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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12N 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 C12N 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 C12N |
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管理番号 | 1273032 |
審判番号 | 不服2010-4326 |
総通号数 | 162 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-06-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-02-26 |
確定日 | 2013-04-18 |
事件の表示 | 特願2001-545535「ウシ免疫不全ウイルス由来ベクター」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 6月21日国際公開、WO01/44458、平成15年 5月27日国内公表、特表2003-517312〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成12年12月13日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1999年12月14日 米国、2000年11月17日 米国、及び、2000年12月12日 米国)とする国際出願であって、平成20年8月18日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたが、平成21年10月2日付で拒絶査定がなされ、これに対して、平成22年2月26日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたものである。 第2.平成22年2月26日付の手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成22年2月26日付の手続補正を却下する。 [理由] (1)補正後の本願発明 上記補正により、補正前の特許請求の範囲の請求項1?73のうち、請求項1?27、30、33?37、53?66、69?72が削除されるとともに、特許請求の範囲の請求項28、38、67及び73が補正され、そのうち補正前の請求項28の 「【請求項28】(a)(i)BIVゲノムに由来するDNA、 (ii)ビリオン内にRNAをパッケージするために必要なパッケージング配列、 (iii)該DNAに機能的に連結したプロモーター、及び (iv)第二プロモーターに機能的に連結した導入遺伝子、を含むBIVベクター構築物; (b)(i)少なくともBIVのgag及びpol遺伝子を含むBIV DNA配列断片、 (ii)該BIV DNA断片に機能的に連結したプロモーター、及び、 (iii)該BIV DNA断片の下流に位置するポリアデニル化配列、を含むBIVパッケージングベクター構築物;及び (c)ウイルス表面タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクター構築物、から成る3ベクターシステム。」は、対応する補正後の請求項1の 「【請求項1】(a)(i)BIVゲノムに由来するDNA、 (ii)ビリオン内にRNAをパッケージするために必要なパッケージング配列、 (iii)該DNAに機能的に連結したプロモーター、及び (iv)第二プロモーターに機能的に連結した導入遺伝子、を含むBIVベクター構築物であって、vpw,vpy,及びtatの少なくとも一つを欠いている該ベクター構築物; (b)(i)少なくともBIVのgag及びpol遺伝子を含むBIV DNA配列断片、 (ii)該BIV DNA断片に機能的に連結したプロモーター、及び、 (iii)該BIV DNA断片の下流に位置するポリアデニル化配列、を含むBIVパッケージングベクター構築物;及び (c)ウイルス表面タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクター構築物、から成る3ベクターシステム。」へと補正され、 また、補正前の請求項73の 「【請求項73】BIV U5要素に連結した第一BIV R領域、パッケージング配列、プロモーターに機能的に連結した導入遺伝子、及び、第二BIV R領域に連結したBIV U3要素を含むRNAベクターを含むビリオン。」は、対応する補正後の請求項23の 「【請求項23】BIV U5要素に連結した第一BIV R領域、BIVパッケージング配列、プロモーターに機能的に連結した導入遺伝子、及び、第二BIV R領域に連結したBIV U3要素を含むRNAベクターを含むビリオン。」へと補正され、 これを引用する請求項として、新たな請求項24?28の 「【請求項24】導入遺伝子が内部プロモーターに機能的に連結した、請求項23記載のビリオン。 【請求項25】導入遺伝子が、CMVプロモーター、PGKプロモーター、又はMNDプロモーターに機能的に連結した請求項23記載のビリオン。 【請求項26】U3要素における一つ又はそれ以上のヌクレオチド配列が、U3媒介転写を減少又は消滅させるために変異又は欠失している、請求項23記載のビリオン。 【請求項27】パッケージング配列における如何なる開始コドンも欠失又は変異により消滅している、請求項23記載のビリオン。 【請求項28】U3要素が更にポリアデニル化を増大させる配列を含む、請求項23記載のビリオン。」が追加された。 さらに、補正前の請求項67の 「【請求項67】BIV gag/polコード配列;ウイルスエンベロープコード配列;並びに、第一BIV R領域に連結したプロモーター、第一BIV R領域に連結したBIV U5要素、パッケージング配列、導入遺伝子、及び、第二BIV R領域に連結したBIV U3要素を含むベクター構築物であって、プロモーターはベクター構築物のRNA転写を開始するベクター構築物を含む、プロデューサー細胞。」は、対応する補正後の請求項19の 「【請求項19】BIV gag/polコード配列;ウイルスエンベロープコード配列;及び、請求項5記載のベクター構築物を含む、プロデューサー細胞。」へと補正され、そして、これを引用するものとして、補正後の請求項21、22の 「【請求項21】細胞が哺乳動物細胞である、請求項19記載の細胞。 【請求項22】哺乳動物細胞がヒト細胞である、請求項21記載の細胞。」 が追加された。 (2)新規事項について 上記補正前の請求項28を補正後の請求項1とする補正は、補正前の請求項28に係る3ベクターシステムの構成要素(a)の「BIVベクター構築物」に関し、当該BIVベクター構築物が「vpw,vpy,及びtatの少なくとも一つを欠いている」という発明特定事項を付加するものである。 一方、(a)BIVベクター構築物を含む3ベクターシステムについての「vpw,vpy,及びtat」に関する出願当初明細書及び図面の記載を検討すると、 「【請求項27】 (a)(i)BIVゲノムに由来するDNAセグメント、 (ii)ビリオン内にRNAをパッケージするために必要なパッケージング配列、 (iii)該DNAセグメントに機能的に連結したプロモーター、及び (iv)第二プロモーターに機能的に連結した導入遺伝子、を含むBIVベクター構築物; (b)(i)少なくともBIVのgag及びpol遺伝子を含むBIV DNA配列断片、 (ii)該BIV DNA断片に機能的に連結したプロモーター、及び、 (iii)該BIV DNA断片の下流に位置するポリアデニル化配列、を含むBIVパッケージングベクター構築物;及び (c)ウイルス表面タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクター構築物、から成る3ベクターシステム。 【請求項28】(略)。 【請求項29】更に、gag,vif,vpw,vpy,tat,rev及びenvから成る群から選択されるBIV遺伝子を第一ベクター構築物のDNAセグメントに含む、請求項27記載の3ベクターシステム。」(特許請求の範囲)、 「本発明は更に、(1)BIVゲノムに由来するDNAセグメント、ビリオン内にRNAをパッケージするために必要なパッケージング配列、該DNAセグメントに機能的に連結したプロモーター、及び、第二プロモーターに機能的に連結した導入遺伝子、を含むBIVベクター構築物;(2)少なくともBIVのgag又はpol遺伝子を含むBIV DNA配列断片、該BIV DNA断片に機能的に連結したプロモーター、及び、該BIV DNA断片の下流に位置するポリアデニル化配列、を含むBIVパッケージングベクター構築物;並びに、(3)ウイルス表面タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクター、から成る3ベクターシステムを提供する。一具体例においては、発現ベクター構築物が水泡性口内炎ウイルス(VSV)-Gエンベロープ糖タンパク質発現ベクターである。第二具体例では、BIVベクター構築物のDNAセグメントはBIVのgag遺伝子に一部を含有する。更に別の具体例では、BIVベクター構築物は、gag,vif,vpw,vpy,tat,rev及びenvから成る群から選択される一つ又はそれ以上のBIV遺伝子を含む。」(段落【0011】)、 「「BIVベクター構築物」とは、ヌクレオチド配列の発現を指示できるアセンブリである。該ベクター構築物は、BIVの転写を開始することの出来る5‘配列(プロモーター領域を含む);BIVゲノムに由来するDNAセグメント;BIV又は他のレンチウイルス又はレトロウイルス由来のパッケージング配列;及び、第二プロモーターに機能的に連結した導入遺伝子を含むものである。従って、本発明の一態様においては、BIVゲノムに由来するDNAセグメント;ビリオン内にRNAをパッケージするためのパッケージング配列;該DNAセグメントに機能的に連結した第一プロモーター;及び第二プロモーターに機能的に連結した導入遺伝子を含む、BIVベクター構築物が提供される。好適具体例においては、BIVベクター構築物のパッケージング配列はBIVパッケージング配列である。 BIVのgag遺伝子の一部分はDNAセグメント内に含有されていても良い。BIVのgag遺伝子は約1431個のヌクレオチドである。好適には、gag遺伝子の当該部分は約200個以下のヌクレオチドを含むものである。DNAセグメントは更に、vif,vpw,vpy,tat,rev及びenvから成る群から選択されるBIV遺伝子を含むことが出来る。」(段落【0035】、【0036】)、及び、 「上記のBIVベクター構築物、BIV結合ベクター構築物、及びBIVパッケージング構築物は、前述の具体的な遺伝子に加えて、その他のBIV遺伝子を含むことが出来る。このようなその他の遺伝子として、pol,vif,vpw,vpy,tat,rev及びenv遺伝子を上げることが出来る。」(段落【0041】)、 と記載されている。 (下線は、合議体が付与した。) これらの記載をみても、「vif,vpw,vpy,tat,rev及びenv」等のうちの「vpw,vpy,及びtat」という特定の3つの遺伝子の組み合わせが記載されているとはいえない。また、これらの3つの遺伝子を含めた複数の遺伝子群から選択される遺伝子は、ベクター構築物等の構成要素としてさらに含むことができるものとして記載されているのであって、当該遺伝子を「少なくとも一つを欠」くという技術思想・概念が記載されているのではない。そして、本件明細書等全体の記載及び当業者の技術常識を参酌しても、「vpw,vpy,及びtatの少なくとも一つを欠いている」という事項が、当初明細書等の記載から自明な事項であるとも認められない。 さらにいえば、「vpw,vpy,及びtatの少なくとも一つを欠いている」とは、すなわち、「vpw,vpy,及びtat」の全てを含む態様を排除することと同義であるが、「vpw,vpy,及びtat」の全てを含む態様を排除するという技術的事項が、当初明細書等の記載から自明な事項であるとも認められない。 とすれば、本件補正により、本願当初明細書等に記載された事項を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであることは明らかであり、上記の補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内でする補正とは認められない。 したがって、この補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。 (3)目的要件について (3-1)補正後の請求項24?28について 補正前請求項73に対応する補正後の請求項23に記載される発明に対し、発明特定事項を追加することにより特定して請求項24?28として新たに設ける補正は、請求項を増加させる補正であって、限定的減縮に該当するものではない。 また、当該補正が、請求項の削除、誤記の訂正、及び、拒絶の理由についてする明りょうでない記載の釈明のいずれにも該当しないことは明らかである。 (3-2)補正後の請求項21、22について 補正前請求項67に対応する補正後の請求項19に記載される発明に対し、発明特定事項を付加することにより特定して請求項21、22として新たに設ける補正は、請求項を増加させる補正であって、限定的減縮に該当するものではない。 また、当該補正が、請求項の削除、誤記の訂正、及び、拒絶の理由についてする明りょうでない記載の釈明のいずれにも該当しないことは明らかである。 したがって、本件補正は、特許法第17条の2第4項に規定する補正の目的の要件を満たすものとは認められず、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するものである。 (4)独立特許要件について 上記補正後の請求項1(補正前は請求項28)に係る補正は、補正前の請求項28に記載した発明を特定するために必要な事項である「BIVベクター構築物」に関し、「vpw,vpy,及びtatの少なくとも一つを欠いている」という発明特定事項を付加するものであり、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、当該補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下検討する。 (4-1)本願補正発明について 平成22年2月26日付の手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1には以下のとおり記載されている。 「【請求項1】(a)(i)BIVゲノムに由来するDNA、 (ii)ビリオン内にRNAをパッケージするために必要なパッケージング配列、 (iii)該DNAに機能的に連結したプロモーター、及び (iv)第二プロモーターに機能的に連結した導入遺伝子、を含むBIVベクター構築物であって、vpw,vpy,及びtatの少なくとも一つを欠いている該ベクター構築物; (b)(i)少なくともBIVのgag及びpol遺伝子を含むBIV DNA配列断片、 (ii)該BIV DNA断片に機能的に連結したプロモーター、及び、 (iii)該BIV DNA断片の下流に位置するポリアデニル化配列、を含むBIVパッケージングベクター構築物;及び (c)ウイルス表面タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクター構築物、から成る3ベクターシステム。」(以下、「本願補正発明」という。) (4-2)引用例 原査定の拒絶の理由で引用例4として引用された本願優先日前に頒布された刊行物であるJournal of Virology,June 1999,p.4991-5000には、下記の事項が記載されている。 (a)「ネコ免疫不全ウイルス(FIV)に基づく遺伝子導入ベクターの開発は、ヒトへの遺伝子の送達のための、霊長類起源に基づくベクターの魅力的な代替物である。FIVに基づくベクター粒子による分裂及び非分裂細胞の効率的な遺伝子導入のための必要性を研究するために、ウイルスの遺伝子発現は最小化され、それから不必要なシス作動性配列は除去された、一連のパッケージング及びベクターコンストラクトが調製された。」(要約1?7行) (b)「FIVベクターの産生。一過性のトランスフェクションにより偽型 FIV粒子を産生するために、HIV-1ベクターに対し開発されたもの(28,42,47)と類似した3プラスミド発現システムがデザインされた。そのシステムはFIVパッケージング構築物、FIVベクター構築物、及び、VSV-Gの表面糖蛋白質をコードするプラスミドから構成されるものである。・・・FIV粒子は293T細胞へ3つの構築物要素をコトランスフェクションすることにより産生され、上清に含まれるベクター粒子のタイターが決定された。ベクターのタイターは3×10^(6) 感染性粒子/mlが 293T細胞上清で形質導入されたHT1080細胞で得られた。」(4993頁右欄「RESULTS」の「Production of FIV vector.」の項) (c)FIG.1のBには、「FIVパッケージング構築物」として、pCFIVXが記載されており、当該構築物は、左から、CMV、gag、pol、及び、pA構造を含むものである。 (d)FIG.1のCには、「FIVベクター構築物」として、pTFIV_(L)Cβが記載されており、当該構築物は、左から、5'LTR、gag 、CMV 、及び、β-gal構造を含むものである。 (e)TABLE.1には、pCFIVX ,pTFIV_(L)Cβ及びVSV-Gの表面糖蛋白質をコードするプラスミドの3つを293T細胞にコトランスフェクションして得られたウイルスの平均タイターが、(3.2±0.40)×10^(6)であることが記載されている。 (f)「水疱性口内炎ウイルスG(VSV-G)エンベロープ発現プラスミドであるpCMV-Gの構築もまた以前に記述されている。」(4993頁左欄24?25行) 原査定の拒絶の理由で引用例5として引用された本願優先日前に頒布された刊行物であるVirus Research,1994,Vol.32,p.155-181には、下記の事項が記載されている。 (g)Fig.2には、BIV及びFIV等のレトロウイルスの系統樹が記載されている。 (h)Fig.7には、BIVのゲノム構造が記載されており、特に、pol及びenvの間にvpw(W)、vpy(Y)が存在すること、及び、envの5’末端及びその上流にtatの一部が存在することが示されている。 (j)Fig.8には、BIVの転写マップが記載されている。 (4-3)対比 本願補正発明と、引用例4に記載の事項を対比する。 まず、本願補正発明を構成する要素である(a)のベクター構築物について検討する。 引用例4のFIVベクター構築物であるpTFIV_(L)Cβの構造をみると(記載事項(d)参照)、引用例4のgagは、本願補正発明(a)(i)の免疫不全ウイルスゲノムに由来するDNAに相当する。 また、レンチウイルスにおいてパッケージング配列が5’LTRとgag配列との間に存在することは当業者の技術常識であったから(要すれば、拒絶の理由で引用例1として引用した刊行物である国際公開99/15641号の23頁下から5行?24頁5行等参照)、引用例4のベクター構築物pTFIV_(L)Cβは、本願補正発明の「(ii)ビリオン内にRNAをパッケージするために必要なパッケージング配列」を有するものである。 また、5’LTR領域がgagに機能的に連結したプロモーター配列を有することは当業者の技術常識であるから、ベクター構築物pTFIV_(L)Cβは、本願補正発明の(iii)の要件も満たす。 さらに、ベクター構築物pTFIV_(L)Cβは、「第二プロモーター」に相当するCMVプロモーターに、「導入遺伝子」に相当するβ-galをコードする遺伝子が機能的に連結したものといえ、その構造をみても、vpw,vpy,及びtatのいずれも有していないから、両者のベクター構築物の構造は一致するものである。 次に、本願補正発明を構成する要素である(b)について対比すると、引用例4のFIVパッケージング構築物であるpCFIVXの構造(記載事項(c)参照)、及び、3つのベクター系でウイルスが調製されていることから(記載事項(e)参照)、pCFIVXのCMVプロモーターは、gagおよびpolに機能的に連結しているものといえ、かつその下流にはポリアデニル化配列が存在するから、両者のパッケージングベクター構築物の構造は一致する。 次に、引用例4のVSV-Gの表面糖蛋白質であるエンベロープは、本願補正発明のウイルスタンパク質に相当するから、引用例4の当該蛋白質をコードするプラスミドは、本願補正発明の(c)の発現ベクター構築物に相当する。 したがって、両者は、 「(a)(i)免疫不全ウイルスゲノムに由来するDNA、 (ii)ビリオン内にRNAをパッケージするために必要なパッケージング配列、 (iii)該DNAに機能的に連結したプロモーター、及び (iv)第二プロモーターに機能的に連結した導入遺伝子、を含む免疫不全ウイルスベクター構築物であって、vpw,vpy,及びtatの少なくとも一つを欠いている該ベクター構築物; (b)(i)少なくとも免疫不全ウイルスのgag及びpol遺伝子を含む免疫不全ウイルスDNA配列断片、 (ii)該免疫不全ウイルスDNA断片に機能的に連結したプロモーター、及び、 (iii)該免疫不全ウイルスDNA断片の下流に位置するポリアデニル化配列、を含む免疫不全ウイルスパッケージングベクター構築物;及び (c)ウイルス表面タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクター構築物、から成る3ベクターシステム。」という点で一致し、本願補正発明は、3ベクターシステムを構成する要素(a)及び(b)が、免疫不全ウイルスのうちBIVに基づくものであるのに対し、引用例4記載の発明は、FIVに基づくものである点で相違する。 (4-4)当審の判断 BIV及びFIVは共に、哺乳類の免疫不全ウイルスに属する点で共通するものである。そして、両者は、プラス一本鎖RNAウイルスであって、LTR、gag、pol及びenv領域を有するという構造上の共通性を有し、それら領域の機能も共通するものである。さらに、引用例5の記載事項(g)にあるように、それらが進化的に関連することも知られており、また、引用例5の記載事項(h)(j)にあるように、BIVのゲノムの構造及び転写マップも知られていた。 してみれば、新たな遺伝子導入ベクターの開発を目的として、引用例4に記載されるFIVに基づく3ベクターシステムにかえて、同じく哺乳類免疫不全ウイルスであるBIVに基づく3ベクターシステムを作製することは、当業者が容易に想到することであり、その際に、引用例5に記載されるBIVのゲノム構造や転写マップを参考に当該3ベクターシステムを作製することは、当業者が容易になし得たことである。 そして、本願補正発明が、引用例4及び5より、予測し得ない有利な効果を奏するとは認められない。 (4-5)請求人の主張 審判請求人は、平成22年5月5日付審判請求書の手続補正書において、 「(d)しかしながら、本願明細書中の段落番号「0026」に記載のように、レンチウイルスのゲノムは複雑であって、上記のレトロウイルス遺伝子であるgag,pol及びenvに加えて「中央領域」を含む多くの非構造/調節遺伝子(アクセサリー遺伝子)を有しており、これらの非構造/調節遺伝子の成分は様々な種から単離されたゲノムにおいて互いに異なることが知られていた。 このような各アクセサリー遺伝子は個々の機能を示し、その為に各種動物由来のレンチウイルスは夫々に異なる性質を有している。そして、このようなアクセサリー遺伝子のたとえ一つでも除去された場合に、ベクターシステムとして必要とされる様々な機能、例えば、宿主細胞における転写及び翻訳機構の利用、ビリオン粒子の形成、標的細胞への感染能力、該細胞における導入遺伝子の発現等が維持されるか否かについては何等保証の限りではないのである。 (e)更に、この中でもBIVは、アクセサリー遺伝子とも呼ばれる、vif,vpw,vpy,tat、rev、W及びY遺伝子を含有し、最も複雑な構造であることも周知であった(例えば、引用文献5の第165頁参照)。これに対して、FIVはvpw,vpy及びtat遺伝子を有していないのである。更に、引用文献5の第158頁に記載されたレンチウイルスの分岐図からも明らかなように、BIVとはFIVとは進化的にもかなり距離があることが知られていた。 従って、仮に、FIVにおける或る遺伝子操作(例えば、或るアクセサリー遺伝子の除去)と同じものを、これと構造・機能が大きく異なるBIVに施したとしても、これら両者において同様な効果が生じることに関して、合理的な期待又は予測は一切持ち得ないのである。 (f)上記のように、引用文献1又は引用文献4に記載されているのはFIVをベースとしたベクターであって、BIVを含むその他のレンチウイルスをベースとしたベクターシステムを構築するための具体的な指針又は教示等は一切開示されていない。まして、上記のように、FIVウイルスとBIVウイルスとは特にアクセサリー遺伝子等に関して構造上の多くの相違がある。 従って、FIVに基づくウイルスベクター及びBIVの構造/性質自体が公知であり、更に、仮に、FIVのアクセサリ遺伝子はFIVを利用したベクターシステムには必要ではないことが知られていたとしても、それらに基づき、当業者が合理的な成功の期待をもってBIVに基づくウイルスベクターを容易に想到し得たものではない。」と主張している。 BIV及びFIVが、進化的に極近いものでなく、かつ、BIVがFIVに比してアクセサリー遺伝子がより複雑であるとしても、上記第2(4)で述べたとおり、引用例4及び引用例5に基づいて、BIVに基づく3ベクターシステムを作製することは、当業者であれば容易に想到する事項である。そして、本願優先日当時、アクセサリ遺伝子であるvpw、vpy及びtat遺伝子が、感染性ウイルス粒子の形成に必須であるという技術常識は存在しなかったから、当業者が、そのようなBIV特有のアクセサリ遺伝子の存在をもって、本願発明を容易に想到し得なかったとはいえない。 次に、審判請求人は、同補正書において、 「因みに、平成20年8月18日付けの意見書において提示した参考文献3に記載されているのはヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)に基づくベクターであり、引用文献5の第158頁に記載されたレンチウイルスの分岐図において示されているように、BIVと比べた場合に、CAEVはFIVとは格段に近い関係にあるレンチウイルスである。 従って、仮に、審査官殿が拒絶査定において指摘されているように、参考文献3には、「CAEVを用いたベクターはヒト細胞に対する導入効率が低かったことが記載されているが、所望とする遺伝子を細胞に導入するという機能は有している」旨のことが記載されていると解釈したとしても、FIVの場合と同様に、それらに基づき、当業者が合理的な成功の期待をもってBIVに基づくウイルスベクターを容易に想到し得たものではない。」とも主張している。 しかしながら、参考文献3に示されるウイルスベクターは、引用例4とは全く異なる系によりCAEVベースのベクターを調製した文献であり(特に、FIG.1参照)、当該文献で調製されたCAEVベースのウイルスベクターのタイターが顕著に低かったとしても、これが引用例4及び引用例5に基づき、当業者が本願補正発明を想到するにあたり、阻害要因となるとはいえない。 したがって、審判請求人の主張は採用できない。 (4-6)小括 以上の理由により、本願補正発明1は、引用例4及び5の記載から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。 (5)むすび 以上のとおり、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 さらに、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 また、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 平成22年2月26日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本出願に係る発明は、平成20年8月18日付手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その請求項1?73に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項28には、以下のとおり記載されている。 「【請求項28】 (a)(i)BIVゲノムに由来するDNA、 (ii)ビリオン内にRNAをパッケージするために必要なパッケージング配列、 (iii)該DNAに機能的に連結したプロモーター、及び (iv)第二プロモーターに機能的に連結した導入遺伝子、を含むBIVベクター構築物; (b)(i)少なくともBIVのgag及びpol遺伝子を含むBIV DNA配列断片、 (ii)該BIV DNA断片に機能的に連結したプロモーター、及び、 (iii)該BIV DNA断片の下流に位置するポリアデニル化配列、を含むBIVパッケージングベクター構築物;及び (c)ウイルス表面タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクター構築物、から成る3ベクターシステム。」(以下、「本願発明」という。) 本願発明は、上記本願補正発明を包含するものであり、本願補正発明は上記第2.(4)に記載した理由によって、引用例に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明を包含する本願発明も引用例に記載された事項から当業者が容易になし得たものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第4.むすび 以上のとおりであるから、本願請求項28に係る発明は、特許法第29条2項の規定により、特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-10-09 |
結審通知日 | 2012-10-30 |
審決日 | 2012-11-12 |
出願番号 | 特願2001-545535(P2001-545535) |
審決分類 |
P
1
8・
57-
Z
(C12N)
P 1 8・ 575- Z (C12N) P 1 8・ 121- Z (C12N) P 1 8・ 561- Z (C12N) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 飯室 里美、中野 あい、新留 豊 |
特許庁審判長 |
鵜飼 健 |
特許庁審判官 |
田中 晴絵 鈴木 恵理子 |
発明の名称 | ウシ免疫不全ウイルス由来ベクター |
代理人 | 阿部 正博 |