであり(刊行物1の上記記載事項ア)、また、刊行物2記載の発明9は、自動化した車両用機械式変速装置用の制御装置に関するものであり(刊行物2の上記記載事項ク)、両者は、車両用変速機という共通の技術分野に属するものである。
そして、刊行物2に「入力軸が目標歯車比に連結するための正確な同期速度と同じか、それよりわずかに高速で回転している時、ECUがジョークラッチを連結させるか、させようとする。これによって、ジョークラッチの連結時に車両はわずかな『プッシュ感』を感じるか、感じる傾向にあり、これは運転者に非常に望ましい感覚であることがわかっている。」(上記記載事項セの段落【0057】)と記載されているように、変速時における「プッシュ感」は引用発明9の自走車両においても望ましいものであることは、当業者にとって自明の事項であるから、引用発明9に刊行物2記載の発明9を適用する動機付けは十分にあるものといえる。
また、刊行物2記載の発明9の機械式変速装置は、「ジョークラッチ60、62及び64は3位置クラッチ」(刊行物2の上記記載事項シ)であって、「クラッチ60、62または64のいずれか1つまたは複数が同期ジョークラッチ形式」(刊行物2の上記記載事項ス)であるとの記載から、シンクロナイザを有することを予定しているから、上記「ア 相違点3について」で説示した、引用発明9のコンスタント式変速機の機械部に代えて、機械部がシンクロナイザを有する変速機としたものに、刊行物2記載の発明9を適用することは、その構成上容易なことである。
更に、刊行物2記載の発明9は機械式変速装置を用いるものであるので、入力軸16の速度の調整は、刊行物2の上記記載事項セの段落【0052】に記載のとおり、「主軸歯車の1つを連結するためのほぼ同期した状態を得るため、エンジンEへの燃料供給の制御及び/またはアップシフトブレーキBの操作によって入力軸16の速度を調整する。」ものであるのに対し、引用発明9は油圧機械式変速機を用いるものであるので、上記刊行物2記載の発明9の入力軸16の速度を調整することは、引用発明9では、油圧モータ14とその回転軸142に接続された入力ギヤ15の回転軸(符号なし)の回転速度を調節することに相当する。
そうすると、引用発明9の「切換弁9の開口面積Aを変更することにより次に噛み合わせる入力ギヤ15aと出力ギヤ17aとにおける前者入力ギヤ15aの回転速度を後者出力ギヤ17aの回転速度に同期させる」ことに代えて、刊行物2記載の発明9の「アップシフト及びダウンシフトの両方に対して、入力軸が正確な同期速度(OS・GRt )よりわずかに高速である時にジョークラッチを連結させるために、同期域を(OS・GRt)+K≧IS≧(OS・GRt)-Kから(OS・GRt)+K≧IS>(OS・GRt)に変更する」ことを適用すると、次に噛み合わせる入力ギヤ15aと出力ギヤ17aとが噛み合う前に、油圧モータ14とその回転軸142に接続された入力ギヤ15の回転軸(符号なし)の回転速度を、アップシフト及びダウンシフトの両方に対して、すなわち、ギヤ変換の方向に関係なく、噛み合わせる走行段に比較して速い速度に変更することとなり、このことは、上記相違点4に係る本願発明9の「伝動段階(12、13)が係合する前に、該液圧モータ(9)および該液圧モータ(9)と連結した伝動装置入力軸の回転速度を、ギア変換の方向に関係なく、係合させる伝動段階(12、13)に比較して速い速度に設定し得る」ことに相当する。
以上のとおり、引用発明9に刊行物2記載の発明9を適用する動機付けはあるものといえるし、また、引用発明9に刊行物2記載の発明9を適用すると、上記相違点4に係る本願発明9の構成となるものであるから、引用発明9の機械部(コンスタント式変速機)に代えて、シンクロナイザを有する変速機を採用したものにおいて、刊行物2記載の発明9を適用することによって、上記相違点4に係る本願発明9の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 作用効果について

本願発明が奏する作用効果は、刊行物1及び2に記載された発明並びに上記周知の技術から当業者が予測できる程度のものである。

6 むすび

したがって、本願発明1(請求項1に係る発明)及び本願発明9(請求項9に係る発明)は、刊行物1及び2に記載された発明並びに上記周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項2ないし8、10ないし15に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-10-24 
結審通知日 2012-10-30 
審決日 2012-11-12 
出願番号 特願2008-537010(P2008-537010)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増岡 亘  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 島田 信一
常盤 務
発明の名称 ギア変換のための方法および伝動装置配置構造物  
代理人 廣田 浩一  

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