• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C04B
管理番号 1272904
審判番号 不服2010-25851  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-11-16 
確定日 2013-04-11 
事件の表示 特願2005- 2354「不焼成窯業建材の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 7月20日出願公開、特開2006-188399〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成17年1月7日の出願であって、平成22年5月26日付けで拒絶理由が通知され、同年8月2日に意見書及び明細書の記載に係る手続補正書が提出され、同年8月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月16日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに明細書の記載に係る手続補正書が提出され、平成23年2月18日付けで特許法第162条の規定に基づく審査官による拒絶理由が通知され、同年4月25日に意見書が提出され、その後、平成24年1月23日付けで同法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が通知され、これに対する回答書が提出されなかったものである。

2.本願発明
平成22年11月16日に提出された手続補正書による補正は、請求項の削除を目的としたものであるから、適法な補正である。
よって、本願の請求項1?8に係る発明は、平成22年11月16日に提出された手続補正書により補正された本願の特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
不焼成窯業建材を製造する際に、揮発性有機化合物(VOC)を含む非アルカリ性製造原料を予め50?105℃の温度で熱水処理してVOCを除去した後に、VOCを除去された該製造原料をアルカリ性製造原料であるセメント類および/または消石灰と混合して不焼成窯業建材を製造することを特徴とする不焼成窯業建材の製造方法。」

3.特許法第162条の規定による審査(以下、「前置審査」という。)における拒絶理由の概要
前置審査において審査官から平成23年2月18日付けで通知した拒絶理由は、本願発明1?8に対して、本願出願前に頒布された刊行物である特開2004-277188号公報及び同じく本願出願前に頒布された刊行物である特開2003-262572号公報を引用して、この出願の請求項1に係る発明(当審注:本願発明1のこと)は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとしたものである。

4.刊行物に記載された事項
(1)前置審査の拒絶理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2004-277188号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】
(a)スラグと石膏とからなるスラグ・石膏硬化材と、
(b)無機系調湿材と、
(c)硫酸鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸アンモニウム鉄、硫酸水素カリウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸ニッケル、硫酸マグネシウムのうちから選ばれたいずれか1種または2種以上の金属硫酸塩と、
(d)金属硫酸塩100重量部に対し少なくとも5重量部を越える量、好ましくは30?235重量部の硬化剤と、を含有する建材用組成物。
【請求項2】
(a)スラグ・石膏硬化材100重量部に対し、(c)金属硫酸塩2?15重量部を含有することを特徴とする請求項1記載の建材用組成物。
【請求項3】
(d)硬化剤が、消石灰、セメント、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムのうちから選ばれたいずれか1種あるいはそれらの混合物からなる請求項1または2記載の建材用組成物。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の建材用組成物を水と混合して常法により成型させた板状成型体からなる調湿建材。」(特許請求の範囲、請求項1?4)
(イ)「【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明の建材用組成物は、水硬性硬化体の本体要素としてのスラグ・石膏硬化材(a)と、無機系調湿材(b)と、金属硫酸塩(c)と、所要の量の硬化剤(d)とを含有する。特に、本発明では、スラグ・石膏材に調湿剤とともに、所定の金属硫酸塩を混合させ、さらに、本来のスラグ・石膏のアルカリ反応に加えて金属硫酸塩の配合による水硬反応低下をスラグ・石膏の硬化用の硬化剤として用いられる同様の硬化剤を含有させて、調湿性、強度、並びに無臭性を同時に保持し得る建材用組成物及びそれを用いた調湿建材を得るものである。すなわち、スラグ・石膏硬化材に一定の金属硫酸塩を添加することにより、強度に優れ、高い調湿機能を保持し、さらに、臭気低減効果を保持する。また、スラグ・石膏硬化材に金属硫酸塩とともに無機系調湿材を添加することにより、調湿サイクルを早くし、周囲の揮発性有機化合物(VOC)あるいは生活臭の原因物質吸着機能を有効に行なわせる。」(段落【0009】)
(ウ)「(無機系調湿材)無機系調湿材は、周囲の温度が高い場合は吸湿し、低い場合は放湿することにより、周囲をある一定の湿度範囲に調節する機能を有する材料であり、これを組成物中に配合することにより、さらに調湿容量を大きくし、VOCや生活臭の原因物質も吸着する量を増大させて、飛躍的に高い調湿機能を具備させる。調湿性の顕著な材料として有機物質もあるが、建材については不燃性が求められるから、多量には使用できない。そのため、無機系の調質性材料を使用するべきである。無機系調湿材としては、珪藻土、活性白土、酸性白土、シリカゲル、アパタイト、セピオライト、バーミキュライト、ゼオライト、シラス、炭、多孔質炭酸カルシウムが適している。これらは、すべて多孔質物質で、その空孔に水分子を取り込むことができる。そして、周囲の湿度が低くなり、水の蒸気圧が低下するとこの水分子を放出することにより、調湿作用を示す。この中でも、珪藻土、活性白土、酸性白土、シリカゲル、バーミキュライト、ゼオライト、炭、多孔質炭酸カルシウムがより好適である。なお、調湿材の使用量は特に制限されないが、好ましくは、スラグ・石膏硬化材100重量部に対して5?50重量部であるのが良い。スラグ・石膏及びセメント等の硬化剤の種類、調合方法によっては調湿材料が少ないと、その効果が小さく、多すぎると硬化不良の原因になる場合がある。」(段落【0014】)
(エ)「前記した必須成分が含まれておれば、他に軽量骨材、増量剤、ボード形成用繊維質材等が含まれていても良い。例えば、軽量化のためにパーライトなどの無機発泡体、発泡スチレン、発泡ウレタンなどの有機発泡体、各種フライアッシュ、パルプスラッジの焼却灰、シリコン製品生産の際に生じるシリカ微粉などの廃棄物扱いされる微粉も利用が可能である。特にフライアッシュはセメント等との反応性もあり、硬化促進には有効である。その他、炭酸カルシウム、ウォラストナイト、タルク、マイカ、等がある。繊維質材料として、ロックウール、グラスウール、ポリビニルアルコール繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、カーボン繊維、各種ウィスカ等がある。さらに、カルシウムアルミネートトリサルフェートハイドレート(TSH)を添加してもよく、これにより、建材の強度向上に資する。」(段落【0017】)
(オ)「・・・【実施例】(1)高炉スラグ、二水石膏、普通ポルトランドセメント、珪藻土、叩解再生紙、珪藻土、硫酸第一鉄及び消石灰を図1、図2の通り、水中に配合し、10分間攪拌混合し、成形用スラリーを得た。・・・」(段落【0020】)

(2)同じく、前置審査の拒絶理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2003-262572号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
(カ)「【請求項1】 有害有機物質を含む非ガス状試料に、過熱水蒸気を連続的に接触させて、過熱水蒸気により有害有機物質を共蒸留させ、有害有機物質を分離する方法。」(特許請求の範囲、請求項1)
(キ)「すなわち、本発明の方法では、有害有機物質を含む非ガス状試料に、過熱水蒸気を連続的に接触させて、過熱水蒸気により有害有機物質を共蒸留させ、有害有機物質を分離する。この方法において、試料に対して、温度110?350℃程度の過熱水蒸気を供給してもよい。また、過熱水蒸気は、常圧で発生した飽和水蒸気を加熱した過熱水蒸気であってもよい。前記試料は非ガス状である限り特に制限されず、例えば、液体試料(河川、廃液(工場廃水や工場廃液など)、飲料水など)、固体試料(産業廃棄物、汚泥、土壌、食品、焼却灰など)であってもよい。さらに、共蒸留により試料から分離された有害有機物質を濃縮するため、共蒸留させた後、蒸留液は吸着剤(活性炭、セラミック系吸着剤など)と接触させて濃縮してもよい。なお、前記有害有機物質には、種々の有害物質、例えば、ダイオキシン類(塩素化ダイオキシン類や臭素化ダイオキシン類など)、内分泌撹乱物質(環境ホルモン活性物質)、多環芳香族化合物などが例示できる。」(段落【0008】)

(3)本願出願前に頒布された刊行物である特開2003-278099号公報(以下、「周知例1」という。)には、次の事項が記載されている。
(サ)「[珪藻土]珪藻土は、藻類が珪藻殻となって長い間地層に堆積し化石化したものであり、主成分は、SiO_(2)(シリカ)である。本実施形態の「壁紙原紙」あるいは「高填料紙」で使用する珪藻土の粒子径は、5?100ミクロン、好ましくは10?50ミクロンに整粒され、粒子表面には0.1?0.2ミクロン程度の無数の微細孔を有するものが望ましい。
そのために天然に存在する珪藻土は使用前に十分焼成されて有機物質や水分などの吸着物質を除去し、さらに粒子径が上記の範囲となるように分級される。なお、「壁紙原紙」中に珪藻土単独または珪藻土と無機質材料を合わせて好ましくは全重量の30重量%以上、より好ましくは、30?85重量%添加することができる。これはパルプが残部70重量%以下とすると、珪藻土と無機質材料の合計はパルプ100重量部に対して約43重量部以上となる。更に、上記好ましい範囲はパルプ100重量部に対して約43?567重量部(100÷15×85=567)となる。本発明においては、壁紙原紙を得る工程において、叩解されたパルプと、珪藻土とともに無機質材料を添加しても良い。
[無機質材料]本発明で使用する無機質材料としては、消臭性能、調湿性能を示し、難燃性の材料であれば天然のものであれ人工のものであれどのようなものであっても良い。例えば、水酸化アルミニウム、クレー、カオリン、焼成カオリン、タルク、炭酸カルシウムあるいは二酸化チタン、水酸化チタン等のチタン酸化物又は水酸化物、硫酸バリウム、酸化亜鉛、硫酸カルシウム、ホワイトカーボン、酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、酸性白土、珪藻頁岩、ケイ酸塩鉱物等を単独あるいは数種類組み合わせて使用することができる。
無機質材料の粒子径は、10?100ミクロン、好ましくは20?80ミクロンに整粒され、粒子表面に無数の微細孔を有するものが望ましい。そのために、必要に応じて使用前に十分焼成し、有機物質や水分などの吸着物質を除去し、さらに粒子径が上記の範囲となるように分級するのがよい。このように調整された無機質材料は、水蒸気の吸湿・放湿性能および有害ガスの消臭性能に優れ、建材などから放出される有害ガスを吸着しやすく、また室内の湿度に合わせて水蒸気を吸収したり、放湿しやすくなる。また不燃性の特性を持たせることもできる。」(段落【0019】?【0022】)

(4)本願出願前に頒布された刊行物である特開2002-154864号公報(以下、「周知例2」という。)には、次の事項が記載されている。
(タ)「【発明が解決しようとする課題】そこで本発明者は、天然資源としてのバーミキュライトのさらなる有効利用を図り、調湿および/または消臭、さらには美観の要請をも満たし得る、特に吸放湿の量および速度においてバランスに優れた建材を見出すべく、種々検討を行った。」(段落【0005】)
(チ)「さらに本発明においては、このバーミキュライト基材に配合するに先立ち、活性化処理したものを用いるのが好適である。活性化処理は、バーミキュライトが吸着している有機物もしくは無機物を離脱させ、本来有する調湿、吸着性能等を再構成・回復させることを目的とする。たとえば、加圧水蒸気処理、食塩水による煮沸処理等が挙げられるが、好ましくは105℃?200℃の飽和蒸気圧での水蒸気処理によることができる。」(段落【0010】)

5.当審の判断
(1)引用文献1に記載された発明
ア 引用文献1の記載事項(ア)には、「建材用組成物を水と混合して・・・成型させた板状成型体からなる調湿建材」が記載されており、同(ア)によれば、この「調湿建材」において「建材用組成物」が「(a)スラグと石膏とからなるスラグ・石膏硬化材と、(b)無機系調湿材と、(c)・・・金属硫酸塩と、(d)・・・硬化剤とを含有する」ものであり、「硬化剤」が「消石灰、セメント、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムのうちから選ばれたいずれか1種あるいはそれらの混合物からなる」ものである。
イ また、上記「調湿建材」については、(a)(b)(c)(d)の各成分を混合して「建材用組成物」を得て、これを上記記載事項(ア)にも記載されているように、「建材用組成物を水と混合して・・・成型」するものであるから、引用文献1には、実質的に、建材用組成物を用いて調湿建材を製造する方法が記載されているといえる。
エ 以上をふまえると、引用文献1には、
「建材用組成物を水と混合して調湿建材を製造する際に、(a)スラグと石膏とからなるスラグ・石膏硬化材と、(b)無機系調湿材と、(c)金属硫酸塩と、(d)消石灰、セメント、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムのうちから選ばれたいずれか1種あるいはそれらの混合物からなる硬化剤とを含有する建材用組成物を用いた調湿建材の製造方法」の発明(以下、「引用文献1発明」という。)が記載されていると認める。

(2)一致点と相違点
本願発明1と引用文献1発明とを対比する。
ア まず、引用文献1発明の(b)成分である無機系調湿材について検討する。
引用文献1の記載事項(イ)には、「無機系調湿材を添加することにより、調湿サイクルを早くし、周囲の揮発性有機化合物(VOC)あるいは生活臭の原因物質吸着機能を有効に行なわせる」ことが記載されている。また、同記載事項(ウ)には、「無機系調湿材としては、珪藻土、・・・セピオライト・・・、ゼオライト・・・」が適している旨、同記載事項(エ)には、当該「建材用組成物」に「フライアッシュ」、「炭酸カルシウム」、「ウォラストナイト」、「タルク」を添加してもよい旨、さらに、「フライアッシュはセメント等との反応性もあり、硬化促進には有効である」旨が記載されているから、引用文献1発明の「無機系調湿材」の構成成分として、「珪藻土、セピオライト、ゼオライト、フライアッシュ、炭酸カルシウム、ウォラストナイト、タルク」が挙げられていると認められる。
一方、本願発明1における「非アルカリ性製造原料」は、本願明細書【0008】の記載からみて、「珪藻土、ゼオライト、ハロイサイト、ワラストナイト、セピオライト、アタパルジャイト、未膨張バーミキュライト、炭酸カルシウム、タルクもしくはフライアッシュ等が挙げられる」ものである。
ここで、本願発明1のワラストナイトと、引用文献1に記載のウォラストナイトは同一物質であることは明らかである。
してみると、引用文献1発明の「無機系調湿材」と本願発明1の「非アルカリ性製造原料」は、いずれも「珪藻土、ゼオライト、ワラストナイト、セピオライト、炭酸カルシウム、タルクもしくはフライアッシュを含む」点で一致している。
イ 次に、引用文献1発明の(d)成分である硬化剤について検討する。
引用文献1発明の(d)成分は、「消石灰、セメント、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムのうちから選ばれたいずれか1種あるいはそれらの混合物」である。ここで、引用文献1の実施例をみてみると、その記載事項(オ)において、「【実施例】・・・普通ポルトランドセメント、珪藻土、・・・及び消石灰を・・・配合し、・・・攪拌混合し、成形用スラリーを得た。」と記載されているから、セメントとして、普通ポルトランドセメント、すなわちポルトランドセメントが記載されている。
そして、上記引用文献1発明の(d)成分の「消石灰、セメント、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムのうちから選ばれたいずれか1種あるいはそれらの混合物」がアルカリ性を呈することは技術常識である。
一方、本願発明1における「アルカリ性製造原料であるセメント類および/または消石灰」は、その「セメント類」として、本願明細書【0012】には、「ポルトランドセメント」が記載されている。
してみると、引用文献1発明の「消石灰、セメント、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムのうちから選ばれたいずれか1種あるいはそれらの混合物」は、「消石灰、ポルトランドセメントのうちから選ばれたいずれか1種あるいはそれらの混合物」である点で、本願発明1の「アルカリ性製造原料であるセメント類および/または消石灰」に相当する。
ウ 次に、引用文献1発明の(a)成分と(c)成分についてであるが、これらは「建材用組成物」を構成するものであり、「調湿建材」の原料である。そして、これらはアルカリ性かそれ以外であることは明らかであるので、本願発明1の「非アルカリ性製造原料」か「アルカリ性製造原料」のいずれかに含まれるものである。
エ 最後に、引用文献1発明の「調湿建材」について検討する。
引用文献1発明の「建材用組成物を水と混合」して得られる「調湿建材」は、「消石灰、セメント・・・の・・・1種あるいはそれらの混合物からなる硬化剤」を用いて製造されるものであり、その実施例においても「普通ポルトランドセメント」を用いていることから、焼成工程を伴わない、セメント系の材料であると認められる。
一方、本願発明1の「不焼成窯業建材」は、本願明細書【0007】の「不焼成窯業建材としてはセメント系・・・が好適に用いられる。」の記載からみて、焼成工程を伴わない、セメント系であることは明らかである。
よって、引用文献1発明の「建材用組成物を水と混合」して得られる「調湿建材」は、本願発明1の「不焼成窯業建材」に相当するものと認められる。
オ してみると、本願発明1と引用文献1発明は、
「不焼成窯業建材を製造する際に、非アルカリ性製造原料をアルカリ性製造原料であるセメント類および/または消石灰と混合して不焼成窯業建材を製造する不焼成窯業建材の製造方法」である点で一致し、下記(A)、(B)の点で相違している。
相違点(A);本願発明1の「非アルカリ性製造原料」は、揮発性有機化合物(VOC)を含むものであるのに対して、引用文献1発明ではかかる特定がない点。
相違点(B);本願発明1は「非アルカリ性製造原料を予め50?105℃の温度で熱水処理してVOCを除去した後に、VOCを除去された該製造原料をアルカリ性製造原料であるセメント類および/または消石灰と混合」するものであるのに対して、引用文献1発明ではかかる事項を有していない点。

(3)相違点についての検討
ア 相違点(A)について
本願発明1における「非アルカリ性製造原料」は、本願明細書【0008】に記載されているように「珪藻土、ゼオライト、ハロイサイト、ワラストナイト、セピオライト、アタパルジャイト、未膨張バーミキュライト、炭酸カルシウム、タルク」を含むものであり、引用文献1発明の「無機系調湿材」も上記「(2)ア」で検討したように、「珪藻土、セピオライト、バーミキュライト、ゼオライト、フライアッシュ、炭酸カルシウム、ウォラストナイト、タルク」を含むものである。
これらはいずれも多孔質物質であり、珪藻土やバーミキュライト等の天然原料は、一般に有機物や水分等を吸着しているものである。これらの予め吸着している成分の中に「揮発性有機化合物(VOC)」も含むことは技術常識である。(要すれば、周知例1の記載事項(サ)及び周知例2の記載事項(タ)(チ)を参照。)
してみると、引用文献1発明の「無機系調湿材」は、「揮発性有機化合物(VOC)」を含むものといえるから、該相違点(A)は実質的な相違点とはいえない。

イ 相違点(B)について
イ-1 引用文献1において、その記載事項(イ)の「無機系調湿材を添加することにより、調湿サイクルを早くし、周囲の揮発性有機化合物(VOC)あるいは生活臭の原因物質吸着機能を有効に行なわせる」との記載からみて、引用文献1発明の「調湿建材」は、「(b)無機系調湿材」が揮発性有機化合物(VOC)の吸着機能を有することは明らかである。
ここで、「(b)無機系調湿材」とは、引用文献1の記載事項(ウ)に示されているように「珪藻土・・・、セピオライト、バーミキュライト、ゼオライト、・・・が適して」おり、「すべて多孔質物質で、その空孔に水分子を取り込むことができる」ものである。このような多孔質物質において、その原料が予めある程度のVOCを含んでいると、所望のVOC吸着機能が発揮できずに室内のVOC吸着能が低下し、また、場合によってはVOCを放出することになることは明らかである。
してみると、上記調湿建材の原料である無機系調湿材も、VOC濃度が低いものを用いたり、VOC濃度がある程度高い場合は、あらかじめこれを除去したりすることは、当業者が通常考慮することであるといえる。
このことは、周知例1の記載事項(サ)の「天然に存在する珪藻土は使用前に十分焼成されて有機物質や水分などの吸着物質を除去し」や「無機質材料の粒子径は・・・に整粒され、粒子表面に無数の微細孔を有するものが望ましい。・・・必要に応じて使用前に十分焼成し、有機物質や水分などの吸着物質を除去し」との記載、及び、周知例2の記載事項(タ)(チ)の「天然資源としてのバーミキュライト」の配合に先立ち、「バーミキュライトが吸着している有機物もしくは無機物を離脱させ、本来有する調湿、吸着性能等を再構成・回復させることを目的」として活性化処理を行うという記載からも裏付けられることである。
イ-2 次に、上記調湿建材におけるVOC除去の具体的手段について検討する。
引用文献2には、記載事項(カ)に「有害有機物質を含む非ガス状試料に、過熱水蒸気を連続的に接触させて、過熱水蒸気により有害有機物質を共蒸留させ、有害有機物質を分離する方法」と記載され、同(キ)によれば、この「非ガス状試料」として土壌などの固体試料が挙げられ、「温度110?350℃程度の過熱水蒸気」を供給してよい旨が記載されており、また、周知例2には、記載事項(タ)に「・・・活性化処理は、バーミキュライトが吸着している有機物もしくは無機物を離脱させ、本来有する調湿、吸着性能等を再構成・回復させることを目的とする。たとえば、加圧水蒸気処理、食塩水による煮沸処理等が挙げられる・・・」と記載され、同(チ)によれば、活性化処理として105℃?200℃の飽和蒸気圧での水蒸気処理を行う旨が記載されている。
この引用文献2及び周知例2の記載に接した当業者は、無機系調湿材、すなわち珪藻土、セピオライト、バーミキュライト、ゼオライトからのVOCの除去に、引用文献2、周知例2に記載された、土壌やバーミキュライトに所定温度の水蒸気を供給する方法を適用できるとの教示を得ることは明らかであり、これら文献に記載の水蒸気処理は、高温の水分によりVOCを除去することを教示するものである。
一方、本願明細書【0009】には、「熱水処理は50?105℃の温度で、・・・好ましくは蒸気吹き込みである。・・・使用する蒸気は、1?5気圧の飽和蒸気であるのが工業的に有利である」と記載されていることから、本願発明1の熱水処理は蒸気、すなわち水蒸気での処理を含むものである。
そして、水蒸気による熱水処理を施すにあたりその温度をどの程度とするかは、上記の引用文献2、周知例2の記載を参酌すると、当業者が容易に想到し得るものである。
よって、相違点(B)に係る本願発明1の特定事項は、当業者が容易になし得るものである。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-06 
結審通知日 2013-02-12 
審決日 2013-02-25 
出願番号 特願2005-2354(P2005-2354)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 近野 光知  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 中澤 登
國方 恭子
発明の名称 不焼成窯業建材の製造方法  
代理人 小林 良博  
代理人 石田 敬  
代理人 田崎 豪治  
代理人 古賀 哲次  
代理人 蛯谷 厚志  
代理人 石田 敬  
代理人 小林 良博  
代理人 田崎 豪治  
代理人 蛯谷 厚志  
代理人 青木 篤  
代理人 古賀 哲次  
代理人 青木 篤  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ