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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B32B
管理番号 1272828
審判番号 不服2011-19037  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-09-05 
確定日 2013-04-10 
事件の表示 特願2001- 92776「反射防止フィルム及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年10月 3日出願公開、特開2002-283509〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願は、平成13年3月28日の出願であって、平成23年6月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成23年9月5日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、当審において平成24年9月28日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、これに対して平成24年11月30日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成24年11月30日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載から見て、特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認められる。

「基材フィルムの片面側に導電性無機粒子を含有する導電層(A)を少なくとも1層設け、
かつ該導電層(A)上に、該導電層(A)よりも屈折率が小さく、かつ主鎖中にビニルエーテル構造を含む含フッ素系共重合体及びシリカ微粒子を含有する樹脂層(B)を少なくとも1層設け、
導電層(A)が、導電性無機粒子を含有する多官能(メタ)アクリル系硬化性組成物からの硬化樹脂の層であり、
多官能(メタ)アクリル系硬化性組成物が、ウレタン結合を少なくとも1つ以上有する多官能(メタ)アクリレートを含有することを特徴とする反射防止フィルム。」

3.刊行物の記載事項
当審拒絶理由で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2000-127288号公報(以下「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。

a 「【請求項1】 透明性樹脂基板の少なくとも一面に、導電性アンチモン酸亜鉛15?70重量%を有する帯電防止層が設けられた透明帯電防止性樹脂積層体であって、該帯電防止層が、(a)分子内に少なくとも2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート系化合物を主成分とする光硬化性材料、(b)BET法による1次粒子径が17nm以下である導電性アンチモン酸亜鉛、及び(c)光重合開始剤からなる組成物の光硬化によって形成されることを特徴とする透明帯電防止性樹脂積層体。
・・・(中略)・・・
【請求項4】 分子内に少なくとも2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート系化合物を主成分とする光硬化性材料が、その構造中にウレタン結合を有する請求項1記載の透明帯電防止性樹脂積層体。
・・・(中略)・・・
【請求項6】 帯電防止層の膜厚dが式(I)を満たす請求項1記載の透明帯電防止性樹脂積層体。
d=1/(4a)×λ×(2n+1) ・・・(I)
(aは帯電防止層の屈折率、λは設計波長(530?570nm)、nは1又は2である)
【請求項7】 請求項6記載の透明帯電防止性樹脂積層体上に水酸基含有含フッ素化合物からなる薄膜を有することを特徴とする光学物品。」

b 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、優れた透明性、帯電防止性、硬度、耐薬品性を有し、特に高温、高湿下であっても透明性や帯電防止性が低下することのない透明帯電防止性樹脂積層体及びこの上に水酸基含有含フッ素化合物からなる薄膜の低反射層を設けた光学物品に関するものである。本発明の光学物品は、ディスプレイ装置の表示面、その表面カバー材料、プロジェクションテレビの前面パネル、計器のカバー材料、クリーンルームの壁材、及び半導体の包装材料等として好適に用いられる。」

c 「【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記問題を解決し、透明性、帯電防止性、硬度、耐薬品性に優れ、かつ、高温、高湿下でも透明性や帯電防止性が低下することのない透明帯電防止性樹脂積層体、及び低反射性、耐摩耗性に優れた光学物品を提供することを目的とする。」

d 「【0007】本発明で使用される(a)分子内に少なくとも2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート系化合物を主成分とする光硬化性材料は、分子内に少なくとも2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート系化合物であればよく、」

e 「【0008】また、上記(メタ)アクリレート系化合物として、さらにウレタン結合を有する(メタ)アクリレート系ウレタンオリゴマーを用いると、得られる塗膜の耐摩耗性が向上するばかりでなく、透明性が改善されるため、好ましく用いられる。」

f 「【0012】・・・(中略)・・・本発明で用いられる水酸基含有含フッ化化合物は、屈折率1.42以下のものであれば特に限定されないが、有機溶剤に溶解するものが好ましく用いられる。」

g 「【0013】
【発明の効果】本発明の透明帯電防止性樹脂積層体は、優れた透明性、帯電防止性、硬度、耐薬品性を有し、特に高温、高湿下であっても透明性や帯電防止性が低下することがないことから、これらの特徴を活かし、ディスプレイ装置の表示面、その表面カバー材料、プロジェクションテレビの前面パネル、計器のカバー材料等の用途に好適に用いられる。また、本発明の光学物品は、前記透明帯電防止性樹脂積層体上に水酸基含有含フッ素化合物からなる薄膜を有するため、優れた透明性、帯電防止性、耐薬品性を有し、特に高温、高湿下であっても透明性や帯電防止性が低下することなく、低反射性及び視認性、耐摩耗性に優れることから、ディスプレイ装置の表示面、その表面カバー材料、プロジェクションテレビの前面パネル、計器のカバー材料等として好適に用いられる。」

h 「【0019】実施例7
実施例4の帯電防止性樹脂積層体上に水酸基含有含フッ素化合物をディップコート塗装方法にて両面塗装を行い、室温で30分乾燥させ、その後、80℃で1時間の熱硬化を行った。」

なお、上記fにおける「水酸基含有含フッ化化合物」は、上記a、g及びhの記載から見て、「水酸基含有含フッ素化合物」の誤記と認められる。

上記a?hの記載から、刊行物1には次の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

「透明性樹脂基板の少なくとも一面に、導電性アンチモン酸亜鉛を有する帯電防止層が設けられ、
前記帯電防止層上に、屈折率が1.42以下の水酸基含有含フッ素化合物からなる薄膜の低反射層が設けられ、
前記帯電防止層が、分子内に少なくとも2個以上の(メタ)アクリロイル基及びウレタン結合を有する(メタ)アクリレート系化合物を主成分とする光硬化性材料、BET法による1次粒子径が17nm以下である導電性アンチモン酸亜鉛、及び光重合開始剤からなる組成物の光硬化によって形成された、
低反射性の光学物品。」

4.対比・判断
本願発明と刊行物1発明とを対比する。
刊行物1発明における「透明性樹脂基板」は、基材である点で、本願発明における「基材フィルム」と共通する。
刊行物1発明における「一面」は、本願発明における「片面側」に相当する。
刊行物1発明において、組成物の成分である「BET法による1次粒子径が17nm以下である導電性アンチモン酸亜鉛」が導電性無機粒子であることは明らかであり、また、前記組成物の光硬化によって形成された帯電防止層に前記導電性無機粒子が含有されていることも明らかである。したがって、刊行物1発明における「BET法による1次粒子径が17nm以下である導電性アンチモン酸亜鉛」は、本願発明における「導電性無機粒子」に相当し、刊行物1発明における「導電性アンチモン酸亜鉛を有する帯電防止層」は、本願発明における「導電性無機粒子を含有する導電層(A)」に相当する。
刊行物1発明における「分子内に少なくとも2個以上の(メタ)アクリロイル基及びウレタン結合を有する(メタ)アクリレート系化合物」は、本願発明における「ウレタン結合を少なくとも1つ以上有する多官能(メタ)アクリレート」に相当する。
刊行物1発明における「分子内に少なくとも2個以上の(メタ)アクリロイル基及びウレタン結合を有する(メタ)アクリレート系化合物を主成分とする光硬化性材料、BET法による1次粒子径が17nm以下である導電性アンチモン酸亜鉛、及び光重合開始剤からなる組成物」は、「導電性無機粒子を含有する」点、及び「ウレタン結合を少なくとも1つ以上有する多官能(メタ)アクリレートを含有する」点で、本願発明における「多官能(メタ)アクリル系硬化性組成物」と共通する。
刊行物1発明における「帯電防止層が、分子内に少なくとも2個以上の(メタ)アクリロイル基及びウレタン結合を有する(メタ)アクリレート系化合物を主成分とする光硬化性材料、BET法による1次粒子径が17nm以下である導電性アンチモン酸亜鉛、及び光重合開始剤からなる組成物の光硬化によって形成された」という事項は、本願発明における「導電層(A)が、導電性無機粒子を含有する多官能(メタ)アクリル系硬化性組成物からの硬化樹脂の層であり」という事項に相当する。
刊行物1発明における「屈折率が1.42以下の水酸基含有含フッ素化合物からなる薄膜の低反射層」は、導電層上に設けられた含フッ素化合物を含有する層である点で、本願発明における「樹脂層(B)」と共通する。
刊行物1発明における「低反射性の光学物品」と本願発明の「反射防止フィルム」とは、低反射性の光学物品である点で共通する。

したがって、本願発明と刊行物1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「基材の片面側に導電性無機粒子を含有する導電層を少なくとも1層設け、
かつ該導電層上に、含フッ素化合物を含有する層を少なくとも1層設け、
導電層が、導電性無機粒子を含有する多官能(メタ)アクリル系硬化性組成物からの硬化樹脂の層であり、
多官能(メタ)アクリル系硬化性組成物が、ウレタン結合を少なくとも1つ以上有する多官能(メタ)アクリレートを含有する、低反射性の光学物品。」

[相違点1]
導電層上に設けられた層が、本願発明においては「導電層よりも屈折率が小さく、かつ主鎖中にビニルエーテル構造を含む含フッ素系共重合体及びシリカ微粒子を含有する樹脂層」であるの対し、刊行物1発明においては「屈折率が1.42以下の水酸基含有含フッ素化合物からなる薄膜の低反射層」である点。

[相違点2]
本願発明においては、基材が「基材フィルム」と限定され、かつ光学物品が「反射防止フィルム」と限定されているのに対し、刊行物1発明においては、これらの限定がされていない点。

上記相違点について検討する。

[相違点1について]
刊行物1発明において、低反射層の材料である「屈折率が1.42以下の水酸基含有含フッ素化合物」は、当業者が具体的な化合物を適宜に選択し得るものである。そして、屈折率が1.42以下の水酸基含有含フッ素化合物からなる低屈折率層(刊行物1発明における「低反射層」に相当)を設けた低反射性の光学物品において、前記水酸基含有含フッ素化合物として、主鎖中にビニルエーテル構造を含む水酸基含有含フッ素系共重合体を用いることは周知の事項である(例えば、当審拒絶理由において引用文献2として例示した特開2000-186216号公報(段落【0028】?【0035】)及び同じく引用文献3として例示した特開平11-228631号公報(段落【0012】?【0016】))。したがって、刊行物1発明において、「屈折率が1.42以下の水酸基含有含フッ素化合物」として、上記周知の「主鎖中にビニルエーテル構造を含む水酸基含有含フッ素系共重合体」を用いることは、当業者が容易に想到し得たことである。
また、含フッ素化合物を含有する低屈折率層を設けた低反射性の光学物品において、表面硬度を向上させるために、前記低屈折率層にシリカ微粒子を含有させることは周知の事項である(例えば、当審拒絶理由において引用文献5として例示した特開平7-112126号公報(段落【0002】、【0027】?【0028】、【0063】?【0064】、【0069】及び【0115】)、他にも、特開2000-241603号公報(【請求項1】及び段落【0030】)及び特開2000-171604号公報(段落【0007】?【0008】))。そして、刊行物1発明の光学物品は、ディスプレイ装置の表示面、その表面カバー材料、プロジェクションテレビの前面パネル、計器のカバー材料等の用途に用いられるものであるから(前記3.g参照)、表面硬度の向上は当業者にとって自明の課題である。したがって、刊行物1発明において、表面硬度を向上させるために、「水酸基含有含フッ素化合物からなる薄膜の低反射層」に、シリカ微粒子を含有させることは、当業者が容易に想到し得ることである。
さらに、屈折率が相対的に大きい層の上に屈折率が前記層より相対的に小さい層を積層することによって反射を低減することは周知の事項であるから(例えば、前記特開2000-186216号公報(段落【0036】)及び当審拒絶理由において引用文献4として例示した特開平11-337704号公報(段落【請求項1】?【請求項3】))、刊行物1発明において、「水酸基含有含フッ素化合物からなる薄膜の低反射層」の屈折率を、帯電防止層の屈折率より小さくすることは、当業者が普通に想到し得ることである。
以上のことから、刊行物1発明において、「屈折率が1.42以下の水酸基含有含フッ素化合物からなる薄膜の低反射層」を、帯電防止層よりも屈折率が小さく、かつ主鎖中にビニルエーテル構造を含む含フッ素系共重合体及びシリカ微粒子を含有する樹脂層として、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

[相違点2について]
刊行物1発明において、透明性樹脂基板の材質や厚さ等の態様は、当業者が適宜に選択し得る設計的事項であり、また、低反射性の光学物品において、透明性樹脂基板としてフィルム状物を使用して反射防止フィルムとすることは周知の事項である(例えば、前記特開平11-337704号公報(段落【0009】))。
したがって、刊行物1発明において、透明性樹脂基板としてフィルム状物を使用して、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得ることである。

そして、本願発明によって、当業者が予期し得ない格別顕著な効果が奏されるとは認められない。

以上のことから、本願発明は、刊行物1発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


なお、請求人は、平成24年11月30日付けの意見書において、次の点を主張している。

(1)引用文献1(刊行物1)と引用文献2の組合せについて
当業者は、熱硬化法に関する引用文献2に記載の技術を、光硬化法を用いることを要旨とする引用文献1(刊行物1)に記載の発明に適用しようとするはずがない。
また、引用文献2に金属酸化物粒子は非導電性であることが好ましいことが記載されている。したがって、当業者は、非導電性粒子が含まれることを前提とする引用文献2に記載の発明を、導電性を重視する引用文献1(刊行物1)の記載の発明に、適用しようと思うはずがない。
つまり、引用文献2に記載の技術を、引用文献1(刊行物1)の記載の発明に適用することには阻害要因がある。

(2)引用文献1(刊行物1)と引用文献3の組合せについて
引用文献3に記載の発明に係る硬化性樹脂組成物は、基材に対して直接に積層されるものであり、これに対して、引用文献1(刊行物1)に記載の発明では、「水酸基含有含フッ素化合物からなる薄膜」は、透明性樹脂基板(引用文献3の「基材」に相当)に直接に積層されるものではなく、帯電防止層の上に積層されるものである。
したがって、引用文献3に記載の発明にかかる材料を、引用文献1(刊行物1)に記載の透明性樹脂基板の上に積層せしめることは、明らかに阻害される。

(3)引用文献1(刊行物1)?引用文献3と引用文献5の組合せについて
引用文献5に記載の発明に係る「含フッ素表面処理剤で処理された無機微粒子」は、「非プロトン性含フッ素溶媒」が含まれる特殊な溶媒の中でのみ安定に分散する。一方、引用文献2や3に記載の技術において用いられる溶媒は、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどといった「非プロトン性含フッ素溶媒」ではない溶媒である。
したがって、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどといった溶媒を用いる引用文献1(刊行物1)?引用文献3に記載の技術の組合せに、非プロトン性含フッ素溶媒中に分散させることを前提とする引用文献5に記載の材料(無機系微粒子)を組合せることは極めて困難である。また、無理に組み合わせたならば、無機微粒子等を溶媒中に均一に分散させることができなくなることは明らかである。
引用文献1(刊行物1)?3及び5に接した当業者といえども、本願発明を想到することは極めて困難である。

上記請求人の主張について検討する。

[主張(1)について]
刊行物1発明において、帯電防止層は光硬化法によって形成されるものであるが、帯電防止層上に設けられる「水酸基含有含フッ素化合物からなる薄膜の低反射層」の形成方法は、光硬化法に限定される訳ではない。このことは、刊行物1に、水酸基含有含フッ素化合物からなる薄膜を熱硬化によって形成する実施例が記載されていることから明らかである(前記3.h参照)。
したがって、「熱硬化法に関する引用文献2に記載の技術を、光硬化法を用いることを要旨とする引用文献1(刊行物1)に記載の発明に適用しようとするはずがない。」という請求人の主張は、刊行物1の記載と整合せず、失当である。
また、引用文献2において、高屈折材料層の成分である金属酸化物粒子は、必ずしも非導電性のものに限られない(引用文献2の段落0014には、例えば「酸化インジウムスズ(ITO)」が例示されている。ITOは、導電性金属酸化物として、例示するまでもなく周知である。)。また、刊行物1及び引用文献2に記載された、水酸基含有含フッ素化合物からなる低屈折率層を積層するという事項は、屈折率がより小さい層を積層することによって反射を低減するものであり、前記事項は前記低屈折率層が積層される層が導電性層であるか非導電性層であるかに関係なく適用できることは、当業者にとって明らかである。
したがって、「当業者は、非導電性粒子が含まれることを前提とする引用文献2に記載の発明を、導電性を重視する引用文献1(刊行物1)の記載の発明に、適用しようと思うはずがない。」という請求人の主張は、根拠が無く、失当である。
よって、請求人の主張(1)は採用できない。

[主張(2)について]
引用文献3に記載された、水酸基含有フッ素化合物からなる低屈折率層を積層するという事項は、屈折率がより小さい層を積層することによって反射を低減しようとするものであり、前記技術は低屈折率層を基材上に直接形成する場合に限られる訳ではなく、基材上に他の層が設けられている場合にも適用できることは、当業者にとって明らかである。
したがって、「引用文献3に記載の発明にかかる材料を、引用文献1(刊行物1)に記載の透明性樹脂基板の上に積層せしめることは、明らかに阻害される。」という請求人の主張(2)は、失当であり、採用できない。

[主張(3)について]
引用文献5には、含フッ素ポリマーの機械的に柔らかく表面が傷付きやすいという短所を克服する方法として、ポリマー中に硬い無機微粒子を充填する方法が有効であることが記載され(段落【0002】)、前記無機微粒子としてシリカが記載されている(段落【0028】)。
引用文献5には、含フッ素溶媒に溶解性の含フッ素ポリマーとともに使用することを前提として(段落【0063】?【0064】参照)、「含フッ素表面処理剤で処理された無機微粒子が非プロトン性含フッ素溶媒に分散したオルガノゾル。」(【請求項1】)が記載されているが、一般に、低屈折率層を形成するための含フッ素化合物としては、引用文献5に記載された含フッ素溶媒に溶解性のものに限られず、種々のものがあることは当業者にとって明らかであり、また、表面が傷付きやすいという短所を克服するために用いる無機微粒子についても、引用文献5の請求項1に記載されたような、含フッ素表面処理剤で処理された無機微粒子に限定される訳ではないことは、当業者にとって明らかである。そして、組成物の溶媒は、当該組成物の成分に応じて当業者が適宜に選択し得るものである。
含フッ素化合物を含有する低屈折率層にシリカ微粒子を含有させて、表面硬度を向上させることが、周知の事項(前記[相違点1について]参照)である以上、引用文献5に記載された溶媒と引用文献2、3に例示された溶媒とが異なるからといって、引用文献2、3に記載された含フッ素化合物からなる低屈折率層に、表面硬度の向上を目的としてシリカ微粒子を含有させることを、当業者が想到し得ないとすることはできない。
したがって、請求人の主張(3)は採用できない。

5.まとめ
以上のとおり、本願発明は、刊行物1発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-01-30 
結審通知日 2013-02-05 
審決日 2013-02-19 
出願番号 特願2001-92776(P2001-92776)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 晋也  
特許庁審判長 河原 英雄
特許庁審判官 ▲高▼辻 将人
紀本 孝
発明の名称 反射防止フィルム及びその製造方法  
代理人 岩見 知典  

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