• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H03H
管理番号 1273399
審判番号 不服2011-27161  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-12-16 
確定日 2013-05-02 
事件の表示 特願2007-549719「バンドパスフィルタ構造を用いたマルチプレクサ」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 7月13日国際公開、WO2006/074291、平成20年 7月24日国内公表、特表2008-527808〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯及び本願発明

(1)手続の経緯
本願は,平成18年1月4日(優先権主張 2005年(平成17年)1月4日 米国)を国際出願日とする外国語特許出願であって,平成22年3月31日付けで拒絶理由が通知され,同年5月18日付けで意見書及び手続補正書の提出がなされ,平成23年3月22日付けで拒絶理由(最後)が通知され,同年5月2日付けで意見書の提出がなされ,平成23年11月1日付けで拒絶査定され,同年12月16日付けで拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正がなされ,平成24年12月17日付けで当審から拒絶理由を通知し,平成25年2月6日付けで意見書の提出がなされたものである。

(2)本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成23年12月16日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】
入力信号を、第1の周波数帯域における第1の出力信号と、第2の周波数帯域における第2の出力信号にのみ分離するためのマルチプレクサであって、
前記入力信号を受信するための入力端と、前記第1の出力信号を通過させるための出力端とを有すると共に、少なくとも第1のローパスフィルタと第1のハイパスフィルタとを備えた第1のバンドパスフィルタと、
前記入力信号を受信するための入力端と、前記第2の出力信号を通過させるための出力端とを有すると共に、少なくとも第2のローパスフィルタと第2のハイパスフィルタとを備えた第2のバンドパスフィルタとを備え、
前記第1の周波数帯域は、周波数スペクトルにおいて、前記第2の周波数帯域より低く、
前記第1のローパスフィルタは前記第1のハイパスフィルタに直列に結合され、
前記第1のバンドパスフィルタの前記入力端から前記第1のバンドパスフィルタの前記出力端への通過方向に見て、前記第1のローパスフィルタは前記第1のハイパスフィルタの手前に位置し、
前記第2のローパスフィルタは前記第2のハイパスフィルタに直列に結合され、
前記第2のバンドパスフィルタの前記入力端から前記第2のバンドパスフィルタの前記出力端への通過方向に見て、前記第2のハイパスフィルタは前記第2のローパスフィルタの手前に位置することを特徴とするマルチプレクサ。


第2 引用刊行物

1.引用刊行物
当審から通知した拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)において引用した特開平8-321738号公報(平成8年12月3日公開。以下「引用刊行物」という。)には,図面とともに次の事項が記載(下線は当審が付与。)されている。

(1) 「【請求項2】第1の通過周波数帯域(f1)を持つ第1の帯域通過フィルタと、前記第1の周波数帯域とは異なりかつ、前記第1の周波数帯域よりも高い第2の周波数帯域(f2)を持つ第2の帯域通過フィルタと、前記第1の帯域通過フィルタの入力に接続して前記第2の周波数帯域(f2)におけるインピーダンスを高インピーダンス値に変換する第1のインピーダンス整合回路と、前記第2の帯域通過フィルタの入力に接続して前記第1の周波数帯域(f1)におけるインピーダンスを高インピーダンス値に変換する第2のインピーダンス整合回路とを具備し、前記第1、第2の整合回路の接続されていない側の端子を接続して共通の入力端子とし、前記第1、第2の帯域通過フィルタの出力端子をそれぞれ第1の出力端子、第2の出力端子とすることによって、共通に伝送された前記第1、第2の周波数帯域(f1、f2)の信号を前記入力端子から入力し、各周波数帯域の信号成分をそれぞれ前記第1、第2の出力端子から別々に取り出すことを特徴とする二周波数分波器。」
(公報第2ページ第1欄)

(2) 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は二周波数帯域通過フィルタ及び二周波数分波器及び二周波数合成器に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、移動体通信機の開発が盛んになり、様々な周波数帯のシステムが運用されるようになってきた。そこで、通信機の無線部においても複数の周波数帯の信号を同一回路で扱う必要性が生まれてきている。中でも無線回路において重要な回路素子である帯域通過フィルタと周波数分波器(合成器)は複数の周波数帯を扱うには種々の困難を伴う。」
(公報第3ページ第3欄)

(3) 「【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記のような従来例の構成では二周波数帯域通過フィルタ及び二周波数分波器(合成器)のいずれにおいても切替スイッチの制御信号が必要となる。さらに切替スイッチの損失により全体の挿入損失特性も劣化するおそれがある。
【0006】本発明は上記従来の問題点を改善するためになされたもので、切替スイッチを使用せずに受動素子を用いて上記の特性を満足させるため、制御信号不要で、かつ、全体の挿入損失特性の良い二周波数帯域通過フィルタ及び二周波数分波器(合成器)を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために本発明の二周波数帯域通過フィルタは第1、第2の帯域通過フィルタの入出力端子に接続されたインピーダンス整合回路対とその両端を共通入出力端子で接続した構成である。
【0008】また、二周波数分波器(合成器)は第1、第2の帯域通過フィルタとそれぞれの入力(出力)端子に接続されたインピーダンス整合回路と整合回路の反対側を共通の入力(出力)端子で接続し、残りの各帯域通過フィルタの出力(入力)端子をそのまま取り出す構成である。
【0009】
【作用】本発明の二周波数帯域通過フィルタは上記の構成において、第1の帯域通過フィルタの通過帯域外に、第2の帯域通過フィルタの通過帯域が存在する際に、第1の帯域通過フィルタの入出力端子に接続したインピーダンス整合回路対によって、第1の帯域通過フィルタの第2の帯域通過フィルタの通過帯域に対応する周波数帯を高インピーダンスに変換する。同様に第2の帯域通過フィルタの通過帯域外に、第1の帯域通過フィルタの通過帯域が存在する際に、第2の帯域通過フィルタの入出力端子に接続したインピーダンス整合回路対によって、第2の帯域通過フィルタの第1の帯域通過フィルタの通過帯域に対応する周波数帯を高インピーダンスに変換する。これらを共通入出力端子で接続することによって、第1、第2のそれぞれの通過帯域に影響しない二周波数帯域通過フィルタを得る。
【0010】また、本発明の二周波数分波器(合成器)は上記の構成において、二周波数帯域通過フィルタと同様のインピーダンス変換を行なうが、それを分波器のときは入力側のみ、合成器の時は出力側のみに用いてそれぞれを共通端子で接続し、もう一方はそのまま出力(入力)端子第1、第2とすることで、分波器の場合は共通入力端子に共通に伝送される複数の周波数帯成分の信号を各帯域通過フィルタの通過帯域ごとに各フィルタの損失のみで分離し、合成器の場合は各帯域通過フィルタの通過帯域ごとの周波数成分を各フィルタの損失のみで合成する作用を持つ。
【0011】
【実施例】以下図面を参照しながら本発明の第1の実施例の二周波数帯域通過フィルタについて説明する。図1は本発明の第1の実施例の二周波数帯域通過フィルタの主要部ブロック図、図2?図6は本実施例を説明するための補助図である。図1において11は通過帯域950MHz帯の第1の帯域通過フィルタ、12は通過帯域1.9GHz帯の第2の帯域通過フィルタ、13は通過位相角φ1の第1の位相器、14は通過位相角φ2の第2の位相器、15は共通の入力端子、16は共通の出力端子である。
【0012】次にその動作を説明する。図2(a)(b)に第1、第2の各フィルタの入出力インピーダンスをスミスチャートにプロットしたものを示す。一般に帯域通過フィルタは通過帯域内においては特性インピーダンスに整合しているため、チャートの中心に近いインピーダンス特性を持つが、通過帯域外においてはチャートの外側に付くようなインピーダンス特性を持っている。図3に第1、第2の各フィルタの通過特性を示す。これらの各フィルタを単純に並列接続して、入出力端子を共通に接続すると、例えば第1のフィルタ11の通過帯域の信号が第2のフィルタ12のその帯域のインピーダンスが低いためにそちらへと流れ込んで損失するので、図4に示すような通過特性となり、挿入損失が劣化してフィルタ特性が崩れてしまう。そこで従来は図12の従来例に示すような切替スイッチ123を用いて、各フィルタのアイソレーションを取っている。本実施例では、従来例のような制御信号の必要な切替スイッチを使用せず、各フィルタの入出力端子に通過位相角φ1、φ2の位相器を接続する。図5(a)に示すように第1のフィルタ11において第2のフィルタ12の通過帯域1.9GHz帯のインピーダンスが高インピーダンス値となるように、第1の位相器13の位相角φ1の大きさを適当な角度に調整する。同様に図5(b)に示すように第2のフィルタ12において第1のフィルタ11の通過帯域950MHz帯のインピーダンスが高インピーダンス値となるように、第2の位相器14の位相角φ2の大きさを適当な角度に調整する。これらを並列接続して共通の入力端子15、出力端子16で接続する。この場合には第2のフィルタ側の950MHz帯のインピーダンスが開放に近い高インピーダンス値となるため第2のフィルタ側への950MHz帯成分の洩れはほとんどなく第1のフィルタの挿入損失特性も保存される。同様に第1のフィルタ側の1.9GHz帯のインピーダンスが開放に近い高インピーダンス値となるため第1のフィルタ側への1.9GHz帯成分の洩れはほとんどなく第2のフィルタの挿入損失特性も保存される。このため全体の通過特性は図6に示すような特性となる。
【0013】また、図7に本発明の第2の実施例の二周波数分波器を示す。図7において71は通過帯域950MHz帯の第1の帯域通過フィルタ、72は通過帯域1.9GHz帯の第2の帯域通過フィルタ、73は通過位相角φ1の第1の位相器、74は通過位相角φ2の第2の位相器、75は共通の入力端子、76は第1の出力端子、77は第2の出力端子である。これに関しては前述した第1の実施例と同じ原理で第1のフィルタ71において第2のフィルタ72の通過帯域1.9GHz帯のインピーダンスが高インピーダンス値となるように、第1の位相器73の位相角φ1の大きさを適当な角度に調整し、第2のフィルタ72において第1のフィルタ71の通過帯域950MHz帯のインピーダンスが高インピーダンス値となるように、第2の位相器74の位相角φ2の大きさを適当な角度に調整することで共通の入力端子75から第2のフィルタ側への1.9GHz帯成分の洩れがほとんどなく、第1のフィルタ側への950MHz帯成分の洩れがほとんどなくなる。これにより第1の出力端子76には950MHz帯成分のみが第1のフィルタの伝送損失だけで取り出せ、第2の出力端子77には1.9GHz帯成分のみがフィルタの伝送損失だけで取り出せるような二周波数分波器が構成できる。」
(公報第3ページ第4欄-第4ページ第6欄)

(4) 「【0015】次に本発明の第5の実施例の二周波数帯域通過フィルタについて説明する。図10は本発明の第5の実施例の二周波数帯域通過フィルタの主要部ブロック図である。101、102は第1の実施例と同じ定義の第1、第2の帯域通過フィルタ、103は通過帯域950MHz帯の低域通過フィルタ、104は通過帯域1.9GHz帯の高域通過フィルタ、105、106は共通の入力端子、出力端子である。第1の実施例と同様に第1のフィルタ101において1.9GHz帯のインピーダンスが高インピーダンス値となるように、低域通過フィルタ103のコンデンサ、コイル等の回路素子の素子値を調節して、1.9GHz帯の通過位相角の大きさを適当な角度にする。さらに、第2のフィルタ102においても950MHz帯のインピーダンスが高インピーダンス値とするように、高域通過フィルタ104のコンデンサ、コイル等の回路素子の素子値を調節して、950MHz帯の通過位相角の大きさを適当な角度にすることによって第1の実施例と同様の効果を得ることができる。また、図11に本発明の第6の実施例の二周波数分波器を示す。前述の第2の実施例の位相器を低域通過フィルタと高域通過フィルタにした構成で第5の実施例に示したのと同じ原理で第2の実施例と同様の効果を得ることができる。」
(公報第5ページ第7欄)

(5) 「【0024】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の二周波数帯域通過フィルタは基本的構成として、第1、第2の帯域通過フィルタと、第1、第2の帯域通過フィルタの入出力に接続する第1、第2のインピーダンス整合回路対を備え、第1、第2の帯域通過フィルタの入出力インピーダンスを変換して接続することにより、制御信号不要で、かつ全体の挿入損失の小さな二周波数帯域通過フィルタを実現できる。
【0025】さらに、二周波数分波器(合成器)においては、第1、第2の帯域通過フィルタの入力(出力)にのみ第1、第2のインピーダンス整合回路を接続することにより、制御信号不要で、かつ全体の挿入損失の小さな二周波数分波器(合成器)を実現することができる。」
(公報第6ページ第9欄)

上記載事項及び関連する図面を技術常識に照らすと,次のことがいえる。

ア 引用刊行物における図11記載の二周波数分波器において,低域通過フィルタ(113),すなわちローパスフィルタは,1.9GHz帯のインピーダンスが高インピーダンス値となるものであり,また,高域通過フィルタ(114),すなわちハイパスフィルタが,950MHz帯のインピーダンスが高インピーダンス値となるものであることは,明白である。

イ ローパスフィルタ(113)及び第1の帯域通過フィルタ(111)が,周波数帯域950MHzのバンドパスフィルタとして,ハイパスフィルタ(114)及び第2の帯域通過フィルタ(112)が,周波数帯域1.9GHzのバンドパスフィルタとして,それぞれ機能していることは明らかである。

ウ 引用刊行物記載の「二周波数分波器」は,入力信号を,二つの異なる周波数帯域,すなわち1.9GHz帯と950MHz帯とに分離するものであるから,「マルチプレクサ」といえる。
そして,該二周波数分波器も,入力信号を、950MHz帯における出力信号と、1.9GHz帯における出力信号にのみ分離するものであることは,明白である。また,950MHz帯が,1.9GHz帯より,周波数スペクトルにおいて,低いことは当然である。

上記ア-ウから,引用刊行物は,次の発明(以下「引用刊行物記載発明」という。)を開示しているといえる。

入力信号を,950MHz帯における第1の出力信号と,1.9GHz帯における第2の出力信号にのみ分離するためのマルチプレクサであって,
前記入力信号を受信するための入力端と,前記第1の出力信号を通過させるための出力端とを有すると共に,ローパスフィルタ(113)と第1の帯域通過フィルタ(111)とを備えた第1のバンドパスフィルタと,
前記入力信号を受信するための入力端と,前記第2の出力信号を通過させるための出力端とを有すると共に,ハイパスフィルタ(114)と第2の帯域通過フィルタ(112)とを備えた第2のバンドパスフィルタとを備え,
前記950MHz帯は,周波数スペクトルにおいて,前記1.9GHz帯より低く,
前記第1のローパスフィルタは前記第1の帯域通過フィルタに直列に結合され,
前記第1のバンドパスフィルタの前記入力端から前記第1のバンドパスフィルタの前記出力端への通過方向に見て,前記第1のローパスフィルタは前記第1の帯域通過フィルタの手前に位置し,
前記第2の帯域通過フィルタは前記第2のハイパスフィルタに直列に結合され,
前記第2のバンドパスフィルタの前記入力端から前記第2のバンドパスフィルタの前記出力端への通過方向に見て,前記第2のハイパスフィルタは前記第2の帯域通過フィルタの手前に位置することを特徴とするマルチプレクサ。

2.周知例
(1)周知例1
本件出願の優先日前に頒布された”堀敏夫 著,アナログ フィルタの回路設計法,総合電子出版 発行,1998年1月11日,p78-79”(以下「周知例1」という。) には,図2.21とともに次の記載がある。

「2.13.1 BPFの構成法
BPFの構成法には3種類あります。
(略)
《2》同じ次数のLPF(高いカットオフ周波数)とHPF(低いカットオフ周波数)を直列に接続する方法(特性は掛算されます)です。(後略)」

上記記載によれば,周知例1には,低域通過フィルタ(LPF)と高域通過フィルタ(HPF)を直列に接続した帯域通過フィルタ(BPF)が開示されている。

(2)周知例2
本件出願の優先日前に頒布された特開平2-283838号公報(平成3年12月13日公開。以下「周知例2」という。)には,図面とともに次の記載がある。

「 第2図は、従来のアナログ・フロント・エンド回路の回路構成図である。
このアナログ・フロント・エンド回路1は、例えばパーソナルコンピュータ等のデータ端末装置と電話回線等のアナログ信号系とのインターフェイスをとるモデムに、ディジタル信号処理部等と共に設けられるもので、データ端末装置からディジタル信号処理部を介して入力されたディジタル信号をアナログ信号に変換するディジタル/アナログ変換器(以下、D/A変換器という)2を有している。D/A変換器2には、スイッチ回路3,4,5が接続されている。スイッチ回路3,4,5は、その一端がD/A変換器2あるいはアナログ入力端子6に切換えられるものであり、その他端には、全二重通信用フィルタである低群帯域通過フィルタ7及び高群帯域通過フィルタ8と、半二重通信用フィルタである帯域通過フィルタ9とが接続されている。
低群帯域通過フィルタ7は、通過帯域fpが0?1600Hzの低群低域通過フィルタ(以下、低群LPFという)7aと、通過帯域fpが800?∞Hzの低群高域通過フィルタ(以下、低群HPFという)7bとで構成され、低群帯域通過フィルタフの通過帯域fpが800?1600H2となるように構成されている。
高群帯域通過フィルタ8は、通過帯域fpが0?2800Hzの高群低域通過フィルタ(以下、高群LPFという)8aと、通過帯域fpが2000?∞Hzの高群高域通過フィルタ(以下、高群HPFという)8bとで構成され、高群帯域通過フィルタ7の通過帯域fpが、2000?2800Hzとなるように構成されている。
帯域通過フィルタ9は、通過帯域fpが0?2300Hzの低域通過フィルタ(以下、LPFという)9aと、通過帯域fpが1100?∞Hzの高域通過フィルタ(以下、HPFという)9bとで構成され、帯域通過フィルタ9の通過帯域fpが1100?2300Hzとなるように構成されている。」
(公報第2ページ左上欄-同ページ左下欄)

上記記載によれば,周知例2には,低域通過フィルタと高域通過フィルタを直列に接続した帯域通過フィルタが開示されている。


第3 当審の判断

1.対比
本願発明と引用刊行物記載発明を比較すると次のことがいえる。

ア 引用刊行物記載発明における「950MHz帯」は「1.9GHz帯」より,周波数スペクトルにおいて,低いのであるから,「950MHz帯」,「1.9GHz帯」は,それぞれ,本願発明における「第1の周波数帯域」,「第2の周波数帯域」といえる。

イ 引用刊行物記載発明における「ローパスフィルタ(113)」,「ハイパスフィルタ(114)」は,ぞれぞれ,本願発明における「第1のローパスフィルタ」,「第2のハイパスフィルタ」に相当する。

ウ 引用刊行物記載発明における「第1の帯域通過フィルタ(111)」と,本願発明における「『第1のバンドパスフィルタ』のうちの『第1のローパスフィルタ』を除いた部分であって,『第1のハイパスフィルタ』を少なくとも含む部分」とは,「第1の周波数帯域以外の低帯域の信号を阻止する機能を有するフィルタ」である点で共通する。

エ 引用刊行物記載発明における「第2の帯域通過フィルタ(112)」と,本願発明における「『第2のバンドパスフィルタ』のうちの『第2のハイパスフィルタ』を除いた部分であって,『第2のローパスフィルタ』を少なくとも含む部分」とは,「第2の周波数帯域外の高帯域の信号を阻止する機能を有するフィルタ」である点で共通する。

よって,次の点で,本願発明と引用刊行物記載発明は一致,相違する。

[一致点]
入力信号を,第1の周波数帯域における第1の出力信号と,第2の周波数帯域における第2の出力信号にのみ分離するためのマルチプレクサであって,
前記入力信号を受信するための入力端と,前記第1の出力信号を通過させるための出力端とを有すると共に,第1のローパスフィルタと第1の周波数帯域以外の低帯域の信号を阻止する機能を有するフィルタとを備えた第1のバンドパスフィルタと,
前記入力信号を受信するための入力端と,前記第2の出力信号を通過させるための出力端とを有すると共に,第2の周波数帯域外の高帯域の信号を阻止する機能を有するフィルタと第2のハイパスフィルタとを備えた第2のバンドパスフィルタとを備え,
前記第1の周波数帯域は,周波数スペクトルにおいて,前記第2の周波数帯域より低く,
前記第1のローパスフィルタは前記第1の周波数帯域以外の低帯域の信号を阻止する機能を有するフィルタに直列に結合され,
前記第1のバンドパスフィルタの前記入力端から前記第1のバンドパスフィルタの前記出力端への通過方向に見て,前記第1のローパスフィルタは前記第1の周波数帯域以外の低帯域の信号を阻止する機能を有するフィルタの手前に位置し,
前記第2の周波数帯域外の高帯域の信号を阻止する機能を有するフィルタは前記第2のハイパスフィルタに直列に結合され,
前記第2のバンドパスフィルタの前記入力端から前記第2のバンドパスフィルタの前記出力端への通過方向に見て,前記第2のハイパスフィルタは前記第2の周波数帯域外の高帯域の信号を阻止する機能を有するフィルタの手前に位置することを特徴とするマルチプレクサ。

[相違点1]
本願発明における「第1の周波数帯域外の低帯域の信号を阻止する機能を有するフィルタ」は,「第1のハイパスフィルタ」を少なくとも含むものであるのに対して,引用刊行物記載発明における「第1の周波数帯域外の低帯域の信号を阻止する機能を有するフィルタ」は,「第1の帯域通過フィルタ(111)」であって「第1のハイパスフィルタ」を少なくとも含むものであるとは限らない点。

[相違点2]
本願発明における「第2の周波数帯域外の高帯域の信号を阻止する機能を有するフィルタ」は,「第2のローパスフィルタ」を少なくとも含むものであるのに対して,引用刊行物記載発明における「第2の周波数帯域外の高帯域の信号を阻止する機能を有するフィルタ」は,「第2の帯域通過フィルタ(112)」であって「第2のローパスフィルタ」を少なくとも含むものであるとは限らない点。

2.検討
(1)相違点1,2について
帯域通過フィルタを,「ローパスフィルタ」と「ハイパスフィルタ」を直列に接続して構成することは,周知(例えば,周知例1,2等参照。)である。
一方,引用刊行物記載発明における「第1及び第2の帯域通過フィルタ」として,どのような構成のものを採用するかを当業者が適宜決めうることや,該第1及び第2の帯域通過フィルタとして,上記周知の「ローパスフィルタ」と「ハイパスフィルタ」を直列に接続した構成をも採用可能であることは,引用刊行物の記載と引用刊行物記載発明の構成に照らし,明らかである。
以上のことは,引用刊行物記載発明における「第1の帯域通過フィルタ」,「第2の帯域通過フィルタ」として,ローパスフィルタとハイパスフィルタを直列に接続した周知の帯域通過フィルタを採用することが,当業者が容易になしえたことであることを意味する。
すなわち,引用刊行物記載発明における「第1の周波数帯域外の低帯域の信号を阻止する機能を有するフィルタ」を,「第1のハイパスフィルタ」を少なくとも含むものとし,また,「第2の周波数帯域外の高帯域の信号を阻止する機能を有するフィルタ」を,「第2のローパスフィルタ」を少なくとも含むものとすることが,当業者が容易になしえたことであることを意味している。

(2)本願発明の効果
そして,本願発明のように構成したことによる効果も,引用刊行物記載発明及び周知技術から,当業者が予測できる範囲のものである。

(3)まとめ
したがって,本願発明(平成23年12月16日付け手続補正書の請求項1に記載された発明)は,引用刊行物記載発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)平成25年2月6日付け意見書における請求人の主張について
審判請求人は,平成25年2月6日付け意見書において,引用刊行物に記載の「第1の帯域通過フィルタ111」,「第2の帯域通過フィルタ」を,それぞれ「第1のハイパスフィルタ」,「第2のローパスフィルタ」に換えるような改変は,引用刊行物の記載からは考えられないことである旨主張しているが,該主張は,上記判断に影響しない。
なぜならば,仮に,審判請求人の上記主張が正しいとしても,そのことは,引用刊行物に記載の「第1の帯域通過フィルタ111」,「第2の帯域通過フィルタ」を,それぞれ「ローパスフィルタとハイパスフィルタを直列に接続した構成の第1の帯域通過フィルタ」,同様に「ローパスフィルタとハイパスフィルタを直列に接続した第2の帯域通過フィルタ」に改変することができないことを意味しないからである。
そして,そうである以上,上述した理由で本願発明の進歩性は否定される。

なお,当審は,審判請求人の上記主張が正しいと考えるものではないので,その点についても付言しておく。
すなわち,引用刊行物において,その第11図に示される構成が一旦発明として実現された以上,当業者はそれを基に,種々の改良や,無駄の排除を考えるのが普通であり,そのような当業者が普通にするであろう思考過程と,引用刊行物記載発明における「第1の帯域通過フィルタ111」,「第2の帯域通過フィルタ112」それぞれの役割,有する機能を考慮すれば,該「第1の帯域通過フィルタ111」,該「第2の帯域通過フィルタ112」を,それぞれ,「第1のハイパスフィルタ」,「第2のローパスフィルタ」に換えるような改変も,当業者は容易に想起すると考えられる。

よって,審判請求人の主張を採用することはできない。

第4 むすび

以上のとおりであるから,本願発明は,特許法第29条第2項の規定に該当し,特許を受けることができないものである。
したがって,他の請求項について,論及するまでもなく,本願は,拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり,審決する。
 
審理終結日 2013-02-28 
結審通知日 2013-03-05 
審決日 2013-03-19 
出願番号 特願2007-549719(P2007-549719)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H03H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野元 久道  
特許庁審判長 小曳 満昭
特許庁審判官 近藤 聡
佐藤 聡史
発明の名称 バンドパスフィルタ構造を用いたマルチプレクサ  
代理人 渡邊 和浩  
代理人 星宮 勝美  
代理人 城澤 達哉  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ