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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16H 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16H |
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管理番号 | 1273263 |
審判番号 | 不服2012-15841 |
総通号数 | 162 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-06-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-08-14 |
確定日 | 2013-04-22 |
事件の表示 | 特願2008-161445「駒式ボールねじ」拒絶査定不服審判事件〔平成22年1月7日出願公開、特開2010-1970〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成20年6月20日の出願であって、平成24年5月9日付けで拒絶査定がなされ(発送日:同年5月18日)、これに対し、同年8月14日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、その審判の請求と同時に手続補正がなされたものである。 第2 平成24年8月14日付け手続補正についての補正却下の決定 〔補正却下の決定の結論〕 平成24年8月14日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 〔理由〕 1 本願補正発明 本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、補正前(平成24年4月6日付け手続補正)に、 「【請求項1】 外周面に螺旋状のねじ溝が形成されたねじ軸と、このねじ軸に外嵌され、内周面に螺旋状のねじ溝が形成されたナットと、対向する両ねじ溝により形成される転動路に収容された複数のボールと、前記ナットの胴部に穿設された断面円形状の駒窓に嵌合され、前記転動路を周回経路とする連結溝が形成された金属製の断面円形状の駒部材とを備えた自動車用途に使用される駒式ボールねじにおいて、 前記駒部材と駒窓との隙間を、0mm以上、0.1mm以下としたことを特徴とする駒式ボールねじ。」 とあったものを、 「【請求項1】 外周面に螺旋状のねじ溝が形成されたねじ軸と、このねじ軸に外嵌され、内周面に螺旋状のねじ溝が形成されたナットと、対向する両ねじ溝により形成される転動路に収容された複数のボールと、前記ナットの胴部に穿設された断面円形状の駒窓に嵌合され、前記転動路を周回経路とする連結溝が形成された金属製の断面円形状の駒部材とを備えた自動車用途に使用される駒式ボールねじにおいて、 前記駒部材がMIMあるいは焼結品の粉末金属体からなり、前記駒部材と駒窓との隙間を、0mm以上、0.1mm以下としたことを特徴とする駒式ボールねじ。」 と補正(下線は補正箇所を示すために審判請求人が付したものである。)するものである。 上記補正は、発明を特定するために必要な事項である「駒部材」について「MIMあるいは焼結品の粉末金属体からな」ると限定するものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定の規定に適合するか)否かについて検討する。 2 刊行物 (1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された特開2006-90436号公報(以下「刊行物1」という。)には、「駒式ボールねじ」に関して、図面と共に次の事項が記載されている。 ア 「【背景技術】 (省略) 【0004】 このような駒式ボールねじの代表的な一例を図4に示す。この駒式ボールねじにおいて、回転ナット50のナット本体50aは、駒部材嵌合用開口51が内外周面に貫通して設けられて、この駒部材嵌合用開口51に駒部材52が内径側から嵌め込まれる。 【0005】 駒部材52は、内ねじ溝53の隣り合う一周部分同士を連結する連結溝52aが形成され、回転ナット50の内ねじ溝53に係合してこの駒部材52をナット本体50aに対して軸方向に位置決めする一対のアーム54、54を一体に有している。これら一対のアーム54、54は、駒部材52の軸方向の両端に互いに円周方向逆向きに突出して設けられ、内ねじ溝53に嵌合する半円状の断面形状に形成されている。ここで、内ねじ溝53におけるアーム54が係合した部分は非ボール循環部となる。 【0006】 駒部材52における回転ナット50の周方向両側縁は、他の部分よりも外径面が凹む凹み部55とされ、これら凹み部55から外径側へ立ち上がる一対のガイド壁56が、駒部材52の周方向を向く側面に沿って設けられている。ナット本体50aの駒部材嵌合用開口51は、対向する一対の内側面における開口縁に係合段部57が設けられ、この係合段部57よりも開口側部分の幅が若干幅広に形成されている。 【0007】 駒部材52は、ナット本体50aの駒部材嵌合用開口51に内径側から嵌め込まれ、一対のアーム54が内ねじ溝53に嵌合すると共に、ガイド壁56を塑性変形させることによりナット本体50aに固定される。この塑性変形による固定は、ガイド壁56を駒部材嵌合用開口51の対向する一対の内側面に加締固定することにより行われる。具体的には、ガイド壁56を係合段部57に加締めて係合させることにより、駒部材52の固定の確実性を図っている。このようなアーム54付きの駒部材52は、アーム54により駒部材52の抜け止めと位置決めとがなされ、高精度で高強度の性能が得られると共に、簡単に、かつ確実に駒部材52の固定ができる。」 イ 「【発明が解決しようとする課題】 (省略) 【0009】 さらに、加締作業による固定時に駒部材52の位置が狂った場合はボール59が円滑に転動しなく、再組立を余儀なくされていた。図5は加締不具合時の状態を示す説明図であるが、加締作業によって駒部材52の倒れが発生し、繋ぎ部58、58のうち一箇所は、連結溝52aが内ねじ溝53から突出して負すきまとなり(図中右側)、他方は、連結溝52aが内ねじ溝53から凹んで正すきまとなっている(図中左側)。負すきま側の方は、循環路内はボール59が転動するすきま以下となっているため、ボール59は円滑に転動しなくなってしまう。 【0010】 したがって、ボール59が円滑に転動できるすきまを確保するには、正すきま状態にすれば良いが、ナット本体50aの内ねじ溝53と駒部材52の連結溝52aとの段差が大きくなると、内ねじ溝53の端部で異常摩耗を発生させたり、急激にすきまが変ることによってボール59の挙動が不安定になり、ボール59がロックする、所謂玉詰り現象が発生し易くなって好ましくない。この玉詰り現象によって駒部材52は荷重を受けることになり、連結溝52aの変形や加締固定部の弛みの原因となることがある。また、こうした繋ぎ部8の段差や玉詰りは、ボール59同士の衝突音や、ボール59が繋ぎ部58を通過する時、異常音や振動を発生させる要因となる恐れがあった。 【0011】 本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、駒部材の組立作業が簡単で、ボールの円滑な転動を許容して異常音や振動の発生を防止した駒式ボールねじを提供することを目的としている。」 ウ 「【実施例】 【0019】 以下、本発明の実施の形態を図面に基いて詳細に説明する。 図1は、本発明に係るボールねじの一実施形態を示し、(a)は平面図、(b)は縦断面図である。また、図2は循環部材となる駒部材の斜視図、図3は要部断面図である。 図1に示すように、ねじ軸1は螺旋状のねじ溝2が外周に形成され、このねじ軸1に外嵌されるナット3の内周にはねじ溝2に対応する螺旋状のねじ溝4が形成されている。そして、両ねじ溝2、4の間に多数のボール5が収容されている。 【0020】 (省略) 【0021】 円筒状のナット3の胴部には、内外の周面に貫通してねじ溝4の一部を切欠く楕円状の駒窓6が穿設され、この駒窓6に楕円状の駒部材7が嵌合されている。ここで、駒窓6と駒部材7との嵌合すきまは0.05?0.3mmに設定されている。駒部材7の内方には、ねじ溝4の隣合う1周分同士を連結する連結溝8が形成され、この連結溝8とねじ溝4の略1周の部分とでボール5の転動路を構成している。転動路内の内外のねじ溝2、4間に介在された多数のボール5はねじ溝2、4に沿って転動し、駒部材7の連結溝8に案内され、ねじ軸1のねじ山を乗り越えて隣接するねじ溝4に戻り、再びねじ溝2、4に沿って転動する。 【0022】 (省略) 【0023】 (省略) 【0024】 駒部材7は金属粉末を可塑状に調整し、射出成形機で成形される焼結合金からなる。この射出成形に際しては、まず、金属粉と、プラスチックおよびワックスからなるバインダとを混練機で混練し、その混練物をペレット状に造粒する。造粒したペレットは、射出成形機のホッパに供給し、金型内に加熱溶融状態で押し込むことにより成形される。前記金属粉としては、後に浸炭焼入が可能な材質が好ましく、例えば、C(炭素)が0.3wt%、Ni(ニッケル)が1?2wt%、残りがFe(鉄)からなるものとする。なお、駒部材7の材質はこれに限らず、例えば、PA(ポリアミド)66等の射出成形可能な熱可塑性樹脂によって形成しても良い。 【0025】 ボール5の組み込みは、ナット3の駒窓6に駒部材7をナット3の内径側から装着した後、ねじ軸1の軸端からナット3を当てがい、ボール5を両ねじ溝2、4間に順次挿入しながらナット3を回転させ、ナット3をねじ軸1に移動させることによって行う。これ以外にも、ナット3の駒窓6に駒部材7を装着した後、仮軸を用いてボール5を同様に挿入するようにしても良い。 【0026】 本実施形態では、図3に示すように、ナット3の駒窓6の外径側には座面11が形成され、駒部材7は、その環状溝10に装着されたOリング等からなる弾性部材12を介してナット3の座面11に対して弾性支持されている。駒部材7が弾性部材12によって径方向に位置決めされた時、駒部材7のアーム9とねじ溝4間に所定の径方向すきまを有するように設定されている。また、この時、ねじ溝4と駒部材7の連結溝8との段差はゼロか僅かに正すきまになるように設定されている。 【0027】 本発明に係る駒式ボールねじは、ナット3に穿設された駒窓6に駒部材7が遊嵌されると共に、駒部材7の外周面に形成された環状溝10に弾性部材12が装着され、ナット3の駒窓6に形成された座面11に対し、駒部材7が弾性部材12を介して弾性支持されているので、従来のように、加締により駒部材をナットに固定する必要がなく、また、加締固定によって駒部材の位置が狂うこともない。 【0028】 さらに、各部位の加工誤差を駒部材7に装着された弾性部材12の弾性変形によって吸収することができる。例えば、連結溝8がねじ溝4から突出して負すきまとなっても駒部材7は径方向に弾性変位し、ボール5が円滑に転動することができる。したがって、加工誤差による組立時の調整が不要となって組立作業が簡便化でき、作動性を向上させた低コストな駒式ボールねじを提供することができる。さらに、駒部材7が弾性支持されているので、ボール5が連結溝8とねじ溝4との繋ぎ部を通過する時に発生する異常音や振動を防止することができる。」 エ 「【産業上の利用可能性】 【0030】 本発明に係る駒式ボールねじは、放電加工機やタッピングセンター等の各種工作機械、あるいは自動車の電動パワーステアリングやアクチュエータ等に使用される駒式ボールねじに適用することができる。」 これらの記載事項及び図示内容を総合し、本願補正発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下「刊行物1に記載された発明」という。)が記載されている。 「外周面に螺旋状のねじ溝2が形成されたねじ軸1と、このねじ軸1に外嵌され、内周面に螺旋状のねじ溝4が形成されたナット3と、対向する両ねじ溝2、4により形成される転動路に収容された複数のボール5と、前記ナット3の胴部に穿設された楕円状の駒窓6に嵌合され、転動路内の内外のねじ溝2、4間に介在された多数のボール5をねじ軸1のねじ山を乗り越えて隣接するねじ溝4に戻し再びねじ溝2、4に沿って転動するように案内する連結溝8が形成された焼結合金からなる楕円状の駒部材7とを備えた自動車の電動パワーステアリングやアクチュエータ等に使用される駒式ボールねじにおいて、 前記駒部材7が金属粉末を可塑状に調整し、射出成形機で成形される焼結合金からなり、前記駒部材7と駒窓6との嵌合すきまを、0.05?0.3mmとした駒式ボールねじ。」 (2)同じく原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された特開2006-258136号公報(以下「刊行物2」という。)には、「ボールねじ」に関して、図面(特に、図1及び図2参照。)と共に次の事項が記載されている。 ア 「【0019】 円筒状のナット3の胴部には、内外の周面に貫通してねじ溝3aの一部を切欠く円形状の駒窓6が穿設され、この駒窓6に円形状の駒部材5が嵌合されている。駒部材5の内方には、ねじ溝3aの隣合う1周分同士を連結する連結溝5aが形成され、この連結溝5aとねじ溝3aの略1周の部分とでボール4の転動路を構成している。転動路内の内外のねじ溝2a、3a間に介在された多数のボール4はねじ溝2a、3aに沿って転動し、駒部材5の連結溝5aに案内され、ねじ軸1のねじ山を乗り越えて隣接するねじ溝3aに戻り、再びねじ溝2a、3aに沿って転動する。」 イ 「【0023】 駒部材5は金属粉末を可塑状に調整し、射出成形機で成形される焼結合金からなる。この射出成形に際しては、まず、金属粉と、プラスチックおよびワックスからなるバインダとを混練機で混練し、その混練物をペレット状に造粒する。造粒したペレットは、射出成形機のホッパに供給し、金型内に加熱溶融状態で押し込む、所謂MIM(Metal Injection Molding)により成形されている。こうしたMIMによって成形される焼結合金であれば、加工度が高く複雑な形状であっても容易に、かつ精度良く所望の形状・寸法に成形することができる。」 (3)また、本願の出願前に頒布された特開2007-154932号公報(以下「刊行物3」という。)には、「駒式ボールねじ」に関して、図面(特に、図1ないし図3参照。)と共に次の事項が記載されている。 ア 「【0021】 円筒状のナット3の胴部には、内外の周面に貫通してねじ溝3aの一部を切欠く断面略円形の駒窓6が穿設され、この駒窓6に対応して断面略円形の駒部材5が嵌合されている。駒部材5の内方には、ねじ溝3aの隣合う1周分同士を連結する連結溝5aが形成され、この連結溝5aとねじ溝3aの略1周の部分とでボール4の転動路を構成している。転動路内の内外のねじ溝2a、3a間に介在された多数のボール4は、ねじ溝2a、3aに沿って転動し、そして、駒部材5の連結溝5aに案内され、ねじ軸2のねじ山を乗り越えて隣接するねじ溝3aに戻り、再びねじ溝2a、3aに沿って転動する。」 イ 「【0025】 駒部材5は金属粉末を可塑状に調整し、射出成形機で成形される焼結合金からなる。この射出成形に際しては、まず、金属粉と、プラスチックおよびワックスからなるバインダとを混練機で混練し、その混練物をペレット状に造粒する。造粒したペレットは、射出成形機のホッパに供給し、金型内に加熱溶融状態で押し込む、所謂MIM(Metal Injection Molding)により成形されている。こうしたMIMによって成形される焼結合金であれば、加工度が高く複雑な形状であっても容易に、かつ精度良く所望の形状・寸法に成形することができる。」 3 対比 本願補正発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は「駒式ボールねじ」に関するもので、後者の「ねじ軸1」は前者の「ねじ軸」に相当し、以下同様に、「ねじ溝2」はねじ軸の「ねじ溝」に、「ナット3」は「ナット」に、「ねじ溝4」はナットの「ねじ溝」に、「両ねじ溝2、4」は「両ねじ溝」に、「ボール5」は「ボール」に、「駒窓6」は「駒窓」に、「転動路内の内外のねじ溝2、4間に介在された多数のボール5をねじ軸1のねじ山を乗り越えて隣接するねじ溝4に戻し再びねじ溝2、4に沿って転動するように案内する」ことはその作用からみて「前記転動路を周回経路とする」に、「連結溝8」は「連結溝」に、「焼結合金からなる」ことは「金属製」に、「駒部材7」は「駒部材」に、「自動車の電動パワーステアリングやアクチュエータ等に使用される」ことは「自動車用途に使用される」ことに、駒部材7が「金属粉末を可塑状に調整し、射出成形機で成形される焼結合金からな」ることは駒部材が「MIMあるいは焼結品の粉末金属体からな」ることにそれぞれ相当する。 また、後者の「嵌合すきま」は前者の「隙間」に相当し、後者の「0.05?0.3mm」と前者の「0mm以上、0.1mm以下」とは、「0.05mm以上、0.1mm以下」という数値範囲において重複一致する。 したがって、両者は、 「外周面に螺旋状のねじ溝が形成されたねじ軸と、このねじ軸に外嵌され、内周面に螺旋状のねじ溝が形成されたナットと、対向する両ねじ溝により形成される転動路に収容された複数のボールと、前記ナットの胴部に穿設された駒窓に嵌合され、前記転動路を周回経路とする連結溝が形成された金属製の駒部材とを備えた自動車用途に使用される駒式ボールねじにおいて、 前記駒部材がMIMあるいは焼結品の粉末金属体からなり、前記駒部材と駒窓との隙間を、0.05mm以上、0.1mm以下とした駒式ボールねじ。」 である点で一致し、以下の点で相違している。 〔相違点1〕 本願補正発明は、「断面円形状」の駒窓に嵌合する「断面円形状」の駒部材であるのに対し、刊行物1に記載された発明は、「楕円状」の駒窓6に嵌合する「楕円状」の駒部材7である点。 〔相違点2〕 隙間の数値範囲に関して、本願補正発明は、「0mm以上、0.1mm以下」であるのに対し、刊行物1に記載された発明は、「0.05?0.3mm」である点。 4 当審の判断 そこで、各相違点を検討する。 (1)相違点1 本願の出願前に、駒式ボールねじにおいて、ナットの断面円形状の駒窓に断面円形状の駒部材を嵌合することは、周知技術(例えば、刊行物2の上記2(2)アの段落【0019】、刊行物3の上記2(3)アの段落【0021】参照。)である。 そうすると、刊行物1に記載された発明の、楕円状の駒窓6に嵌合する楕円状の駒部材7という構成を、「『断面円形状』の駒窓に嵌合する『断面円形状』の駒部材」とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 (2)相違点2 刊行物1には、従来の駒式ボールねじにおいてナット本体50aの駒部材嵌合用開口51に嵌合する駒部材52を加締めて固定する際に、加締作業によって駒部材52の倒れが発生するという技術的課題が在ることが記載されている。そして、このような駒部材52の倒れが、駒窓6と駒部材7との嵌合すきまの大きさに起因することは、当業者において容易に理解できることである。 また、刊行物1に記載された発明の駒部材7は、金属粉とプラスチックおよびワックスからなるバインダとを混練機で混練し、その混練物をペレット状に造粒し、造粒したペレットを射出成形機のホッパに供給して金型内に加熱溶融状態で押し込むことにより成形されるもので(上記2(1)ウの段落【0024】)、このような製造方法は、所謂MIM(Metal Injection Molding)と称され、こうしたMIMによって成形される焼結合金は、加工度が高く複雑な形状であっても容易にかつ精度良く所望の形状・寸法に成形することができることが知られている(刊行物2の上記2(2)イの段落【0023】、刊行物3の上記2(3)イの段落【0025】参照。)。 そうすると、駒部材の倒れという技術的課題を解決するために、駒部材をMIMを用いて製造する際に、駒部材と駒窓との隙間を最小化することは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。 そして、本願補正発明が当該隙間を「0mm以上、0.1mm以下」とすることによって「駒部材の駒窓内での動きを極力小さく規制することができ、駒部材の駒窓への固定強度を向上させることができる」(本願明細書の【発明の効果】の欄の段落【0013】)という効果を奏することは、当業者が予測できたものである。 そうしてみると、刊行物1に記載された発明において、駒部材と駒窓との隙間を「0mm以上、0.1mm以下」とすることは、当業者が容易になし得たことである。 そして、全体としてみても、本願補正発明が奏する効果は、刊行物1に記載された発明及び前記周知技術から、当業者が予測できる範囲内のものであって、格別なものでない。 したがって、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明及び前記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 5 むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明 1 本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成24年4月6日付けの手続補正書の請求項1ないし6に記載された事項により特定されたとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2〔理由〕1」に補正前の請求項1として記載したとおりのものである。 2 刊行物 原査定の拒絶の理由に引用した刊行物、その記載事項、及び刊行物に記載された発明は、前記「第2〔理由〕2」に記載したとおりである。 3 対比及び当審の判断 本願発明は、前記「第2〔理由〕」で検討した本願補正発明において、「駒部材」についての「MIMあるいは焼結品の粉末金属体からな」るとの限定を省いたものである。 そうしてみると、本願発明の発明特定事項をすべて含んだものに実質的に相当する本願補正発明が、前記「第2〔理由〕3及び4」に記載したとおり、刊行物1に記載された発明及び前記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、刊行物1に記載された発明及び前記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるである。 4 むすび 以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び前記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-02-13 |
結審通知日 | 2013-02-21 |
審決日 | 2013-03-06 |
出願番号 | 特願2008-161445(P2008-161445) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F16H)
P 1 8・ 575- Z (F16H) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 高吉 統久 |
特許庁審判長 |
森川 元嗣 |
特許庁審判官 |
冨岡 和人 常盤 務 |
発明の名称 | 駒式ボールねじ |
代理人 | 越川 隆夫 |