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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1273387 |
審判番号 | 不服2011-2836 |
総通号数 | 162 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-06-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-02-08 |
確定日 | 2013-05-02 |
事件の表示 | 特願2001- 98290「組織修復剤」拒絶査定不服審判事件〔平成14年10月 9日出願公開、特開2002-293729〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成13年3月30日を出願日とする出願であって、平成22年7月27日付けで拒絶理由が通知され、同年9月30日受付けで手続補正書と意見書が提出されたが、同年10月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年2月8日に拒絶査定不服審判の請求がされ、同年4月6日受付けで手続補正書(方式)が提出されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成22年9月30日受付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定された以下のとおりのものと認められる。 「【請求項1】 コウジ酸および/またはコウジ酸グルコシド、コウジ酸マンノシド、コウジ酸フラクトシド、コウジ酸マルトシド、コウジ酸グルコサミド、コウジ酸メチル、コウジ酸エチル及びコウジ酸ステアリルから選ばれたコウジ酸誘導体の1種以上を有効成分とすることを特徴とするリポキシゲナーゼ活性阻害作用を有する組織修復剤。」 第3 引用刊行物およびその記載事項 原査定で引用され、本願出願前に頒布された刊行物である刊行物1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。 刊行物1:特開平10-212225号公報(原査定の引用文献2) (1)刊行物1に記載された事項 [1a]「【請求項1】 コウジ酸および/またはその誘導体を有効成分とすることを特徴とする抗シワ剤。」(【特許請求の範囲】) [1b]「【0004】 【本発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、角層の乾燥性変化に由来するシワを防いでくすみを無くす安全性の高い抗シワ剤を提供することにある。」(段落【0004】) [1c]「【0008】コウジ酸誘導体としては、例えば、特公昭60-10005号公報、特公平1-45472号公報、特公平3-74229号公報、特公昭58-22151号公報、特公昭58-22152号公報に開示されているコウジ酸のエステル化物およびコウジ酸の2位の-CH_(2) OH基に糖類を結合させることによって、コウジ酸分子を安定化させたコウジ酸誘導体など公知のものを単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。」(段落【0008】) [1d]「【0013】<試験例1>レプリカ法による皮膚表面の観察測定 a)試験方法 紫外線照射によりレプリカスコアの1の評価になった肌(皮溝・皮丘の消失があり、広範囲の各層の剥離が認められるもの)を有する50名の被験者をランダムに2群に振り分け、第1群には処方例1で調製したクリームを、第2群には基剤(処方例1のクリームから有効成分コウジ酸を除いたもの)を0.3±0.1g、1日2回、12時間おきに塗布し、塗布開始時と塗布後1週間の皮膚の表面状態をレプリカに採り、その結果を実体顕微鏡(20倍)にて観察した。レプリカは、熊谷らの方法〔SCCJ.Vol 19,No.1(1985)P.9ないし19〕に準拠して皮膚表面に速乾性のシリコン系合成ゴムを使用してネガレプリカを採り、これにポリサルファイド系合成ゴムを充填してポジレプリカを採った。また、被験者の肌診断を目視で行い肌のくすみ度合を併せて評価した。 【0014】b)試験結果 クリーム使用前の皮膚表面のレプリカの判定に対し、本発明のクリームを塗布した皮膚は著明な皮膚の表面状態の改善が認められた。結果を表1に示す。 【0015】 【0016】<皮膚表面状態の評価分類> 評価1:皮溝・皮丘の消失、広範囲の角層の剥離が認められる。皮膚表面の観察結果、くすみが激しい。 評価2:皮溝・皮丘が不明瞭であり、角層の剥離が認められる。皮膚表面の観察結果、かなりくすみがある。 評価3:皮溝・皮丘は認めるが、平坦であり一方向に流れている。皮膚表面の観察結果、ややくすんでいる。 評価4:皮溝・皮丘が明瞭である。皮膚表面の観察結果、ほとんどくすみが感じられない。 評価5:皮溝・皮丘が鮮明で網目状に整っている。皮膚表面の観察結果、くすみがなく透明感が感じられる。 上記結果から明らかなとおり、コウジ酸は優れたくすみ防止効果を有することが立証された。」(段落【0013】?【0016】) [1e]「【0020】 【処方例】以下に本発明の抗シワ剤の処方例を示す。処方例中、「適量」とは、処方全体で100重量%になる割合を意味する。 <処方例1>クリーム(1) (重量%) 1.コウジ酸 1.00 2.ヒアルロン酸ナトリウム水溶液 2.00 3.ポリエチレングリコール400 3.00 4.ポリオキシエチレンセチルエーテル(25E.O.) 5.00 5.ステアリン酸 5.00 6.アボカド油 1.00 7.アルモンド油 10.00 8.dl-ピロリドンカルボン酸ナトリウム液 5.00 9.パラオキシ安息香酸エステル 0.20 10.エデト酸二ナトリウム 0.01 11.精製水 適 量 【0021】 <処方例2>クリーム(2) (重量%) 1.コウジ酸 5.00 2.4-tert-ブチル-4’- メトキシ-ジベンゾイルメタン 1.50 3.ホホバアルコール 1.00 4.1,3-ブチレングリコール 0.50 5.ジメチルシロキサン・メチル 3.00 (ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体) 6.ホホバ油 7.00 7.デカメチルシクロペンタンシロキサン 3.00 8.オクタメチルシクロテトラシロキサン 3.00 9.ジメチルポリシロキサン 5.00 10.アスコルビン酸ナトリウム 0.04 11.1%ヒアルロン酸ナトリウム水溶液 2.00 12.エデト酸二ナトリウム 0.01 13.精製水 適 量 【0022】・・・ 【0023】 <処方例4>乳液(2) (重量%) 1.コウジ酸 0.50 2.サリチル酸エチレングリコール 0.10 3.バチルアルコール 3.50 4.アスコルビン酸 2.00 5.ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミン 2.00 6.ステアリン酸 0.50 7.ミリスチン酸 0.50 8.アボカド油 4.00 9.微粒子酸化チタン 0.04 10.パラオキシ安息香酸エステル 0.20 11.ヒアルロン酸ナトリウム 5.00 12.オウゴンエキス 0.14 13.エデト酸二ナトリウム 0.01 14.精製水 適 量 【0024】 <処方例5>化粧水 (重量%) 1.コウジ酸グルコシド 7.00 ・・・ 【0025】 <処方例6>クリームパック (重量%) 1.コウジ酸エチル 2.00 2.コウジ酸 1.00 3.ポリエチレングリコール1500 5.00 4.ステアリン酸ジエタノールアミド 5.00 5.ステアリン酸 0.50 6.ミリスチン酸 15.00 7.ヤシ油 0.04 8.ヒマワリ油 0.20 9.パラオキシ安息香酸エステル 5.00 10.エデト酸二ナトリウム 0.01 11.精製水 適 量 【0026】・・・ 【0027】 <処方例8>パップ剤 (重量%) 1.コウジ酸フラクトシド 0.50 ・・・ 【0028】 ・・・ 上記の処方例1ないし9は、いずれも表に示したのと同様に、本発明の目的において満足する効果を有する製剤であることが確認された。」 (段落【0020】?【0028】) [1f]「【0029】 【発明の効果】本発明によれば、コウジ酸および/またはその誘導体を含有した、抗シワ剤が提供され、この抗シワ剤は、角層の乾燥性変化に由来する小ジワを防ぐことによって持続的に肌の透明度を保持することができる安全性に優れた化粧料である。」(段落【0029】) 第4 対比・判断 (1)刊行物1記載の発明 上記[1a]の記載によれば、刊行物1には、以下の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。 「コウジ酸および/またはその誘導体を有効成分とする抗シワ剤。」 (2)本願発明と刊行物1発明との対比・検討 (ア)刊行物1発明の「コウジ酸および/またはその誘導体」は、上記「誘導体」についての「コウジ酸誘導体としては、例えば、・・・コウジ酸のエステル化物およびコウジ酸の2位の-CH_(2) OH基に糖類を結合させることによって、コウジ酸分子を安定化させたコウジ酸誘導体など公知のものを単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。」との記載([1c]参照)、及び処方例5、6、8に「コウジ酸グルコシド」、「コウジ酸エチル」、「コウジ酸フラクトシド」が用いられている([1e]参照)ことから鑑みると、本願発明の「コウジ酸および/またはコウジ酸グルコシド、コウジ酸キシロース、コウジ酸フラクトシド、コウジ酸マルトシド、コウジ酸エチル及びコウジ酸ステアリルから選ばれたコウジ酸誘導体の1種以上」のうち、「コウジ酸および/またはコウジ酸グルコシド、コウジ酸フラクトシド及びコウジ酸エチルから選ばれたコウジ酸誘導体の1種以上」で一致する。 (イ)刊行物1には、刊行物1発明の「抗シワ剤」について、「本発明によれば、コウジ酸および/またはその誘導体を含有した、抗シワ剤が提供され、この抗シワ剤は、角層の乾燥性変化に由来する小ジワを防ぐことによって持続的に肌の透明度を保持することができる安全性に優れた化粧料である。」([1f]参照)と記載されており、一方、本願明細書の段落【0048】には、本願発明の「リポキシゲナーゼ活性阻害作用を有する組織修復剤」について、「本発明によれば、コウジ酸および/またはその誘導体として・・・から選ばれたコウジ酸誘導体の1種以上を含有した化粧料が提供され、この化粧料は、コウジ酸類の新規な特性であるリポキシゲナーゼ阻害作用に基づく組織修復機能によって皮膚本来の機能を回復・正常化することができ、特に透明感と光輝性のある健康な肌を形成し得る安全性に優れた組織修復剤である。」と記載されているから、両発明は「化粧料」である点で共通している。 したがって、両発明は、「コウジ酸および/またはコウジ酸グルコシド、コウジ酸フラクトシド及びコウジ酸エチルから選ばれたコウジ酸誘導体の1種以上を有効成分とする化粧料。」という点で一致し、以下の点で一応相違する。 (相違点1)「化粧料」が、本願発明では「リポキシゲナーゼ活性阻害作用を有する組織修復剤」であるのに対し、刊行物1発明では「抗シワ剤」である点 上記相違点1について検討する。 刊行物1発明の「抗シワ剤」は、角層の乾燥性変化に由来するシワを防ぐことによって「くすみを無く」し([1b]参照)「持続的に肌の透明度を保持することができる安全性に優れた化粧料」([1f]参照)であって、処方例1のクリーム(処方は[1e]を参照)を塗布した皮膚では、「評価5:皮溝・皮丘が鮮明で網目状に整っている。皮膚表面の観察結果、くすみがなく透明感が感じられる。」とのように、皮膚の表面状態が著明に改善されることが確認されている([1d]参照)。 一方、本願発明の「リポキシゲナーゼ活性阻害作用を有する組織修復剤」とは、本願明細書の段落【0001】に「本発明は、コウジ酸および/またはその誘導体を有効成分とすることを特徴とした化粧料に関するものであり、さらに詳しくは、コウジ酸の有する組織修復機能、とりわけリポキシゲナーゼ阻害作用によって生体内組織の損傷を修復し、ひいては内面から皮膚本来の機能を回復・正常化するのみならず、上皮細胞の光線透過性を高めて皮膚の輝きを増す組織修復剤に関する。」と記載され、さらに段落【0031】?【0035】の「<試験例2> ハーフフェイス法による皮膚機能改善効果」では、「30名のくすみ肌タイプの女性」を対象にして、パップ剤とした本願発明を適用したところ、肌の透明度と光輝性が向上し、正常またはそれに近い肌質になったという、皮膚機能改善効果が確認されている。 してみると、刊行物1発明が奏する、肌のくすみを無くして透明度を持続的に保持するという、皮膚の表面状態の著明な改善効果は、本願発明が奏する皮膚機能改善効果と実質的に相違するものでなく、さらに、刊行物1発明において上記の効果が確認されている処方例1のクリームは、本願発明における処方例1のクリームと同一の処方で調整されており、その他にも刊行物1発明の処方例2のクリーム、処方例4の乳液、処方例6のクリームパックは、本願発明の処方例2、4、6のものとそれぞれ同一である。 刊行物1ではリポキシゲナーゼ阻害作用についての言及がなされていない。これに対して、本願明細書では、段落【0028】?【0030】の「<試験例1> リポキシゲナーゼ阻害活性試験」にて、コウジ酸がリポキシゲナーゼ阻害作用を示す試験結果が記載され、この結果から「生体内において、組織の損傷に対する抑制効果が示唆される。」(段落【0029】)と述べられているものの、「リポキシゲナーゼ活性阻害作用」と、生体内の「組織の損傷に対する抑制効果」つまり「組織修復機能」との関連性が客観的な実験等により裏付けられているものではないため、「組織修復機能」については推測の域を出るものではない。さらに、上記試験例1に続く試験例2では、先に述べたようにコウジ酸を含むパップ剤の「皮膚機能改善効果」が示されているものの、試験例2が試験例1と関連するような記載はされておらず、上記「皮膚機能改善効果」が「リポキシゲナーゼ阻害作用」に起因するとまで特定することはできない。 したがって、本願発明は「リポキシゲナーゼ活性阻害作用を有する組織修復剤」であるものの、「リポキシゲナーゼ阻害作用」と上記「組織修復機能」及び「皮膚機能改善効果」との関連性が明確でないのみでなく、「組織修復剤」として、上記の皮膚機能改善効果以外に生体内組織の損傷を修復し得ることが実験等で裏付けられているものでもないから、本願発明と刊行物1発明の「抗シワ剤」とは単なる文言上でのみ相違するものであって、物(処方)自体及び皮膚上で奏される作用効果において実質的に相違するものでないと言わざるを得ない。 仮に、本願発明の作用効果が「リポキシゲナーゼ阻害作用」に基づくものであるとしても、「リポキシゲナーゼ阻害作用」を発見したことで新たな用途が提供されたというものでもないから、本願発明はコウジ酸および/またはコウジ酸誘導体の新たな作用機序を見出したに過ぎず、刊行物1発明と相違するものでない。 よって、相違点1は実質的な相違点とは認められない。 なお、コウジ酸がリポキシゲナーゼ阻害作用を有することは公知である。 例えば本願出願前の刊行物であるFood Factors for Cancer Prevention, (1997), 355-358に、Hirota et al., ' Food factors from fermented foods: isolation of monascin, ankaflavin, and kojic acid as lipoxygenase inhibitors from beni-koji and koji 'のタイトルで以下のように記載されている。 「Our research group, which focused on beni-koji, koji, and lipoxygenase inhibitors, has isolated monascin, ankaflavin, and kojic acid as human 5-lipoxygenase inhibitors. The IC_(50) values of monascin, ankaflavin, and kojic acid were 104, 25, and 248 μM against human 5-lipoxygenase, respectively.」(第355頁左欄「Summary.」の第7?11行)(当審訳:我々の研究グループは、紅麹、麹及びリポキシゲナーゼ阻害剤に注目し、モナシン、アンカフラビン、コウジ酸をヒト5-リポキシゲナーゼ阻害剤として単離した。ヒト5-リポキシゲナーゼに対する、モナシン、アンカフラビン、コウジ酸の各IC_(50)値は、それぞれ104、25、248 μM であった。) 第5 むすび 以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。 したがって、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-02-26 |
結審通知日 | 2013-03-05 |
審決日 | 2013-03-18 |
出願番号 | 特願2001-98290(P2001-98290) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(A61K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 弘實 謙二 |
特許庁審判長 |
川上 美秀 |
特許庁審判官 |
▲高▼岡 裕美 関 美祝 |
発明の名称 | 組織修復剤 |
代理人 | 久保山 隆 |
代理人 | 加藤 久 |