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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C07F 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C07F |
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管理番号 | 1272910 |
審判番号 | 不服2011-17981 |
総通号数 | 162 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-06-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-08-19 |
確定日 | 2013-04-11 |
事件の表示 | 特願2006-82411「高純度ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム及びその製法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年10月4日出願公開,特開2007-254408〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 この出願(以下,「本願」ともいう。)は,平成18年3月24日の出願であって,平成22年11月2日付けで拒絶理由が通知され,平成23年1月5日に意見書及び手続補正書が提出され,同年5月20日付けで拒絶査定がされ,同年8月19日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され,同年10月5日に審判請求書の手続補正書が提出され,平成24年7月23日付けで審尋がされ,同年9月24日に回答書が提出されたものである。 第2 平成23年8月19日付けの手続補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成23年8月19日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 補正の内容 平成23年8月19日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,特許請求の範囲の記載を, (補正前) 「【請求項1】 誘導結合プラズマ発光分析により分析されるマンガン原子の含有量が0.3質量ppm以下で、ケイ素原子の含有量が0.1質量ppm以下、且つアルミニウム原子の含有量が0.1質量ppm以下であることを特徴とする、半導体製造に用いられる高純度ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム。 【請求項2】 一般式(1) 【化1】 (式中、R^(1)及びR^(2)は、同一又は異なっていても良く、炭素数1?6のアルキル基を示す。) で示されるジアルキルマグネシウムと、ジアルキルマグネシウム1モルに対して、2.05?2.18モルのシクロペンタジエンを反応させた後、得られたビス(シクロペンタジエニル)マグネシウムを減圧下で昇華精製させることを特徴とする、高純度ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウムの製法。 【請求項3】 ジアルキルマグネシウムが、一般式(2) 【化2】 (式中、R^(3)は、炭素数6?12のアルキル基を示す。) で示されるトリアルキルアミンで処理したものである請求項2記載の高純度ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウムの製法。 【請求項4】 ジアルキルマグネシウムが、n-ブチルエチルマグネシウムである請求項2記載の高純度ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウムの製法。 【請求項5】 シクロペンタジエンが、ジシクロペンタジエンを140?170℃でクラッキング反応させた後に25℃以下に冷却したものである請求項2記載の高純度ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウムの製法。 【請求項6】 トリアルキルアミンが、トリ-n-ドデシルアミンである請求項3記載の高純度ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウムの製法。」から, (補正後) 「【請求項1】 誘導結合プラズマ発光分析により分析されるマンガン原子の含有量が0.3質量ppm以下で、ケイ素原子の含有量が0.1質量ppm以下、且つアルミニウム原子の含有量が0.1質量ppm以下であることを特徴とする、高純度ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム。 【請求項2】 一般式(1) 【化1】 (式中、R^(1)及びR^(2)は、同一又は異なっていても良く、炭素数1?6のアルキル基を示す。) で示されるジアルキルマグネシウムと、ジアルキルマグネシウム1モルに対して、2.05?2.18モルのシクロペンタジエンを反応させた後、得られたビス(シクロペンタジエニル)マグネシウムを減圧下で昇華精製させることによって得られる、請求項1記載の高純度ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム。 【請求項3】 高純度ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウムが半導体製造に用いられるものである、請求項1乃至2のいずれか1項に記載の高純度ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム。」 とする補正を含むものである。 2 補正の目的の適否 (1)はじめに 本件補正の特許請求の範囲についてする補正が,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第1?4号に掲げる事項を目的とするものに該当するか否かを検討する。 (2)補正後の請求項1への補正 補正後の請求項1への補正は,補正前の請求項1に記載された「半導体製造に用いられる」という発明特定事項を削除する補正を含むものであるから,請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものではなく,その産業上の利用分野が「半導体製造」の技術分野に限定されないという点において,補正前後の発明の産業上の利用分野が同一であるとは認められず,特許請求の範囲が減縮されるものとは認められない。 したがって,補正後の請求項1への補正は,平成18年改正前特許法17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものとはいえない。 (3)補正後の請求項2?3への補正 補正前の請求項1に係る発明は,「半導体製造に用いられる高純度ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム」という,「物」のカテゴリに属する発明であり,独立形式で記載された補正前の請求項2及びこれを引用する従属形式で記載された補正前の請求項3?6に係る発明は,「高純度ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウムの製法」という,「方法」のカテゴリに属する発明である。 これに対して,本件補正後の請求項1?3に係る発明である「高純度ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム」は,「物」のカテゴリに属する発明である。 してみると,本件補正の特許請求の範囲についてする補正は,「方法」の発明に関する補正前の請求項2?6を削除するとともに,「物」の発明に関する請求項2?3を新たに追加していると解されるので,当該請求項2?3を追加する補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第4項第1?4号に掲げるいずれの事項を目的とするものに該当しない。 また,補正後の請求項2に係る発明に関し,補正前の請求項2に記載された「高純度ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウムの製法」という「方法」のカテゴリに属する発明を,補正後の請求項2に記載された「高純度ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム」という「物」のカテゴリに属する発明に変更することを目的としたものであると解しても,発明のカテゴリそれ自体を変更する補正は,平成18年改正前特許法17条の2第4項第1?4号に掲げるいずれの事項を目的とするものに該当しない。 (4)小括 そうすると,上記補正は,発明を特定するために必要な事項を限定するものではないので,平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものではない。 また,上記補正は,同法第17条の2第4項第1号,第3号,第4号に掲げる,「請求項の削除」,「誤記の訂正」及び「明りようでない記載の釈明」のいずれを目的とするものでもない。 3 むすび 以上のとおり,平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反する上記補正を含む,本件補正は,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって,[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。 第3 本願発明 平成23年8月19日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の特許請求の範囲の請求項1?6に係る発明は,平成23年1月5日付け手続補正により補正された請求項1?6に記載された事項により特定されるものであり,その請求項1に係る発明は,以下のとおりである。 「【請求項1】 誘導結合プラズマ発光分析により分析されるマンガン原子の含有量が0.3質量ppm以下で、ケイ素原子の含有量が0.1質量ppm以下、且つアルミニウム原子の含有量が0.1質量ppm以下であることを特徴とする、半導体製造に用いられる高純度ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム。」(以下,この請求項1に記載された特許を受けようとする発明を,「本願発明」という。) 第4 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由の概要は,『この出願については、平成22年11月2日付け拒絶理由通知書に記載した理由1、2によって、拒絶をすべきものです。』というものであって, その拒絶理由通知書には,理由1として『この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。』との理由が示されるとともに,当該「下記の請求項」及び「下記の刊行物」に関して「・請求項1 ・引用文献等 1」との指摘がなされており,その「引用文献等 1」とは,次の刊行物1である。 刊行物1:特開平2-67230号公報 そして,原査定の「備考」の欄には, 『本願請求項1に係る発明は、化合物の発明であり、組成物や材料の発明ではないから、他の物質との混ざり物のようにその成分の組成によって表現されるものではない。 そして、化学物質はその化合物名又は化学構造式によって表現することで特定されるものであるから、その他の不純物の含有量や用途の記載に係わらず、引用文献1に記載の化学物質は、本願発明の化学物質と依然として同一である。 特に、特定の用途に用いるものである、という発明特定事項によって、既知の化学物質と区別することはできない。 仮に不純物の含有量で区別できるとしても、公知の精製手段を繰り返して、高純度のものとすることは、当業者が適宜なし得たことである。』との理由が示されている。 第5 当審の判断 当審は,原査定の理由のとおり,本願発明は,刊行物1に記載された発明である,と判断する。 1 刊行物の記載事項 (1)刊行物1の記載 ア 摘記1 「実施例11 攪拌機、還流冷却器を備えた300mlフラスコを窒素置換後、水素化ナトリウム3.9g、ジシクロペンタジエニルマグネシウム77.2g、ノルマルペンタン100ml1を仕込んだ。室温で撹拌し、1時間保持した。これを常圧、35℃でノルマルペンタンを留去した。 次いで100℃で減圧昇華精製を行ない精製ジシクロペンタジエニルマグネシウム50gを得た。 このようにして得られたジシクロペンタジエニルマグネシウム中の酸素成分は<2ppm、ハロゲン成分は<1.5ppmであった。」(第4ページ右下欄第11行?第5ページ左上欄第3行) イ 摘記2 「本発明によれば、不純物を含む有機金属化合物から実質的ないし完全に不純物を含まない有機金属化合物を製造することができ、かくして精製された有機金属化合物は特に電子工業用を初め精密化学品分野おいて好適に使用することができ、その工業的価値は頗る大である。 」(第5ページ右上欄第18行?左下欄第3行) (2)周知技術 周知例1:特開平7-74108号公報 「【0002】 【従来の技術】II-VI 族化合物半導体を材料とする発光デバイスのクラッド層として盛んに用いられているZnMgSSe膜のマグネシウム原料として、またIII-V族化合物半導体を材料とする発光デバイス(特にGaNを主とした窒素化合物)における重要なp型ドーパントのマグネシウム原料として、MOCVD(有機金属化学気相成長)法において、従来はビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム〔(C_(5) H_(5) )_(2 )Mg〕が広く用いられている。」と記載されている。 周知例2:特開2002-57158号公報 「【0004】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、Mgの原料ガスとしてビス(メチルシクロペンタジエニル)マグネシウム((MeCp)_(2)Mg)やビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム(Cp_(2)Mg)を用いた場合、MgドープGaN層の上の能動層にMgがオートドーピングされることにより、能動層の電導率の低下を生じるという問題がある。」と記載されている。 2 刊行物1に記載された発明 刊行物1には,「減圧昇華精製を行な」って得た「精製ジシクロペンタジエニルマグネシウム」(摘記1)並びに,それが「実質的ないし完全に不純物を含まない」(摘記2)ものであって,「特に電子工業用を初め…好適に使用することができ」(摘記2)ることが記載されている。 すると,刊行物1には,「実質的ないし完全に不純物を含まない,電子工業用に使用することができる,ジシクロペンタジエニルマグネシウム」の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているといえる。 3 対比 引用発明における,「ジシクロペンタジエニルマグネシウム」は,例えば,周知例1に,「ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム〔(C_(5) H_(5) )_(2 )Mg〕」(摘記a)と化学式で表される化合物であって,化合物名の表記は異なるものの,本願発明の「ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム」に相当する。 また,引用発明における「電子工業用」という用途は,本願発明の「半導体製造に用いられる」という用途の上位概念として共通する。 そうすると,両者は 「電子工業用のビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム」の発明で一致し,以下の点で,一応相違する。 相違点1:同一の化学構造からなる化合物が,本願発明においては,「誘導結合プラズマ発光分析により分析されるマンガン原子の含有量が0.3質量ppm以下で、ケイ素原子の含有量が0.1質量ppm以下、且つアルミニウム原子の含有量が0.1質量ppm以下である」及び「高純度」という事項によって特定されているのに対して,引用発明は,「実質的ないし完全に不純物を含まない」という事項によって特定されている点 相違点2:化合物の用途に関し,本願発明においては,「半導体製造に用いられる」という事項によって特定されているのに対して,引用発明においては,「電子工業用に使用することができる」という事項によって特定されている点 4 検討 本願発明と,引用発明は,共に化合物の発明である。そして,「化合物」は,その化合物名や化学構造式等の,それ自身の構造を特定する事項によって表現することで特定されるものであり,不純物の含有量や用途の限定によって特定され得る性質のものではない。 このため,相違点1に関し,本願発明の「誘導結合プラズマ発光分析により分析されるマンガン原子の含有量が0.3質量ppm以下で、ケイ素原子の含有量が0.1質量ppm以下、且つアルミニウム原子の含有量が0.1質量ppm以下である」及び「高純度」という発明特定事項は,本願発明の「ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム」という化合物それ自体を特定することに寄与していない。そして,当該「高純度」という事項の有無は,化合物それ自体の化学構造に差異を与えるものでもない。 したがって,本願発明の化合物と引用発明の化合物は,化学物質として区別することができないから,上記相違点1は,実質的な相違とはいえない。 また,化合物の用途発明の観点から検討しても,引用発明の「電子工業用のビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム」における「電子工業用」とは,周知例1及び2の記載から見て,半導体製造におけるMgドーピング用材料として使用する場合を想定していたといえるから,この点は刊行物1に記載されているに等しい事項である。よって,上記相違点2は,実質的な相違とはいえない。 よって,本願発明は,刊行物1に記載された発明である。 5 審判請求人の主張 審判請求人は,審判請求書における「請求の理由【本願発明が特許されるべき理由】(4)」において,以下のように主張している。 『当該技術分野においては、不純物の存在量によって劇的にその機能・用 途が変わります。つまり、不純物を含む有機金属化合物から実質的又は完全に不純物を含まない有機金属化合物を新たに産み出すことは、当業者であればその前後において、物そのものに何らかの変化があるものとして捉えるのが常であると考えられます。』,及び 『「不純物の含有量によって公知化合物と区別することができない。」旨の指摘は、文言のみの対比によって「高純度ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム」と「ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム」が区別したものであり、物そのものの機能・用途を参酌した上で、本質的に判断されたものとは言えないと考えられます。』 しかしながら,上記「第5 4」において述べたとおり,本願発明は,「化合物」の発明であり,また,「ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム」自体は,新規化合物と認められるものでもなく,不純物の上限量による発明特定事項は,化合物である発明そのものを何ら限定するものではない。 また,この化合物の半導体製造への適用も,新規な用途となるものではもない。 よって,審判請求人のこの主張は,妥当ではない。 6 まとめ 以上によれば,本願発明は,その出願前日本国内において頒布された刊行物1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号の規定により,特許を受けることができないものである。 第6 むすび 以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるから,その余を検討するまでもなく,本願は,拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-02-06 |
結審通知日 | 2013-02-12 |
審決日 | 2013-02-25 |
出願番号 | 特願2006-82411(P2006-82411) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(C07F)
P 1 8・ 572- Z (C07F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 井上 千弥子、関 美祝 |
特許庁審判長 |
井上 雅博 |
特許庁審判官 |
大畑 通隆 木村 敏康 |
発明の名称 | 高純度ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム及びその製法 |