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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C09K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09K
管理番号 1272274
審判番号 不服2011-17703  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-08-16 
確定日 2013-04-04 
事件の表示 特願2007-523261「塵埃抑制処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 1月 4日国際公開、WO2007/000812〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は、日本国特許庁を受理官庁とし、平成17年6月29日を国際出願日とする国際特許出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成19年12月17日 国内書面(特許法第184条の5第1項)
平成20年 5月20日 出願審査請求
平成22年12月24日 早期審査事情説明書
同日 手続補正書
平成23年 1月20日付け 拒絶理由通知
平成23年 3月28日 意見書
平成23年 5月 9日付け 拒絶査定
平成23年 8月16日 本件審判請求
同日 手続補正書
平成23年 8月24日付け 前置審査移管
平成24年 1月11日付け 前置報告書
平成24年 1月13日付け 前置審査解除
平成24年 8月28日付け 審尋
平成24年11月 2日 回答書

第2 平成23年 8月16日付け手続補正の却下の決定

<決定の結論>
平成23年 8月16日付けの手続補正を却下する。

<決定の理由>
I.補正の内容
上記平成23年8月16日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲につき下記のとおり補正することを含むものである。

1.本件補正前(平成22年12月24日付け手続補正後のもの)
「【請求項1】
含フッ素乳化剤の含有率が50ppm以下であるポリテトラフルオロエチレンの水性分散液からなり、該ポリテトラフルオロエチレンの比重が2.27以下であって、平均粒径が0.1?0.5μmである塵埃抑制処理剤組成物を発塵性物質と混合し、該混合物に約20?200℃の温度で圧縮-剪断作用を施すことにより、ポリテトラフルオロエチレンをフィブリル化して発塵性物質の塵埃を抑制する、発塵性物質の塵埃抑制処理方法。
【請求項2】
前記発塵性物質が、発塵性粉末状物質である請求項1に記載の発塵性物質の塵埃抑制処理方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の塵埃抑制処理方法によって、塵埃が抑制された発塵性物質の塵埃抑制処理物。」
(以下、項番に従い「旧請求項1」ないし「旧請求項3」という。)

2.本件補正後
「【請求項1】
含フッ素乳化剤の含有率が50ppm以下であるポリテトラフルオロエチレンの水性分散液からなり、該ポリテトラフルオロエチレンの比重が2.22以下であって、平均粒径が0.1?0.5μmである塵埃抑制処理剤組成物を発塵性物質と混合し、該混合物に約20?200℃の温度で圧縮-剪断作用を施すことにより、ポリテトラフルオロエチレンをフィブリル化して発塵性物質の塵埃を抑制する、発塵性物質の塵埃抑制処理方法。
【請求項2】
前記発塵性物質が、発塵性粉末状物質である請求項1に記載の発塵性物質の塵埃抑制処理方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の塵埃抑制処理方法によって、塵埃が抑制された発塵性物質の塵埃抑制処理物。」
(以下、項番に従い「新請求項1」ないし「新請求項3」といい、それらを併せて「新請求項」ということがある。)

II.補正事項に係る検討

1.補正の目的の適否
本件補正は、上記I.のとおり、特許請求の範囲に係る補正事項を含むので、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項各号に掲げる事項を目的とするものか否かにつき検討する。
本件補正では、旧請求項1における「ポリテトラフルオロエチレンの比重が2.27以下であって」につき、新請求項1では、「ポリテトラフルオロエチレンの比重が2.22以下であって」と、ポリテトラフルオロエチレン(以下「PTFE」と略す。)の比重の上限を低く限定するものである。
また、本件補正の前後において、旧請求項1と新請求項1との間で上記の事項以外に補正された事項はなく、さらに、旧請求項2及び3につき、引用関係はそのままに新請求項2及び3とされている。
してみると、新請求項1ないし3に係る各発明は、旧請求項1ないし3に係る各発明との間で、解決しようとする課題及び産業上の利用分野をそれぞれ一にするものであることが明らかであるから、旧請求項1ないし3から新請求項1ないし3とする本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものといえる。

2.独立特許要件
上記1.のとおり、上記特許請求の範囲に係る手続補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、新請求項1に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるか否かにつき検討する。(なお、当該検討にあたり、本件補正により補正された本願明細書を「本願補正明細書」という。)

(1)新請求項に係る発明
新請求項1に係る発明は、新請求項1に記載された事項で特定されるとおりのものであり、再掲すると以下のとおりの記載事項により特定されるものである。
「含フッ素乳化剤の含有率が50ppm以下であるポリテトラフルオロエチレンの水性分散液からなり、該ポリテトラフルオロエチレンの比重が2.22以下であって、平均粒径が0.1?0.5μmである塵埃抑制処理剤組成物を発塵性物質と混合し、該混合物に約20?200℃の温度で圧縮-剪断作用を施すことにより、ポリテトラフルオロエチレンをフィブリル化して発塵性物質の塵埃を抑制する、発塵性物質の塵埃抑制処理方法。」
(以下、「本件補正発明」という。)

(2)検討
しかるに、本件補正発明については、下記の理由により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

理由:本件補正発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物:
1.特公昭52-32877号公報(原査定における「引用文献1」)
2.米国特許第2559752号明細書(原査定における「引用文献2」)
3.特表2002-532583号公報(原査定における「引用文献3」)
4.特表2005-501956号公報(原査定における「引用文献4」)
(上記各刊行物を「引用例1」ないし「引用例4」という。)

ア.各引用例の記載事項
上記各引用例には、以下の事項が記載されている。

(ア)引用例1
なお、この引用例の記載事項の摘示にあたっては、現時点で機械上使用できない俗字(「ろ過」の「ろ」の字)が存在するので、その文字については正字「濾」に置き換えて以下摘示する。

(ア-1)
「1 ポリテトラフルオルエチレン樹脂以外の通常高度に塵埃を出す粉末状物質に有効量の粒状フイブリル化性ポリテトラフルオルエチレン樹脂を混合し、そして前記混合物に、ポリテトラフルオルエチレン樹脂のフイブリル化が起り得る約20?200℃の温度で、所望の塵埃抑制度が達成されるまで圧縮-せん断作用を施すことからなる、ポリテトラフルオルエチレン樹脂以外の粉末状物質の塵埃抑制法。」
(第1欄第22行?第30行)

(ア-2)
「粉末の塵埃の処理は、極めて古くからの課題となつていた。・・(中略)・・従つて、何等かの方法で塵埃を結合させ且つそれをある程度制御するための多くの試みがなされた。
例えば、塵埃の多い場所の湿度を高く維持するように空気様に水を霧状に含ませて塵埃をしずめるための試みがなされた。また、この問題を少しでも良くするために石炭塵埃の周囲に油が用いられた。このような方法は、顔料やその他の粉末をそれらが乾燥しているという条件によつて処理する場合には不適当である。
このように、乾燥した粒子状の塵埃を出しやすい粉末を定常的に処理する場合には、空気濾過器、コツトレル沈殿器等の如き収集手段に塵埃を含む空気を吸引するのに真空方式が使用される。この点において、空気濾過器及び他の塵埃収集手段を被覆して塵埃をより効率的に捕捉し且つ塵埃分離手段の操作を比較的長期間にわたつて可能にするのに好適な組成物に対して多くの努力が払われてきたことは注目する価値がある。」
(第1欄第32行?第2欄第26行)

(ア-3)
「本発明は顔料の如き微紛状物質の処理間における塵埃形成を防止するための方法に関するもので、かくして前記のような複雑で益々手のこんだ装置は排除される。」
(第2欄第27行?第30行)

(ア-4)
「本発明は、かさ高で且つ微粉状の粒子状粉末の塵埃化を防止することに関しており、本発明に従つて処理すると、かゝる粉末は塵埃化を全く示さないで自由に取扱い且つ比較的薄い層に拡げることができる。高度な塵埃化を示す物質としては、325タイラーメツシユ以下の細かく粉砕されたシリカ、顔料、小麦粉及びかなりの量の微細分を含有する他の物質が挙げられる。高度に塵埃を出す傾向のあるミクロン以下の他の粉末は、タルク、粘土、粒子状電着状態、何等かの方法で形成された金属酸化物、特にカーボンブラツク及び各種の活性炭等である。」
(第2欄第37行?第3欄第11行)

(ア-5)
「ある種のPTFEは、粒子状形態の物質を処理することによつてフイブリル化し得ることが周知である。フイブリルを形成するのに必要な処理の程度は、フイブリル化性(fibrillatable)PTFE並びに重合体の製造法に依存して変動する。かくして、比較的高濃度のPTFEを処理して繊維特性を発現させると、最終結果として、元の物質とは実質上異なる物理的性質を有する製品が得られる。これらの使用を除いて、特定のPTFEをフイブリル化して感受性にすることは有害である。」
(第3欄第23行?第32行)

(ア-6)
「こゝに本発明において、微粉状乾燥″粉末″又はコロイド状懸濁液のどちらかの形においてしかも全固形分を基にして約1重量%以下の少量におけるフイブリン化性PTFEで通常高度に塵埃を出す粉末を処理することを包含する簡単で本質上乾式の混合法は、粉末の最初の粒度範囲、その化学的性質又は見掛け上の物理的性質を変えないで粉末の塵埃を効率的に除去するということが見出された。処理は、塵埃が十分に除去されるのを視覚的に確認されるやでしかし粉末の自由流動性に悪影響を及ぼすことなしにせん断及び緻密化作用を同時に行うか又は混練作用を行うことによつて実施される。用語「処理」を本明細書で用いるときには、それは、高度に塵埃を出す物質の最初の粒度を必ずしも変化させない素練り作用を意味する。
また、本発明において、少量のフイブリル化性PTFEを通常高度に塵埃を出す粉末及び少量の液体と混合して湿潤塊体又はペーストを形成しそしてこれらを処理するとフイブリルが発現され得ることが分つた。この処理作用は、乾燥時の粉末をその粉末の外観に目立つた変化を与えないで効率的に本質上塵埃が立たなくする。更に、PTFEのコロイド状粉散液体又はその分散凝固体は、全固形分を基にして0.02?約1重量%の範囲内の量で使用することができる。
また、本発明において、通常高度に塵埃を出す粉末をその粉末が可溶性又は不溶性であり得る液体処理助剤中に懸濁された微粉状フイブリル化性PTFEの分散体と混合し、次いでこの液体混合物に噴霧乾燥操作を施すと、元の高度に塵埃を出す粉末とは視覚的に区別できない乾燥した自由流動性の粉末が生成されしかもこのものは比較的塵埃を起こさないことによつて特徴づけられることが分つた。他の具体例では、通常高度に塵埃を出す粉末の塵埃化は、比較的多量の液体処理助剤の存在下に粉末PTFEのコロイド状分散液又はその分散液の凝固体を混合することによつて抑制できることが分つた。同じ通常高度に塵埃を出す粉末を本質上乾燥した塊状体、湿潤塊状体又はペーストで処理するときに用いられる量と比較して比較的多量のどちらかの形のPTFEが使用される。というのは、樹脂の唯一の限定されたフイブリル化は高度に流体のスラリ中で混合間に起こるからである。混合した流体スラリを濾過すると、処理された濾塊が得られる。乾燥した濾塊は元の物質とは視覚的に区別できない微粉状粉末に粉砕されるが、但し塵埃化は処理した粉末では実質上抑制される。」
(第3欄第41行?第5欄第1行)

(ア-7)
「本発明の各具体例では、フイブリル化性形態のPTFEのみが使用される。特に、最も普通の形態のPTFEは、本発明の方法では効果のない非フイブリル化性の粒状成形用粉末である。同様に、他のポリハロカーボン及びポリオレフインの如き他の炭素質重合体、シリコーン及びそれらの変性物質は、通常高度に塵埃を出す粉末の匹敵する非塵埃化性をその物理的性質を本質上変えないで生ぜしめるには役に立たない。現在フイブリル化性形態のPTFEは、2つの市場で入手できる種類の樹脂に制限されている。第一の種類は、寸法が約0.05?約0.5ミクロンで約0.2μの平均直径を有する粒子を有する重合体約60重量%に濃縮されたコロイド水性分散体である。第二の種類(これは、″微粉末″とも称される)は、分散体の凝固によつて得られる。この第二の種類は、450μの平均直径を有し、且つ直径が0.05?0.5μの最初の粒子から作られたアグロメレートから成る。これらの微粉末の比表面積は10?12m^(2)/gの程度で、そして粉末の平均見掛け密度は475g/lである。これらの種類の樹脂及びこれらの製造法は、米国特許第2559752号に十分に記載されている。」
(第5欄第2行?第24行)

(ア-8)
「本発明者等が塵埃化問題の抑制におけるこれらの種類のPTFEの影響を理解するところでは、本質的な因子は、粉末の本質的な物理的特性を維持するように粉末全体に分配されて最初の通常高度に塵埃を出す粒子をアグロメレート中にゆるく保持するところのサブミクロ的な繊維のランダムな網目を形成するためにその場所でPTFEがフイブリル化することである。斯様なサブミクロ的な繊維は、処理した通常高度に塵埃を出す粉末では極端な拡大下に明らかである。典型的な例では、これなの繊維は、全固形分を基にして約0.02?約1重量%のフイブリル化性PTFEを混合して処理すると、約1ミクロン以下から約44ミクロン以下の範囲内の粒度を有する無機顔料で発現される。
通常高度に塵埃を出す物質の特性、特にその寸法範囲及び粒子形状によつて、0.02重量%ほどの低い量のPTFEを用いてその物質を処理すると、該物質の塵埃化特性が実質上打消されることが分つた。また、それよりも低い濃度でさえも塵埃化の目立つた軽減を生ぜしめることができることも分つた。乾燥混合物に実質上その塵埃化特性を打消すのに必要な量より以上のエネルギーを付与するように該混合物を連続的に処理すると、通常高度に塵埃を出す粉末の塵埃化特性が基生する。この塵埃化常習性が起こると、元の通常高度に塵埃を出す物質から本質上視覚的に区別できない乾燥した非塵埃化性粉末を再び得るように追加的量のPTFE微粉を混合物に配合して追加的な処理をすることができる。塵埃を除去するのに必要とされる量以上の追加的な処理は常習性を再びもたらすことができるが、これは十分な処理作用を施した追加的量のPTFE微粉末で非塵埃性に再びされ得る。この態様で、全固形分を基にして約20重量%までの範囲内の量のPTFEを乾燥した微粉状粉末に配合することができる。明らかなことであるけれども、元の物質の最初の粒度及び形状によつて、PTFE漸増的な添加は粉末の元の物理的外観を徐々におゝうであろう。経済上の理由から、重合体を非塵埃化性にするような最少量のPTFEがその使用量である。
すぐ上に記載した″乾式″法では、典型的には″微粉末″は顔料中に均一に分散されるのが好ましく、次いでこれは適度な締固め及び適度な加熱で静かなせん断作用を受ける。望ましい素練又は混練作用は、混合物を小さい実験室的規模の容器でこするインペラを備えた低速度電気式混合機によつて提供される。大規模な製造規模では、適当な処理作用を提供する代表的な装置は、パン屋の練り粉の混練に使用される如きシグマブレード型混合機、又は二重円錐式混合機、或いは低度の粉砕でせん断及び温和な締固めを提供するように隙間を調節したシンプソン型のすり石である。混合物が湿性若しくはペーストである場合にも、又は使用されるコイイド状水性分散体の量が少なくて混合物が本質上乾燥している場合にも、同じ種類の装置を用いることができる。
処理は、好ましくは20℃以上の適度な加熱条件下に実施されるのが好ましい。というのは、この温度以上ではフイブリル化性PTFEの繊維の形成が生じることが分つたからである。更に好ましくは、最適なフイブリル化は、約100℃の温度で速やく得られる。PTFEか又は通常高度に塵埃を出す物質のどちらか低い方の分解温度によつてのみ限定される前記より高い温度が使用できるが、しかし経済上の理由のために、約20?約200℃の範囲内の処理温度が一般に満足であることが分つた。乾式法では、粉末の塵埃が十分に除去されたことを視覚的に認められるように十分なエネルギーを塊状体に伝達するのに十分な期間混合物を処理すると、顔料の脱塵埃処理が完了する。混合物の焼結は、必要でもまた望ましくもない。処理をした顔料は未処理物質から静止状態で視覚的に区別することができず、そして顔料の最初の粒度は変化されない。しかしながら、特徴的には、それは自由流動性であるにもかゝわらず本質上非塵埃化性である。
先に述べたように、フイブリル化性PTFEの使用量は厳密なものではない。特定の物質の塵埃化の抑制を予定の程度で生ぜしめるのに必要なPTFEの量の正確な選択は処理の函数であつて、これはそれらを処理するエネルギー費用に対して平衡された物質の費用の経適性によつて決定される。通常高度に塵埃を出す粉末における望ましいレベルの塵埃抑制は比較的少量のPTFEで達成でき、そしてそれに応じて多量であるがしかし塵埃の常習性に必要とされるよりも低い程度の処理で達成できる。別法として、同じ程度の塵埃抑制を行なうのに比較的多量のPTFEを用いることができるがしかし比較的低い処理を必要とする。かくして、実質上0.02重量%レベル以下の低濃度では、物質を長期間連続的に処理してフイブリル化を生ぜしめるのは不経済であるかもしれないが、それはミクロン以下の又は微細な粉末の通常高度に塵埃を出す特性を効果的に抑制することができることは明らかであろう。他方、0.02%よりも比較的多量のPTFEの添加は混合物の十分な処理では凝集した柔軟な処理を形成する可能性があるので、かゝる多量の添加は回避されるべきである。
上記の方法(便宜上、″乾式″法と呼する)における微粉状PTFEの有効性は特に驚くべきことである。というのは、微粉状PTFEは直径が約0.05μ?約0.5μの寸法範囲の最初の粒子から構成されそしてそれ自身が通常高度に塵埃を出す物質であるからである。市場で入手できる形態では、それは450μの平均直径のアグロメレートを形成するように処理され、そしてそれはこの形態でのみ高塵埃化性粉末ではない。」
(第5欄第25行?第8欄第1行)

(ア-9)
「例 16?18
以下の例には、樹脂を顔料中に均一に分散させるワーリングブレンダー中で顔料を少量のフイブリル化性PTFE樹脂を乾式混合した後に、その混合物にパグミン又はホバートミキサーで或いは手工的に約50?約150℃の範囲内の温度で処理作用を施すことから成る方法によつて本質上無塵埃化にされる幾つかの通常高度に塵埃を出す顔料が挙げられている。パグミルの使用にもかゝわらず、物質の小さい初期粒度(325メツシユ以下)の故に、粉砕は全く行われなかつた。処理は、塵埃化が静まつたときに中止された。


上記の各例において微粉″テフロン6″の代わりに等重量固形含量のテフロン30のコロイド水性分散体を用いると、本質上乾燥した混合物が得られ、そしてこれは同様に処理すると匹敵する無塵埃化の組成物を生成した。」
(第15欄第1行?第23行)

(ア-10)
「例 24
上記のワーリングブレンダーに、弗化ほう酸力リウムKBF_(4)(微粉状、90%が200メツシユを通過)200g、及び0.5?5ミクロンの初期粒度を有する重合体の水性コロイド分散体(60%固形分)の形態のPTFE0.33gを入れた。次いで、物質を30秒間混合した。僅かに湿つた混合物を広口の8オンスジヤーに入れ、そしてそれを炉において1 1/2時間にわたつて95℃の温度に加熱した。炉から熱い混合物を取出し、そしてそれをびん中において40rpmで2分間回転させた。この処理後、得られた物質は本質上塵埃がたたなかつた。」
(第17欄第34行?第18欄第12行)

(ア-11)
「以上本願発明を詳細に説明したが、実施の態様を要約すると次の通りである。
・・(中略)・・
(2)ポリテトラフルオルエチレン樹脂以外の通常高度に塵埃を出す固体粒子状物質の塵埃を抑制するに当り、約100タイラーメツシユ以下の寸法範囲を有する前記物質に全固形分を基にして約0.02?約20重量%のフイブリル化性ポリテトラフルオルエチレン樹脂を微粉末の形態で又はコロイド状分散液として混合して本質上乾燥した混合物を形成し、しかる後に前記混合物に、20℃以上の温度であるがしかしどちらか低い方の分解温度よりも低い温度において、該物質の最初の粒度を目立つて変化させないで該混合物の視覚的に認められる塵埃が本質上打消されるまで処理作用を施すことから成る塵埃の抑制法。」

(イ)引用例2
なお、この引用例に係る記載事項については、当審の訳文により摘示する。

(イ-1)
「本発明は、ポリマーの水性コロイド分散体に関し、特に水性媒体中における不飽和有機化合物の重合プロセスに関する。」
(第1欄第1行?第4行)

(イ-2)
「本発明の課題は、優れた安定性を有するポリマーの水性コロイド分散体及びそのポリマー分散体を製造するためのモノマーとしてのエチレン性不飽和有機化合物の水性媒体中における重合方法の提供にある。さらに、従来の方法に比べて重合速度が速く、極めて細かいポリマー微粒子の安定なコロイド分散体を製造できる優れた重合方法も提供する。さらにまた、特にテトラフルオロエチレン及びクロロトリフルオロエチレンのようなハロエチレン類が重合した安定性に優れた水性コロイド分散体も提供する。特に、15%以上のポリマー含量のテトラフルオロエチレン及びクロロトリフルオロエチレンのポリマー分散体を経済的に製造することができる方法も提供する。」
(第1欄第32行?第49行)

(イ-3)
「以上の課題は、水溶性の重合開始剤及びイオン性(例えばカチオン性又はアニオン性)の親水性基並びに6個以上の脂肪族炭素を有しており、その炭素のうち親水性基に最も近い炭素が2個以上のフッ素原子を有し、末端の炭素が水素又はフッ素からなる群からなる一種の原子を有するフルオロアルキル基からなる疎水性基を有する水溶性のイオン型分散剤の存在下、水性媒体中における重合可能なモノマーとしてのエチレン性不飽和有機化合物の重合を行う本発明により解決される。」
(第1欄第52行?第2欄第12行)

(イ-4)
「本発明における分散剤としては、一般式B(CF_(2))_(n)(CH_(2))_(m)A、Bは水素又はフッ素、nは少なくとも5以上の整数、mは0又は1、m+nの合計は少なくとも6以上及びAはイオン性(カチオン性又はアニオン性)の親水性基である、で表されるものである。
・・(中略)・・
本発明で有用な分散剤としては、一定の化合物群のものが特に有用であり、それらは以下に示すものである。
A.式B(CF_(2))_(n)COOHで表されるポリフルオロアルカン酸類・・(中略)・・及びそれらのアルカリ金属、アンモニウム、アミン又は第4級アンモニウムの塩類。
・・(中略)・・
B.ポリフルオロアルカノールのリン酸エステル類。
・・(中略)・・
C.ポリフルオロアルカノールの硫酸エステル類。
・・(中略)・・
D.ポリフルオロアルキルホスホン酸及びその塩類。
・・(中略)・・
E.ポリフルオロアルキルアミン塩類。
・・(後略)」
(第3欄第47行?第6欄第74行)

(ウ)引用例3

(ウ-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 フッ素含有乳化剤を実質的に含まない、フルオロポリマー水性分散液。
・・(後略)」

(ウ-2)
「【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は、フッ素含有乳化剤を実質的に含まないフルオロポリマーの水性分散液、このような分散液の製造方法及びその使用に関する。“実質的に含まない”という表現は、100ppm未満、好ましくは50ppm未満、特に好ましくは25ppm未満、特に5ppm未満の含有率であると理解されたい。」

(ウ-3)
「【0004】
水性乳化重合法では、第一には、溶融物から加工できないホモポリマー、例えばPTEFが、第二には“改質された”ポリマー、例えば約99モル%を超える割合のテトラフルオロエチレン(TFE)と、生成物が“溶融物から加工できない”というその性質を保持する程少量の一種またはそれ以上のコモノマーとを有するポリマーが、第三には、溶融物から加工できる低分子量の“微粉末”分散液が、第四には、コポリマー、例えばフッ素化された熱可塑性材料またはフルオロエラストマーが得られる。フッ素化された熱可塑性材料には、主にTFEと、この材料が溶融物から加工できる程の量の、例えば1?50モル%、好ましくは1?10モル%の量の一種またはそれ以上のコモノマーとからなるコポリマーが包含される。通常のフルオロモノマーは、TFE の他には、ビニリデンフルオライド(VDF)、他のフッ素化されたオレフィン、例えばクロロトリフルオロエチレン(CTFE)、特に2?8個の炭素原子を有する過フッ素化されたオレフィン、例えばヘキサフルオロプロペン(HFP)、フッ素化されたエーテル、特に1?6個の炭素原子を有するアルキル部分を持つ過フッ素化されたビニルアルキルエーテル、例えばパーフルオロ(n-プロピルビニル)エーテル(PPVE)である。フッ素化されていないオレフィン、例えばエチレン及びプロピレンなどもコモノマーとして考慮される。・・(中略)・・
【0006】
これらの全ての乳化重合方法において、連鎖移動反応によって重合を妨げることのない乳化剤が必要である。この乳化剤は、非テロゲン性乳化剤と称される(米国特許第2559752号)。主として、アンモニウム塩及び/またはアルカリ塩の形のパーフルオロオクタン酸(PFOS、例えばn-PFOS、CAS No.335-67-1)が使用される。しかし、以下にPFOSという略語を使用する場合には、これは他のフッ素化された乳化剤を除くことを意図したものではない。この乳化剤の含有率は、ポリマーを基準として、一般的に0.02?1重量%の範囲である。
・・(中略)・・
【0008】
米国特許第2559752号には、更に別のフッ素化された乳化剤が記載されているが、揮発性が低いために広くは使用されていない。この化学剤は、高い加工温度において最終生成物の変色を招く場合がある。
【0009】
PFOSの最も重要な利点の一つは、その高い揮発性である。PFOSは、非常に効果的な乳化剤であり、そして重合におけるその反応不活性の故に実際上不可欠のものである。しかし、PFOSは、生分解性ではなく、最近では環境害の物質と分類されている。
・・(中略)・・
【0013】
次いでこれらの分散液を使用する際、PFOSが、例えば装置の清浄には避けられない廃水と一緒に環境に、及びエーロゾルと一緒に大気中に放出される恐れがある。塗料の製造においては、PFOS及びそのアンモニウム塩が高揮発性であるため、後者の放出がより一層顕著となる。加えて、PFOS及びその塩は、通常使用される350?450℃の焼結温度において、脱カルボキシル化によってフッ素化炭化水素に分解し、これが高い気候温暖化潜在力(“温室効果”)を示す。」

(エ)引用例4

(エ-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
10?400nmの平均粒度を有する水中に分散されたフルオロポリマー粒子を含むフルオロポリマー分散体であって、該分散体は、1000g/モル未満の分子量を有するフッ素化界面活性剤を含まないか、または1000g/モル未満の分子量を有する該フッ素化界面活性剤を、該分散体の固形分の全重量を基準として0.025重量%以下の量で含み、該分散体は、ノニオン界面活性剤をさらに含むフルオロポリマー分散体において、
該分散体が少なくとも1000g/モルの分子量を有するフッ素化アニオン界面活性剤、非フッ素化アニオン界面活性剤、およびこれらの混合物から選択されたアニオン界面活性剤を含むことを特徴とするフルオロポリマー分散体。」

(エ-2)
「【0001】
本発明は、低分子量フッ素化界面活性剤を含まないか、またはそれを少量含む水性フルオロポリマー分散体に関する。特に、本発明は、固形分含有量が高く、かつ安定剤としてノニオン界面活性剤を含むこれらのフルオロポリマー分散体の粘度を低減することに関する。
【背景技術】
【0002】
フルオロポリマー、すなわちフッ素化骨格を有するポリマーは、長く知られており、また耐熱性、耐薬品性、耐候性、UV安定性等・・・などの数種の望ましい特性から、種々の用途で用いられている。種々のフルオロポリマーは、例えば、「最近のフルオロポリマー」(ジョン シェール編、ウィレイサイエンス社、1997年)[“Modern Fluoropolymers”,edited by John Scheirs,Wiley Science 1997]に開示される。フルオロポリマーは、一部分がフッ素化された(一般に少なくとも40重量%がフッ素化された)骨格、または完全にフッ素化された骨格を有するであろう。フルオロポリマーの特定の例には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン(TFE)およびヘキサフルオロプロピレン(HFP)のコポリマー(FEPポリマー)、パーフルオロアルコキシコポリマー(PFA)、エチレン-テトラフルオロエチレン(ETFE)コポリマー、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよびフッ化ビニリデン(THV)のターポリマー、ならびにポリフッ化ビニリデンポリマー(PVDF)が含まれる。
・・(中略)・・
【0004】
フルオロポリマーの水性分散体を調製するのにしばしば用いられる方法には、一種以上のフッ素化モノマーの水性乳化重合が含まれる。これには、通常、濃縮工程が続いて、乳化重合後に得られた原分散体の固形分含有量が高められる。フッ素化モノマーの水性乳化重合には、一般に、フッ素化界面活性剤の使用が含まれる。しばしば用いられるフッ素化界面活性剤には、パーフルオロオクタン酸およびその塩、特にアンモニウムパーフルオロオクタン酸が含まれる。用いられるさらなるフッ素化界面活性剤には、パーフルオロポリエーテル界面活性剤が含まれる。例えば、EP1059342号、EP712882号、EP752432号、EP816397号、米国特許第6,025,307号、米国特許第6,103,843号、および米国特許第6,126,849号に開示される。用いられたさらにさらなる界面活性剤は、米国特許第5,229,480号、米国特許第5,763,552号、米国特許第5,688,884号、米国特許第5,700,859号、米国特許第5,804,650号、米国特許第5,895,799号、国際公開第00/22002号、および国際公開第00/71590号に開示される。
【0005】
これらのフッ素化界面活性剤の殆どは、低分子量(すなわち1000g/モル未満の分子量)を有する。最近、これらの低分子量フッ素化化合物は、環境問題をもたらした。したがって、フッ素化低分子量界面活性剤を、水性分散体から完全に排除するか、または少なくとも、水性分散体中のその量を最小化する手段がとられた。例えば、国際公開第96/24622号および国際公開第97/17381号には、フルオロポリマーを調製するための水性乳化重合が開示される。それにより、重合は、フッ素化界面活性剤を添加することなく行なわれる。米国特許第4,369,266号には、一方、フッ素化界面活性剤の一部分が限外ろ過により除去される方法が開示される。後者の場合には、分散体中のフルオロポリマー固形分の量は、充分に増大される。すなわち、分散体は、濃縮され、一方フッ素化界面活性剤が除去される。国際公開第00/35971号には、さらに、フッ素化界面活性剤の量が、フルオロポリマー分散をアニオン交換体と接触させることによって低減される方法が開示される。」

イ.当審の判断

(ア)引用例1に記載された発明
上記引用例1には、特許請求の範囲として「ポリテトラフルオルエチレン樹脂以外の通常高度に塵埃を出す粉末状物質に有効量の粒状フイブリル化性ポリテトラフルオルエチレン樹脂を混合し、そして前記混合物に、ポリテトラフルオルエチレン樹脂のフイブリル化が起り得る約20?200℃の温度で、所望の塵埃抑制度が達成されるまで圧縮-せん断作用を施すことからなる、ポリテトラフルオルエチレン樹脂以外の粉末状物質の塵埃抑制法」が記載され(摘示(ア-1)参照)、さらにその実施態様として「ポリテトラフルオルエチレン樹脂以外の通常高度に塵埃を出す固体粒子状物質の塵埃を抑制するに当り、約100タイラーメツシユ以下の寸法範囲を有する前記物質に全固形分を基にして約0.02?約20重量%のフイブリル化性ポリテトラフルオルエチレン樹脂を微粉末の形態で又はコロイド状分散液として混合して本質上乾燥した混合物を形成し、しかる後に前記混合物に、20℃以上の温度であるがしかしどちらか低い方の分解温度よりも低い温度において、該物質の最初の粒度を目立つて変化させないで該混合物の視覚的に認められる塵埃が本質上打消されるまで処理作用を施すことから成る塵埃の抑制法」が記載されており(摘示(ア-11)参照)、それらの「ポリテトラフルオルエチレン樹脂以外の通常高度な塵埃化を示す物質」として、「細かく粉砕されたシリカ、顔料、小麦粉及びかなりの量の微細分を含有する他の物質」又は「高度に塵埃を出す傾向のあるミクロン以下の」「タルク、粘土、粒子状電着状態、何等かの方法で形成された金属酸化物、特にカーボンブラツク及び各種の活性炭等」が挙げられている(摘示(ア-4)参照)。
また、上記引用例1には、上記「粒状フイブリル化性ポリテトラフルオルエチレン樹脂」として、「寸法が約0.05?約0.5ミクロンで約0.2μの平均直径を有する粒子を有する重合体約60重量%に濃縮されたコロイド水性分散体」を使用することが記載されている(摘示(ア-7)参照)。
そして、乾燥した粉状の顔料又は弗化ホウ酸カリウムに対して少量のPTFE水性コロイド分散体を添加して圧縮・剪断処理すべく混合してなる具体的実験例についても記載され、塵埃が抑制されたことも記載されている(摘示(ア-9)及び(ア-10)参照)。
なお、上記引用例1に記載された「ポリテトラフルオルエチレン(樹脂)」及び「PTFE(樹脂)」が、本件補正発明でいう「ポリテトラフルオロエチレン(樹脂)」と同一の事項であることは、当業者に自明である。
してみると、上記引用例1には、上記(ア-1)ないし(ア-11)の記載事項からみて、本件補正発明に倣い表現すると、
「コロイド粒子の平均粒径が0.2μmであるポリテトラフルオロエチレンの水性コロイド分散体を通常高度に塵埃を出す固体粒子状物質と混合し、該混合物に約20?200℃の温度で圧縮-剪断作用を施すことにより、ポリテトラフルオロエチレンをフィブリル化して通常高度に塵埃を出す固体粒子状物質の塵埃を抑制する、通常高度に塵埃を出す固体粒子状物質の塵埃抑制方法。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

(イ)検討

(イ-1)対比
本件補正発明と上記引用発明とを対比すると、引用発明における「ポリテトラフルオロエチレンの水性コロイド分散体」、「通常高度に塵埃を出す固体粒子状物質」及び「塵埃抑制方法」は、それぞれ、本件補正発明における「ポリテトラフルオロエチレンの水性分散液からな・・る塵埃抑制処理剤」、「発塵性物質」及び「塵埃抑制処理方法」に相当することが明らかである。
また、引用発明における「ポリテトラフルオロエチレンの水性コロイド分散体を通常高度に塵埃を出す固体粒子状物質と混合し、該混合物に約20?200℃の温度で圧縮-剪断作用を施すことにより、ポリテトラフルオロエチレンをフィブリル化して」は、本件補正発明における「ポリテトラフルオロエチレンの水性分散液からな・・る塵埃抑制処理剤組成物を発塵性物質と混合し、該混合物に約20?200℃の温度で圧縮-剪断作用を施すことにより、ポリテトラフルオロエチレンをフィブリル化して」に相当する。
そして、引用発明における「コロイド粒子の平均粒径が0.2μmであるポリテトラフルオロエチレンの水性コロイド分散体」は、本件補正発明に係る「平均粒径が0.1?0.5μmである」が、「ポリテトラフルオロエチレンの水性分散液」中の分散しているポリテトラフルオロエチレン(樹脂)粒子の平均粒径をいうものと認められるから、本件補正発明における「ポリテトラフルオロエチレンの水性分散液からな」る「平均粒径が0.1?0.5μmである塵埃抑制処理剤組成物」に相当するものと認められる。
してみると、本件補正発明と引用発明とは、
「ポリテトラフルオロエチレンの水性分散液からなり、平均粒径が0.2μmである塵埃抑制処理剤組成物を発塵性物質と混合し、該混合物に約20?200℃の温度で圧縮-剪断作用を施すことにより、ポリテトラフルオロエチレンをフィブリル化して発塵性物質の塵埃を抑制する、発塵性物質の塵埃抑制処理方法。」
で一致し、以下の2点で相違している。

相違点1:「ポリテトラフルオロエチレン」につき、本件補正発明では「比重が2.22以下であ」るのに対して、引用発明では、その比重につき特定されていない点
相違点2:「ポリテトラフルオロエチレンの水性分散液」につき、本件補正発明では「含フッ素乳化剤の含有率が50ppm以下である」のに対して、引用発明では、含フッ素乳化剤の含否及びその含有量につき特定されていない点

(イ-2)各相違点に係る検討

(a)相違点1について
上記相違点1につき検討すると、ポリテトラフルオロエチレン(樹脂)の比重は、一般に2.14ないし2.20であることが当業者に周知である(必要ならば下記参考文献参照のこと)。
してみると、引用発明における「ポリテトラフルオロエチレン」は、上市されている通常のポリテトラフルオロエチレンの水性コロイド分散体であるから、その分散している樹脂の比重も2.22以下である2.14ないし2.20にあるものと理解するのが自然である。
したがって、上記相違点1は、実質的な相違点であるとはいえない。

参考文献:旭化成アミダス株式会社「プラスチックス」編集部編「プラスチック・データブック」2006年1月20日、株式会社工業調査会発行、第719頁

(b)相違点2について
上記相違点2につき検討すると、上記引用例2(及び本願明細書の【0004】)にも記載されているとおり、テトラフルオロエチレンなどのフッ素含有単量体を乳化重合して水性(コロイド)分散体を得るにあたり、含フッ素乳化剤(分散剤)を使用することは、当業者の周知慣用の技術であるとともに、さらに必要に応じて他の界面活性剤などの乳化安定剤(分散安定剤)を併用又は追加使用することも当業者の周知慣用の技術である。
そして、上記引用例1には、引用発明で使用される水性コロイド分散体として、「米国特許第2559752号」すなわち引用例2に記載された製造法によって製造されたものを使用できることが具体的に例示されている(摘示(ア-7)参照)から、引用発明におけるポリテトラフルオロエチレンの水性コロイド分散体は、含フッ素乳化剤を含有するものと理解するのが自然である。
さらに、上記引用例3及び4にもそれぞれ記載されているとおり、PTFEなどのフルオロポリマーの水性分散液において、乳化重合の際に使用されるフッ素乳化剤又は低分子量フッ素化界面活性剤などの含フッ素乳化剤が環境害などの環境問題を引き起こす存在であり(摘示(ウ-3)及び(エ-2)参照)、その含フッ素乳化剤の不含化又は例えば50ppm未満程度への含有量低減化が要求されていることも当業者の周知の技術事項であるものと認められる。
してみると、引用発明において、上記当業者の周知(慣用)技術に基づき、環境問題の発生防止を意図して、ポリテトラフルオロエチレンの水性(コロイド)分散体として、含フッ素乳化剤の含有量が極力低減化されたもの、例えば50ppm以下に低減化されたものを使用することは、当業者が適宜なし得ることである。
したがって、上記相違点2は、当業者が適宜なし得ることである。

(イ-3)本件補正発明の効果について
本件補正発明の効果について、本件補正後の明細書の発明の詳細な説明に基づき検討すると、含フッ素乳化剤の含有量が異なりその余の物性が略同一のPTFE水性分散体を使用した実施例1、2及び4ないし6と参考例1ないし5との実験結果をそれぞれ対比しても、落下発塵量に係る効果において略同等であるというほかはなく、上記相違点2の点で格別顕著な効果上の差異が存するものと認めることはできない。
また、上記引用例1には、引用発明に係るものと認められる「例16?18」の「テフロン30」なる分散体を使用した場合及び「例24」の場合であっても、「無塵埃化の組成物を生成した」こと又は「本質上塵埃がたゝなかった」ことが記載されている(摘示(ア-9)及び(ア-10)参照)のであるから、引用発明の方法であっても本件補正発明と同等の塵埃抑止効果を奏するものと認めざるを得ない。
さらに、上記(イ-2)(b)でも説示したとおり、含フッ素乳化剤の含有量が低減化されたPTFE分散体を使用することにより、環境問題を引き起こす含フッ素乳化剤の環境への放出を抑止又は防止できることは、当業者に自明であるから、含フッ素乳化剤の含有量が低いPTFE分散体を使用した場合に環境問題を解決できるという効果を奏するであろうことも当業者が予期し得ることである。
してみると、本件補正発明が、引用発明(及び当業者の周知技術を組み合わせた場合)に比して当業者が予期し得ない特段の効果を奏するものとは認めることができない。

(イ-4)小括
以上のとおりであるから、本件補正発明は、引用発明及び当業者の周知技術を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(ウ)審判請求人の主張について
審判請求人は、本件審判請求書において、平成22年12月24日付け早期審査に関する事情説明書において提示した「実験I」ないし「実験III」及び「比較実験I」ないし「比較実験III」なる実験結果及び対比結果を再度提示した上で、
「4.本願発明の特徴
・・(中略)・・
(4)本願発明により提供される発塵性物質の塵埃抑制処理方法は、環境問題の可能性が低い塵埃抑制処理方法を提供するだけでなく、従来公知の方法よりもさらに高い塵埃抑制処理効果を示すという予想外でかつ格段に優れた効果を発揮するものである。
(5)本願発明の特定の含フッ素乳化剤含有率、特定の比重及び特定の平均粒径を有するPTFEの水性分散液からなる塵埃抑制処理剤組成物を用いる塵埃抑制処理方法の格段に優れた効果は、本願明細書の段落[0045]における表1の実施例1,2及び4?6と参考例1?5との対比、並びに平成22年12月24日付で提出した早期審査請求に関する事情説明書の第4頁の「(7)本願発明の効果」の項の記載及び第5?7頁の「[3]実験報告」における実験I?III及び比較実験I?IIIに記載した実験結果から明らかである。」
と主張しているので、以下検討する。
まず、上記「実験I」ないし「実験III」の各実験結果と「比較実験I」ないし「比較実験III」の各実験結果とを対比すると、一応、「実験I」ないし「実験III」の方が、対応する「比較実験I」ないし「比較実験III」に比べて、落下粉塵量の点で優れるものとは認められる。
しかしながら、本件補正発明に係る発明特定事項を具備する実施例5の実験結果とPTFE分散液の含フッ素乳化剤の含有量を除きその余の事項を具備する参考例4の実験結果とを対比すると、参考例4の方が、実施例5に比べて、落下粉塵量の点で優れるものと認められる。
してみると、上記すべての実験結果を総合すると、本件補正発明における特定の態様においては、PTFE分散液の含フッ素乳化剤の含有量の多寡により、落下粉塵量に係る効果、すなわち塵埃の抑止効果につき差異が生起するものとは認められるものの、当該塵埃の抑止効果の差異は、その他の態様を包含する本件補正発明に係るものとは認められない。
また、本件補正後の本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討すると、実施例(及び参考例)に係る部分(【0027】ないし【0045】)の記載を検討しても、上記(イ-3)で説示したとおり、PTFE分散液の含フッ素乳化剤の含有量の多寡により塵埃の抑止効果の有意な差異が存するものと認められず、また、その他の部分の記載を検討しても、
「【0007】
・・(中略)・・
すなわち、本発明は、環境問題の可能性が低いPTFE水性分散液からなる塵埃抑制処理剤組成物を使用した、塵埃抑制効果が従来の方法と同様に高く、且つ環境問題の可能性が低い、発塵性物質の塵埃抑制処理方法ならびに発塵性物質の塵埃抑制処理物を提供することを目的とする。」、
「【発明の効果】
【0010】
本発明により、環境問題の可能性が低いPTFE水性分散液からなる塵埃抑制処理剤組成物を用いた、塵埃抑制効果が従来の方法と同様に高く、且つ環境問題の可能性が低い、発塵性物質の塵埃抑制処理方法が提供される。
本発明により、すぐれた発塵性物質の塵埃抑制処理方法によって処理された、発塵が抑制され、かつ環境問題の可能性が低い発塵性物質の塵埃抑制処理物が提供される。」
及び
「【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明により、環境問題の可能性が低いPTFE水性分散液からなる塵埃抑制処理剤を用いた、塵埃抑制効果が従来の方法と同様に高く、且つ環境問題の可能性が低い、発塵性物質の塵埃抑制処理方法ならびに発塵性物質の塵埃抑制処理物が提供される。」(下線は当審が付したものである。)
と記載されているのみであり、本件補正発明において、「従来公知の方法よりもさらに高い塵埃抑制処理効果を示す」との事項を認識することができる記載又は示唆が存するものとも認められない。
したがって、これらを総合すると、審判請求人の審判請求書における本願発明(すなわち本件補正発明)の特徴が、「本願発明により提供される発塵性物質の塵埃抑制処理方法は、環境問題の可能性が低い塵埃抑制処理方法を提供するだけでなく、従来公知の方法よりもさらに高い塵埃抑制処理効果を示すという予想外でかつ格段に優れた効果を発揮するものである」旨の主張は、本件補正後の明細書の記載に基づくものとは認められず、根拠を欠くものであるから、採用することができず、当審の上記(イ)の検討結果を左右するものではない。

(エ)まとめ
以上のとおり、本件補正発明は、引用発明(及び当業者の周知技術)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

ウ.独立特許要件に係る検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

III.補正の却下の決定のまとめ
以上のとおり、上記手続補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で読み替えて準用する同法第126条第5項に違反する補正事項を含むものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願について

1.本願に係る発明
平成23年8月16日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願に係る発明は、平成22年12月24日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明は、再掲すると以下の事項により特定されるとおりのものである。
「含フッ素乳化剤の含有率が50ppm以下であるポリテトラフルオロエチレンの水性分散液からなり、該ポリテトラフルオロエチレンの比重が2.27以下であって、平均粒径が0.1?0.5μmである塵埃抑制処理剤組成物を発塵性物質と混合し、該混合物に約20?200℃の温度で圧縮-剪断作用を施すことにより、ポリテトラフルオロエチレンをフィブリル化して発塵性物質の塵埃を抑制する、発塵性物質の塵埃抑制処理方法。」
(以下、「本願発明」という。)

2.原審の拒絶査定の内容
原審において、平成23年1月20日付け拒絶理由通知書で以下の内容を含む拒絶理由が通知され、当該拒絶理由が解消されていない点をもって下記の拒絶査定がなされた。

<拒絶理由通知>
「 理 由
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1?3
・引用文献等 1?4
・備考
・・(中略)・・
してみると、引用文献1に記載された塵埃抑制処理方法において、処理剤中に含まれる含フッ素乳化剤が有する環境への有害性という上記周知の課題を解決するために、引用文献3?4に開示された含フッ素乳化剤量の低減技術を適用し、その含有量を本願所定の極微量とすることは、当業者が容易になし得ることである。
引 用 文 献 等 一 覧
1.特公昭52-32877号公報
2.米国特許第2559752号明細書
3.特表2002-532583号公報
4.特表2005-501956号公報」

<拒絶査定>
「この出願については、平成23年1月20日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。
備考
<特許法第29条第2項
・・(中略)・・
以上のとおりであるから、本願請求項1?3に係る発明は、引用文献1?4に記載された発明に基づき、当業者が依然として容易に発明をすることができたものである。」

3.当審の判断
当審は、本願は、上記拒絶査定の理由と同一の理由により、拒絶すべきものと判断する。
以下、詳述する。

(1)引用例の記載事項及び引用例に記載された発明
上記拒絶理由通知及び拒絶査定で引用された引用文献1ないし4は、それぞれ、上記第2の補正の却下の決定で引用した引用例1ないし4である。(以下、「引用例1」ないし「引用例4」に称呼を統一する。)
したがって、引用例1ないし4には、それぞれ、上記第2のII.2.(2)ア.の(ア)ないし(エ)で示した事項が記載されており、また、引用例1には、上記第2のII.2.(2)イ.(ア)で示した引用発明が記載されている。

(2)検討

ア.対比
本願発明と上記引用発明とを対比すると、下記の2点で相違し、その余で一致するものと認められる。

相違点1’:「ポリテトラフルオロエチレン」につき、本願発明では「比重が2.27以下であ」るのに対して、引用発明では、その比重につき特定されていない点
相違点2’:「ポリテトラフルオロエチレンの水性分散液」につき、本願発明では「含フッ素乳化剤の含有率が50ppm以下である」のに対して、引用発明では、含フッ素乳化剤の含否及びその含有量につき特定されていない点

イ.相違点に係る検討

(ア)相違点1’について
上記相違点1’につき検討すると、ポリテトラフルオロエチレン(樹脂)の比重は、一般に2.14ないし2.20であることが当業者に周知である(必要ならば上記第2のII.2.(2)イ.(イ)(イ-2)(a)で示した参考文献参照のこと)。
してみると、引用発明における「ポリテトラフルオロエチレン」は、上市されている通常のポリテトラフルオロエチレンの水性コロイド分散体であるから、その分散している樹脂の比重も2.27以下である2.14ないし2.20にあるものと理解するのが自然である。
したがって、上記相違点1は、実質的な相違点であるとはいえない。

(イ)相違点2’について
上記相違点2’につき検討すると、上記相違点2’は、上記第2のII.2.(2)イ.(イ)(イ-1)で示した「相違点2」と同一の事項であることが明らかである。
してみると、上記相違点2’は、上記第2のII.2.(2)イ.(イ)(イ-2)(b)で説示した理由と同一の理由により、当業者が適宜なし得ることである。

(ウ)本願発明の効果について
本願発明の効果について、本願明細書(平成22年12月24日付けで全文補正されたもの)の発明の詳細な説明の記載に基づき検討しても、上記第2のII.2.(2)イ.(イ)(イ-3)で説示した理由と同一の理由により、本願発明が、引用発明(及び当業者の周知技術を組み合わせた場合)に比して当業者が予期し得ない特段の効果を奏するものとは認めることができない。

(エ)小括
したがって、本願発明は、引用発明(及び当業者の周知技術)に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)当審の判断のまとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4 まとめ
以上のとおり、本願は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された発明が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余につき検討するまでもなく、同法第49条第2号の規定に該当し、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-01-31 
結審通知日 2013-02-06 
審決日 2013-02-19 
出願番号 特願2007-523261(P2007-523261)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09K)
P 1 8・ 575- Z (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中野 孝一  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 橋本 栄和
小出 直也
発明の名称 塵埃抑制処理方法  
代理人 中嶋 重光  
代理人 中嶋 重光  
代理人 中嶋 重光  

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