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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1273125
審判番号 不服2011-20516  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-09-22 
確定日 2013-04-17 
事件の表示 特願2006-516122「光起電力電池」拒絶査定不服審判事件〔平成16年12月23日国際公開、WO2004/112162、平成18年11月30日国内公表、特表2006-527491〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯
本願は、平成16年5月26日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2003年6月12日 ドイツ連邦共和国(DE))を国際出願日とする出願であって、平成22年4月16日付けで最初の拒絶理由が通知され、同年7月20日付けで誤訳訂正がなされ、同年11月29日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成23年2月28日付けで手続補正がなされたが、同年5月18日付けで前記平成23年2月28日付けの手続補正が却下されるとともに、同日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月22日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである(以下、平成23年9月22日付けでなされた手続補正を「本件補正」という。)。

第2 本件補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は、補正前(平成22年7月20日付け誤訳訂正後のもの)の特許請求の範囲として
「【請求項1】
光起電力電池において、前記光起電力電池は、
透明又は半透明のカソードと、
アノードと、
前記カソードと前記アノードとの間に配置された光活性層であって、有機電子供与体及び有機電子受容体を含む光活性層と、
前記カソードと前記光活性層との間に配置される第1の層であって、電子により主として導電状態となる第1の層と、
前記アノードと前記光活性層との間に配置される第2の層であって、欠陥電子により主として導電状態となる第2の層と、
を含む、光起電力電池。
【請求項2】
前記第1の層又は前記第2の層は前記光活性層のバンドギャップより大きいか、又は等しいバンドギャップを有することを特徴とする請求項1に記載の光起電力電池。
【請求項3】
前記第1の層又は前記第2の層は半透明であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光起電力電池。
【請求項4】
前記光活性層は、電子供与体を含有する一つの領域と、電子受容体を含有する一つの領域とを含み、かつ前記第1の層は前記電子受容体領域と前記カソードとの間に配置されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光起電力電池。
【請求項5】
前記第1の層は、TiO_(2)又はC_(60)からなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光起電力電池。
【請求項6】
前記第1の層の伝導バンドは前記電子受容体の最高占有分子軌道に一致されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の光起電力電池。
【請求項7】
前記光活性層は電子供与体を含有する一つの領域と、電子受容体を含有する一つの領域とを含み、かつ前記第2の層は前記電子供与体領域と前記アノードとの間に配置されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の光起電力電池。
【請求項8】
前記第2の層はPEDOTを含むことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の光起電力電池。
【請求項9】
前記第2層の価電子帯は前記電子供与体の最低非占有分子軌道に一致されることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の光起電力電池。
【請求項10】
前記光起電力電池は有機光起電力電池であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の光起電力電池。
【請求項11】
前記第1の層又は前記第2の層は、1.7eV乃至6.1eVの範囲のバンドギャップを有することを特徴とする、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の光起電力電池。
【請求項12】
前記第1の層はTiO_(2)からなることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載の光起電力電池。
【請求項13】
前記有機電子供与体の材料は共役ポリマーを含み、かつ前記有機電子受容体の材料はフラーレンを含む、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の光起電力電池。
【請求項14】
光起電力電池において、前記光起電力電池は、
カソードと、
電子により主として導電状態となる第1の層と、
共役ポリマー及びフラーレンを含む光活性層と、
欠陥電子により主として導電状態となる第2の層と、
アノードと、を含み、
前記第1の層は前記カソードと前記光活性層との間に配置され、
前記光活性層は、前記第1の層と前記第2の層との間に配置され、かつ
前記第2の層は前記アノードと前記光活性層との間に配置される、
光起電力電池。
【請求項15】
前記第1の層はTiO_(2)又はC_(60)を含む、請求項14に記載の光起電力電池。
【請求項16】
前記第2の層はPEDOTを含む、請求項14に記載の光起電力電池。
【請求項17】
前記共役ポリマーはP3HTである、請求項14に記載の光起電力電池。
【請求項18】
前記フラーレンはPCBMである、請求項14に記載の光起電力電池。」
とあったものを、補正後の特許請求の範囲として、
「【請求項1】
光起電力電池において、前記光起電力電池は、
透明又は半透明のカソードと、
アノードと、
前記カソードと前記アノードとの間に配置された光活性層であって、有機電子供与体及び有機電子受容体を含む光活性層と、
前記カソードと前記光活性層との間に配置される第1の層であって、電子により主として導電状態となる第1の層と、
前記アノードと前記光活性層との間に配置される第2の層であって、欠陥電子により主として導電状態となる第2の層と、
を含み、
前記第1の層及び前記第2の層の各々は、2.5eV乃至3.7eVの範囲のバンドギャップを有することを特徴とする、光起電力電池。
【請求項2】
前記第1の層又は前記第2の層は前記光活性層のバンドギャップより大きいか、又は等しいバンドギャップを有することを特徴とする請求項1に記載の光起電力電池。
【請求項3】
前記第1の層又は前記第2の層は半透明であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光起電力電池。
【請求項4】
前記光活性層は、電子供与体を含有する一つの領域と、電子受容体を含有する一つの領域とを含み、かつ前記第1の層は前記電子受容体領域と前記カソードとの間に配置されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光起電力電池。
【請求項5】
前記第1の層は、TiO_(2)又はC_(60)からなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光起電力電池。
【請求項6】
前記第1の層の伝導バンドは前記電子受容体の最高占有分子軌道に一致されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の光起電力電池。
【請求項7】
前記光活性層は電子供与体を含有する一つの領域と、電子受容体を含有する一つの領域とを含み、かつ前記第2の層は前記電子供与体領域と前記アノードとの間に配置されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の光起電力電池。
【請求項8】
前記第2の層はPEDOTを含むことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の光起電力電池。
【請求項9】
前記第2層の価電子帯は前記電子供与体の最低非占有分子軌道に一致されることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の光起電力電池。
【請求項10】
前記光起電力電池は有機光起電力電池であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の光起電力電池。
【請求項11】
前記第1の層はTiO_(2)からなることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の光起電力電池。
【請求項12】
前記有機電子供与体の材料は共役ポリマーを含み、かつ前記有機電子受容体の材料はフラーレンを含む、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の光起電力電池。
【請求項13】
光起電力電池において、前記光起電力電池は、
カソードと、
電子により主として導電状態となる第1の層と、
共役ポリマー及びフラーレンを含む光活性層と、
欠陥電子により主として導電状態となる第2の層と、
アノードと、を含み、
前記第1の層は前記カソードと前記光活性層との間に配置され、
前記光活性層は、前記第1の層と前記第2の層との間に配置され、かつ
前記第2の層は前記アノードと前記光活性層との間に配置され、前記第1の層及び前記第2の層の各々は、2.5eV乃至3.7eVの範囲のバンドギャップを有することを特徴とする、光起電力電池。
【請求項14】
前記第1の層はTiO_(2)又はC_(60)を含む、請求項13に記載の光起電力電池。
【請求項15】
前記第2の層はPEDOTを含む、請求項13に記載の光起電力電池。
【請求項16】
前記共役ポリマーはP3HTである、請求項13に記載の光起電力電池。
【請求項17】
前記フラーレンはPCBMである、請求項13に記載の光起電力電池。」
と補正するものである(下線は当審にて付した。以下同じ。)。

2 補正の目的
本件補正は、補正前の請求項11の「前記第1の層又は前記第2の層は、1.7eV乃至6.1eVの範囲のバンドギャップを有する」を「前記第1の層及び前記第2の層の各々は、2.5eV乃至3.7eVの範囲のバンドギャップを有する」と限定して、新たに請求項1とするものであり、また、補正前の請求項14に上記と同じ「前記第1の層及び前記第2の層の各々は、2.5eV乃至3.7eVの範囲のバンドギャップを有する」との限定を付加して新たな請求項13とするものであるから、上記1の本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定する要件を満たすか否か)について検討する。
(1)本願補正発明の認定
本願補正発明は、上記1において、補正後のものとして記載したとおりのものと認められる。

(2)刊行物の記載及び引用発明
ア 原査定の最後の拒絶理由に引用された、本願の優先日前に頒布された、特表2002-531958号公報(以下「引用文献」という。)には、以下の記載がある。
(ア)「【請求項1】本質的に第1の材料からなる第1の層(30)、本質的に第2の材料からなる第2の層(60)および該第1の層(30)と該第2の層(60)の間に存在する少なくとも1つの中間層(40、50)を有する素子において、該中間層(40、50)が該第1の材料および/または該第2の材料を有し、かつ該中間層(40、50)中に少なくとも1種の物質がコロイド溶解しており、かつ該物質が該第1の材料とも該第2の材料とも異なる伝導率を有することを特徴とする素子。
【請求項2】前記第1の層(30)と前記第2の層(60)の間に第1の中間層(40)および第2の中間層(50)が存在し、該第1の中間層(40)が前記第1の層(30)と境を接しており、かつ該第2の中間層(50)が前記第2の層(60)と境を接していることを特徴とする、請求項1記載の素子。・・・
【請求項7】前記第1の材料が半導体であることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の素子。
【請求項8】前記第1の材料が有機半導体であることを特徴とする、請求項7記載の素子。
【請求項9】前記第2の材料が半導体であることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の素子。
【請求項10】前記第2の材料が有機半導体であることを特徴とする、請求項9記載の素子。
【請求項11】前記第1の材料が前記第2の材料と異なる伝導型を有することを特徴とする、請求項7から10までのいずれか1項に記載の素子。・・・
【請求項16】前記物質がバンドギャップを有する炭素の同素体少なくとも1つを含有していることを特徴とする、請求項1から15までのいずれか1項に記載の素子。
【請求項17】前記物質がフラーレン、置換フラーレンまたはフラーレン誘導体の群のうちの少なくとも1つの成分を含有していることを特徴とする、請求項16記載の素子。
【請求項18】前記物質がC_(60)を含有していることを特徴とする、請求項17記載の素子。・・・
【請求項27】前記中間層中に少なくとも2種の物質が存在していることを特徴とする、請求項1から26までのいずれか1項に記載の素子。・・・
【請求項29】前記第1の物質が、前記第2の物質のフェルミ準位と少なくとも20meVの差があるフェルミ準位を示すことを特徴とする、請求項27または28記載の素子。
【請求項30】前記第1の物質が前記第2の物質と異なる伝導型を示すことを特徴とする、請求項27から29までのいずれか1項に記載の素子。
【請求項31】前記の物質の一方が、もう一方の物質と異なるバンドギャップを有することを特徴とする、請求項27から30までのいずれか1項に記載の素子。」(特許請求の範囲)
(イ)「【0050】図1(審決注:【0050】ないし【0059】の記載中に「第1の中間層40」が存在すること、及び、【0056】の「図1に基づいて示された実施形態と同様に」との記載からみて、「図3」の誤記と認められる。)に示された素子は、例えば、太陽電池または有機発光ダイオードである。該素子は、基板10、例えばガラス、特にケイ酸塩ガラス、上に載せられた、透明コンタクト層20、第1の層30、第2の層60、第1の中間層40、第2の中間層50およびコンタクト層70からなる層構造を有する。・・・
【0055】前記コンタクト層20は、前記素子が、基板10を通過する光の入射を伴う太陽電池として、あるいは基板10を通過する光の放出を伴う発光ダイオードとして使用される場合には、透明な材料からなり、この材料は特に、透明な伝導性酸化物である。
【0056】前記第1の層30は、図1に基づいて示された実施形態と同様に好ましくは第1の伝導型を有する有機半導体材料からなる。該材料は、例えばn型伝導材料、好ましくはペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸-N,N′-ジメチルイミド(MMP)である。
【0057】前記第2の層60は、好ましくは、第2の半導体材料からなる。該材料は特に、反対の伝導型を有する材料、好ましくは亜鉛フタロシアニン(ZnPc)である。コンタクト層70は、前記層60の電気接続のために使用される。例えば該コンタクト層70は、金からなる。金は、高い電気伝導率と高い化学的安定性をあわせもつという特別な利点を有している。
【0058】前記第1の中間層40は、前記第1の層30に含有されている材料をいずれの場合にも含有し、かつ場合によっては前記第2の層60に含有されている材料も含有し、好ましくは、少なくとも1種の有機半導体材料を含有している。MMPまたはZnPcが特に適当である。さらに該中間層40は、フラーレンまたは酸化物半導体、例えばTiO_(2)、が注入されている。この注入率は、素子が太陽電池として使用される場合には好ましくは最大60%である。素子が発光ダイオードとして使用される場合には該注入率は、さらに高くてもよい。
【0059】前記第2の中間層50は、前記層60と同じ材料を含有しているが、しかしながら、別のフラーレンまたは酸化物半導体、例えばTiO_(2)、が注入されている。この注入率は、素子が太陽電池として使用される場合には好ましくは最大60%である。素子が発光ダイオードとして使用される場合には該注入率は、さらに高くてもよい。」
(ウ)「【0065】前記コンタクト層20は、好ましくは透明な材料からなり、この材料は特に、透明な伝導性酸化物である。この透明という性質は、前記基板10を透過する光を伴う太陽電池または発光ダイオードとしての使用の場合に必要であり、このことによって基板10を透過する光線は、該コンタクト層20によって吸収されない。」
(エ)図3は、以下のものである。

(オ)上記(ア)ないし(ウ)を踏まえて上記(エ)の図3をみると、素子は、基板10、透明コンタクト層20、第1の層30、第1の中間層40、第2の中間層50、第2の層60及びコンタクト層70の順に積層された層構造であることがみてとれる。

イ 上記ア(ア)ないし(オ)によれば、引用文献には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「本質的に第1の材料からなる第1の層30、本質的に第2の材料からなる第2の層60および該第1の層30と該第2の層60の間に存在する少なくとも1つの中間層40、50を有する素子において、
該中間層40、50が該第1の材料および/または該第2の材料を有し、かつ該中間層40、50中に少なくとも1種の物質がコロイド溶解しており、かつ該物質が該第1の材料とも該第2の材料とも異なる伝導率を有し、
前記第1の層30と前記第2の層60の間に第1の中間層40および第2の中間層50が存在し、該第1の中間層40が前記第1の層30と境を接しており、かつ該第2の中間層50が前記第2の層60と境を接し、
前記第1の材料及び前記第2の材料が有機半導体であり、前記第1の材料が前記第2の材料と異なる伝導型を有し、
前記物質がバンドギャップを有する炭素の同素体少なくとも1つを含有していて、フラーレン、置換フラーレンまたはフラーレン誘導体の群のうちの少なくとも1つの成分、C_(60)を含有し、
前記中間層中に少なくとも2種の物質が存在し、前記第1の物質が前記第2の物質と異なる伝導型を示し、前記の物質の一方が、もう一方の物質と異なるバンドギャップを有する素子であって、
前記素子は、例えば、太陽電池であり、
該素子は、基板10、透明コンタクト層20、第1の層30、第1の中間層40、第2の中間層50、第2の層60及びコンタクト層70の順に積層された層構造であり、
前記コンタクト層20は、前記素子が、基板10を通過する光の入射を伴う太陽電池として使用される場合には、透明な材料からなり、この材料は特に、透明な伝導性酸化物であり、
前記第1の層30は、好ましくは第1の伝導型を有する有機半導体材料からなり、該材料は、例えばn型伝導材料であり、
前記第2の層60は、好ましくは、第2の半導体材料からなり、該材料は特に、反対の伝導型を有する材料であり、コンタクト層70は、前記層60の電気接続のために使用され、例えば金からなり、
前記第1の中間層40は、前記第1の層30に含有されている材料をいずれの場合にも含有し、かつ場合によっては前記第2の層60に含有されている材料も含有し、好ましくは、少なくとも1種の有機半導体材料を含有していて、さらに該中間層40は、フラーレンまたは酸化物半導体、例えばTiO_(2)が注入されていて、
前記第2の中間層50は、前記層60と同じ材料を含有し、別のフラーレンまたは酸化物半導体、例えばTiO_(2)が注入されている太陽電池。」

(3)対比・判断
ア 対比
本願補正発明と引用発明を対比する。
(ア)引用発明の「第1の層30」は、「n型伝導材料」からなるから、「電子により主として導電状態となる」層であると認められる。また、引用発明の「第2の層60」は、「n型」である「第1の層30」とは「反対の伝導型を有する材料」からなるから、「欠陥電子(ホール、正孔)により主として導電状態となる」層であると認められる。
したがって、引用発明の「第1の層30」及び「第2の層60」は、それぞれ、本願補正発明の「第1の層であって、電子により主として導電状態となる第1の層」及び「第2の層であって、欠陥電子により主として導電状態となる第2の層」に相当する。
また、引用発明の「太陽電池である『素子』」は、本願補正発明の「光起電力電池」に相当する。
(イ)引用発明の「第1の中間層40および第2の中間層50」は、「前記第1の材料及び前記第2の材料が有機半導体であり、前記第1の材料が前記第2の材料と異なる伝導型を有し、前記物質がバンドギャップを有する炭素の同素体少なくとも1つを含有している、フラーレン、置換フラーレンまたはフラーレン誘導体の群のうちの少なくとも1つの成分、C_(60)を含有し、前記中間層中に少なくとも2種の物質が存在し、前記第1の物質が前記第2の物質と異なる伝導型を示し、前記の物質の一方が、もう一方の物質と異なるバンドギャップを有する」ものであって、「前記第1の中間層40は、前記第1の層30に含有されている材料をいずれの場合にも含有し、かつ場合によっては前記第2の層60に含有されている材料も含有し、好ましくは、少なくとも1種の有機半導体材料を含有していて、さらに該中間層40は、フラーレンまたは酸化物半導体、例えばTiO_(2)が注入され」、及び、「前記第2の中間層50は、前記層60と同じ材料を含有し、別のフラーレンまたは酸化物半導体、例えばTiO_(2)が注入されている」ものであることに照らして、「第1の中間層40および第2の中間層50」が太陽電池の活性層として機能する層であると認められる。
したがって、引用発明の「第1の中間層40および第2の中間層50」は、本願補正発明の「光活性層であって、有機電子供与体及び有機電子受容体を含む光活性層」に相当する。
(ウ)引用発明の「素子」は、「前記第1の層30と前記第2の層60の間に第1の中間層40および第2の中間層50が存在し、該第1の中間層40が前記第1の層30と境を接しており、かつ該第2の中間層50が前記第2の層60と境を接し」、「基板10、透明コンタクト層20、第1の層30、第1の中間層40、第2の中間層50、第2の層60及びコンタクト層70の順に積層された層構造」のものであるから、「透明コンタクト層20」と「コンタクト層70」を有し、「透明コンタクト層20」と「コンタクト層70」の間に「第1の中間層40および第2の中間層50が存在し」、「透明コンタクト層20」と「第1の中間層40および第2の中間層50」との間に「第1の層30」が配置され、また、「コンタクト層70」と「第1の中間層40および第2の中間層50」との間に「第2の層50」が配置されるものといえる。
したがって、引用発明は、本願発明の「光起電力電池は、透明又は半透明のカソードと、アノードと、前記カソードと前記アノードとの間に配置された光活性層」、「前記カソードと前記光活性層との間に配置される第1の層」及び「前記アノードと前記光活性層との間に配置される第2の層」との構成を備える。

以上によれば両者は、
「光起電力電池において、前記光起電力電池は、透明又は半透明のカソードと、アノードと、前記カソードと前記アノードとの間に配置された光活性層であって、有機電子供与体及び有機電子受容体を含む光活性層と、前記カソードと前記光活性層との間に配置される第1の層であって、電子により主として導電状態となる第1の層と、前記アノードと前記光活性層との間に配置される第2の層であって、欠陥電子により主として導電状態となる第2の層とを含む光起電力電池。」
である点で一致し、

本願補正発明は、「第1の層」及び「第2の層」の各々は、「2.5eV乃至3.7eVの範囲のバンドギャップを有する」のに対して、引用発明の「第1の層30」及び「第2の層60」が、このような「バンドギャップを有する」のか明らかではない点(以下「相違点」という。)、
で相違するものと認められる。

イ 判断
上記相違点について検討する。
上記(2)ア(ウ)によれば、引用文献には、「前記コンタクト層20は、好ましくは透明な材料からなり、この材料は特に、透明な伝導性酸化物である。この透明という性質は、前記基板10を透過する光を伴う太陽電池または発光ダイオードとしての使用の場合に必要であり、このことによって基板10を透過する光線は、該コンタクト層20によって吸収されない」ことが記載されていることが認められる。
したがって、引用発明は、「基板10を透過する光を伴う太陽電池としての使用の場合」に「コンタクト層20」が、「好ましくは透明な材料からな」ることが必要であり、太陽電池として機能する層である「第1の中間層40および第2の中間層50」の「コンタクト層20」側に位置する「第1の層30」も同様に「好ましくは透明な材料からな」ることが必要なものであると認められる。
また、太陽電池の効率を上げるために、太陽光線を反射して再度活性層を通すことは従来周知の構成であるところ、引用発明の「コンタクト層70」は、「例えば金からな」るものであり、金は太陽光線を反射する性質を有していることに照らして、太陽光線を反射して再度活性層(第1の中間層40および第2の中間層50)を通す構成とすることは当業者が容易になし得ることである。
すなわち、引用発明において、太陽光線を反射して再度「第1の中間層40および第2の中間層50」を通して、太陽電池の効率を上げるべく、「第2の層60」を「第1の層30」と同じく「透明」なものとなすことは、当業者が容易になし得ることである。
そして、引用発明の「第1の中間層40」及び「第2の中間層50」を透明な(太陽光線(可視波長光)を透過する)ものとするべく、そのバンドギャップの範囲の値を具体的に定めて上記相違点に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が適宜に行い得る設計的事項である。

(4)まとめ
したがって、本願補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 本件補正についてのむすび
上記3の検討によれば、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
上記のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成22年7月20日付けで誤訳訂正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2 [理由]1において、補正前のものとして示したとおりのものである。

2 刊行物の記載及び引用発明
上記第2 [理由]3(2)のとおりである。

3 対比・判断
上記「第2 2 補正の目的」のとおり、本願補正発明は、本願発明に請求項11の「前記第1の層又は前記第2の層は、1.7eV乃至6.1eVの範囲のバンドギャップを有する」との構成を加え、さらに「前記第1の層及び前記第2の層の各々は、2.5eV乃至3.7eVの範囲のバンドギャップを有する」との限定したものである。
そうすると、本願発明は、本願補正発明から上記構成及び限定を省いたものと認められるところ、上記第2 [理由]3(3)での検討に照らすと、引用発明との間に相違するところは認められないから、本願発明は引用文献に記載された発明である。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-11-14 
結審通知日 2012-11-20 
審決日 2012-12-03 
出願番号 特願2006-516122(P2006-516122)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 昌伸  
特許庁審判長 吉野 公夫
特許庁審判官 江成 克己
松川 直樹
発明の名称 光起電力電池  
代理人 恩田 誠  
代理人 本田 淳  
代理人 恩田 博宣  

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