• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01N
審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 A01N
管理番号 1272423
審判番号 不服2011-2795  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-02-07 
確定日 2013-04-03 
事件の表示 特願2003-546655「農業又は園芸において使用するための製品」拒絶査定不服審判事件〔平成15年6月5日国際公開、WO03/45139、平成17年4月21日国内公表、特表2005-510526〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2002年11月22日〔パリ条約による優先権主張外国庁受理2001年11月23日(GB)英国〕を国際出願日とする出願であって、
平成21年11月16日付けの拒絶理由通知に対して、平成22年5月24日付けで意見書の提出及び手続補正がなされ、
平成22年9月28日付けの拒絶査定に対して、平成23年2月7日付けで審判請求がなされるとともに手続補正がなされ、
平成24年4月23日付けの審尋に対して、平成24年9月7日付けで回答書の提出がなされたものである。

2.平成23年2月7日付け手続補正について
平成23年2月7日付け手続補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1?7及び9?10を削除すると同時に、
補正前の「【請求項1】1つ以上の種子及び農芸化学化合物を含んで成る徐放製剤が配置されている湿気の存在下で溶解又は分解するカプセルを含んで成る、農業又は園芸において使用するための製品。」を引用する従属形式で記載された
補正前の「【請求項8】-前記カプセルの大きさは長さが10?20mmであり且つ3?8mmの範囲の直径を有し、-前記カプセルの材料がデンプン又はヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、-前記種子が植物又は花の種子であり、-前記徐放製剤が農芸化学化合物を0.1?50重量%含んで成り、そして-前記農芸化学化合物はアシベンゾラル-S-メチル、フルジオキソニル、ピロキロン、チアメトキサム、チオシクラム、ピメトロジン、プレチラクロール及びシノスルフロンを含んで成る群から選択されている、請求項1に記載の製品。」を、独立形式での記載に改めて、
補正後の「【請求項1】湿気の存在下で溶解又は分解するカプセルを含んで成る、農業又は園芸において使用するための製品であって、前記カプセルの大きさは長さが10?20mmであり且つ3?8mmの範囲の直径を有し、前記カプセルの材料はデンプン又はヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、そして前記カプセル内に少なくとも:植物又は花の種子、及びアシベンゾラル-S-メチル、フルジオキソニル、ピロキロン、チアメトキサム、チオシクラム、ピメトロジン、プレチラクロール及びシノスルフロンを含んで成る群から選択されている農芸化学化合物を0.1?50重量%含んで成る徐放製剤が配置されている、製品。」に改める補正からなるものであって、
補正前の請求項8の内容と補正後の請求項1の内容とに実質的な変更は認められない。
したがって、当該補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号に掲げる「第三十6条第5項に規定する請求項の削除」を目的とする補正に該当し、適法なものである。

3.本願発明
(1)本願発明
平成23年2月7日付け手続補正は上記のとおり適法なものであるから、本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成23年2月7日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。

(2)原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、「この出願については、平成21年11月16日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。」というものであって、
平成21年11月16日付けの拒絶理由通知書には、「1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」との理由が示されている。

(3)引用文献等及びその記載事項
ア.引用文献1
原査定の拒絶の理由に「引用文献1」として引用された本願優先権主張日前に頒布された刊行物である「特開昭48-085311号公報」には、次の記載がある。

摘記1a:特許請求の範囲の欄
「種子、その種子の発芽に物理的に好適に作用する基材及び場合により肥料、発芽生育促進剤及び病害虫防除薬剤の1種又はそれ以上を易水溶性ゼラチンカプセル中に含有するカプセル種子。」

摘記1b:第1頁右下欄第1?13行
「この被覆種子の欠点は次の通りである。…
(d)被覆物質及び粘着剤が植物によつては、発芽及び初期生育に悪い影響をあたえることがある。」

摘記1c:第2頁左上欄第20行?第3頁左上欄第7行
「(1)本発明によるカプセル種子は使用する種子の不整型微細、軽重にとらわれず加工出来、又播種機による精密播種が容易で、間引作業が大幅に軽減出来、かつ発芽及び初期生育を助長出来るような易水溶性ゼラチンカプセルの中に各種充填物とともに種子を1?2粒若しくはそれ以上納めたものである。
(2)本発明によるカプセル種子は植物の種類に応じた充填物の配合が可能である。
(3)加工後は輸送、播種作業に際し従来の加工種子にみられるような崩潰、破損は全くない。
(4)充填物の基材自体が低含水分で乾燥剤の役割をはたし、種子の長期保存が可能である。
(5)本種子は変形がないため専用の精密播種機によりすべての作物の種子を一大の機械で供用使用出来、又正確かつ能率的に播種出来る。…
本発明によるカプセル種子は楕円形、球状様のカプセル、及び充填物、供用種子から構成されている。(第1図及び第2図参照)
(a)カプセル
このカプセルは通常医薬用に使用されているものの中で特に水溶性の高いものを使用している。…又カプセルは土壌中の水分を吸収し速やかに膨軟化し、分解消失の経過を経る。…
本発明によるカプセル種子には種子の他に充填物として下記基材及び場合により下記補助剤を含むことが出来る。
(i)基材
ゼオライト、パーライト、バーミユキユライトその他類似物のような種子の発芽に物理的に好適に作用する物質を使用する。…
(ii)補助剤
(1)肥料…
(2)発芽促進剤及び植物生長剤…
(3)病害虫防除剤
植物の幼苗期の病害虫(例えば立枯病)を防除するため例えばPCNB剤、デクソン、酢酸トリフエニール錫、TUZ粉剤、PCPバリユウム粉剤、BEPB粉剤、ジネブ粉剤等、発芽に支障を来さないものは孰れも添加することが出来る。」

摘記1d:第3頁右上欄第12行?左下欄第9行
「例1 てん菜を供試作物とした場合
カプセルはバークデービス株式会社提供の易水溶性のゼラチンカプセル2号を使用し、1カプセル当り基材(ゼオライト99%+過燐酸石灰1%)を0.443g、立枯病防除剤としてPCNB5%剤を0.002gとデクソン0.002gを充填したものを使用して、発芽及び初期生育に就いて試験した。…
──────┬───────────────────────────
区 別 │ 備 考
──────┼───────────────────────────
カプセル種子│株間23.5cm、1カプセル中種子2粒入、PCNB剤入


摘記1e:第5頁の第1図及び第2図
「第1図 外形構造 楕円形状カプセル

…第2図 断面図

A 種子
B 充填剤
基材:ゼオライト
補助剤:…病害虫防除剤等
C カプセル:厚さ0.1?0.08mm」

イ.引用文献2
原査定の拒絶の理由に「引用文献2」として引用された本願優先権主張日前に頒布された刊行物である「特開昭60-214811号公報」には、次の記載がある。

摘記2a:請求項3?4
「(3)植物の種に作用することのできる少なくとも一つの補助剤と共に植物の種をカプセル化し、植物体又は生長及び発育のための環境を作る、ことからなる生長及び発育のための環境を得るのに分裂組織を隔離する方法。
(4)前記補助剤が、農薬、除草剤、殺虫剤、殺菌剤、燻蒸剤、防虫剤、殺鼠剤、肥料、栄養素、砂糖、炭水化物、ATP、微生物、生長調整物質及びホルモンである特許請求の範囲第1項又は第3項に記載の方法。」

摘記2b:第3頁左下欄第10行?第4頁左上欄第19行
「更に他の欠点として、アジユバントの多くが揮発性、可燃性、有毒、或いは他の点で環境に有害であり、従つて、取扱及び適用の点で作業者にも環境にも問題がある。…
アジユバントをマイクロカプセル化してアジユバントの取り出しを制御的に行ない、それにより活性持続時間を長くすることが提案されている。」

摘記2c:第5頁左上欄第2?6行
「更に別法として、カプセルの諸成分をマイクロカプセル化するか他の処理に付して、各成分の取り出しをおくらせたり制御したり、更にカプセル中である成分を他のアジユバント成分から保護することが可能である。」

摘記2d:第6頁右下欄第7行?第7頁左上欄第10行
「分裂組織のカプセル化に有用であると判明しているゲルとして、…アルギン酸ナトリウム+ゼラチンがある。他の適当なゲルとして以下のものがあるが、これらに限定されるものではない。…
ゼラチン
澱 粉」

摘記2e:第8頁左下欄第4行?第9頁左上欄第13行
「その他の適当な補助剤は、限定的ではないが下記のもの含む。…
B.殺虫剤…
チオシクラム」

ウ.引用文献4
原査定の拒絶の理由に「引用文献4」として引用された本願優先権主張日前に頒布された刊行物である「国際公開第99/044421号」には、和訳にして、次の記載がある。

摘記4a:第1頁第11?22行
「熱可塑性樹脂で被覆された固体担体上の殺生剤は、例えばEP-A-25255号から公知である。このような処方は、その活性成分の遅い放出、生物学的活性の延長、取り扱いおよび適用安全性の改善を示す。…
今や驚くべきことに、本発明に従う組成物で、殺生剤アシベンゾラー-Sメチル、フラチオカーブ、チアメトキサムおよびそれらの混合物のための制御された放出が、100日以上にわたってほぼ一定の速度で達成可能であることが判明した。その活性成分の効能の期間は、コーティング層の数、種類および厚さによってコントロールできるため、適用速度を最適化でき、且つ処理された単位面積当たり必要な活性成分を低減することができる。更なる利点は、農薬のダストへの曝露を避けることによる安全な取り扱い、およびパッケージ中に農薬の残渣が無いことである。」

摘記4b:第8頁第14行?第13頁9行
「チアメトキサムコアGR2.7:
約1mmの直径と、約3mmの長さを有するロッド状の形状の粒体で、且つ以下から成る粒体:
2.7% 5-(2-クロロチアゾール-5-イルメチル)-3-メチル-4-ニトロイミノ-パーヒドロ-1,3,5-オキサジアジン、殺虫剤…
例7(製造例)…
(6)最後に、このように得られた6個のコーティング層でカバーされたチアメトキサムコアGRを、入口空気温度60℃、出口空気温度50℃以上の条件下で後乾燥に供する。…
このように、以下の組成を有する粒体の処方を製造する:
全コーティング層の厚さ 110μm
チアメトキサムコアGR2.7 84.0質量%(重量%)
流動パラフィン 0.5質量%(重量%)
PVAc l5質量%(重量%)
タルク 0.5質量%(重量%)」

エ.参考文献A
本願優先権主張日前の一般的な技術水準を示すために「参考文献A」として提示する「特開昭62-179303号公報」には、次の記載がある。

摘記A1:第3頁左上欄第14行?第4頁右上欄第6行
「容器本体を形成する水溶性物質としては、この目的を達成し、植物体に無害のものであればよく、ゼラチン、…ヒドロキシプロピルメチルセルロース、澱粉、…などの水溶性高分子が例示されるが、これらに限定されるものではない。…
第1図に示す播植物は、播種後、土中の水分や雨水等の環境水分によりその容器本体2および蓋本体2aが溶失し、薄膜3および3aが残ることになるが、該薄膜3は芽または根の生長により容易に破壊されるものである。」

オ.参考文献B
本願優先権主張日前の一般的な技術水準を示すために「参考文献B」として提示する「特開2000-191407号公報」には、次の記載がある。

摘記B1:段落0003
「安定した収量を得るために様々な農薬が使用されている。農薬活性成分も作物に対する薬害軽減、残効性の付与などのために様々な方法で放出制御製剤が開発され次第に実用化されている。例えば、特公平1-5002号公報では、粒状固型農薬粒子を熱可塑性樹脂で被覆した粒状徐放性農薬を提案している。」

摘記B2:段落0013?0015
「除草剤では、…シノスルフロン…プレチラクロール…殺虫剤では、…チオシクラム…殺菌剤では、…ピロキロン…アシベンゾラール-S-メチル」

カ.参考文献C
本願優先権主張日前の一般的な技術水準を示すために「参考文献C」として提示する「実公昭41-8028号公報」には、次の記載がある。

摘記C1:第1頁右欄第1?11行
「即ち本考案によつて作成した包状体を施肥播種機装着の容器内に収納し、該機械の進行に伴い容器の出口から1個宛地上に落下して、土壌に埋設せしめる訳であるが、土壌中にあつて、所定期間経過後包状体被膜は外囲の水分を吸収して容易に溶解する。而して吸湿性溶解被膜として可溶性澱粉、寒天質、ポリビニールアルコール等水溶性樹脂等のうち適宜種類を選択し、或は被膜の厚みを適宜選択することにより、種子の種類による播種後の発芽時期の相違に無関係に発芽後適期に施肥が出来るようになし得る。」

キ.参考文献D
本願優先権主張日前の一般的な技術水準を示すために「参考文献D」として提示する「国際公開第00/018835号」には、和訳にして、次の記載がある。

摘記D1:第1頁第3?9行
「本発明は、薬学、獣医学、食品、化粧品又は他の製品、たとえば食品、アスピック又はゼリーを包むための膜、好ましくはプレドーズ製剤、たとえばソフト又はハードカプセルで使用するための変性デンプン、たとえばデンプンエーテル及び酸化デンプン、より具体的にはヒドロキシプロピル化デンプン(HPS)及びヒドロキシエチル化デンプン(HES)からの組成物に関する。」

摘記D2:第2頁第1?9行
「ゼラチン以外の材料、特に変性セルロースでカプセルを製造する試みがなされてきた。工業的に成功した例は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)でできたカプセルである。HPMCカプセルは、HGCを上回るいくつかの利点を示す。しかし、原料HPMCはゼラチンよりも有意に高価である。デンプンは、更新可能であり、生分解性であり、安価であるもう一つの豊富な天然多糖である。」

摘記D3:第7頁第10?13行
「本発明のHPS又はHESカプセルは、たとえば農薬、種子、薬草、食品、染料、医薬品、着香料などのための単位剤形を提供するための容器の製造に使用することができる。」

ク.参考文献E
本願優先権主張日前の一般的な技術水準を示すために「参考文献E」として提示する「特開2000-128779号公報」には、次の記載がある。

摘記E1:段落0040
「カプセルとしては、通常のゼラチンカプセル、ヒドロキシプロピルメチルセルロースカプセルあるいはデンプンカプセル等(例えば日本薬局方硬カプセル)が使用できる。」

(4)引用文献1に記載された発明
摘記1aの「種子、その種子の発芽に物理的に好適に作用する基材及び…病害虫防除薬剤…を易水溶性ゼラチンカプセル中に含有するカプセル種子。」との記載、
摘記1dの「例1 てん菜を供試作物とした場合 カプセルは…易水溶性のゼラチンカプセル2号を使用し、1カプセル当り基材(ゼオライト99%+過燐酸石灰1%)を0.443g、立枯病防除剤としてPCNB5%剤を0.002gとデクソン0.002gを充填したものを使用して、発芽及び初期生育に就いて試験した。…1カプセル中種子2粒入」との記載、及び
摘記1eの「第1図 外形構造 楕円形状カプセル」において、長さが18mmで、直径が6mmのカプセルが図示されていることからみて、引用文献1には、
『種子、その種子の発芽に物理的に好適に作用する基材(ゼオライト99%+過燐酸石灰1%)を0.443g、及び病害虫防除薬剤(立枯病防除剤としてPCNB5%剤を0.002gとデクソン0.002g)を充填したものを長さが18mmで、直径が6mmの易水溶性ゼラチンカプセル中に含有するカプセル種子。』についての発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(5)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「種子」及び「カプセル種子」は、摘記1dの「てん菜を供試作物とした場合」との記載からみて、当該「種子」が「てん菜」という農業作物の植物の種子であることが明らかなので、本願発明の「植物又は花の種子」及び「農業又は園芸において使用するための製品」に相当し、
引用発明の「長さが18mmで、直径が6mmの易水溶性ゼラチンカプセル」は、摘記1cの「このカプセルは通常医薬用に使用されているものの中で特に水溶性の高いものを使用している。…又カプセルは土壌中の水分を吸収し速やかに膨軟化し、分解消失の経過を経る」との記載からみて、湿気の存在下で溶解する作用を有しているものと認められるから、本願発明の「湿気の存在下で溶解又は分解するカプセル」であって「前記カプセルの大きさは長さが10?20mmであり且つ3?8mmの範囲の直径を有」するものに相当する。
引用発明の「その種子の発芽に物理的に好適に作用する基材(ゼオライト99%+過燐酸石灰1%)を0.443g、及び病害虫防除薬剤(立枯病防除剤としてPCNB5%剤を0.002gとデクソン0.002g)を充填したもの」は、基材と病害虫防除薬剤とを調合してなる『製剤』としてカプセル中に含有されるものであり、
そのうちのPCNB(CAS登録番号82-68-8)及びデクソン(CAS登録番号140-56-7)の2種類の化合物が本願発明の「農芸化学化合物」に相当し、これが引用発明の製剤(基剤及び病害虫防除薬剤)の全量に占める割合は(0.0001+0.002)÷(0.443+0.002+0.002)=0.47%となるから、
本願発明の「アシベンゾラル-S-メチル、フルジオキソニル、ピロキロン、チアメトキサム、チオシクラム、ピメトロジン、プレチラクロール及びシノスルフロンを含んで成る群から選択されている農芸化学化合物を0.1?50重量%含んで成る徐放製剤」という発明特定事項に照らして、
カプセル内に配置される『農芸化学化合物を0.1?50重量%含んで成る製剤』である点において一致する。
してみると、本願発明と引用発明は、『湿気の存在下で溶解又は分解するカプセルを含んで成る、農業又は園芸において使用するための製品であって、前記カプセルの大きさは長さが10?20mmであり且つ3?8mmの範囲の直径を有し、そして前記カプセル内に少なくとも:植物又は花の種子、及び農芸化学化合物を0.1?50重量%含んで成る製剤が配置されている、製品。』という点において一致し、
(α)カプセルの材料が、本願発明においては「デンプン又はヒドロキシプロピルメチルセルロース」であるのに対して、引用発明においては「ゼラチン」である点、及び
(β)カプセル内に配置される『農芸化学化合物を0.1?50重量%含んで成る製剤』が、本願発明においては「アシベンゾラル-S-メチル、フルジオキソニル、ピロキロン、チアメトキサム、チオシクラム、ピメトロジン、プレチラクロール及びシノスルフロンを含んで成る群から選択されている農芸化学化合物を0.1?50重量%含んで成る徐放製剤」であるのに対して、引用発明においては「その種子の発芽に物理的に好適に作用する基材(ゼオライト99%+過燐酸石灰1%)を0.443g、及び病害虫防除薬剤(立枯病防除剤としてPCNB5%剤を0.002gとデクソン0.002g)を充填したもの」である点、
の2つの点において相違する。

(5)判断
上記(α)及び(β)の相違点について検討する。
上記(α)の点について、引用文献2には、補助剤(除草剤、殺虫剤、殺菌剤など)と共に植物の種をカプセル化する方法において(摘記2a)、ゼラチンや「澱粉」などの材料が有用(摘記2d)であることが記載されており、参考文献Aには、播種後の環境水分により溶失する容器本体を形成する水溶性物質としてゼラチンや「澱粉」などの水溶性高分子(摘記A1)が記載されており、参考文献Cには、土壌中の水分を吸収して容易に溶解する吸湿性溶解被膜の材料として「可溶性澱粉」等の水溶性樹脂(摘記C1)が記載されており、参考文献Dには、農薬や種子や医薬品などのための容器の製造に使用することができるカプセルの材料として、従来のヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)やデンプンに代えて「変性デンプン」を採用し得ること(摘記D1?D3)が記載されており、参考文献Eには、薬物放出制御型錠剤を充填するためのカプセルとして、ヒドロキシプロピルメチルセルロースカプセルあるいはデンプンカプセル等が使用できること(摘記E1)が記載されている。
すなわち、植物の発芽及び発育の際に溶解消失するカプセル容器の材料として「デンプン」は刊行物公知ないし周知のものと認められ、また、医療用のカプセル容器の材料として「デンプン」及び「ヒドロキシプロピルメチルセルロース」は周知のものと認められる。
してみると、一般に『一定の課題を解決するために公知材料の中からの最適材料の選択又は均等物による置換』を行うことは当業者の通常の創作能力の発揮であるところ、
引用発明の「易水溶性ゼラチンカプセル」は、引用文献1において「土壌中の水分を吸収し速やかに膨軟化し、分解消失の経過を経る」ような材料として、易水溶性の「ゼラチン」が採用されているものと認められるから(摘記1c)、引用発明の「易水溶性ゼラチンカプセル」の材料を、引用文献2並びに参考文献A及びCに記載された刊行物公知ないし周知の「澱粉」等の材料に変更することは、当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内のことと認められ、
また、引用「易水溶性ゼラチンカプセル」は、引用文献1において「通常医薬用に使用されている」ような材料として、易水溶性の「ゼラチン」が採用されているものと認められるから(摘記1c)、引用発明の「易水溶性ゼラチンカプセル」の材料を、参考文献D?E等に記載された周知の「デンプン」又は「ヒドロキシプロピルメチルセルロース」に変更することは、当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内のことと認められる。
そして、カプセルの材料の種類を「デンプン又はヒドロキシプロピルメチルセルロース」に特定することによって、格別予想外の選択的な効果が得られたとも認められない。
したがって、上記(α)の相違点については、当業者が容易に想到し得たものと認められる。

上記(β)の点について、摘記2aの「補助剤と共に植物の種をカプセル化し、…前記補助剤が…殺虫剤…である特許請求の範囲…第3項に記載の方法。」との記載、摘記2dの「カプセル化…澱粉」との記載、摘記2eの「殺虫剤…チオシクラム」との記載、及び摘記2cの「カプセルの諸成分をマイクロカプセル化するか他の処理に付して、各成分の取り出しをおくらせたり制御したり、更にカプセル中である成分を他のアジユバント成分から保護することが可能である。」との記載からみて、
本願発明の「チオシクラム」はカプセル種子用の農芸化学化合物として周知のものと認められ、カプセル中に配置する殺虫剤成分(チオシクラム)をマイクロカプセル化などの処理に付して当該成分の放出を遅延・制御(徐放化)することも引用文献2に記載されるように刊行物公知ないし周知のことと認められ、
同時に、引用文献2には、『補助剤(殺虫剤成分)と共に植物の種をカプセル化する方法であって、カプセルの材料が澱粉であり、前記補助剤(殺虫剤成分)をマイクロカプセル化などの処理に付して、殺虫剤成分(チオシクラム)を徐放化し、カプセル中で或る成分(植物の種など)を他の成分(殺虫剤成分など)から保護する方法。』についての発明が記載されているものと認められる。
また、摘記4aの「熱可塑性樹脂で被覆された固体担体上の殺生剤は、…その活性成分の遅い放出、生物学的活性の延長、取り扱いおよび適用安全性の改善を示す。…本発明に従う組成物で、殺生剤アシベンゾラー-Sメチル、…チアメトキサムおよびそれらの混合物のための制御された放出が、100日以上にわたってほぼ一定の速度で達成可能であることが判明した。」との記載からみて、
本願発明の「アシベンゾラル-S-メチル」及び「チアメトキサム」は活性成分の遅い放出及び適用安全性の改善を示す『徐放製剤』用の農芸化学化合物として周知のものと認められ、
摘記4bの「6個のコーティング層でカバーされたチアメトキサムコアGR…以下の組成を有する粒体の処方…チアメトキサムコアGR2.7 84.0質量%(重量%)」との記載からみて、引用文献4には、『チアメトキサムを84.0×0.027=2.27重量%含んでなる徐放製剤。』についての発明が記載されているので、
本願発明の「アシベンゾラル-S-メチル、フルジオキソニル、ピロキロン、チアメトキサム、チオシクラム、ピメトロジン、プレチラクロール及びシノスルフロンを含んで成る群から選択されている農芸化学化合物を0.1?50重量%含んで成る徐放製剤」は、引用文献4に記載されるように刊行物公知のものと認められる。
さらに、摘記B2の「除草剤では、…シノスルフロン…プレチラクロール…殺虫剤では、…チオシクラム…殺菌剤では、…ピロキロン…アシベンゾラール-S-メチル」との記載、及び摘記B1の「農薬活性成分も作物に対する薬害軽減…のために様々な方法で放出制御製剤が開発され…粒状固型農薬粒子を熱可塑性樹脂で被覆した粒状徐放性農薬」との記載からみて、
本願発明の『アシベンゾラル-S-メチル、ピロキロン、チアメトキサム、チオシクラム及びプレチラクロール』は「徐放性農薬」用の農芸化学化合物として周知のものと認められ、農薬活性成分を熱可塑性樹脂などで被覆した徐放性農薬が「薬害軽減」の作用を発揮し得ることも周知のことと認められる。
してみると、一般に『一定の課題を解決するために公知材料の中からの最適材料の選択又は均等物による置換』を行うことは当業者の通常の創作能力の発揮であるところ、
引用発明の「病害虫防除薬剤(立枯病防除剤としてPCNB5%剤を0.002gとデクソン0.002g)」は、引用文献1において「発芽に支障を来さないものは孰れも添加することが出来る」とされた「病害虫防除薬剤」の一例として採用されたにすぎないものと認められるから(摘記1c)、
引用発明の「その種子の発芽に物理的に好適に作用する基材(ゼオライト99%+過燐酸石灰1%)を0.443g、及び病害虫防除薬剤(立枯病防除剤としてPCNB5%剤を0.002gとデクソン0.002gを充填したもの)」を、その配合割合をそのままに、引用文献2に記載された『カプセル中に配置する殺虫剤成分(チオシクラム)をマイクロカプセル化などの処理に付して徐放化した製剤』にしてみること、若しくは引用文献4に記載された『チアメトキサムを84.0×0.027=2.27重量%含む徐放製剤』にしてみることは、当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内のことと認められる。
また、農芸化学化合物の材料の種類を「アシベンゾラル-S-メチル、フルジオキソニル、ピロキロン、チアメトキサム、チオシクラム、ピメトロジン、プレチラクロール及びシノスルフロンを含んで成る群から選択」することによって、格別予想外の選択的な効果が得られたとも認められない。
したがって、上記(β)の相違点については、当業者が容易に想到し得たものと認められる。

最後に、本願発明の効果について検討する。
ここで、平成23年3月17日付けの手続補正により補正された審判請求書の請求の理由において、審判請求人は、『平成22年5月24日付の手続補正書により補正された明細書の表1を用いて、種子の発芽に関する本願発明の有利な効果について説明いたします。…本願発明の種子(No.104?107)は、徐放製剤とカプセルのために非常に向上した発芽率(No.107では48%)を示しています。したがって、本願発明は、被覆された種子よりも有利な発芽率を示します。…また、単純に農芸化学化合物をキャベツ種子に与えると、発芽と植物成長が悪化することは明らかです。さらに、本願発明は、良好な発芽率に加えて、その成分又は組成などに関する柔軟性、及び閉鎖系であることによる安全性などの有利な効果を奏します(当初明細書の段落0005を参照してください)。このように、本願発明の有利な効果は、当業者によって容易に予想されるものではありません。』と主張している。
しかしながら、上記「本願発明は、被覆された種子よりも有利な発芽率を示します。」という効果について、摘記1bの「被覆種子の欠点は次の通りである。…(d)被覆物質及び粘着剤が植物によつては、発芽及び初期生育に悪い影響をあたえることがある。」との記載からみて、引用発明が「被覆された種子よりも有利な発芽率」を示し得ることは容易に予測可能であり、
上記「単純に農芸化学化合物をキャベツ種子に与えると、発芽と植物成長が悪化する」という効果について、引用発明においては「その種子の発芽に物理的に好適に作用する基材」が大量に用いられることによって「病害虫防除薬剤」の濃度が製剤中0.47重量%にまで希釈されているので、摘記B1の農薬活性成分による「作物に対する薬害」の軽減という徐放薬剤における周知の効果と同等の効果を示し得ることは容易に予測可能であり、
上記「その成分又は組成などに関する柔軟性、及び閉鎖系であることによる安全性などの有利な効果」について、摘記1cの「(2)本発明によるカプセル種子は植物の種類に応じた充填物の配合が可能である。」等の記載、及び摘記2bの「アジユバントの多くが…有毒…の点で…有害であり、…取扱…の点で作業者にも…問題がある。」との記載からみて、引用発明の「カプセル種子」が「柔軟性」及び「安全性」の点で有利な効果を示し得ることは容易に予測可能である。
したがって、本願発明に当業者にとって格別予想外の顕著な効果があるとは認められない。

(6)まとめ
以上総括するに、本願発明は、引用文献1?2及び4に記載された発明(並びに参考文献A?Eに記載された周知技術)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-10-31 
結審通知日 2012-11-06 
審決日 2012-11-20 
出願番号 特願2003-546655(P2003-546655)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A01N)
P 1 8・ 571- Z (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福島 芳隆  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 木村 敏康
村守 宏文
発明の名称 農業又は園芸において使用するための製品  
代理人 永坂 友康  
代理人 青木 篤  
代理人 古賀 哲次  
代理人 出野 知  
代理人 石田 敬  
代理人 三間 俊介  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ