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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
管理番号 1272429
審判番号 不服2011-17580  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-08-12 
確定日 2013-04-03 
事件の表示 特願2002-526598「テープ駆動機構および印刷装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 3月21日国際公開、WO02/22371、平成16年 3月25日国内公表、特表2004-508974〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2001年9月5日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2000年9月11日、英国、2000年11月22日、英国、2001年1月9日、英国、2001年5月2日、英国)を国際出願日とする出願であって、平成15年5月9日付けで国際出願翻訳文が提出され、平成17年2月17日付け、平成20年9月5日付け及び平成23年3月17日付けで手続補正がなされたが、平成23年4月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月12日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。
当審においてこれを審理した結果、平成24年6月25日付けで拒絶の理由を通知したところ、審判請求人は同年10月17日付けで意見書を提出した。

2 本願発明
本願の請求項1ないし12に係る発明は、平成23年3月17日付け手続補正後の明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるものであり、その請求項12に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「【請求項12】
2つのステッパモータ(14、15)と、
それぞれが一方のステッパモータ(14、15)で駆動されるテープの両スプール(7、11)が装着される、2つのテープ・スプール支持部(8、12)と、
上記2つのステッパモータの起動を制御して、2つのテープ・スプール支持部(8、12)に装着されたスプール間における少なくとも一方向にテープを搬送するコントローラ(17)と、を備えてなるテープ駆動機構であって、
上記コントローラ(17)は、両方のステッパモータ(14、15)を起動して、両テープ・スプールをテープ搬送方向へ駆動し、かつ、搬送されるテープのテンションはステッパモータ(14、15)の制御のみで設定される、テープ駆動機構。」

3 引用刊行物
(1)平成24年6月25日付け当審の拒絶の理由に引用され、本願の最先の優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平11-321052号公報(以下「刊行物1」という。)には、以下の記載が図とともにある(下線は審決において付した。以下同じ。)。
ア 【請求項1】 プリントステーションにおいて、表面上で打撃手段により用紙が打撃されるプラテンと、前記打撃手段と前記用紙との間を通過するように駆動されるプリントリボンを備えたプリンタに使用されるプリントリボンの送り装置であって、
インクが付着しているインク部分の両端に、インクが付着していない2つのクリーンハンド部分が結合されてなり、該2つのクリーンハンド部分が2つのスプールにそれぞれ巻き付けられ、一方の前記スプールから巻き戻されて、他方の前記スプールに巻き取られるプリントリボンと、
前記スプールを回転駆動するように前記各スプールにそれぞれ結合された、巻き取り用モータ及び制動力を作用させる送り用モータを備え、前記プリントリボンの送り方向を反転する反転機能を備え又は備えていない駆動手段と、
前記2つのモータの角速度を検知してそれぞれの駆動を制御する制御手段とを、前記プリントリボンを巻き取るように駆動する角速度が大きい方のスプールを角速度が小さい方のスプールから判別する手段と備えてなるプリントリボンの送り装置。
イ 【0027】リボン22は、プリントステーション18の長さ方向に沿って延びており、その両端部が、対向する2つのスプール28,30に巻き付けられている。スプール28,30は、プリンタ10の下端部に設置されたリボン移送装置32に結合されている。
【0028】リボン移送装置32は、分離した状態で図2に示されている。両端に位置するスプール28,30は、それぞれスピンドル34,36に回転可能に装着される。また、スピンドル34,36は、ステッピングモータに結合されている。このステッピングモータについては、後のモータ及び制御システムの説明において詳述する。プリントステーション18にリボン22を正しく装着するため、リボン移送装置32の両端部に1対のガイドが取り付けられており、これによって、リボン22の適切な装着を容易にしている。このガイドの一方は、図1,図2、及び図4にガイド38として示されており、他方は、このガイド38と対称な位置に、一部隠れた状態で示されている。
ウ 【0035】図2に示すように、スプール28,30を駆動するため、2つのステッピングモータ86,88がそれぞれスピンドル34,36に結合されている。ステッピングモータ86,88は、図5に示すように、導線90,92によって本発明の電気回路を備えたコントローラに接続されている。それぞれのステッピングモータ86,88は、2相で作動するように、2つの極(pole)が直列に接続された第1の相及び第2の相を備えており、導線90,92はこのことを分かり易くするために模式的に示されている。これらの相は、8や16のような偶数の倍数(anymultiple even series)とすることが可能である。これらは、それぞれ対応する導線によって、全混合ブリッジドライバ(full H bridge drivers)に接続されている。この場合、モータ86において、導線77,79は第1の相に接続され、導線81,83は第2の相に接続されている。また、モータ88において、導線85,87は第1の相に接続され、導線89,91は第2の相に接続されている。2つのステッピングモータは、それぞれスピンドル34,36を介して、2つのスプール28,30に結合されている。
【0036】印字中の任意の時点においては、2つのモータ86,88のうち一方が、駆動トルクを与える。即ち、プリントステーション18を通過するリボン22を牽引するように巻き取る。この間、他方のモータが、送りスプールを介してリボンに必要な張力を与え、牽引している間のリボンの軌道を正しく維持する。リボン22の端部まで巻き取られると、2つのモータ86,88のそれぞれの役割は、反対になる。
エ 【0044】モータ86に巻き取り用のトルクが付与されて、リボン22が巻き取られている時、モータ88に制動トルクが与えられる。この回生モードにおいて、全混合ブリッジドライバ124,126は、マイクロコントローラ100によって、アドレスデコード入出力ラッチ110を介して、スリーステートモードで保持される。これによって、モータ88から、全混合ブリッジドライバ124,126が切り離される。このモードで作動する間、抵抗器バンク130,132は、巻き取り用のモータ88に接続される。

上記記載及び図面を含む刊行物1全体の記載から、刊行物1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「プリントステーションにおいて、駆動されるプリントリボンを備えたプリンタに使用されるプリントリボンの送り装置であって、
2つのスプールにそれぞれ巻き付けられ、一方の前記スプールから巻き戻されて、他方の前記スプールに巻き取られるプリントリボンと、
前記スプールを回転駆動するように前記各スプールにそれぞれ結合された、巻き取り用モータ及び制動力を作用させる送り用モータを備え、前記プリントリボンの送り方向を反転する反転機能を備え又は備えていない駆動手段と、
前記2つのモータの角速度を検知してそれぞれの駆動を制御する制御手段とを、
備えてなるプリントリボンの送り装置であって、
両端に位置するスプールは、それぞれスピンドルに回転可能に装着され、
前記スプールを駆動するため、2つのステッピングモータがそれぞれスピンドルに結合され、
印字中の任意の時点においては、2つのモータのうち一方が、駆動トルクを与え、即ち、プリントステーションを通過するリボンを牽引するように巻き取り、この間、他方のモータが、送りスプールを介してリボンに必要な張力を与え、牽引している間のリボンの軌道を正しく維持し、
前記一方のモータに巻き取り用のトルクが付与されて、リボンが巻き取られている時、前記他方のモータに制動トルクが与えられる
プリントリボンの送り装置。」(以下「引用発明1」という。)

(2)平成24年6月25日付け当審の拒絶の理由に引用され、本願の最先の優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平5-58014号公報(以下「刊行物2」という。)には、以下の記載が図とともにある。
ア 【0002】
【従来の技術】従来は、記録時のインクフィルムに所定の張力を与えるため、インクフィルムの巻き取り側リールではすべりクラッチを介して駆動する一方、供給側ではブレーキ機構を用いていた。また、インクフィルムをキャプスタンローラにより駆動し、トルクを一定に制御し、インクフィルムの張力を制御する方式も知られていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】熱転写プリンタにおいて、インクフィルムを巻いてあるリールの径は、インクフィルムの消費とともに変化する。上記従来の方法では、リールの巻径およびサーマルヘッドとインクフィルムとの摩擦力が変化すると、インクフィルムの張力も変化する。また、インクの転写量によっても、インクフィルムと記録紙との剥離力が変化する。その結果、記録時にインクフィルムにシワが発生するとともに速度変動が生じ、記録濃度が変動する問題があった。
イ 【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記目的を達成するために、熱転写プリンタのインクフィルム供給側Sリールの回転周期Tsを検出する手段と、インクフィルム巻き取り側Tリールの回転周期Ttを検出する手段と、SリールとTリールの回転周期TsとTtに基づいてSリールとTリールの巻径RsとRtを算出し、巻径RsとRtに応じて記録位置と両リールと間のインクフィルムの張力を一定にするための両リールのトルクを算出する演算手段と、算出したトルクに基づいて両リールのトルクを制御する手段とからなる熱転写プリンタのインクフィルム張力制御装置を提案するものである。
ウ 【0020】図1は、熱転写プリンタのインクフィルム張力制御装置の実施例の全体構成を示す系統図である。まず、インクフィルム搬送機構の構成を説明する。インクフィルム供給側リール(Sリール)22に巻かれているインクフィルム21は、ガイドローラ19を介して送り出され、サーマルヘッド5とプラテンローラ26との間を通り、インク巻き取り側リール(Tリール)6に巻き取られる。ここでは、Sリールの回転中心からインクフィルムの外周までの半径すなわち巻径を24、回転方向を23で示す。また、Tリールの回転中心からインクフィルムの外周までの半径すなわち巻径を7、回転方向を8で示す。
エ 【0023】Sリール22とTリール6は、DCモータ32等からなるSモータ32とTモータ29とにより駆動する。その回転は、パルスエンコーダ33,30で検出する。プラテンローラ26はステッピングモータ31で駆動する。
オ 【0028】インクフィルムの消費に従ってリールの巻径が変化すると、張力が変化する。この張力は、サーマルヘッド5とインクフィルム21との間の摩擦力の変化によっても変動する。また、インクフィルム21と記録紙28を分離する時の剥離力もインクの転写量によって変化するので、張力変動の一因になる。そこで、リールの巻径および記録時のリールのトルク変動を検出し、一定の張力が得られるように、SリールとTリールのトルクを制御する。
【0029】次に、張力制御回路の構成を説明する。パルスエンコーダ33,30で検出したSリールとTリールの回転信号は、2値化回路39,38でディジタル量に変換され、入力ポート45,44を介して、マイクロコンピュータ50に取り込まれる。バス46で相互接続されたCPU47,ROM48,RAM49等からなるマイクロコンピュータ50は、TリールとSリールの巻径RsとRtとを算出する。さらに、算出した巻径RsとRtに基づいて、所定の張力を発生するためにSモータ32,Tモータ29に与える電流値Is,Itを算出し、出力ポート43,40から出力する。出力ポート43,40の出力信号は,DCモータドライバ37,34に取り込まれる。DCモータドライバ37,34は、Sモータ32,Tモータ29に流す電流を所定の電流値Is,Itに制御し、トルクを制御する。

上記記載及び図面を含む刊行物2全体の記載から、刊行物2には、以下の発明が記載されていると認められる。
「インクフィルム供給側リール(Sリール)に巻かれているインクフィルムは、送り出され、インク巻き取り側リール(Tリール)に巻き取られ、SリールとTリールは、DCモータ等からなるSモータとTモータとにより駆動され、所定の張力を発生するためにSモータ,Tモータに与える電流値Is,Itを算出し、DCモータドライバは、Sモータ,Tモータに流す電流を所定の電流値Is,Itに制御し、トルクを制御するインクフィルム張力制御装置。」(以下「引用発明2」という。)

4 対比
a 本願発明と引用発明1とを比較すると、引用発明1の「2つのステッピングモータ」、「『プリントリボン』あるいは『リボン』」、「2つのスプール」、「2つのスピンドル」、「制御手段」、「リボン移送装置」及び「張力」は、それぞれ本願発明の「2つのステッパモータ」、「テープ」、「両スプール」、「2つのテープ・スプール支持部」、「コントローラ」、「テープ駆動機構」及び「テンション」に相当する。
b 引用発明1は「スプールを回転駆動するように前記各スプールにそれぞれ結合された、巻き取り用モータ及び制動力を作用させる送り用モータを備え」、「両端に位置するスプールは、それぞれスピンドルに回転可能に装着され、前記スプールを駆動するため、2つのステッピングモータがそれぞれスピンドルに結合され」ているから、引用発明1は、2つのステッパモータと、それぞれが一方のステッパモータで駆動されるテープの両スプールが装着される、2つのテープ・スプール支持部を備えているものといえる。
c 引用発明1の「制御手段」は「2つのモータの角速度を検知してそれぞれの駆動を制御する」ものであり、「駆動手段」は「プリントリボンの送り方向を反転する反転機能を備え又は備えていない」ものであり、「両端に位置するスプールは、それぞれスピンドルに回転可能に装着され、前記スプールを駆動するため、2つのステッピングモータがそれぞれスピンドルに結合され」るから、引用発明1の「制御手段」(コントローラ)は、2つのステッパモータの起動を制御して、2つのテープ・スプール支持部に装着されたスプール間における少なくとも一方向にテープを搬送するものといえる。
d 引用発明1の「プリントリボン」(テープ)は「一方の前記スプールから巻き戻されて、他方の前記スプールに巻き取られる」ものであり、引用発明1の「制御手段」は「2つのモータの角速度を検知してそれぞれの駆動を制御する」ものであり、「2つのモータのうち一方が、駆動トルクを与え、即ち、プリントステーションを通過するリボンを牽引するように巻き取り、この間、他方のモータが、送りスプールを介してリボンに必要な張力を与え、牽引している間のリボンの軌道を正しく維持し、前記一方のモータに巻き取り用のトルクが付与されて、リボンが巻き取られている時、前記他方のモータに制動トルクが与えられる」から、引用発明1の「制御手段」(コントローラ)と本願発明のコントローラは、両方のステッパモータで、両テープ・スプールをテープ搬送方向へ動かし、かつ、搬送されるテープのテンションはステッパモータの制御のみで設定される点で共通する。
e 上記aないしdより、本願発明と引用発明1は、
「2つのステッパモータと、
それぞれが一方のステッパモータで駆動されるテープの両スプールが装着される、2つのテープ・スプール支持部と、
上記2つのステッパモータの起動を制御して、2つのテープ・スプール支持部に装着されたスプール間における少なくとも一方向にテープを搬送するコントローラと、を備えてなるテープ駆動機構であって、
上記コントローラは、両方のステッパモータで、両テープ・スプールをテープ搬送方向へ動かし、かつ、搬送されるテープのテンションはステッパモータの制御のみで設定される、テープ駆動機構。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点]コントローラについて、本願発明は「両方のステッパモータを起動して、両テープ・スプールをテープ搬送方向へ駆動し」と特定されているのに対し、引用発明1は、一方のステッピングモータに巻き取り用のトルクが付与されているものの、他方のステッピングモータに制動トルクが与えられている点。

5 判断
(1)相違点についての検討
ア 引用発明2は「Sモータ,Tモータに与える電流値Is,Itを算出し、DCモータドライバは、Sモータ,Tモータに流す電流を所定の電流値Is,Itに制御し」ているから、Sモータ,Tモータはいずれも起動され、SリールとTリール(本願発明の「両テープ・スプール」に相当)をテープ搬送方向へ駆動していることが明らかである。
イ 引用発明1において、巻き取り方向に作用する力を正とすると、引用発明1の巻き取り用のトルクが付与される一方のステッピングモータによってプリントリボンに与えられる力から制動トルクが与えられる他方のステッピングモータによってプリントリボンに与えられる制動力を引いた力(巻き取り方向に作用する力を正とすると制動力は負の方向に作用しているから、計算上は絶対値を加えることになる。)がプリントリボンの張力となることは明らかである。
ウ 引用発明2において、巻き取り方向に作用する力を正とすると、引用発明2の「Tモータ」によって「インクフィルム」に与えられる力から「Sモータ」によって「インクフィルム」に与えられる力を引いた力が「インクフィルム」の張力となることは明らかである。
エ 引用発明1も引用発明2もいずれも2つのモータを有し、巻き取り方向に作用する力を正とすると、巻き取り側のモータによってテープに与えられる力から供給側モータによってテープに与えられる力を引いて、テープの張力を制御しようとする点で共通する機能、作用を有する技術である。
オ よって、引用発明1において、引用発明2を適用し、2つのステッピングモータ(両方のステッパモータ)を起動し、2つのスプール(両テープ・スプール)をテープ搬送方向へ駆動し、本願発明の上記相違点のような構成とすることは当業者が容易になし得る程度のことである。

(3)以上のように、本願発明の相違点に係る構成は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものであり、それにより得られる効果も当業者が予測できる範囲のものである。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-11-05 
結審通知日 2012-11-06 
審決日 2012-11-19 
出願番号 特願2002-526598(P2002-526598)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 貝沼 憲司  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 黒瀬 雅一
鈴木 秀幹
発明の名称 テープ駆動機構および印刷装置  
代理人 田中 光雄  
代理人 山崎 宏  
代理人 大塚 雅晴  

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