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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A23L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23L
管理番号 1272806
審判番号 不服2010-21963  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-09-30 
確定日 2013-04-10 
事件の表示 特願2006-502253「改善された風味組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成16年9月2日国際公開、WO2004/073668、平成18年8月3日国内公表、特表2006-517797〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年2月11日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 平成15年2月18日、英国)を国際出願日とする出願であって、平成22年5月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなさたものである。

第2 平成22年9月30日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成22年9月30日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「風味物質の混合物である風味組成物であって、口腔内の臭気性揮発性硫黄化合物の生成を減少または防止する方法であって化粧的方法を含み、口腔内に当該風味組成物を導入する工程を含む方法に用いる風味組成物であり、当該風味組成物は風味組成物の全重量の少なくとも8重量%の、以下からなる群より選択される風味物質を含むことを特徴とする:
(a)風味組成物の少なくとも0.5重量%の、以下の1以上から選択される風味物質:1重量%?4重量%の1-イソプロピリデン-4-メチル-2-シクロヘキサノン、8重量%?13重量%の5-メチル-2-(1-メチルエチル)-1-シクロヘキサノン及び0.5重量%未満のオイカリプトールを含むペパーミント油;70重量%未満のカルボン及び少なくとも14重量%のリモネンを含むスペアミント油;またはこれらの混合物;及び
(b)風味組成物の少なくとも0.5重量%の、以下の2以上から選択される風味物質:オクタナール、ヘキサン酸アリル、アネトール、精製アニシード、メボウキ油、酪酸ベンジル、カモミール油、桂皮アルデヒド、シス-3-酢酸ヘキセニル、天然シトラール、セイロンシトロネラ、ヘプタン酸エチル、オイゲノール、フェンネル・スイート、酢酸ゲラニル、アルファイオノン、ライム、オレンジ香味料、パラクレシルメチルエーテル、アルファピネン。」
と補正された。
上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である(b)の「風味物質」の選択肢から、「デカノール」を削除したものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2 引用刊行物とその記載事項
本願優先日前に頒布された刊行物である、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1(原査定の引用文献4)、刊行物2(原査定の引用文献1)、刊行物3(原査定の引用文献2)、刊行物4(原査定の引用文献9)及び刊行物5(原査定の引用文献10)には以下の事項がそれぞれ記載されている。下線は当審で付加した。

(1)刊行物1:特開2002-3369号公報の記載事項
(1a)「【請求項1】シンナミックアルデヒド、シトラール、n-ヘキサナール、ヘリオトロピン、インドール、n-オクタナール、n-ノナナール、n-デカナール、n-ドデカナール、γ-メチルインドール及びこれらの混合物からなる群より選択される1種又は2種以上を有効成分として含むことを特徴とするメチオナーゼ及び/又はプロテアーゼ阻害剤。」

(1b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、メチオナーゼ及び/又はプロテアーゼを有効に阻害することができ、各種医薬品、化粧品、口中清涼菓子等に配合することができる、メチオナーゼ及び/又はプロテアーゼ阻害剤、および該阻害剤を含み、メチオナーゼやプロテアーゼに起因する口臭を有効に抑制、防止することができる口腔用組成物に関する。」

(1c)「【0002】
【従来の技術】近年、日常生活において口臭等の臭いへの関心が高まっており、臭いをマスクしてその臭いを抑制するための芳香剤等が配合された口臭用製品が数多く市販されている。このような芳香剤は、通常、口臭等をマスクすることを目的として配合されているため、その使用は、特に、口臭の原因となる食物等を食した後に使用されることが多い。一方、中高年を中心として、歯周病等に起因する口臭も問題となっている。このような口臭は、自分では気付かないことが多く、上述の口臭をマスクして抑制する口臭用製品が使用されることも少ない。しかも、このような歯周病等に起因する口臭を、上述の口臭をマスクして抑制する従来の口臭用製品で抑制しうるとも考えられていない。そして、このような歯周病等に起因する口臭の原因としては、例えば、L-システインから硫化水素を産生するシステインデスルフィドラーゼや、L-メチオニンからメチルメルカプタンを産生するメチオナーゼ等が知られており、これらの酵素を阻害する物質の探索が進められている。また、上記L-システインやL-メチオニンは、口腔内の剥離上皮細胞、唾液タンパク、食物残渣等のタンパクに由来するものであり、これらのタンパクを分解するプロテアーゼも歯周病等に起因する口臭の原因の一つと考えられており、このようなプロテアーゼを阻害する物質の探索も進められている。」

(1d)「【0003】従来から、シンナミックアルデヒド、シトラール、n-ヘキサナール、ヘリオトロピン、インドール、n-オクタナール、n-ノナナール、n-デカナール、n-ドデカナール、γ-メチルインドール等は香料として良く知られており、香料として口腔用の各種製品に配合されることがある。」

(1e)「【0007】
【発明の実施の形態】以下本発明を更に詳細に説明する。本発明のメチオナーゼ及び/又はプロテアーゼ阻害剤は、シンナミックアルデヒド、シトラール、n-ヘキサナール、ヘリオトロピン、インドール、n-オクタナール、n-ノナナール、n-デカナール、n-ドデカナール、γ-メチルインドール及びこれらの混合物からなる群より選択される1種又は2種以上を有効成分として含む。これらの化合物は、香料として知られており、公知の方法で入手することができる。本発明のメチオナーゼ及び/又はプロテアーゼ阻害剤は、上記有効成分以外に、他のメチオナーゼ及び/又はプロテアーゼ阻害能を有する化合物を含んでいても良い。」

(1f)「【0008】本発明のメチオナーゼ及び/又はプロテアーゼ阻害剤は、例えば、各種医薬品、食品、化粧品、特に、口中清涼菓子、口中清涼剤(スプレー式等)、マウスウォッシュ、歯磨、口臭予防剤、口腔用軟膏等に配合して、有効に歯周病等に起因するメチオナーゼ及び/又はプロテアーゼに起因する口臭を防止、抑制することができる。従って、歯周病等が生じ易い中高年用の各種製品への配合が期待できる。本発明のメチオナーゼ及び/又はプロテアーゼ阻害剤において、上記必須の有効成分の有効濃度は、その種類及び組合せに応じて適宜選択することができるが、通常、配合する製剤や製品に対して、0.0001質量%以上、好ましくは0.01?1.0質量%が望ましい。10質量%を超える場合には、配合する製剤や製品の安定性、芳香、香味等を著しく損なう恐れがあるので好ましくない。」

(1g)「【0011】本発明の口腔用組成物は、例えば、口中清涼菓子、口中清涼剤(スプレー式等)、マウスウォッシュ、歯磨、口臭予防剤、口腔用軟膏等に配合して、有効に口臭、特に歯周病等に起因するメチオナーゼ及び/又はプロテアーゼに起因する口臭を防止、抑制することができる。従って、歯周病等が生じ易い中高年用の各種製品として有用である。本発明の口腔用組成物には、所望の目的を損なわない範囲で、また、所望の効果若しくは他の効果を向上させるために、各製品や製剤の種類に応じて、適宜その他の成分を配合することができる。例えば、界面活性剤、研磨剤、湿潤剤、低級アルコール、増粘剤、香味剤、pH調整剤、着色剤等が挙げられる。また、上記必須のメチオナーゼ及び/又はプロテアーゼ阻害剤以外のメチオナーゼ及び/又はプロテアーゼ阻害能を有する化合物、上記4級アンモニウム塩及びビスビグアニド化合物以外の他の殺菌剤等を配合することができる。これらの他の成分の各配合割合は、目的の口腔用製品に応じて適宜決定することができる。」

(1h)「【0012】・・・前記香味剤としては、例えば、サッカリンナトリウム、メントール、ペパーミント油、スペアミント油、ハッカ油、レモン油、オレンジ油、セージ油、ローズマリー油、シソ油、ユーカリ油、チョウジ油、グリチルリチン酸及びその誘導体、香料等が挙げられる。前記pH調整剤としては、例えば、クエン酸、リンゴ酸、リン酸及びそれらの塩等が挙げられる。」

(1i)「【0013】
【発明の効果】本発明のメチオナーゼ及び/又はプロテアーゼ阻害剤は、口臭等の原因となるメチオナーゼ及び/又はプロテアーゼを有効に阻害することができ、しかも、その有効成分が香料として知られた安全な化合物であるので、医薬品、化粧品、食品等の分野において広く利用することができる。また本発明の口腔用組成物は、本発明のメチオナーゼ及び/又はプロテアーゼ阻害剤、4級アンモニウム塩及びビスビグアニド化合物を組合せて配合するので、口中清涼菓子、口中清涼剤(スプレー式等)、マウスウォッシュ、歯磨、口臭予防剤、口腔用軟膏等に配合して、歯周病等に起因するメチオナーゼ及び/又はプロテアーゼに起因する口臭を防止、抑制することができ、特に、歯周病等が生じ易い中高年用の各種製品としての利用が期待できる。」

(1j)「【0014】
【実施例】以下実施例及び比較例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
表1に示す各種試験化合物のメチオナーゼ阻害効果及びプロテアーゼ阻害効果を以下の方法により測定した。これらの結果を、2回測定の平均値として表1に示す。
<メチオナーゼ阻害効果>表1に示す各種試験化合物0.025mlをエタノール0.475mlに溶解し、この溶液にメチルメルカプタン及び硫化水素を発生させる酵素やプロテアーゼを産生する嫌気性細菌であるPorphyromonas gingivalis(以下、P.g.菌という)菌体懸濁液(610nmのOD=1.4)1mlを加えて撹拌し、30℃、5分間インキュベートした。これにL-メチオン溶液0.5mlを加えさらに10分間インキュベートした後、容器のヘッドスペース中に存在するメチルメルカプタン量を、メチルメルカプタン検知管を用いて測定した。コントロールは上述の各種試験化合物0.025mlの代わりに蒸留水0.025mlを用いた以外は上記と同様に操作し、メチルメルカプタン量を測定した。」

(1k)実施例2?11として、殺菌剤を併用したものが記載され、そのうち、実施例8として、表2の(g)組成(シンナミックアルデヒド及びn-オクタノールを含有)を含有するマウスウォッシュ、実施例10として、(i)組成(シンナミックアルデヒド、シトラール及びn-オクタノールを含有)を含有するマウスウォッシュで口臭の減少を評価した結果が表3に示されている。(【0017】?【0020】)
「【表2】

」(【0018】)
「【表3】

」(【0020】)

(1l)比較例1?6として、殺菌剤を併用しないものが記載され、そのうち比較例5として、表4の(o)組成(シンナミックアルデヒド、シトラール及びn-オクタノールを含有)を含有するマウスウォッシュで口臭の減少を評価した結果が表5に示されている。(【0021】?【0023】)
「【表4】

」(【0022】)
「【表5】

」(【0023】)

(2)刊行物2:英国特許出願公開第2359746号明細書の記載事項の当審抄訳
(2a)「1.経口投与に適した組成物であって、口腔に存在する病原菌を阻止するための組成物の製造に、コリアンダー、クミン、イノンドの葉、レモングラス及びペパーミント油から選ばれる1又はそれ以上の精油の有効量の使用
2.コリアンダー、クミン、イノンドの葉、レモングラス及びペパーミント油から選ばれる1又はそれ以上の精油の有効量からなる組成物をそれを必要とする対象者に経口投与により口腔に存在する病原菌を阻止する方法。
・・・
7.口臭の治療のための請求項1?4に記載の使用又は方法。」(第18頁クレーム1、2、7)

(2b)「口腔細菌に対する活性
口腔細菌(表1参照)のインビトロの純粋培養物を用いて抗菌活性が試験された。全ての口腔単離物はヒト起源である。文献に記載されたように、細菌は、口臭及び/又は歯周病(慢性及び急性)の進行に果たす役割に基づき選択された。ヒマワリ油及びオリーブ油は陰性コントロールとしてインキュベートされた。」(第14頁5?10行)

(2c)表1には、フソバクテリウム・ヌクレアタムの口臭の欄に、「病気による」と記載され、口臭と関係することが示されている。(第14頁Table1)

(2d)「試験結果が表2に示されている。抗菌活性は、低い(0-5.0mm阻止域)、中度(5.1-10.0mm)、高い(>10.0mm)として等級付けされた。コリアンダ、クミン、ディルウィード、レモングラス及びペパーミント油は、少なくとも4種の試験細菌に対して高い抗菌活性を表した。」(第15頁下から5?1行)

(2e)表2には、ペパーミントが、フソバクテリウム・ヌクレアタムに対して、抗菌活性が「>20.0±0.0」と高いことが示されている。(第16頁Table2)

(3)刊行物3:米国特許第6379652号明細書の記載事項の当審抄訳
(3a)「1.精油及び2?6の炭素数でC_(1)-C_(4)のアルキル基でエステル化されたヒドロカルボン酸のメチルエステルである冷却化合物の混合物からなるフレーバ系を含有する経口投与が可能な剤からなる経口組成物を口腔に適用することからなる口臭の抑制及び口腔の長期間の呼吸保護の方法であって、精油は、口臭を攻撃的でないレベルまで抑制する精油の抗菌効力を本質的に増強するメンチルエステルが存在し、口臭の発生に関係している細菌に対して殺菌作用を有している。
・・・
9. 精油がオイゲノールである請求項1に記載の方法。
11.精油がスペアミント油である請求項1に記載の方法。」(第7?8欄クレーム1、9、11)

(3b)「実施例1
エタノール中1重量%の各精油溶液が用意され、MIC試験でF.ヌクレアタムに対する殺菌活性が評価された。F.ヌクレアタム系統は、口臭の発生に関係している。
MIC試験
・・・
MICの決定は、標準法(Manual of clinical Microbiology,1995)に従い、マイクロタイター形式を用いて行われた。結果は、以下の表1に示される。MIC値が低いほど、香料成分の抗菌効果が高い。」(第5欄21?35行)

(3c)表1には、スペアミントのMIC値が375、ペパーミントのMIC値が500と示されている。(第5欄TABLE1)

(3d)実施例3に、組成物Aとして、アネトール13重量%、スペアミント油5%、ペパーミント11%を含有したものが(表III)記載され、アネトール、シンナミックアシッド、オイゲノール、メントール及びペパーミントを含有しないものをプラセボの組成物Bとすることが記載され、それぞれを含有した風味組成物を用いて、揮発性硫化化合物(VSC)の量を試験した結果が表IVに示されている。


」(第6欄TABLEIII)


(上記「C」は「B」の誤記であること明らかである。)
表IVに記載された結果は、組成物Aはプラセボ組成物Bと同様に、4時間で、VSCレベルが、ベースライン値に比べて顕著に減少した。しかしながら、組成物Aは、不快なレベル以下にVSC生成を減少した。」(第7欄TABLEIV?下から5行)

(4)刊行物4:CA INDEX NAME:Oils, peppermint, Registry Number:8006-90-4, REGISTRY FILE [online], Entered STN:16 Nov 1984
(4a)「CN Peppermint American Far West Bulked
CN Peppermint American Willamette Natural
CN Peppermint Indian Rectified」

(5)刊行物5:Federal Register,1996年,Vol.61, No.16,p.1856 当審抄訳
(5a)「ファーウエストペパーミントオイルインダストリーは・・・ファーウエストは、スコッチスペアミント油を、北アメリカのマーケットの約52%と、代表的に販売をしてきた。」(右欄12?22行)

3 対比・判断
刊行物1の記載事項(特に上記(1a)(1f)(1k)(1l))から、刊行物1には、
「シンナミックアルデヒド、シトラール、n-オクタナールより選択される2種以上をメチオナーゼ及び/又はプロテアーゼ阻害剤として含む口臭予防剤」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

そこで、本願補正発明と刊行物1発明とを比較する。
(ア)刊行物1発明の「シンナミックアルデヒド、シトラール、n-オクタナールより選択される2種以上」について、「シンナミックアルデヒド」は「桂皮アルデヒド」と同義であり、「シトラール」は通常天然のものである。そして、これらは口腔用の各種製品に配合される香料として知られ入手可能なものであり(上記(1d)(1e))、本願補正発明の(b)の風味物質の選択肢に含まれるものであるから、本願補正発明の「以下の2以上から選択される風味物質:オクタナール、ヘキサン酸アリル、アネトール、精製アニシード、メボウキ油、酪酸ベンジル、カモミール油、桂皮アルデヒド、シス-3-酢酸ヘキセニル、天然シトラール、セイロンシトロネラ、ヘプタン酸エチル、オイゲノール、フェンネル・スイート、酢酸ゲラニル、アルファイオノン、ライム、オレンジ香味料、パラクレシルメチルエーテル、アルファピネン」に相当する。

(イ)刊行物1発明の「口臭予防剤」は、「シンナミックアルデヒド、シトラール、n-オクタナール」といった香料、つまり本願補正発明の「風味物質」に包含されるものを混合した組成物であるから、本願補正発明の「風味物質の混合物である風味組成物であって、口腔内の臭気性揮発性硫黄化合物の生成を減少または防止する方法であって化粧的方法を含み、口腔内に当該風味組成物を導入する工程を含む方法に用いる風味組成物」とは、風味物質の混合物である風味組成物である点で共通する。

したがって、両者の間には、以下の一致点及び相違点がある。
(一致点)
風味物質の混合物である風味組成物であって、
(b)以下の2以上から選択される風味物質を含む風味組成物
:オクタナール、桂皮アルデヒド、天然シトラール。

(相違点1)
風味物質の混合物である風味組成物が、本願補正発明では、「口腔内の臭気性揮発性硫黄化合物の生成を減少または防止する方法であって化粧的方法を含み、口腔内に当該風味組成物を導入する工程を含む方法に用いる」ものであるのに対して、刊行物1発明では、メチオナーゼ及び/又はプロテアーゼ阻害剤を含む「口臭予防剤」である点。

(相違点2)
風味物質の混合物である風味組成物が、本願補正発明では、(a)の風味物質として「以下の1以上から選択される風味物質:1重量%?4重量%の1-イソプロピリデン-4-メチル-2-シクロヘキサノン、8重量%?13重量%の5-メチル-2-(1-メチルエチル)-1-シクロヘキサノン及び0.5重量%未満のオイカリプトールを含むペパーミント油;70重量%未満のカルボン及び少なくとも14重量%のリモネンを含むスペアミント油;またはこれらの混合物」を含有するのに対して、刊行物1発明では、ペパーミント油やスペアミント油を含有することを規定していない点。

(相違点3)
本願補正発明では、風味物質の全含有量が、風味組成物の全重量の少なくとも8重量%であり、(a)及び(b)の風味物質の含有量が、それぞれ少なくとも0.5重量%であるのに対して、刊行物1発明は、(a)の風味物質を含有せず、(b)の風味物質の含有量を規定していない点。

そこで、上記各相違点について検討する。
(相違点1について)
刊行物1発明の口臭予防剤に含有される、メチオナーゼ及び/又はプロテアーゼ阻害剤について、刊行物1には、口臭の原因として、L-システインから硫化水素を産生するシステインデスルフィドラーゼや、L-メチオニンからメチルメルカプタンを産生するメチオナーゼ等が知られていること(上記(1c))、刊行物1発明のメチオナーゼ及び/又はプロテアーゼ阻害剤は、有効に歯周病等に起因する口臭を防止、抑制することができること(上記(1f)(1g))、メチオナーゼ阻害効果の試験方法として、各種試験化合物溶液に、メチルメルカプタン及び硫化水素を発生させる酵素やプロテアーゼを産生する嫌気性細菌を加え、L-メチオン溶液の分解によるメチルメルカプタン量を測定したこと(上記(1j))が記載されている。
そして、上記メチルメルカプタン及び硫化水素は、臭気性揮発性硫黄化合物であり、メチオナーゼ及び/又はプロテアーゼ阻害剤により、口臭を防止、抑制することができることから、メチルメルカプタン及び硫化水素の生成を減少または防止するといえる。
そうすると、刊行物1発明のメチオナーゼ及び/又はプロテアーゼ阻害剤を含有する「口臭予防剤」は、口腔内に導入して口腔内の臭気性揮発性硫黄化合物の生成を減少または防止する方法に用いるものといえ、相違点1は実質的な相違点ではない。

(相違点2について)
刊行物1には、メチオナーゼ及び/又はプロテアーゼ阻害剤として、特定の有効成分以外に、他のメチオナーゼ及び/又はプロテアーゼ阻害能を有する化合物を含んでいても良いことが記載され(上記(1e))、また、口臭予防剤等の口腔組成物は、所望の効果を向上させるために、その他の成分を配合でき、このような成分として香味料が記載され(上記(1g))、香味料として、「ペパーミント油」及び「スペアミント油」が記載され(上記(1h))ており、刊行物1には、口臭予防効果向上させるために、さらに、口臭予防成分を配合できることが記載されているといえる。
そして、刊行物2(上記(2a)?(2e))には、ペパーミント油が、フソバクテリウム・ヌクレアタム等の口腔に存在する口臭の原因となる病原菌に、高い抗菌活性を有することが記載され、刊行物3には、スペアミント油及びペパーミント油が、口臭の原因となるF.ヌクレアタム(フソバクテリウム・ヌクレアタム)に抗菌活性があることが記載され(上記(3a)(3b)(3c))、アネトール、スペアミント油、ペパーミントを含有した組成物が、揮発性硫黄化合物(VSC)の量を減少させることが示されている(上記(3d))。
ペパーミント油の組成について、本願補正発明の1重量%?4重量%の1-イソプロピリデン-4-メチル-2-シクロヘキサノン、8重量%?13重量%の5-メチル-2-(1-メチルエチル)-1-シクロヘキサノン及び0.5重量%未満のオイカリプトールを含むペパーミント油は、本願補正発明である請求項1を引用する請求項4で、ペパーミント油が、「精製ペパーミント・インディアン(Peppermint Indian Rectified)(全グレード)」、「ペパーミント・アメリカン・ファーウエスト・バルク(Peppermint AmericanFar West Bulked)」、「ペパーミント・アメリカン・ウィラミット・ナチュラル(Peppermint American Willamette Natural)」の3種類であることが記載されている。この3種類のペパーミント油は、刊行物4(上記(4a))に示されるように、本願優先日前にCASに登録された組成物であり、特に珍しいものではないといえる。また、本願明細書段落【0017】にも、供給業者から容易に入手可能であることが記載されている。
スペアミント油の組成について、本願補正発明の70重量%未満のカルボン及び少なくとも14重量%のリモネンを含むスペアミント油は、本願補正発明である請求項1を引用する請求項5で「スペアミント・アメリカン・ファーウエスト・スコッチ(Spearmint American Far West Scotch)」、「スペアミント・バルク・エキストラ(Spearmint Bulked Extra)」、「再精製天然スペアミント・アメリカン・ファーウエスト(Spearmint American Far West Native Redistilled)」の3種類であることが記載されている。このうちアメリカン・ファーウエストのスコッチスペアミント油は、刊行物5(上記(5a))に記載されるように、本願優先日前に普通に販売されていたものであり、特に珍しいものではないといえる。また、本願明細書段落【0017】にも、供給業者から容易に入手可能であることが記載されている。
そして、これらのペパーミント油及びスペアミント油の成分を周知の分析技術で分析することができることは、本願明細書段落【0020】にも特定のペパーミント油またはスペアミント油の成分と各成分の相対量は公知の技術を用いて容易に決定できることが記載されるとおりである。
そうすると、刊行物1発明において、口臭予防効果を向上させるために、刊行物2及び3に記載されるように口臭の原因菌に対して抗菌活性があることが知られているペパーミント油やスペアミント油を配合することを考え、ペパーミント油及びスペアミント油として普通に用いられている製品の中から効果の高いものを選択して、その成分分析を行い、ペパーミント油が「1重量%?4重量%の1-イソプロピリデン-4-メチル-2-シクロヘキサノン、8重量%?13重量%の5-メチル-2-(1-メチルエチル)-1-シクロヘキサノン及び0.5重量%未満のオイカリプトールを含むもの」、スペアミント油が「70重量%未満のカルボン及び少なくとも14重量%のリモネンを含むもの」と特定して、これらの何れか一方又は両方を用いることは、当業者が容易になし得たことといえる。

(相違点3について)
刊行物1(上記(1f))には、有効成分の有効濃度は、その種類及び組合せに応じて適宜選択することができること、配合する製剤に対して、好ましくは0.01?1.0質量%であり、10質量%を超えると、配合する製剤の安定性、芳香、香味等を著しく損なう恐れがあるので好ましくないことが記載されており、所望の抗菌活性が得られ、口臭予防剤としての性能が維持できる範囲で配合量を決定し、(a)及び(b)の風味物質を、それぞれ風味組成物の少なくとも0.5重量%とし、(a)及び(b)を合わせた量が風味組成物の全重量の少なくとも8重量%とすることは、当業者が当然に行う設計的事項の範囲内のことである。

(本願補正発明の効果について)
本願明細書段落【0043】には、(a)及び(b)の風味物質のMIC値は、それぞれ、2500ppm(0.25%)、5000ppm(0.5%)、及び1000ppm(0.1%)であるのに対して、実施例1(a)及び実施例1(b)では、500ppmであることが記載されているが、実施例1(a)及び実施例1(b)は、用いた風味組成物の組成及び各成分の濃度が不明であるから、本願補正発明の効果を示した記載とすることはできない。
また、本願明細書の実施例3で風味組成物AないしFが、67%?83%のVSC減少量を達成する点については、刊行物1には、ペパーミント油及びスペアミント油を含有しない実施例においても、殺菌剤を併用した場合は90?100%の口臭減少率(上記(1k))、殺菌剤を併用しない場合でも30?60%の減少率(上記(1l))であることが記載され、また、刊行物3には、アネトール13重量%、スペアミント油5重量%及びペパーミント11重量%の含有する組成物AのVSC生成の減少が不快なレベル以下(ベースラインの平均値と最終平均値の差から計算するとと、(16.38-9.87)/16.38=39.7%)であることが記載されていることから、刊行物1発明に、さらに、刊行物2及び3に記載されるように口臭減少に効果があるペパーミント油、スペアミント油の中で、効果の高い種類のものを選択して用いることで、上記効果が奏されることは、予測し得るものであり、格別顕著なものとはいえいない。

したがって、本願補正発明は、刊行物1ないし3に記載された発明及び刊行物4及び5記載の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成22年9月30日付けの手続補正は上記のとおり却下されるたので、本願の請求項1ないし23に係る発明は、平成22年1月20日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし23に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「風味物質の混合物である風味組成物であって、口腔内の臭気性揮発性硫黄化合物の生成を減少または防止する方法であって化粧的方法を含み、口腔内に当該風味組成物を導入する工程を含む方法に用いる風味組成物であり、当該風味組成物は風味組成物の全重量の少なくとも8重量%の、以下からなる群より選択される風味物質を含むことを特徴とする:
(a)風味組成物の少なくとも0.5重量%の、以下の1以上から選択される風味物質:1重量%?4重量%の1-イソプロピリデン-4-メチル-2-シクロヘキサノン、8重量%?13重量%の5-メチル-2-(1-メチルエチル)-1-シクロヘキサノン及び0.5重量%未満のオイカリプトールを含むペパーミント油;70重量%未満のカルボン及び少なくとも14重量%のリモネンを含むスペアミント油;またはこれらの混合物;及び
(b)風味組成物の少なくとも0.5重量%の、以下の2以上から選択される風味物質:デカノール、オクタナール、ヘキサン酸アリル、アネトール、精製アニシード、メボウキ油、酪酸ベンジル、カモミール油、桂皮アルデヒド、シス-3-酢酸ヘキセニル、天然シトラール、セイロンシトロネラ、ヘプタン酸エチル、オイゲノール、フェンネル・スイート、酢酸ゲラニル、アルファイオノン、ライム、オレンジ香味料、パラクレシルメチルエーテル、アルファピネン。」

2 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、および、その記載事項は、前記「第2 2」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記「第2」で検討した本願補正発明から(b)の「風味物質」の選択肢に「デカノール」を追加したものである。
そうすると、本願発明の構成要件から選択肢を1つ削除したものに相当する本願補正発明が、前記「第2 3」に記載したとおり、刊行物1ないし3に記載された発明及び刊行物4及び5記載の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1ないし3に記載された発明及び刊行物4及び5記載の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1ないし3に記載された発明及び刊行物4及び5記載の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-11-06 
結審通知日 2012-11-13 
審決日 2012-11-27 
出願番号 特願2006-502253(P2006-502253)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A23L)
P 1 8・ 121- Z (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉田 知美  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 小川 慶子
菅野 智子
発明の名称 改善された風味組成物  
代理人 杉山 直人  
代理人 白銀 博  
代理人 山崎 行造  
代理人 赤松 利昭  

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