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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09D 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C09D |
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管理番号 | 1273385 |
審判番号 | 不服2010-23498 |
総通号数 | 162 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-06-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-10-19 |
確定日 | 2013-05-02 |
事件の表示 | 特願2004-273104「帯電防止塗料,帯電防止シートおよびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年2月2日出願公開,特開2006-28469〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は,平成16年9月21日(優先権主張,平成16年6月14日)の出願であって,平成22年4月23日付け拒絶理由通知書が通知され,その指定期間内の同年6月28日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年7月12日付けで拒絶査定がなされ,これに対し同年10月19日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとと同時に手続補正(以下,「本件補正」という。)がなされたものである。 2.平成22年10月19日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成22年10月19日付けの手続補正を却下する。 [理由] (1)本件補正の内容 本件補正の前後における,それぞれの請求項の記載は次のとおりである。 ・補正前 「【請求項1】 塩基性触媒を用いて形成されたコロイダルシリカゾル(A)と親水性ポリマー(B)とを必須成分として含有している帯電防止塗料であって, 前記コロイダルシリカゾル(A)のシリカが,表面にシラノール基(-Si-OH)を有する平均粒子径1nm?200nmの超微粒子形状および/または表面にシラノール基(-Si-OH)を有する長鎖状のシリカであり, 前記親水性ポリマー(B)が,ポリビニルアルコール,変性ポリビニルアルコール,ポリビニルピロリドン,変性ポリビニルピロリドン,親水性アクリル系ポリマー,親水性ウレタン系ポリマー,セルロース化合物,水溶性ナイロン,ポリビニルホルマール,ポリビニルアセタールおよびポリビニルベンザールから選ばれる少なくとも1種であり, 該帯電防止塗料により形成された帯電防止層の水に対する接触角が20度以下であり,かつヘイズ値が1.0未満であることを特徴とする帯電防止塗料。 【請求項2】 コロイダルシリカゾル(A)が,メチルまたはエチルシリケートモノマーおよび/またはメチルまたはエチルシリケートオリゴマーを原料とするシリカゾルである請求項1に記載の帯電防止塗料。 【請求項3】 コロイダルシリカゾル(A)が,ケイ酸ナトリウムを原料とするシリカゾルである請求項1に記載の帯電防止塗料。 【請求項4】 コロイダルシリカゾル(A)中のシリカと親水性ポリマー(B)との使用割合(質量比)が,シリカ:親水性ポリマー=5:95?99:1である請求項1に記載の帯電防止塗料。 【請求項5】 さらにアルミナゾル,界面活性剤,紫外線吸収剤および架橋剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1に記載の帯電防止塗料。 【請求項6】 架橋剤が,カルボジイミド化合物,有機金属錯体化合物,ポリイソシアネート化合物,オキサゾリン化合物およびエポキシ化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項5に記載の帯電防止塗料。 【請求項7】 基材シートと,該基材シートの一方の面に設けた帯電防止層とからなる帯電防止シートにおいて,該帯電防止層が,請求項1?6のいずれか1項に記載の帯電防止塗料から形成されていることを特徴とする帯電防止シート。 【請求項8】 帯電防止層の水に対する接触角が,20度以下である請求項7に記載の帯電防止シート。 【請求項9】 帯電防止層の膜厚が,0.01μm?10μmである請求項7に記載の帯電防止シート。 【請求項10】 基材シートの一方の面に請求項1?6のいずれか1項に記載の帯電防止塗料を塗布し,常温?120℃の温度で帯電防止層を形成することを特徴とする帯電防止シートの製造方法。」 ・補正後 「【請求項1】 塩基性触媒を用いて形成されたコロイダルシリカゾル(A)と親水性ポリマー(B)とを必須成分として含有している帯電防止塗料であって, 前記コロイダルシリカゾル(A)のシリカが,メチルまたはエチルシリケートモノマーおよび/またはメチルまたはエチルシリケートオリゴマーを原料とする,その組成式がSiO_(n)(OH)_(m)(OR)_(o)(n=1.5?1.95,m=0.1?1.0,o=0?0.5,n+0.5m+0.5o=2.0となる比,RはCH_(3)またはC_(2)H_(5)である)で示される,その表面に多数のシラノール基(-Si-OH)を有する平均粒子径1nm?200nmの超微粒子形状および/または表面に多数のシラノール基(-Si-OH)を有する長鎖状のシリカであり, 前記親水性ポリマー(B)が,ポリビニルアルコール,変性ポリビニルアルコール,ポリビニルピロリドン,変性ポリビニルピロリドン,親水性アクリル系ポリマー,親水性ウレタン系ポリマー,セルロース化合物,水溶性ナイロン,ポリビニルホルマール,ポリビニルアセタールおよびポリビニルベンザールから選ばれる少なくとも1種であり, 該帯電防止塗料により形成された帯電防止層の水に対する接触角が20度以下であり,かつヘイズ値が1.0未満であることを特徴とする帯電防止塗料。 【請求項2】 コロイダルシリカゾル(A)のシリカ含有量が6%である請求項1に記載の帯電防止塗料。 【請求項3】 コロイダルシリカゾル(A)中のシリカと親水性ポリマー(B)との使用割合(質量比)が,シリカ:親水性ポリマー=5:95?99:1である請求項1に記載の帯電防止塗料。 【請求項4】 さらに帯電防止剤である界面活性剤を,帯電防止塗料の固形分100質量部に対して0.01?5質量部の範囲で含む請求項1に記載の帯電防止塗料。 【請求項5】 さらに架橋剤を含み,該架橋剤が,カルボジイミド化合物,有機金属錯体化合物,ポリイソシアネート化合物,オキサゾリン化合物およびエポキシ化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の帯電防止塗料。 【請求項6】 基材シートと,該基材シートの一方の面に設けた帯電防止層とからなる帯電防止シートにおいて,該帯電防止層が,請求項1?5のいずれか1項に記載の帯電防止塗料から形成されていることを特徴とする帯電防止シート。 【請求項7】 帯電防止層の膜厚が,0.01μm?10μmである請求項6に記載の帯電防止シート。 【請求項8】 基材シートの一方の面に請求項1?5のいずれか1項に記載の帯電防止塗料を塗布し,常温?120℃の温度で帯電防止層を形成することを特徴とする帯電防止シートの製造方法。」 (2)補正の目的の検討 本件補正が,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,単に「旧特許法」という。)第17条の2第4項の規定に適合するものであるか否かについて検討する。 補正前後の各請求項を対比すると,次の対応関係は明らかである。 (ア)補正後請求項1は,補正前請求項1に対応し,かつ補正前請求項2の内容を取り入れつつ,さらなる補正を加えたものに相当する。 (イ)補正後請求項3は,補正前請求項4に対応する。 (ウ)補正後請求項5?8は,それぞれ補正前請求項6,7,9及び10に対応する。 そうすると,補正前の請求項との対応が明らかでない補正後の請求項は2及び4となるが,このうち,まず補正後請求項2について検討すると,補正前請求項で,補正後の請求項との対応関係が明らかでないものは補正前請求項3,5及び8であり,このうち補正前請求項8は,末尾が「…帯電防止シート」となっていて,補正後請求項2の「…帯電防止塗料」とは異なることから,該補正後請求項2に対応するものではないことは明らかである。(なお,補正前請求項8は削除されたものと解釈される。) そして,補正後請求項2は「コロイダルシリカゾル(A)のシリカ含有量が6%である請求項1に記載の帯電防止塗料。」とされていて,コロイダルシリカゾル(A)についての特定事項を追加しているが,まず補正前請求項3と対比すると,同項は「コロイダルシリカゾル(A)が,ケイ酸ナトリウムを原料とするシリカゾルである…」と,「コロイダルシリカゾル(A)」をさらに特定している点では,補正後請求項2と共通するものの,補正前請求項3は原料成分を特定しているのに対して,補正後請求項2は,原料成分については,直接これを限定又は特定する記載がないことから,補正後請求項1をそのまま引用することとなっているが,該補正後請求項1における「コロイダルシリカ(A)」の原料成分が補正前請求項3と一致又はこれを限定する関係とはなっていないことから,補正後請求項2は,補正前請求項3に対して,旧特許法第17条の2第4項第2号にいう特許請求の範囲の減縮をしたものとすることもできない。次に補正前請求項5と対比すると,同項は,「さらにアルミナゾル,界面活性剤,紫外線吸収剤および架橋剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1に記載の帯電防止塗料。」というものであって,末尾こそ「帯電防止塗料」となっていて補正後請求項2と同じであるものの,『コロイダルシリカゾル(A)』に関する特定事項が記載されていないことから,補正後請求項2は,補正前請求項5に対して,旧特許法第17条の2第4項第2号にいう特許請求の範囲の減縮をしたものとすることができない。(なお,補正前請求項3及び5は削除されたものと解釈される。)さらに,補正後請求項2に係る補正が,同条同項の他の各号の何れかを目的とするものとはいえないことも明らかである。 したがって,補正後請求項4に係る補正について検討するまでもなく,本件補正は,旧特許法第17条の2第4項の規定に違反するものである。 (3)むすび よって,本件補正は,旧特許法第17条の2第4項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 3.本願発明について (1)本願発明 平成22年10月19日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という)は,平成22年6月28日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。 「塩基性触媒を用いて形成されたコロイダルシリカゾル(A)と親水性ポリマー(B)とを必須成分として含有している帯電防止塗料であって, 前記コロイダルシリカゾル(A)のシリカが,表面にシラノール基(-Si-OH)を有する平均粒子径1nm?200nmの超微粒子形状および/または表面にシラノール基(-Si-OH)を有する長鎖状のシリカであり, 前記親水性ポリマー(B)が,ポリビニルアルコール,変性ポリビニルアルコール,ポリビニルピロリドン,変性ポリビニルピロリドン,親水性アクリル系ポリマー,親水性ウレタン系ポリマー,セルロース化合物,水溶性ナイロン,ポリビニルホルマール,ポリビニルアセタールおよびポリビニルベンザールから選ばれる少なくとも1種であり, 該帯電防止塗料により形成された帯電防止層の水に対する接触角が20度以下であり,かつヘイズ値が1.0未満であることを特徴とする帯電防止塗料。」 (2)引用刊行物 原審で引用された,本出願前に頒布されたことが明らかな特開2000-256579号公報(原審の引用文献3)(以下,「刊行物A」という。) には,以下のことが記載されている。 ・刊行物Aの記載事項 (A-1) 「【請求項1】カルボキシル基を有する水溶性有機高分子又はその塩とアルカリ珪酸塩又はSiO_(2 )と光触媒用酸化チタンとを必須成分として含有していることを特徴とする親水性塗料組成物。」 (A-2) 「【0029】実施例1?20及び比較例1?7 [親水性塗料組成物の調製]表1に示す種類及び量(又は固形分比)のSiO_(2)含有原料{アルカリ珪酸塩(M_(2)O・nSiO_(2))又はコロイダルシリカ},カルボキシル基含有水溶性有機高分子及び光触媒用酸化チタンと必要に応じて配合する表1に示す種類及び量の多価アルコールとを,水性媒体としてのイオン交換水に添加して建浴し,実施例1?20及び比較例1?4の親水性塗料組成物をそれぞれ調製した。」 (A-3) 「【0030】表1に示すコロイダルシリカJは日産化学(株)製:スノーテックスST-C(固形分20%)であり,また,カルボキシル基含有水溶性有機高分子A?Fは以下のものである。すなわち,Aは平均分子量60000のポリアクリル酸カリウム(ロームアンドハース社製:アキュマー1510,固形分25%をKOHで当量中和したもの),Bは平均分子量60000のポリアクリル酸ナトリウム(ロームアンドハース社製:アキュマー1510,固形分25%をNaOHで当量中和したもの),Cは平均分子量60000のポリアクリル酸-ポリメタクリル酸共重合体(日本純薬(株)製:ジュリマーAC-20H,固形分20%),Dは平均分子量60000のポリアクリル酸(ロームアンドハース社製:アキュマー1510,固形分25%),Eは平均分子量40000のポリアクリル酸アンモニウム-ポリアクリル酸エステル共重合体(日本純薬(株)製:ジュリマーAT-510,固形分30%をアンモニウム中和したもの),Fは平均分子量40000のポリアクリル酸-ポリアクリル酸エステル共重合体(日本純薬(株)製:ジュリマーAT-510,固形分30%)である。さらに,表1に示す光触媒用酸化チタンG,H,Iは,GがPW-1010(触媒化成工業製:固形分8.8%),HがSTS-21(石原産業(株)製:固形分40%),IがCSB-M(堺化学工業製: 固形分40%)であり,多価アルコールKはペンタエリスリトール(三井東圧化学(株)製:ペントール)である。」 (A-4) 「【0033】 【表1】 」 (A-5) 「【0035】[親水性皮膜の親水性評価試験]得られた実施例1?20及び比較例1?7に係る試験片を用い,その各試験片における親水性皮膜の初期親水性,親水性の持続性及び耐汚染性の試験を行った。すなわち,初期親水性については,各試験片を揮発プレス油(出光興産株式会社製:ダフニーパンチオイルAF2C)に1分間浸漬した後に引き上げて油切りをし,その後180℃で3分間乾燥させ,そのときの表面の接触角を接触角計(協和界面化学株式会社製:CA-A型)を用いた液滴法により測定した。また,親水性の持続性については,初期接触角を測定した角試験片を純水中に120時間浸漬した後室温で乾燥させ,そのときの表面の接触角を同様に測定した。そして,この初期親水性及び親水性の持続性の結果について,以下の基準で評価した。このときの結果を表2に示す。 (評価基準) ◎:接触角が10°以下の場合,○:接触角が11?30°の場合 △:接触角が31?40°の場合,×:接触角が41度以上の場合」 (A-6) 「【0037】 【表2】 」 (3)引用発明 上記刊行物Aにおいて,特許請求の範囲の記載(A-1)と対比しつつ,実施例に係る(A-2)?(A-4)の記載をみると,実施例20として,次の発明が記載されているといえる。 「カルボキシル基を有する水溶性有機高分子D(平均分子量60000のポリアクリル酸(ロームアンドハース社製:アキュマー1510,固形分25%))と, コロイダルシリカJ(日産化学(株)製:スノーテックスST-C(固形分20%))と, 光触媒用酸化チタンH(STS-21(石原産業(株)製:固形分40%))と, を含有する,親水性塗料組成物。」(以下,「引用発明」という。) (4)対比 そこで,本願発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「コロイダルシリカJ」は,「日産化学(株)製:スノーテックスST-C」であるが,このコロイダルシリカは, (a)例えば,特開平7-118573号公報(参考文献1;【0016】参照。)に記載されているように,塩基性触媒で形成されたコロイダルシリカといえるものであり, (b)また,例えば,特開平5-311123号公報(参考文献2;【0030】参照。)に記載されているように,シラノール基を有するものであり, (c)さらには,例えば,上記参考文献2(【0030】など参照。)及び特開平11-20104号公報(参考文献3;【0028】(なお,「スノーテックスST-C」は,「スノーテックス-C」とも表記される(『ST』は「スノーテックス」の略記)参照。)に記載されているように,平均粒径が10?20nm程度である。 したがって,引用発明の「コロイダルシリカJ」は,本願発明における「塩基性触媒を用いて形成されたコロイダルシリカゾル(A)」であって,「前記コロイダルシリカゾル(A)のシリカが,表面にシラノール基(-Si-OH)を有する平均粒子径1nm?200nmの超微粒子形状のシリカであり」に相当するといえる。 また,引用発明の「水溶性有機高分子D(平均分子量60000のポリアクリル酸(ロームアンドハース社製:アキュマー1510,固形分25%))」は,『水溶性』で『高分子』とされている「ポリアクリル酸」であるから,「親水性」であってかつ「アクリル系ポリマー」といえることは明らかであり,本願発明の「親水性ポリマー(B)」として特定されている1選択肢である「親水性アクリル系ポリマー」に相当する。 そして,引用発明に係る塗料組成物(実施例20)により形成された親水性被膜の水に対する接触角は,【表2】(A-6)の記載に加えて【0035】(A-5)の「(評価基準)」の記載を参酌すると「10°以下」とされるものであって,本願発明における「接触角が20°以下であり」に相当するものである。 そうすると,本願発明と引用発明とは,ともに 「塩基性触媒を用いて形成されたコロイダルシリカゾル(A)と親水性ポリマー(B)とを必須成分として含有している塗料であって, 前記コロイダルシリカゾル(A)のシリカが,表面にシラノール基(-Si-OH)を有する平均粒子径1nm?200nmの超微粒子形状であり, 前記親水性ポリマー(B)が,親水性アクリル系ポリマーであり, 該塗料により形成された層の水に対する接触角が20度以下である塗料。」 である点で一致し,以下の点で相違する。 [相違点1]本願発明は,帯電防止塗料であって,該帯電防止塗料により形成された帯電防止層のヘイズ値が1.0未満であるのに対して,引用発明は親水性塗料組成物であって,ヘイズ値に言及がない点。 [相違点2]本願発明は,酸化チタンについて特定されていないのに対して,引用発明では必須成分とされている点。 (5)判断 以下,上記相違点について検討する。 ・[相違点1]について 基材表面を親水性とすることにより,帯電防止性や防曇性が付与されることは,当業者にとって本願出願前より周知である(例えば,特開平2-254150号公報(参考文献4;「b.従来の技術」の項),及び,特開昭61-98746号公報(参考文献5;「発明の属する技術分野」)参照)から,親水性被膜を形成する親水性塗料組成物を,帯電防止塗料として使用することは当業者が容易に想到しうることである。 また,親水性に基づく帯電防止能は,親水性の大小と相関するものであること,及び,ヘイズ値は曇りの程度を表す数値であることから,かかる値が防曇性などに影響を与える親水性の大小とも相関することは,ともに当業者にとって周知の事項である。したがって,ヘイズ値自体が親水性,ひいては帯電防止性と相関することは当業者にとって明らかなことといえるので,このようなヘイズ値を指標として帯電防止塗料を特定することも当業者が容易になし得ることといえ,しかも本願発明で特定されている値自体も従来技術と比較して格別なものではない(例えば,特開2003-82272号公報(参考文献6;各実施例),特開2002-161239号公報(参考文献7;各実施例),特開2002-226588号公報(参考文献8;各実施例)参照。)。 したがって,引用発明に係る親水性塗料組成物を,帯電防止塗料として使用して,さらに該塗料により形成した被膜の帯電防止性が一定以上のものであることを,ヘイズ値を指標として「1.0未満」であると特定することは,当業者が容易になし得ることである。 ・[相違点2]について 本願発明は,酸化チタンについて特定されてはいないものの, (i)本願発明においては,「…コロイダルシリカゾル(A)と親水性ポリマー(B)とを必須成分として含有している…」と,(A)成分,(B)成分以外の他の成分の存在を排除しているものとは解されないことに加えて, (ii)本願明細書【0025】には,「酸化チタンなどの金属酸化物」が必要に応じて添加されていてもよい旨の記載があることから, 本願発明においても酸化チタンを添加する場合も必ずしも排除されていないものと解される。 したがって,上記相違点は実質的な相違点とはいえない。 また,本願発明により,当業者が予期し得ない効果が奏されたものとすることもできない。 よって,本願発明は,刊行物Aに記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 なお,請求人は,審判請求書において,本願発明のコロイダルシリカ(A)と上記刊行物A(原審の引用文献3)の「スノーテックスC」に関し, 「補正によって,本願発明で使用するコロイダルシリカゾル(A)を,組成式をもって規定すると同時に,その表面に,多数のシラノール基(-Si-OH)を有するものであることを明確に規定した結果,本願発明で使用するコロイダルシリカゾル(A)は,引用文献3の記載されている従来のシリカ(SiO_(2))を主体(20%程度)とするスノーテックス等とは異なるものであることがより明確になった」旨主張している(審判請求書(3-1))。 しかしながら,まず,請求人が前提とする補正は,上記2において記載したように,旧特許法第17条の2第4項の規定に反するものであって,却下されるべきものであったから,かかる補正を前提とする主張は採用できない。 仮に,かかる補正を前提としても,以下の理由により,本願発明が特許性を有するものになるとはいえない。 すなわち,「コロイダルシリカの組成式が規定された」点に関しては,刊行物Aの「スノーテックスC」も,本願各実施例で使用されている「MKCシリケートMSH6」も,ともに明細書等において組成式が明らかにされているものではないことから,上記補正により規定される組成式が,本願実施例で使用されている「MKCシリケートMSH6」に相当するものであることも,また,刊行物Aの「スノーテックスC」には相当しないものであることも,いずれも不明であるといわざるを得ないので,コロイダルシリカの組成式が上記補正のように規定されたからといって,これをもって本願発明の新規性・進歩性が明らかになったとはいえないし,また,そのような組成式が規定された発明に関して,本願明細書の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する記載要件を具備するか否か,及び,本願特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する記載要件を具備するか否か,が明らかともいえない。 さらに,「表面に,多数のシラノール基(-Si-OH)を有するものであることを規定した」点に関しては,刊行物Aの「スノーテックスC」を含むコロイダルシリカは,通常,表面に「5?6個/nm^(2)」(例えば,特開2001-158165号公報(参考資料9;【0006】参照))といった,ある意味『多数』といえるシラノール基を有するものであることから,「表面に多数のシラノール基を有する」旨の記載を追加する補正をしたとしても,それによって本願発明の新規性・進歩性が明らかになるものとはいえない。 したがって,仮に,請求人の主張でいう『補正』がなされたとしても,拒絶の理由が解消し,特許性を具備するものになるとはいえない。 (6)むすび 以上のことから,本願請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものであるので,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-02-27 |
結審通知日 | 2013-03-05 |
審決日 | 2013-03-18 |
出願番号 | 特願2004-273104(P2004-273104) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C09D)
P 1 8・ 572- Z (C09D) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 牟田 博一 |
特許庁審判長 |
星野 紹英 |
特許庁審判官 |
目代 博茂 松浦 新司 |
発明の名称 | 帯電防止塗料、帯電防止シートおよびその製造方法 |
代理人 | 阿部 寛志 |
代理人 | 阿部 寛志 |
代理人 | 近藤 利英子 |
代理人 | 近藤 利英子 |