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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01L
管理番号 1273598
審判番号 不服2012-1049  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-01-19 
確定日 2013-05-10 
事件の表示 特願2009-221294「加熱励振を利用した熱伝導型気圧センサ」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 4月 7日出願公開、特開2011- 69733〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・拒絶の理由
(1)本願は、平成21年9月25日の出願であって、明細書及び特許請求の範囲について、平成23年5月9日付けで補正がなされ(以下、「補正1」という。)、同年8月22日付けで補正がなされ(以下、「補正2」という。)、同年10月14日付け(送達:同年同月19日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年1月19日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に、明細書及び特許請求の範囲についての補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

(2)原査定の拒絶の理由は、本願各請求項に記載された発明は、いずれも、本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である、論文「高嶋徳明、木村光照、塩川孝泰、薄膜真空センサの計測範囲の拡大、東北学院大学環境防災工学研究所紀要 第20号 80-85ページ、東北学院大学環境防災工学研究所、2009年3月発行」(以下、「引用例」という。)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許を受けることができない、というものである。

2.本願発明
(1)補正の内容
本件補正は、補正前の、すなわち、補正2によって補正された特許請求の範囲の請求項2ないし4、及び請求項6,9の技術事項を請求項1に係る発明に実質的に取り込んだものであり、本件補正により請求項の数は、9から4となった。
してみると、本件補正は、請求項の削除を目的とするものであり、適法といえる。

(2)本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、補正1、補正2、及び本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載のとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明は、以下のとおりである。
「基板から熱分離した薄膜に、少なくとも2個以上の薄膜状温度センサと前記薄膜を昇温させる加熱手段および前記薄膜を振動させる励振手段を具備した熱伝導型気圧センサにおいて、
前記薄膜は、カンチレバ形状であり、
また、前記薄膜は、少なくとも膨張係数の異なる二層以上の薄膜からなり、0.1気圧以上の気圧領域において、
前記励振手段として、前記加熱手段による間欠加熱時の前記薄膜を構成する主たる二層の熱膨張の違いに基づく反りを利用し被測定気圧が計測され、
前記薄膜の反りに基づき、前記加熱手段による前記薄膜の加熱し始めにおける前記薄膜の振動が始まったときの強制対流による前記少なくとも2個以上の薄膜状温度センサの温度差を計測して、熱伝導型気圧センサ周辺の被測定気圧に変換し、被測定気圧が測定されるか、
もしくは、前記加熱手段による前記薄膜の加熱を止めて、冷却してゆく過程での前記薄膜の反りに基づく振動を利用した強制対流による前記少なくとも2個以上の薄膜状温度センサの温度差を計測して、熱伝導型気圧センサ周辺の被測定気圧に変換し、被測定気圧が測定されるかのいずれかが選択され、
前記加熱手段として、薄膜ヒータを用い、前記薄膜ヒータの位置を、基板から熱分離した薄膜のうち、前記少なくとも2個以上の薄膜状温度センサよりも基板支持部に近い側に設け、
更に、前記少なくとも2個以上の薄膜状温度センサとして、熱電対が用られ、前記薄膜ヒータとして兼用する場合には、前記熱電対に電流を流すことにより、前記熱電対が前記薄膜ヒータとして兼用され、
ならびに、前記加熱手段の温度を制御する温度制御回路、励振手段を駆動する励振駆動回路、温度センサからの信号を増幅する増幅回路、前記増幅回路出力を利用して気圧に変換する演算回路が内蔵され
前記温度センサの出力を出力電流となるようにして、該出力電流を所定の時間だけ積分して、出力電圧に変換し、該出力電圧を利用して被計測気圧を知るようにしたことを特徴とする熱伝導型気圧センサ。」(以下、「本願発明」という。)

3.引用例記載の事項・引用発明
(1)引用例の記載事項
これに対して、引用例である、論文「高嶋徳明、木村光照、塩川孝泰、薄膜真空センサの計測範囲の拡大、東北学院大学環境防災工学研究所紀要 第20号 80-85ページ、東北学院大学環境防災工学研究所、2009年3月発行」には、以下の記載がある。なお、以下において、式や図面については、省略した。

「1.序論
従来のピラニ真空センサは気体の熱伝導率が圧力に依存することを利用していて、加熱した白金線から奪われる熱によって白金線の抵抗値が変化するところから圧力を求めている[1]。気体の熱伝導率λは次式で表される。
式(1)
ここで、1:平均自由行程、p:圧力、d:ヒータ線とシートシンクの距離、αE:定数(気体の種類に関係)
圧力が高い低真空領域では、ヒータ線とヒートシンクの距離dよりも平均自由行程1が十分小さくなる(1≪d)。このため、周囲の気体分子によってヒートシンクヘの熱伝導が妨げられる。また、圧力が低い高真空領域では、気体分子の減少により、周囲気体を通して伝導する熱が小さくなるため、リード線を伝わって逃げる熱が無視できなくなり、気体の熱伝導率の変化が見られなくなる。そのため、どちらの場合でも気体の熱伝導率λは一定となる。
この中間の圧力範囲(1>d)では、圧力pに比例した熱伝導率λの変化が得られる。この場合には、式(2)で表される。
式 (2)
従って、圧力pに比例した熱伝導率の変化が得られる範囲がピラニ真空センサの測定可能範囲となる。従来のピラニ真空センサの使用可能な圧力範囲は、数kPaから1Pa程度の中真空までであり、感度は高くなかった。
そこで、より広範囲の圧力を1つの素子で測定できるように、MEMS技術とSiのSOIウェーハを利用し、カンチレバ構造に形成して、周囲の気体との接触する面積を増すことで、高感度化可能である。
温度センサとして、本研究室で提案した高感度の温度差センサである電流検出型熱電対を用いて高真空では温度差が原理的にゼロとなる測定方法を用いて測定を行った。これにより、高真空での微少な温度変化が測定可能になった。また、カンチレバを振動させて強制対流を起こして、1気圧付近での感度を向上させる検討を行った。

2.原理
2.1 薄膜ピラニ真空センサの原理
薄膜ピラニ真空センサの熱的等価回路を図1に示す。カンチレバ上のピークのあるA領域、カンチレバ先端の部分をB領域に分ける。A領域にはマイクロヒータを形成した。
マイクロヒータでA領域を加熱すると熱分離されたB領域は熱抵抗Rsを通して暖められる。そして、B領域からは周囲気体を通して基板へ熱が伝導する。この、基板への熱抵抗Rbが周囲圧力によって変化することによって、B領域の温度Tbが変化する。
Tbの変化のみを測定した場合には高真空ではTbが上昇するためセンサ出力電圧が大きくなる。出力が大きい中で高真空での小さな出力変化を測定するのは困難である。そこで、TaとTbの温度差から圧力を測定する方法を用いた。1気圧付近(低真空)の時には、B領域から奪われる熱が大きくなるため温度差が大きくなり、高真空ではB領域から熱が奪われなくなるため、原理的にTaとTbの温度差はゼロに漸近する。これより、高真空では信号の増幅度を増すことで微小な温度変化が測定可能になる。ここで使用する温度センサとして、これまでは、本研究室で開発した高感度な絶対温度センサであるダイオードサーミスタを用いてきた[2,3]。A領域とB領域にダイオードサーミスタをそれぞれ設けてその出力差から温度差を求めていた。しかし、それぞれ独立した絶対温度センサであるため、特性のばらつきを持つことから、高真空ではA領域とB領域はほぼ等しい温度になるため温度比較が困難であった。
この問題の解決のために、温度差が出力となる温度差センサを使用して測定した。温度差センサであれば、高真空で温度差がゼロに漸近した場合に温度差センサの出力も同様にゼロに漸近するので容易に温度差測定が可能になる。本研究で使用する温度差センサとして本研究室で提案した電流検出型熱電対を用いた。
図1 薄膜ピラニ真空センサの熱的等価回路

2.2 電流検出型熱電対の原理
電流検出型熱電対は、1対の熱電対を用いてその短絡電流を測定することで温度差を検出する。熱電対の感度を表すゼーベック係数αsは次式で表される[4]。
式(3)
式(3)から、Si基板の抵抗率pを桁違いに小さくしても、対数関係であるためゼーベック係数αsは数分のー程度にしか減少しない。これを利用して、Siであればリンを高濃度に拡散することで抵抗率を10^(-3)Ωcm程度まで低減することが可能であるので、基板抵抗を桁違いに低下させて、熱電対の短絡電流を増加させて高感度化した[5]。これにより、抵抗が小さいためS/Nが良い。また、熱電対1対で良いため、ここで提案するカンチレバ先端のような微細箇所の温度差測定に最適である。また、従来の熟電対の開放電圧を測定する方式と比較すると本論文で使用する電流検出型熟電対では、電力として大きな出力が得られて感度が高い特徴がある。図2にオペアンプのイマジナリショートを利用した熱電対の短絡電流測定回路を示す。
図2 オペアンプを利用した熱電対の短絡電流測定回路
温度差△Tから得られるゼーベック電圧Vtは以下の式で表される。
式(4)
短絡電流測定回路から出力される電圧Voは、式(4)のゼーベック電圧Vtを用いて以下のように表される。
式(5)
また、短絡電流測定回路の出力から温度差△Tを求めるには、熱電対の内部抵抗rを用いて、以下の式から求めることが出来る。
式(6)
また、不純物としてリンを高濃度に拡散したシリコンウェーハを用いて測定した結果からゼーベック係数αsは約160μV/K得られることが測定から分かっている。

3.実験方法
試作した薄膜ピラニ真空センサの概略図を図3に、顕微鏡写真を図4に示す。カンチレバ上のA領域にはニクロムヒータとヒータ温度測定用のためのコンタクトA点を、B領域にはB領域温度測定用のためのコンタクトB点を形成した。基板に対してのA領域の温度差と、B領域の温度差を測定するためのコンタクトC点をSi基板部に形成した。また、基板の温度を測定するために絶対温度センサであるダイオードサーミスタを同じSi基板上に形成した。
圧力測定では、カンチレバ上のニクロムヒータでA領域を加熱して、温度差Ta-Tbを測定する。また、高真空ではB領域から熱が奪われなくなるため、原理的に温度差はゼロに漸近する。従って、温度差センサの出力も同様にゼロに漸近する。また、高真空では出力を増幅器で増幅することで微小な温度変化まで測定可能になる。
図3 薄膜ピラニ真空センサの概略図
図4 薄膜ピラニ真空センサの顕微鏡写真
図5に真空センサの測定回路を示す。熱電対の短絡電流は、図2に示した方法でオペアンプのイマジナリショートを利用して測定した。図6にはマイクロヒータを100ms間オン、100ms間オフとしたときに熱電対Bから出力される波形である。マイクロヒータには電流を40mA流して、電力は約100mWと設定した。このときのA領域の温度は式(6)を用いて算出すると約190℃になることが分かっている。図6の場合には、0msでマイクロヒータの加熱を開始した。加熱直後は、カンチレバ先端のB領域が暖まるのが遅いために温度差Ta-Tbが大きく、センサ出力が大きい。100ms程度経過すると出力電圧は、圧力によって決まる一定値に収束する。実際の実験では、加熱開始から150ms経過したより一定値に安定した測定点P1で真空測定をした。
また、1気圧付近での感度を高めるために、ヒータをパルス加熱して図7のようにカンチレバをSOI層(Si)とBOX層(SiO2)の熱膨張係数の違いを利用したバイメタル式の振動をさせた。このようにして強制振動による強制対流を起こして、B領域が冷却される効果を利用することで、1気圧付近からそれ以上の圧力で測定を行った。強制対流を起こすためにマイクロヒータのパルス駆動の周期を短くして測定した。マイクロヒータには100mW加えて、15ms間オン、20ms間オフとした。ヒータをオフした時には梁を伝わって基板に熱が逃げて、B領域よりもA領域が先に冷えるため出力電圧が負になる、ヒータを切った瞬間がA領域の温度変化が最も大きいため強制対流の効果が最も大きく得られる。従って出力電圧の最小値である測定点P2で行った。
図5 真空センサ測定回路
図6 マイクロヒータを100msごとに加熱、冷却を繰り 返した時の熱電対Bから得られた出力波形
図7 カンチレバ振動の概略図

4.実験結果
図8に真空領域での圧力測定結果を示す。4×10^(-3) Pa - 10^(5)Paで感度を持つ特性が得られた。高真空領域での微少な出力変化を見るため対数目盛りで表したものを図9に示す。グラフから出力電圧が高真空でゼロに漸近していくことが分かる。しかし、1気圧付近での変化が小さい。そこで、カンチレバを振動させて1気圧付近での圧力測定を行った結果を図10に示す。3×10^(4) Paを基準として整理した。振動させない場合と比較して、ヒータをオフにした時の対流の効果が最も大きく得られる箇所で測定したものが大きな変化が得られている。
図8 真空領域での測定結果
図9 縦軸を対数で表した真空領域での測定結果
図10 カンチレバ振動による1気圧以上での感度向上

5.結論
薄膜ピラニ真空センサを提案して、高真空ではA領域とB領域の温度差が、原理的にゼロとなることを利用して電流検出型熱電対による温度差検出法での測定を行った。その結果、4×10^(-3)Paから10^(5)Pa で測定可能な特性が得られた。
1気圧付近での感度を向上させるために、マイクロヒータをパルス駆動してカンチレバを振動させて強制対流を起こすことで感度を向上した。
これらの改良の結果、4×10^(-3 )Paから2.5×10^(5)Pa の約8桁の広範囲にわたって測定を行うことができた。」

(2)引用発明
上記記載事項や図1ないし図10の記載内容を総合すると、引用例には、次の発明が記載されていると認められる。
「基板から熱分離した薄膜に、2個の薄膜状の温度センサA、Bと前記薄膜を昇温させる加熱手段及び前記薄膜を振動させる励振手段を具備した薄膜ピラニ真空センサにおいて、
前記薄膜は、カンチレバ形状であり、
また、前記薄膜は、熱膨張係数の異なるSOI層及びBOX層からなり、
1気圧付近において、
前記励振手段として、前記加熱手段のパルス駆動による前記薄膜を構成するSOI層及びBOX層の熱膨張係数の違いに基づく反りを利用し被測定気圧が計測され、
前記薄膜の反りに基づき、前記加熱手段を切った後の強制対流の効果が最も大きく得られる測定点P2において、前記2個の薄膜状の温度センサA、Bの温度差を計測して、薄膜ピラニ真空センサ周辺の被測定気圧に変換し、被測定気圧が測定され、
前記加熱手段として、マイクロヒータを用い、前記マイクロヒータの位置を、基板から熱分離した薄膜のうち、前記2個の薄膜状の温度センサA、Bよりも基板支持部に近い側に設け、
更に、前記2個の薄膜状の温度センサとして、熱電対が用いられ、
及び、前記加熱手段の温度を制御し、励振手段を駆動するための回路、温度センサからの信号を増幅する増幅回路、前記増幅回路出力を利用して気圧に変換する演算回路を備え、
前記温度センサの出力を出力電流となるようにして、出力電圧V0に変換し、該出力電圧V0を利用して被計測気圧を知るようにした薄膜ピラニ真空センサ。」(以下、「引用発明」という。)

4.対比
(1)本願発明と引用発明とを、主たる構成要件について対比する。
ア 引用発明における「2個の薄膜状の温度センサA、B」は、本願発明における「少なくとも2個以上の薄膜状温度センサ」に相当し、引用発明における「熱膨張係数の異なるSOI層及びBOX層」は、本願発明における「少なくとも膨張係数の異なる二層以上の薄膜」に相当し、以下同様に、「1気圧付近」は「0.1気圧以上の気圧領域」に、「加熱手段のパルス駆動」は「加熱手段による間欠加熱」に、「マイクロヒータ」は「薄膜ヒータ」に、「出力電圧V0」は「出力電圧」に、「薄膜ピラニ真空センサ」は、「熱伝導型気圧センサ」に、それぞれ相当する。
イ 上記相当関係を踏まえると、引用発明における「前記薄膜の反りに基づき、前記加熱手段を切った後の強制対流の効果が最も大きく得られる測定点P2において、前記2個の薄膜状の温度センサA、Bの温度差を計測して、薄膜ピラニ真空センサ周辺の被測定気圧に変換し、被測定気圧が測定され、」ることは、本願発明における「前記加熱手段による前記薄膜の加熱を止めて、冷却してゆく過程での前記薄膜の反りに基づく振動を利用した強制対流による前記少なくとも2個以上の薄膜状温度センサの温度差を計測して、熱伝導型気圧センサ周辺の被測定気圧に変換し、被測定気圧が測定される」ことに相当するといえる。
ところで、本願発明においては、「前記薄膜の反りに基づき、前記加熱手段による前記薄膜の加熱し始めにおける前記薄膜の振動が始まったときの強制対流による前記少なくとも2個以上の薄膜状温度センサの温度差を計測して、熱伝導型気圧センサ周辺の被測定気圧に変換し、被測定気圧が測定されるか、もしくは、前記加熱手段による前記薄膜の加熱を止めて、冷却してゆく過程での前記薄膜の反りに基づく振動を利用した強制対流による前記少なくとも2個以上の薄膜状温度センサの温度差を計測して、熱伝導型気圧センサ周辺の被測定気圧に変換し、被測定気圧が測定されるかのいずれかが選択され、」とあるところ、このことは、加熱し始めにおける温度差計測によるか、又は、加熱を止め冷却過程での温度差計測によるか、いずれかが採用されるということを意味することが発明の詳細な説明の記載内容に照らしても明らかである。
よって、本願発明の上記「前記薄膜の反りに基づき、前記加熱手段による前記薄膜の加熱し始めにおける前記薄膜の振動が始まったときの強制対流による前記少なくとも2個以上の薄膜状温度センサの温度差を計測して、熱伝導型気圧センサ周辺の被測定気圧に変換し、被測定気圧が測定されるか、もしくは、前記加熱手段による前記薄膜の加熱を止めて、冷却してゆく過程での前記薄膜の反りに基づく振動を利用した強制対流による前記少なくとも2個以上の薄膜状温度センサの温度差を計測して、熱伝導型気圧センサ周辺の被測定気圧に変換し、被測定気圧が測定されるかのいずれかが選択され、」との構成は、その一方の構成に相当する引用発明の「前記薄膜の反りに基づき、前記加熱手段を切った後の強制対流の効果が最も大きく得られる測定点P2において、前記2個の薄膜状の温度センサA、Bの温度差を計測して、薄膜ピラニ真空センサ周辺の被測定気圧に変換し、被測定気圧が測定され、」と相違することにはならない。
ウ また、本願発明には、「前記少なくとも2個以上の薄膜状温度センサとして、熱電対が用られ、前記薄膜ヒータとして兼用する場合には、前記熱電対に電流を流すことにより、前記熱電対が前記薄膜ヒータとして兼用され、」とあるところ、このことは、薄膜状温度センサとして熱電対を用いることを特定するとともに、薄膜ヒータとして、熱電対を使用する場合があり、このときは、熱電対を温度センサとして用いる場合とは逆に、熱電対に電流を流して使用するということ特定するものである。
よって、薄膜ヒータについてみると、熱電対を使用しないものを包含するから、本願発明における「前記少なくとも2個以上の薄膜状温度センサとして、熱電対が用られ、前記薄膜ヒータとして兼用する場合には、前記熱電対に電流を流すことにより、前記熱電対が前記薄膜ヒータとして兼用され、」との構成は、やはり、引用発明の「前記2個の薄膜状の温度センサとして、熱電対が用いられ、」との構成と相違することにはならない。
エ また、引用発明における「前記加熱手段の温度を制御し、励振手段を駆動するための回路、温度センサからの信号を増幅する増幅回路、前記増幅回路出力を利用して気圧に変換する演算回路を備え、」ることも、本願発明における「前記加熱手段の温度を制御する温度制御回路、励振手段を駆動する励振駆動回路、温度センサからの信号を増幅する増幅回路、前記増幅回路出力を利用して気圧に変換する演算回路が内蔵され」ることも、共に、「前記加熱手段の温度を制御し、励振手段を駆動するための回路、温度センサからの信号を増幅する増幅回路、前記増幅回路出力を利用して気圧に変換する演算回路を備え、」る点で共通する。
オ また、引用発明における「前記温度センサの出力を出力電流となるようにして、出力電圧V0に変換し、該出力電圧V0を利用して被計測気圧を知る」ことも、本願発明における「前記温度センサの出力を出力電流となるようにして、該出力電流を所定の時間だけ積分して、出力電圧に変換し、該出力電圧を利用して被計測気圧を知る」ことも、共に、「前記温度センサの出力を出力電流となるようにして、出力電圧に変換し、該出力電圧を利用して被計測気圧を知る」点で共通する。

(2)以上を整理すると、両者の一致点、相違点は、以下のとおりである。
(一致点)
「基板から熱分離した薄膜に、少なくとも2個以上の薄膜状温度センサと前記薄膜を昇温させる加熱手段および前記薄膜を振動させる励振手段を具備した熱伝導型気圧センサにおいて、
前記薄膜は、カンチレバ形状であり、
また、前記薄膜は、少なくとも膨張係数の異なる二層以上の薄膜からなり、
0.1気圧以上の気圧領域において、
前記励振手段として、前記加熱手段による間欠加熱時の前記薄膜を構成する主たる二層の熱膨張の違いに基づく反りを利用し被測定気圧が計測され、
前記薄膜の反りに基づき、前記加熱手段による前記薄膜の加熱し始めにおける前記薄膜の振動が始まったときの強制対流による前記少なくとも2個以上の薄膜状温度センサの温度差を計測して、熱伝導型気圧センサ周辺の被測定気圧に変換し、被測定気圧が測定されるか、
もしくは、前記加熱手段による前記薄膜の加熱を止めて、冷却してゆく過程での前記薄膜の反りに基づく振動を利用した強制対流による前記少なくとも2個以上の薄膜状温度センサの温度差を計測して、熱伝導型気圧センサ周辺の被測定気圧に変換し、被測定気圧が測定されるかのいずれかが選択され、
前記加熱手段として、薄膜ヒータを用い、前記薄膜ヒータの位置を、基板から熱分離した薄膜のうち、前記少なくとも2個以上の薄膜状温度センサよりも基板支持部に近い側に設け、
更に、前記少なくとも2個以上の薄膜状温度センサとして、熱電対が用られ、前記薄膜ヒータとして兼用する場合には、前記熱電対に電流を流すことにより、前記熱電対が前記薄膜ヒータとして兼用され、
ならびに、前記加熱手段の温度を制御し、励振手段を駆動するための回路、温度センサからの信号を増幅する増幅回路、前記増幅回路出力を利用して気圧に変換する演算回路を備え、
前記温度センサの出力を出力電流となるようにして、出力電圧に変換し、該出力電圧を利用して被計測気圧を知るようにしたことを特徴とする熱伝導型気圧センサ。」
(相違点)
ア 本願発明では、熱伝導型気圧センサが「前記加熱手段の温度を制御する温度制御回路、励振手段を駆動する励振駆動回路、温度センサからの信号を増幅する増幅回路、前記増幅回路出力を利用して気圧に変換する演算回路が内蔵され」るのに対し、引用発明では、薄膜ピラニ真空センサが「前記加熱手段の温度を制御し、励振手段を駆動するための回路、温度センサからの信号を増幅する増幅回路、前記増幅回路出力を利用して気圧に変換する演算回路を備え、」るにとどまる点。
イ 本願発明では、「前記温度センサの出力を出力電流となるようにして、該出力電流を所定の時間だけ積分して、出力電圧に変換し」ているのに対し、引用発明では、「前記温度センサの出力を出力電流となるようにして、出力電圧V0に変換」するにとどまる点。

5.判断
前記相違点について検討する。
(1)相違点アについて
この種の熱伝導型気圧センサにおいて、加熱手段の温度を制御する温度制御回路、励振手段を駆動する励振駆動回路、温度センサからの信号を増幅する増幅回路、及び前記増幅回路出力を利用して気圧に変換する演算回路を内蔵するようにすることは、周知な技術である。この点については、原審で引用された特開2007-51963号公報(特に、請求項12、段落【0020】、段落【0024】)の記載を参照のこと。
よって、これら回路を備えた引用発明において、これら回路をセンサに内蔵させるようにすることは、当業者ならば容易に想到し得たことである。

(2)相違点イについて
本願発明において、温度センサ出力に係る出力電流を所定の時間だけ積分するようにしたのは、ノイズ成分を打ち消し、S/N比を大きくするため(本願明細書の段落【0063】の記載を参照のこと。)であるが、このように、温度センサ出力に係る出力電流を所定の時間だけ積分して、精度の高い計測を行うことは、計測技術分野における常套手段である。この点については、例えば、原審で引用された特開2008-111822号公報(特に、段落【0052】や【0061】)の記載を参照のこと。
よって、温度センサの出力を出力電流となるようにして、出力電圧V0に変換するようにした引用発明において、S/N比向上のためにその出力電流を所定時間積分するようにすることは、当業者ならば容易に想到し得たことである。
そして、本願発明の作用効果も、引用発明から当業者が予測可能なものであって格別のものでもない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-14 
結審通知日 2013-03-21 
審決日 2013-03-28 
出願番号 特願2009-221294(P2009-221294)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三田村 陽平  
特許庁審判長 飯野 茂
特許庁審判官 山川 雅也
中塚 直樹
発明の名称 加熱励振を利用した熱伝導型気圧センサ  
代理人 福森 久夫  

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