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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C10M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C10M
管理番号 1272299
審判番号 不服2012-7949  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-04-27 
確定日 2013-04-04 
事件の表示 特願2008- 94084「油圧作動油組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 8月28日出願公開、特開2008-195953〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本件審判に係る出願(特願2008-94084号。以下、「本願」という。)は、平成7年10月19日の特許出願(特願平7-270960号)の一部を平成18年11月24日に特許法第44条第1項の規定により新たな特許出願(特願2006-316709号)とし、さらにその一部を平成20年3月31日に同規定により新たな特許出願としたものであって、平成23年9月26日付けの拒絶理由通知に対し、同年12月5日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成24年1月23日に拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月27日に本件審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出され、その後、同年10月17日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋がなされ、同年12月19日に回答書が提出されたものである。

2 平成24年4月27日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年4月27日付け手続補正を却下する。

[補正却下の決定の理由]
(1)補正の目的
平成24年4月27日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてする補正を含むものであり、これは、請求項1に記載された発明を特定する事項である「基油」を「鉱油系基油」に限定するとともに、同「%CA」の「2.5以下」を「0.1以下」に限定するものであるところ、これらの補正事項は、いずれも平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるということができる。

(2)独立特許要件
そこで、本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか否かについて以下検討する。

ア 本件補正発明
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)は、次のとおりである。
「%CA 0.1以下、粘度指数100以上、かつ40℃の動粘度10?100mm^(2)/secの鉱油系基油に対し、組成物全量に基づき、(A)アミン系酸化防止剤として炭素数3?20のアルキル基を有するアルキル化ジフェニルアミンを0.01?5重量%、(B)フェノール系酸化防止剤として単環フェノール類を0.01?5重量%、及び(C)リン酸エステルとして炭素数3?30のアルキル基もしくはアルケニル基を有する脂肪族リン酸エステル、もしくはそれらのアミン塩、及び炭素数6?30のアリール基を有する芳香族リン酸エステルから選ばれる一種又は二種以上を0.01?5重量%配合してなる油圧作動油組成物。」

イ 刊行物及びその記載事項
次の刊行物1及び2は、いずれも本願出願前に頒布された刊行物である。
刊行物1:特開平4-202398号公報
刊行物2:臼井右史,油圧技術,日本工業出版株式会社,昭和62年1月1日,第26巻,第1号,第52?57頁
なお、これら刊行物1及び2は、原査定の拒絶の理由に引用文献3及び6としてそれぞれ引用されたものである。

(ア)刊行物1には、次の事項が記載されている。
a 「1.基油に、(i)フェノール系酸化防止剤、(ii)ジフェニルアミン系酸化防止剤および(iii)フェニルナフチルアミン系酸化防止剤を、それぞれ1.0:1.5?6.0:0.8?2.5の重量比において、前記(i),(ii)および(iii)の合計重量で0.5?6.0重量%の量で配合したことを特徴とする潤滑油組成物。」(特許請求の範囲)
b 「本発明は、潤滑油組成物に関する。さらに詳しく述べるならば、本発明は、自動変速機や湿式ブレーキオイルなどに用いることができ、特に自動変速機に有用な潤滑油組成物に関する。」(第1頁左下欄〔産業上の利用分野〕)
c 「しかしながら、かかる従来の酸化防止剤を用いた場合にも、得られる潤滑油組成物の酸化防止性能は未だ十分であるとは言い難く、なお改良の余地がある。
しかして、本発明は、極めて優れた酸化安定性を有する潤滑油組成物を提供しようとするものである。」(第2頁左上欄〔発明が解決しようとする課題〕)
d 「本発明の組成物には、基油として、当業者に公知の鉱油および合成油を用いることができる。
鉱油としては、溶剤精製もしくは水添精製による60ニュートラル油、100ニュートラル油、150ニュートラル油、およびこれらの鉱油からワックス分を除くことにより低温流動性を改善した低流動点基油などがあり、これらを単独でもしくは適当な割合で混合して用いることができる。
合成油としては、ポリα-オレフィンオリゴマー、ジエステル、ポリオールエステル、ポリグリコールエステルなどがある。これらの合成油は、通常、単独で使用されるが、前記の鉱油と混合して使用することもできる。」(第3頁右上欄下から3行?同頁左下欄10行)
e 「以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
実施例1?10、比較例11?18
下記の第1表に示す如き組成を有する潤滑油組成物を調製した。
得られた組成物に対して、JIS K 2514に従って酸化試験を行い、全酸価の増加率(%)を測定した。得られた結果を併せて第1表に示す。
尚、全ての例において、基油としては、100℃で4.0cStの粘度を有する精製パラフィン系鉱油を用い、また酸化防止剤のほかに添加剤として下記を添加した。
粘度指数向上剤(ポリメタクリレート) 5.0重量%
耐摩耗剤(トリクレジルホスフェート) 0.5重量%
無灰分散剤(コハク酸イミド) 4.0重量%
金属清浄剤(マグネシウムスルホネート) 0.2重量%
また、酸化防止剤としては下記のものを用いた。

」(第3頁左下欄下から2行?第4頁)

(イ)刊行物2には、次の事項が記載されている。
a 「超高性能油圧作動油テラスオイルR(XHVI)」(第52頁の標題)
b 「1.まえがき
・・・・
シェルグループ(Royal Dutch/Shell)では、世界に先がけ超水素化精製法を確立し、セミ合成油とも称しうる高粘度指数基油「XHVI」(Extremely High Viscosity Index)を作りだした。このXHVI基油は不純物が極めて少なく、熱安定性に優れ、その他従来の基油に見られない多くの特徴を有する。作動流体にこの基油を導入し、基油の性能を充分生かすよう高粘度指数油で、かつクリーン(NAS7級以下)な作動油テラスオイルR(XHVI)を開発したので、その特長を基油の特徴と合わせて紹介してみたい。」(第52頁左欄「1.まえがき」)
c 「2.XHVI基油の特徴
潤滑油留分中には、大別してパラフィン系、ナフテン系、芳香族系の三成分が混在している。しかし一般的に芳香族成分は熱安定性が悪く、粘度指数が低いことから潤滑油成分としては好ましくない。XHVI基油は、超水素化精製(Severe Hydro Treatment)を行い潤滑油留分中に通常含まれている芳香族成分などを分解および異性化することによって、次記(1)?(5)に示す特長をもつ。
(1)基油自体の粘度指数が極めて高い(VI:145)。
(2)・・・・
(3)添加剤に対する感度が良好で、熱・酸化安定性が格段に向上する。
(4)・・・・
(5)芳香族成分が極めて少ない。
超水素化精製は、芳香族成分などを分解するだけでなく、通常基油中に不純物として多く含まれる硫黄化合物や窒素化合物などを選択的に除去する。原油の産出地および精製方法により、えられる潤滑油基油の留分は異なるが、第1図に150ニュートラル相当油の組成比較例を示す。」(第52?53頁「2.XHVI基油の特徴」)
d 「3.テラスオイルR(XHVI)の特徴
テラスオイルR(XHVI)は、その基油の優れた性能と添加剤との相乗効果により、4つの大きな特徴を有する。
○合成油(PAC)に近い高粘度指数油で、・・・・
○熱・酸化安定性に優れ、スラッジを生成しにくい。
・・・・」(第53頁左欄「3.テラスオイルR(XHVI)の特徴」)
e 「4.あとがき
○タービン油やコンプレッサー油のように熱・酸化安定性に優れ、
○合成油のように高粘度指数で、・・・・
・・・・
○安価なこと
と言った過大な要求性能を掲げてテラスオイルR(XHVI)を開発してきたが、XHVI基油の導入により、当初の目標に一歩近づけたと考え、今後さらに品質向上をめざし検討を行う。」(第57頁左欄「4.あとがき」)

ウ 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、上記イ(ア)eに、同aに記載された「潤滑油組成物」の発明の実施例1?10が記載されており、そのうち実施例5に着目すると、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行1発明」という。)が記載されているということができる。
「基油に、フェノール系酸化防止剤、ジフェニルアミン系酸化防止剤およびフェニルナフチルアミン系酸化防止剤を配合した潤滑油組成物であって、
前記基油として、100℃で4.0cStの粘度を有する精製パラフィン系鉱油を用い、この基油88.5重量%に、
前記フェノール系酸化防止剤として、次の構造式(Rは第三ブチル基である)で表される化合物(1)を0.3重量%配合し、

前記ジフェニルアミン系酸化防止剤として、次の構造式(Rは第三ブチル基である)で表される化合物(2)を1.2重量%配合し、

前記フェニルナフチルアミン系酸化防止剤として、次の構造式で表される化合物(3)を0.3重量%配合し、

さらに、粘度指数向上剤として、ポリメタクリレートを5.0重量%、
耐摩耗剤として、トリクレジルホスフェートを0.5重量%、
無灰分散剤として、コハク酸イミドを4.0重量%、
金属清浄剤として、マグネシウムスルホネートを0.2重量%、
それぞれ添加した潤滑油組成物。」

エ 対比
本件補正発明と刊行1発明とを対比する。
(ア)刊行1発明の「潤滑油組成物」は、本件補正発明の「油圧作動油組成物」と「油組成物」である点で共通する。
(イ)刊行1発明の「基油」である「100℃で4.0cStの粘度を有する精製パラフィン系鉱油」は、本件補正発明の「%CA 0.1以下、粘度指数100以上、かつ40℃の動粘度10?100mm^(2)/secの鉱油系基油」と「鉱油系基油」である点で共通する。
(ウ)刊行1発明の「フェノール系酸化防止剤」としての「化合物(1)」は、その構造式からみて、本件補正発明の「(B)フェノール系酸化防止剤」としての「単環フェノール類」に相当する。
また、刊行1発明の「ジフェニルアミン系酸化防止剤」としての「化合物(2)」は、その構造式中のRが「第三ブチル基」であることから、本件補正発明の「(A)アミン系酸化防止剤」としての「炭素数3?20のアルキル基を有するアルキル化ジフェニルアミン」に相当する。
さらに、刊行1発明の「トリクレジルホスフェート」は、リン酸とクレゾールとのエステルであるから、本件補正発明の「(C)リン酸エステル」としての「炭素数6?30のアリール基を有する芳香族リン酸エステル」に相当する。
そして、刊行1発明における各成分の含有率(重量%)は、その合計が100重量%になることからみて、本件補正発明と同様、「組成物全量」に基づくものであるということができる。
よって、刊行1発明において、「フェノール系酸化防止剤」として「化合物(1)を0.3重量%」配合することは、本件補正発明において、「(B)フェノール系酸化防止剤」として「単環フェノール類を0.01?5重量%」配合することに相当し、刊行1発明において、「ジフェニルアミン系酸化防止剤」として「化合物(2)を1.2重量%」配合することは、本件補正発明において、「(A)アミン系酸化防止剤」として「炭素数3?20のアルキル基を有するアルキル化ジフェニルアミンを0.01?5重量%」配合することに相当し、刊行1発明において、「トリクレジルホスフェートを0.5重量%」添加することは、本件補正発明において、「(C)リン酸エステル」として「炭素数3?30のアルキル基もしくはアルケニル基を有する脂肪族リン酸エステル、もしくはそれらのアミン塩、及び炭素数6?30のアリール基を有する芳香族リン酸エステルから選ばれる一種又は二種以上を0.01?5重量%」配合することに相当する。
(エ)以上を踏まえると、本件補正発明と刊行1発明は、「鉱油系基油に対し、組成物全量に基づき、(A)アミン系酸化防止剤として炭素数3?20のアルキル基を有するアルキル化ジフェニルアミンを0.01?5重量%、(B)フェノール系酸化防止剤として単環フェノール類を0.01?5重量%、及び(C)リン酸エステルとして炭素数3?30のアルキル基もしくはアルケニル基を有する脂肪族リン酸エステル、もしくはそれらのアミン塩、及び炭素数6?30のアリール基を有する芳香族リン酸エステルから選ばれる一種又は二種以上を0.01?5重量%配合してなる油組成物。」である点で一致し、次の点で相違する。
a 相違点1
基油として、本件補正発明では、「%CA 0.1以下、粘度指数100以上、かつ40℃の動粘度10?100mm^(2)/sec」のものを用いるのに対し、刊行1発明では、「100℃で4.0cStの粘度を有する精製パラフィン系」のものを用いる点。
b 相違点2
油組成物について、本件補正発明では、「油圧作動油」と特定されているのに対し、刊行1発明では、「潤滑油」と特定されている点。
c 相違点3
刊行1発明では、「フェニルナフチルアミン系酸化防止剤」として「化合物(3)を0.3重量%」配合し、さらに、「粘度指数向上剤として、ポリメタクリレートを5.0重量%」、「無灰分散剤として、コハク酸イミドを4.0重量%」、「金属清浄剤として、マグネシウムスルホネートを0.2重量%」それぞれ添加したのに対し、本件補正発明では、これらの成分について特定されていない点。

オ 相違点についての検討
上記相違点1ないし3について検討する。
(ア)相違点1
本件補正発明で規定する「%CA」は、技術常識からみて、芳香族含有量を表すものであることは明らかである。
また、潤滑油の分野において、芳香族含有量を低減させた基油を用いることで熱安定性ないし酸化安定性が向上することは、本願出願時において周知の技術であり(以下、この技術を「周知技術1」という。)、このことは、例えば刊行物2の上記イ(イ)b及びcの記載から明らかであるし、また、次の刊行物a及びbからも明らかである。
刊行物a:特公平5-87119号公報(特に第2頁3欄最下行?同頁4欄4行)
刊行物b:特公平3-36876号公報(特に第2頁3欄8?11行)
他方、刊行1発明の「潤滑油組成物」は、上記イ(ア)cによれば、酸化安定性の向上を課題とするものであり、また、同dによれば、その基油については特段の制限もなく公知のものを用いることができるものである。
そうすると、刊行1発明において、酸化安定性の向上をより一層図るために、周知技術1を適用し、芳香族含有量を低減させた基油を用いるとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。そして、「粘度指数」は一般に高い方が望ましいこと、「40℃の動粘度」は用途等に応じて当業者が適宜最適化するのが普通であること、基油として相違点1に係る本件補正発明の「%CA 0.1以下、粘度指数100以上、かつ40℃の動粘度10?100mm^(2)/sec」という特性を有するものは普通に用いられていること(例えば刊行物aの第3?4頁、第1表の鉱油A参照。)に鑑みれば、刊行1発明の基油として芳香族含有量を低減させたものを用いる際に、相違点1に係る本件補正発明の上記特性を有するものを用いるとすることも格別困難なことではない。

(イ)相違点2
刊行1発明は、その用途について「潤滑油」と特定されるにとどまり、このこと以上に具体的な特定はなされていない。
しかし、刊行物1には、刊行1発明の「潤滑油組成物」の具体的な用途について、自動変速機や湿式ブレーキオイルなどが例示されているところ(上記イ(ア)b)、自動変速機又は湿式ブレーキオイルに適用される「潤滑油」は、潤滑ないし冷却の機能のみならず(自動変速機に適用されるものはさらにトルクコンバーターの作動流体としての機能も有する。)、その油圧でピストン等を作動させる「油圧作動油」としての機能も併せ持つものであることは、例えば次の刊行物cないしfに記載されているように周知である。
刊行物c:坂本研一,オートマチック・トランスミッション入門,株式会社グランプリ出版,1995年6月5日,61頁「(5)ATF(作動油)」の項1?9行
刊行物d:藤田稔,杉浦健介,斎藤文之,新版潤滑剤の実用性能,トライボロジー叢書2,株式会社幸書房,昭和55年12月25日,139頁最下行?140頁2行
刊行物e:特開昭61-201960号公報(特に第1頁右下欄13?20行、第2頁右下欄3?8行)
刊行物f:特開昭63-303262号公報(特に第2頁右上欄13行?同頁左下欄2行)
そうすると、刊行1発明の「潤滑油組成物」において、刊行物1の上記例示に基づき、その具体的な用途を自動変速機又は湿式ブレーキオイルとし、同時にその機能を利用して「油圧作動油」とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(ウ)相違点3
本件補正後の明細書(段落【0009】?【0010】)によれば、本件補正発明の「アミン系酸化防止剤」は、ジフェニルアミン系のものやナフチルアミン系のものを二種以上組み合わせて用いることができるものであって、その配合量は組成物全量に基づき0.01?5重量%の範囲とされるものである。
他方、刊行1発明において、アミン系酸化防止剤は、ジフェニルアミン系酸化防止剤とフェニルナフチルアミン系酸化防止剤が併用されており、ジフェニルアミン系酸化防止剤として化合物(2)が1.2重量%配合され、フェニルナフチルアミン系酸化防止剤として化合物(3)が0.3重量%配合されているが、このような態様は、本件補正発明の「アミン系酸化防止剤」に関する上記認定に照らせば、本件補正発明の範囲から除外されるものではない。
また、本件補正後の明細書(段落【0015】)によれば、本件補正発明の「油圧作動油」は、ポリメタクリレートなどの粘度指数向上剤、アルカリ土類金属のスルホネートなどの金属系清浄剤、コハク酸イミド類などの無灰系分散剤などの添加剤を適宜配合することができ、各添加剤を組成物全量に基づき0.01?5重量%の範囲で配合できるものである。
そうすると、刊行1発明において、「粘度指数向上剤として、ポリメタクリレートを5.0重量%」、「無灰分散剤として、コハク酸イミドを4.0重量%」、「金属清浄剤として、マグネシウムスルホネートを0.2重量%」それぞれ添加しているとしても、このような態様が本件補正発明の範囲から除外されるものではない。
したがって、相違点3は実質的なものではない。

(エ)相違点についての検討のまとめ
本件補正発明の効果について本件補正後の明細書を検討しても、本件補正発明の効果とされる高圧下での酸化安定性は、刊行1発明において、フェノール系化合物やジフェニルアミン系化合物を酸化防止剤として添加していることや、芳香族含有量を低減させた基油を用いることで熱安定性ないし酸化安定性が向上するという周知技術1(刊行物2等)に照らせば、当業者が予測し得ないほど格別なものではないし、また、本件補正発明の効果とされる高圧下での潤滑性能も、刊行1発明において、耐摩耗剤としてトリクレジルホスフェートを添加していることに照らせば、当業者が予測し得ないほど格別なものではない。
そして、「油圧作動油」であることによる効果を含め、本件補正発明の発明特定事項を総合することにより奏される効果について検討しても格別なものは見いだせない。
加えて、本件補正発明における各種数値限定に臨界的意義があるということもできない。
したがって、本件補正発明は、刊行1発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

カ 請求人の主張等に対する付言
(ア)請求人は、審判請求書において、参考文献2とする資料を添付し、刊行物2(原査定における引用文献6)に記載された基油XHVIは、合成油であることから、鉱油系基油である本件補正発明の完成に寄与できるものではないとか、刊行物1(原査定における引用文献3)に記載の発明と本件補正発明とは、全く逆の特性を有する用途であるから、本件補正発明は刊行物1に基づいて容易に想到できるものではないなどと主張している。
しかし、刊行物2に記載の「XHVI」は商標であって、鉱油系基油に対して当該商標が付されることもあるから(例えば特開平6-220473号公報の段落【0012】等参照。)、刊行物2に記載の基油XHVIが直ちに合成油であるということはできないし、むしろ刊行物2には、「超水素化精製は、芳香族成分などを分解するだけでなく、通常基油中に不純物として多く含まれる硫黄化合物や窒素化合物などを選択的に除去する。原油の産出地および精製方法により、えられる潤滑油基油の留分は異なるが、第1図に150ニュートラル相当油の組成比較例を示す。」との記載(上記イ(イ)c)があることに鑑みれば、刊行物2に記載の基油XHVIは鉱油系基油であると解するのが自然である。
仮に、刊行物2に記載の基油XHVIが合成油であったとしても、芳香族含有量を低減させた基油を用いることで熱安定性ないし酸化安定性が向上するという周知技術1が、鉱油系基油に対して当てはまることは、例えば刊行物2に「一般的に芳香族成分は熱安定性が悪く、粘度指数が低いことから潤滑油成分としては好ましくない。」との記載(上記イ(イ)c)があることや、周知技術1に係る刊行物a及びbに鉱油系基油を用いた実施例の記載があることからみて、当業者には明らかである。
また、刊行物1には、刊行1発明の「潤滑油組成物」の具体的な用途として「自動変速機や湿式ブレーキオイルなど」との記載があるものの、この記載は、刊行1発明の「潤滑油組成物」の具体的な用途を例示するものにすぎず、自動変速機又は湿式ブレーキオイル以外の用途に適用されないことを意味するものでないことは明らかであるし、仮に、刊行1発明の「潤滑油組成物」が自動変速機又は湿式ブレーキオイルのみに適用されるものであると解しても、上記オ(イ)で述べたように、自動変速機又は湿式ブレーキオイルに適用される「潤滑油」は「油圧作動油」としての機能も併せ持つものであることは周知であるから、刊行1発明の「潤滑油組成物」を「油圧作動油」とすることが格別困難なことであるということはできない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

(イ)請求人は、平成24年12月19日付け回答書において、明細書の段落【0007】における「建設機械や一般産業機械の油圧装置、あるいは水門、水力発電機等の油圧機器などの作動油」との記載に基づき、用途を明確にする補正の準備があるなどと釈明し、補正の機会を請求している。
しかし、「潤滑油」が油圧装置を作動させる「油圧作動油」としての機能を有することも周知であるから(例えば前述の刊行物dの1?3頁「1・2潤滑剤の機能」の項のうちの「(6)力の伝達」の項,特開平6-128580号公報の特に【請求項6】及び段落【0028】)、上記記載に基づく補正により特定の油圧機器に適用されるものであることが発明特定事項から明確にされたとしても、発明の進歩性は認められない。

(3)補正却下についてのむすび
以上より、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3 本願発明
平成24年4月27日付け手続補正は、上記2のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲に記載された発明は、平成23年12月5日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項によりそれぞれ特定されるものであると認められ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりである。
「%CA 2.5以下、粘度指数100以上、かつ40℃の動粘度10?100mm^(2)/secの基油に対し、組成物全量に基づき、(A)アミン系酸化防止剤として炭素数3?20のアルキル基を有するアルキル化ジフェニルアミンを0.01?5重量%、(B)フェノール系酸化防止剤として単環フェノール類を0.01?5重量%、及び(C)リン酸エステルとして炭素数3?30のアルキル基もしくはアルケニル基を有する脂肪族リン酸エステル、もしくはそれらのアミン塩、及び炭素数6?30のアリール基を有する芳香族リン酸エステルから選ばれる一種又は二種以上を0.01?5重量%を配合してなる油圧作動油組成物。」

4 刊行物及びその記載事項
刊行物1及び2は、上記2(2)イに記載したとおりであって、いずれも本願出願前に頒布されたものであり、原査定の拒絶の理由に引用文献3及び6としてそれぞれ引用されたものである。また、それらの記載事項も上記2(2)イに記載したとおりである。

5 対比・判断
本願発明1の発明特定事項は、本件補正発明の発明特定事項のうち、「鉱油系基油」を「基油」に拡張するとともに、「%CA」の「0.1以下」を「2.5以下」に拡張したものである。
そうすると、本願発明1は、本件補正発明を包含するものであるところ、本件補正発明は、上記2(2)オ(エ)で述べたとおり、刊行1発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件補正発明を包含する本願発明1も、本件補正発明と同様、刊行1発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
以上検討したところによれば、本願発明1は、刊行1発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、請求項1以外の請求項に係る発明について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-01-31 
結審通知日 2013-02-05 
審決日 2013-02-18 
出願番号 特願2008-94084(P2008-94084)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C10M)
P 1 8・ 575- Z (C10M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 神野 将志  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 目代 博茂
橋本 栄和
発明の名称 油圧作動油組成物  
代理人 大谷 保  

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