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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H05B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1273251
審判番号 不服2011-15375  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-07-15 
確定日 2013-04-22 
事件の表示 特願2008-249205「有機発光素子」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 4月23日出願公開、特開2009- 88526〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成20年9月26日(パリ条約による優先権主張2007年9月28日、韓国)に出願したものであって、平成23年3月10日付けで拒絶査定がなされた。
本件は、これを不服として、同年7月15日に請求された拒絶査定不服審判であって、請求と同時に手続補正がなされ、その後、当審の平成24年6月22日付けの審尋に対して同年10月26日付けで回答書が提出されたものである。

2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1乃至9に係る発明は、平成23年7月15日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1乃至9に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
陽極と、
陰極と、
前記陽極と前記陰極との間に配置された有機多層と、を含み、
前記有機多層に対する内部電位分布のプロファイルが正の傾きを有して形成された区間と負の傾きを有して形成された区間を含む非線形で形成されており、
前記有機多層は前記陽極に順次に接する正孔注入層、正孔輸送層および発光層を含み、
前記正孔注入層に対する内部電位の分布が負の傾きに形成され、前記正孔輸送層に対する内部電位の分布が平坦に形成され、前記発光層に対する内部電位の分布が正の傾きと負の傾きに形成されることを特徴とする有機発光素子。
【請求項2】
前記プロファイルが波形で形成されたことを特徴とする請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項3】
前記有機多層は前記発光層に接する電子輸送層を含み、前記電子輸送層に対する内部電位の分布が正の傾きに形成されることを特徴とする請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項4】
前記有機多層は前記電子輸送層に接する電子注入層を含み、前記電子注入層に対する内部電位の分布が正の傾きに形成されることを特徴とする請求項3に記載の有機発光素子。
【請求項5】
前記有機多層は前記発光層に順次に接する電子輸送層および電子注入層を含み、前記電子輸送層に対する内部電位の分布が正の傾きに形成され、前記電子注入層に対する内部電位の分布が正の傾きに形成されることを特徴とする請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項6】
前記有機多層に対する内部電位値が相対値1.1eV以内に分布されたことを特徴とする請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項7】
前記正孔注入層に対する内部電位値が相対値0.3eV以内に分布されたことを特徴とする請求項5に記載の有機発光素子。
【請求項8】
前記電子輸送層に対する内部電位値が相対値0.3eV以内に分布されたことを特徴とする請求項5に記載の有機発光素子。
【請求項9】
請求項1による有機発光素子を含むことを特徴とする有機発光表示装置。」

3 原査定における拒絶理由
原査定(平成23年3月10日付けの拒絶査定)は、「この出願については、平成22年10月 8日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。」としたものである。
そして、平成22年10月 8日付け拒絶理由通知書に記載した特許法第36条第4項第1号の違反に関する理由は次の通りである。
「 理 由
この出願は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

36条第4項第1号違反について

本願の請求項1に係る発明は、「有機多層に対する内部電位分布のプロファイルが非線形で形成された」ことを発明特定事項とするものであるが、発明の詳細な説明には、IDE406を146.6nmの膜厚として正孔注入層を形成し、EL301を141.5nmの膜厚として正孔輸送層を形成し、ホストとしてBH232、ドーパントとしてBD142を用い、54.6nmの膜厚として発光層を形成し、L201を166.0nmの膜厚として電子輸送層を形成し、LiQを52.1nmの膜厚として電子注入層を形成した有機多層190に対する内部電位分布のプロファイルが非線形であったことが記載されているのみであり、有機多層を構成する各層の材料の具体的な化学式やそれらの成膜条件等が何ら示されていない。また、発明の詳細な説明に記載された比較例は、「有機発光素子の有機多層に対する内部電位分布のプロファイルが線状に構成された」としか記載されておらず、有機多層の各層の材料、膜厚、製造法法等の具体的構成が何ら記載されていない。さらに、発明の詳細な説明には、有機多層の材料、膜厚、成膜方法等の様々な条件の内、どのような条件が内部電位分布にどのような影響を与えるのか何ら記載されていない。
このように、本願の発明の詳細な説明の記載からは、出願時の技術常識を考慮しても、当業者がどのようにして有機多層に対する内部電位分布のプロファイルが非線形で形成された有機発光素子を作るのか理解できないので、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
また、同様に本願の発明の詳細な説明からは、有機多層に対する内部電位分布のプロファイルを波形で形成する方法や、前記プロファイルに正の傾きを有して形成された区間と負の傾きを有して形成された区間を含める方法等を理解することができないので、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項2?16に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。」

4 当審による審尋
また、平成24年6月22日付けの審尋における特許法第36条第4項第1号の違反に関するものは次の通りである。
「この審判事件については、審査官による審査(特許法第162条、前置審査)の結果、以下の《前置報告書の内容》のとおり、特許をすべき旨の査定ができない旨の報告(同法第164条第3項、前置報告書)が特許庁長官になされました。この審判事件の審理は、今後、この《前置報告書の内容》を踏まえて行うことになります。
この審尋(同法第134条第4項)は、この審判事件の審理を開始するにあたり、《前置報告書の内容》について、審判請求人の意見を事前に求めるものです。意見があれば回答してください。
・・(略)・・
(36条第4項第1号違反について)
平成22年10月8日付け拒絶理由通知書及び平成23年3月10日付け拒絶査定において指摘したように、本願の発明の詳細な説明には、有機多層を構成する各層の材料の具体的な化学式やそれらの成膜条件等が何ら示されておらず、有機多層の材料、膜厚、成膜方法等の様々な条件の内、どのような条件が内部電位分布にどのような影響を与えるのかについても何ら記載されていないので、本願の発明の詳細な説明の記載からは、出願時の技術常識を考慮しても、当業者がどのようにして有機多層に対する内部電位分布のプロファイルが非線形で形成された有機発光素子を作るのか理解できないので、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明、及び、請求項1を引用する請求項2?9に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとは認められない。
なお、出願人は平成23年9月1日付け手続補正書(方式)において、参考資料1(Mapping of dopant concentration in a GaAs semiconductor by off-axis phase-shifting electron holography)及び参考資料2(PHOTOELECTRON SPECTROSCOPIC STUDY OF ENERGY LEVEL ALIGNMENT AT C12A7:e- / Alq3 INTERFACES)では、各層における内部電位分布が非線形であることを開示している(例えば、参考文献1のFIG.2 (a)?(c)を参照)ので、出願時の技術常識を考慮すれば、当業者がどのようにして有機多層に対する内部電位分布のプロファイルを非線形に形成するかは理解できるはずであると主張し、また、補正によって、本願請求項1に係る発明は「前記有機多層は前記陽極に順次に接する正孔注入層、正孔輸送層および発光層を含み、前記正孔注入層に対する内部電位の分布が負の傾きに形成され、前記正孔輸送層に対する内部電位の分布が平坦に形成され、前記発光層に対する内部電位の分布が正の傾きと負の傾きに形成される」との特徴を備えたことにより、内部電位分布のプロファイルは実施可能な程度に明確になったと主張している。
しかしながら、参考文献1に記載されているのは、p-n-p接合を有するGaAs化合物半導体に対して、珪素と炭素をそれぞれn型ドーパント、p型ドーパントとしてドープした試料についてのエネルギーバンド図であり、参考文献2に記載されているのは、OLEDの陰極として12CaO・7Al2O3(C12A7:e^(-))を使用する際に、Alq3との界面における電子注入障壁を低減するために、C12A7:e^(-)の表面を真空アニーリング、Arプラズマ、UVオゾンクリーニングといった手法で処理することであり、本願明細書には、正孔注入層や発光層の内部電位分布を制御するための手法として、ドーパントをドープすることや層を表面処理することが記載も示唆もされていないので、出願人の上記主張を考慮しても、依然として当業者がどのようにして有機多層に対する内部電位分布のプロファイルが非線形で形成された有機発光素子を作るのか理解できるとは認められない。
したがって、この出願は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないため、当該補正後の請求項1?9に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができない。」

5 審判請求人の対応及び主張
上記の拒絶理由及び拒絶査定並びに平成24年6月26日付けの審尋に対して、審判請求人は、同年10月26日付けで提出された回答書において、次の主張をしている。

「参考資料1に記載の発明は、ドーパントのプロファイリング技術に関連しています。
参考資料1のFig.1を参照すると、半絶縁性のGaAs基板上に金属有機化学気相堆積によって成長されたn^(+)、n^(-)、及びpのドーパント濃度を有するpnp膜が開示されています。ドーパントとしてはシリコン及びカーボンが用いられており、ドーパント濃度はそれぞれ、n^(-)領域が1.3×10^(16)cm^(-3)であり、n^(+)領域が3.0×10^(18)cm^(-3)であり、p領域が1.0×10^(19)cm^(-3)となっております。
参考資料1のFig.2(a)には、13のホログラムから再構成されて得られた位相画像(phase image)が開示されており、n^(+)、n^(-)、及びpの領域に応じてドーパント濃度が異なっているので、位相画像の明暗も各領域に応じて異なっていることがわかります。
そして、参考資料1のFig.2(c)は、距離(横軸)に対するポテンシャルエネルギー(縦軸)をシミュレーションしたもので、ドーパント濃度に対応して内部電位が変化していることが理解できます。
さらに、参考資料1のFig.1(b)においては、p領域とn^(-)領域と間の境界及びn^(-)領域とn^(+)領域との間の境界において、位相が段階的に変化していることが開示されており、これに対応して、各境界付近におけるポテンシャルエネルギーも連続的に変化していることが図2(c)に開示されています。

従いまして、参考資料1ではドーパント濃度に対応して内部電位が変化することが開示されており、そのような開示内容に基づけば、有機多層における内部電位分布も、ドーパント等を利用して、ドーパント濃度を調整することによって非線形に変化させることは可能であると思料致します。」(「1.前置報告の内容に対する意見」「[1]特許法第36条第4項第1号の要件違反について」第21行?第43行)

6 本願の明細書の記載
本願の明細書の発明の詳細な説明及び図面には、以下の記載がある。
a 発明の詳細な説明の記載
「【0031】
図1は本発明の実施形態による有機発光表示装置20を示した部分断面図である。」
「【0040】
一方、薄膜トランジスター(T)を覆いながら、層間絶縁膜150の上に平坦化膜170が形成される。平坦化膜170の上には陽極の第1画素電極180、有機多層190および陰極の第2画素電極200が順次に形成されて有機発光素子(L)を構成する。
【0041】
第1画素電極180は平坦化膜170に具備されたビアホール1701を通して薄膜トランジスター(T)のドレイン電極162と電気的に連結される。第1画素電極180は画素定義膜191によって、隣接の画素の第1画素電極(図示せず)と電気的に分離されながら、画素定義膜191に具備された開口部1911を通して有機多層190と接触される。」
「【0043】
図2は本発明の実施形態による有機発光素子(L)を示した断面図である。図2を参照すると、有機発光素子(L)は前述した陽極180、陰極200およびこの陽極180と陰極200との間に介された有機多層190を含む。本実施形態において、陽極180はITOで、陰極200はMgAgで形成される。
【0044】
また、本実施形態における有機多層190は、陽極180から陰極200に順次に積層された正孔注入層(HIL)1902、正孔輸送層(HTL)1904、発光層(EML)1906、電子輸送層(ETL)1908および電子注入層(EIL)1910を含む
ことができる。もちろん、有機多層190の細部構成が必ずしも前記条件で行われなくてもよい。
【0045】
ここで各層は各々適正厚で形成されるが、本実施形態では下記の表のように各層の厚さ及び材料が設けられているが、これは一つの例示であり、本発明において有機多層190の各層が必ずしもその厚さ及び材料を満足しなくてもよい。
【表1】

【0046】
図3は本実施形態による有機多層190に対する内部電位分布を示したグラフである。図3の横軸は有機多層190の厚さ(nm)を、縦軸は有機多層190の内部電位(eV)を示している。便宜上、横軸は正孔注入層(HIL)1902側を開始点とし、各層の境界が分かるように示した(縦軸と平行な示した点線参照)。
【0047】
図3を参照すると、原点から横軸に沿って有機多層190の正孔注入層(HIL)1902、正孔輸送層(HTL)1904、発光層(EML)1906、電子輸送層(ETL)1908および電子注入層(EIL)1910が順に配置され、この時各層は次に規定される内部電位のプロファイルを有する。
【0048】
まず、陽極180に接する正孔注入層(HIL)1902は、内部電位のプロファイル分布が負の傾きに形成される。また、この正孔注入層(HIL)1902に接する正孔輸送層(HTL)1904は傾きが殆どない実質的に平坦な内部電位分布を有する。
【0049】
続いて、正孔輸送層(HTL)1904に接する発光層1906は、正の傾きと負の傾きが混合された内部電位のプロファイルを有する。次に発光層1906に接する電子輸送層(ETL)1908は正の傾きの内部電位プロファイルを有する。最後に電子輸送層(ETL)1908に接する電子注入層(EIL)1910は正の傾きの内部電位のプロファイルを有する。
【0050】
このような各層の内部電位プロファイルを総合して見ると、本実施形態による有機多層190は非線形、例えば波形の内部電位プロファイルを有して形成されることが分かる。
一方、本実施形態で有機多層190の内部電位値は、相対値基準に1.1eV以内となる。この時、有機多層190の各層は、内部電位値を適正範囲に維持するが、例えば、正孔注入層(HIL)1902は相対値0.3eV以内に、電子輸送層(ETL)1908も相対値0.3eV以内に内部電位分布差を維持できる。
【0051】
本実施形態における前記有機多層190の内部電位分布は、集束イオンビーム(Focus Ion Beam、FIB)設備を用いて、有機発光素子(L)に対する断面試料(この厚さは100?400nm)を準備した後、電子ホログラフィー(Electron Holography)で測定したものである。ここで集束イオンビーム設備は、透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)の分析用断面試料製作に活用される設備である。また、電子ホログラフィーは固体内部の電位分布変化によって変調された電磁波の情報を抽出して、薄膜に対する内部電位分布を得るようにするもので、これはBiprismが搭載された透過電子顕微鏡を用いる。より具体的に、電子ホログラフィーによって得られたホログラムからFourier法またはPhase-shift法を通して位相再生相(phase reconstruction image)を求めて、ここでLine profile法を通して有機多層内部の位相変化に対する値を測定した後に、これを下記の式を通して内部電位値に変換、これから有機多層に対する内部電位分布を評価することができる。
【0052】
【数1】
Ψ=CVt
【0053】
前記式において、Ψは位相変化(phase shift)、Cは透過電子顕微鏡に依存する定数、tは断面試料の厚さを意味する。
【0054】
前記のよう構成された有機発光素子(L)に対して光特性を測定した結果、比較例に比べて次のように光特性が向上されることが分かった。ここで光特性とは、有機発光素子(L)が実質的に有機発光表示装置のように一つの装置に適用された後、その単位面積当光度、つまりディスプレイの画面明るさである輝度を意味する。同時に、比較例は有機発光素子が本実施形態のような有機多層を含み、この有機多層に対する内部電位分布のプロファイルが本実施形態とは異なって線状に構成された場合である。
【表2】

【0055】
前記のように、本実施形態の有機発光素子は内部電位分布プロファイルが改善された有機多層によりその特性を向上できる。」
b 図面の記載
「【図3】



7 当審の判断
本願の請求項1に係る発明は、「正孔注入層に対する内部電位の分布が負の傾きに形成され、前記正孔輸送層に対する内部電位の分布が平坦に形成され、前記発光層に対する内部電位の分布が正の傾きと負の傾きに形成される」点を発明特定事項に含む有機発光素子の発明である。
この点に関し、本願の明細書には、【表1】に正孔注入層、正孔輸送層及び発光層の厚さ及び材料が記載されているものの、その成膜条件を含む成膜方法が何ら明細書に記載されていない。
また、本願の明細書の【表1】に記載された正孔注入層、正孔輸送層及び発光層の厚さ及び材料やその他の成膜条件のうち、如何なる条件が満たされれば、有機発光素子の「正孔注入層に対する内部電位の分布」を「負の傾きに形成」し、「正孔輸送層に対する内部電位の分布」を「平坦に形成」し、「発光層に対する内部電位の分布」を「正の傾きと負の傾きに形成」するのか、本件優先日当時の技術常識を考慮しても不明である。
さらに、本願の明細書に記載された実施形態と比較例との違いにおいても、「比較例は有機発光素子が本実施形態のような有機多層を含み、この有機多層に対する内部電位分布のプロファイルが本実施形態とは異なって線状に構成された場合である。」(【0054】)と記載されているだけであって、本願の請求項1に係る発明の実施形態と比較例とに如何なる製造方法の違いがあるのか記載されていない。
したがって、本願の明細書の発明の詳細な説明から、当業者が、如何に有機発光素子の「正孔注入層に対する内部電位の分布」を「負の傾きに形成」し、「正孔輸送層に対する内部電位の分布」を「平坦に形成」し、「発光層に対する内部電位の分布」を「正の傾きと負の傾きに形成」するのか理解できない。
よって、本願の明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
同様に、本願の明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項2乃至9に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
なお、審判請求人は、平成23年7月15日付けで提出された審判請求書において参考資料1を提出し、平成24年10月22日付けの回答書において、「参考資料1のFig.2(c)は、距離(横軸)に対するポテンシャルエネルギー(縦軸)をシミュレーションしたもので、ドーパント濃度に対応して内部電位が変化していることが理解できます。・・・・・従いまして、参考資料1ではドーパント濃度に対応して内部電位が変化することが開示されており、そのような開示内容に基づけば、有機多層における内部電位分布も、ドーパント等を利用して、ドーパント濃度を調整することによって非線形に変化させることは可能であると思料致します。」と主張している。
ところで、参考資料1に記載された技術は、各層のドーパントの種類及び濃度を異ならせることにより内部電位を変化させているものであるが、本願の明細書記載の実施形態は、【表1】に示されているとおり、ドーパントを含む層は発光層のみであって正孔注入層及び正孔輸送層にはドーパントが含まれていない。
また、参考資料1に記載された技術は、無機材料を用いた半導体に関するものであって、無機物質と有機物質とでは通常用いるドーピング材料もドーピング量も異なり、さらに、ドーピングによって必ずしも同様の特性が得られるとは限らない。
したがって、仮に参考資料1に記載された技術が本件優先日当時の技術常識であったとしても、本願の明細書記載の実施例において、【表1】に示されている厚さ及び材料で構成されている有機EL素子が、如何にして「正孔注入層に対する内部電位の分布」を「負の傾きに形成」し、「正孔輸送層に対する内部電位の分布」を「平坦に形成」し、「発光層に対する内部電位の分布」を「正の傾きと負の傾きに形成」するのか不明である。
よって、請求人の上記主張は採用することができない。

8 むすび
以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法36条4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-11-21 
結審通知日 2012-11-27 
審決日 2012-12-10 
出願番号 特願2008-249205(P2008-249205)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (H05B)
P 1 8・ 537- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 本田 博幸  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 土屋 知久
森林 克郎
発明の名称 有機発光素子  
代理人 渡邊 隆  
代理人 佐伯 義文  

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