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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1273329
審判番号 不服2009-19370  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-10-09 
確定日 2013-01-07 
事件の表示 平成10年特許願第519100号「代用血小板、及びそれらの製造に適した抱合法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 4月30日国際公開、WO98/17319、平成13年 4月10日国内公表、特表2001-504813〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、1997年10月17日(パリ条約による優先権主張1996年10月21日及び1997年2月10日、イギリス国)を国際出願日とする出願であって、平成21年5月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し平成21年10月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1?7に係る発明は、平成21年10月9日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載されたとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明は次のとおりのものと認める。(以下、「本願発明」という。)

「血小板凝集作用をもつ、本質的に性能の低下していない活性のあるフィブリノーゲン、もしくはそのフラグメントが結合された不溶性のキャリアを含んでなり、前記キャリアが架橋蛋白質微粒子を含んでなるものである、薬学的に許容される生成物。」

3.引用出願
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前の特許出願であって、その出願後に1970年6月19日にワシントンで作成された特許協力条約第21条に規定する国際公開がされた特願平9-501772号(パリ条約による優先権主張 1995年6月6日及び1995年11月9日、米国)の特許法第184条の4第1項の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面(以下、これら各々を「先願明細書」等といい、これらをまとめて「先願明細書等」ということがある。国際公開WO96/39128参照。)には、以下の記載がある(原文は英語のため訳文で示す)。

3-a.「58.出血時間を短縮し、かつ静脈注射による血液損失を減少するための方法であって、該方法は、被験体に粒子を投与する工程を包含し、該粒子は生体適合性マトリックスを該粒子の内部または表面上のフィブリノーゲンと共に含み、該生体適合性マトリックスは、タンパク質、脂質、核酸および炭水化物からなる群から選択される、方法。
59.前記生体適合性マトリックスがアルブミンを含む、請求項58に記載の方法。
60.前記アルブミンがグルタルアルデヒドで架橋されている、請求項58に記載の方法。」(上記国際公開70頁)

3-b.「61.トロンビンの作用によって、創傷部位のみにおいて血管内に凝集体を形成する方法であって、該方法は、被験体に粒子を投与する工程を包含し、該粒子は生体適合性マトリックスを該粒子の内部または表面上のフィブリノーゲンと共に含み、該生体適合性マトリックスは、タンパク質、脂質、核酸および炭水化物からなる群から選択される、方法。
62.前記生体適合性マトリックスがアルブミンを含むタンパク質である、請求項61に記載の方法。
63.前記アルブミンがグルタルアルデヒドで架橋されている、請求項62に記載の方法。」(上記国際公開70頁)

3-c.「ミクロスフェアは、・・・。大部分のミクロスフェアは多少とも構造が均質である。ミクロスフェアの安定性を保つため、従来技術の製造手順には、ミクロスフェアの塊を安定化させるための架橋プロセスが含まれる。」(上記国際公開3頁5?10行)

3-d.「合成後、・・・タンパク質粒子の再可溶化を防ぐ様々な方法が使用されてきた。これらの方法には、熱変成(・・・);共有結合により不可逆的に架橋したタンパク質分子から構成される粒子の形成を開始し完了するための架橋剤の添加(・・・)およびアルコールの存在下でのタンパク質球体の形成に続く架橋剤の添加(Yenの米国特許第5,069,936号参照)が含まれる。」(上記国際公開3頁20?32行)

3-e.「 よって、本発明により、従来技術の形状よりも自然の形状に近い形状でサイズ範囲がナノメートルないしマイクロメートルのアルブミン粒子の形成が可能となる。したがって、この粒子は、それ自体を投与するための、あるいは他の治療用または診察用薬剤の賦形剤として、あるいは細胞プロセスの構成単位(building block)としてのいずれかで、インビボ投与のためにより厳密に制御される薬剤を構成する。
治療用途の一例は、血小板減少症の患者または動物の出血時間を短縮する目的で、フィブリノーゲンで被覆した粒子を静脈内に注射または注入することである。血小板減少症の動物は、止血を担う基本的細胞要素である血小板の十分な濃度が不足している。出血制御の最重要事象は創傷部位における血小板の活性化であり、それによってフィブリノーゲンが血小板表面に結合する。正常な場合は、血小板の活性化の後に、創傷の近傍の他の血小板を活性化させる化学物質が、活性化した血小板から放出され、速やかに凝集させ、栓を形成して出血を止める。さらに、血小板表面上のフィブリノーゲンが凝血因子のカスケードに関与し、血液中の可溶性因子にも栓を形成させる。しかし、血小板減少症の動物では、血小板の数が不足していて速やかに栓を形成できない。その結果、出血を止めるためによりずっと長い時間がかかる。フィブリノーゲンで被覆した合成球体または粒子の懸濁液を注入することにより、固体に結合したフィブリノーゲン分子の総数が血液中で増加して、出血時間が改善され、出血量が減少した。本発明の一実施態様においては、フィブリノーゲンで被覆した架橋アルブミン粒子を使用した。大量の血液損失を伴う手術を受ける患者、あるいは戦場で負傷した兵士のような外傷患者では、その血小板数が「正常」であっても、フィブリノーゲンで被覆した粒子の数を増大させることにより、血液損失が減少し、かつ手術時間が短縮されるものと期待される。」(上記国際公開6頁30行?7頁21行)

3-f.「 実施例18
トロンボスフェア(Thrombospheres;TS)は表面に共有結合したヒトフィブリノーゲンを有する架橋ヒト血清アルブミン球体(平均直径1.2μm)である。本研究は、TSが出血時間(BT)、血液損失(BL)およびTS注入後の血小板生存時間に及ぼす影響を評価するために行った。他のフィブリノーゲン被覆粒子(架橋または非架橋)(ここでは、フィブリノーゲンが表面に非共有的に吸着する)、特にアルブミン粒子についても同様の結果が得られた。
方法:
重症血小板減少ウサギ(平均血小板数<10×10^(3)/μl)にTS、7.5×10^(9)/kg、フィブリノーゲンのない対照アルブミン球体(CS)、7.5×10^(9)/kg、または等量の通常生理食塩水(NS)のいずれかの静脈内注入を実施した。耳BT検査を処置の1、24、48、72時間後に行い、各ウサギ群について秒を単位とした平均値±標準偏差で表示した。動物のBTが900を超えた場合、BT測定を停止した。Cr-51標識赤血球1mLを予め注入したウサギにおいて処置24時間後に耳創傷から損失した血液を集めた捕集容器中の放射活性からBL(単位:mL)を測定した。TS処置正常ウサギにおけるCr-51標識血小板の生存時間(単位:時間)もまた測定した。
結果 n BT(1時) BT(24時) BT(48時) BT(72時)
TS 46 401±171 351±116 334±154 547±265
CS 10 570±58 882±58 895±16 >900
NS 22 898±12 >800 888±43 >900
TS注入は、NS処置ウサギで見られたTSよりも有意に低いBLと関連したが(1.1対5.1mL)、一方で、血小板生存時間は、TSおよびNS処置正常ウサギで共に正常であった。
結論:
このデータによると、TSは重症血小板減少症ウサギにおいて最高72時間までBTを短縮し、血液損失を有意に減少することが示される。血小板生存時間が正常であったことから、TSが血栓形成性のない安全な止血薬であることが示される。
特定のいかなる理論とも結びつかないが、創傷から遠く離れた領域(即ち、抗トロンビンまたは肝臓によってトロンビンが速やかに排除されるためトロンビンのない領域)では、粒子表面上のフィブリノーゲンは消化されないまま残り、従って未反応のままであると考えられる。しかし、創傷部位、即ちトロンビンおよび活性化された血小板(即ち消化されたフィブリノーゲン(フィブリン)を表面に有する血小板)を有する領域では、局所にトラップされたトロンビンが粒子表面上のフィブリノーゲンを消化し、それによってトロンボスフェアを活性化させて血餅形成に関与させる。すべての患者は、低濃度にせよ、いくらかの血小板を有しており、かつこのような血小板は創傷部位でしか活性化されないので、トロンボスフェアは、創傷部位だけで凝固活性を増強し、他の場所では増強しない。本質的に、トロンボスフェアは、創傷部位で凝固作用を増強および増幅する因子として挙動する。最低濃度の活性化血小板が必要なので、トロンボスフェアは必要な場所だけで凝固を増強し、他の場所での血餅形成に関連した有害作用を有さない。このように、トロンボスフェアは活性化血小板の濃度が低いために凝固が遅い疾患、例えば血小板減少症の処置において特に価値がある。」(上記国際公開32頁28行?34頁2行)

3-g.「 フィブリノーゲンの該粒子への結合は下記の機構のうち一つまたはその両方によって起こり得る:
(1) マトリクス材料としてのヒト血清アルブミンの場合では、球体は架橋剤添加によって安定化される。グルタルアルデヒドのような架橋剤の一反応部位が球体と共有結合的に結合する一方で、もう一方の反応部位がフィブリノーゲンと結合することはあり得る。しかし、低濃度の架橋剤が存在下で球体にフィブリノーゲンを添加したとき、10,000モル過剰の競合小分子(例えば、アルデヒド部位について競合するグリシン)が存在する状態で、依然としてフィブリノーゲンは球体の表面に結合し得る。事実、透過型電子顕微鏡(横断面)は、フィブリノーゲン(免疫化学的手段によってフィブリノーゲンであることを確認)の層が単分子層の厚さよりもずっと厚く、タンパク質球体の表面を取り巻き、その内部を満たしていることを示す。このような実験によると、疎水性結合がその原因であり得ることが示唆される。
(2) 疎水性結合:適切な薬剤(アルコールなど)が存在する状態では、コア成分分子の疎水性部位が露出される。これによって、この分子が積み重なって粒子を形成する(かつ、それによって溶液から脱溶媒和する)だけでなく、フィブリノーゲンが共有結合(粒子表面に積み重なった後に架橋を介して、あるいはフィブリノーゲンが粒子内部の表面に付着する前またはその時に)または非共有結合のいずれかで付着するのに適した表面を提供することが可能になる。」(上記国際公開34頁24行?35頁10行)

4.対比
先願明細書等の上記3-fには、実施例18として、「表面に共有結合したヒトフィブリノーゲンを有する架橋ヒト血清アルブミン球体」であるトロンボスフェアが、「重症血小板減少症ウサギにおいて最高72時間までBTを短縮し、血液損失を有意に減少することが示され」「血小板生存時間が正常であったことから、TSが血栓形成性のない安全な止血薬であることが示される」ことが記載され、「すべての患者は、低濃度にせよ、いくらかの血小板を有しており、かつこのような血小板は創傷部位でしか活性化されないので、トロンボスフェアは、創傷部位だけで凝固活性を増強し、他の場所では増強しない。本質的に、トロンボスフェアは、創傷部位で凝固作用を増強および増幅する因子として挙動する。最低濃度の活性化血小板が必要なので、トロンボスフェアは必要な場所だけで凝固を増強し、他の場所での血餅形成に関連した有害作用を有さない。このように、トロンボスフェアは活性化血小板の濃度が低いために凝固が遅い疾患、例えば血小板減少症の処置において特に価値がある。」と記載されている。
そうすると、先願明細書等には、「出血時間を短縮し、かつ静脈注射による血液損失を減少するために有効であり、またトロンビンの作用によって、創傷部位のみにおいて血管内に凝集体を形成するために有効である、その表面上に共有結合したフィブリノーゲンを有する、架橋された生体適合性マトリックスとしてのアルブミン球体」の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されていると認められる。
本願発明と先願発明とを対比すると、両者はフィブリノーゲンが結合された不溶性のキャリアを含んでなり、前記キャリアが架橋タンパク質微粒子を含んでなるものである、薬学的に許容される生成物である点で一致し、以下の点で一応相違する。

本願発明においては、「血小板凝集作用をもつ、本質的に性能の低下していない活性のある」フィブリノーゲンを含むのに対して、先願発明においては、フィブリノーゲンに関してこのような記載がない点。

5.当審の判断
まず、本願における「血小板凝集作用をもつ、本質的に性能の低下していない活性のある」ということの意味について検討する。
本願明細書には、「発明の分野 本発明は、代用血小板、すなわちフィブリノーゲンを含んでなる組成物、及び中でも、フィブリノーゲンを特定のキャリアと結合させるのに用いることのできる抱合法に関するものである。」(本願公表公報4頁3?6行)、「本発明の第二の態様によれば、例えばこの新規な方法を用いることにより、薬学的に許容される新規生成物が代用血小板としての有用性をもつ。このような生成物は、フィブリノーゲンの活性を失うことなしに含んでなるものである。結合は、例えば吸着による非化学的なものであってもよい。例えば長さが少なくとも10nmのリンカーを用いる化学的なものであってもよい。・・・それら代用血小板は、血小板減少症の治療に用いるのに適している。」(同6頁22行?7頁3行)、「本発明の重要な利点は、フィブリノーゲン(もしくはRGDペプチド)の活性を実質的に保持することができる、という点である。活性のあるフィブリノーゲンの含有量は、フィブリノペプチドA(FPA)についてのELIZAにより測定することができる。」(同11頁14?17行)、「本発明の代用血小板は、活性のあるフィブリノーゲンを通常、少なくとも0.01%、好ましくは少なくとも0.015%、より好ましくは少なくとも0.02%、最も好ましくは少なくとも0.025%含んでいる。・・・フィブリノーゲン含有量の内、少なくとも50%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%が活性をもっているのが望ましい。これは、フィブリノーゲンの全含有量について測定することができる。これも、ELIZAのような方法で測定することができる。」(同12頁4?13行)と記載されている。
この記載からみて、本願発明に係る生成物は、フィブリノーゲンの代表的な作用である血小板凝集作用を、代用血小板としての用途に利用するものであるところ、そのフィブリノーゲンの上記作用を失うことなしに含んでおり、代用血小板として血小板減少症に用いるのに適したものであると認められる。したがって、「血小板凝集作用をもつ」とは、このような用途に利用可能なものであれば足りるものと認められる。
また、「本質的に性能の低下していない活性のある」ことについては、本願明細書の「発明の背景」の項に、「大きなペプチドや蛋白質をヒト血清アルブミン(HSA)製のマイクロカプセルに共有結合させると、数多くの問題が生じることがある。」として、蛋白質とマイクロカプセル表面との接触が不十分なために、架橋のための十分な結合部位が得られないことや架橋剤を用いた場合に、マイクロカプセルの充填量が少なくなったり、蛋白質が不活性化することが指摘されている(本願公表公報4頁13?19行参照)ことを踏まえれば、「本質的に性能の低下していない活性のある」とは、フィブリノーゲンがキャリアに結合した後においても、フィブリノーゲンの活性を失うことなく、血小板減少症の治療に適する程度のフィブリノーゲンの活性を実質的に保持していることを意味するものと認められる。

これに対し、先願明細書等には、上記3-fに記載のとおり、上記トロンボスフェアが、「重症血小板減少症ウサギにおいて最高72時間までBTを短縮し、血液損失を有意に減少することが示され」「血小板生存時間が正常であったことから、TSが血栓形成性のない安全な止血薬であることが示される」ことが記載され、「トロンボスフェアは、創傷部位だけで凝固活性を増強し、他の場所では増強しない」ので「本質的に、トロンボスフェアは、創傷部位で凝固作用を増強および増幅する因子として挙動」し、「活性化血小板の濃度が低いために凝固が遅い疾患、例えば血小板減少症の処置において特に価値がある。」と記載されている。そして、このような結果がもたらされたのは、トロンボスフェアにおいてアルブミン球体に結合したフィブリノーゲンが、血小板凝集作用を有していたからであり、また、該フィブリノーゲンは、血小板減少症の治療に適する程度の活性が実質的に保持されているものと認められる。してみれば、先願発明の生成物に含有されるフィブリノーゲンは、本願でいう「血小板凝集作用をもつ、本質的に性能の低下していない活性のある」ものと認められる。
したがって、上記の点は実質的な相違点ではない。

なお、請求人は、(1)先願明細書には、「トロンボスフェア」の調製のための方法が示されていないこと(平成20年11月27日付け意見書5頁4?5行)、(2)チャーチ博士による宣誓書は、先願明細書の実施例18に対応する試料と比較して、本願発明による試料は、より優れていることを示していること(平成21年11月24日付けで提出した審判請求の理由を補充する補正書2頁下から12行?下から10行)、(3)本願発明による製品は、目的を実現可能な唯一の製品であり、先行技術はいわば「目的を実現できないもの」、言い換えれば、先行技術の製品の構成に想到したとしても、それを製造することができなかったものであること(平成23年1月11日付け回答書2頁下から5行?最下行)を述べて、本願発明が、先願明細書等に記載されたものでない旨主張するので、これらの点について、以下に検討する。

(1)について
先願明細書には、「トロンボスフェア」は、「表面に共有結合したヒトフィブリノーゲンを有する架橋ヒト血清アルブミン球体(平均直径1.2μm)である」(上記3-f)と記載されているのであるから、本願明細書におけるフィブリノーゲンの架橋アルブミン粒子への結合に関する上記3-gの記載及び当該技術分野における技術水準からみて、まずはじめにヒト血清アルブミン球体を形成し、得られた球体を架橋し、ついで得られた架橋ヒト血清アルブミン球体上に共有結合を介してヒトフィブリノーゲンを結合させる、というレベルでの製法が記載されているというべきであり、それぞれの工程において具体的にどのような手段を採用するかは、先願明細書等の記載(例えば、上記3-d及び3-g)および当該分野、すなわち、アルブミンなどの球体に各種の有効成分を共有結合させる手段として当該技術分野において周知の手段(本願明細書でも言及しているWO96/18388号や米国特許第5,069,936号明細書(後者については、先願明細書等においても言及(上記3-d)されている。)など)を適宜採用することによって製造することが可能なものと認められるので、調製のための方法が記載されていない、という請求人の上記主張は妥当でない。

(2)について
請求人が指摘する事項は、仮にその内容が請求人主張のとおりのもの(すなわち、チャーチ博士の宣誓書の比較実験で用いられたものが、先願明細書の実施例18に記載されたトロンボスフェアに対応するものであって、かつ、先願明細書の実施例18に対応する試料と比較して、本願発明による試料が、より優れていることを示している)であったとしても、先願明細書の実施例18に記載された生成物が本願発明に包含されることを否定するものではないので、上記判断を覆す根拠とはならない。

(3)について
請求人の主張は、「従来例が本願発明による生成物よりも低い活性を有している」こと、つまり、先願明細書の実施例18のトロンボスフェアは、確かに活性を「有している」としても、十分な性能を有していないこと、をもって、「目的を実現できていないもの」であるとするものである。
しかし、本願明細書には、本願発明の目的を実現するために、「活性を有している」だけでは足りず、さらにそれを上回る性能が必要であることをうかがわせる記載はなく、請求人の上記主張は、明細書の記載に基づかないものである。

6.むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、その出願の日前の他の特許出願であって、その出願後に1970年6月19日にワシントンで作成された特許協力条約第21条に規定する国際公開がされた特願平9-501772号(国際公開WO96/39128)の第184条の4第1項の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない(同法第184条の13参照)。
このため、他の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-10 
結審通知日 2012-08-14 
審決日 2012-08-27 
出願番号 特願平10-519100
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中尾 忍  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 大久保 元浩
平井 裕彰
発明の名称 代用血小板、及びそれらの製造に適した抱合法  
代理人 紺野 昭男  
代理人 吉武 賢次  
代理人 中村 行孝  
代理人 横田 修孝  

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