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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 A61F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61F
管理番号 1273503
審判番号 不服2009-6220  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-03-23 
確定日 2013-05-08 
事件の表示 平成10年特許願第539578号「真皮,皮下,および声帯組織欠損の増大および修復」拒絶査定不服審判事件〔平成10年9月17日国際公開,WO98/40027,平成13年7月10日国内公表,特表2001-509064〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は,1998年2月20日(パリ条約による優先権主張1997年2月20日,1998年1月6日 米国)を国際出願日とする出願であって,平成20年2月29日付け拒絶理由通知書に対して,その指定期間内の同年11月5日付けで手続補正がなされたが,同年12月24日付けで拒絶査定がなされ,これに対して平成21年3月23日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに,同日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成21年3月23日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成21年3月23日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正の内容
平成21年3月23日付けの手続補正(以下,単に「本件補正」という)は,特許請求の範囲の記載について以下のように変更することを含むものである。
・補正前(平成20年11月5日付け手続補正書の特許請求の範囲)の請求項3の記載
「【請求項3】
被験者の皮膚欠陥を修復する用具であって,
該用具は,
(a)注射器チェンバと,そこに配置されるピストンおよびチェンバと連通する開口を有する皮下注射器と;
(b)懸濁液とを含み,但し,
(1)該懸濁液は:被験者から得られる基底膜線維芽細胞,乳頭状線維,未分化間葉細胞,間葉細胞あるいはこれらの組み合わせおよび(2)薬学的に許容可能な担体溶液を包含し,該チェンバ中に配置され;
(c)該用具は,更に,皮下針とを有し,該皮下針は,該開口に固着される。」

・補正後(本件補正に係る手続補正書の特許請求の範囲)の記載
「【請求項3】
被験者の皮膚欠陥を修復する用具であって,前記用具は,
(a)注射器チェンバと,そこに配置されるピストンおよびチェンバと連通する開口を有する皮下注射器と,
(b)懸濁液であって,
(1)培養細胞および前記細胞により産生された細胞外基質と,
ここに,前記細胞は,被験者から得られる基底膜線維芽細胞,乳頭状線維,網状繊維細胞,未分化間葉細胞,間葉細胞またはこれらの組み合わせの細胞であり,
(2)薬学的に許容可能な担体の溶液と,
から構成され,前記チェンバ中に配置される懸濁液と,
(c)開口に固着される皮下針と,
を有することを特徴とする用具。」

本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,単に「特許法」という)第17条の2第1項第3号に係る手続補正であって,同条第4項各号に規定する何れかの事項を目的とするものでなければならないので,以下検討する。

(2)補正の目的の検討
本件補正による補正後の請求項3は,補正前の請求項3に対応するものであるが,両者を対比すると,少なくとも(b)の懸濁液に含まれる(1)の成分について,以下の点について補正がなされている。
すなわち,補正前は,
「被験者から得られる基底膜線維芽細胞,乳頭状線維,未分化間葉細胞,間葉細胞あるいはこれらの組み合わせ」
としていたものを,補正後は,
「培養細胞および前記細胞により産生された細胞外基質と,
ここに,前記細胞は,被験者から得られる基底膜線維芽細胞,乳頭線維芽細胞,網状線維芽細胞,未分化間葉細胞,間葉細胞,またはこれらの組み合わせの細胞であり,」
と変更する。
補正前後の記載を詳細に検討すると,次の2点において,補正前には記載のなかった事項が追加されていることとなっている。
(ア)補正前は,含まれる成分としては『細胞』のみが特定されていたのに対して,補正後は,『(培養)細胞』に加えて,『(前記培養)細胞から産生された細胞外基質』をも含むことが特定されている。
(イ)補正前の『細胞』の種類(選択肢)として特定のなかった『網状線維芽細胞』が新たに追加されている。
このような補正は,「請求項の削除」,「誤記の訂正」にあたらないことは明らかであるから,特許法第17条の2第4項の第1号又は第3号に該当せず,また,そもそも「明りょうでない記載の釈明」とはいえない上,拒絶理由通知書等において指摘された事項に対する補正であるともいえないことから,同項第4号にも該当しないし,さらに,補正前の「請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定する」とはいえないことも明らかであるから,同項第2号にいう「特許請求の範囲の減縮」にも該当しない。
したがって,本件補正は,少なくとも請求項3に関する補正については,その目的が特許法第17条の2第4項各号のいずれにも該当しないものであって,同項に規定する要件を満たすものとはいえないから,他の特許請求の範囲の補正について検討するまでもなく,特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について

(1)本願発明
平成21年3月23日付け手続補正は上記のとおり却下されたので,本願請求項に係る発明は,平成20年11月5日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?26に記載された事項により特定されるとおりのものであって,その請求項4に係る発明(以下,「本願発明」という)は次のとおりである。
「【請求項4】患者の欠損を矯正する医療組成物の製造に,試験管内培養自己由来細胞を使用する方法であって,該患者の欠損に該医療組成物を導入するステップを含み,該試験管内培養自己由来細胞は,試験管内で培養されて,非自己由来血清に暴露されることなく,自己由来血清を含む少なくとも1つの培地中で細胞数を増やす,
方法。」

(2)引用刊行物
A:国際公開第97/4720号

原査定の拒絶の理由に引用され,この出願の優先権主張の日前に頒布されたことが明らかな上記刊行物A(原審の引用文献1)には次のことが記載されている。(英文のため訳文で記載する)

(A-1)明細書第1頁第3?11行
「1.発明の分野
本発明は,ヒト被験者のしわを含む皮膚および軟組織の欠損の修復に関する。さらに詳しくは本発明は,皮膚または皮下組織の容量を増やす非外科的方法で使用するための新しい材料に関する。自己細胞の懸濁物を注入することにより,本発明は,既存の材料の使用に伴う不利益なしに下部隣接組織の長期間の増加を提供する。」
(A-2)明細書第8頁第1?17行
「細胞はトリプシン処理により新しいフラスコに継代される。…フラスコの容量いっぱいに達した(これには典型的には5?7日間の培養を必要とする)ときに,増殖培地を無血清培地で置換し,その後,細胞を,タンパク質不含培地中で…培養する。無血清培地中で細胞を培養することにより,存在すれば被験者に対して免疫原性でありアレルギー反応を引き起こすであろう,ウシ胎児血清由来のタンパク質を細胞から実質的に除去する。」
(A-3)明細書第13頁第3行?同第14頁2行
「1.a)実質的に,免疫原性タンパク質を含有しない,自己の継代皮膚繊維芽細胞の懸濁物を提供する工程と,
b)下部隣接皮下または皮膚組織の増加により改善されやすい欠損を識別する工程と,そして
c)下部隣接組織内に有効量の懸濁物を注入して,組織を増加させる工程と, を含んでなる,ヒト被験者の皮下または皮膚組織を長期間増加させる方法。

5.a)被験者の真皮の生検を行う工程と,
b)0.5%?20%の非ヒト血清を含む培地中で真皮の生検検体からの皮膚繊維芽細胞を継代し,脂肪細胞,ケラチノサイト,および細胞外マトリックスを実質的に含まない皮膚繊維芽細胞を提供する工程と,
c)継代した皮膚繊維芽細胞を無血清培地中で少なくとも約6時間,約30℃?約40℃で培養する工程と,
d)培養した繊維芽細胞をタンパク質分解酵素に暴露して,繊維芽細胞を懸濁する工程と,
をさらに含む,請求項1に記載の方法。」

(3)本願発明と引用発明との対比
まず,本願発明(本願請求項4)は,
「患者の欠損を矯正する医療組成物の製造に,試験管内培養自己由来細胞を使用する方法であって,該患者の欠損に該医療組成物を導入するステップを含み,該試験管内培養自己由来細胞は,試験管内で培養されて,非自己由来血清に暴露されることなく,自己由来血清を含む少なくとも1つの培地中で細胞数を増やす,
方法。」
とされていて,この請求項全体としては,「医療組成物の製造に,自己由来細胞を使用する方法」に関する発明が記載されているにもかかわらず,「該患者の欠損に該医療組成物を導入するステップを含み」と規定することは必ずしも整合するものとはいえないが,その意図するところは,本願発明に係る医療組成物の適用に関して,「患者の欠損に導入する」旨特定しようとしたものと解されるので,以下の検討においては本願発明を次のように解することとする。
「患者の欠損を矯正する医療組成物の製造に,試験管内培養自己由来細胞を使用する方法であって,該医療組成物は該患者の欠損に導入するためのものであり,該試験管内培養自己由来細胞は,試験管内で培養されて,非自己由来血清に暴露されることなく,自己由来血清を含む少なくとも1つの培地中で細胞数を増やす,
方法。」
次に刊行物A記載の発明について検討する。
刊行物Aには,(A-1)によれば,しわ等の欠損部に対して自己細胞の懸濁物を注入することによる皮膚および軟組織の欠損を修正する方法に関するものであって,そして,ここでいう『自己細胞の懸濁物』とは,(A-3)によれば,被験者から生検により採取した細胞を非ヒト血清を含む培地中で継代培養した後,無血清培地中で培養し,さらにタンパク質分解酵素に暴露することにより,製造されるものとされていることから,結局,刊行物Aには,次の発明が記載されているものといえる。
「被験体のしわ等の欠損部に注入することにより該欠損を修復するための,自己細胞の懸濁物を製造する方法であって,非ヒト血清を含む培地中で継代培養した後,無血清培地中で培養する工程を含む,細胞懸濁物を製造する方法。」(以下,「引用発明」という。)
そこで,引用発明と本願発明とを対比する。
引用発明の細胞懸濁物は被験体(すなわち患者)のしわ等の欠損部を修復するために使用されるものであることから,本願発明の「患者の欠損を矯正する医療組成物」に対応するものといえるし,また,引用発明に係る懸濁物に含まれる細胞は,被験者(患者)からの自己細胞を生体外に取り出して,血清を含む培地で培養することにより得られたものであるから,「試験管内培養自己由来細胞」といえるものである。
そうすると,両発明は,
「患者の欠損を矯正する医療組成物の製造に,試験管内培養自己由来細胞を使用する方法であって,該医療組成物は該患者の欠損に導入するためのものであって,該試験管内培養自己由来細胞は,試験管内で培養されて,血清を含む少なくとも1つの培地中で細胞数を増やす,方法。」で一致し,以下の点で相違する。
[相違点]
本願発明では,「非自己由来血清に暴露させることなく,自己由来血清を含む少なくとも1つの培地中で細胞数を増やす」と特定されているのに対して,引用発明では「非ヒト血清を含む培地中で継代した後,無血清培地で培養する」点。

(4)判断
(4-1)相違点について
刊行物Aにおいて,「無血清培地中で細胞を培養することにより,存在すれば被験者に対して免疫原性でありアレルギー反応を引き起こすであろう,ウシ胎児血清由来のタンパク質を細胞から実質的に除去する。」(A-2)と記載されているように,引用発明において,「非ヒト血清を含む培地中で継代した後,無血清培地で培養する」ことは,免疫原性の問題を考慮したものである。
ところで,このように細胞移植に伴う免疫原性の問題は,移植細胞を移植前に培養する際に用いる培地に対して添加する血清を,被験者(被移植者)由来のものとすること,すなわち,「非自己由来の血清に暴露することなく,自己由来の血清のみを使用すること」により回避できることは技術常識であって,例えば,以下の文献に示されるように本願優先権主張日前において当業者にとって適宜採用されていた手法である。
○刊行物B:国際公開第96/33217号
「12.ヒト細胞を細胞接着タンパク質存在下で培養することによりえられる免疫抑制性細胞を,有効成分として含む免疫抑制剤。

18.前記免疫抑制性細胞が,血清を含む培地を用いた培養によりえられるものである請求の範囲12…項記載の免疫抑制剤。
19.前記血清が,自己血清である請求項18項記載の免疫抑制剤。」(請求の範囲)
「培地に血清を含有させてもよい。好ましくは,自己血清を用いる。自己血清を用いると細胞増殖性がよく,非特異的免疫反応も起こりにくく,のぞましい。」(第18頁19?22行)
○刊行物C:特開平6-121672号公報
「本発明は,悪性腫瘍患者を,該患者のヒト血液単核細胞を活性化し,これを注入により該患者の体内に戻すことによって治療する方法に関する。」(【0001】)
「本発明では,別のヒト由来の血清(即ち同種血清)又は非ヒト動物由来の血清(即ち異種血清)ではなく,熱不活性化自己由来血清を免疫培養物中で使用するのが最も好ましい。」(【0012】)
○刊行物D:特表平6-508613号公報
「特に,細胞減少治療により骨髄細胞の増殖抑圧を起こす患者から,骨髄または末梢血液前駆細胞を治療に先だって取り出し,増殖因子存在下でex vivoで培養を続け,さらにこれを細胞減少治療と並行してまたは治療後に患者に再移植し,こうした療法による骨髄細胞の増殖抑圧の効果を緩和する方法に関するものである。さらに本発明は,前駆細胞をex vivoで継続培養する際に用いる,一種または複数の増殖因子を含んだ培地に関するものである。」(公報第2頁左下欄「発明の分野」)
「好適な前駆細胞増加(expansion)させるための培地は,例えば,自己血清および抗生物質を供与された最少必須培地である。本発明の前駆細胞の増加用培地は,自己血清およびできれば抗生物質を供与された最少必須培地などの培養培地中に,1つ若しくは複数のex vivo増殖因子を含む。」(公報第4頁左上欄第2段落)
このように当業者にとって適宜採用されていた,免疫原性を回避するための常套手段を,引用発明において採用されていた免疫原性を回避するための手法に代えて採用することは,当業者にとって容易になし得ることといわざるをえない。
そして,本願明細書の記載を検討しても,非自己由来の血清に暴露させることなく,自己由来の血清を用いて培養することによって,移植細胞の免疫原性の問題を回避できるといった技術常識を超える特段の技術的意義が示されているものでもない。
(4-2)本願発明の効果について
本願明細書の記載を検討しても,本願発明の方法により格別予想外の効果が奏されたものとすることもできない。

なお,付言するならば,本審決においては,審判請求と同日付けで提出された手続補正書(平成21年3月23日付け)による補正を却下した上で,本願発明(平成20年11月5日付け手続補正書の請求項4に係る発明)について進歩性を否定したものであるが,平成21年3月23日付け手続補正書に記載の請求項4に係る発明は,実質的には本願発明と同一と解されることから,本審決において本願発明についてした判断と同様な理由により,該補正書に記載の請求項4に係る発明も進歩性が否定されるものである。
また,請求人は,平成23年6月14日付け回答書において補正案を提示しているが,このような補正案は,一見して特許請求の範囲の内容を大きく変更するものであって,実質的に審査のやり直しを求めるものといえ,この時点において提示する補正案としては甚だ不適切であるばかりでなく,さらに,例えば,次の理由によっても到底受け容れられるものではない。
すなわち,補正案請求項1に係る発明は,被験者の組織欠陥を修復に用いる細胞の由来が,自己由来のものに限定される旨の記載がないが,このような補正は,被験者以外の細胞については胎児細胞または若年者細胞に限られている現在の特許請求の範囲の記載から明らかに拡張されるものであって,しかも,上記刊行物A記載の発明とも明らかに重複する(すなわち,新規性が欠如する)ものである。
加えて,上記回答書によれば,
「新請求項候補による本願発明の特徴は,「生体外で組織から単離された細胞」です。…(中略)…
このような単離細胞は生体外で増殖せずに培養可能です。…このように新請求項1は「生体外培養細胞」に関してではなく,「生体外単離細胞」に関します。単離細胞は被験者の組織から獲得され,その後増殖なく(分裂増殖や細胞分裂無しに)培養され(洗浄のような簡単なプロセス),そして組織欠陥に配置されます。 培養の他の方法としては一定期間血清又は細胞培地又は洗浄媒体で増殖なしにインキュベートする方法があります。」
などと,細胞が「生体外で増殖せずに培養可能」とか,細胞が「増殖なく…培養され」と,およそ技術常識に反することを前提としている(補正案請求項2にも「…増殖なく培養される…」との記載がある。)ばかりでなく,そのようなことは,例えば,以下に示す明細書における「培養により増殖する」旨の記載とも整合しないものである。
○「A.繊維芽細胞または基底膜の試験管内細胞培養
本発明は,試験管内培養で増やすことができる,…」(平成17年5月16日付け手続補正書の第15頁第2?3行)
○「組織からの繊維芽細胞の最初の分離ならびに続く培養細胞の増殖は,…」(平成17年5月16日付け手続補正書の第16頁第18?19行)
このように,上記回答書において提示された補正案は,到底採用できるものではない。

(5)むすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物A及び周知事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,この出願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
以上
 
審理終結日 2012-04-12 
結審通知日 2012-04-18 
審決日 2012-05-07 
出願番号 特願平10-539578
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61F)
P 1 8・ 57- Z (A61F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小森 潔  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 穴吹 智子
田名部 拓也
発明の名称 真皮、皮下、および声帯組織欠損の増大および修復  
代理人 齋藤 和則  
代理人 伊東 哲也  

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