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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F04B
管理番号 1272934
審判番号 不服2012-9375  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-05-21 
確定日 2013-04-11 
事件の表示 特願2007- 8561「圧縮機の摺動部品、摺動部品基体、スクロール部品、スクロール部品基体、シリンダブロック、シリンダブロック基体、ピストン、ピストン基体、ローラー、ローラー基体、および圧縮機」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 4月24日出願公開、特開2008- 95677〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成19年1月17日(優先日 平成18年3月1日、平成18年4月18日、平成18年9月15日、出願番号 特願2006-55129、特願2006-114819、特願2006-251427)の出願であって、平成23年8月1日付けで拒絶理由が通知され、平成23年10月11日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成24年2月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年5月21日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものであって、その請求項1ないし28に係る発明は、平成23年10月11日付けの手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし28に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「 【請求項1】
炭素含有量が2.3wt%?2.4wt%であり、ケイ素含有量が1.95wt%?2.05wt%であり、マンガン含有量が0.6wt%?0.7wt%であり、リン含有量が0.035wt%未満であり、硫黄含有量が0.04wt%未満であり、クロム含有量が0.00wt%?0.50wt%であり、ニッケル含有量が0.50wt%?1.00wt%であり、残部が不可避不純物を含む鉄から成ると共に黒鉛が片状黒鉛鋳鉄の片状黒鉛よりも小さく、少なくとも一部の硬度がHRB90よりも高くHRB100よりも低く、かつ、半溶融ダイキャスト成形により成形された後に急冷され、更にその後に熱処理されて製造される、
圧縮機の摺動部品(17,23,24,26,39,60,117,121,123,124,125,126,127,221,224,310b)。」

2.引用文献
(1)引用文献の記載
原査定の拒絶理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2005-36693号公報(以下、「引用文献」という。)には、例えば、次のような記載がある。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、冷媒圧縮機の製造方法に係り、特に、圧縮室を形成する旋回スクロールを有するスクロール形圧縮機や圧縮室を形成する主ベアリングを有するロータリ形圧縮機等の冷媒圧縮機の製造方法に好適なものである。」

(イ)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来の固定及び旋回スクロールを砂型鋳造による鋳鉄で成形する方法では、端板上に直立した渦巻状のラップの離型のために大きな抜き勾配部分を設ける必要があると共に、砂型鋳物における冷却速度との関係で表面にチル層が生じ易かった。このため、成形した固定及び旋回スクロール素材の勾配部分及びチル層を成形後に切削して所定の形状に械加工しなければならなかった。これによって、素材費、切削加工費及び工具消耗品代等の面でコスト高を招くと共に、研削廃材及び加工廃液等の廃棄物の増大を招くという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、摺動部材の信頼性を確保しつつ、コスト低減及び廃棄物の低減を図ることができる冷媒圧縮機の製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、本発明は、平板部及び前記平板部から垂直方向に突出する薄肉突出部からなる摺動部材を備える圧縮機部と、前記圧縮機部を駆動する電動機部とを備える冷媒圧縮機の製造方法において、鋳鉄原材料を半溶融状態スラリーとなるまで加熱しこの半溶融状態スラリーを型内で加圧後に空冷して焼準処理を施すチクソキャスト法により摺動素材を成形し、前記摺動素材の摺動面相当部を超精密仕上げ加工することにより前記摺動部材を成形するようにしたことにある。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の複数の実施例について図を用いて説明する。各実施例の図における同一符号は同一物または相当物を示す。
【0008】
本発明の第1実施例の冷媒圧縮機の製造方法を図1から図9を用いて説明する。本実施例冷媒圧縮機が冷凍装置のスクロール圧縮機の例であり、HCFC系冷媒,HFC系冷媒,自然系冷媒すなわち炭化水素,CO_(2),アンモニア等を単独、または混合して用いた冷媒を使用している。
【0009】
まず、本実施例のスクロール圧縮機の全体構成に関して図1を用いて説明する。図1は本発明の第1実施例で製作されたスクロール圧縮機の縦断面図である。
【0010】
スクロール圧縮機は、図1に示すように、密閉容器1、クランクシャフト2、電動機部3、圧縮機部4、副軸受9を備えて構成されている。電動機部3はロータ3a及びステータ3bを備えて構成されている。圧縮機部4はフレーム5、クランク部6、旋回スクロール7、固定スクロール8を備えて構成されている。電動機部3は、圧縮機部4とクランクシャフト2を介して連結されており、圧縮機部4を駆動する。
【0011】
クランクシャフト2は、ロータ3aに固定されると共に、フレーム5、旋回スクロール7、及び副軸受9により軸受支持されている。クランクシャフト2のクランク部6は、旋回スクロール7の一側に形成されたボス部7c内に摺動可能に挿入され、旋回スクロール7に偏心回転を与える。
【0012】
旋回スクロール7は、薄肉の平板部を構成する端板部7a、この端板部7aから垂直方向に突出する薄肉の筒状部を構成するラップ部7b、端板部7aから反ラップ側に垂直方向に突出する薄肉の筒状部を構成するボス部7cを備えて構成されている。旋回スクロール7は、後述するようにチクソキャスト法により鋳鉄原材料から成形した旋回スクロール素材15(図2参照)の摺動面相当部を仕上げ加工することにより製造される。
【0013】
固定スクロール8は、端板部8a、この端板部8aから垂直方向に突出するラップ部8bを備えて構成されている。そして、旋回スクロール7と固定スクロール8とはそれぞれのラップ7b、8bが摺動可能に噛み合わされ、それらの内部に複数の圧縮室が形成される。
【0014】
次に、図2及び図3を参照しながら本実施例の旋回スクロール7の製造方法を比較例1の旋回スクロールの製造方法と比較して具体的に説明する。図2は図1の旋回スクロールに用いられる鋳鉄の旋回スクロール素材を示す図で、(a)は左側面図、(b)は中央縦断面図、(c)は右側面図である。図3は砂型鋳造による比較例1の旋回スクロール素材を示す図、(a)は左側面図、(b)は中央縦断面図、(c)は右側面図である。
【0015】
本実施例の旋回スクロール素材15は、鋳鉄材料からチクソキャスト法によって製造された超精密形状の鋳鉄素材である。この鋳鉄素材は、その化学成分が、C:2.0?4.0%,Si:1.5?4.0%,Mn:0.4?1.0%を基本成分とし、さらにP:≦1.0%,S:≦0.5%,Cu:0.5?1.0%,Cr:≦1.0%,Mo:≦0.5%,Ti:≦0.15%,Ni:≦0.5%,Sb:≦0.15%,B:≦0.15%,Sn:≦0.05%,Mg:≦0.1%を一種もしくは二種以上を添加することで特定されるものが用いられる。
【0016】
チクソキャスト法による超精密形状の旋回スクロール素材15は、素材を構成する原材料を半溶融状態となるまで加熱し、この半溶融スラリーを型内に加圧によって送り込み、その後に空冷することで焼準処理が行なわれ、成形される。なお、本実施例では1193Kで2時間加熱後に空冷することにより焼準処理を行なっている。
【0017】
旋回スクロール素材15は、端板部15a、ラップ部15b及びボス部15cを備え、端板部15aの反ラップ側に放射溝15d、バランス穴15e、オルダムリング溝15fが形成されており、全体として複雑な形状をしている。
【0018】
半溶融スラリーは流動性に富むため、チクソキャスト法による旋回スクロール素材15の製造では、ボス部15cの穴やバランス穴15e等の穴・放射溝15dやオルダムリング溝等の溝・ラップ部15aやボス部15c等の薄肉の筒状部といったような複雑形状の素材の製造が可能である。
【0019】
また、加熱は原材料が半溶融状態となる温度まででよいため、冷却時の凝固収縮が砂型鋳造の場合と比較して少なく、素材に抜き勾配をほとんど考慮する必要がない。よって、ラップ部15a及びボス部15cのような筒状部を有していても、寸法精度が高く製品の実形状に近い素材の製造が可能である。
【0020】
また、旋回スクロール素材15は、組織が高密度で微細となり高硬度(HRB100?120)となり、素材表面には鋳物特有の鋳造欠陥や凹凸を殆どなくすことができ、粗加工することなく殆どの部分をそのまま製品としての使用が可能である。
【0021】
従って、係る旋回スクロール素材15によれば、組織が均一であるということ、穴や溝付といったように複雑形状を有する素材の製造が可能であること、及び製品形状に極めて近い形状・寸法に成形できること等の特徴がある。
【0022】
これに対し、比較例1の旋回スクロール素材151は、鋳鉄材料から砂型鋳造法により製造したものであり、複雑形状を有する部品の製造は不可能で、図3に示すように、端板部151a及びボス部151cには溝や穴の部分を有しない形状とならざるを得なかった。また、旋回スクロール素材151を製造する際の溶鉄温度は、本実施例の旋回スクロール素材15に比較して格段に高温であり、凝固時の収縮が大きいため、離型の際の抜き勾配を素材のラップ部151bに大きく設ける必要がある。よって、旋回スクロールとして用いるためには、溝や穴の部分や抜き勾配部分を機械加工する必要があり、大幅な材料ロスとなっている。
【0023】
本実施例の旋回スクロール素材15は、上述したように表面には鋳造欠陥や凹凸がないため、粗加工は必要なく、端板部15a及びラップ部15bの固定スクロール8との摺動相当部といった超高精度が要求される部分の仕上げ加工のみが行なわれる。このようにして、旋回スクロール7が製造される。この旋回スクロール7は、切削重量/素材重量を10%以下とすることが可能であり、比較例1の旋回スクロールの切削重量/素材重量が50%を越えるものに対して大幅な材料歩留まり向上となる。
【0024】
旋回スクロール7は、焼準処理された旋回スクロール素材15の摺動面相当部を超精密仕上げ加工することにより成形される。
【0025】
次に、図4から図9を参照しながら本実施例の旋回スクロール素材15の特徴を比較例1?4と対比して説明する。
【0026】
図4は図2の本実施例の旋回スクロール素材15の組織を示す図である。図4において、旋回スクロール素材15の組織は、黒色部分の黒鉛23と、灰色部分のパーライト24(基地組織)とからなっている。ここで、黒鉛形状は塊状黒鉛(ASTMでBタイプ)が集まって球状を示しており、黒鉛サイズがASTMで6以下である。
【0027】
図5は砂型鋳造による鋳鉄で成形した比較例1の旋回スクロール素材151の組織を示す図である。図5において、旋回スクロール素材151の組織は、黒色部分の黒鉛231と、灰色部分のパーライト241とからなっている。ここで、黒鉛形状は片状黒鉛(Aタイプ)である。
【0028】
図4と図5とを比較して明らかなように、本実施例の旋回スクロール素材15の組織は比較例1の旋回スクロール素材151の組織より微細であり、その硬度はHRB103であり、比較例1の旋回スクロール素材151のHRB95と比較して高硬度である。これによって、本実施例によれば耐摩耗性の向上を図ることができる。
【0029】
本実施例の旋回スクロール素材15及び比較例1の旋回スクロール素材151について、高圧雰囲気で摩擦摩耗試験を行った結果を図6に示す。図6から明らかなように、本実施例の旋回スクロール素材15(図6のA)は、比較例1の旋回スクロール素材151(図6のB)と比較して耐摩擦摩耗性に優れている。従って、本実施例の旋回スクロール素材15は、摺動材料として、比較例1の旋回スクロール素材151より優れている。
【0030】
図7は焼準処理を行なわないチクソキャスト法で成形した比較例2の旋回スクロール素材152の組織を示す図である。比較例2の旋回スクロール素材15の組織は、黒色部分の黒鉛23と、灰色部分のパーライト24と、白色部分のセメンタイト(チル)25とからなっている。比較例2の旋回スクロール素材152は、図7から明らかなように白色部分のセメンタイト(チル)25が存在するので、加工性が悪くなるのに加え、素材の割れが入り易く非常に脆くなり、摺動材として不適当である。これに対し、本実施例の旋回スクロール素材15は、焼準処理を行なっているので、図4から明らかなようにセメンタイト(チル)が殆ど消失されている。これによって、本実施例の旋回スクロール素材15は、加工性が良好で、素材の割れが入り難く、摺動材として適切なものとなっている。」

(2)引用文献記載の事項
上記(1)(ア)及び(イ)並びに図面の記載から、以下の事項が分かる。
(ウ)引用文献の段落【0015】等を参酌すると、鋳鉄素材は、その化学成分が、C:2.0?4.0%,Si:1.5?4.0%,Mn:0.4?1.0%を基本成分とし、さらにP:≦1.0%,S:≦0.5%,Cu:0.5?1.0%,Cr:≦1.0%,Mo:≦0.5%,Ti:≦0.15%,Ni:≦0.5%,Sb:≦0.15%,B:≦0.15%,Sn:≦0.05%,Mg:≦0.1%を一種もしくは二種以上を添加することで特定されるものが用いられているから、
炭素含有量が2.0wt%?4.0wt%であり、ケイ素含有量が1.5wt%?4.0wt%であり、マンガン含有量が0.4wt%?1.0wt%であり、リン含有量が1.0wt%以下であり、硫黄含有量が0.5wt%以下であり、クロム含有量が1.0wt%以下であり、ニッケル含有量が0.5wt%以下であり、残部が不可避不純物を含む鉄から成ることが分かる。

(エ)引用文献の段落【0026】ないし【0028】等を参照すると、実施例の黒鉛が比較例1の片状黒鉛鋳鉄の片状黒鉛よりも小さいことが分かる。

(オ)引用文献の段落【0016】等を参照すると、半溶融ダイキャスト成形により成形された後に空冷されていることが分かる。

(3)引用発明
上記(1)(ア)及び(イ)、図面の記載、並びに、(2)(ウ)ないし(オ)から、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「 炭素含有量が2.0wt%?4.0wt%であり、ケイ素含有量が1.5wt%?4.0wt%であり、マンガン含有量が0.4wt%?1.0wt%であり、リン含有量が1.0wt%以下であり、硫黄含有量が0.5wt%以下であり、クロム含有量が1.0wt%以下であり、ニッケル含有量が0.5wt%以下であり、残部が不可避不純物を含む鉄から成ると共に黒鉛が片状黒鉛鋳鉄の片状黒鉛よりも小さく、硬度がHRB100?120、かつ、半溶融ダイキャスト成形により成形された後に空冷され、製造される、圧縮機の摺動部材。」

3.対比・判断
本願発明と引用発明とを比較すると、引用発明における「摺動部材」は、その機能及び構成からみて、本願発明における「摺動部品」に相当する。
また、後者の「半溶融ダイキャスト成形により成形された後に空冷され」る態様と、前者の「半溶融ダイキャスト成形により成形された後に急冷され」る態様とは、「半溶融ダイキャスト成形により成形された後に冷却され」るとの概念で共通する。
さらに、引用発明における「炭素含有量が2.0wt%?4.0wt%」は、本願発明における「炭素含有量が2.3wt%?2.4wt%」の数値範囲を包含し、同様に、「ケイ素含有量が1.5wt%?4.0wt%」は、「ケイ素含有量が1.95wt%?2.05wt%」の数値範囲を、「マンガン含有量が0.4wt%?1.0wt%」は、「マンガン含有量が0.6wt%?0.7wt%」の数値範囲を、「リン含有量が1.0wt%以下」は、「リン含有量が0.035wt%未満」の数値範囲を、「硫黄含有量が0.5wt%以下」は、「硫黄含有量が0.04wt%未満」の数値範囲を、「クロム含有量が1.0wt%以下」は、「クロム含有量が0.00wt%?0.50wt%」の数値範囲を、それぞれ包含する。そして、引用発明における「ニッケル含有量が0.5wt%以下」という数値範囲と、本願発明における「ニッケル含有量が0.50wt%?1.00wt%」という数値範囲とは、「ニッケル含有量が0.5wt%」という数値で共通する。
また、引用発明における「硬度がHRB100?120」である態様と、本願発明における「少なくとも一部の硬度がHRB90よりも高くHRB100よりも低」い態様とは、「少なくとも一部の硬度が所定の範囲であ」るとの概念で共通する。

したがって、両者は、
「 炭素含有量が2.3wt%?2.4wt%であり、ケイ素含有量が1.95wt%?2.05wt%であり、マンガン含有量が0.6wt%?0.7wt%であり、リン含有量が0.035wt%未満であり、硫黄含有量が0.04wt%未満であり、クロム含有量が0.00wt%?0.50wt%であり、ニッケル含有量が0.50wt%であり、残部が不可避不純物を含む鉄から成ると共に黒鉛が片状黒鉛鋳鉄の片状黒鉛よりも小さく、少なくとも一部の硬度が所定の範囲であり、かつ、半溶融ダイキャスト成形により成形された後に冷却され、製造される、
圧縮機の摺動部品。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
(1)本願発明では、半溶融ダイキャスト成形により成形された後に急冷され、更にその後に熱処理されて製造されるのに対し、引用発明では、半溶融ダイキャスト成形により成形された後に冷却され、製造されるものの、それ以上の特定がなされていない点(以下、相違点1という。)。

(2)硬度に関して、本願発明では、HRB90よりも高くHRB100よりも低いのに対し、引用発明では、HRB100?120である点(以下、相違点2という。)。

相違点について検討する。
(1)相違点1について
半溶融ダイキャスト成形による部品の製造において、本願明細書の段落【0117】及び【0118】に記載されているように、半溶融ダイキャスト成形により成形された後に急冷され、更にその後に熱処理することで、硬度を所望の値に調整することは技術常識であり、現に、例えば特開平11-50140号公報(特に、段落【0019】ないし【0030】、図8、図9等参照。)に同様の製造方法が記載されている。
そして、引用発明においても、製造方法として半溶融ダイキャスト成形を採用して、製造後の部材の硬度を所望の値(HRB100?120)とすることが示唆されているので、引用発明において、硬度を所望の値とするために、上記技術常識を適用して、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものというべきである。


(2)相違点2について
引用発明においても、半溶融ダイキャスト成形後に、HRB100?120の硬度の部品を切削して仕上げ加工する点が記載されているように(引用文献の段落【0014】を参照のこと。)、本願発明と同様に鋳造後の切削加工を施すことを前提としたものであり、HRB100を境にして被削性等の効果に顕著な差異があるとは認められないので、上記相違点2は実質的に相違するものではない。

また、本願発明を全体として検討しても、引用発明及び上記技術常識から予想される以上の格別の効果を奏するとも認められない。

以上から、本願発明は、引用発明及び上記技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、請求人は審判請求書(第5ページ第10ないし16行)において、「以上より、引例1に開示される圧縮機の部品は、硬度をHRB100?120と従来よりも高くすることで切削加工性を犠牲にして信頼性を確保していますが、ニッケル含有量は0.5%以下であるので金属組織の靭性を向上させる目的は有していないと考えられます。すなわち、本願発明に係る圧縮機の摺動部品は、引例1には開示されていないNi含有量(0.50wt%?1.00wt%)、および、従来の圧縮機の部品と比べて低い硬度(HRB90?100)に関する特徴を有しています。」と主張しているが、上記相違点2における判断でも述べたように、引用発明と本願発明はいずれも鋳造後の切削加工を施すことを前提としたものであり、HRB100を境にして被削性等の効果に顕著な差異があるとは認められないので、引用発明においても、本願発明の効果と同様の効果を奏することは明らかである。さらに、引用発明と本願発明の部品はNi含有量においても、0.50wt%という値で共通しているから、引用発明においても、本願発明の効果と同様の効果を奏することは明らかである。
したがって、上記請求人の主張は採用できない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び上記技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-01-24 
結審通知日 2013-01-29 
審決日 2013-02-25 
出願番号 特願2007-8561(P2007-8561)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 秀之  
特許庁審判長 仁木 浩
特許庁審判官 槙原 進
川口 真一
発明の名称 圧縮機の摺動部品、摺動部品基体、スクロール部品、スクロール部品基体、シリンダブロック、シリンダブロック基体、ピストン、ピストン基体、ローラー、ローラー基体、および圧縮機  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  
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