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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05K
管理番号 1273470
審判番号 不服2012-9805  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-05-28 
確定日 2013-04-30 
事件の表示 特願2008-131258「スクリーン印刷機,電子部品装着装置及び電子部品の実装ライン」拒絶査定不服審判事件〔平成21年12月 3日出願公開,特開2009-283504〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯の概略
本願は,平成20年5月19日に出願され,平成23年12月8日付けで拒絶の理由が通知され,平成24年2月10日付けで意見書が提出されたが,平成24年2月24日付けで拒絶査定がなされた。これに対し,平成24年5月28日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,同時に手続補正がなされた。

第2 平成24年5月28日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の結論]
平成24年5月28日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正後の請求項1に係る発明
平成24年5月28日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により,特許請求の範囲の請求項1は,
「【請求項1】
プリント基板に付された複数の基板認識マークを基板認識カメラが撮像して該プリント基板の位置を認識すると共にスクリーン認識カメラがスクリーンに付された複数のスクリーン認識マークを撮像して該スクリーンの位置を認識し,前記プリント基板とスクリーンとを位置合わせして,前記スクリーン上の塗布剤をスキージを移動させることにより前記プリント基板上にパターン孔を介して塗布するスクリーン印刷機からの前記認識されたそれぞれの基板認識マークとスクリーン認識マークとのズレ量に基づいて前記位置合わせしたそれぞれの前記基板認識マークに対するスクリーン認識マークのそれぞれの位置ズレ量を,前記塗布剤が塗布された前記プリント基板に付された前記基板認識マークを基板認識カメラで撮像して認識したそれぞれの前記基板認識マークの位置に加味して,擬似的な前記スクリーン認識マークのそれぞれの座標を得て,得られたそれぞれの座標を基準として,前記プリント基板の電子部品を搭載すべき位置を把握することを特徴とする電子部品装着装置。」
と補正された(なお,下線は,本件補正により補正された箇所を示す。)。
本願の願書に最初に添付した明細書の【0017】ないし【0022】等の記載からすると,上記補正は,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面に記載された事項の範囲内においてしたものであると認められるから,特許法17条の2第3項の規定に適合する。
そして,上記補正は,本件補正前の請求項2に記載した発明を特定するために必要な事項である「基板認識マーク」及び「スクリーン認識マーク」が「複数」付されていると限定するとともに,「位置ズレ量」を加味してプリント基板の電子部品を搭載すべき位置を把握する点に関し,「スクリーン印刷機からの前記認識されたそれぞれの基板認識マークとスクリーン認識マークとのズレ量に基づいて前記位置合わせしたそれぞれの前記基板認識マークに対するスクリーン認識マークのそれぞれの位置ズレ量を,前記塗布剤が塗布された前記プリント基板に付された前記基板認識マークを基板認識カメラで撮像して認識したそれぞれの前記基板認識マークの位置に加味して,擬似的な前記スクリーン認識マークのそれぞれの座標を得て,得られたそれぞれの座標を基準として,前記プリント基板の電子部品を搭載すべき位置を把握する」と限定するもので,本件補正前の請求項2に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,特許法17条の2第5項2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか)について,以下に検討する。

2 引用例に記載された事項
(1) 原査定の拒絶の理由に示された引用文献1である,特開2007-189029号公報には,「基板に電子部品を実装する実装システム,実装機,印刷機および電子部品の実装方法に関(し)」(【0001】),以下の事項が記載されている。
・「【0036】
マスク撮影カメラ251は,例えば照明を備えたCCDカメラ等からなり,カメラユニット25の上側に位置するマスクSを撮影するために上向きに設けられている。マスク撮影カメラ251は,新たなマスクSがセットされた際には,マスクSに設けられた位置基準マークS1や開口部S2を撮影してその位置を測定するようになっている。また,マスク撮影カメラ251は,クリーナーユニット26によってマスクSの清掃が行われた場合には,清掃状態を確認するためにマスクSの開口部S2等の撮影も行う。
【0037】
基板撮影カメラ252は,例えば照明を備えたCCDカメラ等からなり,カメラユニット25の下側に位置する基板Wを撮影するために下向きに設けられている。基板撮影カメラ252は,マスクSとの位置合わせのために,印刷ステージ21に固定された基板Wに設けられた位置基準マークW1を撮影して,その位置を測定する。また基板撮影カメラ252は,基板Wに設けられた識別マークW3を検出する。」
・「【0056】
またヘッドユニット14には,例えば照明を備えたCCDカメラ等からなる基板撮影カメラ18が設けられている。この基板撮影カメラ18は,この実装機1に搬入された基板Wに設けられた位置基準マークW1等を撮影して,その位置を測定する。また基板撮影カメラ18は,基板Wに設けられたIDマークを検出する。基板Wに設けられたIDマークは,各基板Wを個体識別して特定可能なID情報を表している。」
・「【0086】
またマスク撮影カメラ52により,マスクSに形成された複数の位置基準マークS1…や,さらにはもっぱらマスクSの伸びの検知のためマスクS上に形成された不図示の複数の位置基準マークが撮影され,画像処理部598により,その位置が測定される(ステップS12)。
【0087】
そしてマスク撮影カメラ52により,マスクSに形成された開口部S2…が撮影され,画像処理部598により,その位置が測定される(ステップS13)。この実施形態では,マスク撮影カメラ52および画像処理部598は,開口部位置測定手段として機能している。
【0088】
こうして開口部S2の位置(座標)が測定されれば,画像処理部598により,その開口部S2によって塗布されるペースト(クリームハンダ)の上に実装されるべき電子部品の中心座標が計算される(ステップS14)。
【0089】
図11(a)は,マスクの開口部の位置に基づいて計算される電子部品の中心座標の説明図である。同図に示すように,2つの開口部S2,S2によって塗布されるペースト(クリームハンダ)に跨って搭載される部品Cの中心座標C1は,マスクSにおける開口部S2の位置に応じて求められる。ここで計算される電子部品Cの中心座標C1は,開口部S2の位置を基準としたものであるため,以下,「開口部中心座標」と称する。この開口部中心座標は,マスクSにおける座標系,すなわちマスクSの位置基準マークS1によって規定される座標系で表現されるものである。
【0090】
こうして開口部中心座標が計算されれば,マスクSに形成された位置基準マークS1の位置と部品毎の開口部中心座標,複数の位置基準マークS1…等の座標,及び複数の位置基準マークS1…等の相互の間の距離(下記するマスクSの伸びの判断のための距離の基準データ)が,マスク開口情報記憶手段596に記憶されるとともに,サーバ通信手段597により,サーバコンピュータ9に送信され,サーバコンピュータ9の開口部位置記憶手段91に保存される(ステップS15)。この実施形態では,サーバ通信手段597は,測定により得られる開口部中心座標,複数の位置基準マークS1…等の座標,及び複数の位置基準マークS1…等の相互の間の距離の情報を送信する送信手段として機能している。」
・「【0095】
そして印刷機が起動すると(ステップS22),まず,バーコードリーダ253により,マスクSに形成された識別マーク(バーコード)S3が読み取られ,マスクID情報が取得される(ステップS23)。これにより,測定対象のマスクSが特定され,印刷機2に認識される。
【0096】
またマスク撮影カメラ251により,マスクSに形成された複数の位置基準マークS1…が撮影され,画像処理部298により,その位置が測定される(ステップS24)。
【0097】
続いて印刷機2の演算処理部291により,印刷機2に取り付けられたマスクSが,既に開口部の位置が測定され,開口部位置の測定データが記憶されているものであるか否かが判断される(ステップS25)。この判断に際しては,印刷機2自身のマスク開口情報記憶手段296の他,サーバ通信手段297により実装システムのネットワークを介してサーバコンピュータ9の開口部位置記憶手段91やマスク開口部測定装置5のマスク開口情報記憶手段596が参照される。
【0098】
開口部測定データがなければ(ステップS25でNO)(製作された直後で使用による伸びや歪のないマスクSについて,マスク開口部測定装置5によって測定されて得られるマスクSデータや実装位置データの無い場合),マスク撮影カメラ251により,マスクSに形成された開口部S2…が撮影され,画像処理部298により,その位置が測定される(ステップS23)。この実施形態では,マスク撮影カメラ251および画像処理部298は,開口部位置測定手段として機能している。
【0099】
開口部S2の位置(座標)が測定されれば,画像処理部298により,その開口部S2によって塗布されるペースト(クリームハンダ)の上に実装されるべき電子部品の中心座標(開口部中心座標)が計算される(ステップS27)。
【0100】
そしてマスクSに形成された位置基準マークS1…等,複数の位置基準マークS1…等の相互の間の距離,及び部品毎の開口部中心座標がマスク開口情報記憶手段296に記憶されるとともに,サーバ通信手段297により,サーバコンピュータ9に送信され,サーバコンピュータ9の開口部位置記憶手段91に保存される(ステップS28)。この実施形態では,サーバ通信手段297は,測定された開口部の位置情報を送信する送信手段として機能している。・・・
【0102】
一方,開口部測定データがある場合には(ステップS25でYES),画像処理部298により,測定されたマスクSの複数の位置基準マークS1間の距離が算出される(ステップS29)。この実施形態では,マスク撮影カメラ251および画像処理部298は,複数の位置基準マークS1間の距離を測定するマーク間距離測定手段として機能する。
【0103】
そして,演算処理部291により,現在の測定結果から算出された位置基準マークS1間の距離と,サーバコンピュータ9の開口部位置記憶手段91等に記憶されている距離の基準データとが比較される(ステップS30)。・・・
【0106】
一方,位置基準マークS1間の距離の変化が所定の許容範囲内である場合,すなわちマスクSに大きな伸び等が発生していない場合には(ステップS30でYES),過去の開口部測定データを使用できるため,マスクの開口部S2の位置測定の各ステップ(ステップS26?S28)をスキップする。
【0107】
こうして印刷に使用するマスクSの開口部の位置情報が保存された状態となれば,基板Wへのクリームハンダ等のペーストの印刷・塗布ステップに進む。
【0108】
具体的には,まず図示省略の基板搬入機等により印刷機2へ基板Wが搬入され,位置決めされる(ステップS31)。
【0109】
そして基板撮影カメラ252により,基板Wに形成された識別マークW3が読み取られ,基板ID情報が取得される(ステップS32)。これにより,印刷対象の基板Wが特定され,印刷機2に認識される。
【0110】
また基板撮影カメラ252により,基板Wに形成された複数の位置基準マークW1…が撮影され,画像処理部298により,その位置が測定される(ステップS33)。
【0111】
こうして基板Wの位置基準マークW1の位置が測定されると,既に測定済みのマスクSの位置基準マークS1に応じて,演算処理部291により,固定されているマスクSに対して基板Wの位置合わせを行う(ステップS34)。この位置合わせは,マスクSの位置基準マークS1によって規定されるマスクSの座標系と,基板Wの位置基準マークW1によって規定される基板Wの座標系とを一致させるように行われる。これにより,サーバコンピュータ9の開口部位置記憶手段91等に記憶されている開口部中心座標は,上述したようにマスクSの位置基準マークS1によって規定される座標系で表現されたものであるが,マスクSの座標系と基板Wの座標系を一致させることにより,開口部中心座標は基板Wの位置基準マークW1によって規定される座標系で表現されたものともなる。
【0112】
なおマスクSと基板Wの一方または両方に製造誤差や伸び等が発生し,マスクSおよび基板Wの印刷対象領域の全域については両者の座標系を一致させることができない場合がある。このような場合には,基板W上の回路パターンに対するペースト(クリームハンダ)の印刷位置ずれに過敏なたとえば微細部品の搭載領域を優先してマスクSと基板Wとの位置合わせを調整してもよい。このような調整は,測定されたマスクSおよび基板Wの位置基準マークS1,W1の位置および距離(伸び量)に応じて,演算処理部291によって自動的に行うことができる。あるいは,オペレータ等が目視により調整量を判断して,印刷機2に入力することで位置合わせを調整してもよい。特に新たな種類の基板Wの生産を開始する際には,マスクSや基板Wの微小な製造誤差等に対応するため,マスクSと基板Wの位置基準マークS1,W1に基づく位置合わせに対するオフセット調整量を設定するようにしてもよい。
【0113】
こうしてマスクSに対して基板Wの位置合わせが行われれば,基板WをマスクSへ密着させて(ステップS35),スキージ241を動作させてペースト(クリームハンダ)の印刷を実行する(ステップS36)。印刷が完了すれば基板WをマスクSから分離する(ステップS37)。
【0114】
そして,サーバ通信手段297により,印刷が行われた基板Wを特定可能な基板ID情報と,印刷に用いたマスクSを特定可能なマスクID情報とを関連付けてサーバコンピュータ9に送信し,使用マスク記憶手段92に保存させる(ステップS38)。このとき,上述したようにマスクSと基板Wの位置基準マークS1,W1の位置に応じた位置合わせに加えて,位置合わせの調整を行った場合には,その調整量も基板ID情報およびマスクID情報に関連付けて保存しておくようになっている。
【0115】
こうしてマスクSと基板Wとを関連付けた情報が保存されれば,印刷の完了した基板が搬出され(ステップS39),印刷ステップが終了する。なお同じマスクSを使用して次の基板Wへの印刷を続ける場合には,ステップS31から繰り返せばよい。」
・「【0118】
実装機1が起動すると(ステップS41),プログラムカウンタがクリアされる(ステップS42)。そして,印刷機2またはより上流側の実装機等からペースト(クリームハンダ)が印刷された基板Wが搬入され,所定の実装作業位置に位置決めされる(ステップS43)。
【0119】
基板Wが位置決めされると,基板撮影カメラ18により,基板Wに形成された識別マークW3が読み取られ,基板ID情報が取得される(ステップS44)。これにより,実装対象の基板Wが特定され,実装機1に認識される。・・・
【0121】
そして,演算処理部191により,この吸着された部品についての,印刷機2における印刷工程で使用されたマスクSの開口部中心座標が,サーバコンピュータ9の開口部位置記憶手段91からサーバ通信手段197を介して取得される(ステップS47)。具体的には,サーバコンピュータ9の使用マスク記憶手段92から,当該基板Wの印刷に使用したマスクSを特定するマスクID情報を検出し,そのマスクSにおける開口部中心座標が開口部位置記憶手段91から引き出される。ここで,当該基板Wの印刷に当たってマスクSと基板Wの位置基準マークS1,W1の位置に応じた位置合わせに加えて,位置合わせの調整が行われ,その調整量が使用マスク記憶手段92に保存されている場合には,その調整量も取得する。
【0122】
続いて,演算処理部191により,吸着された部品の基板W上における実装位置(搭載座標)が設定される(ステップS48)。この実装位置の設定は,生産プログラム(実装プログラム)において予め設定されている基板Wの回路パターンに応じた搭載座標を,マスクSの開口部S2の位置に基づいて算出される部品中心座標によって補正することによって行われる。この実施形態では,演算処理部191が,マスクSの開口部S2の位置に基づいて基板W上における電子部品の実装位置を設定する実装位置設定手段として機能する。ここで,当該基板Wの印刷に当たってマスクSと基板Wの位置基準マークS1,W1の位置に応じた位置合わせに加えて,位置合わせの調整が行われている場合には,その調整量も加味して実装位置が設定される。
【0123】
図11(b)は,基板Wに印刷・塗布されたペーストの位置に基づく電子部品の実装位置と,基板Wに形成された回路パターンに基づく電子部品の実装位置の説明図である。
【0124】
基板Wに塗布されたペースト(クリームハンダ)は,マスクSの開口部S2と同じ位置にある。そしてこのペーストPの位置は,理想的には基板Wの回路パターン(電極部)W2と一致する。しかしながら,マスクSまたは基板Wの製造誤差や伸び等の変形のため,全ての部品搭載位置において,ペーストPの位置と回路パターンW2とが完全には一致しないのが現状である。
【0125】
そこで,この実施形態では,同図に示すように,回路パターンW2の位置に基づいて設定されている生産プログラムにおける搭載座標C2を,ペーストPの位置を示す開口部中心座標C1に基づいて補正して,実装位置を設定する。当該基板Wの印刷に当たってマスクSと基板Wの位置基準マークS1,W1の位置に応じた位置合わせに加えて,位置合わせの調整が行われていなければ,実装位置は開口部中心座標C1に設定されることになる。」
・「【0131】
また,一旦測定された開口部の位置情報が開口部位置記憶手段91等に記憶されるため,この記憶された開口部の位置情報を用いることにより,一度測定が行われたマスクSについては再度の測定を行うこともなく実装位置の設定を行うことができ,さらに高い生産効率を得ることができる。」
・「【0134】
なお上記実施形態においては,実装システムに,生産ラインを構成せず,オフラインでマスクSの開口部S2の位置を測定するマスク開口部測定装置5を備えたが,マスクSの開口部S2の位置測定は印刷機2のみで行うようにしてもよい。逆に,マスクSの開口部S2の位置測定をオフラインのマスク開口部測定装置5のみで行うようにしてもよい。」
・「【0136】
また上記実施形態では,測定したマスクSの開口部S2の位置情報を,測定を行ったマスク開口部測定装置5または印刷機2と,サーバコンピュータ9とに記憶するようにしたが,いずれか1箇所のみに記憶するようにしてもよい。あるいは,実装機1に開口部位置記憶手段を設け,印刷機2等で測定した開口部S2の位置情報を実装機1に送信して,実装機1で記憶しておくようにしてもよい。」

(2) 上記の記載からすると,「マスクSと基板Wの一方または両方に製造誤差や伸び等が発生し,マスクSおよび基板Wの印刷対象領域の全域については両者の座標系を一致させることができない場合・・・には,基板W上の回路パターンに対するペースト(クリームハンダ)の印刷位置ずれに過敏なたとえば微細部品の搭載領域を優先してマスクSと基板Wとの位置合わせを調整してもよ(く)」(【0112】),「当該基板Wの印刷に当たってマスクSと基板Wの位置基準マークS1,W1の位置に応じた位置合わせに加えて,位置合わせの調整が行われている場合には,その調整量も加味して実装位置が設定される。」(【0122】)もので,「回路パターンW2の位置に基づいて設定されている生産プログラムにおける搭載座標C2を,ペーストPの位置を示す開口部中心座標C1に基づいて補正して,実装位置を設定する。当該基板Wの印刷に当たってマスクSと基板Wの位置基準マークS1,W1の位置に応じた位置合わせに加えて,位置合わせの調整が行われていなければ,実装位置は開口部中心座標C1に設定されることになる。」(【0125】)ことから,位置合わせの調整が行われている場合には,その調整量を加味して実装位置として設定することがわかる。

(3) 上記の記載及び図面の記載からみて,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(引用発明)
「基板Wに付された複数の位置基準マークW1を基板撮影カメラ252が撮像して該基板Wの位置を認識すると共にマスク撮影カメラ251がマスクSに付された複数の位置基準マークS1を撮像して該マスクSの位置を認識し,前記基板WとマスクSとを位置合わせして,前記マスクS上のペーストをスキージ241を移動させることにより前記基板W上に開口部S2を介して塗布する印刷機2からの前記位置合わせにおいて調整が行われている場合のその調整量を加味して,前記基板Wの電子部品Cの実装位置を把握するものであって,基板撮影カメラ18によって基板Wに付された位置基準マークW1等を撮影して,その位置を測定する実装機1。」

3 対比及び判断
(1)ア 本願補正発明と引用発明とを,その有する機能に照らして対比すると,引用発明の「基板W」は本願補正発明の「プリント基板」に相当し,以下同様に,「複数の位置基準マークW1」は「複数の基板認識マーク」に,「基板撮影カメラ252」は「基板認識カメラ」に,「マスク撮影カメラ251」は「スクリーン認識カメラ」に,「マスクS」は「スクリーン」に,「複数の位置基準マークS1」は「複数のスクリーン認識マーク」に,「ペースト」は「塗布剤」に,「スキージ241」は「スキージ」に,「開口部S2」は「パターン孔」に,「印刷機2」は「スクリーン印刷機」に,「電子部品C」は「電子部品」に,「実装位置」は「搭載すべき位置」に,「実装機1」は「電子部品装着装置」に,それぞれ相当する。
イ 本願補正発明における「前記認識されたそれぞれの基板認識マークとスクリーン認識マークとのズレ量に基づいて前記位置合わせしたそれぞれの前記基板認識マークに対するスクリーン認識マークのそれぞれの位置ズレ量」に関し,本願明細書には以下の記載がある。
・「次に,第1撮像手段14の基板認識カメラ28がX軸方向及びY軸方向に移動してプリント基板Pの対角線上の位置の二個の基板認識マークKMを撮像し,その画像は認識処理装置50により認識処理される。そして,CPU43が認識処理装置50の認識処理結果から基板認識マークKMの位置座標を得て,この位置情報をRAM44に格納させる(図6参照)。
また,第2撮像手段15のスクリーン認識カメラ31がX軸方向及びY軸方向に移動してスクリーンS上の二個のスクリーン認識マークSMを撮像し,その画像は認識処理装置50により認識処理される。そして,CPU43が認識処理装置50の認識処理結果からスクリーン認識マークSMの位置座標を得て,この位置情報をRAM44に格納させる(図7参照)。そして,CPU43はRAM44に格納された各基板認識マークKMの位置と各スクリーン認識マークSMの位置とを比較して基板PとスクリーンSとを相対的に位置決めさせるべき位置ズレ量を算出して,RAM44に格納させる(図8参照)。このズレ量は,一方のX方向がΔx1で,Y方向がΔy1であり,他方のX方向がΔx2で,Y方向がΔy2である。
従って,このズレ量に基づいて,CPU43は基板支持テーブル12の移動機構21,回転機構22,スクリーン支持手段13の移動機構27を駆動回路49を介して駆動し,プリント基板PとスクリーンSの相対的な位置ズレを補正して,図8に示すように,位置決めする。」(【0017】)
本願明細書におけるこのような記載及び図8の記載からすると,本願補正発明における「位置ズレ量」とは,スクリーン印刷機においてプリント基板とスクリーンとを相対的に位置決めさせるべき量であって,この量に基づいて相対的な位置ズレを補正して,最終的に図8に示すような位置に両者を相対的に位置決めするための,最終的な位置ズレの量を示すことがわかる。
ここで,本願補正発明の「基板認識マークとスクリーン認識マークとのズレ量に基づいて前記位置合わせした」点における「ズレ量」の意味するところが必ずしも明りょうでない。一般的な用語の意味を前提にその記載どおりに解釈すれば,このズレ量を補正するように,基板認識マークとスクリーン認識マークとの位置合わせをする際の,位置合わせをする前の両者の相対的な位置のズレの量を示すと解することができ,当該「ズレ量」を「位置ズレ量」とは区別して表記していることからも,このように解釈することは合理的である(請求人は,審判請求書において「このため,引用文献1から本願発明1及び2が奏します『スクリーン印刷機にて,認識されたそれぞれの基板認識マークとスクリーン認識マークとのズレ量に基づいて位置合わせしたとき,プリント基板とスクリーンとのズレを完全に補正することができなく,それぞれの基板認識マークに対するスクリーン認識マークの位置がずれている(スクリーンの印刷用パターン孔の位置とプリント基板のランドの位置とがずれている)場合でも,位置合わせした後も残っているそれぞれの基板認識マークに対するスクリーン認識マークのそれぞれの位置ズレ量を,スクリーン印刷機から電子部品装着装置へ送り,・・・』という作用効果を到底期待することができません。」と主張しており,上記のように解釈することは,このような請求人の主張とも整合する。)。
これに対し,引用発明は,「こうして基板Wの位置基準マークW1の位置が測定されると,既に測定済みのマスクSの位置基準マークS1に応じて,演算処理部291により,固定されているマスクSに対して基板Wの位置合わせを行う(ステップS34)。この位置合わせは,マスクSの位置基準マークS1によって規定されるマスクSの座標系と,基板Wの位置基準マークW1によって規定される基板Wの座標系とを一致させるように行われる。」(引用文献1【0111】)ものであるから,当該位置合わせは,座標系を一致させる前の基板Wの位置基準マークW1とマスクSの位置基準マークS1とのズレ量に基づいて行われることは技術的に明らかである。よって,引用発明は,「基板認識マークとスクリーン認識マークとのズレ量に基づいて前記位置合わせした」点において,本願補正発明と一致するといえる。
そして,引用発明においては,マスクSと基板Wの位置基準マークS1,W1の位置に応じた「位置合わせ」が,「マスクSの位置基準マークS1によって規定されるマスクSの座標系と,基板Wの位置基準マークW1によって規定される基板Wの座標系とを一致させるように行われる。」(引用文献1【0111】)ところ,「マスクSと基板Wの一方または両方に製造誤差や伸び等が発生し,マスクSおよび基板Wの印刷対象領域の全域については両者の座標系を一致させることができない場合・・・には,基板W上の回路パターンに対するペースト(クリームハンダ)の印刷位置ずれに過敏なたとえば微細部品の搭載領域を優先してマスクSと基板Wとの位置合わせを調整してもよ(く)」(同【0112】),「当該基板Wの印刷に当たってマスクSと基板Wの位置基準マークS1,W1の位置に応じた位置合わせに加えて,位置合わせの調整が行われている場合には,その調整量も加味して実装位置が設定される。」(同【0122】)ものであるから,引用発明の「調整量」は,最終的にマスクSと基板Wとを位置決めするための,位置基準マークS1,W1の間の位置ズレの量を示すといえ,本願補正発明の「位置ズレ量」に一致することがわかる。
なお,本件補正が上記のような本願明細書の記載を根拠としているところ,「位置ズレ量を算出して,RAM44に格納させる(図8参照)。・・・従って,このズレ量に基づいて,・・・プリント基板PとスクリーンSの相対的な位置ズレを補正して,図8に示すように,位置決めする。」(【0017】)と記載されていることからして,本願補正発明の「・・・ズレ量に基づいて前記位置合わせした」とは,当該「位置ズレ量」に基づいて位置合わせをした旨を意味すると解する余地も認められるが,上記のとおり,引用発明の「調整量」は本願補正発明の「位置ズレ量」に一致するもので,引用発明においても,同様の意味において,この「調整量」に基づいて位置合わせを行っているということができるから,仮にこのように解釈すべきであるとしても,引用発明が,「基板認識マークとスクリーン認識マークとのズレ量に基づいて前記位置合わせした」点において,本願補正発明と一致するといえることに変わりはない。
ウ 引用発明は,複数の「位置基準マークW1」及び複数の「位置基準マークS1」を持つものであるから,対応する「位置基準マークW1」と「位置基準マークS1」との間に,それぞれ「位置ズレ量」があることは明らかであるから,引用発明は,それぞれの基板認識マークに対するスクリーン認識マークのそれぞれの位置ズレ量を加味して,プリント基板の電子部品を搭載すべき位置を把握する点で,本願補正発明と一致することがわかる。
エ そうすると,本願補正発明と引用発明とは,以下の点で,一致し相違するといえる。

(一致点)
「プリント基板に付された複数の基板認識マークを基板認識カメラが撮像して該プリント基板の位置を認識すると共にスクリーン認識カメラがスクリーンに付された複数のスクリーン認識マークを撮像して該スクリーンの位置を認識し,前記プリント基板とスクリーンとを位置合わせして,前記スクリーン上の塗布剤をスキージを移動させることにより前記プリント基板上にパターン孔を介して塗布するスクリーン印刷機からの前記認識されたそれぞれの基板認識マークとスクリーン認識マークとのズレ量に基づいて前記位置合わせしたそれぞれの前記基板認識マークに対するスクリーン認識マークのそれぞれの位置ズレ量を加味して,前記プリント基板の電子部品を搭載すべき位置を把握する電子部品装着装置。」である点。
(相違点)
位置ズレ量を加味して,プリント基板の電子部品を搭載すべき位置を把握する点に関し,本願補正発明は,「前記塗布剤が塗布された前記プリント基板に付された前記基板認識マークを基板認識カメラで撮像して認識したそれぞれの前記基板認識マークの位置に」加味して,「擬似的な前記スクリーン認識マークのそれぞれの座標を得て,得られたそれぞれの座標を基準として」,プリント基板の電子部品を搭載すべき位置を把握するものであるのに対し,引用発明は,調整量を具体的にどのようにして加味して電子部品Cの実装位置を把握するか明らかでない点。

(2) そこで,上記相違点について検討するに,引用発明は,位置基準マークS1によって規定されるマスクSの座標系で表現された開口部中心座標C1を,位置基準マークW1によって規定される基板Wの座標系の座標上で表現するために,両座標系の位置合わせに係る調整量も加味して,実装位置として設定するものである。このような座標の変換を行う場合に,一方の座標系の原点座標を他方の座標系の座標として変換し,その得られた変換後の原点座標を基準として所定の座標を設定するといった手順は,通常考えられる手法であって,当業者が適宜に採用できるものである。
そして,引用発明が,基板撮影カメラ18(本願補正発明の「電子部品装着装置」の「基板認識カメラ」に相当する。)によって基板Wに付された位置基準マークW1等を撮影して,その位置を測定するものであることに照らせば,引用発明において調整量を,ペーストが塗布された基板Wに付された位置基準マークW1を基板撮影カメラ18で撮像して認識したそれぞれの位置基準マークW1の位置に加味して,擬似的な位置基準マークS1のそれぞれの座標を得て,得られたそれぞれの座標を基準とし,基板Wの電子部品Cの実装位置を把握すること,すなわち,上記相違点に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到できた事項である。
そして,本願補正発明の奏する効果をみても,引用発明から予測し得る範囲内のものであって,格別ではない。

(3) なお,請求人は,引用発明に関し,引用文献1に記載されている実装システムでは,印刷機での各部品装着位置での複数の開口部の撮影(各位置の認識)のために,時間がかかり,印刷機での生産効率が低下するという問題,このような印刷機が連結された電子部品装着装置での待ち時間が長くなり,電子部品装着装置及び実装システムの生産効率が低下するという問題が発生するおそれがある,などと主張しているが,引用文献1には,開口部測定データがある場合には,印刷機において開口部の撮影を行わない旨(【0102】),開口部の位置測定をオフラインのマスク開口部測定装置のみで行うようにしてもよい旨(【0134】)が記載されており,印刷機における開口部の撮影が必須でないことがわかる。

(4) 以上のとおりであるから,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1ないし請求項3に係る発明は,明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項3に記載された事項により特定されるとおりのものであるが,そのうち,請求項2に係る発明(以下「本願発明」という。)は,次のとおりである。
「【請求項2】
プリント基板に付された基板認識マークを基板認識カメラが撮像して該プリント基板の位置を認識すると共にスクリーン認識カメラがスクリーンに付されたスクリーン認識マークを撮像して該スクリーンの位置を認識し,前記プリント基板とスクリーンとを位置合わせして,前記スクリーン上の塗布剤をスキージを移動させることにより前記プリント基板上にパターン孔を介して塗布するスクリーン印刷機からの前記基板認識マークに対するスクリーン認識マークの位置ズレ量を,前記塗布剤が塗布された前記プリント基板に付された位置決めマークを基板認識カメラで撮像して認識した前記位置決めマークの位置に加味して前記プリント基板の電子部品を搭載すべき位置を把握することを特徴とする電子部品装着装置。」

2 引用例に記載された事項
引用例に記載された事項は,上記第2・2のとおりである。

3 対比及び判断
本願発明は,本願補正発明から,「基板認識マーク」及び「スクリーン認識マーク」が「複数」付されているとの限定,「位置ズレ量」が「前記認識されたそれぞれの基板認識マークとスクリーン認識マークとのズレ量に基づいて前記位置合わせしたそれぞれの前記基板認識マークに対するスクリーン認識マークのそれぞれの位置ズレ量」であるとの限定,「位置ズレ量」を加味してプリント基板の電子部品を搭載すべき位置を把握する点に関する,「スクリーン印刷機からの前記認識されたそれぞれの基板認識マークとスクリーン認識マークとのズレ量に基づいて前記位置合わせしたそれぞれの前記基板認識マークに対するスクリーン認識マークのそれぞれの位置ズレ量を,前記塗布剤が塗布された前記プリント基板に付された前記基板認識マークを基板認識カメラで撮像して認識したそれぞれの前記基板認識マークの位置に加味して,擬似的な前記スクリーン認識マークのそれぞれの座標を得て,得られたそれぞれの座標を基準として,前記プリント基板の電子部品を搭載すべき位置を把握する」との限定を省くものである(上記第2・1)。
そうすると,本願発明を特定するために必要な事項をすべて含み,さらに発明を特定するために必要な事項をより具体的にし下位概念化したものに相当する本願補正発明が,上記第2・3で検討したとおり,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願補正発明をより上位概念化した本願発明が,同様の理由により,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであることは明らかである。

4 以上のとおり,本願発明(請求項2に係る発明)は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない。
そして,本願発明(請求項2に係る発明)が特許を受けることができない以上,本願の請求項1及び請求項3に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-21 
結審通知日 2013-02-27 
審決日 2013-03-12 
出願番号 特願2008-131258(P2008-131258)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05K)
P 1 8・ 575- Z (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 奥村 一正  
特許庁審判長 森川 元嗣
特許庁審判官 窪田 治彦
冨岡 和人
発明の名称 スクリーン印刷機、電子部品装着装置及び電子部品の実装ライン  
代理人 相澤 清隆  

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