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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B23K
管理番号 1272290
審判番号 不服2012-2910  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-02-15 
確定日 2013-04-04 
事件の表示 特願2006-346536「接合方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 7月10日出願公開、特開2008-155245〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本件出願は、平成18年12月22日の特許出願であって、平成23年6月22日付けで拒絶の理由が通知され、同年8月29日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月8日付けで拒絶の査定がなされた。
そして、上記拒絶査定を不服として平成24年2月15日に審判の請求がなされ、同日付けで手続補正書が提出され、その後、当審の平成24年8月30日付けの拒絶の理由の通知に対して、同年11月5日付けで、特許請求の範囲及び明細書全文を補正対象書類とする手続補正書及び意見書が提出されたものである。
本件出願の特許請求の範囲の請求項1ないし2に係る発明は、平成24年11月5日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲及び明細書、出願当初の図面の記載からみて、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に記載された発明は、次のとおりである。(以下「本願発明」という。)
「 【請求項1】
接合対象物を導入した接合室内を真空排気する真空排気工程と、真空排気工程の後に接合対象物の表面をイオンビームもしくは原子ビームもしくはプラズマを照射して活性化する表面活性化工程と、表面活性化工程の後に接合対象物の表面がAuからなる接合部位同士を接合する接合工程とを備え、各接合対象物それぞれが所定ガスとして、不活性ガス、O_(2)ガス、O_(2)ガスとN_(2)ガスとの混合ガスから選択される1種のガスを封入するSOIウェハからなるセンサ基板のフレーム部とシリコンウェハからなる貫通孔配線形成基板とシリコンウェハからなるカバー基板とで構成される気密パッケージの一部を構成するものであり、表面活性化工程と接合工程との間に、接合室内へ前記所定ガスを導入するガス導入工程を備え、ガス導入工程の際もしくはガス導入工程と接合工程との間に接合室内の圧力を所望の圧力に調整し、表面活性化工程と該表面活性化工程後の接合工程とは、接合部位へのガス成分の吸着を防止するために接合対象物を100℃以上に加熱した状態を維持したままで行うことを特徴とする接合方法。」

2 引用刊行物記載の発明・事項
これに対して、当審での平成24年8月30日付けの拒絶の理由に引用された、本件出願前である平成17年6月30日に頒布された特開2005-175047号公報(以下「刊行物」という。)には、以下の記載がある。
ア 段落【0001】
「本発明は、密閉された内部空間に電子素子を備える電子素子パッケージおよびその製造方法に関する。」
イ 段落【0017】
「図1は、本発明の一の実施の形態に係る電子素子パッケージ1の構成を示す断面図である。電子素子パッケージ1は、内部に電子素子である半導体素子71が封止されたパッケージ(すなわち、電子素子を密閉空間内に設けてパッケージ化したもの)であり、キャビティ(凹部)99を有する基板9(いわゆる、「キャビティ基板」)、キャビティ99の底面に実装される半導体素子71、および、キャビティ99の開口部を塞いで基板9に取り付けられることにより半導体素子71が収納される空間(以下、「内部空間」という。)90を基板9と共に形成する平坦な板状の蓋部材2を備える。」
ウ 段落【0019】?【0021】
「電子素子パッケージ1では、基板9と蓋部材2とが金(Au)により形成される金属層3により接着されることにより、内部空間90が密閉される。金属層3は、基板9側に設けられた基板金属部31と蓋部材2側に設けられた蓋金属部32とが接合されて形成される。
図2は、電子素子パッケージ1の製造工程を示す図である。電子素子パッケージ1が製造される際には、まず、基板9および蓋部材2のそれぞれの接着部位、すなわち、基板9のキャビティ99の開口部の端面(蓋部材2と対向する面)、および、蓋部材2の下面(内部空間90側の面)のうち基板9が接着される領域に金メッキが施され、基板金属部31および蓋金属部32が形成される(ステップS11)。
続いて、基板9、蓋部材2および半導体素子71が、接合装置のチャンバ内に配置され、チャンバに接続される真空ポンプによりチャンバ内が減圧される。チャンバ内が減圧状態(好ましくは、真空状態)になると、バンプ72、および、キャビティ99の底面上の電極にアルゴン(Ar)の高速原子ビーム(Fast Atom Beam:以下、「FAB」という。)が照射され、バンプ72および電極の表面が洗浄される(すなわち、表面の不要な物質の除去および表面の活性化が行われる。)。その後、基板9の電極にバンプ72を接触させることによりバンプ72と電極とが接合されて、半導体素子71が基板9に実装される(ステップS12)。」
エ 段落【0023】?【0025】
「次に、基板9の基板金属部31、および、蓋部材2の蓋金属部32にFABが照射され、基板金属部31および蓋金属部32の表面が洗浄される(ステップS13)。このとき基板9の基板金属部31、および、蓋部材2の蓋金属部32の温度は室温以上150℃以下とされ、加熱が必要な場合にはレーザ光の照射等により加熱される。
その後、チャンバ内の減圧(真空)環境下にて基板金属部31と蓋金属部32とを互いに対向させて接触させることにより、基板金属部31と蓋金属部32とが接合されて金属層3が形成される。このように基板9と蓋部材2とが金属層3により接着され、半導体素子71が収納される内部空間90が減圧(真空)状態にて密閉されて電子素子パッケージ1が製造される(ステップS14)。なお、基板9と蓋部材2との接着は不活性ガス環境下にて行われてもよく、この場合、内部空間90には半導体素子71と共に不活性ガスが封入される。また、不活性ガス環境下における封止時にチャンバ内が減圧(大気圧から1Pa(パスカル)?10Pa程度の減圧でよい。)されてもよい。
以上に説明したように、電子素子パッケージ1では、通常のはんだやガラスパウダー接合に比べて低温(好ましくは、室温以上150℃以下)にて基板9と蓋部材2とが接着され、半導体素子71が収納された内部空間90が密閉される。その結果、耐熱性の低い半導体素子71であっても熱による損傷を与えることなく低温にて密閉空間内に収納することができる。また、セラミックや金属等に比べて耐熱性の低い安価な樹脂製の基板9および蓋部材2を使用することができ、電子素子パッケージ1の製造コストを削減することができる。さらに、内部空間90が減圧(真空)状態あるいは不活性ガス雰囲気とされるため、半導体素子71を大気中に存在する水分や酸素等の影響から守ることができ、これらの影響による半導体素子71の性能劣化を抑制することができる」
オ 段落【0029】
「基板9と蓋部材2との接着時における基板金属部31および蓋金属部32の温度は、基板9に実装された半導体素子71に対する熱の影響の低減の観点から上記実施の形態に示した範囲とされることが好ましいが、上記範囲に限定されるわけではなく、例えば、基板9に比較的耐熱性の高い半導体素子71が実装されている場合には、上記範囲より高温とされてもよい。」
カ 刊行物記載の発明
以上アないしオの記載事項から、刊行物には、以下の発明が記載されていると認められる。
「半導体素子71が封止されたキャビティ99を有する基板9と蓋部材2とが接合装置のチャンバ内に配置され、チャンバに接続される真空ポンプによりチャンバ内が減圧され、バンプ72、およびキャビティ99の底面上の電極にアルゴンの高速原子ビームを照射し、バンプ72および電極の表面を洗浄後、基板9の電極にバンプ72を接触させてバンプ72と電極とを接合することにより、半導体素子71を基板9に実装し、次に、基板9の基板金属部31、および、蓋部材2の蓋金属部32の金メッキされた領域にアルゴンの高速原子ビームを照射し、基板9の基板金属部31、および、蓋部材2の蓋金属部32を洗浄後、基板金属部31、および、蓋金属部32を室温以上150℃以下の温度に加熱し、その後、基板金属部31と蓋金属部32とを互いに対向させて接触させることにより、基板金属部31と蓋金属部32とを接合させることを、不活性ガス環境下で行うことにより、内部空間に半導体素子71と共に不活性ガスが封入されている電子素子パッケージ1の製造方法。」(以下、「引用発明」という。)

3 対比
本願発明と引用発明を対比する。
引用発明の「基板9と蓋部材2」は、本願発明の「接合対象物」に相当する。
引用発明の「チャンバ」は、本願発明の「接合室」に相当する。したがって、引用発明の「チャンバに接続される真空ポンプによりチャンバ内が減圧され」ることは、本願発明の「接合室内を真空排気する真空排気工程」に相当する。
引用発明の「アルゴンの高速原子ビーム」は、本願発明の「原子ビーム」に相当する。また、引用発明の「基板9の基板金属部31、および、蓋部材2の蓋金属部32を洗浄」することは、本願発明の「接合対象物の表面を」「活性化する表面活性化工程」に相当する。
引用発明の「電子素子パッケージ1」は、本願発明の「気密パッケージ」に相当する。そうすると、引用発明の「電子素子パッケージ1の製造方法」は、基板金属部31と蓋金属部32とを接合させるものであるから、「接合方法」と言えるものであることは明らかである。引用発明の「基板9の基板金属部31、および、蓋部材2の蓋金属部32の金メッキされた領域」が本願発明の「接合対象物の表面がAuからなる接合部位」に相当することは明らかである。また、引用発明の「基板金属部31と蓋金属部32とを接合させること」は、本願発明の「接合部位同士を接合する接合工程」に相当する。
引用発明の「基板9の基板金属部31、および、蓋部材2の蓋金属部32の金メッキされた領域にアルゴンの高速原子ビームを照射し、基板9の基板金属部31、および、蓋部材2の蓋金属部32を洗浄後」、「その後、基板金属部31と蓋金属部32とを互いに対向させて接触させることにより、基板金属部31と蓋金属部32とを接合させることを、不活性ガス環境下で行う」ことは、「表面活性化工程とガス導入工程と接合工程とを備え」るという限りで、本願発明の「表面活性化工程と接合工程との間に、接合室内へ前記所定ガスを導入するガス導入工程を備え」ることと共通する。引用発明の電子素子パッケージ1が、「所定ガスとしての不活性ガスを封入している」ものであることは明らかである。
引用発明の「基板金属部31、および、蓋金属部32を室温以上150℃以下の温度に加熱」することは、「接合部位を所定温度以上に加熱する」という限りで、本願発明の「表面活性化工程と該表面活性化工程後の接合工程とは、接合部位へのガス成分の吸着を防止するために接合対象物を100℃以上に加熱した状態を維持したままで行う」ことと共通する。
以上の点から、両者は以下の点で一致し、また、以下の点で相違している。
<一致点>
「接合対象物を導入した接合室内を真空排気する真空排気工程と、真空排気工程の後に接合対象物の表面を原子ビームを照射して活性化する表面活性化工程と、表面活性化工程の後に接合対象物の表面がAuからなる接合部位同士を接合する接合工程とを備え、接合対象物が所定ガスとして、不活性ガスを封入する気密パッケージを構成するものであり、表面活性化工程とガス導入工程と接合工程とを備え、接合部位を所定温度以上に加熱する接合方法。」
<相違点1>
接合対象物に関して、本願発明では、「SOIウェハからなるセンサ基板のフレーム部とシリコンウェハからなる貫通孔配線形成基板とシリコンウェハからなるカバー基板とで構成される気密パッケージの一部を構成するもの」を用いており、そのため、「各接合対象物それぞれが」「機密パッケージの一部を構成するもの」となっているのに対して、引用発明では、半導体素子71が封止されたキャビティ99を有する基板9と蓋部材2とからなる電子素子パッケージ1である点。
<相違点2>
表面活性化工程とガス導入工程と接合工程とに関して、本願発明では、「表面活性化工程と接合工程との間に、接合室内へ所定ガスを導入するガス導入工程を備え、ガス導入工程の際もしくはガス導入工程と接合工程との間に接合室内の圧力を所望の圧力に調整」しているのに対して、引用発明では、基板金属部31と蓋金属部32とを接合させることを、不活性ガス環境下で行うことにより、内部空間に半導体素子71と共に不活性ガスが封入されているものではあるものの、その詳細な工程について不明な点。
<相違点3>
接合部位を所定温度以上に加熱することに関して、本願発明では、「表面活性化工程と該表面活性化工程後の接合工程とは、接合部位へのガス成分の吸着を防止するために接合対象物を100℃以上に加熱した状態を維持したままで行う」ものであるのに対して、引用発明では、基板金属部31、および、蓋金属部32を室温以上150℃以下の温度に加熱し、その後、基板金属部31と蓋金属部32とを互いに対向させて接触させることにより、基板金属部31と蓋金属部32とを接合させるものである点。
4 当審の判断
上記相違点について検討する。
(1) <相違点1>について
接合対象物として、SOIウェハからなるセンサ基板のフレーム部とシリコンウェハからなる貫通孔配線形成基板とシリコンウェハからなるカバー基板とで構成されるものは、例えば、特開2006-275660号公報(段落【0031】、【0036】、【0037】参照。)や特開2006-300904号公報(段落【0020】、【0033】参照。)に示されているように従来知られている事項であり、引用発明の接合方法を上記従来知られているSOIウェハからなるセンサ基板のフレーム部とシリコンウェハからなる貫通孔配線形成基板とシリコンウェハからなるカバー基板とで構成されるものの接合部位に適用できないとする阻害要因も格別見当たらず、しかも引用発明も電子素子のパッケージであることからすれば、引用発明において、接合される対象をSOIウェハからなるセンサ基板のフレーム部とシリコンウェハからなる貫通孔配線形成基板とシリコンウェハからなるカバー基板とで構成されるものとすることは、格別困難なことではない。
(2) <相違点2>について
引用発明は、基板金属部31と蓋金属部32とを接合させることを、不活性ガス環境下で行うことにより、内部空間に半導体素子71と共に不活性ガスが封入されているものである。一般に半導体素子にガスを封入して機密にする場合、封入されるガスの圧力を所望の圧力になるようにすること、すなわち、一定の圧力でガスを封入することは、安定した半導体製品を製造する上で、当然考慮されるべき事項である。
ところで、ガスを一定の圧力で封入する場合、気密にする直前、すなわち、接合工程は、封入されるガスの雰囲気、および所望の圧力下で行わなければならないことは技術常識に照らして明らかである。したがって、引用発明においても、基板金属部31と蓋金属部32とを接合させることを、不活性ガス環境下で行うのであるから、ガス導入工程の際もしくはガス導入工程と接合工程との間に接合室内の圧力を所望の圧力に調整するものであると考えざるをえない。
本願発明では、さらに、所定ガスの導入は、「表面活性化工程と接合工程との間」であると特定しているが、引用発明においても、刊行物の摘記事項ウに「チャンバ内が減圧状態(好ましくは、真空状態)になると、バンプ72、および、キャビティ99の底面上の電極にアルゴン(Ar)の高速原子ビーム(Fast Atom Beam:以下、「FAB」という。)が照射され、バンプ72および電極の表面が洗浄される(すなわち、表面の不要な物質の除去および表面の活性化が行われる。)。」とあるように、表面活性化工程である洗浄は真空状態で行うものであるから、所定ガスの導入は、表面活性化工程の後とすることは当然である。
(3) <相違点3>について
引用発明では、基板金属部31、および、蓋金属部32を室温以上150℃以下の温度に加熱し、その後、基板金属部31と蓋金属部32とを互いに対向させて接触させることにより、基板金属部31と蓋金属部32とを接合させるものであるが、具体的に何℃に加熱することにより接合させるものであるのかは明らかではない。
しかしながら、刊行物の摘記事項オに「基板9と蓋部材2との接着時における基板金属部31および蓋金属部32の温度は、基板9に実装された半導体素子71に対する熱の影響の低減の観点から上記実施の形態に示した範囲とされることが好ましいが、上記範囲に限定されるわけではなく、例えば、基板9に比較的耐熱性の高い半導体素子71が実装されている場合には、上記範囲より高温とされてもよい。」とあるように、引用発明においては、加熱温度は半導体素子71の耐熱温度により加熱する最高温度が規定されているものであり、半導体素子71の耐熱温度が改善されればもっと高温にすること、すなわち、150℃以上に加熱することも、当業者にとって格別困難なことではない。
してみると、引用発明において、基板金属部31、および、蓋金属部32を150℃より低い温度である100℃以上に加熱した状態で行うことは、当業者にとって格別困難なことではないと考えざるをえない。
そして、接合部を加熱することにより残留ガスや付着不純物を飛ばし、接合前の接合表面状態を望ましい状態とすることが拒絶理由で引用発明した刊行物である特開2006-134900号公報の段落【0039】に示されているように周知の事項であった以上、引用発明においても、加熱することにより、接合部位へのガス成分の吸着を防止するものであることは明らかである。
(4) 作用・効果について
作用ないし効果についても、引用発明から予想し得る範囲のものでしかない。

5 むすび
したがって、本願発明は、刊行物に記載された発明及び従来知られた事項、従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、請求項2に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-01-30 
結審通知日 2013-02-05 
審決日 2013-02-18 
出願番号 特願2006-346536(P2006-346536)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松本 公一  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 刈間 宏信
菅澤 洋二
発明の名称 接合方法  
代理人 仲石 晴樹  
代理人 坂口 武  
代理人 北出 英敏  
代理人 西川 惠清  

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