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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E04D
管理番号 1272766
審判番号 不服2011-12745  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-06-15 
確定日 2013-04-12 
事件の表示 特願2006-105840「防水断熱構造とこれに用いる断熱基板。」拒絶査定不服審判事件〔平成19年10月25日出願公開、特開2007-277936〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成18年4月7日の出願であって,平成23年3月25日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年6月15日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,同時に手続補正がなされたものである。
その後,当審において平成24年3月29日付けで補正の却下の決定及び拒絶理由通知を行ったところ,同年6月18日付けで意見書が提出されるとともに,同日付で補正書が提出されたものである。


第2 本願発明
本願の請求項3に係る発明は,平成24年6月18日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項3に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下,「本願発明」という。)。
「【請求項3】
塩ビ防水シートを上面に被覆固着するための断熱基板であって,断熱芯材とこの断熱芯材の上下面およびその両側部を被覆する金属板とこの金属板の表面に塗層される塩ビ樹脂層を具え,前記断熱芯材は硬質ポリウレタンフォームの発泡材により厚さ20mm以上に形成され,前記金属板は0.35mm厚のアルミニウム・亜鉛合金めっき鋼板(ガルバリウム鋼板)により形成して良好な剛性を確保するとともに,前記断熱基板の側部の一方には凹溝が他方には前記凹溝に嵌合する突条部を形成して,凹溝と突条部の嵌合により断熱基板の接合を堅固ならしめるとともに断熱基板と塩ビ防水シートとの固定を溶剤溶着又は高周波誘導加熱法のいずれによる固定にも適応できるようにしてなる断熱基板。」


第3 引用刊行物
当審において,平成24年3月29日付け拒絶理由通知で引用した刊行物は,以下のとおりである。
刊行物1:特開平11-172834号公報
刊行物2:特開2002-61339号公報
刊行物3:特開2005-146774号公報

(1)刊行物1の記載内容
本願出願日前に頒布された刊行物である刊行物1には,次の事項が記載されている。(下線は当審にて付与。)
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】ハニカムコアのセル内にフェノール樹脂発泡体が充填されてなる断熱層を有する屋根用断熱パネルを,母屋あるいは梁の上に設置することによりほぼ水平に複数連設し,これら屋根用断熱パネル上に防水層を形成したことを特徴とする屋根。」
(1b)「【0009】各発明記載の屋根用断熱パネルの断熱層は,ハニカムコアにフェノール樹脂を加熱発泡させ,充填,硬化させて得られる。この断熱層を効率良く得るための製造方法の一例を説明すると,有機系マット状繊維物,あるいは無機系マット状繊維物,または有機系,無機系の複合されたマット状繊維物の片面あるいは両面に発泡性フェノール樹脂を散布し,該発泡性フェノール樹脂の発泡硬化温度以下の温度で加熱融着した発泡性フェノール樹脂複合物にハニカムコアを積層して加熱発泡成形する。これにより,ハニカムコアの各セル中にフェノール樹脂の発泡体をほぼ均一に充填できる。この時,ハニカムコアのセルへのフェノール樹脂発泡体の充填率は100%である必要は無く,ハニカムコアのセルがフェノール樹脂発泡体によって閉ざされた状態であれば,この断熱層の後述する各種特性が得られる。発泡性フェノール樹脂としては,ノボラック型フェノール樹脂または固形レゾール樹脂に発泡性を付与したもの等が採用できる。マット状繊維物の素材としては,ポリエステル不織布,ガラスチョップドストランドマット等が採用できる。ハニカムコアの素材としては,有機系,無機系あるいはこれらの複合された紙,金属を成形してなるフィルムまたはシート,合成樹脂等が採用される。さらに具体的には,例えば,クラフト紙,フェノール樹脂含浸紙,不燃紙,アルミニウム,FRP,アラミドペーパー等の,いずれも軽量なものを採用することが好ましく,フェノール樹脂発泡体とともに成形することにより,軽量かつ高強度の断熱層が得られる。そして,屋根用断熱パネルは,発泡性フェノール樹脂複合物とハニカムコアとを積層し,金型温度を120℃?200℃に保持した1段または多段のプレスにより,熱圧時間2?30分にて成形される。成形物の厚みは,例えば型枠やスペーサを用いることで自在に調整できる。なお,この屋根用断熱パネルの特性を発揮するには,厚さを5?100mmにすることが好ましく,さらに好ましくは10?70mmが適当である。」
(1c)「【0011】また,この屋根用断熱パネルは,耐火性,断熱性,耐薬品性,吸音性に優れている。前述の紙製ハニカムコアを適用した屋根用断熱パネルでは,熱伝導率0.032Kcal/m・hr・℃,酸素指数38が得られている。また,耐火性については,フェノール樹脂発泡体の準不燃性によって,屋根用断熱パネルにも準不燃性が得られる。なお,この屋根用断熱パネルは,不燃性物質を混入することにより,さらに高い耐火性を得ることができる。例えば,不燃性物質として,グラスウール等を採用して,フェノール樹脂発泡体内に埋設すると,耐火性が向上するとともに,強度の向上をも図ることができる。なお,建物の断熱材として多用されるウレタンフォームは,本発明の屋根用断熱パネルと同程度の熱伝導率を有するが,可燃物であるため耐火性に乏しく,屋根の耐火性を得るには,屋根に耐火物層を別途設ける必要が生じる。これに対して,本発明の屋根用断熱パネルでは,高い耐火性が得られるため,別途耐火物層を屋根に設ける必要は無い。また,フェノール樹脂発泡体は,火炎を照射しても炭化するだけで(低発煙性),青酸ガス等の有毒ガスを発生しないため(低毒性),高い安全性が得られる。」
(1d)「【0013】また,各発明記載の屋根用断熱パネルは,鋼板等の金属製薄板,金属箔,樹脂からなるシートあるいはパネル,紙や木等からなる板材等を,表面材として貼着することも可能である。鋼板等の金属板を貼着すると屋根用断熱パネルの強度が一層高まり,軽量かつ高強度の屋根用構造材として有効に使用することができ,屋根への施工性を向上できる。金属板,樹脂シートや樹脂パネルを貼着した時には,屋根用断熱パネルの防水性が高まる。このため,この屋根用断熱パネルを使用した屋根では,防水施工事を省略あるいは簡略化することができる。紙や木等からなる板材を貼着すると,屋根用断熱パネルの強度が高まる。また,この板材を貼着した面を下向きにして屋根用断熱パネルを屋根に施工することにより,屋根裏の美観が得られ,屋根裏部屋等では居住性が高まる。
【0014】
(省略)
【0015】防水層としては,シート防水工法に限定されず,各種メンブレン防水材が採用可能である。採用可能な防水層を,その工法によって分類すると,例えば,アスファルト防水工法,トーチ工法,シート防水工法,塗膜防水工法等が採用可能である。アスファルト防水工法では,アスファルト系防水材を敷き均して施工する。トーチ工法では,改良アスファルト系シート材を貼着,機械式固定(メカニカルファスニング:機械による固定ピン打ち)等により施工する。シート防水工法では,塩化ビニル,加硫あるいは非加硫のゴム等からなるシート材を貼着,機械式固定(メカニカルファスニング:機械による固定ピン打ち)等により施工する。塗膜防水工法では,ウレタン系,ポリエステル系,アスファルト系塗膜防水材を形成する。いずれの工法においても,プライマーを選択使用して,防水層と表面パネルとの定着性を高めることがより好ましい。」
(1e)「【0016】
【発明の実施の形態】以下本発明の屋根用断熱パネルの第1実施形態を,図1から図3を参照して説明する。図1に示した屋根(陸屋根)20では,母屋または梁としての鉄骨21上に設置した屋根用断熱パネル22を水平方向に複数連設し,これら屋根用断熱パネル22,22…上に防水層23を形成している。
【0017】図2は屋根用断熱パネル22の一例を示す斜視図である。図2において,この屋根用断熱パネル22は,紙製ハニカムコア22aをフェノール樹脂発泡体22b内に埋設してなるパネル状の断熱層22cと,この断熱層22cの表裏の面に表面材として貼着した表面パネル22d,裏面パネル22eとを備えている。表面パネル22d,裏面パネル22eとしては,金属薄板,金属箔,木製薄板,樹脂パネル等が採用される。金属薄板や金属箔の材質としては,アルミ,アルミ合金,ステンレス,鋼板,ガルバリウム,樹脂パネルとしてはカーボン,FRP等が採用される。なお,断熱層22cの表裏のいずれか一方あるいは両方の面には,マット状繊維物を備えることも可能である。
【0018】図1において,屋根用断熱パネル22の上側となる面に貼着した表面パネル22dは,樹脂等の防水性を有する素材から形成しているため,十分な防水性が確保される。反対側の裏面パネル22eの素材の選択は自由であるが,図1ではアルミニウム薄板を採用している。厚さ0.8mmのアルミニウム薄板を採用した場合,屋根用断熱パネル22の耐火性が向上する上,圧縮強度(10%歪み)が19kgf/cm^(2)程度になるなど,強度の向上も図れる。
【0019】図1においては,防水層23として防水シートを採用し,屋根用断熱パネル22の表面パネル22d上に接着している。表面パネル22d上には,プライマーを予め塗布しておくことで,接着作業を効率良く行うことができる。なお,表面パネル22dの材質としては,防水シートとの接着性を確保出来るものを選択する。」

そうすると,記載事項(1e)には,表面パネル22dとして金属薄板が採用され,金属薄板の材質としてはガルバリウム等が採用される旨の記載があり,記載事項(1d)には金属板を貼着すると屋根用断熱パネルの強度が一層高まり,軽量かつ高強度の屋根用構造材として有効に使用することができる旨の記載があるから,上記記載事項(1a)?(1e)及び図面の記載からみて,刊行物1には,以下の発明が記載されているものと認められる。
「母屋あるいは梁の上に設置することによりほぼ水平に複数連設し,屋根用断熱パネル上に防水層を形成する屋根用断熱パネルであって,
紙製ハニカムコア22aをフェノール樹脂発泡体22b内に埋設してなるパネル状の断熱層22cと,この断熱層22cの表裏の面に表面材として貼着した表面パネル22d,裏面パネル22eとを備え,
表面パネル22dと裏面パネル22eは金属板であって軽量かつ高強度であり,金属板はガルバリウムであり,
防水層23は塩化ビニルからなる防水シートであって屋根用断熱パネル22の表面パネル22d上に接着される,
屋根用断熱パネル」(以下,「刊行物1記載の発明」という。)

(2)刊行物2
本願出願前に頒布された刊行物2には,次の事項が記載されている。(下線は当審にて付与。)
(2a)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,金属製折板の上方に,耐火断熱層を介して防水層を敷設してある耐火断熱屋根構造に関する。」
(2b)「【0015】図1・2は,本発明の耐火断熱屋根構造の一例を示すもので,金属製折板1の上方に,耐火断熱層2を介して防水シート(防水層に相当)3を敷設して構成してある。」
(2c)「【0017】前記耐火断熱層2は,断熱本体部5bと,その外側の金属外皮部5aとを一体に形成してある耐火断熱パネル(断熱パネルの一例)5の複数を並設して構成してある(図3参照)。この耐火断熱パネル5について詳しく説明する。耐火断熱パネル5は,細長い板形状に形成してあり,前記折板1の長手方向と直交する方向にその長手方向を向けて配置される(図1参照)。また,各耐火断熱パネル5の両側縁部は,隣接させる耐火断熱パネル5と嵌合連結できるように,嵌合部6をそれぞれ設けてある。この嵌合部6は,当該実施形態においては,図3に示すように,実継ぎ構造をもって構成してある。具体的には,耐火断熱パネル5の一方の側縁部には,嵌合凸部6aを長手方向の全長にわたって形成してあり,他方の側縁部には,隣接させる別の耐火断熱パネル5の嵌合凸部6aと嵌合できる形状に形成された嵌合凹部6bを,長手方向の全長にわたって形成してある。従って,前記屋根面に沿って設置された各折板1上に,各耐火断熱パネル5を配置する際に,順次,隣り合う耐火断熱パネル5の前記嵌合凸部6aと嵌合凹部6bどうしを嵌合させることによって,夫々の耐火断熱パネル5を簡単に整列状態に連結することが可能となる。また,各耐火断熱パネル5相互の位置も自動的に決まり,わざわざ墨出し等の作業をする必要がない。そして,嵌合連結された前記嵌合部6においては,前記嵌合凸部6aと嵌合凹部6bの嵌め合いによって密閉性が向上し,より断熱性を向上させることが可能となる。また,敷設した耐火断熱パネル5上に上載荷重(例えば,荷物や人の荷重)が作用しても,前記嵌合凸部6aと嵌合凹部6bとの嵌合によって,パネル厚み方向への相対移動が規制されており,前記荷重を隣接する耐火断熱パネルそれぞれで分担して受け止めることが可能となり,踏み割れ・踏み抜け等が起こり難い。」
(2d)「【0019】そして,金属外皮部5aは,前記断熱本体部5bの外周面を包み込む状態に一体的に設けられている。この金属外皮部5aは,具体例として,亜鉛メッキ鋼板の薄板材で構成してある。
【0020】前記防水シート3は,合成樹脂製シート(例えば,軟質塩化ビニル)によって構成してあり,敷設された前記耐火断熱パネル5上に,例えば,接着材や,止め金具等を使用して固定される。」
(2e)「【0021】次に,当該実施形態の耐火断熱屋根の施工手順について説明する。
[1] 梁(又は,母屋)4上に,側縁部がラップする状態に各折板1を並設してボルト固定する。
[2] 前記折板1上に,耐火断熱パネル5の前記嵌合部6どうしが嵌合するように並設して耐火断熱層2を形成する(図4参照)。
(省略)」
(2f)【図3】には,次の図が記載されている。


(3)刊行物3
本願出願日前に頒布された刊行物3には,次の事項が記載されている。(下線は当審にて付与。)
(3a)「【請求項1】
金属製芯層の表面に合成樹脂製表面層が積層され,
躯体上に防水シートを敷設するに際して,躯体に固定され,高周波電磁誘導加熱により前記表面層に防水シートを溶着接合させるシート接合板であって,
高周波電磁誘導加熱によって前記防水シートが溶着接合される誘導加熱部と,この誘導加熱部の周囲に形成され,高周波電磁誘導加熱されない非加熱部とを有することを特徴とするシート接合板。」
(3b)「【0001】
この発明は,例えば屋根下地等の躯体上に,断熱工法により断熱パネルを介して防水シートを敷設するためのシート接合板,ならびにこのシート接合板を用いた断熱防水構造および断熱防水工法,さらにこれらの構造等に用いられる断熱遮炎シートに関する。」
(3c)「【0004】
防水シート(5)をシート接合板(51)に溶着する場合,溶剤や誘導加熱による溶着方法が多く使用される。しかし,溶剤による方法はその揮発成分等が周辺の環境に悪影響を及ぼす恐れがあるため,近年においては誘導加熱による溶着方法が好んで用いられる傾向にある。
【0005】
誘導加熱による溶着方法は,高周波電磁誘導によってシート接合板(51)の鋼板部分に熱を発生させ,その熱によりシート接合板(51)の樹脂表面層と防水シート(5)とを溶着一体化させるものである。
【0006】
しかしながら,上記従来の断熱防水構造において,誘導加熱溶着方法を用いた場合,シート接合板(51)が高温に加熱されるため,その熱は,防水シート(5)のみならずシート接合部材(50)の下側に配置される断熱パネル(2)にも伝達される。断熱パネル(2)は,通常,発泡ポリスチレン樹脂,発泡ポリ塩化ビニル樹脂,発泡ポリウレタン樹脂,発泡フェノール樹脂等の合成樹脂発泡成形体により構成されるため,誘導加熱時の熱影響により,溶融変形して陥没してしまい,断熱パネル(2)とシート接合板(51)や固着具(12)との間に緩みが生じて,防水シート(5)を安定状態に施工できない,また,固定具(12)の頭部がシート接合板(51)より飛び出し防水シート(5)を損傷する等の問題が発生する。
【0007】
上記問題を解消するために,シート接合板(51)の下に厚紙,段ボール,ガラスペーパー,ガラスクロス等の断熱材(52)を敷いた断熱防水構造が提案されている(図9参照)。また,断熱防水構造における防火性の向上を主目的として,断熱パネル(2)と防水シート(5)との間に石膏板,セメント板,ケイ酸カルシウム板等の無機ボート(53)を配設した断熱防水構造(図10参照),あるいは断熱パネル(2)として,発泡樹脂体に耐熱性面材を貼り付けた耐熱性断熱パネルやフェノール樹脂発泡成形体等の難燃性パネルを用いた断熱防水構造が提案されている。さらに,予めシート接合板の金属層に紙,合成ゴム系板等からなる遮熱層を積層しておくことも提案されている(特許文献2参照)。」
(3d)「【0043】
前記シート接合板(11)(21)において,芯層(13)(23)は高周波電磁誘導加熱が可能な金属であれば限定されないが,鋼板を推奨できる。また,表面層(14)(24)は,防水シート(5)を構成する合成樹脂に対し相溶性を有するもの,具体的には同種の合成樹脂により構成するか,あるいはホットメルト系接着剤により構成するのが好ましい。例えば防水シート(5)としてポリ塩化ビニル樹脂系の樹脂組成物からなるものを使用する場合には,表面層(14)(24)をポリ塩化ビニル樹脂により構成するのが好ましい。ホットメルト系接着剤としてはポリエステル系樹脂,アクリル系樹脂,EVA系樹脂により構成されるのが好ましい。この場合,防水シート(5)のシート接合板(11)(21)に対する接合強度を十分に確保することができる。」
ここで,防水シートは図面及び他の記載箇所では(5)として記載されているので,防水シート(3)は誤記と認め,防水シート(5)と認定した。
(3e)「【0063】
以下の各実施例,比較例,参照例の断熱防水構造を形成した。これらの断熱防水構造において,下記の施工材料および施工方法が共通する。
【0064】
即ち,防水シートとしてポリ塩化ビニル樹脂系の樹脂組成物よりなるシートを用いた。シート接合板の作製材料として,いずれも厚さ1.0mmの鋼板を芯層とし,この芯層の所要部分にポリ塩化ビニル樹脂からなる厚さ0.2mmの表面層を積層したもの用いた。前記シート接合板を固定するための固着具として固定釘を用いた。また,防水シートとシート接合板の溶着は,直径62mmの円形を有効領域とする高周波ホーン(H)を用いる高周波電磁誘導加熱によって行った。この高周波電磁誘導加熱においてシート接合板は230℃に加熱される。また,シート接合板の押圧力は500Nである。
【0065】
〈実施例1〉
図1Aおよび図1Bの平板状のシート接合板(11)を用い,図3の第1実施形態に対応する断熱防水構造を形成した。使用したシート接合板(11)は,一辺が75mmの正方形の鋼板を芯層(13)とし,この芯層(13)の上面全域に表面層(14)が積層され,中心に貫通孔(15)が穿設されたものである。
【0066】
そして,コンクリートからなる躯体(1)上に発泡ポリスチレンからなる厚さ20mmの断熱パネル(2)を敷設した。続いて断熱パネル(2)上に前記シート接合板(11)を配置し,シート接合板(11)の中央孔(15)に固定釘(12)を挿通して,その固定釘(12)を断熱パネル(2)に貫通させて躯体(1)に固定した。さらに断熱パネル(2)上にシート接合板(11)を覆うようにして防水シート(5)を敷設した。その状態で,高周波ホーン(H)を,シート接合板(11)の中心に一致させるように防水シート(5)上に配置し,高周波電磁誘導加熱により防水シート(5)とシート接合板(11)とを溶着接合させた。この加熱により,シート接合板(11)の前記高周波ホーン(H)の有効領域に対応する領域において,表面層(14)および防水シート(5)が溶融して接合された。接合部分は誘導加熱部(16)に対応し,高周波ホーン(H)の有効領域から外れた部分は加熱がなされず,接合されない非加熱部(17)に対応する。こうして,実施例1の断熱防水構造を得た。」


第4 当審の判断
1 本願発明と刊行物1記載の発明の対比
本願発明と刊行物1記載の発明とを対比すると,
刊行物1記載の発明の「塩化ビニルからなる防水シート」は本願発明の「塩ビ防水シート」に,
以下同様に,
「紙製ハニカムコア22aをフェノール樹脂発泡体22b内に埋設してなるパネル状の断熱層22c」は「断熱芯材」に,
「高強度」である点は「良好な剛性を確保する」点に,
「ガルバリウム」は「アルミニウム・亜鉛合金めっき鋼板(ガルバリウム鋼板)」に,
それぞれ相当している。
また,刊行物1記載の発明の「断熱層22cの表裏の面に表面材として貼着した表面パネル22d,裏面パネル22e」は「金属板」であるから,このことは本願発明の「断熱芯材の上下面およびその両側部を被覆する金属板」と「断熱芯材の上下面を被覆する金属板」である点で共通し,
刊行物1記載の発明の屋根用断熱パネルを「母屋あるいは梁の上に設置することによりほぼ水平に複数連設」する点と,本願発明の「断熱基板の側部の一方には凹溝が他方には前記凹溝に嵌合する突条部を形成して,凹溝と突条部の嵌合により断熱基板の接合を堅固ならしめる」点は,「断熱基板を横に並べて複数枚連設する」点で共通している。
さらに,刊行物1記載の発明では「防水層23は塩化ビニルからなる防水シートであって屋根用断熱パネル22の表面パネル22d上に接着される」から,屋根用断熱パネルは,本願発明の「塩ビ防水シートを上面に被覆固着するための断熱基板」に相当する。

以上のことから,両者は,以下の点で一致している。
「塩ビ防水シートを上面に被覆固着するための断熱基板であって,断熱芯材とこの断熱芯材の上下面を被覆する金属板を具え,前記金属板はアルミニウム・亜鉛合金めっき鋼板(ガルバリウム鋼板)により形成して良好な剛性を確保するとともに,断熱基板を横に並べて複数枚連設する断熱基板。」

そして,以下の点で相違している。
<相違点1>
金属板が「断熱芯材の上下面を被覆する」ことに加え,本願発明では,「断熱芯材両側部を被覆する」ものであるのに対し,刊行物1記載の発明では,そのようなものではない点。

<相違点2>
本願発明では,「断熱基板の側部の一方には凹溝が他方には前記凹溝に嵌合する突条部を形成して,凹溝と突条部の嵌合により断熱基板の接合を堅固ならしめる」のに対し,刊行物1記載の発明では,断熱基板の側部に凹溝や凸状部があるものではない点。

<相違点3>
本願発明では「金属板の表面に塗層される塩ビ樹脂層を具え」ており,「断熱基板と塩ビ防水シートとの固定を溶剤溶着又は高周波誘導加熱法のいずれによる固定にも適応できるようにしてなる」ものであるのに対し,刊行物1記載の発明ではそのようなものではない点。

<相違点4>
本願発明では,断熱芯材が「硬質ポリウレタンフォームの発泡材により厚さ20mm以上に形成され」ているのに対し,刊行物1記載の発明では屋根用断熱パネルが「紙製ハニカムコア22aをフェノール樹脂発泡体22b内に埋設してなるパネル状の断熱層22cと,この断熱層22cの表裏の面に表面材として貼着した表面パネル22d,裏面パネル22eとを備え」たものであり,厚さは不明である点。

<相違点5>
アルミニウム・亜鉛合金めっき鋼板(ガルバリウム鋼板)が,本願発明では「0.35mm厚」であるのに対し,刊行物1記載の発明では厚さが特定されていない点。

2 相違点についての検討
上記各相違点について検討する。
<相違点1について>
パネルに表面材を設ける場合に,パネルの上下面に設けたり,刊行物2の【図3】で金属外皮部5aが断熱本体部5bの外周部を包み込む状態に一体的に設けられているように,側面や裏面を含めて全体に設けたりすることは当業者が適宜決めうる事項である。
そうすると,相違点1に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易に想到したことである。

<相違点2について>
並べて設置するパネルにおいて,刊行物2の【図3】で側縁部に凹部と凸部を有する嵌合部6を設けているように,パネルの側面に凹凸を設けて嵌め合わせることはよく行われていることである。そして,凹凸による嵌め合わせにより接合が堅固になることは明らかである。
そうすると,相違点2に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易に想到したことである。

<相違点3について>
刊行物3には,記載事項(3b)に「屋根下地等の躯体上に,断熱工法により断熱パネルを介して防水シートを敷設」する際に,記載事項(3e)の誘導加熱による溶着方法を用いるものを前提として,記載事項(3d)に「シート接合板(11)(21)において,芯層(13)(23)は高周波電磁誘導加熱が可能な金属であれば限定されない・・・表面層(14)(24)は,防水シート(5)を構成する合成樹脂に対し相溶性を有するもの,具体的には同種の合成樹脂により構成するか,あるいはホットメルト系接着剤により構成するのが好ましい。」と記載され,「防水シート(5)としてポリ塩化ビニル樹脂系の樹脂組成物からなるものを使用する場合には,表面層(14)(24)をポリ塩化ビニル樹脂により構成するのが好ましい。」と記載されているから,ポリ塩化ビニルの防水シートを敷設する際に,金属にポリ塩化ビニルの表面層を設けて誘導加熱により溶着する技術が記載されていると認められる。
そして,刊行物1の記載事項(1e)における【0019】には,「表面パネル22dの材質としては,防水シートとの接着性を確保出来るものを選択する。」と記載されており,刊行物1記載の発明の表面パネル22dを,防水シートとの接着性が確保できる材質とすることを前提として,接着については種々の手法を用いることができることは,当業者にとって明らかである。
そうすると,刊行物1記載の発明に刊行物3に記載された技術を適用して,防水シートとしてポリ塩化ビニル樹脂を用いると共に,接着するもう一方側である金属板にもポリ塩化ビニル樹脂の表面層を設けて誘導加熱により溶着することは当業者が容易に想到したことである。そして,防水シートと金属板の表面にポリ塩化ビニルを用いたものは,溶剤溶着又は高周波誘導加熱法のいずれによる固定にも適応できるものであるから,相違点3に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易になし得たことである。

<相違点4について>
刊行物1の【0011】には「建物の断熱材として多用されるウレタンフォームは,本発明の屋根用断熱パネルと同程度の熱伝導率を有するが,可燃物であるため耐火性に乏しく,屋根の耐火性を得るには,屋根に耐火物層を別途設ける必要が生じる。」と記載されているが,当業者であれば当該記載により屋根に耐火物層を設けることによりウレタンフォームを用いることができることが理解できると認められる。そうすると,刊行物1記載の発明のフェノール樹脂発泡体に替えて建物の断熱材として当業者に周知な硬質ポリウレタンフォーム(必要であれば,特開平7-3902号公報の【0015】,特開平11-320439号公報の【0010】,特開2003-293472号公報の【0033】等参照)を採用することは当業者が容易に想到したことである。また,断熱材として機能するためにはある程度以上の厚さが必要であることは当業者にとって自明であり,刊行物1の記載事項(1b)には「この屋根用断熱パネルの特性を発揮するには,厚さを5?100mmにすることが好ましく,さらに好ましくは10?70mmが適当である。」と記載されており,「20mm以上」とあまり変わらないこと,本願明細書全体からみて「20mm以上」とすることに臨界的意義は認められないことから,硬質ポリウレタンフォームの厚さを20mm以上とすることは当業者の設計的事項と認められる。

<相違点5について>
断熱パネルにおける金属板の厚さをどれくらいにするかは,強度やコスト,製造のし易さ等に応じて当業者が適宜決める事項であり,本願明細書全体からみて0.35mm厚とすることに臨界的意義も認められないから,相違点5に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易に想到したことである。


そして,上記各相違点に係る構成を採用することによる作用・効果も,刊行物1記載の発明,刊行物3の技術及び当業者に周知な技術事項からみて格別なものということはできない。

3 まとめ
したがって,本願発明は,刊行物1記載の発明,刊行物3の技術及び当業者に周知な技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第5 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,本願の他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-12-19 
結審通知日 2013-01-22 
審決日 2013-02-04 
出願番号 特願2006-105840(P2006-105840)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (E04D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 南澤 弘明  
特許庁審判長 鈴野 幹夫
特許庁審判官 中川 真一
筑波 茂樹
発明の名称 防水断熱構造とこれに用いる断熱基板。  
代理人 大内 康一  

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