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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E01C
管理番号 1272767
審判番号 不服2011-24629  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-11-15 
確定日 2013-04-12 
事件の表示 特願2010-2705号「高強度樹脂ペースト、高強度樹脂固結物およびそれを用いた路面の施工法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 7月21日出願公開、特開2011-140828号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年1月8日の出願であって、平成23年7月20日付けで拒絶査定がされ、この査定に対し、同年11月15日に本件審判が請求されたものである。

第2 本願発明について
1.本願発明
本件出願の請求項1?4に係る発明は、平成23年4月28日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂から選択される二液性樹脂に容積比で樹脂1に対して、人工のポルトランドセメント、フライアッシュ、粒径0.1mm以下のフェロニッケルスラグから選択される鉱物質粉体を0.3以下の割合で混合し、更に粒径5mm以下のフェロニッケルスラグの細骨材および硬化剤を加えて形成したことを特徴とする高強度樹脂ペースト。」

2.引用刊行物とその記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特許第3930895号(以下「刊行物1」という。)には、高強度樹脂モルタル、高強度樹脂固結体およびそれを使用した構築物、高強度樹脂固結物二次製品に関し、図面とともに、次の技術的事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】
エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂から選択される二液性樹脂に、容積比で、樹脂1に対して、粘土鉱物、石粉、或いは人工のポルトランドセメント、フライアッシュ、石膏から選択される、樹脂の吸収量が少ない粒径0.15mm以下の鉱物質粉体を0.5?1.5の割合で混合し、さらに、フェロニッケルスラグ、銅スラグ、鉄鋼スラグから選択される細骨材及び硬化剤を加えて混合したことを特徴とする高強度樹脂モルタル。
【請求項2】
請求項1を原料として、粗骨材を加えて混合し、製造する高強度樹脂固結物。
【請求項3】
請求項1の高強度樹脂モルタルまたは請求項2の高強度樹脂固結物を原料として製造する構築物。
【請求項4】
請求項1の高強度樹脂モルタルまたは請求項2の高強度樹脂固結物を原料として製造する、高強度樹脂固結物二次製品。」
(イ)「【0002】
従来エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等の二液性樹脂を結合材として砕石、鉱滓等を骨材に樹脂コンクリートの製造が成されているが、組成物の強度不均一などにより、安定した組成物の製造が困難であり、セメントコンクリートと同程度の強度しか期待ができなかった。樹脂に繊維を混ぜるなどの方法で、強度の向上を計る方法もとられてきたが繊維入り樹脂の製造コストが高くなり、作業に練度の高い技術を必要とするため実用化が難しい。」
(ウ)「【0003】
樹脂コンクリートは、樹脂と骨材を混合して製造しているが、混合した物が固まる迄の間に樹脂分が分離して沈降する現象(液ダレ)が発生する為に、製品の部位により強度に著しい差が出て製品の品質が不均一となり、安定した組成物の製造が難しい。」
(エ)「【0014】
本発明は、樹脂の流動性を押さえ、樹脂固結物の高強度を得るために、鉱物質粉体に樹脂を絡めるように混合することを特徴とするものである。」
(オ)「【0015】
樹脂量と同程度量の鉱物質粉体を混合することにより、樹脂の流動化を阻止することが出来、均等な組成をもち、かつ固結物の強度が大幅に上昇することが試験練りの結果証明されている。」
(カ)「【0018】
鉱物質粉体の混入量は、容積比で樹脂1に対して鉱物質粉体0.5?1.5の割合とするが、粉体の種類により割合は異なる。樹脂の吸収量と粉体の粒径により実験的に決定する。」
(キ)「【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
容積比で樹脂1に対し、鉱物質粉体を0.5?1.5、細骨材を2.0?3.5の割合になる量の材料をミキサーで混ぜる。これらが均等に攪拌された中に、樹脂及び硬化剤の順で添加、攪拌混合することにより樹脂モルタルを得る。
【0031】
樹脂モルタルに対し粗骨材0.8?1.2の割合で攪拌混合することにより、樹脂コンクリートを得る。
・・・
【0033】
実施例2
実施例2における配合と強度
種類 名称 容量比 摘 要
1 樹脂 二液性樹脂 13.5%
エポキシ樹脂 YD115CA
アミン硬化剤 1097H2
2 粉体 ポルトランド
セメント 8.0% 市販品
3 細骨材 フェロニッケル
スラグ 28.5% 0.3?5mm
FNS5A-03
4 粗骨材 6号砕石 50.0%
・・・
摩耗損壊している既設コンクリート舗装上に、平均厚さ4cmでオーバーレイ施工し、装軌車両(74式戦車 38トン)を繰り返し走行させ、未施工のコンクリート舗装部分との性能比較試験をしているが施工後6ケ月で表面の摩耗は確認されていない。
【産業上の利用可能性】
【0034】
特殊交通、重量交通或いは大容量交通にさらされる、耐久性、耐摩耗性などを要求される道路の表層材料。」

そうすると、刊行物1には、実施例2記載のものに着目して次の発明(以下「引用発明」という。)が開示されているということができる。
「エポキシ樹脂である二液性樹脂に、容積比で、樹脂13.5に対して、ポルトランドセメントである樹脂の吸収量が少ない粒径0.15mm以下の鉱物質粉体を8.0の割合で混合し、さらに、0.3?5mmのフェロニッケルスラグである細骨材及びアミン硬化剤を加えて混合した高強度樹脂モルタル。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平8-259296号公報(以下「刊行物2」という。)には、舗装用材料組成物及び舗装方法に関し、図面とともに、次の技術的事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】 水で湿潤した骨材を使用して施工することができる舗装用材料組成物であり、水で湿潤した骨材(A)及び固結材(B)からなり、固結材(B)が、下記主剤成分(B1)及び硬化剤成分(B2)からなる固結材である舗装用材料組成物。
(B1)ポリエポキシ化合物(E1)からなる主剤成分。
(B2)ポリアミン化合物(a)とエポキシ化合物(b)とからの1級及び/又は2級アミノ基を有する変性ポリアミン化合物を部分中和したアミン系化合物(M)からなる硬化剤成分。」
(イ)「【0017】本発明の組成物は(A)、(B)は必須成分であるが、施工時の転圧等による締め固めを良くし、固結強度に関与しない水分を固結完了までに舗装材層から排出して舗装材の収縮を減らし、固結強度も高くする目的で、下記金属化合物(C)を使用することができる。
(C)アルカリ性又は中性の、金属水酸化物、金属酸化物又は金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属化合物。
【0018】・・・ポルトランドセメント、早強セメント、高炉スラグ、海塩、岩塩等の混合物や、半水石膏、石膏、石灰等も(C)として使用できる。」
(エ)「【0024】・・・又、(C)を使用する場合の量は、(A)(水を除く量)100重量部に対して、通常5重量部以下、好ましくは2重量部以下である。(C)の量が5重量部以上では、(B1)と(B2)の水分散液の凝集が速くなり施工しにくい状態となる。」

3.本願発明と引用発明との対比
(1)両発明の対応関係
(a)引用発明の「エポキシ樹脂である二液性樹脂」は、本願発明の「エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂から選択される二液性樹脂」に相当し、同様に
「ポルトランドセメントである樹脂の吸収量が少ない粒径0.15mm以下の鉱物質粉体」は、「人工のポルトランドセメント、フライアッシュ、粒径0.1mm以下のフェロニッケルスラグから選択される鉱物質粉体」に、
「0.3?5mmのフェロニッケルスラグである細骨材」は、「粒径5mm以下のフェロニッケルスラグの細骨材」に、
「アミン硬化剤」は、「硬化剤」に、
「高強度樹脂モルタル」は、「高強度樹脂ペースト」に相当する。
(b)引用発明の「二液性樹脂に、容積比で、樹脂13.5に対して」「鉱物質粉体を8.0の割合で混合」することと、本願発明の「二液性樹脂に容積比で樹脂1に対して」「鉱物質粉体を0.3以下の割合で混合」することとは、「二液性樹脂に」「鉱物質粉体を混合」する点で共通する。

(2)両発明の一致点
「エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂から選択される二液性樹脂に、人工のポルトランドセメント、フライアッシュ、粒径0.1mm以下のフェロニッケルスラグから選択される鉱物質粉体を混合し、更に粒径5mm以下のフェロニッケルスラグの細骨材および硬化剤を加えて形成した高強度樹脂ペースト。」

(3)両発明の相違点
鉱物質粉体を、本願発明は「二液性樹脂に容積比で樹脂1に対して」「鉱物質粉体を0.3以下の割合」で混合するのに対して、引用発明は「二液性樹脂に、容積比で、樹脂13.5に対して、」「鉱物質粉体を8.0の割合」で混合している点。

4.本願発明の容易推考性の検討
(1)相違点について
(a)まず、複数の素材を混合して製造される製品において、混合比を適宜変更して実験等を行って、所望の製品特性とすることは、例えば、刊行物1の記載事項(カ)にも「鉱物質粉体の混入量は、・・・樹脂の吸収量と粉体の粒径により実験的に決定する。」と記載されている様に、製品設計手法として一般的な手法である。
(b)引用発明における「ポルトランドセメントである樹脂の吸収量が少ない粒径0.15mm以下の鉱物質粉体」は、刊行物1の記載事項(ウ)の「樹脂分が分離して沈降する現象(液ダレ)が発生する」ことに起因する問題に対応して、刊行物1の記載事項(エ)の「樹脂の流動性を押さえ、樹脂固結物の高強度を得るために、鉱物質粉体に樹脂を絡めるように混合する」すなわち、添加するものであって、刊行物1の記載事項(オ)の「樹脂量と同程度量の鉱物質粉体を混合することにより、樹脂の流動化を阻止することが出来、均等な組成をもち、かつ固結物の強度が大幅に上昇する」作用を生ずるものである。
(c)ところで、付加的に添加する材料においては、必要以上の量の添加により不都合が発生し、少ない添加量が望ましい事態は、一般的にしばしば認識されていることである。
例えば、刊行物2記載の舗装用材料組成物の必須成分(A)、(B)に対して「固結強度も高くする目的で・・・使用」される成分(C)の添加量も「通常5重量部以下、好ましくは2重量部以下」と小さい値が例示されている。
(d)そうすると、引用発明の、樹脂の流動性を押さえ、樹脂固結物の高強度を得るために添加される鉱物質粉体に対して、上記(a)の製品設計手法として一般的な手法である、混合比を適宜変更して実験等を行って所望の製品特性とする手法を適用するにあたり、上記(c)を考慮すると、少ない添加量も実験範囲の対象として含めることに困難性は存在しない。
(e)そして、本願明細書記載の圧縮強度、引張り強度、耐磨耗性等がコンクリート製品を評価する特性として周知のものであることを考慮すると、上記(d)の実験範囲の対象として、少ない添加量である「0.3以下の割合」を含める実験を実施して、所望の圧縮強度、引張り強度、耐磨耗性等が得られる混合量を選択して本願の相違点に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。
ここで、刊行物1には、記載事項(ア)に「鉱物質粉体を0.5?1.5の割合で混合し・・」と、記載事項(オ)に「樹脂量と同程度量の鉱物質粉体を混合することにより、樹脂の流動化を阻止する」と、鉱物質粉体の混合量を樹脂量と同程度とすることが記載されているが、それ以外の比率では製品が高強度樹脂モルタル、高強度樹脂固結物等として成り立たないとするような記載はないので、上記(d)の実験範囲の対象から0.5?1.5の割合以外の値である「0.3以下の割合」を必ず除外するとはいえない。
(f)本願明細書は、本願発明の効果として「【0019】以上述べたように本発明の高強度樹脂ペースト、高強度樹脂固結物およびそれを用いた路面の施工法は、高強度樹脂ペースト、高強度樹脂固結物としては、圧縮強度、引張り強度はコンクリートの製品の2?3倍強、製品の耐磨耗性としてラベリング係数0.1以下の耐磨耗性を持つもので、しかも、固結物の密度、強度、組成が安定してバランス良い組成物を得ることができる。」等が記載されているものの、具体的に本件特許請求の範囲に含まれる種々の製品と従来技術として示した製品とを同条件で比較データ、その他の実験データを添付して、数値範囲の上限を具体的に0.3と特定することによる臨界的意義を開示するものではない。

(2)したがって、本願発明は、引用発明、刊行物2記載の事項、及び当業者に周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、刊行物2記載の事項、及び当業者に周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-12-20 
結審通知日 2013-01-22 
審決日 2013-02-04 
出願番号 特願2010-2705(P2010-2705)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E01C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柳元 八大  
特許庁審判長 鈴野 幹夫
特許庁審判官 中川 真一
筑波 茂樹
発明の名称 高強度樹脂ペースト、高強度樹脂固結物およびそれを用いた路面の施工法  
代理人 久保 司  

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