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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63B |
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管理番号 | 1273283 |
審判番号 | 不服2011-10682 |
総通号数 | 162 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-06-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-05-23 |
確定日 | 2013-04-24 |
事件の表示 | 特願2006-230115「高度に中和した酸ポリマーおよびそのゴルフボールへの使用」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 4月12日出願公開、特開2007- 90048〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は、平成18年8月28日の出願(パリ条約による優先権主張 2005年8月31日 米国)であって、平成18年11月2日、平成21年10月20日、平成22年5月14日付けで手続補正がなされ、平成23年2月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年5月23日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正がなされ、当審において、平成24年5月8日付けで拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)の通知がなされ、同年11月9日付けで手続補正がなされたものである。 2 本願発明の認定 本願の請求項1ないし9に係る発明は、平成24年11月9日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9にそれぞれ記載された事項によって特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成24年11月9日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲及び明細書の記載からみて、次のとおりのものであると認める。 「センタおよびカバーを有するゴルフボールの製造方法において、 全ポリマーの100重量部を基準にして少なくとも50重量部の、α,β-エチレン系の不飽和のモノカルボン酸またはジカルボン酸のホモポリマーおよびコポリマーからなるグループから選択された酸基を有する酸ポリマーであって、上記酸基の少なくとも70%が中和されているものと、全ポリマーの100重量部を基準にして少なくとも0.5重量部の、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコール、それらのコポリマー、およびそれらのブレンドからなるグループから選択された多価アルコールとを有するポリマー組成物を準備するステップと、 上記ポリマー組成物から上記センタを製造するステップとを有し、 上記ポリマー組成物中の脂肪酸またはその塩は全ポリマーの100重量部を基準にして0.5重量部以下であることを特徴とするゴルフボールの製造方法。」 3 引用刊行物及び引用発明 当審拒絶理由に引用された「本願の優先日前に頒布された刊行物である特表2003-512495号公報(以下「引用例」という。)」には、図とともに以下の(1)ないし(3)の事項が記載されている。 (1)「【0002】 (発明の分野) 本発明は、溶融加工が可能な、高度に中和した、エチレンとC_(3)からC_(8)のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸とのコポリマーおよびそれらを製造する方法に関する。それは、90%より多くが中和されているコポリマー、特に、ほぼ100%までまたは100%まで中和されているものに関する。これらのコポリマーは、十分な量の特定の有機酸(または、その塩)を高度に中和する前にコポリマーに組み込むことによって製造する。 【0003】 本発明は、特に、(1)軟化モノマーの添加または他の手段によってその結晶性を壊してあるエチレンとC_(3)からC_(8)のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸のコポリマー、および(2)エチレンの結晶性を実質的または完全に抑制する能力のために選択された有機酸(または、その塩)等の十分な量の不揮発性、非移行性の薬品を含む溶融加工が可能な、高度に中和した(90%より上)ポリマーに関する。有機酸(または、その塩)以外の薬品を使用することもできる。 【0004】 また、本発明は、球に成形したとき、少なくとも0.785の反発係数(熱可塑性物質の球を125フィート/秒(約38.1m/秒)の初期速度で、初期速度とはね返りの速度を測定する点から3フィート(約0.91m)の位置にあるスチールの壁に向かって発射し、はね返りの速度を初期速度で割ることによって測定する)と100以下のAtti圧縮を有する熱可塑性物質に関する。 【0005】 これらのコポリマーは、ゴルフボールの構成部分、すべり止めをつけた履物用の熱可塑性靴底、スポーツ用品向け弾性発泡体等の成形物を製造するために有用である。それらは、特に、ワンピース、ツーピース、スリーピースおよび多層ゴルフボールの製造に有用である。本発明は、特に、125フィート/秒(約38.1m/秒)で計ったときに少なくとも0.785の反発係数と100以下のAtti圧縮を有する球状構成部分(芯、中心部分、ワンピースのボール)に関する。」 (2)「【0006】 (関連技術の説明) 標準的な高級ゴルフボールには、スリーピースボール、ツーピースボール、多層ボールが含まれる。「スリーピース」ボールは、一般に、球状の成形した中心部、その中心部に巻きつけたエラストマーの糸状材料、および、熱可塑性または熱硬化性のいずれかのカバーを有する。「ツーピース」ボールは、一般に、熱可塑性材料でおおった球状の成形した芯を有する。「多層」ボールは、一般に、球状の成形した芯および芯とカバーの間に1つまたは複数の中間層または外被を有する。 【0007】 スリーピースの中心部、および、ツーピースおよび多層の芯は、従来からポリブタジエンゴム等の熱硬化性ゴムを使用して製造している。熱硬化性ゴムでは、芯および中心部を製造するためには、複雑な多重ステップの工程が必要であり、スクラップを再生利用することができない。熱硬化性を熱可塑性に置換してこれらの難点を解決しようとする試みは成功の限界があった。また、ワンピースの高級ボールを製造しようとする試みも不成功のままである。米国特許第5,155,157号、英国特許出願2,164,342A号、および国際公開WO92/12206号を参照されたい。これらの参照に基づいて製造した、ボール、芯、および、中心部は、コストが高く、それらを高級ボールに使用するには、耐久性、柔軟性(低いAtti圧縮)、弾性等の特性が不足している。 【0008】 長期間にわたってゴルフボールの構成部分およびその他の用途に有用性が見出されている1つの熱可塑性物質は、α-オレフィンのコポリマー、特に、エチレンとC_(3)?_(8)のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸のコポリマーのイオノマーである。米国特許第3,264,272号(Rees)は、そのようなイオノマーを酸の「直接型」コポリマーから製造する方法を教示している。「直接型」コポリマーとは、全部のモノマーを同時に加えて重合するポリマーであり、しばしば後の遊離基反応によって既存のポリマーに別のモノマーをグラフトさせるグラフトコポリマーとは異なる。イオノマーのもとになる酸コポリマーの調製方法は、米国特許第4,351,931号に記載されている。 【0009】 酸コポリマーは、ポリマーの結晶性を壊す第3の「軟化」モノマーを含有することができる。α-オレフィンがエチレンのとき、これら酸コポリマーは、E/X/Yコポリマーとして記すことができ、Eはエチレンであり、Xはα,β-エチレン性不飽和カルボン酸、特に、アクリル酸およびメタクリル酸であり、Yは軟化コモノマーである。好ましい軟化コモノマーは、アクリル酸またはメタクリル酸のC_(1)?C_(8)アルキルエステルである。XおよびYは、広範な百分率で存在することができ、Xは、一般に、ポリマーの約35質量パーセント(質量%)まで、Yは、一般に、ポリマーの約50質量パーセントまでである。 【0010】 酸コポリマーの酸部分を中和するための広範なカチオンが知られている。中和の度合いは、広範に変化することが知られている。一般的なカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、鉛、スズ、亜鉛、アルミニウム、およびこれらの組合せが挙げられる。100%までを含む90%以上までの中和が知られているが、そのような高度の中和は、溶融加工性、または、伸び、靭性等の特性の低下をもたらす。これは、酸レベルの高いコポリマーを中和するためにバリウム、鉛、スズ以外のカチオンを使用するとき特にそうである。 【0011】 (発明の概要) 本発明の熱可塑性組成物は、直径が1.50から1.54インチ(約3.81から3.91cm)である球に成形し、その球を125フィート/秒(約38.1m/秒)の初期速度で、初期速度とはね返りの速度を測定する点から3フィート(約0.91m)の位置にあるスチール板に向かって発射し、はね返りの速度を初期速度で割ることによって測定する反発係数(COR)と、100以下のAtti圧縮を有するポリマーを含む。 【0012】 本発明の熱可塑性組成物は、好ましくは、(a)36個未満の炭素原子を有する脂肪族の一官能性有機酸(1種または複数種)と、(b)エチレンとC_(3)からC_(8)のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸のコポリマー(1種または複数種)およびそのイオノマー(1種または複数種)とを含み、(a)および(b)の酸全体の90%より多くが、好ましくはほぼ100%が、より好ましくは100%が中和されている。 【0013】 その熱可塑性組成物は、好ましくは、(1)軟化モノマーの添加または高い酸レベル等の他の手段によってその結晶性を壊してある、エチレンとC_(3)からC_(8)のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸のコポリマーと、(2)残留するエチレンの結晶性を実質的または完全に抑制する能力のために選択された有機酸(または、その塩)等の不揮発性、非移行性の薬品との、溶融加工が可能で、高度に中和してある(90%より多く、好ましくはほぼ100%であり、より好ましくは100%である)ポリマーを含む。有機酸(または、その塩)以外の薬品を使用することもできる。 【0014】 酸コポリマーまたはイオノマーを十分な量の特定の有機酸(またはその塩)で変性することによって、加工性または伸びおよび靭性等の特性を失うことなく酸コポリマーを高度に中和することが可能であることが見出された。本発明で採用される有機酸は、脂肪族の一官能性飽和または不飽和有機酸、特に、36個未満の炭素原子を有するもので、特に、不揮発性、非移行性であり、イオン配列可塑化特性およびエチレンの結晶性を抑制する特性を発揮するものである。 【0015】 十分な有機酸の添加によって、イオノマーを作製する酸コポリマー中の酸部分の90%より多く、ほぼ100%、好ましくは100%を、加工性、および、伸びおよび靭性等の特性を失うことなく中和することができる。 【0016】 この溶融加工可能な高度に中和してある酸コポリマーのイオノマーは、 (a)(1)エチレンα,β-エチレン性不飽和C_(3)?_(8)カルボン酸コポリマー(1種または複数種)または溶融加工可能なそのイオノマー(1種または複数種)(扱いにくくなる、すなわち、溶融加工できなくなるレベルまでは中和していないイオノマー)を(1)1種または複数種の36個未満の炭素原子を有する脂肪族の一官能性の飽和もしくは不飽和有機酸またはその有機酸の塩と溶融ブレンドし、それから、同時にまたは引き続いて、 (b)十分量のカチオン源を加えて中和のレベルを酸部分の全体(酸コポリマー中および有機酸中のものを含む)の90%より多く、好ましくはほぼ100%まで、より好ましくは100%まで増加することにより生成させることができる。 【0017】 好ましくは、本発明の高度に中和してある熱可塑性物質は、 (a)(1)エチレンα,β-エチレン性不飽和C_(3)?_(8)カルボン酸コポリマー(1種または複数種)または軟化モノマーの添加または他の手段によってその結晶性を壊してある溶融加工可能なそのイオノマー(1種または複数種)を(2)エチレンの残留する結晶性を実質的に除去するために十分な不揮発性、非移行性薬品と溶融ブレンドし、それから、同時にまたは引き続いて、 (b)十分量のカチオン源を加えて中和のレベルを酸部分の全体(酸コポリマー中、および、不揮発性、非移行性薬品が有機酸である場合は有機酸中のものを含む)の90%より多く、好ましくはほぼ100%まで、より好ましくは100%まで増加することにより生成させることができる。 【0018】 (発明の詳細な説明) 本開示において、「コポリマー」という語は、2つ以上のモノマーを含有するポリマーを指して使用する。「さまざまなモノマーのコポリマー」という句は、その単位がさまざまなモノマーから誘導されているコポリマーを意味する。「本質的に・・・からなる」とは、列挙した成分が本質的なものであって、その他の少量成分が本発明の実施性能を減じない範囲で存在していてもよいことを意味する。「(メタ)アクリル酸」という語は、メタクリル酸および/またはアクリル酸を意味する。同様に、「(メタ)アクリル酸エステル」という語は、メタクリル酸エステルおよび/またはアクリル酸エステルを意味する。 【0019】 本明細書を通して関係する全ての参考文献は、関連技術の説明の項のものおよび本件が優先権を主張するものを含めて、全体を示すものとして、参照により本明細書に組み込む。 【0020】 酸コポリマー 本発明でイオノマーを製造するために使用する酸コポリマーは、好ましくは、「直接型」酸コポリマーである。それらは、好ましくは、α-オレフィン、特に、エチレンと、C_(3)?_(8)のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸、特に、アクリル酸およびメタクリル酸とのコポリマーである。それらは、任意で、第3の軟化モノマーを含有していてもよい。「軟化」とは、結晶性を壊す(ポリマーの結晶性を減少させる)ことを意味する。適当な「軟化」コモノマーは、アクリル酸アルキルおよびメタクリル酸アルキルから選択され、アルキル基が1?8の炭素原子を有するものである。 【0021】 α-オレフィンがエチレンのとき、酸コポリマーは、E/X/Yコポリマーとして記すことができ、Eはエチレンであり、Xはα,β-エチレン性不飽和カルボン酸であり、Yは軟化コモノマーである。Xは、好ましくは、ポリマーの3?30(好ましくは、4?25、最も好ましくは、5?20)質量%で存在し、Yは、好ましくは、ポリマーの0?30(あるいは3?25または10?23)質量%で存在する。 【0022】 高レベルの酸(X)を有するエチレン-酸コポリマーは、モノマーとポリマーの相分離のために連続重合器で調製するのは困難である。しかしながら、この困難は、米国特許第5,028,674号に記載されている「共溶媒技法」の使用、または、低い酸を有するコポリマーを調製することのできる圧力より幾分高い圧力を採用することによって回避することができる。 【0023】 特定の酸コポリマーとしては、エチレン/(メタ)アクリル酸コポリマーがある。それらは、また、エチレン/(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸n-ブチル、エチレン/(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸イソブチル、エチレン/(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸メチル、エチレン/(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エチルのターポリマーも含む。 【0024】 イオノマー 本発明で使用する未変性の融解加工可能なイオノマーは、「イオノマー調製技術分野で知られる方法による酸コポリマー」の表題のもとで上に記した(関連技術の説明の項を参照されたい)酸コポリマーから調製される。それらは、部分中和した酸コポリマー、特に、エチレン/(メタ)アクリル酸コポリマーを含む。未変性イオノマーは、有用な物理的性質を持たない、扱いにくくなる(溶融加工できない)ようなポリマーとならないレベルまで中和することができる。好ましくは、酸コポリマーの酸部分の約15%から約80%、好ましくは、約50%から約75%をアルカリ金属カチオンまたはアルカリ土類金属カチオンによって中和する。高い酸濃度を(たとえば、15質量%を超えて)有する酸コポリマーには、中和百分率を低くして溶融加工性を保持しなければならない。 【0025】 未変性イオノマーの製造で有用なカチオンは、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、または、亜鉛、またはそれらカチオンの組合せである。 【0026】 有機酸およびその塩 本発明で採用される有機酸は、脂肪族一官能性(飽和、不飽和、または、多不飽和)有機酸で、特に、36個未満の炭素原子を有するものである。また、これら有機酸の塩も採用することができる。その塩は、特に、有機酸の、バリウム塩、リチウム塩、ナトリウム塩、亜鉛塩、ビスマス塩、カリウム塩、ストロンチウム塩、マグネシウム塩、またはカルシウム塩を含む広範囲のさまざまなもののいずれでもよい。 【0027】 有機酸(およびその塩)が、酸コポリマーまたはイオノマーと溶融ブレンドするとき揮発性が低いことは有用かもしれないが、そのブレンドを高いレベルまで、特に、ほぼ100%までまたは100%で中和するときは揮発性は制限とならないことが見出されている。100%中和(コポリマーおよび有機酸の酸全体を中和)においては、揮発性はもはや問題ではない。そのようなわけで、炭素含量の低い有機酸を使用することができる。しかしながら、有機酸(またはその塩)は、不揮発性、非移行性であることが好ましい。それらは、イオン配列を効果的に可塑化し、かつ/または、エチレンの結晶性をエチレンとC_(3)?_(8)α,β-エチレン性不飽和カルボン酸のコポリマーまたはそのイオノマーから除去する薬品であることが好ましい。不揮発性とは、その薬品を酸コポリマーと溶融ブレンドする温度でそれらが揮発しないことを意味する。非移行性とは、その薬品が通常の保存条件(周囲温度)のもとでポリマー表面に移動してこないことを意味する。特に有用な有機酸としては、C_(4)からC_(36)未満(例えばC_(34))、C_(6)からC_(26)、特にC_(6)からC_(18)、特にC_(6)からC_(12)の有機酸が挙げられる。本発明で有用な個別の有機酸としては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、エルカ酸、オレイン酸、リノール酸等が挙げられる。 【0028】 充填剤 本発明の任意の成分である充填剤は、前記成分のブレンドに付加的な密度を与えるために選択するが、その選択は、以下でより十分に詳述するように所望のゴルフボールのタイプ(すなわち、ワンピース、ツーピース、スリーピースまたは中間層)に依存する。通常、充填剤は、約4グラム/立法センチメートル(gm/cc)より大きく、好ましくは、5gm/ccより大きい密度を有する無機物であって、組成物の全重量を基準として0と約60質量%の間の量で存在させる。有用な充填材の例としては、酸化亜鉛、硫酸バリウム、ケイ酸鉛と炭化タングステン、酸化スズ、ならびにその他周知のそれらの相当する塩および酸化物が挙げられる。充填剤材料は、非反応性または殆ど非反応性であり、顕著に、硬直させたり圧縮を上げたりまたは反発係数を減少させたりしないことが好ましい。 【0029】 その他の成分 本発明の実施において有用な任意の追加的添加剤としては、充填剤材料(たとえば、ZnO)とエチレンコポリマー中の酸部分との間の反応を防ぐ助けとなる酸コポリマーワックス(たとえば、数平均分子量2,040を有するエチレン/16?18%アクリル酸コポリマーと思われるアライドワックス(Allied wax)AC143)がある。他に任意の添加剤としては、白色化剤として使用するTiO_(2)、任意の光沢剤、界面活性剤、加工助剤、その他がある。」 (3)「【0030】 柔軟で高CORの熱可塑性物質 本発明は、柔軟で弾性のある熱可塑性ポリマー(「柔軟で高CORの熱可塑性物質」)に関する。この柔軟で高CORの熱可塑性物質は、直径が1.50から1.54インチ(約3.81から3.91cm)である球を形成したとき、その球を125フィート/秒(約38.1m/秒)の初期速度で、初期速度を測定する点から3フィート(約0.91m)の位置にあるスチール板に向かって発射し、板からのはね返りの速度を初期速度で割ることによって測定すると、少なくとも0.785の反発係数、および100以下のAtti圧縮を有する。本発明は、さらに、0.790、0.795、0.800、0.805、0.810、0.815、0.820、0.825、0.830、0.835のCORおよび95、90、85、80、75およびそれ以下の優れたAtti圧縮を有する柔軟で高CORの熱可塑性物質に関する。 【0031】 これらの柔軟で高CORの熱可塑性物質は、好ましくは、(a)上記の酸コポリマーまたは溶融加工可能なイオノマーと、(b)上記の1種または複数種の脂肪族一官能性有機酸またはその塩とを溶融ブレンドしたものであって、(a)および(b)の全体の酸の90%より多くを中和してある組成物である。好ましくは、(a)および(b)の酸全体のほぼ100%、または酸全体の100%をカチオン源で中和する。好ましくは、(a)および(b)の酸全体の100%を中和するために必要な量より多いカチオン源を(a)および(b)の酸を中和するために使用する。 【0032】 好ましくは、酸コポリマーは、E/X/Yコポリマーであり、ここで、Eはエチレンであり、Xはα,β-エチレン性不飽和カルボン酸であり、Yは軟化コモノマーである。Xは、好ましくは、ポリマーの3?30(好ましくは、4?25、最も好ましくは、5?20)質量%で存在し、Yは、好ましくは、ポリマーの0?30(それぞれ3?25および10?23)質量%で存在する。有機酸は、好ましくは、不揮発性、非移行性であり、イオン配列を効果的に可塑化し、かつ/または、E/X/Yコポリマーまたはイオノマー中の結晶性を抑制するものである。 【0033】 好ましくは、酸コポリマーの結晶性は、軟化モノマーを包含させるかその他の手段によって壊す。結晶性を壊すその他の手段としては、使用できる軟化モノマーがないときに高いレベルを採用することが挙げられる。たとえば、E/X/Yコポリマーにおいて、Yが存在しないとき、Xは18質量%より多く存在するメタクリル酸、または15質量%より多く存在するアクリル酸であることが可能である。好ましくは、有機酸は、エチレンの結晶性を実質的または完全に抑制するために選択し、この結晶性を壊した酸コポリマーと溶融ブレンドした後に、高度に中和する(酸全体の90%以上、ほぼ100%、100%)。 【0034】 弾性および圧縮に対応する材料の選択 本発明の実施において使用する弾性と圧縮の組合せは、所望するゴルフボールのタイプ(すなわち、ワンピース、ツーピース、スリーピース、または、多層)および以下に詳述する結果として得られるゴルフボールに望まれる性能のタイプに大部分が依存する。 【0035】 スリーピースゴルフボールの好ましい実施形態 スリーピースのボールは、たとえば、米国特許第4,864,910号に記載されているような周知の技術によって製造する。本発明の目的のためには、これらスリーピースボールの中心部は、PGAによって設定されている重量制限(45グラム)に適合するゴルフボールを製造するために、中心部の直径、巻き方、および、カバーの厚さと組成によって中心部の密度が約1.6gm/ccから約1.9gm/ccとなるように十分な充填剤が詰まった上記の柔軟で高CORの熱可塑性物質から所望の大きさの球を射出成形または圧縮成形することによって製造する。 【0036】 ツーピースゴルフボールの好ましい実施形態 ツーピースボールは、カバーを芯の上に射出成形または圧縮成形する周知の技術によって製造する。本発明の目的のためには、これらツーピースボールの芯は、PGAによって設定されている重量制限(45グラム)に適合するゴルフボールを製造するために、芯の直径、および、カバーの厚さと組成によって、芯密度が約1.14gm/ccから約1.2gm/ccとなるように十分な充填剤が詰まった上記の柔軟で高CORの熱可塑性物質から所望の大きさの球を射出成形または圧縮成形することによって製造する。 【0037】 多層ゴルフボールの好ましい実施形態 多層ボールは、射出成形または圧縮成形した芯に1つまたは複数の中間層または外被および外側カバーを射出成形または圧縮成形によってかぶせる周知の技術によって製造する。芯および/または外被(1種または複数種)は、PGAによって設定されている重量制限(45グラム)に適合するゴルフボールを提供するために十分な充填剤が詰まった上記の柔軟で高CORの熱可塑性物質から所望の大きさまたは厚さの球または層を射出成形または圧縮成形することによって製造する。芯および外被(1つまたは複数)に採用する充填剤の量は、最終的なボールが必要な重量制限に適合するという条件で、構成部分の大きさ(厚さ)およびボールの中の所望される重量の位置によって0から約60質量%まで変化させることができる。充填剤は、芯に使用できて外被には使用できないか、外被に使用できて芯に使用できないか、または両方に使用できる。可能な組合せに関して限定する意図はないが、この実施形態は、 1.スリーピースの中心部に使用するものと同一組成物を含む芯で、当該技術で知られている組成物でできている外被を有するものと、 2.ツーピースの芯またはスリーピースの中心部に使用するものと同一組成物を含む芯で、充填剤を含むかまたは含まない本発明の組成物からできている外被を有し、ゴルフボールの必要な重量を提供するように調整してあるものと、 3.(ポリブタジエンゴム等の熱硬化性組成物を含む)いずれかの組成物からできている芯で、充填剤を含むかまたは含まない本発明の組成物からできている外被を有するものであって、完成したゴルフボールの重量が必要な制限に適合するものとを含む。 【0038】 カバー 上記の柔軟で高CORの熱可塑性物質を含むゴルフボール用のカバーは、本発明に含まれる。カバーは、上記の柔軟で高CORの熱可塑性物質(充填剤、他の成分、および、他のイオノマーを含む他の熱可塑性物質を有するかまたは有さないもの)を、ツーピースゴルフボールの熱可塑性または熱硬化性芯の上に、または、熱可塑性または熱硬化性中心部のまわりの巻きの上に、または、多層ゴルフボールの外層として、射出成形または圧縮成形することによって製造することができる。 【0039】 ワンピースゴルフボールの好ましい実施形態 ワンピースボールは、周知の射出または圧縮技術によって製造することができる。それらは、伝統的なくぼみパターンをもち、ウレタンラッカーでコートするかまたは外観をよくする目的で塗装してあるが、そのようなコーティングおよび/または塗装は、ボールの性能特性には影響しない。 【0040】 本発明のワンピースボールは、PGAによって設定されている重量制限(45グラム)に適合するゴルフボールを提供するように十分な充填剤が詰まった上記の柔軟で高CORの熱可塑性物質から所望の大きさの球を射出成形または圧縮成形することによって製造する。好ましくは、ボールが、密度1.14gm/ccをもつように十分な充填剤を使用する。 【0041】 高度に中和したイオノマーを製造する方法 本発明の溶融加工可能な高度に中和した酸コポリマーのイオノマーは、 (a)エチレンα,β-エチレン性不飽和C_(3)?_(8)カルボン酸コポリマー(1種または複数種)または、扱いにくくなる(溶融加工できなくなる)レベルまでは中和していないそのイオノマー(1種または複数種)を、1種または複数種の36個未満の炭素原子を有する脂肪族の一官能性の飽和もしくは不飽和の有機酸またはその有機酸の塩と溶融ブレンドし、 (b)十分量のカチオン源を同時にまたは続いて加えて中和のレベルを酸部分の全体(酸コポリマー中および有機酸中のものを含む)の90%より多く、好ましくは、ほぼ100%まで、より好ましくは、100%まで増加することにより製造することができる。 【0042】 好ましくは、36個未満の炭素原子を有する脂肪族の一官能性飽和または不飽和有機酸またはその有機酸の塩は、エチレンα,β-エチレン性不飽和C_(3)?_(8)カルボン酸コポリマー(1種または複数種)またはそのイオノマー(1種または複数種)の100重量部あたり(pph)約5部から約150部(あるいは、約25部から約80部)の範囲で存在する。 【0043】 (同時または続いて行う)この方法による酸コポリマーおよび有機酸の中和は、加工性または靭性および伸び等の特性の損失なしに、イオノマー単独では溶融加工性および特性の損失となるであろうレベルより高いレベルにまでコポリマーを中和できる、不活性希釈剤を使用しない唯一の方法であることが見出されている。たとえば、酸コポリマーは、90%より多く中和した酸コポリマーに伴う溶融加工性の損失なしに90%を超えて、好ましくは約100%または100%中和まで中和することができる。さらに、約100%または100%までの中和は、100%未満の中和の成形混合物で観察される型のガス抜き穴上の有機酸の析出を減少する。 【0044】 酸コポリマー(1種または複数種)または未変性の溶融加工可能なイオノマー(1種または複数種)の、有機酸(1種または複数種)またはその塩(1種または複数種)との溶融ブレンドは、当該技術で知られているどんな方法でも可能である。たとえば、成分の塩・コショウ式ブレンドを行うことができ、次いでその成分を押し出し機で溶融ブレンドすることができる。 【0045】 なお溶融加工可能な酸コポリマー/有機酸またはその塩のブレンドは、当該技術で知られている方法によって中和またはさらなる中和をすることができる。たとえば、Werner & Pfleiderer二軸スクリュー押し出し機を使用して酸コポリマーと有機酸を同時に中和することができる。 【0046】 コポリマーまたはターポリマーの酸レベルによって、加工性を制御する有機酸のレベルは、本明細書の開示に基づいて決定することができる。コポリマーまたはターポリマーの主鎖の高い酸レベルに対しては、有機酸の百分率は高い必要がある。たとえば、E/14?16%nBA/AAターポリマーにおけるさまざまな酸量に対して得たメルトインデックスを比較する次の表(表1)を参照されたい。分子量の高い有機酸の高い量と同じ効果を有するためには分子量の低い有機酸の少ない量を必要とする。 【0047】 高度に中和した溶融加工可能なイオノマーを製造する方法は、 (a)(1)酸コポリマーのエチレンの結晶性を壊してある、エチレンα,β-エチレン性不飽和カルボン酸コポリマーまたは溶融加工可能なそのイオノマー、および(2)エチレンα,β-エチレン性不飽和カルボン酸コポリマーまたは溶融加工可能なそのイオノマーの残留するエチレンの結晶性を実質的または完全に抑制するために十分な不揮発性、非移行性薬品を溶融ブレンドするステップと、 (b)酸コポリマーまたはそのイオノマーおよび不揮発性、非移行性薬品が酸部分を含有する場合はその不揮発性、非移行性薬品の酸部分の酸部分全体の90%より多く(好ましくはほぼ100%または少なくとも100%)を中和するために十分なカチオン源を同時にまたは続いて加えるステップとを含む。 【0048】 好ましくは、不揮発性、非移行性薬品は、エチレンα,β-エチレン性不飽和C_(3)?_(8)カルボン酸コポリマー(1種または複数種)またはそのイオノマー(1種または複数種)の重量で約5から約150(あるいは、約25から約80)pphの範囲で存在させる。 【0049】 好ましくは、カチオン源の量は、酸コポリマーまたはそのイオノマー中および不揮発性、非移行性薬品が酸部分を含有する場合はその不揮発性、非移行性薬品の酸部分の酸部分全体を中和するために必要な量より多くする。 【0050】 好ましくは、この方法は、エチレンα,β-エチレン性不飽和カルボン酸コポリマーまたは溶融加工可能なそのイオノマーを採用し、それは、E/X/YコポリマーまたはE/X/Yコポリマーの溶融加工可能なイオノマーであって、Eはエチレン、XはC_(3)からC_(8)のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸、Yは軟化コモノマーであって、XはE/X/Yコポリマーの約4?25質量%であり、YはE/X/Yコポリマーの約3?25質量%である。 【0051】 好ましくは、不揮発性、非移行性薬品は、有機酸またはその塩、より好ましくは、オレイン酸である。 【0052】 【表1】(略) 【0053】 熱可塑性物質 高度に中和した溶融加工可能なイオノマー 本発明により得られる熱可塑性組成物は、本質的に、(a)36個未満の炭素原子を有する脂肪族一官能性有機酸(1種または複数種)、および(b)エチレンとC_(3)からC_(8)のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸のコポリマー(1種または複数種)およびそれのイオノマー(1種または複数種)であって(a)および(b)の酸全体の90%より多く、好ましくはほぼ100%、より好ましくは100%が中和されているものからなる。 【0054】 本発明により得られる高度に中和された溶融加工可能な酸コポリマーは、その他の成分と溶融ブレンドして最終製品を生産することができる。たとえば、ワンピース、ツーピース、スリーピース、および多層ゴルフボール、および、履物およびソフトボール等の他のスポーツ用ボールに有用な発泡材料を製造するために同時係属中の米国特許出願第09/422,142号で採用している成分と溶融ブレンドすることができる。この場合、得られる高度に中和した溶融加工可能な酸コポリマーと共に使用される成分には、ポリエーテルエステル、ポリエーテルアミド、エラストマー状ポリオレフィン、スチレンジエンブロックコポリマーおよび熱可塑性ポリウレタンから選択される熱可塑性ポリマー成分、および充填剤が含まれる。 【0055】 実施例用の試験基準 反発係数(COR)は、射出成形したゴルフボールの大きさを有する適切な樹脂球を空気砲から空気圧によって決定される速度で発射して測定する。初期速度は通常125フィート/秒(約38.1m/秒)を採用する。球は、初期速度が測定される点から3フィート(約0.91m)離れた位置にあるスチール板に当たり、はね返って初期速度が測定される点と同じ位置にあるスピードモニター装置を通過する。はね返り速度を初期速度で割ったものがCORである。 【0056】 PGA圧縮は、ゴルフボールの変形に対する抵抗として定義され、Attiの機械を用いて測定する。 【0057】 引張特性(破断点引張強さ、破断点伸び、引張降伏値、伸び降伏値)は、ASTM D1708に従って測定する。 【0058】 はね返り百分率は、ボール(または、スリーピース中心部/ツーピースの芯)を100インチ(約254cm)の高さから落下し、厚いスチール板または石の台のような硬くて堅固な表面からのはね返りを計測することによって測定する。容認できる結果は約65%?85%である。」 (4)以上より、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「射出成形または圧縮成形した芯に1つまたは複数の中間層または外被および外側カバーを射出成形または圧縮成形によってかぶせる周知の技術によって製造する多層ゴルフボールの製造方法において、 (1)軟化モノマーの添加または高い酸レベル等の他の手段によってその結晶性を壊してある、エチレンとC_(3)からC_(8)のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸の部分中和した酸コポリマーと、 (2)残留するエチレンの結晶性を実質的または完全に抑制する能力のために選択された有機酸(または、その塩)等の不揮発性、非移行性の薬品(但し、有機酸(または、その塩)以外の薬品を使用することもできる。)と、 (3)前記成分のブレンドに付加的な密度を与えるために選択する充填剤と、 を有する熱可塑性組成物を製造する段階を有し、 前記(1)の部分中和した酸コポリマーが、特にエチレン/(メタ)アクリル酸コポリマーを含む未変性イオノマーを有用な物理的性質を持たない、扱いにくくなる(溶融加工できない)ようなポリマーとならないレベルまで中和した酸コポリマーであり、好ましくは、前記酸コポリマーの酸部分の約80%をアルカリ金属カチオンまたはアルカリ土類金属カチオンによって中和されたものであり、 前記(2)の有機酸(または、その塩)が、エチレンとC_(3)からC_(8)のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸のイオノマーの100重量部あたり(pph)約5部から約150部の範囲で存在し、イオン配列を効果的に可塑化し、かつ/または、エチレンの結晶性をエチレンとC_(3)からC_(8)のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸のコポリマーまたはそのイオノマーから除去する薬品であり、 前記(3)の充填剤が、前記熱可塑性組成物の全重量を基準として0と約60質量%の間の量で存在する、5gm/ccより大きい密度を有する無機物であって、 前記熱可塑性組成物を、多層ゴルフボールの芯に用いる多層ゴルフボールを製造する方法。」 4 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 (1)引用発明の「外側カバー」、「芯」、「多層ゴルフボール」及び「熱可塑性組成物」は、それぞれ、本願発明の「カバー」、「センタ」、「ゴルフボール」及び「ポリマー組成物」に相当する。 (2)引用発明の「多層ゴルフボールの製造方法」は、射出成形または圧縮成形した芯に1つまたは複数の中間層または外被および外側カバーを射出成形または圧縮成形によってかぶせる周知の技術によって製造する方法であり、引用発明の「多層ゴルフボールの製造方法」と本願発明の「ゴルフボールの製造方法」とは「センタおよびカバーを有するゴルフボールの製造方法」である点で一致する。 (3)引用発明の「酸コポリマーの酸部分」が「C_(3)からC_(8)のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸」のカルボキシル基(-COOH)を意味することが、当業者に自明であるから、引用発明の「酸コポリマーの酸部分」は本願発明の「酸基」に相当するといえる。 (4)上記(3)から、引用発明の「軟化モノマーの添加または高い酸レベル等の他の手段によってその結晶性を壊してある、エチレンとC_(3)からC_(8)のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸の部分中和した酸コポリマー」は本願発明の「『ポリマー』、『α,β-エチレン系の不飽和のモノカルボン酸またはジカルボン酸のホモポリマーおよびコポリマーからなるグループから選択された酸基を有する酸ポリマー』」に相当する。 (5)引用発明の「α,β-エチレン系の不飽和のモノカルボン酸またはジカルボン酸のホモポリマーおよびコポリマーからなるグループから選択された酸基を有する酸ポリマー((1)軟化モノマーの添加または高い酸レベル等の他の手段によってその結晶性を壊してある、エチレンとC_(3)からC_(8)のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸の部分中和した酸コポリマー)」が、特にエチレン/(メタ)アクリル酸コポリマーを含む未変性イオノマーを有用な物理的性質を持たない、扱いにくくなる(溶融加工できない)ようなポリマーとならないレベルまで中和した酸コポリマーであり、好ましくは、前記酸コポリマーの酸部分の約80%をアルカリ金属カチオンまたはアルカリ土類金属カチオンによって中和されたものであり、本願発明の「α,β-エチレン系の不飽和のモノカルボン酸またはジカルボン酸のホモポリマーおよびコポリマーからなるグループから選択された酸基を有する酸ポリマー」は、上記酸基の少なくとも70%が中和されているイオノマーであるから、引用発明の「α,β-エチレン系の不飽和のモノカルボン酸またはジカルボン酸のホモポリマーおよびコポリマーからなるグループから選択された酸基を有する酸ポリマー」と本願発明の「α,β-エチレン系の不飽和のモノカルボン酸またはジカルボン酸のホモポリマーおよびコポリマーからなるグループから選択された酸基を有する酸ポリマー」とは、上記酸基の少なくとも70%が中和されているものである点で一致する。 (6)引用発明の「ポリマー組成物(熱可塑性組成物)」において、引用発明の「前記(2)の有機酸(または、その塩)」は、「エチレンとC_(3)からC_(8)のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸のイオノマーの100重量部あたり(pph)約5部から約150部の範囲で存在し、イオン配列を効果的に可塑化し、かつ/または、エチレンの結晶性をエチレンとC_(3)からC_(8)のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸のコポリマーまたはそのイオノマーから除去する薬品」であるから、イオノマー100重量部あたり(pph)約5部から約150部の範囲で存在することにより、イオノマーのイオン配列を効果的に可塑化する、「イオノマー用可塑剤」といえ、同様の理由により、本願発明の「脂肪酸またはその塩」も「イオノマー用可塑剤」といえる。また本願明細書段落【0016】「…(略)…多価アルコールはイオン性可塑剤として働き、非イオン性の主鎖を可塑化することなく、ポリマーのイオン領域またはドメインを可塑化する。それらは、アイオノマーのイオン領域および非イオン(すなわちオレフィン)領域の双方を可塑化する、両親媒性可塑剤として機能するかもしれない。…(略)…」の記載に照らし、本願発明の「ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコール、それらのコポリマー、およびそれらのブレンドからなるグループから選択された多価アルコール」も「イオノマー用可塑剤」といえる。 そうすると、引用発明の「ポリマー組成物」は、「『(1)軟化モノマーの添加または高い酸レベル等の他の手段によってその結晶性を壊してある、エチレンとC_(3)からC_(8)のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸の部分中和した酸コポリマー』であって、『特にエチレン/(メタ)アクリル酸コポリマーを含む未変性イオノマーを有用な物理的性質を持たない、扱いにくくなる(溶融加工できない)ようなポリマーとならないレベルまで中和した酸コポリマーであり、好ましくは、前記酸コポリマーの酸部分の約80%をアルカリ金属カチオンまたはアルカリ土類金属カチオンによって中和されたもの』と、『エチレンとC_(3)からC_(8)のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸のイオノマーの100重量部あたり(pph)約5部から約150部の範囲で存在し、イオン配列を効果的に可塑化し、かつ/または、エチレンの結晶性をエチレンとC_(3)からC_(8)のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸のコポリマーまたはそのイオノマーから除去する薬品』である『前記(2)の有機酸(または、その塩)』とを有」し、 本願発明の「ポリマー組成物」は、「『α,β-エチレン系の不飽和のモノカルボン酸またはジカルボン酸のホモポリマーおよびコポリマーからなるグループから選択された酸基を有する酸ポリマーであって、上記酸基の少なくとも70%が中和されているもの』と、『全ポリマーの100重量部を基準にして少なくとも0.5重量部の、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコール、それらのコポリマー、およびそれらのブレンドからなるグループから選択された多価アルコール』と、『全ポリマーの100重量部を基準にして0.5重量部以下』の、『脂肪酸またはその塩』とを有する」から、 引用発明の「ポリマー組成物」と本願発明の「ポリマー組成物」とは、「α,β-エチレン系の不飽和のモノカルボン酸またはジカルボン酸のホモポリマーおよびコポリマーからなるグループから選択された酸基を有する酸ポリマーであって、上記酸基の少なくとも70%が中和されているものと、ポリマーの100重量部を基準にして所定割合配合されたイオノマー用可塑剤とを有する」点で一致する。 (7)引用発明は「前記熱可塑性組成物を製造する段階を有」するものであり、本願発明は「『ポリマー組成物を準備するステップ』を『有』する」ことから、引用発明と本願発明とは、「ポリマー組成物を準備するステップを有する」点で一致する。 (8)引用発明は、「前記熱可塑性組成物を、多層ゴルフボールの芯に用いる多層ゴルフボールを製造する方法」であり、本願発明は、「上記ポリマー組成物から上記センタを製造するステップとを有」することから、引用発明と本願発明とは、「上記ポリマー組成物から上記センタを製造するステップとを有する」点で一致する。 (9)上記(1)ないし(8)から、本願発明と引用発明とは、 「センタおよびカバーを有するゴルフボールの製造方法において、 α,β-エチレン系の不飽和のモノカルボン酸またはジカルボン酸のホモポリマーおよびコポリマーからなるグループから選択された酸基を有する酸ポリマーであって、上記酸基の少なくとも70%が中和されているものと、 ポリマーの100重量部を基準にして所定割合配合されたイオノマー用可塑剤とを有するポリマー組成物を準備するステップと、 上記ポリマー組成物から上記センタを製造するステップとを有する、 ゴルフボールの製造方法。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1: 前記α,β-エチレン系の不飽和のモノカルボン酸またはジカルボン酸のホモポリマーおよびコポリマーからなるグループから選択された酸基を有する酸ポリマーの配合割合が、本願発明では、「全ポリマーの100重量部を基準にして少なくとも50重量部」であるのに対して、引用発明では、そのような配合割合であるか否か明らかでない点。 相違点2: 前記ポリマーの100重量部を基準にして所定割合配合されたイオノマー用可塑剤が、本願発明では、「『全ポリマーの100重量部を基準にして少なくとも0.5重量部の、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコール、それらのコポリマー、およびそれらのブレンドからなるグループから選択された多価アルコール』と『全ポリマーの100重量部を基準にして0.5重量部以下』である『脂肪酸またはその塩』」であるのに対して、引用発明では、エチレンとC_(3)からC_(8)のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸のイオノマーの100重量部あたり(pph)約5部から約150部の範囲で存在し、残留するエチレンの結晶性を実質的または完全に抑制する能力のために選択された有機酸(または、その塩)等の不揮発性、非移行性の薬品(但し、有機酸(または、その塩)以外の薬品を使用することもできる。)である点。 5 判断 上記相違点1及び2について検討する。 (1)相違点1及び2について ア 多層構造に形成されたソリッドゴルフボールの最内芯の全ポリマーがアイオノマー樹脂のみから構成されたものは、本願の優先日前に周知である(以下「周知技術」という。例.特開2000-229132号公報特に【請求項1】、【0012】ないし【0015】及び【0046】【表1】実施例4、特開2000-229133号公報特に【請求項1】、【0007】ないし【0010】及び【0038】【表1】実施例1参照。)。 イ 金属せっけん変性アイオノマー樹脂は加熱混合時に金属せっけんとアイオノマー樹脂に含まれる未中和の酸基との交換反応により多量の脂肪酸を発生させ、発生した脂肪酸が熱的安定性が低く成形時に容易に気化するため、成形不良の原因をもたらし、更に成形物の表面に付着して、塗膜密着性を著しく低下させるという問題を起こすことは、本願の優先日前に周知である(以下「周知事項1」という。例.特開2002-177414号公報特に【0031】、特開2001-120686号公報特に【0022】及び【0023】参照。)。 ウ エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の金属塩中和物100重量部当たり0.1?20重量部のポリエリレングリコール及びポリプロピレングリコールのような多価アルコールを配合することが、前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の可塑化及び成形加工性に有利であることは、本願の優先日前に周知である(以下「周知事項2」という。例.特開平5-200821号公報特に【0001】、【0009】ないし【0012】、【0015】、【0018】ないし【0031】、特開2002-143656号公報特に【0004】ないし【0006】、【0011】ないし【0014】、【0019】ないし【0027】の実施例2及び実施例5参照。なお、「ポリプロピレングリコール」が「ポリアルキレンポリオール」の一種であることは、当業者に自明である(特開平10-211462号公報の【0018】参照)。)。 エ 引用発明において、上記アからみて、「『前記(1)の部分中和した酸コポリマー』であって、『特にエチレン/(メタ)アクリル酸コポリマーを含む未変性イオノマーを有用な物理的性質を持たない、扱いにくくなる(溶融加工できない)ようなポリマーとならないレベルまで中和した酸コポリマーであり、好ましくは、前記酸コポリマーの酸部分の約80%をアルカリ金属カチオンまたはアルカリ土類金属カチオンによって中和されたもの』」のみを、多層ゴルフボールの芯を形成する全ポリマーとなすとともに、引用発明の「有機酸(または、その塩)」は有機酸(または、その塩)以外の薬品を使用することもできることから、上記イ及びウからみて、引用発明の「有機酸(または、その塩)」の一部あるいは全てに代えて有機酸(または、その塩)以外の薬品を用い、該有機酸(または、その塩)以外の薬品とその配合割合とを、前記全ポリマーの100重量部を基準にして0.1?20重量部のポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールのような多価アルコールとなすことは、当業者が周知技術、周知事項1及び周知事項2に基づいて容易になし得る程度のことであり、その際、前記ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールのような多価アルコールの配合割合を、前記全ポリマーの100重量部を基準にして少なくとも0.5重量部とし、且つ、引用発明の「有機酸(または、その塩)」の配合割合を、前記全ポリマーの100重量部を基準にして0.5重量部以下となすことは、当業者が適宜になし得た設計上のことである。 オ 上記エの{引用発明の「『前記(1)の部分中和した酸コポリマー』であって、『特にエチレン/(メタ)アクリル酸コポリマーを含む未変性イオノマーを有用な物理的性質を持たない、扱いにくくなる(溶融加工できない)ようなポリマーとならないレベルまで中和した酸コポリマーであり、好ましくは、前記酸コポリマーの酸部分の約80%をアルカリ金属カチオンまたはアルカリ土類金属カチオンによって中和されたもの』」のみを、多層ゴルフボールの芯を形成する全ポリマーとなす}は、本願発明の{全ポリマーの100重量部を基準にして少なくとも50重量部の、α,β-エチレン系の不飽和のモノカルボン酸またはジカルボン酸のホモポリマーおよびコポリマーからなるグループから選択された酸基を有する酸ポリマー}に相当し、 上記エの{[引用発明の「有機酸(または、その塩)」の一部あるいは全てに代えて有機酸(または、その塩)以外の薬品を用い、該有機酸(または、その塩)以外の薬品とその配合割合を、前記全ポリマーの100重量部を基準にして0.1?20重量部のポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールのような多価アルコールとなすこと]及び[その際、前記ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールのような多価アルコールの配合割合を、前記全ポリマーの100重量部を基準にして少なくとも0.5重量部とし、且つ、]}及び{引用発明の「有機酸(または、その塩)」の配合割合を、前記全ポリマーの100重量部を基準にして0.5重量部以下となすこと}は、本願発明の{全ポリマーの100重量部を基準にして少なくとも0.5重量部の、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコール、それらのコポリマー、およびそれらのブレンドからなるグループから選択された多価アルコールとを有するポリマー組成物を準備するステップ}及び{上記ポリマー組成物中の脂肪酸またはその塩は全ポリマーの100重量部を基準にして0.5重量部以下}に相当する。 カ 上記エ及びオから、引用発明において、上記相違点1及び2に係る本願発明の構成となすことは、当業者が、周知技術、周知事項1及び周知事項2に基づいて容易になし得る程度のことである。 (2)効果について 本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果、周知技術の奏する効果、周知事項1の奏する効果及び周知事項2の奏する効果から当業者が予測できた程度のものである。 (3)以上のとおりであるから、本願発明は、引用例に記載された発明、周知技術、周知事項1及び周知事項2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 6 むすび 本願発明は、以上のとおり、当業者が、引用例に記載された発明、周知技術、周知事項1及び周知事項2に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-11-21 |
結審通知日 | 2012-11-27 |
審決日 | 2012-12-10 |
出願番号 | 特願2006-230115(P2006-230115) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(A63B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 武貞 亜弓、藤本 保 |
特許庁審判長 |
長島 和子 |
特許庁審判官 |
東 治企 菅野 芳男 |
発明の名称 | 高度に中和した酸ポリマーおよびそのゴルフボールへの使用 |
代理人 | 澤田 俊夫 |