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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61F
管理番号 1273436
審判番号 不服2009-5175  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-03-09 
確定日 2013-05-10 
事件の表示 特願2001-534337「老齢関連の軟組織の欠陥の増強と修復」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 5月10日国際公開、WO01/32129、平成15年 6月 3日国内公表、特表2003-517858〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成12年(2000年)11月6日(パリ条約による優先権主張1999年11月5日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成21年3月9日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出されたものである。
これに対し、当審は平成21年3月9日付け手続補正について平成23年8月25日付けで補正却下の決定をするとともに、同日付けで拒絶理由を通知したところ、平成24年2月28日付けで意見書及び手続補正書が提出されている。

第2 本願発明
本願請求項1?27に係る発明は、平成24年2月28日付け手続補正書の特許請求の範囲1?27に記載された事項により特定されたものであるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「【請求項1】
生体外で複数の哺乳類の細胞が単離された後に、患者の組織の欠陥補修や増殖のための医用組成物の調整において生体外で単離された哺乳類の複数の細胞を使用する方法であって、
前記欠陥は、括約筋構造の機能不良、脂肪沈着(セルライト)の存在、異常に肥大した傷跡、真皮欠陥、皮下欠陥、筋膜、筋肉、皮欠陥、皮膚薄弱化、皮膚弛緩、火傷、傷、ヘルニア、靭帯破裂、腱破裂、禿頭、歯周の不調、歯周の病気、及び胸部組織の欠陥により構成されたグループから選択され、
前記方法は、生体外で単離された哺乳類の複数の細胞から成る組成物を、欠陥の場所の内部又はそれに接近した場所における組織の中に挿入する、
ことを特徴とする方法。」

第3 当審が通知した拒絶の理由
当審が補正前の請求項1に関して平成23年8月25日付けで通知した拒絶の理由のうち、拒絶理由3は、補正前の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

第4 当審の判断
上記拒絶理由通知に対し、請求人は平成24年2月28日付け手続補正書を提出して、請求項1の記載を上記「第2」で示したとおり補正した。
本願発明に関し、上記拒絶理由3が解消したか否かを、以下検討する。

1 刊行物の記載
本願優先日前に頒布された刊行物である特表平11-510069号公報(以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている(なお、下線は当審で付したものである。)。

(1) 2頁 特許請求の範囲第1、2、5項
「1.a)実質的に、免疫原性タンパク質を含有しない、自己の継代皮膚繊維芽細胞の懸濁物を提供する工程と、
b)下部隣接皮下または皮膚組織の増加により改善されやすい欠損を識別する工程と、そして
c)下部隣接組織内に有効量の懸濁物を注入して、組織を増加させる工程と、
を含んでなる、ヒト被験者の皮下または皮膚組織を長期間増加させる方法。
2.欠損が、しわ、妊娠線、陥没瘢痕、非外傷性の皮膚の陥没、または口唇の発育不全である、請求項1に記載の方法。
……
5.a)被験者の真皮の生検を行う工程と、
b)0.5%?20%の非ヒト血清を含む培地中で真皮の生検検体からの皮膚繊維芽細胞を継代し、脂肪細胞、ケラチノサイト、および細胞外マトリックスを実質的に含まない皮膚繊維芽細胞を提供する工程と、
c)継代した皮膚繊維芽細胞を無血清培地中で少なくとも約6時間、約30℃?約40℃でインキュベートする工程と、
d)インキュベートした繊維芽細胞をタンパク質分解酵素に暴露して、繊維芽細胞を懸濁する工程と、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。」

(2) 7頁15?27行
「3.発明の要約
本発明は、欠損部に下部隣接する真皮および皮下組織内に自己皮膚繊維芽細胞(autologous dermal fibroblast)の懸濁物の注入による被験者の皮膚の美容的および美的欠陥を修正する方法を提供する。この方法で矯正される典型的な欠損には、しわ、妊娠線、陥没瘢痕、非外傷性の皮膚の陥没、尋常性座瘡からのきず、および唇の形成不全がある。本発明の注入される細胞は、被験者と組織適合性があり、細胞培養系で継代して増加されている細胞である。好適な実施態様において、移植された細胞は、被験者から採取した生検の検体の培養物から得られる皮膚繊維芽細胞である。
本発明はさらに、継代された皮膚繊維芽細胞を培養培地中で実質的に免疫原性タンパク質を含まないようにする方法を提供し、その結果これらを皮膚の欠損の矯正に使用することができる。この方法は、増殖された繊維芽細胞を、タンパク質を含まない培地中で一定時間インキュベートする工程を含む。」

(3) 7頁最下行?10頁下から7行
「4.発明の詳細な説明
本発明は、一部分は、欠損に下部隣接する真皮および皮下組織を増加させるための理想的な材料は、通常、真皮中に存在する組織型の生細胞であるという認識に基づく。本発明はまた、所望の型の自己細胞の豊富な供給が、注入の数週間前に被験者から採取した生検検体を培養することにより得られるという認識に基づく。本発明はさらに、このような組織培養増殖の後、自己細胞は多量の抗原タンパク質を含有するであろうが、本出願の教示に従い、この抗原タンパク質を被験者に注入する前に除去することができるという認識に基づく。
4.1.注入可能な細胞懸濁物を得る方法
本発明は、培養液中で増殖させることができる任意の未分化の間充細胞を注入することにより実施することができる。好適な実施態様において、皮膚繊維芽細胞は容易に得られ増殖させることができ、そしてこれらは真皮および下部隣接組織中に普通に存在する細胞の型の1つであるため、皮膚繊維芽細胞が注入される。
皮膚繊維芽細胞培養は、皮膚の2×5mmの充分な厚さの生検検体から開始する。移植外科医や免疫学者に公知の同種移植片拒絶の現象のために、培養された繊維芽細胞は宿主と組織適合性を有することが必須である。その皮膚の欠損を矯正すべき被験者の生検検体を得て、この検体から繊維芽細胞を培養することにより、組織適合性を確保することができる。
培養を始める前に、生検検体は、抗生物質や抗真菌剤で繰り返し洗浄する。次に、表皮および皮下の脂肪細胞含有組織を取り、その結果得られる培養物を実質的に非繊維芽細胞を含まないようにし、真皮の試料をメスまたはハサミで細切する。検体片をピンセットで組織培養フラスコの乾燥表面上に1つずつ置き、5?10分の間付着させ、次に少量の培地を付着した組織断片をはがさないように注意しながら、ゆっくり加える。24時間インキュベーションした後、フラスコに追加の培地を入れる。T-25フラスコを使用して培養を開始する時は、培地の初期の量は1.5?2.0mlである。生検検体からの細胞株の樹立には通常2?3週間かかり、増殖するために、この時点で初期の培養容器から細胞をはがすことができる。
……
生検検体からの皮膚の繊維芽細胞の播種に適した任意の組織培養法を、本発明を実施するために、細胞の増殖に使用することができる。当業者に公知の技術は、R.I.Freshney編、ANIMAL CELL CULTURE: A PRACTICAL APPROACH(IRL Press,Oxford England,1986)およびR.I.Freshney編、CULTURE OF ANIMAL CELLS: A MANUAL OF BASIC TECHNIQUES,Alan R.Liss & Co.,New York,1987)に記載されており、これらは参考文献として本明細書に組み込まれる。
……
無血清培地中でのインキュベーションの最後に、細胞をトリプシン/EDTAによって組織培養フラスコからはがし、遠心分離と再懸濁してさらに充分に洗浄し、注入のために等量の注入可能な等張の生理食塩水で懸濁する。容量いっぱいに増殖させた六底T-150フラスコからは、約10^(6)個の細胞が産生され、これは約1.0mlの懸濁物を作製するのに充分である。
または、細胞を懸濁物の作製後18時間以内に注入するのであれば、4℃で輸送することもできる。フェノールレッドpH指示薬を含まず、輸送のためにウシ胎児血清を被験者の血清と置換することを除いて、等量の完全培地中に細胞を懸濁することができる(輸送培地)。細胞を吸引し、輸送培地に注入することができる。
細胞を懸濁する輸送培地の容量は、決定的に重要ではない。開業医が注入するつもりの繊維芽細胞の数、治療すべき欠損の大きさや数、および治療の結果を早く得たいという患者の要求の緊急度などの要因に依存して、開業医は細胞を大量の培地に細胞を懸濁し、各注入部位に対応する少量を注入することができる。」

(4) 11頁13行?13頁13行
「4.3.被験者への細胞の投与
本発明の細胞懸濁物は、ZYDERM(登録商標)やZYPLAST(登録商標)を使用するために当業者が現在用いているものと同じ技術を用いて、皮膚欠損の治療に使用することができる。細胞懸濁物は、前述の利点を有するアテロコラーゲンの代わりに使用することができる。下部隣接真皮および皮下組織を増やすための注入可能な材料の使用に関して代表的な教示は、外科の文献である。Gonzales,U.M.,1992,Aesthetic Plastic Surgery 16: 231-4; Nicolle,F.V.,1985,Aesthetic Plastic Surgery 9: 159-62; Pieyre,J.M.,1985,Aesthetic Plastic Surgery 9: 153-54(これらは参考文献として本明細書に組み込まれる)に見いだされる。
本発明の1つの実施態様である顔の微妙なラインの治療は、以下のように行う。治療する場所にアルコールをつけて、のばして緊張した表面にする。シリンジに細胞懸濁物を満たし、30ゲージの注射針をつける。皮膚のできるだけ表面に近い部分に針を挿入する。斜角の向きは決定的に重要ではない。うすく青白くなるまで弱く圧力をかけて皮内注射を行う。多数回、連続的に注射をする。
他の実施態様において輪筋(obicularis musculature)に注入物を入れて、口唇の形成不全を治療するか、または皮下組織に入れて深部皮下の欠損を治療する。
別の実施態様において、座瘡の瘢痕の広範な領域を、中部または深部真皮のレベルまで皮膚を掻爬して治療することができる。次に、掻爬した表面を覆うように繊維芽細胞を含有する凝集塊を作製し、繊維芽細胞を接種した側が掻爬された皮膚表面に配置されるように適用する。次に適用した凝集塊を外科用包帯剤(例えば、Xeroform(登録商標)、Adaptic(登録商標)または任意の非閉鎖性の外科用包帯剤)で覆う。
5.臨床経験の要約
上記の方法に従って、6人の患者が種々の皮膚欠損の治療を受けた。診断は以下の通りであった:笑いじわ(鼻唇ひだ)、2人の患者;口周囲のしわ、2人の患者;眉間の溝;陥没瘢痕;口唇形成不全;および光線性頬しわ。 各患者の前腕に、試験量の0.1mlの細胞懸濁物を投与した。2人の患者は、軽い紅斑を示したが、注入に対して他の反応の兆候はなかった。3週間後、皮膚の欠損部位に総量1.0mlの治療用注入を行なった。4週間後、何人かの患者に2回目の1.0mlの治療用注入を行なった。口唇を大きくする患者にのみ、同じ欠損を修復するために、2回目の注入を行い、他のすべての患者では各治療部位に1回のみ注入を行なった。
患者では紅斑はほとんど発生しないかまたは全くなく、即時型の全身性または局所静置の副作用の兆候もなかった。各患者は、注入後直ちに仕事をすることができ、各患者で直ちに改善が見られた。
注入に伴う不快感はほとんどなかった。不快感は、ウシのアテロコラーゲン注入に伴うものより小さかったと報告された。患者は治療に対して満足感を示し、他の欠損についてもさらに治療を受けたいという意志を示した。皮膚欠損の矯正は、治療のことは何も知らない患者の友人や仲間が気づくものであった。触診により、治療の証拠はある程度検出されるが、目に見える皮膚の治療の後遺症はない。
注入後6ヶ月間の試験期間中、遅延性の局所性または全身性の副作用はなかった。脱落期嚢腫症、変形、またはむらが出現した患者は1人もいなかった。最も重要なことは、ウシのアテロコラーゲン注入物は吸収されたであろうと予想される注入後6ヶ月の観察期間中、治療効果が縮減することは無かったということである。逆に、ある患者では治療効果は、長期追跡で時間とともに高くなっていた。長期間の改善が遅くなって現れることは、注入された繊維芽細胞が代謝活性を有し、注入部位に追加の細胞外マトリックスが蓄積されることを示している。
本発明は、本発明の個々の側面を例示するものとして記載した具体例によってその範囲が限定されるものではなく、機能的に均等な方法および成分は本発明の範囲内にある。実際に、本明細書に記載したもの以外に本発明の種々の修飾は、上述の記載から当業者には明らかであろう。そのような修飾は、添付の請求項の範囲内に含まれる。引用したすべての文献は、参考文献として本明細書に組み込まれる。」

2 引用例発明の認定、対比
引用例には、上記1、特に摘示事項(4)の記載からみて、次の発明(以下、「引用例発明」という。)が記載されているものと認められる。
「笑いじわ(鼻唇ひだ)、口周囲のしわ、眉間の溝、陥没瘢痕、口唇形成不全、又は光線性頬しわである皮膚欠損の治療のための、細胞懸濁物を使用する方法であって、皮膚の欠損部位に治療用注入を行うことを特徴とする方法。」

引用例発明の「細胞懸濁物」は、自己皮膚繊維芽細胞の懸濁物であること、及び、具体的には、被験者の生検検体を得、これから生体外で細胞を分離し、培養を経て得られたものであって、該懸濁物に複数の細胞が含まれていることが、上記1の摘示事項(1)?(3)に記載されるとともに、そのような懸濁物は細胞と生理食塩水等とを含むものであって組成物の形態をとることが明らかであり、また、被験者は患者であって、哺乳類の一種であるヒトにあたることも、上記1の摘示事項(3)や(4)に記載されている。そうすると、引用例発明の「細胞懸濁物」は、本願発明の「生体外で単離された哺乳類の複数の細胞」、又は「生体外で単離された哺乳類の複数の細胞から成る組成物」に相当する。
引用例発明の「笑いじわ(鼻唇ひだ)、口周囲のしわ、眉間の溝、陥没瘢痕、口唇形成不全、又は光線性頬しわである皮膚欠損の治療」について、引用例では、これらが「被験者の皮膚の美容的および美的欠陥」の修正や「皮膚欠損の矯正」としても表され(上記1の摘示事項(2)?(4)参照。)、笑いじわ等が皮膚組織の欠陥の補修対象とされるとともに、治療には細胞懸濁液を用いるから、治療の時期は該懸濁物を得た後であることが明らかである。そうすると、引用例発明の「笑いじわ(鼻唇ひだ)、口周囲のしわ、眉間の溝、陥没瘢痕、口唇形成不全、又は光線性頬しわである皮膚欠損の治療」は、本願発明の、「生体外で複数の哺乳類の細胞が単離された後」の「患者の組織の欠陥補修」に相当する。
引用例発明の「皮膚の欠損部位に治療用注入」は、皮膚の欠損部位において、その内部へ注入されるものであるから(上記1の摘示事項(1)及び(4)参照。)、本願発明の「欠陥の場所の内部における組織の中に挿入」に相当する。
そして、上で指摘したように、引用例発明の「細胞懸濁液」は、笑いじわ等の皮膚欠損の治療のために用いられる組成物であるから、本願発明で「医用組成物」として「調整」されるものといえる。

そこで、本願発明と引用例発明とを対比すると、両発明は
「生体外で複数の哺乳類の細胞が単離された後に、患者の組織の欠陥補修のための医用組成物の調整において生体外で単離された哺乳類の複数の細胞を使用する方法であって、
前記方法は、生体外で単離された哺乳類の複数の細胞から成る組成物を、欠陥の場所の内部における組織の中に挿入する、
ことを特徴とする方法。」
で一致するが、以下の点で相違する。
<相違点>
本願発明では、「欠陥」が「括約筋構造の機能不良、脂肪沈着(セルライト)の存在、異常に肥大した傷跡、真皮欠陥、皮下欠陥、筋膜、筋肉、皮欠陥、皮膚薄弱化、皮膚弛緩、火傷、傷、ヘルニア、靭帯破裂、腱破裂、禿頭、歯周の不調、歯周の病気、及び胸部組織の欠陥により構成されたグループから選択され」るのに対し、引用例発明では、これらに相当するものが「笑いじわ(鼻唇ひだ)、口周囲のしわ、眉間の溝、陥没瘢痕、口唇形成不全、又は光線性頬しわ」である点。

3 相違点についての判断
上記相違点について、以下、検討する。
引用例には、上記1の摘示事項(1)にあるように、「ヒト被験者の皮下または皮膚組織を長期間増加させる方法」として、「下部隣接皮下または皮膚組織の増加により改善されやすい欠損を識別」し、「下部隣接組織内に有効量の懸濁物を注入して、組織を増加させる」ことが記載されるとともに、具体的な欠損として「しわ、妊娠線、陥没瘢痕、非外傷性の皮膚の陥没、または口唇の発育不全」が記載され、そして、上記「懸濁物」とは「自己の継代皮膚繊維芽細胞の懸濁物」である。したがって、上記「方法」は引用例発明をその一態様として包含したものといえる。
ここで、「非外傷性の皮膚の陥没」とは、皮膚に外傷はなく、皮膚が陥没した状態を指すものと解されるから、少なくとも、本願発明における真皮欠陥、皮下欠陥、皮欠陥、又は皮膚薄弱化のいずれかに該当する状態にあるものといえる。一方、しわ、陥没瘢痕、及び口唇の発育不全については、具体的に引用例発明に含まれており、「懸濁物」を用いた治療により効果を奏したことが引用例に記載されたものである。
そうすると、本願発明における真皮欠陥、皮下欠陥、皮欠陥、又は皮膚薄弱化のいずれかに該当する「非外傷性の皮膚の陥没」を改善するため、しわ、陥没瘢痕、及び口唇の発育不全にかえて、「非外傷性の皮膚の陥没」に対して引用例発明を用いてみることは、当業者にとり格別困難な事項とはいえない。
そして、引用例発明はしわ等に対して治療効果を示すことを明らかにしており、非外傷性の皮膚の陥没に対しても同様に効果を示すことが期待できるものといえるところ、本願発明が引用例発明からみて格別優れた作用を示すことは明らかにされていない。

4 請求人の主張について
請求人は、当審が示した拒絶理由通知に対応して提出された平成24年2月28日付け意見書において、上記当審拒絶理由について、引用例発明では、細胞が細胞培養物内で継代培養される必要があり、また、細胞外マトリックスを含まないところ、本願発明は生体外で単離された複数の細胞を用いるものであり、継代培養された細胞を用いるものではない旨を主張する。
しかし、本願発明では、細胞に関して生体外で単離されることまでは限定されるものの、単離された細胞を継代培養する場合が除外されたわけではなく、本願発明で細胞外マトリックスの存在が必須のものとされているわけでもない。また、本願の発明の詳細な説明には、「本発明の実施」において、線維母細胞の自家移植のために使用される培養について、細胞は単層が得られるまで培養された後にトリプシンを用いて消化され、培養媒体中で再懸濁してより大きな培養容器に入れられることが記載され、更に培養が行われる旨が記載されたものといえる(段落【0055】及び【0056】)から、本願発明で用いられる細胞には、継代培養によって得られたものが含まれているものと解される。
したがって、上記請求人の主張は採用することができない。

5 小括
したがって、本願発明は、本願優先権主張の日前に頒布された刊行物である引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
それ故、他の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-06 
結審通知日 2012-06-13 
審決日 2012-06-27 
出願番号 特願2001-534337(P2001-534337)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川端 修宮部 愛子  
特許庁審判長 横尾 俊一
特許庁審判官 荒木 英則
内藤 伸一
発明の名称 老齢関連の軟組織の欠陥の増強と修復  
代理人 伊東 哲也  
代理人 齋藤 和則  

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