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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16H |
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管理番号 | 1273191 |
審判番号 | 不服2011-25852 |
総通号数 | 162 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-06-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-11-30 |
確定日 | 2013-04-25 |
事件の表示 | 特願2009-242682「トルクコンバータ」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 5月 6日出願公開、特開2011- 89577〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成21年10月21日の出願であって、平成23年8月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年11月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、その後、当審において、平成24年8月1日付け及び平成24年11月2日付けで拒絶理由が通知されたものである。 2.本願発明 本願の請求項1?4に係る発明は、平成23年2月3日付け手続補正、平成24年10月5日付け手続補正、及び平成24年12月27日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。なお、平成23年11月30日付け手続補正は、当審において、平成24年8月1日付けで決定をもって却下されている。 「【請求項1】 エンジンからトルクが入力されるフロントカバーと、 前記フロントカバーに対向して配置されるとともに、外周部が前記フロントカバーの外周部に連結されたハウジングと、 インペラシェルを含むインペラ、タービン及びステータを有し、前記フロントカバー及び前記ハウジングによって囲まれた空間に配置されたトルクコンバータ本体と、 前記フロントカバーから前記タービンへトルクを直接伝達するためのロックアップクラッチと、 前記ハウジングと前記インペラとの間に配置され、トルクの伝達及び遮断を行うインペラクラッチと、 を備え、 前記インペラクラッチは、 前記インペラシェルの外周側において、軸方向と垂直な状態で前記ハウジング側の面に固定された円板状のプレートと、 前記ハウジングと前記プレートとの間に設けられたクラッチ部と、 を有し、 前記インペラクラッチは、前記インペラと前記ハウジングとの間の室の油圧制御によって前記プレートを前記インペラとともに前記軸方向に移動させてオン、オフ制御される、 トルクコンバータ。 【請求項2】 前記クラッチ部は、前記ハウジング及び前記プレートのいずれか一方に設けられた摩擦材を有する、請求項1に記載のトルクコンバータ。 【請求項3】 前記クラッチ部は、 前記ハウジングに対して相対回転不能かつ軸方向移動可能に設けられた第1クラッチプレートと、 前記プレートに対して相対回転不能かつ軸方向移動可能に設けられ、前記第1クラッチプレートと互いに圧接する第2クラッチプレートと、 を有する、請求項1に記載のトルクコンバータ。 【請求項4】 前記ロックアップクラッチは摩擦材を有し、 前記ロックアップクラッチの摩擦材と前記インペラクラッチの摩擦材は同じサイズである、 請求項2に記載のトルクコンバータ。」 3.本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)について (1)本願発明1 上記のとおりである。 (2)引用例 (2-1)引用例1 特開2009-150548号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。 (あ)「【技術分野】 【0001】 本発明は、回転駆動ユニット(自動車のエンジン等)と回転被駆動ユニット(自動車における変速トランスミッション等)との間で力を伝達するための装置における改良に関する。特に、本発明は、4つの通路と、トーラスを通る増大した冷却流と、インペラクラッチの両側の増大した差圧とを有する多機能トルクコンバータに関する。 【背景技術】 【0002】 トルクをトルクコンバータのためのカバーからタービンハブ又はその他の出力エレメントに伝達するために使用される、インペラクラッチ及びロックアップクラッチを備えたトルクコンバータ(多機能トルクコンバータ)のために、3通路構成が知られている。トルクコンバータモードにおける作動中、冷却油はオイルクーラからトルクコンバータのトーラスを通って循環させられる。通常、冷却流は、インペラクラッチのための放圧室をも通過する。あいにく、オイルクーラからの背圧は放圧室における圧力を増大させ、インペラクラッチの両側の差圧を減少させ、クラッチの動作に悪影響を与える。その結果、望ましくないことに冷却流が減じられなければならない及び/又は望ましくないことに加圧室における圧力が背圧をオフセットするために増大されなければならない。幾つかの構成における、冷却流は、トルクコンバータモードにおいて、閉鎖されたインペラクラッチを通過する。あいにく、望ましくないことにクラッチを通過することは冷却流を制限し、背圧問題を悪化させる。 【0003】 したがって、望ましくない背圧を低減しかつトルクコンバータのためのトーラスを通る冷却流を増大させるように構成された多機能トルクコンバータが長い間必要とされている。 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 本発明の一般的な目的は、インペラクラッチの両側における改良された差圧を備えた多機能トルクコンバータを提供することである。 【0005】 本発明の別の目的は、トーラスを通る改良された冷却流を備えた多機能トルクコンバータを提供することである。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明は、広くは、係合されている時にトルクをトルクコンバータのための第1のカバーからインペラのためのシェルに伝達するように配置されたインペラクラッチと、係合されているときにトルクをトルクコンバータのための第2のカバーから出力ハブに伝達するように配置されたロックアップクラッチと、第1のチャネルに接続された、インペラクラッチのための放圧室と、第2のチャネルに接続された、インペラクラッチのための加圧室と、第3のチャネルに接続された、ロックアップクラッチのための加圧室と、第4のチャネルに接続されたトーラスとを備えるトルクコンバータを含む。第2、第3及び第4のチャネルは、トルクコンバータのための長手方向軸線を有する空間へ開放しており、空間は、トランスミッションのための入力軸を受容するように配置されている。第1のチャネルは、トランスミッションのためのポンプハウジングにおけるラインに接続されるように配置されている。好適な実施形態において、トルクコンバータは、トランスミッションのためのポンプに回転方向で結合されるように配置されており、ポンプハウジングにおけるラインはトランスミッションのための油溜めに通じている。 【0007】 第2及び第4のチャネルはトーラスを通る流体回路の一部を形成しており、回路はインペラクラッチをバイパスしている。好適な実施形態において、インペラクラッチが係合しているときに流体は放圧室から第1のチャネルを通って流出する。好適な実施形態において、トルクコンバータは、インペラシェルをカバーから離反させる弾性変形可能なエレメントを有する。インペラクラッチは、弾性変形可能なエレメントと、トーラスを流過する冷却油のための流量の減少とに応答して切断されるように配置されている。 【0008】 好適な実施形態において、ロックアップクラッチのための加圧室は、第3のチャネル以外はシールされており、トルクコンバータは、インペラクラッチのための加圧室と流体連通した、ロックアップクラッチのための放圧室を有している。 【0009】 本発明は、広くは、トルクコンバータにおいてインペラクラッチを作動させる方法をも含む。 【0010】 本発明のこれらの目的及び利点並びにその他の目的及び利点は、発明の好適な実施形態の以下の説明及び添付の図面及び請求の範囲から容易に分かるであろう。」 (い)「【発明を実施するための形態】 【0013】 最初に、異なる図面における同じ参照符号は発明の同一の又は機能的に類似の構造エレメントを表していることが認識されるべきである。本発明は、現時点で好適な態様であると考えられるものに関して説明されているが、請求の範囲に記載された発明は、開示された態様に限定されないことが理解されるべきである。 【0014】 さらに、本発明は、説明された特定の方法、材料及び変化態様に限定されず、もちろん変化することがあることが理解されるべきである。ここで使用される用語は特定の態様のみを説明するためのものであり、添付の請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定しようとするものではない。 【0015】 そうでないことが定義されない限り、ここで使用されている全ての技術的及び科学的用語は、本発明が属する技術分野における当業者に一般的に理解されるのと同じ意味を有する。ここで説明されたものと同様の又は均等のあらゆる方法、装置又は材料が発明の実施又は試験において使用されることができるが、好適な方法、装置及び材料がここで説明される。 【0016】 図1は、本発明のトルクコンバータの部分的な断面図である。トルクコンバータ100は、係合されているときにトルクをトランスミッション側カバー104から、インペラ108のためのシェル106に伝達するように配置されたインペラクラッチ102を有している。クラッチ102は、放圧室110及び加圧室112内の流体圧力と、その他の力発生エレメント(以下で説明される)とによって制御される。例えば、インペラクラッチは、加圧室内の圧力が、放圧室内の対抗する圧力又は力よりも大きな所定のレベルに達すると係合するように配置されている。放圧室はチャネル114と流体連通している、すなわち接続されており、放圧室内の流体(矢印116によって示されている)は放圧室からチャネル114を通って流出可能である。特に、流体は、インペラクラッチが係合しているときにチャネル114を通って放圧室から流出する。 【0017】 トルクコンバータは、トランスミッション(図示せず)のためのポンプハウジング118に接続されるように配置されている。トランスミッションのためのポンプのための部分119は、例えばポンプハブとこの部分との間の結合部122によってポンプハブ120に回転方向で結合されている。回転方向で結合、又は固定されているとは、部分とハブとが、2つのコンポーネントが一緒に回転するように、すなわち2つのコンポーネントが回転に関して固定されているように結合されていることを意味する。2つのコンポーネントを回転方向で結合することは、必ずしも他の方向での相対移動を制限しない。例えば、回転方向で結合された2つのコンポーネントは、スプライン結合を介して互いに対して軸方向に移動することができる。しかしながら、回転方向の結合は、他の方向での移動が必ず存在することを意味しないことが理解されるべきである。例えば、回転方向で結合された2つのコンポーネントは、互いに軸方向で固定されていることができる。回転方向の結合の前の説明は、以下の説明に当てはまる。 【0018】 チャネル114は、ポンプハウジング118におけるチャネル124と流体連通するように、若しくは接続されるように配置されている。チャネル124は、トランスミッションのための油溜め(図示せず)に接続されている。概して、チャネル124は、矢印126によって示されているように流体流れを可能にし、離反するシール128を回避するために油溜めに向かってほとんど又は全く背圧を有さない。すなわち、チャンバ110における流体は、公称抵抗を備えてチャンバからチャネル114及び124を通って油溜めへ押し出される。 【0019】 クラッチ102は、軸方向130でのコア132(インペラ108、トーラス134、及びタービン136を含む)の移動によって係合し、カバーとのシェル106の接触を生じる。この移動の結果、チャンバ110の容積が減じられる。しかしながら、チャンバにおける対抗する流体圧力は、チャネル114及び124を通るチャンバ110からの流体の流れによって実質的に排除され、上述の問題のうちの1つに対応する。特に、チャンバ内の圧力の減少は、クラッチ102の両側のより高い差圧を維持するのを助け、インペラクラッチのための加圧室137内の流体圧力の効率を向上させる。 【0020】 矢印138によって示された、トーラス134を通る冷却流は、トーラスの作動及びクラッチ102の滑りによって生ぜしめられた熱を除去するために必要とされている。すなわち、冷却油は、通路140を通ってトルクコンバータに流入し、通路141を通って流出する。トルクコンバータ100において反対方向の流れも可能であることが理解されるべきである。有利には、流れはクラッチ102をバイパスしている。すなわち、流れは、クラッチを通過しなければならないことによって制限されることはない。例えば摩擦材料143の多孔性による、係合したインペラクラッチを通過する冷却流体は、チャネル114及び124を通って排出される。チャネル140及び141は、トルクコンバータの中央に形成された空間へ開放している。空間142は、長手方向軸線145を有しており、トランスミッションのための入力軸156を受容するように配置されている。 【0021】 チャネル114及び124はチャンバ110から排出するためだけに使用されることができるので、トルクコンバータは、例えばトルクコンバータをアイドル切断モードにおいて作動させるためにインペラクラッチを切断するために弾性変形可能なエレメント146を有している。エレメント146はインペラシェルをカバー104から離れる方向148へ付勢する。コアに方向130に加わる力が所定の力より小さい場合、例えばトーラスを通る冷却流が減じられた場合(加圧室内の流体圧力を減じる)、エレメント146はインペラクラッチを切断する。エレメント146は、技術分野において知られたあらゆるこのようなエレメント、例えばばねであることができる。 【0022】 トルクコンバータ100は、係合された場合にトルクをカバー152からタービンハブ154へ伝達するように配置されたロックアップクラッチ150をも有している。クラッチ150はハブ154に回転方向で結合されており、ハブ154は、トランスミッションのための入力軸156に回転方向で結合されている。チャネル158は、ロックアップクラッチのための加圧室160に流体を供給しかつこの加圧室から流体を排出するために使用される。チャネル158は空間142にも開放している。すなわち、トルクコンバータ100は4通路式(チャネル114,140,141,158)装置である。好適な実施形態において、ロックアップクラッチのための放圧室162は、インペラクラッチのための加圧室と流体連通している。技術分野において知られているように、ロックアップクラッチは、チャンバ160と162との差圧に応答して作動する。別の好適な実施形態において、トルクコンバータはダンパ164を有しており、カバー152は突起166によってエンジン(図示せず)に結合されている。さらに別の好適な実施形態は、チャンバ160は、例えばシール168及び170によって、チャネル158以外はシールされている。 【0023】 トルクコンバータ100は、図示されたエレメント及び構成に限定されず、エレメント及び構成のその他の組み合わせが、請求の範囲に記載された発明の精神及び範囲に含まれることが理解されるべきである。 【0024】 本発明は、トルクコンバータにおけるインペラクラッチを作動させる方法をも有する。この方法は、明瞭にするためにステップの連続として示されているが、明らかに述べられない限り、順序が連続から推測されるべきではない。第1のステップにおいて、流体は、オイルクーラから、トルクコンバータにおける第1及び第2のチャネルの間を流れ、トルクコンバータのためのトーラスを通り、第1及び第2のチャネルは、インペラクラッチのための加圧室と、トーラスとに開放している。第2のステップにおいて、流れる流体はインペラクラッチをバイパスする。第3のステップにおいて、流体は、インペラクラッチのための放圧室から、トランスミッションのためのポンプハウジングにおけるラインを通って排出される。第4のステップにおいて、インペラクラッチが係合させられる。第5のステップにおいて、トルクが、トルクコンバータのためのカバーからインペラクラッチを介してインペラのためのシェルに伝達される。好適な実施形態において、ポンプハウジングにおけるラインは、トランスミッションのための油溜めに通じている。 【0025】 好適な実施形態において、第6のステップにおいて、弾性変形可能なエレメントを用いて力がインペラクラッチに加えられる。第7のステップにおいて、トーラスを通る流体の流れが減じられる。第8のステップにおいて、インペラクラッチが切断される。 【0026】 すなわち、本発明の目的は効率的に達成されるが、発明に対する変更は当業者に容易に明らかであるべきであり、これらの変更は、請求の範囲に記載された発明の精神及び範囲に含まれる。前記説明は本発明の例であり、制限的に考えられるべきではない。したがって、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく本発明のその他の実施形態が可能である。」 以上の記載事項及び図面からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。 「エンジンからトルクが入力されるカバー152と、 前記カバー152に対向して配置されるとともに、外周部が前記カバー152の外周部に連結されたトランスミッション側カバー104と、 インペラシェル106を含むインペラ108、タービン136及びステータを有し、前記カバー152及び前記トランスミッション側カバー104によって囲まれた空間に配置されたトルクコンバータ本体と、 前記カバー152から前記タービン136へトルクを直接伝達するためのロックアップクラッチ150と、 前記トランスミッション側カバー104と前記インペラ108との間に配置され、トルクの伝達及び遮断を行うインペラクラッチ102と、 を備え、 前記インペラクラッチ102は、 前記インペラシェル106の外周側に形成されたコア132の略平面部と、 前記トランスミッション側カバー104と前記略平面部との間に設けられ、摩擦材料143を有するクラッチ部と、 を有し、 前記インペラクラッチ102は、前記インペラ108と前記トランスミッション側カバー104との間の室の油圧制御によって前記略平面部を前記インペラ108とともに軸方向に移動させ、前記略平面部と前記トランスミッション側カバー104との間の前記摩擦材料143を圧接又は圧接解除することによりオン、オフ制御される、 トルクコンバータ。」 (2-2)引用例2 特開平4-165151号公報(以下、「引用例2」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。 (か)「〔産業上の利用分野〕 本発明は、ロックアップ装置、特に、トルクコンバータ用ロックアップ装置に関する。」(第1ページ左下欄第16?18行) (き)「第2図に示すように、ピストン12の外周側端部のフロントカバー1と対向する面には円環状の摩擦部材16が固着されている。摩擦部材16と対向する位置においてフロントカバー1には平面状の摩擦面1cが設けられている。摩擦部材16と摩擦面1cとの間には、摩擦部材16側から順に、円環状のプレート17と円環状のディスク20とが同心に配置されている。 フロントカバー1は、外周壁1aの内周面に、円周方向等間隔かつ中心線O-Oと平行に多数設けられた係合突起18を一体に有している。この係合突起18に、プレート17の外周側端部が、相対回動不能かつ軸方向に移動可能の状態で係合している。係合突起18の後端(第2図の右端)にはスナップリング19が固定されている。このスナップリング19は、その内周部がプレート17に当接し得るようになっており、これによって、プレート17の後方への移動が規制されている。 プレート17よりも内周側において、ピストン12の摩擦面1c側の面には、環状の支持部材21が取り付けられている。支持部材21は、摩擦面1c側部分に放射状に形成された多数の溝21aを有している。プレート17と摩擦面1cとの間に配置されたディスク20は、その内周側端部が支持部材21の溝21aに、相対回動不能かつ軸方向に移動可能の状態で係合している。また、ディスク20のプレート17と摩擦面1cとに対向する面には、環状の摩擦部材23が固着されている。」(第3ページ左上欄第1行?右上欄第9行) (2-3)引用例3 特開2008-281200号公報(以下、「引用例3」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。 (さ)「【0045】 図10は、トルクコンバータクラッチ306とタービンシェル302とを回転方向で結合するバッキングプレート350を備えた本発明のトルクコンバータ300の部分的な断面図である。プレート350は、圧力チャンバ328及び315の間の境界の少なくとも部分を形成したシールプレートにも作用する。以下にさらに説明するように、クラッチのための提供圧力チャンバ313における圧力は、チャンバ328及び315における圧力とは無関係に制御される。幾つかの態様において、シールプレート350は、技術分野において知られるあらゆる手段、例えばリベット307を使用してタービンハブ319においてタービンシェル302に固定される。回転方向で結合又は固定されているとは、2つの構成要素が一緒に回転する、すなわち2つの構成要素が回転に関して固定されているようにバッキングプレートとクラッチとが結合されていることを意味する。2つの構成要素を回転方向で結合することは、必ずしも他の方向での相対移動を制限するわけではない。例えば、回転方向で結合された2つの構成要素が、スプライン結合を介して互いに対して軸方向移動を行うことが可能である。しかしながら、回転方向での結合は、他の方向での移動が必ずしも存在することを意味すると理解されるべきではない。例えば、回転方向で結合された2つの構成部材は、軸方向で互いに固定されていることができる。回転方向での結合の前記説明は、以下の説明にも適用可能である。 【0046】 クラッチは摩擦材料322をも有する。技術分野において知られたあらゆるタイプの摩擦材料が使用されることができる。摩擦材料は、技術分野において知られたあらゆる形式で構成されることができる。例えば、摩擦材料は別のコンポーネント、例えばプレート358に取り付けられることができるか、又は別のコンポーネント、例えば摩擦プレート358の間に配置される別個のエレメントであることができる。シールプレート350はピストンプレート310によって提供される圧力に応答し、クラッチをつなぐ。ピストンプレート310からの圧力に反応するために必要な剛性を得るために、幾つかの態様において、バッキングプレートは、不規則な形状に形成されており、例えばリブが設けられている。」 (し)「【0050】 摩擦プレート358は、技術分野において知られたあらゆる手段によってカバー308に結合されている。幾つかの態様において、プレートをばね335及び337にそれぞれ結合するためにファスナ331及び333が使用される。リベットを含むがリベットに限定されない、技術分野において知られたあらゆるファスナが使用されることができる。ばねはカバー308に固定されており、エンジントルクをカバーから個々の摩擦プレートに伝達する。カバーは、技術分野において知られたあらゆる手段、例えば駆動プレート339によって、エンジン又はフレックスプレート(図示せず)に結合されている。幾つかの態様(図示せず)において、プレート358をカバーに結合するためにスプライン配列が使用される。有利には、スプライン結合の代わりにばね結合を使用することは、スプライン結合の使用時に固有の望ましくない振動を減じる。 【0051】 図11は、トルクコンバータクラッチ406とタービンシェル402とを回転方向で結合するバッキングプレート450を備えた本発明のトルクコンバータ400の部分的な断面図である。プレート450は、圧力チャンバ428及び415の間の境界の少なくとも部分を形成したシールプレートとしても作用する。以下にさらに説明するように、クラッチのための提供圧力チャンバ413における圧力は、チャンバ428及び415における圧力とは無関係に制御される。幾つかの態様において、シールプレート450は、技術分野において知られるあらゆる手段、例えば溶接403を使用してタービンシェル402に固定される。 【0052】 クラッチは摩擦材料422をも有する。技術分野において知られたあらゆるタイプの摩擦材料が使用されることができる。摩擦材料は、技術分野において知られたあらゆる形式で構成されることができる。例えば、摩擦材料は別のコンポーネント、例えばプレート450に取り付けられることができるか、又は別のコンポーネント、例えば摩擦プレート458の間に配置される別個のエレメントであることができる。シールプレート450はピストンプレート410によって提供される圧力に応答し、クラッチをつなぐ。幾つかの態様において、バッキングプレートの反応機能は、タービンシェル402における軸方向撓みを生ぜしめる。したがって、幾つかの態様において、回転スラスト受渡しエレメント470は、例えば技術分野において知られるあらゆるこのようなエレメント、例えば軸受470、であることができ、スラストをクラッチからポンプシェルに受け渡すために、軸方向でタービンシェルとポンプシェル405との間に配置されている。幾つかの態様(図示せず)において、ポンプシェル405とステータ407との間及びステータ407とハブ419との間にそれぞれ配置された軸受471及び473は、個々の摩耗ワッシャと交換される。」 (2-4)引用例4 特開2004-301327号公報(以下、「引用例4」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。 (た)「【0027】 本発明に従う流体式クラッチ装置3の残りの部分を説明する前に、本発明に従うクラッチ機構43の他の構成を短く説明する。図4には、クラッチピストン45が従動部側のハウジングハブ23上に噛合部47を用いて配設され、この噛合部47が、互いに相対回転不能であるが軸方向に移動可能にクラッチピストン45をそのクラッチピストンフット44を介して受け入れて保持することを可能にする実施形態が示されている。この実施形態でも、クラッチピストン45の軸方向経路を制限するための軸方向ストッパ58並びに流体循環路104と制御室77との間のシール55が設けられている。 【0028】 半径方向外側にて、ポンプホイール51、特にこの実施形態ではそのポンプホイールシェル92には、ディスク支持体62として機能する結合部材190が設けられている。ここでは図3に従う実施形態と異なり、結合部材190が複数部材で構成されていて、即ち、ポンプホイールシェル92に固定されている結合突出部193とこの結合突出部193に受け入れられて保持されているピン状部材191とを用いてである。ピン状部材191はディスククラッチ66の外側ディスク63と係合し、それによりこの実施形態においても結合部材190が外側ディスク支持体62として効力を生じている。内側ディスク65は、周知の方式で、従動部側のハウジング壁部35に固定されている内側ディスク支持体75と互いに相対回転不能に接続されている。」 (3)対比 本願発明1と引用例1発明とを対比すると、 後者の「カバー152」は前者の「フロントカバー」に相当し、同様に、「トランスミッション側カバー104」は「ハウジング」に相当する。 後者の「略平面部」と前者の「プレート」は「クラッチ要素」である点で一致し、後者の「前記インペラシェル106の外周側に形成されたコア132の略平面部」と前者の「前記インペラシェルの外周側において、軸方向と垂直な状態で前記ハウジング側の面に固定された円板状のプレート」は、「インペラシェルの外周側に位置するクラッチ要素」という点で一致する。 後者の「前記トランスミッション側カバー104と前記略平面部との間に設けられ、摩擦材料143を有するクラッチ部」と前者の「前記ハウジングと前記プレートとの間に設けられたクラッチ部」は「前記ハウジングと前記クラッチ要素との間に設けられたクラッチ部」という点で一致する。 後者の「前記インペラクラッチ102は、前記インペラ108と前記トランスミッション側カバー104との間の室の油圧制御によって前記略平面部を前記インペラ108とともに軸方向に移動させ、前記略平面部と前記トランスミッション側カバー104との間の前記摩擦材料143を圧接又は圧接解除することによりオン、オフ制御される」と前者の「前記インペラクラッチは、前記インペラと前記ハウジングとの間の室の油圧制御によって前記プレートを前記インペラとともに前記軸方向に移動させてオン、オフ制御される」は、「前記インペラクラッチは、前記インペラと前記ハウジングとの間の室の油圧制御によって前記クラッチ要素を前記インペラとともに軸方向に移動させてオン、オフ制御される」という点で一致する。 したがって、両者は、 「エンジンからトルクが入力されるフロントカバーと、 前記フロントカバーに対向して配置されるとともに、外周部が前記フロントカバーの外周部に連結されたハウジングと、 インペラシェルを含むインペラ、タービン及びステータを有し、前記フロントカバー及び前記ハウジングによって囲まれた空間に配置されたトルクコンバータ本体と、 前記フロントカバーから前記タービンへトルクを直接伝達するためのロックアップクラッチと、 前記ハウジングと前記インペラとの間に配置され、トルクの伝達及び遮断を行うインペラクラッチと、 を備え、 前記インペラクラッチは、 インペラシェルの外周側に位置するクラッチ要素と、 前記ハウジングと前記クラッチ要素との間に設けられたクラッチ部と、 を有し、 前記インペラクラッチは、前記インペラと前記ハウジングとの間の室の油圧制御によって前記クラッチ要素を前記インペラとともに軸方向に移動させてオン、オフ制御される、 トルクコンバータ。」である点で一致し、以下の点で相違している。 [相違点] 本願発明1の「インペラクラッチ」は、 「前記インペラシェルの外周側において、軸方向と垂直な状態で前記ハウジング側の面に固定された円板状のプレートと、 前記ハウジングと前記プレートとの間に設けられたクラッチ部と、 を有し、 前記インペラクラッチは、前記インペラと前記ハウジングとの間の室の油圧制御によって前記プレートを前記インペラとともに前記軸方向に移動させてオン、オフ制御される、」ものであるのに対し、 引用例1発明の「インペラクラッチ102」は、 「前記インペラシェル106の外周側に形成されたコア132の略平面部と、 前記トランスミッション側カバー104と前記略平面部との間に設けられ、摩擦材料143を有するクラッチ部と、 を有し、 前記インペラクラッチ102は、前記インペラ108と前記トランスミッション側カバー104との間の室の油圧制御によって前記略平面部を前記インペラ108とともに軸方向に移動させ、前記略平面部と前記トランスミッション側カバー104との間の前記摩擦材料143を圧接又は圧接解除することによりオン、オフ制御される」 ものである点。 (4)判断 トルクコンバータ等に用いられるクラッチにおいて、クラッチの一方側あるいは他方側の部材の移動方向とクラッチの圧接方向が一致する構造のものは、例えば、引用例2?4に示されているように周知ないし普通であり、そのような構造が、クラッチ圧接力の増大ないし有効利用を図るという点からみて望ましいことは明らかである。また、引用例4(特に図4、6)には、インペラクラッチに相当するクラッチ機構43において、ディスク支持体62として機能する結合部材190の結合突出部193がポンプホイールシェル92に固定されており、結合突出部193は軸方向と略垂直な方向に位置するものが示されている。 引用例1発明のインペラクラッチ102は、インペラ108等を含むコア132の移動によって、トルクをトランスミッション側カバー104からインペラ108のシェル106に伝達するものであるが、引用例1の【0013】?【0015】、【0026】に記載ないし示唆されているように、引用例1発明のインペラクラッチ102の構造は引用例1の図1の例に限定されるものではなく、クラッチとしての所要性能や、構造の簡素・小型化等を考慮して、適宜選択・設計する事項にすぎない。引用例1発明のインペラクラッチ102に引用例2?4の上記事項を適用して、クラッチの圧接方向をコア132が移動する軸方向に略一致させることは格別困難なことではない。その場合、インペラ108のシェル106に、引用例4の結合突出部193のような、軸方向と略垂直な方向に位置する支持要素を設けることは、技術的にみて合理的であって、通常想起される程度の設計である。引用例4の結合突出部193が「円板状」かどうかは不明であるが、「円板状」とすることは支持要素としての強度等を考慮して適宜設計する事項にすぎない。また、引用例1の図1にはディスク等の摩擦要素が特に記載されておらず、引用例1発明のコア132は、摩擦材料143を介してトランスミッション側カバー104と接触する摩擦要素であると理解し得るから、上記のような円板状の支持要素自体をクラッチの摩擦要素として構成することも格別困難なことではない。 以上のとおり、引用例1発明に引用例2?4に記載された事項を適用して、相違点に係る本願発明1の上記事項に想到することは、当業者が容易になし得たものである。 以上に関して、請求人は、平成24年12月27日付け意見書において、「引用例1のトルクコンバータの目的は、引用例1の段落[0002]?[0004]に記載されているように、『望ましくない背圧を低減し』て、『インペラクラッチの両側における改良された差圧を備えた多機能トルクコンバータを提供すること』であります。これに対しまして、仮にプレートを用いて引用例1のインペラクラッチを構成しますと、本願の図1及び図2に示されるように、プレートとインペラシェルとの間に冷却流が入り込む空間が形成されます。これは、プレートが軸方向に対して垂直な状態でインペラシェルに固定されているのに対して、インペラシェルの断面が円弧状であるためであります。このようにプレートとインペラシェルとの間に空間が形成されるため、この空間にインペラクラッチを冷却するための冷却流が入り込み、その結果、『望ましくない背圧』が増加してしまいます。これは、『望ましくない背圧を低減し』て、『インペラクラッチの両側における改良された差圧を備えた多機能トルクコンバータを提供する』という引用例1の目的と反する作用であります。引用例1の目的に反する作用を生じてしまう以上、引用例1のインペラクラッチを本願発明1のようにプレートを用いて構成することは通常考え付くものではありません。」(改行省略)と主張する。 しかし、「プレートとインペラシェルとの間に空間が形成され」、「この空間にインペラクラッチを冷却するための冷却流が入り込」むとしても、(a)プレートとインペラシェルとの間の空間に入り込んだ冷却流の圧力は、インペラシェルとプレートの両者に作用する。(b)引用例1(特に【0018】、【0020】)には、例えば摩擦材料143の多孔性によって、係合したインペラクラッチを通過する冷却流体は、チャネル114及び124を通って排出されること、チャネル124は、矢印126によって示されているように流体流れを可能にし、離反するシール128を回避するために油溜めに向かってほとんど又は全く背圧を有さないことが記載されており、プレートとインペラシェルとの間に空間空間にインペラクラッチを冷却するための冷却流が入り込むとしても、それによる背圧がそれほど高くなるとは考えられない。(c)クラッチの滑りによる熱を除去するために、クラッチにある程度の冷却流を流すことが好適であるということもできる。(d)引用例1には、クラッチを切断するための弾性変形可能なエレメント146が設けられており、引用例1に記載された発明の目的が背圧の低減であるといっても、それは、あくまで「望ましくない背圧」の低減であって、やみくもに背圧を低減するとか、背圧側への冷却流の流入を完全に遮蔽することを意図するものでは必ずしもない。以上からすれば、請求人が指摘する引用例1の上記記載は、引用例1発明に引用例2?4の事項を適用して相違点に係る本願発明1の上記事項に想到することを阻害するものではない。 そして、本願発明1の奏する効果は、引用例1?4に記載された発明に基づいて当業者が予測し得た程度のものである。 (5)むすび したがって、本願発明1は、引用例1?4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 4.結語 以上のとおり、本願発明1(本願の請求項1に係る発明)が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2?4に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-02-22 |
結審通知日 | 2013-02-26 |
審決日 | 2013-03-12 |
出願番号 | 特願2009-242682(P2009-242682) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(F16H)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 増岡 亘 |
特許庁審判長 |
山岸 利治 |
特許庁審判官 |
森川 元嗣 常盤 務 |
発明の名称 | トルクコンバータ |
代理人 | 新樹グローバル・アイピー特許業務法人 |