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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16H
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16H
管理番号 1273205
審判番号 不服2012-8374  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-05-09 
確定日 2013-04-25 
事件の表示 特願2007- 16491「樹脂ブロックベルトを有するベルト式無段変速機およびそれを備えた自動二輪車」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 8月14日出願公開、特開2008-185054〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成19年1月26日の出願であって、平成24年2月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年5月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。

2.平成24年5月9日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年5月9日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
本件補正により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】
プライマリシーブと、
セカンダリシーブと、
前記プライマリシーブと前記セカンダリシーブとに巻き掛けられた樹脂ブロックベルトと、
前記プライマリシーブ、前記セカンダリシーブ、および前記樹脂ブロックベルトを収納するベルト室を区画形成する変速機ケースと、を備え、
前記変速機ケースは、前記ベルト室に通じる排気通路と、前記排気通路の外側コーナーの内壁部に配置された吸音材と、を有し、
前記吸音材は、前記排気通路の前記吸音材よりも前記ベルト室側の部分の延びる方向と直交する吸音面を有する面材であって、前記吸音面と直交する断面の形状が長方形状の面材からなり、
前記排気通路における前記吸音材と対向する内壁部には、吸音材が配置されていないベルト式無段変速機。
【請求項2】
前記変速機ケースは、
前記ベルト室に通じる吸気通路と、
前記吸気通路に配置され、前記吸気通路を通る空気を透過させるエアフィルタと、
をさらに有する請求項1に記載のベルト式無段変速機。
【請求項3】
前記排気通路は、少なくともひとつの屈曲部または湾曲部を有する請求項1または2に記載のベルト式変速装置。
【請求項4】
前記吸音材は、前記屈曲部または前記湾曲部の内壁に配置されている請求項3に記載のベルト式無段変速機。
【請求項5】
エンジンと、
エンジンを収納するクランクケースと、をさらに備え、
前記変速機ケースは、前記クランクケースとの間に前記排気通路を区画形成するように、前記クランクケースの側面に取り付けられており、
前記変速機ケースには、前記ベルト室と前記排気通路とを連通させる連通口が形成されている請求項1?4のいずれか一つに記載のベルト式無段変速機。
【請求項6】
前記変速機ケースは、
外側ケースと、
前記外側ケースよりも前記クランクケース寄りに配置され、前記外側ケースと共に前記ベルト室を区画形成する一方、前記クランクケースと共に前記排気通路を形成する内側ケースと、をさらに有し、
前記クランクケースには、前記排気通路内において、前記排気通路が延びる方向に沿って延びると共に前記内側ケースに向かって突出する1または複数の線条凸部が形成されている請求項5に記載のベルト式無段変速機。
【請求項7】
前記1または複数の線条凸部は前記内側ケースに当接している請求項6に記載のベルト式無段変速機。
【請求項8】
前記変速機ケースは、前記排気通路の開口よりも下方に位置し、正面視において、前記排気通路よりも外側にまで膨出する下方膨出部をさらに有する請求項5に記載のベルト式無段変速機。
【請求項9】
前記排気通路は、前記プライマリシーブの中心よりも後方に位置し、
前記クランクケースは、前記排気通路よりも前方に位置すると共に、前記排気通路の開口よりも下方に膨出し、かつ正面視において前記排気通路よりも外側にまで膨出する前方膨出部を有する請求項5に記載のベルト式無段変速機。
【請求項10】
請求項1?9のいずれか一つに記載のベルト式無段変速機を備えた自動二輪車。
【請求項11】
前記セカンダリシーブの中心は、前記プライマリシーブの中心よりも上方に位置する請求項10に記載の自動二輪車。」に補正された。
上記補正は、請求項1についてみると、実質的に、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「吸音材」について、「前記吸音材は、前記排気通路の前記吸音材よりも前記ベルト室側の部分の延びる方向と直交する吸音面を有する面材であって、前記吸音面と直交する断面の形状が長方形状の面材からなり、」という事項を追加して限定するものであって、これは、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。
(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記のとおりである。
(2)引用例
(2-1)引用例1
国際公開第03/085285号(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(あ)「技術分野
本発明は、エンジンケースのクランク軸方向一側にVベルト式無段変速機を備えた例えば自動二輪車用に好適のエンジンに関する。」(明細書第1ページ第3?5行)
(い)「上記Vベルト式無段変速機16は、上記変速機ケース45内に巻き掛け径可変式駆動,従動プーリにVベルトを巻回してなる変速機構を収容してなり、詳細には以下の構成となっている。
上記クランクケース22により軸支された上記クランク軸28の右外端部は、上記変速機ケース45内に片持ち状態で突出しており、該右外端部に駆動プーリ55が装着されている。またクランクケース22により軸支された上記変速軸47の右外端部は、上記変速機ケース45内に片持ち状態で突出しており、該右外端部に従動プーリ56が装着されている。上記駆動プーリプーリ55と従動プーリ56とにVベルト57が巻回されている。
上記Vベルト57は耐熱性,耐久性を有する樹脂からなる樹脂ベルトであり、詳細には以下の構造を有している。例えばポリアミド樹脂にカーボン繊維又はアラミド繊維を混入させて横H形状に成形してなる多数の樹脂ブロック57aが並べて配置され、これらは超耐熱ゴム製の環状の一対の連結部材57bでもって連結されている。上記樹脂ブロック57aの左,右傾斜面が上記駆動プーリ55,従動プーリ56への当接面となっている。」(明細書第12ページ末行?第13ページ第14行)
(う)「図17ないし図19は、本発明の第2実施形態を説明するための図であり、図中、図1ないし図15と同一符号は同一又は相当部分を示す。本実施形態は、変速機ケース45を空冷するように構成した例である。
上記変速機ケース45は、空気を内部に導入する導入口45eと、空気を外部に排出する排出口45f,45gとを備えている。上記導入口45eは上記アルミニュウム合金製蓋体45bに、上記駆動プーリ55の軸心に一致するように形成されている。この導入口45eには空気導入ダクト45hの下流端開口が嵌合装着されており、該空気導入ダクト45hは蓋体45bにボルト締め固定され、車両前方に向けて延びている。
上記が排出口45f,45gは上記樹脂製のケース本体45aに形成され、上記変速機ケース45とクランクケース22との間の空間aに向けて開口している。また上記各排出口45f,45gは、ケース本体45aの、クランク軸28と変速軸47とを結ぶ線Eより上側の領域のみに位置するように、つまり上記各排出口45f,45gの下縁が上記線Eより高所に位置するように、かつ、ケース本体45aのクランク軸挿通孔28′と変速軸挿通孔47′との間に位置するように形成されている。
さらにまた、上記変速機ケース45とクランクケース22との間の空間aを囲むように変速機ケース45の外周に沿って壁部100が形成されている。この壁部100は、図19に斜線を施した領域に形成されており、下部(斜線の施されていない領域)には開口100cが形成され、上記空間aはこの開口100cにより外部空間に向かって開放されている。
上記壁部100は、上記クランクケース22側に形成されたエンジン側壁部100aと、上記樹脂製のケース本体45a側に形成された変速機側壁部100bとを対向当接させることにより構成されている。
さらにまた上記開口100cは上記潤滑油室95の膨出部22bの上側に位置しており、該膨出部22bと変速機ケース45との間の空間bを介して外部に連通している。
本第2実施形態によれば、上記変速機ケース45に、空気を内部に導入する導入口45eと、空気を外部に排出する排出口45f,45gとを設けたので、変速機ケース45内部に空気を導入して該ケース内を積極的に冷却できる。また、上記排出口45f,45gを上記変速機ケース45とクランクケース22との間の空間aに向けて開口させので、排出される空気により上記空間aに溜まった熱を排除できるとともに、この空気によってもクランケース側からの熱の伝達を抑制できる。
また上記排出口45f,45gを、変速機ケース45のクランク軸と変速軸とを結ぶ線Eより上側領域のみに位置するように形成したので、変速機ケース45内に雨水等が進入するのを抑制できる。
また上記排出口45f,45gをそれぞれ変速機ケース45の駆動プーリ55,従動プーリ56の裏面に位置するように形成したので、変速機ケース内に導入された空気を熱の溜まり易いプーリ裏面を通るように流すことができ、変速機ケース45内の温度上昇をより確実に防止できる。
さらにまた上記変速機ケース45とクランクケース22との間の空間aの上部を覆う壁部100を形成し、該壁部100の下部に開口100cを形成したので、変速機ケース45とクランクケース22との間の空間aから変速機ケース45の上側領域に設けられた排出口45f,45gに雨水等が進入するのを確実に防止できる。
また上記壁部100うち一部を上記樹脂製のケース本体45aに一体形成することで樹脂製としたので、この壁部100を介してクランクケース側の熱が伝達されるのを抑制できる。
なお、上記第1実施形態(図1?図15)のものに、上記第2実施形態(図17?図18)で示した空気導入口45e,排出口45f,45gを設けることも可能であり、このようにした場合には変速機ケース45内の温度上昇をより一層確実に抑制できる。」(明細書第31ページ第5行?第33ページ第5行)
以上の記載事項及び図面からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「駆動プーリ55と、
従動プーリ56と、
前記駆動プーリ55と前記従動プーリ56とに巻回されているVベルト57であって、樹脂ブロック57aを有するVベルト57と、
前記駆動プーリ55、前記従動プーリ56、および前記Vベルト57を収納する室を区画形成する変速機ケース45と、を備え、
前記変速機ケース45は、空気を内部に導入する導入口45eと、空気を外部に排出する排出口45f,45gとを備え、排出口45f,45gは前記変速機ケース45とクランクケース22との間の空間aに向けて開口し、さらに、前記変速機ケース45とクランクケース22との間の空間aを囲むように変速機ケース45の外周に沿って形成された壁部100の下部には開口100cが形成され、開口100cは、クランクケース22の膨出部22bと変速機ケース45との間の空間bを介して外部に連通しているVベルト式無段変速機。」
(2-2)引用例2
特開平9-329216号公報(以下、「引用例2」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(か)「【0001】この発明は、乾式無段変速機の冷却構造に関するものである。」
(き)「【0009】このようにケース本体1の外側にカバー体11を覆設させて両者間で容積の大なる吸気通路Rを形成させることができ、この吸気通路Rの内周面には前述した如く吸音材13が配設されているため、前記吸気口12から外気が内部に吸入される際に発生する吸気音や連通口1dからの吐出音、及びカバー体11からの放射音が、吸音材13により良好に吸収されて消音効果を発揮することができるものである。また、前述した如く連通口1dの外周にも吸音材が嵌め込まれているため、この吸音材によっても消音効果が達成される。」
(く)「【0012】なお、ベルト室S内の外気を外部に排出するためにケース本体1には排気ダクト17が接続されており、この排気ダクト17は図6の斜視図で示すような構造に筒状に樹脂製で形成されたものであり、この排気ダクト17の内周面にも吸音材18が貼着されており、この吸音材18により排気音を良好に減少させることができるものとなっている。また、排気ダクト17の下流端の出口側にはメッシュ19が張設されており、このメッシュ19により排気ダクト17内へ外側からゴミとか砂等が侵入することが良好に防がれており、また、同時に排気ダクト17内の吸音材18が外側へ飛び出すことをこのメッシュ19により防いでおり、メッシュ19により吸音材18が外に飛び出すことはない。なお、排気ダクト17の上流端にはケース本体1に取り付けるためのボルト孔17bを有する取付部17aが一体形成されており、この取付部17a側にもメッシュ20を設けておけば、吸音材18のケース本体1内への侵入を防ぎ、また、ゴミ等の侵入をより良好に防ぐことができるものとなる。」
(3)対比
本願補正発明と引用例1発明とを比較すると、後者の「駆動プーリ55」は前者の「プライマリシーブ」に相当し、以下同様に、「従動プーリ56」は「セカンダリシーブ」に、「巻回されている」は「巻き掛けられた」に、「樹脂ブロック57aを有するVベルト57」は「樹脂ブロックベルト」に、「室」は「ベルト室」に、「Vベルト式無段変速機」は「ベルト式無段変速機」に、それぞれ相当する。
後者の「変速機ケース45」の「排出口45f,45g」が開口する「空間a」から「壁部100」の「開口100c」を通り、「空間bを介して外部に連通している」流路は、前者の「排気通路」に相当する。
したがって、本願補正発明の用語に倣って整理すると、両者は、
「プライマリシーブと、
セカンダリシーブと、
前記プライマリシーブと前記セカンダリシーブとに巻き掛けられた樹脂ブロックベルトと、
前記プライマリシーブ、前記セカンダリシーブ、および前記樹脂ブロックベルトを収納するベルト室を区画形成する変速機ケースと、を備え、
前記変速機ケースは、前記ベルト室に通じる排気通路を有しているベルト式無段変速機。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点]
本願補正発明の「前記変速機ケース」は、「前記ベルト室に通じる排気通路と、前記排気通路の外側コーナーの内壁部に配置された吸音材と、を有し」、「前記吸音材は、前記排気通路の前記吸音材よりも前記ベルト室側の部分の延びる方向と直交する吸音面を有する面材であって、前記吸音面と直交する断面の形状が長方形状の面材からなり、前記排気通路における前記吸音材と対向する内壁部には、吸音材が配置されていない」のに対し、
引用例1発明の「前記変速機ケース45」は、「空気を内部に導入する導入口45eと、空気を外部に排出する排出口45f,45gとを備え」、「排出口45f,45gは前記変速機ケース45とクランクケース22との間の空間aに向けて開口し、さらに、前記変速機ケース45とクランクケース22との間の空間aを囲むように変速機ケース45の外周に沿って壁部100が形成され、下部には開口100cが形成され、前記空間aはこの開口100cにより外部空間に向かって開放されている」ものであって、「吸音材」を備えていない点。
(4)判断
樹脂ブロックを有する樹脂製ベルトはゴム製に比べて騒音が発生し易いこと、吸音材によりその騒音を吸収し抑制できることは、例えば、特開2002-147582号公報(特に【0033】。該公報は、本願明細書の【0002】に背景技術として開示されているものである。)に示されているように周知であり、当業者にとって格別のことではない。その騒音の周波数等の特性は、エンジン回転数、車速等の運転状況により変わり得るが、運転状況に応じて相応に高い周波数の騒音が発生し得ることは明らかであり、また、一般に、音波等はその周波数が高いほど指向性・直進性が強くなることは技術常識である。したがって、騒音抑制の必要性や要求特性に応じて吸音材により騒音の吸収・抑制を図る場合、特に高周波数の騒音を吸収・抑制しようとすれば、騒音ないし空気流の進行方向に対して、ある角度をもって対向して吸音材を配置することが好適であることは明らかである。
このように、音ないし空気流の進行方向に対して、ある角度をもって対向して吸音材を配置することは、引用例2(特に【0009】、【0012】。図6では、排気ダクト17は屈曲している。)に示されているとともに、また、例えば、特開平8-38797号公報(特に図1の吸音材30)、特許第2892522号公報(特に図2、5の防音材(吸音材)7)、特開2007-3157号公報(特に図1の吸音材36、図10の吸音材3a等)、実願平2-63565号(実開平4-22645号)のマイクロフィルム(特に防音機能のあるプラグ28)に示されているように周知である。上記の引用例2(特に図6)、特開平8-38797号公報、特許第2892522号公報、特開2007-3157号公報の吸音材は、流路の屈曲部の外側内面に配置されており、それと対向する屈曲部の内側内面には配置されていない。
以上にかんがみると、引用例1発明における「変速機ケース45」の「排出口45f,45g」が開口する「空間a」から「壁部100」の「開口100c」を通り、「空間bを介して外部に連通している」流路は、空気が外部空間に排気される通路であり、該流路において、例えば、引用例1の図17の排気口45fが対向する第2クランク支持壁部41cの面、図18の空間aを画するクランクケースの面、図19の壁部100の下側の内面、図18の開口100cと対向する膨出部22bの面等に吸音材を配置することにより、上流側からの音ないし空気流の進行方向に対して、ある角度をもって対向して吸音材を配置するように構成することは、当業者にとって格別困難なことではない。その角度は、流路の形状・構造や所要の騒音吸収特性に応じて適宜設定し得る事項にすぎず、略直交するような角度が望ましいことは自明である。吸音材の断面形状は、引用例1の上記各図に示されている略平面状の部位に設ける場合、普通は長方形状となり、格別のものではない。以上のように構成したものは、実質的に、相違点に係る本願補正発明の上記事項を具備するといえる。
そして、本願補正発明の効果は、引用例1、2に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が予測し得たものであって、格別のものではない。
したがって、本願補正発明は、引用例1、2に記載された発明及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(5)むすび
本願補正発明について以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、本件補正における他の補正事項を検討するまでもなく、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

以上に関して、請求人は、審判請求の理由(「(3)本願発明と引用発明との対比」の欄)において、「本願発明によれば、吸音材を排気通路の内壁部の全体に配置する引用文献2の発明や、吸音対象の騒音の方向性を考慮していない周知例1?3と比べて、騒音を効果的に抑制できるので、吸音材の量を減らすことができる。したがって、従来と比べて、ベルト式無段変速機の部品点数の削減および組立性の向上等を図ることができるという効果を奏することができる。本願発明によれば、引用文献1?3および周知例1?3からは得られない格別な効果を得ることができる。」と主張する(引用文献1、2は本審決の引用例1、2であり、周知例1?3は、上記した周知事項を示す文献である。引用文献3は本審決では引用していない。)。
本願の請求項1には、「前記排気通路の外側コーナーの内壁部に配置された吸音材…を有し、前記吸音材は、…断面の形状が長方形状の面材からなり、前記排気通路における前記吸音材と対向する内壁部には、吸音材が配置されていない」と記載されており、したがって、特に、「前記吸音材と対向する内壁部」、すなわち、排気通路の内側コーナーの内壁部に吸音材が配置されていないことは特定されているが、コーナー以外の内壁面に吸音材が配置されるか否かについては特に記載がなく、必ずしも明確でないが、それはひとまず措くとして、特に高周波数の騒音を吸収・抑制しようとすれば、騒音ないし空気流の進行方向に対して、ある角度をもって対向して吸音材を配置することが好適であること、音ないし空気流の進行方向に対して、ある角度をもって対向して吸音材を配置することが周知であることは、上述したとおりである。また、上記の特開平8-38797号公報、特許第2892522号公報、特開2007-3157号公報の吸音材は、流路の屈曲部の外側内面に配置されており、それと対向する屈曲部の内側内面には配置されていない。吸音材の配置箇所や設置量は、「ベルト式無段変速機」の用途、常用回転数、使用環境等に応じた騒音低減の要求仕様・所要特性に応じて適宜設計する事項にすぎず、例えば、特に高周波数領域の騒音低減を企図して、それとの関連性が低いとみられる吸音材を単に取り除く、ないしは設けないという構成に格別の創意を要するとは認められない。

3.本願発明
平成24年5月9日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?11に係る発明は、平成23年9月20日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1は次のとおりである。
「【請求項1】
プライマリシーブと、
セカンダリシーブと、
前記プライマリシーブと前記セカンダリシーブとに巻き掛けられた樹脂ブロックベルトと、
前記プライマリシーブ、前記セカンダリシーブ、および前記樹脂ブロックベルトを収納するベルト室を区画形成する変速機ケースと、を備え、
前記変速機ケースは、前記ベルト室に通じる排気通路と、前記排気通路の外側コーナーの内壁部に配置された吸音材と、を有し、
前記排気通路における前記吸音材と対向する内壁部には、吸音材が配置されていないベルト式無段変速機。」(下線は省略した。)

3-1.本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」にという。)について
(1)本願発明1
本願発明1は上記のとおりである。
(2)引用例
引用例1、及び、その記載事項は上記2.に記載したとおりである。
(3)対比・判断
本願発明1は実質的に、上記2.で検討した本願補正発明から、その「前記吸音材は、前記排気通路の前記吸音材よりも前記ベルト室側の部分の延びる方向と直交する吸音面を有する面材であって、前記吸音面と直交する断面の形状が長方形状の面材からなり、」という事項を削除して拡張したものに相当する。
そうすると、本願発明1の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記2.に記載したとおり、引用例1、2に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1は、実質的に同様の理由により、引用例1、2に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)むすび
したがって、本願発明1は引用例1、2に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.結語
以上のとおり、本願発明1(本願の請求項1に係る発明)が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2?11に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-25 
結審通知日 2013-02-26 
審決日 2013-03-12 
出願番号 特願2007-16491(P2007-16491)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16H)
P 1 8・ 575- Z (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大内 俊彦  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 常盤 務
島田 信一
発明の名称 樹脂ブロックベルトを有するベルト式無段変速機およびそれを備えた自動二輪車  
代理人 後藤 高志  

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