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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G21D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G21D
管理番号 1273071
審判番号 不服2012-9813  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-05-28 
確定日 2013-04-18 
事件の表示 特願2009-529059「放射性物質の付着抑制方法およびその付着抑制装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 2月26日国際公開、WO2009/025330〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2008年(平成20年)8月21日(優先権主張 2007年8月23日 日本国)を国際出願日とする特願2009-529059号であって、平成23年2月28日付けで拒絶理由が通知され、同年5月16日付けで意見書が提出され、同日付けで手続補正がなされ、平成24年2月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年5月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。
その後、当審において同年11月6日付けで前置報告書の内容について請求人に事前に意見を求める審尋をなし、平成25年1月15日付けで回答書が提出された。

第2 平成24年5月28日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成24年5月28日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
本件補正により、特許請求の範囲の請求項2に係る発明は、平成23年5月16日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項2に記載の、

「原子炉の起動時、停止時または運転中に、原子力プラントの構成部材における金属材料の表面に、放射性物質の付着抑制物質であるチタン化合物としての酸化チタンが含有された物質を、原子炉冷却水中に当該物質を注入して、金属材料の表面に設けた後、原子炉冷却水の温度を100℃乃至200℃に保持して付着抑制物質の緻密性を高めることを特徴とする放射性物質の付着抑制方法。」から

「原子炉の起動時、停止時または運転中に、原子力プラントの構成部材における金属材料の表面に、放射性物質の付着抑制物質であるチタン化合物としての酸化チタンが含有された物質を、原子炉冷却水中に当該物質を注入して、金属材料の表面に設けた後、原子炉冷却水の温度を100℃乃至200℃に保持して付着抑制物質の緻密性を高め、前記金属材料の表面への密着性を向上させることを特徴とする放射性物質の付着抑制方法。」と補正された。(下線は補正箇所を示す。)

そして、この補正は、本件補正前の「原子炉冷却水の温度を100℃乃至200℃に保持して付着抑制物質の緻密性を高めること」を「原子炉冷却水の温度を100℃乃至200℃に保持して付着抑制物質の緻密性を高め、前記金属材料の表面への密着性を向上させる」と限定する補正事項からなり、特許請求の範囲のいわゆる限定的減縮を目的とする補正であるといえる。
すなわち、本件補正における請求項2に係る発明の補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものである。

2 独立特許要件違反についての検討
そこで、次に、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反しないか)について検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、平成24年5月28日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項2に記載されている事項により特定されるものである。(上記の「1 本件補正について」の記載参照。)

(2)引用例
ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2001-124891号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(なお、下記「イ 引用例1に記載された発明の認定」に直接関与する記載に下線を付した。)

「【特許請求の範囲】
【請求項1】原子炉炉水と接触する原子力プラント構造物の炉水側の表面に、電気絶縁物及び格子内酸素イオン拡散性を有する酸化物の少なくとも一方を含む無電解メッキ液を接触させることを特徴とする原子力プラント構造物の表面処理方法。
【請求項2】原子力プラント構造物の化学除染後に、原子炉炉水と接触する原子力プラント構造物の炉水側の表面に、電気絶縁物及び格子内酸素イオン拡散性を有する酸化物の少なくとも一方を含む無電解メッキ液を接触させることを特徴とする原子力プラント構造物の表面処理方法。
【請求項3】請求項1において、原子力プラント構造物の化学除染を行い、その後、前記無電解メッキ液を接触させることを特徴とする原子力プラント構造物の表面処理方法。
【請求項4】請求項1または2において、前記電気絶縁物または前記酸化物は酸化ジルコニウム,酸化アルミニウム,酸化チタン,酸化シリコン,酸化セリウム,酸化トリウムの中から選択された粒子であることを特徴とする原子力プラント構造物の表面処理方法。」

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、原子力プラント構造物の表面処理方法および原子力プラントに関し、特に、原子炉炉水に接する原子力プラント構造物の腐食抑制に関する。」

「【0004】本発明の目的は、原子力プラントにおいて、水素注入の有無にかかわらず、原子力プラント構造物の腐食電位を低下できる原子力プラント構造物の表面処理方法及び原子力プラントを提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明の一実施態様は、原子炉炉水と接触する原子力プラント構造物の炉水側の表面に、電気絶縁物を含む無電解メッキ液を接触させる。この電気絶縁物とは、後述するように、原子力プラント構造物に対して約10の5乗倍以上大きな電気抵抗を有する物質を言う。本実施態様によれば、無電解メッキ液との接触により、電気絶縁物を含む金属の皮膜が原子力プラント構造物の炉水側表面に形成される。従って、後述するように、水素注入の有無にかかわらず原子力プラント構造物の腐食電位を低下できる。また、電気絶縁物を含む金属の皮膜によって、原子力プラント構造物の炉水側表面における湿食の酸化皮膜成長が抑制される。従って、炉水中の放射性イオンがこの湿食による酸化皮膜の成長と共に酸化皮膜中に取り込まれ原子力プラント構造物の表面線量率を上昇させること、を抑制できる。」

「【0019】次に、原子力プラントの原子力容器への、前述の無電解メッキの適用例について述べる。前述の無電解メッキ液を原子炉容器内に供給することにより、原子炉構造物に使用されている母材であるステンレス鋼の炉水側の表面に、電気絶縁物であるZrO_(2) を含むNi層を形成する。このNi層の形成により、母材の腐食電位が低下し、また、Ni層表面の放射性物質の付着も抑制される。
【0020】以下に、腐食電位の低下および放射性物質の抑制の理由について述べる。ZrO_(2)などの電気絶縁物の粒子を含む無電解メッキ液を原子炉内に供給すると、原子炉構造物の炉水側表面にZrO_(2)粒子を含むNi層が形成される。ZrO_(2)を含むNi層が高温水(100℃以上)に接触すると、Ni層は徐々に酸化され、炉水中に溶出したNiイオンが構造物の材料(ステンレス鋼など)から溶出したFeイオンと化合して、Ni層がNi-Fe複合酸化物(NiFe_(2)O_(4))の層に変化する。
【0021】一方、ZrO2 粒子は化学的に安定性が高いため、そのままの化学形態が維持され、結果的に原子炉構造物の炉水側表面が、Ni-Fe複合酸化物(NiFe_(2)O_(4))とZrO_(2) 粒子でコーティングされた状態になる。メッキ液には既に酸化したZrO_(2) が加えられている。そのため、Ni層が高温水に接触した際に、Zrの酸化に伴う膨張によりNi層にひずみ,ひび等が入る恐れがない。これにより、より緻密で安定したZrO_(2) 粒子を含むNi層を形成することができる。
【0022】NiFe_(2)O_(4)は原子炉炉水に対して化学的に安定で溶解度も低い。原子炉構造物の炉水側表面に緻密な耐食性の酸化物層が形成されるので、原子炉構造物が炉水と直接接触することが防止される。その結果、電気化学的には母材の溶解反応(金属原子が電子を放出し金属イオンになる反応:M→M^(+)+e,Mは金属を表す。)が抑制され、構造物表面の湿食の酸化による酸化皮膜の成長が抑制される。
【0023】原子炉炉水中の放射性イオンは原子炉構造物の湿食の酸化による酸化皮膜の成長と共に、皮膜中に取り込まれ、原子炉構造物の表面線量率を上昇させる。したがって、コーティングにより、湿食の酸化による酸化皮膜成長が抑制される結果、表面線量率の上昇も抑制させる効果が得られる。NiFe_(2)O_(4)の電気抵抗はZrO_(2) 等の電気絶縁体に比べて、顕著に低いため、電気化学的なカソード反応(炉水中の酸素や過酸化水素が電子を受け取る還元反応)に対する抑制効果は小さい。そのため、NiFe_(2)O_(4)メッキのみではカソード反応とアノード反応のバランスで決定される腐食電位の低減効果は小さい。
【0024】これに対し、ZrO_(2)粒子は、室温から原子炉定格運転時の炉水温度(約280℃)の範囲(以下、原子炉水温度範囲と言う)での炉水への溶解度が小さいだけでなく、原子炉水温度範囲での電気抵抗がNiFe_(2)O_(4)及び原子炉構造物に比べて約10の9乗倍以上大きい。したがって、ZrO_(2)粒子は原子炉構造物に対して電気絶縁性が大きく、カソード反応を効果的に抑制する。その結果、局部的な腐食抑制効果が発揮され、カソード反応とアノード反応のバランスで決定される腐食電位も低下する。
【0025】ZrO_(2)粒子を含むNiFe_(2)O_(4)層混合皮膜の電気抵抗は、ZrO_(2)粒子の混合割合の増加と共に増加するが、ZrO_(2)の比抵抗が充分大きいため、粒径1μm以下の小粒径のZrO_(2)粒子をNiFe_(2)O_(4)皮膜に混合させることで、充分高い電気抵抗を発揮させることができる。また、NiFe_(2)O_(4)の緻密な微細結晶中にZrO_(2)の微細粒子が安定に保持される結果、NiFe_(2)O_(4)とZrO_(2)粒子の混合皮膜の耐久性も高く、長期に渡って、腐食抑制効果が発揮される。
【0026】以上では、電気絶縁物の粒子としてZrO_(2)について記載したが、TiO_(2),Al_(2)O_(3),SiO_(2)などの無機系の固体電気絶縁体を用いてもZrO_(2)と同様の効果が発揮される。これらの金属酸化物は、原子炉水温度範囲での電気抵抗が原子炉構造物に比べて約10の5乗倍以上大きい特性を有する。」

「【0041】以下、本発明を沸騰水型原子力プラント(以下、BWRプラントと言う)に用いる好適な実施例を説明する。
(実施例1)本実施例は、無電解メッキを行うためにBWRプラントの定検中に仮設配管を設けて化学除染を行った後に、該仮設配管を用いて無電解メッキを行う実施例である。図1に、本実施例における仮設配管の構成図を示す。本実施例では、BWRプラントの構成機器のうち、炉心を内部に収納している容器である原子炉圧力容器(以下、RPVと言う)1の内部、及びRPV1内の炉水を循環させる配管である再循環系配管2の内側に無電解メッキを行う実施例である。
【0042】本実施例の手順を説明する。まず、BWRプラントの定検時において、RPV1内から全ての燃料集合体,制御棒,制御棒駆動機構(以下、CRDと言う)及び炉内核計装管(いずれも図示せず)を取り外す。その際、炉水は抜かずに後述の仮設配管21を設置するのが望ましい。
【0043】次に、化学除染及び無電解メッキに使用する仮設配管21,還元除染剤(例えばシュウ酸)を注入するための還元除染剤注入装置50,酸化除染剤(例えば過マンガン酸,過マンガン酸カリウム)を注入するための酸化除染剤注入装置51(以下、還元除染剤及び酸化除染剤を総称して化学除染液と言う),pH調整剤(例えばヒドラジン)を注入するためのpH調整剤注入装置204,化学除染液中のイオンを吸着するためのカチオン樹脂塔52及び混床樹脂塔200,必要に応じて仮設配管内の液体を抜くためのドレン弁58及びドレン配管53,無電解メッキ液を仮設配管21に注入するための無電解メッキ液注入装置8,化学除染液及び無電解メッキ液を循環させるための循環ポンプ5,化学除染液及び無電解メッキ液の温度を調節するためのヒータ23,還元除染剤を分解処理する際に用いる触媒59(例えば、白金,ルテニウム,ロジウムなどの貴金属、あるいはこれら貴金属を添着させた活性炭など)を設ける。」

「【0052】次に、無電解メッキ処理を行う。弁71,56及び61を開け、無電解メッキ液を無電解メッキ液注入装置8からRPV1に注入する。循環ポンプ5を運転することにより、仮設配管21,RPV1,CRDハウジング194及びICMハウジング195,循環ポンプ5,ヒータ23の順で無電解メッキ液を循環させる。また、再循環ポンプ3の運転により、再循環系配管2を用いてRPV1内で無電解メッキ液を循環させることができるので、無電解メッキ層の厚さ及び分布をより均一にすることができる。無電解メッキの処理温度は、ヒータ23によって制御する。本実施例においては、無電解メッキ処理温度は90℃の場合が最も望ましい。温度制御をしつつ、循環ポンプ5及び再循環ポンプ3によって無電解メッキ液を循環させることにより、無電解メッキ液に接触する部材表面を無電解メッキする。
【0053】無電解メッキ液は、硫酸ニッケル,酢酸ナトリウム,次亜リン酸ナトリウムの水溶液に電気絶縁性又は格子内酸素イオン拡散性を有する酸化物である酸化ジルコニム(ZrO_(2))の粒子を含んだ懸濁液から成る。各試薬の濃度は、無電解メッキ液1リットル(水)に対して、硫酸ニッケル(NiSO_(4)・6H_(2)O)30g,酢酸ナトリウム10g及び次亜リン酸ナトリウム10gを水溶させたものに、酸化ジルコニウム(ZrO_(2)、平均粒径1μm)を25g入れる。また、メッキ処理時間は5時間である。硫酸ニッケルの替わりに、硝酸ニッケルを用いても同様の効果が得られる。
【0054】なお、本実施例ではZrO_(2) を用いたが、Al_(2)O_(3),SiO_(2),CeO_(2),ThO_(2)を用いても良い。また、上述の無電解メッキのみならず、実施条件により成分比を調整した無電解メッキ液を使用しても良い。また、上村工業(株)製のニムデンLPX(無電解Niメッキ液。ニムデンは上村工業(株)の登録商標)を用いても良い。
【0055】無電解メッキ処理終了後、ドレン弁58を開け、ドレン配管53から無電解メッキ液を処理装置(図示せず)に排出する。次に、仮設配管を取り外し、通常のプラントの系統に戻す。
【0056】定検終了後、原子力プラントの定格運転を行う。定格運転を行うことによって無電解メッキ表面が高温水(約280℃)に曝されるので、無電解メッキ表面は酸化処理される。
【0057】本実施例によれば、部材表面への無電解メッキ処理及び高温水による酸化処理により、Niで覆われたメッキ層は、耐食性の優れたNiとFeのスピネル構造をした複合酸化物(ニッケルフェライト,NiFe_(2)O_(4))の緻密な層が母材表面に形成される。一方、本実施例において、Niメッキ層に含まれる平均粒径1μmの酸化ジルコニウム(ZrO_(2))は、原子炉水温度範囲にて、NiFe_(2)O_(4)及び原子炉構造物に対して10の5乗倍以上である約10の9乗倍以上の電気抵抗を有する電気絶縁性の酸化物であり、且つ格子内酸素イオン拡散性を持つ酸化物である。故に、材料の腐食電位を長期にわたり低下させ且つ放射性物質の付着が抑制できる酸化皮膜を、無電解メッキを行った部材表面に形成することができる。 」

「【図1】




イ 引用例1に記載された発明の認定
上記記載(図面の記載も含む)から、引用例1には、
「沸騰水型原子力プラントの定検時において、弁71,56及び61を開け、無電解メッキ液を無電解メッキ液注入装置8からRPV(原子炉圧力容器)1に注入し、循環ポンプ5を運転することにより、仮設配管21,RPV1,CRDハウジング194及びICMハウジング195,循環ポンプ5,ヒータ23の順で無電解メッキ液を循環させ、
無電解メッキ液を循環させることにより、無電解メッキ液に接触する部材表面を無電解メッキし、
前記の無電解メッキ液は、硫酸ニッケル,酢酸ナトリウム,次亜リン酸ナトリウムの水溶液に電気絶縁性又は格子内酸素イオン拡散性を有する酸化物の粒子を含んだ懸濁液から成り、前記酸化物は酸化チタンであり、
定検終了後、原子力プラントの定格運転を行うことによって無電解メッキ表面が約280℃の高温水に曝されるので、無電解メッキ表面は酸化処理され、
部材表面への無電解メッキ処理及び高温水による酸化処理により、Niで覆われたメッキ層は、耐食性の優れたNiとFeのスピネル構造をした複合酸化物(ニッケルフェライト,NiFe_(2)O_(4))の緻密な層が母材表面に形成され、また、材料の腐食電位を長期にわたり低下させ且つ放射性物質の付着が抑制できる酸化皮膜を、無電解メッキを行った部材表面に形成することができる原子力プラント構造物の表面処理方法。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

(3)本願補正発明と引用発明との対比
ア 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「沸騰水型原子力プラント」の「仮設配管21,RPV1,CRDハウジング194及びICMハウジング195,循環ポンプ5,ヒータ23」が、本願補正発明の「原子力プラントの構成部材」に相当する。

引用発明の「無電解メッキ液に接触」し「無電解メッキ」される「部材表面」が、本願補正発明の「金属材料の表面」に相当する。

引用発明の「電気絶縁性又は格子内酸素イオン拡散性を有する酸化物の粒子」であって「前記酸化物は酸化チタンであ」る「粒子」「を含んだ懸濁液」が、本願補正発明の「放射性物質の付着抑制物質であるチタン化合物としての酸化チタンが含有された物質」に相当する。

引用発明の「弁71,56及び61を開け、無電解メッキ液を無電解メッキ液注入装置8からRPV(原子炉圧力容器)1に注入し」、「無電解メッキ液を循環させることにより、無電解メッキ液に接触する部材表面を無電解メッキ」することが、本願補正発明の「原子炉冷却水中に当該物質を注入して、金属材料の表面に設け」ることに相当する。

引用発明の「定検終了後、原子力プラントの定格運転を行うことによって無電解メッキ表面が約280℃の高温水に曝される」ことと、本願補正発明の「(酸化チタンが含有された物質を、金属材料の表面に設けた)後、原子炉冷却水の温度を100℃乃至200℃に保持」することとは、「(酸化チタンが含有された物質を、金属材料の表面に設けた)後、原子炉冷却水の温度を100℃以上に保持」する点で一致する。

引用発明の「部材表面への無電解メッキ処理及び高温水による酸化処理により、Niで覆われたメッキ層は、耐食性の優れたNiとFeのスピネル構造をした複合酸化物(ニッケルフェライト,NiFe_(2)O_(4))の緻密な層が母材表面に形成され、また、材料の腐食電位を長期にわたり低下させ且つ放射性物質の付着が抑制できる酸化皮膜を、無電解メッキを行った部材表面に形成することができる」ことが、本願補正発明の「付着抑制物質の緻密性を高め、前記金属材料の表面への密着性を向上させること」に相当する。

引用発明の「放射性物質の付着が抑制できる酸化皮膜を、無電解メッキを行った部材表面に形成することができる原子力プラント構造物の表面処理方法」が、本願補正発明の「放射性物質の付着抑制方法」に相当する。

イ 一致点
よって、本願補正発明と引用発明は、
「原子力プラントの構成部材における金属材料の表面に、放射性物質の付着抑制物質であるチタン化合物としての酸化チタンが含有された物質を、原子炉冷却水中に当該物質を注入して、金属材料の表面に設けた後、原子炉冷却水の温度を100℃以上に保持して付着抑制物質の緻密性を高め、前記金属材料の表面への密着性を向上させる放射性物質の付着抑制方法。」の発明である点で一致し、次の各点で相違する。

ウ 相違点
(ア)相違点1
本願補正発明は、「原子炉の起動時、停止時または運転中」に、酸化チタンが含有された物質の注入及び温度の保持が行われるのに対し、引用発明は、「定検時」に(無電解メッキの)注入が行われ、「定格運転中」に温度の保持がなされる点。

(イ)相違点2
100℃以上に保持される冷却水の具体的保持温度が、本願補正発明においては「100℃乃至200℃」であるのに対し、引用発明においては、約280℃である点。

(4)当審の判断
ア 上記の相違点について検討する。
(ア)相違点1について
放射性物質の付着が抑制できる酸化皮膜を形成する原子力プラントの表面処理を、どの時期に行うかについては、当業者が必要に応じて適宜選択し得ることであり、また、引用発明において、表面処理(無電解メッキ処理)の開始時期を定検時から他の時期に変更することに特段の阻害要因も認められないから、引用発明において、無電解メッキ処理を「原子炉の起動時、停止時または運転中」のいずれかの時期に開始することとし、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易に想到し得たことにすぎない。

(イ)相違点2について
引用例1の【0020】には、高温水の温度として「100℃以上」と記載されており、引用発明の定格運転時の高温水(本願補正発明における「冷却水」に相当)の温度については「約280℃」である必要性は認められない。そして、定格運転時の高温水(冷却水)の温度は、使用する水の量や熱変換器において設定する冷却能力(強度)によって変更し得るものであり、また、定格運転において高温水(冷却水)をどの程度の温度にするかは、個々の原子プラントの特性等に起因する要請によって当業者が適宜設定し得るものであるから、引用発明においても、定格運転時の高温水(冷却水)の温度を100℃乃至200℃の適宜の温度とし、それによって、高温水(冷却水)の温度を100℃乃至200℃に保持するものとして、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易に想到し得たことにすぎない。

イ 本願補正発明の奏する作用効果
そして、本願補正発明によってもたらされる効果は、引用発明から当業者が予測し得る程度のものである。

ウ まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 むすび
したがって、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるということができないから、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成24年5月28日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成23年5月16日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記「第2 平成24年5月28日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「1 本件補正について」の記載参照。)

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例の記載事項及び引用発明については、上記「第2 平成24年5月28日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(2)引用例」に記載したとおりである。

3 対比・判断
上記「第2 平成24年5月28日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「1 本件補正について」に記載したように、本願発明の「原子炉冷却水の温度を100℃乃至200℃に保持して付着抑制物質の緻密性を高めること」を「原子炉冷却水の温度を100℃乃至200℃に保持して付着抑制物質の緻密性を高め、前記金属材料の表面への密着性を向上させる」と限定したものが本願補正発明である。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、本願発明をさらに限定したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 平成24年5月28日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(3)本願補正発明と引用発明との対比」及び「(4)当審の判断」において記載したとおり、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-07 
結審通知日 2013-02-12 
審決日 2013-02-26 
出願番号 特願2009-529059(P2009-529059)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G21D)
P 1 8・ 121- Z (G21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 青木 洋平  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 北川 清伸
伊藤 昌哉
発明の名称 放射性物質の付着抑制方法およびその付着抑制装置  
代理人 特許業務法人東京国際特許事務所  

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