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審決分類 |
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 A23L 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23L |
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管理番号 | 1272263 |
審判番号 | 不服2010-26435 |
総通号数 | 161 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-05-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-11-24 |
確定日 | 2013-04-04 |
事件の表示 | 特願2006-290103「焙焼済み油脂含有パン粉及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 5月 8日出願公開、特開2008-104400〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成18年10月25日の出願であって、平成22年5月26日付け拒絶理由通知に対し、同年7月26日付け意見書が提出され、同日付けで手続補正がなされた後、同年8月20日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで特許請求の範囲の全文について手続補正がなされたものである。 第2 平成22年11月24日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成22年11月24日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 補正後の本願発明 本件補正は、平成22年7月26日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?4を以下のとおり補正しようとするものである。 (ア)本件補正前の平成22年7月26日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?4 「【請求項1】 パン粉と、油脂とを含んでなり、 前記パン粉と、前記油脂との混合物を150℃以上300℃以下の湿式加熱で焙焼したものである、焙焼済み油脂含有パン粉。 【請求項2】 前記油脂におけるAOM値が30時間以上のものである、請求項1に記載の焙焼済み油脂含有パン粉。 【請求項3】 請求項1又は2に記載された焙焼済み油脂含有パン粉を用いてなる、食品。 【請求項4】 焙焼済み油脂含有パン粉の製造方法であって、 パン粉と、油脂とを用意し、 前記パン粉と、前記油脂とを混合し、 前記パン粉と、前記油脂とを含んでなる混合物を150℃以上300℃以下の湿式加熱で焙焼することを含んでなる、製造方法。」 (イ)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1?4(下線は、請求人が補正箇所を示したものである。) 「【請求項1】 焙焼済み油脂含有パン粉の製造方法であって、 パン粉と、油脂とを用意し、 前記パン粉と、前記油脂とを混合し、 前記パン粉と、前記油脂とを含んでなる混合物を、150℃以上300℃以下の湿式加熱で焙焼することを含んでなる、製造方法。 【請求項2】 前記油脂の融点が10℃以上50℃以下のものであり、又は、前記油脂のAOM値が30時間以上のものである、請求項1に記載の製造方法。 【請求項3】 前記油脂が、前記焙焼済み油脂含有パン粉の全量に対して、1重量%以上30重量%以下の添加量で添加されてなる、請求項1又は2に記載の製造方法。 【請求項4】 前記油脂が、パーム油、パーム油(融点分離品)又はパーム核油である、請求項1?3の何れか一項に記載の製造方法。」 上記補正は、補正前の特許請求の範囲請求項1ないし3が「焙焼済み油脂含有パン粉」及び「食品」との物の発明であったのに対し、これらを削除して補正前の請求項4に記載された「製造方法」の発明を補正後の請求項1にするとともに、補正後の請求項1を引用して「前記油脂の融点が10℃以上50℃以下のものであり、又は、前記油脂のAOM値が30時間以上のものである」ことに限定した請求項2を新たに追加し、さらに、補正後の請求項1又は請求項2を引用して「前記油脂が、前記焙焼済み油脂含有パン粉の全量に対して、1重量%以上30重量%以下の添加量で添加されてなる」ことに限定した請求項3を新たに追加し、さらにこれに加え、補正後の請求項1?3の何れか一項を引用して「前記油脂が、パーム油、パーム油(融点分離品)又はパーム核油である」ことに限定した請求項4を新たに追加したものである。 そうすると、本件補正は、「製造方法」との方法の発明に係る請求項の数が増加したものであって、また、n項引用形式請求項をn-1以下の請求項に変更したものでもないので、特許請求の範囲の減縮を目的としたものではない。 また、明りょうでない記載の釈明でもないし、誤記の訂正でもない。 したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成22年11月24日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので、本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成22年7月26日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項4に係る発明は以下のとおりのものである。 「【請求項4】 焙焼済み油脂含有パン粉の製造方法であって、 パン粉と、油脂とを用意し、 前記パン粉と、前記油脂とを混合し、 前記パン粉と、前記油脂とを含んでなる混合物を150℃以上300℃以下の湿式加熱で焙焼することを含んでなる、製造方法。」 (以下、「本願発明」という。) 2 引用刊行物の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用例2として引用された本願出願前に頒布された刊行物1には以下の事項がそれぞれ記載されている。なお、下線は当審が付した。 (1)刊行物1:特開平11-127808号公報の記載事項 (1a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 油脂、澱粉系粉粒物および香味成分を含む原料を、混合および焙煎して加工した澱粉系粉粒物を製造する方法において、香味成分を含む原料を油脂に溶解ないし分散させた状態で澱粉系粉粒物と混合および焙煎することを特徴とする加工した澱粉系粉粒物の製造方法。 【請求項2】 油脂が固体脂であることを特徴とする請求項1記載の製造方法。 【請求項3】 油脂が10℃で85以上、20℃で85以上、30℃で80以上、40℃で60以上のSFC値を有するものであることを特徴とする請求項2記載の製造方法。 【請求項4】 油脂100重量部に対して澱粉系粉粒物150?400重量部、香味成分を含む原料15?40重量部を使用することを特徴とする請求項1記載の製造方法。 【請求項5】 香味成分を含む原料を油脂に溶解ないし分散させた状態を香味油および/またはオレオレジンを用いることで達成することを特徴とする請求項1記載の製造方法。 【請求項6】 香味油がハーブ抽出油、オレオレジンがハーブオレオレジンであることを特徴とする請求項5記載の製造方法。 【請求項7】 焙煎を110?135℃で2?30分間行うことを特徴とする請求項1記載の製造方法。 【請求項8】 加工した澱粉系粉粒物がオーブンで加熱調理して食するための食品素材として用いられるものであることを特徴とする請求項1記載の製造方法。 【請求項9】 請求項1記載の方法で製造された加工した澱粉系粉粒物と調味ソースとを組み合わせてなることを特徴とするオーブン加熱調理用の食品素材。」 (1b)「【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、加工したパン粉等の澱粉系粉粒物、特にオーブンで加熱調理して食するための食品素材として用いられる場合に適した澱粉系粉粒物の製造方法と、この澱粉系粉粒物を利用したオーブン加熱調理用の食品素材に関する。」 (1c)「【0002】 【従来の技術】香草パン粉焼き、香味焼き、アンモリカート(伊語)等の名前で呼ばれる、獣鳥肉等や魚に調味ソースを上掛けし、さらにパン粉を掛け、これをオーブンで焼き上げた料理が知られている。一般に、この料理は、レストラン等のメニューとして、あるいは家庭料理として提供されるが、この種の料理を簡便に調理するための加工食品は、未だ知られていない。 【0003】本発明者らは、上記加工食品を提供するため、調味ソースとパン粉の組み合わせからなり、獣鳥肉、魚介類、野菜等の生の食材に上掛けしてオーブンで加熱調理して食するための食品素材をコンセプトとして開発を進める過程で、特にパン粉に注目し、これについて研究を重ねた。その結果、通常のパン粉を使用する場合と比べて、予め油脂とパン粉を焙煎して得た加工パン粉を用いる方が、オーブン調理した食品に、より香ばしい香味を付与できることが分かった。この種のパン粉は、例えば、特開昭63-198941号公報、特公昭56-29510号公報に開示されている。 【0004】すなわち、前者の実施例3には、パーム硬化油1部を溶解し、それにパン粉1部を浸漬させた後、乾燥(120℃、25分)させた加工パン粉が記載されている。また、第2頁左上欄には、上記の加工パン粉を含む澱粉粉末に、必要に応じて粉末調味料、油脂含有粉末(油脂に加工澱粉を吸着させたもの)を加えてもよいことが記載されている。後者には、特定粒度のパン粉に、固体脂を加熱、溶融して加え、これに調味料、香辛料等を混合、解砕して成るから揚げ粉ミックスが記載されている。 【0005】しかし、上記従来の技術に開示されているような、油脂とパン粉に単に粉末の香辛料等を混合して加熱した加工パン粉を、前記のオーブン料理に用いた場合には、次のような問題が生じることが分かった。すなわち、加熱処理の際に、香味成分がパン粉に均一に行き渡らず、パン粉が均一に調味されず、さらに、加熱時の香味成分の揮散が著しい。したがって、このようなパン粉を用いてオーブン調理した料理では、パン粉による香味付与効果を十分に達成することはできない。香味成分がパン粉に均一に行き渡って、均一に味付けされたパン粉の製造法が特開平3-259053号公報に開示されている。これは、パン粉に対して特定の比率で調味料、香辛料および着色料を油脂に溶解ないし分散させ、これをパン粉に添加混合する味付けパン粉の製造法に関する。しかし、上記の味付けパン粉の製造法による味付けパン粉は、通常のフライ食品を衣づけするために用いられるもので、パン粉自体は製造過程に加熱されるものではなく、実施例では全て香味成分を含む油脂をパン粉に噴霧(添加混合)している。」 (1d)「【0006】 【発明が解決しようとする課題】本発明は、均一に調味され、オーブン調理した際に十分に香ばしい香味を発現する加工パン粉等の加工した澱粉系粉粒物の製造方法を提供することを目的とする。同時に、上記の澱粉系粉粒物を用いたオーブンで加熱調理して食するための食品素材を提供することを目的とする。」 (1e)「【0007】 【課題を解決するための手段】本発明者らは、焙煎して加工パン粉を得る場合に、前記特開平3-259053号公報に開示されているように、香味成分を油脂に溶解ないし分散させて用いた結果、香味成分がパン粉に均一に行き渡ると共に、焙煎時の加熱による香味成分の揮散が顕著に抑えられ、焙煎により非常に香味の豊かな加工パン粉が得られることが判明した。そして、この加工パン粉をオーブンで加熱調理した場合には、極めて香ばしい香味が得られ、香味成分を含む油脂の使用と焙煎との組み合わせによる相乗効果が著しいことを知り、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、油脂、澱粉系粉粒物および香味成分を含む原料を、混合および焙煎して加工した澱粉系粉粒物を製造する方法において、香味成分を含む原料を油脂に溶解ないし分散させた状態で澱粉系粉粒物と混合および焙煎することを特徴とする加工した澱粉系粉粒物の製造方法である。また、本発明は、上記方法で製造された加工した澱粉系粉粒物と調味ソースとを組み合わせてなることを特徴とするオーブン加熱調理用の食品素材である。 【0008】本発明において、油脂としては、動植物油等の種類を問わず使用することができ、ラード、ヘット、骨油、大豆油、パーム油、菜種油、綿実油、オリーブ油、ヤシ油、バター、マーガリン、ショートニングを挙げることができる。これらの中でも、加工した澱粉系粉粒物の結着を防ぎ、粉粒体としての流動性を確保し、調理時の取り扱い性を向上させる上から、常温固体脂の使用が望ましい。また、上記性能を好適に達成する上で、SFC値(固体脂含有量)が10℃で85以上、20℃で85以上、30℃で80以上、40℃で60以上の固体脂を用いることがさらに好ましい。 【0009】本発明において、澱粉系粉粒物とは、澱粉を主成分として含む粉粒体の全てを指さす。具体的には、粉体として、小麦粉、米粉、とうもろこし粉等の各種穀粉、各種澱粉、これらの加工品、粒体として、各種穀粒、澱粉粒、これらの加工品およびパン粉が挙げられる。これらの中でも、特にオーブン調理に適した加工粉粒物を得る上から、パン粉の使用が最も好ましい。澱粉系粉粒物は、油脂100重量部(以下、部と略称する)に対して150?400部、好ましくは200?300部を用いる。上記の油脂と粉粒物の使用割合により、粉粒物を焙煎した場合に香ばしい香味を発現し、加工した粉粒物の流動性を確保し、オーブン調理により香ばしい香味とクリスプな食感を活かすことができる。なお、相対的に油脂の量が上記割合より多くなると、加工した粉粒物から油脂が溶融分離して、粉粒物の流動性が損なわれる場合があり、一方、少なくなると、焙煎時に粉粒物が焦げやすく、均一に焙煎できず香味が十分に発現しない場合がある。 【0010】香味成分を含む原料としては、各種調味料、香辛料、肉エキス、魚介類エキス等のエキス類を使用することができる。このうち、香辛料としては、ハーブ類(特にタイム、バジル、ローレル、タラゴン、パセリ、ローズマリー、セージ、マジョラム、オレガノの使用が好ましい)、オニオン、ジンジャー、ガーリック、ペッパー、マスタードが挙げられる。特に、オーブン調理した加工粉粒物を洗練された香味に仕上げる上から、ハーブ類の使用が望ましい。これらの原料は、粉体、粒体(ホール等)、液体(オレオレジン等)などのいずれの形態のものを用いてもよい。これらの原料を、上記形態を問わず油脂100部に対して0.5?40部、好ましくは2?11部用いることにより、なお、オレオレジンについては上記数値の100分の1の範囲で用いることにより、加工した粉粒物に好ましい香味を付与することができる。その他の原料としては、着色料、ゲル化剤等を任意に使用することができる。 【0011】本発明においては、香味成分を含む原料を、油脂に溶解ないし分散させた状態で澱粉系粉粒物と混合および焙煎する。まず、香味原料の全部あるいは一部を、油脂に溶解ないし分散させる。すなわち、油系の香味油、オレオレジン等では、これら油脂中に溶解させればよく、この場合は、加工した粉粒物を均一に調味でき、優れた焙煎香味を付与できるので最もよい。ハーブ抽出油、ハーブオレオレジンを用いるのが香味上最も望ましい。なお、基材となる油脂に直接香味成分を抽出して用いてもよいことは言うまでもない。一方、香味原料が粉体、粒体、水系エキス等の場合には、油脂中に適宜分散させればよく、水系エキス等は乳化剤を用いてエマルジョンとして分散させることが、均一性を向上させる上から望ましい。なお、香味原料の一部は、上記の油脂に含まれた状態を経ずに直接原料に混合して焙煎することもできるが、本発明の所望の作用を得る上から、少なくとも香味原料の20重量%以上は、油脂に含まれた状態で用いる必要がある。着色料等の他の原料を油脂に含まれた状態で用いることもできる。 【0012】次に、上記の香味成分を含む原料を油脂に溶解ないし分散させた状態のものと澱粉系粉粒物、さらに必要に応じて他の原料とを混合および焙煎する。油脂あるいは香味原料の一部を単独で用いる場合には、これらも合わせて混合および焙煎する。混合および焙煎は、適宜の手段により行うことができるが、例えば、パドル攪拌翼を内装したドラム型焙煎釜、攪拌翼の付いた横軸焙煎釜や平型焙煎釜を用いて行うのがよい。焙煎は原料の品温110?135℃、好ましくは120?125℃で2?30分間、好ましくは4?10分間行う。焙煎条件が、この上限を超えると、原料に焦げがでやすく、一方、下限に満たないと、焙煎香味を十分に付与することができない場合がある。上記の条件範囲によって加工した粉粒物に、優れた焙煎香味を付与し、同時に、オーブン調理後に香ばしい香味とクリスプな食感を付与することができる。焙煎した粉粒物は、適宜常温にまで冷却する。 【0013】以上の方法に基づいて加工した澱粉系粉粒物は、各種の用途に用いることができるが、特にオーブン(ガスオーブン、オーブンレンジをいう)で加熱調理して食するための食品素材として用いるのが望ましく、例えば、これとトマト系、ホワイト系等の調味ソースとを組み合わせてなるオーブンで加熱調理して食するための食品素材として供することができる。この素材は、鶏肉や魚等の生の食材に調味ソースを上掛けし、さらに粉粒物を掛け、これをオーブンで焼き上げて簡便に調理することができる。なお、上記の場合に、調理の過程で澱粉系粉粒物が調味ソースより吸水して、粉粒物の香ばしい特有の香味と、クリスプな特有の食感が損なわれ、あるいは粉粒物がソース中に沈み込む場合がある。これらの問題を回避する上から、調味ソースを次のように構成するとよい。 【0014】すなわち、(1)増粘剤を加えて粘度を上げる。増粘剤は、加熱安定性の高い粘性を与えるキサンタンガム、グアガム、タマリンドガム等の使用が好ましく、ソース中に0.1?1.0%を含むのがよい。(2)野菜・果実等の繊維質を加える。この場合に、ソースの固形分が3?38%とするのがよい。(3)ソースの水分を60?95%とするのがよい。(4)ソースの粘度を200?300000cp(B型粘度計による25℃での測定値)とするのがよい。以上(1)?(4)の1以上を採用することで、澱粉系粉粒物が油脂を含むこととの組み合わせにより、できるだけ粉粒物をソースに沈ませないようにして、粉粒物を香ばしい香味とクリスプな食感を有する状態に仕上げることができる。以上の条件範囲の下限を下回ると、この作用が十分に得られず、一方、上限を超えると、ソース粘性や食味に影響を与える傾向となりやすい。また、加工した粉粒物は、フライ食品の素材あるいは電子レンジ用食品の素材としても用いることができ、冷凍食品としてもよい。」 (1f)「【0021】 【発明の効果】本発明によれば、均一に調味され、かつ、特有の焙煎香味を有する加工したパン粉等の澱粉系粉粒物を得ることが可能であり、この粉粒物は、オーブン調理等により、非常に香ばしい特有の香味を呈する高品質の食品素材となる。また、この澱粉系粉粒物と調味ソースとを組み合わせてなるオーブンで加熱調理して食するための食品素材によれば、鶏肉や魚等の生の食材に調味ソースを上掛けし、さらに粉粒物を掛け、これをオーブンで焼き上げて簡便に調理することができ、これにより、当該粉粒物が香ばしい特有の香味と、クリスプな特有の食感のものとなって、新しいメニューの提供が可能となる。」 3 対比・判断 刊行物1の上記記載事項(特に上記(1a))から、刊行物1には、 「油脂、澱粉系粉粒物および香味成分を含む原料を、混合および焙煎して加工した澱粉系粉粒物を製造する方法において、香味成分を含む原料を油脂に溶解ないし分散させた状態で澱粉系粉粒物と混合および焙煎する加工した澱粉系粉粒物の製造方法」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。 そこで、本願発明と刊行物1発明とを比較する。 (ア)刊行物1発明の「澱粉系粉粒物」について、刊行物1の記載を参照すると、澱粉系粉粒物とは、澱粉を主成分として含む粉粒体の全てを指し、特にオーブン調理に適した加工粉粒物を得る上から、パン粉が最も好ましい旨、記載されている(1e)。 そうすると、刊行物1発明の「澱粉系粉粒物」としての「パン粉」は、本願発明の「パン粉」に相当する。 (イ)刊行物1発明の「香味成分を含む原料」について、刊行物1の記載を参照すると、香味成分を含む原料は、各種調味料、香辛料、肉エキス、魚介類エキス等のエキス類を使用することができる旨、記載されている(1e)。 一方、本願の明細書の記載を参照すると、段落【0015】に、焙焼済み油脂含有パン粉に、好ましくは、任意成分として調整剤を添加することができるとし、調整剤の具体例として、調味料(砂糖、塩、醤油等)、香辛料(胡椒、乾燥ニンニクパウダー)、着色料、発色剤、香料、乳化剤、保存料、酸化防止剤、結着剤等が挙げられており、また、段落【0017】には、パン粉と、油脂と、必要に応じて調整剤を用意し、これらを一緒にして攪拌して均一混合された混合物を焙焼する旨、記載されている。そうすると、本願発明は、各種調味料や香辛料などを調整剤として添加することを含むものであり、本願発明は、これを油脂に添加することを排除するものではない。 (ウ)「焙焼」とは、丸善食品総合辞典(発行所 丸善株式会社,平成10年3月25日発行,831頁)によると、「高温の空気のなかで食品を熱加工する操作のなかで,おもに製品に香りや焼き色を付加する操作の総称.たとえば,醸造原料として用いる小麦の焙炒^(※),コーヒー豆やカカオ豆の焙煎^(※)(ばいせん),せんべいなどの焼き上げのほか,パンや菓子類の焼成^(※)(ベーキング)を含む場合がある.これに用いる加熱装置は,焙焼装置またはオーブンの範ちゅうにはいるが,対象とする材料に特有のものが用いられている.」(下線は、当審が付した。)とのことであって、「焙煎」や「焙炒」と表現される操作を含む操作のことである。 そして、刊行物1発明の「焙煎」について、刊行物1の記載を参照すると、焙煎することによって、焙煎香味を付与し、焦げない程度に焼き色をつけるものといえる(1e)ので、刊行物1発明の「焙煎」は、焙焼に含まれる操作といえる。 そうすると、刊行物1発明の「焙煎」は、本願発明の「焙焼」に相当する。 (エ)上記(ア)?(ウ)からすると、刊行物1発明の「油脂、澱粉系粉粒物および香味成分を含む原料を、混合および焙煎して加工した澱粉系粉粒物」は、油脂を含むパン粉を焙煎したものであるので、本願発明の「焙焼済み油脂含有パン粉」に相当する。 (オ)上記(ア)?(ウ)からすると、刊行物1発明の「香味成分を含む原料を油脂に溶解ないし分散させた状態で澱粉系粉粒物と混合および焙煎する」ことと、本願発明の「パン粉と、油脂とを用意し、前記パン粉と、前記油脂とを混合し、前記パン粉と、前記油脂とを含んでなる混合物を150℃以上300℃以下の湿式加熱で焙焼する」こととは、「パン粉と、油脂とを用意し、前記パン粉と、前記油脂とを混合して焙焼する」点で共通する。 したがって、両者の間には、以下の一致点及び相違点がある。 (一致点) 焙焼済み油脂含有パン粉の製造方法であって、 パン粉と、油脂とを用意し、 前記パン粉と、前記油脂とを混合して焙焼することを含んでなる、製造方法。 (相違点1) パン粉と、油脂とを混合して焙焼する際に、本願発明では「前記パン粉と、前記油脂とを混合し、前記パン粉と、前記油脂とを含んでなる混合物」を焙焼するのに対し、刊行物1発明では、油脂とパン粉の混合物としてから焙煎することについて特に規定していない点。 (相違点2) 焙焼について、本願発明では、「150℃以上300℃以下の湿式加熱で焙焼する」のに対し、刊行物1発明では、焙煎の加熱方法や温度について特に規定していない点。 そこで、上記各相違点について検討する。 (相違点1について) 刊行物1発明の「香味成分を含む原料を油脂に溶解ないし分散させた状態で澱粉系粉粒物と混合および焙煎する」ことについて、刊行物1の記載を参照すると、焙煎する前に、香味原料を油脂に溶解ないし分散させることにより、香味成分がパン粉に均一に行き渡ると共に、焙煎時の加熱による香味成分の揮散が顕著に抑えられ、焙煎により非常に香味の豊かな加工パン粉を得るもの(1e)であり、香味成分がパン粉に均一に行き渡ることを目的としたものであるので、当然に、香味成分を含んだ油脂がパン粉に均一に混合することを目的としたものである。そうすると、香味成分を油脂に溶解ないし分散させることによって、香味成分と油脂とを混合した後、香味成分を含んだ油脂とパン粉を混合および焙煎する前に、必要に応じて、香味成分を含んだ油脂とパン粉を混合して混合物とすることも、香味成分を含んだパン粉と油脂を均一に混ぜ合わせることを考えて、当業者が適宜になし得たことである。 また、本願発明は、本願明細書の段落【0017】に「本発明の好ましい態様によれば、先の攪拌を行いながら焙焼することが好ましい。」と記載されているとおり、パン粉と油脂を混合して混合物とした後も、撹拌して混合しながら焙焼を行うことを含んだものである。 (相違点2について) 本願発明の「150℃以上300℃以下の湿式加熱で焙焼すること」について、本願の明細書を参照すると、段落【0017】に以下の通りに記載されている。 「【0017】 製造方法 本発明による製造方法は、先ず、パン粉と、油脂と、必要に応じて調整剤を用意し、これらを一緒にして攪拌する。攪拌は、混合機又は攪拌機を使用して行うことができる。次に、均一混合された混合物を150℃以上300℃以下、好ましくは下限値が160℃以上であり上限値が280℃以下の温度で、0.5分以上15分以下、好ましくは下限値が1分以上であり、上限値が13分以下で焙焼する。焙焼は乾式加熱オーブン、湿式加熱オーブン等加熱装置を用いて行うことができ、本発明の好ましい態様によれば、先の攪拌を行いながら焙焼することが好ましい。焙焼時間は混合される混合物の量により適宜定めることができるが、所望の色合い、サクサク感になるように定めてよい。」 上記の記載によると、パン粉と油脂と必要に応じて調整剤を用意し、これらを一緒にして撹拌して均一混合された混合物を焙焼すること、焙焼は乾式加熱オーブン、湿式加熱オーブン等の加熱装置を用いて行うことができ、好ましくは、先の撹拌を行いながら焙焼することが好ましいこと、焙焼時間は混合される混合物の量により適宜定めることができるが、所望の色合い、サクサク感になるように定めてよいこと、が記載されている。 ところで、本願明細書に記載された実施例では、焙焼処理の温度や処理時間については記載されているものの、焙焼処理をどのような加熱装置で行ったのか、乾式加熱であるのか、湿式加熱であるのかなど、焙焼処理の手段については具体的に記載されていない。 そこで、平成23年2月10日受付の上申書とともに提出された参考資料の平成23年1月20日付けの実験成績証明書によると、本願明細書の段落【0027】の【表2】や段落【0029】中の【表4】や段落【0030】中の【表5】に「実施例1」として評価されたものは、「湿式加熱」により焙焼処理したものである旨、釈明されており、実験成績証明書中の表2、表4、表5に「(湿式加熱による焙焼済み油脂含有パン粉)」の評価結果として示された各数値は、上記の本願明細書中の各表に「実施例1」の評価結果として示された各数値と一致するものであるから、本願明細書中で「実施例1」として記載された焙焼済み油脂含有パン粉は、「湿式加熱」により焙焼処理したものであり、具体的には、過熱蒸気調理装置により処理したもの(参考資料第1頁11行?12行)であることがわかる。 一方、刊行物1発明の「香味成分を含む原料を油脂に溶解ないし分散させた状態で澱粉系粉粒物と混合および焙煎する」ことについて、刊行物1の記載を参照すると、混合および焙煎は適宜の手段により行うことができ、例えば、パドル攪拌翼を内装したドラム型焙煎釜、攪拌翼の付いた横軸焙煎釜や平型焙煎釜を用いて行うことが例示され、焙煎条件については原料の品温110?135℃、好ましくは120?125℃で2?30分間、好ましくは4?10分間で行うと記載されている(1e)。そして、この焙煎条件については、焙煎条件がこの上限を超えると、原料に焦げがでやすく、一方、下限に満たないと、焙煎香味を十分に付与することができない場合があり、上記の条件範囲によって加工した粉粒物に、優れた焙煎香味を付与し、同時に、オーブン調理後に香ばしい香味とクリスプな食感を付与することができると記載されている(1e)。 そして、下記文献A?Cに記載されているように、撹拌しながら焙煎する手段として、過熱蒸気を用いて焙煎することは本願出願前の周知の技術であり、また、パン粉を加熱する手段として、過熱蒸気により加熱することも、下記文献D?Eに記載されているように、本願出願前によく知られた技術である。 ・文献A:特開2002-209566号公報(【0001】,【0006】)ナッツ類等を撹拌しながら、過熱蒸気により焙煎する旨、記載されている。 ・文献B:特開2002-191338号公報(【0001】?【0003】,【0005】?【0006】,【0024】)豆類などの粒状食品を回転しながら過熱蒸気により焙煎する旨、記載されている。 ・文献C:特開2003-189835号公報(請求項3,【0001】,【0006】,【0009】?【0011】)コーヒー豆等の粒状材料、麦、栗等の穀類、茶葉等を焙煎する方法であって、過熱蒸気で回転しながら焙煎する旨、記載されている。 ・文献D:特公平5-53号公報(第4欄4行?10行,第6欄11行?21行)過熱水蒸気でパン粉の加熱処理を行う旨、記載されている。 ・文献E:特開昭60-241859号公報(第2頁右上欄1行?6行,第5頁右上欄4行?13行,第6頁右下欄1行?13行)過熱水蒸気でパン粉の加熱処理を行う旨、記載されている。 そうすると、刊行物1発明の「混合および焙煎する」手段として、過熱蒸気による湿式加熱を採用することは、過熱蒸気による加熱方法が焙煎の手段としてよく知られ、また、パン粉の加熱処理方法としてもよく用いられていることから、当業者が容易に想到し得たことであり、また、過熱蒸気による湿式加熱を採用したことに応じて、焙煎温度について、焙煎時間を加味しつつ、焙煎香味を十分に付与することができ、また、原料が焦げることない、適切な値に設定し、150℃以上300℃以下程度の値とすることも、当業者が適宜になし得たことである。 (発明の効果について) 刊行物1には、予め油脂とパン粉を焙煎して得た加工パン粉を用いるとオーブン調理した食品により香ばしい香味を付与できること(1c,1e,1f)、さらに、クリスプな特有の食感が得られること(1f)が記載されている。 また、過熱蒸気を用いて食品の加熱調理することにより、表面に適度な焦げ目がつくこと、酸化が防止されること、減脂効果が得られることなどは、下記文献F?Iに記載のとおりに本願出願前によく知られた事項である。 ・文献F:保坂秀明”常圧加熱水蒸気の食品への利用”、食品工業、株式会社光琳、1999年8月30日号、第42巻、第16号、46頁?55頁 以下が記載されている。(なお、下線は、当審が付した。) 「e) 焼成のまとめ 常圧過熱水蒸気利用の食品加工のうち、最近最も興味がもたれ、商業ベースに乗っているのが焼成である。従来のガスや電気の加熱に比べて、顕著なる利点が多くあるので、次に列記する。(以下、括弧()内の数字は原文では○の中に数字。) (1)凝縮伝熱に遠赤外線伝熱が加わって、きわめて速く伝熱するため、操作時間が短縮できる。 (2)遠赤外線加熱が加わるため、柔らかい加熱となるが、適当な焦げ目をつけることができる。また、温度制御を精密にできる。 (3)水蒸気雰囲気中の加熱のため、酸素が存在せず、酸化をしない。特に油脂の酸化が避けられる。 (4)表面に凝集水が付着するため、表面硬化を生ぜず、表面の柔らかい製品となる。 (5)ガスや電熱加熱に比較して、水分蒸発が抑制されるため、歩留まりが上昇する。 (6)凍結食材の解凍、焼成が一挙にでき、ドリップの流出がない。 商業ベースでは、凍結もののたらばがに、さば、みりん、さばしょう油、八幡巻などで、チルドもののたこの唐揚げ、たらばがに、鳥のもものたれ付きなどが焼成されている。試験されたもので良品と評価されたものは、凍結ものでは、さば、開きあじ、たらばがになどで、チルドものでは、獣肉、とり肉、真鯛、さば、生いか、たらばがに、たこの唐揚げ、水産ねり製品、さつまいも、パンなどである。 遠赤外線の放射であることから、チキン、ハンバーグ、焼豚、うなぎ、アーモンド、ピーナッツ、コーヒーなどの焙焼、竹輪、米菓、パン、ケーキなどの焼成に利用できると考えられる。」(第48頁左欄最下行?第49頁左欄4行) ・文献G:特開2006-102066号公報(【0014】)過熱蒸気を用いることにより、表面に適度な焦げ目をつける効果、食品成分の酸化防止効果、減塩効果、減脂効果、更に油なしアゲ効果が得られる旨、記載されている。 ・文献H:特開8-173059号公報(【0031】)パン粉をつけた食品素材を、低圧高温過熱蒸気の雰囲気下でフライングすると、植物油の消費が少なくてすみ、省油が図られ、食品での過剰油被膜による油脂の酸化による品質劣化を防止させることができ、製品表面のギタギタ感を無くし、サクサク感を長期間維持できる旨、記載されている。 ・文献I:特開2006-149207号公報(【0009】,【0011】,【0013】,【0015】,【0022】)パン粉などをまぶした揚げ物素材を過熱水蒸気を噴射して直接加熱した揚げ物類食品は、従来の食用油で揚げて作られた揚げ物と食感や見た目(外観)、味等を略同等にすることができる旨、記載されている。 そうすると、油脂とパン粉を混合し、適切な温度において焼成することにより、油揚げしたものと同様の風味、香ばしさを有し、色むらが無く均一に揚げた色を呈し、サクサクとした食感を有し、油脂の酸化が安定的に抑制され、及び低カロリーである焙焼済み油脂含有パン粉が得られるとの、本願明細書の段落【0006】などに記載された本願発明の効果は、刊行物1に記載された事項及び過熱蒸気を用いた食品の加熱調理における周知の事項から、当業者が予測し得た程度のものである。 したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 4 むすび 以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-01-28 |
結審通知日 | 2013-02-05 |
審決日 | 2013-02-18 |
出願番号 | 特願2006-290103(P2006-290103) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A23L)
P 1 8・ 57- Z (A23L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 濱田 光浩 |
特許庁審判長 |
秋月 美紀子 |
特許庁審判官 |
関 美祝 菅野 智子 |
発明の名称 | 焙焼済み油脂含有パン粉及びその製造方法 |
代理人 | 横田 修孝 |
代理人 | 伊藤 武泰 |
代理人 | 堅田 健史 |
代理人 | 中村 行孝 |
代理人 | 横田 修孝 |
代理人 | 勝沼 宏仁 |
代理人 | 堅田 健史 |
代理人 | 勝沼 宏仁 |
代理人 | 伊藤 武泰 |
代理人 | 中村 行孝 |