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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16C |
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管理番号 | 1273066 |
審判番号 | 不服2012-8623 |
総通号数 | 162 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-06-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-05-11 |
確定日 | 2013-04-18 |
事件の表示 | 特願2010- 37111「スラストころ軸受およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年5月27日出願公開,特開2010-117033〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯の概略 本願は,平成12年1月20日に出願した特願2000-11367号の一部を平成22年2月23日に新たな特許出願としたものであって,平成23年6月29日付けで拒絶の理由が通知され,平成23年9月8日付けで意見書の提出及び手続補正がなされたが,平成24年1月13日付けで拒絶査定がなされた。 これに対し,平成24年5月11日に拒絶査定不服審判の請求がなされ,当審において平成24年10月10日付けで拒絶の理由を通知したところ,平成24年12月12日付けで意見書の提出及び手続補正がなされた。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし請求項4に係る発明は,平成23年9月8日付け及び平成24年12月12日付けの手続補正により補正された明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項4に記載された事項により特定されるものであるところ,そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。 「【請求項1】 相対回転可能とされる一対の軌道輪と,これら一対の軌道間に介装された複数のころと,これら複数のころを保持した保持器とからなり,前記複数のころを保持した前記保持器が前記一対の軌道輪間の環状空間に内包されているスラストころ軸受であって, 焼き入れと焼き戻しを含む硬化処理が施された後仕上げ加工処理が施されてある前記一対の軌道輪の少なくとも一方に対して,前記仕上げ加工処理の後に,その焼き戻しの温度より低い所望温度の熱処理を施すことにより,当該軌道輪の表面に仕様識別用の発色が施されている,ことを特徴とするスラストころ軸受。」 第3 引用例とその記載事項 1 引用例 当審において平成24年10月10日付けで通知した拒絶の理由において,本願発明に対して示した引用例は,以下のとおりである。 引用例1:特開平1-216117号公報 引用例2:特開平11-190352号公報 引用例3:特開平7-317779号公報 引用例4:特開平10-46318号公報 引用例5:特開平10-237620号公報 2 引用例に記載された事項 (1) 引用例1 (i) 引用例1には,「スラスト針状ころ軸受」に関し,以下の事項が記載されている。 ・「従来,シェル形のスラスト針状ころ軸受として,第5図に示す構造のものが知られている。 この軸受1は,環状鋼板により成形された外輪10と内輪20との間に,保持器30に案内保持された針状ころ32が配設されており,外輪10の軌道部11の外径側の周縁部に軸方向に折曲成形されたフランジ部12と,内輪20の軌道部21の内径側の周縁部に軸方向に折曲成形されたフランジ部22とにより,保持器30の内外周縁を案内する構造になっている。」(1頁右下欄14行ないし2頁左上欄3行) ・「上記のスラスト針状ころ軸受を相手部品に組み付けるときは,組付け方向に対する軸方向の向きが定められており,外輪10の軌道部11をハウジング40のスラスト受面41に当接させてフランジ部12をハウジング40のはめあい面42に嵌合し,内輪20の軌道部21を軸50のスラスト受面51に当接させてフランジ部22を軸50のはめあい面52に嵌合することにより正規の組付け状態(第5図)となるが,この軸方向の向きは正逆の判別がつけ難いため,誤って第6図に示すように逆向きの組付けになることがある。 このように逆向きに組み付けられた軸受を使用すると,軸回転の場合は外輪10のフランジ部12とハウジング40のはめあい面42との間で,ハウジング回転の場合は内輪20のフランジ部22と軸50のはめあい面52との間で滑り摩擦が生じるため,焼付きによる損傷事故を起こす原因となる。 このような事故の発生を防止するため,軸方向の向きの正逆識別用として外輪または内輪に化学的表面処理等による着色,識別記号の付着等の対策が採られているが,このような対策は特別な処理工程を必要とするためコスト高となるだけでなく,逆向きの組付けを完全に防止するにはなお不充分であるという欠点がある。」(2頁左上欄5行ないし右上欄9行) (ii) 以上の記載及び図面の記載からみて,引用例1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。 (引用発明) 「相対回転可能とされる外輪10及び内輪20と,これら外輪10及び内輪20間に介装された複数の針状ころ32と,これら複数の針状ころ32を保持した保持器30とからなり,前記複数の針状ころ32を保持した前記保持器30が前記外輪10及び内輪20間の環状空間に内包されているスラスト針状ころ軸受1であって, 化学的表面処理等により,当該外輪10又は内輪20に軸方向の向きの正逆識別用の着色が施されている,スラスト針状ころ軸受1」 (2) 引用例2 引用例2には,「シェル型ニードル軸受およびその製造方法」に関し,図面とともに,以下の事項が記載されている。 ・「円筒状の転走面の両側に内径側に折れ曲がったフランジを有するシェル型の外輪と,外輪の転走面に転動自在に組み込まれた複数のころと,ころを円周等間隔に保持する保持器を備えたシェル型ニードル軸受において, 外輪の非圧入側の外径面端部およびフランジに焼きなまし処理による着色を残したことを特徴とするシェル型ニードル軸受。」(【請求項1】) ・「そこで,上記シェル型ニードル軸受では,ハウジング等の保持孔への圧入に先立って圧入方向の判別作業を行なう必要がある。」(段落【0006】) ・「上記構成のシェル型ニードル軸受を製造する場合は,まず,外輪4の鋼板製素材を深絞り加工してカップ状に形成する。次に,カップの底部分を打ち抜いて一方(圧入側)のフランジ2を形成し,転走面1の加工を行なった後,全体に焼入れ処理(例えば浸炭焼入れ)を施す。そして,次に,外輪4をタンブリング加工して焼入れ処理による着色を除去した後,外輪4のカップの入口側の周縁部に折り曲げても割れが発生しないように焼きなまし処理を施する。そして,この外輪4に,保持器6とニードルころ5を組み込み,外輪4のカップ入口側の周縁部を縁曲げ加工して他方(非圧入側)のフランジ3を形成する。 このように本実施例のシェル型ニードル軸受では,外輪4の非圧入側の外径面端部およびフランジ3に焼きなまし処理による着色7が残されているので,この着色7を目視確認して圧入方向の判別を行なうことができる。従って,外輪4の圧入側のフランジ2に刻印表示を設けることができない製品についても,外輪4の非圧入側の外径面端部およびフランジ3に残されている焼きなまし処理による着色7を目視確認することにより圧入方向を一目で判別することが可能である。」(段落【0015】及び【0016】) (3) 引用例3 引用例3には,「固体潤滑転がり軸受」に関し,図面とともに,以下の事項が記載されている。 ・「内輪及び外輪と,これらの間に保持器を介して等配された転動体と,内外輪の端部に装着されたシールド板とを有し,内外輪,転動体,保持器のうち少なくとも転がり摩擦又は滑り摩擦の生ずる表面に,平均分子量が5000以下のポリテトラフルオロエチレンからなる固体潤滑被膜を形成した固体潤滑転がり軸受において,軸受の端面に装着されるシールド板をオーステナイト系ステンレス鋼で構成し,かつ,テンパー処理したことを特徴とする固体潤滑転がり軸受。」(【請求項1】) ・「一方,低分子量PTFEからなる固体潤滑被膜は無色であるため,軸受に被膜処理を施したか否かの確認が困難であるという問題点があった。」(段落【0005】) ・「このシールド板5を,大気中にて350?400℃の高温で2時間のテンパー処理を行う。このテンパー処理は,熱処理の一種であって,焼き戻し処理に属する。・・・さらにこのテンパー処理によって,シールド板5は,その表面が重厚味のある茶色を呈するに至る。通常は,400℃,2時間で処理してよいが,サイズによっては,400℃で赤茶色を呈し,外観を損なう場合があり,このような場合は,400℃より低い350℃までの範囲の温度で2時間程度保持した後,自然冷却で常温に戻すことにより,上述のような重厚味のある茶色に発色させることができる。」(段落【0011】) ・「さらに,オーステナイト系ステンレス鋼からなるシールド板をテンパー処理することによって,重厚味のある茶色を呈するに至り,このシールド板の着色によって,軸受に低分子量PTFEからなる固体潤滑被膜を施したものか否かを識別することができる。特に,上記テンパー処理による着色は,シールド板の表面に焼き付けられた状態で地金から直接発色しているため,塗料による着色のように剥落することがなく,変色することもないため,耐久性に優れており,この種用途への転がり軸受として,高級な外観を与える効果もある。」(段落【0014】) 第4 対比及び判断 1 対比 本願発明と引用発明とを,その有する機能に照らして対比すると,引用発明における「外輪10及び内輪20」は本願発明における「一対の軌道輪」に相当し,以下同様に,「針状ころ32」は「ころ」に,「保持器30」は「保持器」に,「スラスト針状ころ軸受1」は「スラストころ軸受」に,それぞれ相当する。 そして,引用発明において,化学的表面処理等により軸方向の向きの正逆識別用の着色が施されている点は,本願発明において,焼き戻しの温度より低い所望温度の熱処理を施すことにより,仕様識別用の発色が施されている点と,識別用に着色が施されている点で一致する。 そうすると,本願発明と引用発明とは, (一致点) 「相対回転可能とされる一対の軌道輪と,これら一対の軌道間に介装された複数のころと,これら複数のころを保持した保持器とからなり,前記複数のころを保持した前記保持器が前記一対の軌道輪間の環状空間に内包されているスラストころ軸受であって, 当該軌道輪の表面に識別用の着色が施されている,スラストころ軸受」である点 で一致し, (相違点) 本願発明は,「焼き入れと焼き戻しを含む硬化処理が施された後仕上げ加工処理が施されてある前記一対の軌道輪の少なくとも一方に対して,前記仕上げ加工処理の後に,その焼き戻しの温度より低い所望温度の熱処理を施すことにより,当該軌道輪の表面に仕様識別用の発色が施されている」のに対し,引用発明は,硬化処理及び仕上げ加工処理に関し明らかではなく,化学的表面処理等により,軸方向の向きの正逆識別用の着色を施している点 で相違する。 2 判断 (1) 上記相違点について検討する。 まず,引用発明においても硬化処理,仕上げ加工処理が適宜に施されていると解されるとともに,引用例4(特に,段落【0028】参照。)及び引用例5(特に,段落【0032】及び【0033】参照。)に記載されているように,軸受の軌道輪に焼き入れと焼き戻しを含む硬化処理を施した後仕上げ加工処理を施す点は周知の技術であって,引用発明において,このような周知の処理を施すことは格別困難なことではない。 (2) ところで,引用例2には,引用発明と同様に,軸方向の向きの正逆を識別するために,外輪に焼きなまし処理により発色を施す点が記載されている(上記第3・2(2))。 また,引用例3には,軸受に低分子量PTFEからなる固体潤滑被膜を施したものか否かを識別するために,シールド板に焼き戻しにより発色を施す点が記載されている(上記第3・2(3))。 このように,軸受において,熱処理により識別用の発色を施すことは,従前より広く知られているものであるから,引用発明において化学的表面処理等により着色することに代え,熱処理により発色を施すことは,当業者が容易になし得ることである。その場合,専ら識別用であることから,硬化処理における焼き戻しに比しより低い温度の熱処理でよいことは,技術的に明らかである。 (3) そうすると,引用発明において,軸受の軌道輪に焼き入れと焼き戻しを含む硬化処理を施した後仕上げ加工処理を施し,その後に,その焼き戻しの温度より低い所望温度の熱処理を施すことにより,当該軌道輪の表面に識別用の発色を施すことは,当業者が容易に想到できた事項である。 引用発明は,外輪又は内輪に軸方向の向きの正逆識別用の着色を施すものであるが,熱処理により発色を施すことで所期の目的が達成し得るだけでなく,それにより,引用例3に記載されているように,仕様識別機能を有することができることは明らかであるとともに,それを企図し当該発色処理を施すことも,当業者が適宜になし得る事項である。 本願発明が奏する効果をみても,引用発明,引用例2及び引用例3に記載された事項,並びに従来周知の技術的事項から予測し得る範囲内のものであって,格別ではない。 (4) この点に関し,請求人は平成24年12月12日付け意見書において,引用例2に記載された技術は焼きなまし処理による着色である,焼き入れと焼き戻しを含む硬化処理が施された引用発明の軸受の軌道輪に対して,焼きなまし処理を施してしまっては硬度が低下し,軌道輪として機能しなくなってしまうから,引用例2に記載された焼きなまし処理を引用発明の軌道輪に適用することはできない,引用例3に記載された技術は発色を施す対象がシールド板である,シールド板には焼き入れと焼き戻しを含む硬化処理を施すという概念はないから,引用例3に記載された構成からは,本願発明の焼き入れと焼き戻しを含む硬化処理後にその焼き戻しの温度より低い所望温度の熱処理を施して軌道輪の表面に仕様識別用の発色を施すという技術思想を導き出せない,などと主張している。 しかし,引用例2に記載された焼きなまし処理による着色は,焼きなまし処理特有の現象を利用したものではなく,結局のところ,金属の熱処理による発色現象を利用したものであることは,当業者であれば容易に理解できることであるから,引用発明に引用例2に記載された事項を適用することに格別の困難はない。 また,引用例3に記載されたシールド板を焼き戻しによる着色も,同様に,金属の熱処理による発色を利用したもので,それ以前の工程にかかわらず仕上げ加工処理が施された面であれば生じうる現象であることも,当業者が容易に理解できることである。たとえ,引用例3に,焼き入れと焼き戻しを含む硬化処理を施す点が記載されていなくとも,引用発明に引用例3に記載された事項を適用し,上記相違点に係る本願発明の発明特定事項に到ることは容易である。 よって,請求人の主張は,採用することができない。 3 以上を総合すると,本願発明は,引用発明,引用例2及び引用例3に記載された事項,並びに従来周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 第5 むすび 以上のとおり,本願発明(請求項1に係る発明)は,引用発明,引用例2及び引用例3に記載された事項,並びに従来周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そして,本願発明(請求項1に係る発明)が特許を受けることができない以上,請求項2ないし請求項4に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-02-13 |
結審通知日 | 2013-02-19 |
審決日 | 2013-03-04 |
出願番号 | 特願2010-37111(P2010-37111) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(F16C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 上谷 公治 |
特許庁審判長 |
山岸 利治 |
特許庁審判官 |
常盤 務 窪田 治彦 |
発明の名称 | スラストころ軸受およびその製造方法 |
代理人 | 岡田 和秀 |