• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09J
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09J
管理番号 1273617
審判番号 無効2012-800114  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-07-18 
確定日 2013-05-07 
事件の表示 上記当事者間の特許第4917267号発明「粘着剤組成物、粘着シート類、および表面保護フィルム」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判に係る特許(以下、「本件特許」という。)は、平成17年3月17日(優先権主張 平成16年9月16日)に特許出願(特願2005-76890号。以下、「本件出願」という。)がされ、平成24年2月3日に設定登録(特許第4917267号、発明の名称「粘着剤組成物、粘着シート類、および表面保護フィルム」(発明の数6)。以下、その明細書を「本件特許明細書」という。)がされたものである。
そして、本件特許を無効とすることについて、野上晃(以下、「請求人」という。)から、本件審判の請求がされた。
本件審判の手続の経緯は、以下のとおりである。

平成24年 7月18日付け 審判請求書、甲第1?第3号証提出
同 年 10月 4日付け 審判事件答弁書提出
同 年 11月 6日付け 審理事項通知書
同 年 11月30日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)、
参考文献1?4提出
同 年 12月 3日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)提出
同 年 12月14日 口頭審理
同 年 12月28日付け 上申書(請求人)提出
平成25年 1月29日付け 上申書(被請求人)提出
同 年 2月28日付け 審理終結通知書

第2 本件特許に係る発明
本件特許に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1?6に記載された以下のとおりのものである(以下、「本件特許発明1」?「本件特許発明6」といい、合わせて「本件特許発明」ともいう。)。
「【請求項1】
単量体成分として、
(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加物、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル系モノマー、及び、前記以外の炭素数1?14であるアルキル基を有する(メタ)アクリル系モノマーを含有する(メタ)アクリル系ポリマー、ならびにアルカリ金属塩と、架橋剤とを含有してなる表面保護フィルム用粘着剤組成物であって、
前記(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加物を、5重量%以上含有し、
前記ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル系モノマーを、0.1?10重量%含有し、
前記ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル系モノマーが、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、12-ヒドロキシラウリル(メタ)アクリレート、(4-ヒドロキシメチルシクロへキシル)メチルアクリレート、及び、N-メチロール(メタ)アクリルアミドからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記単量体成分が、ウレタンアクリレート、及び、ダイアセトンアクリルアミドを含まず、
前記アルカリ金属塩が、LiBr、LiI、LiBF_(4)、LiPF_(6)、LiSCN、LiClO_(4)、LiCF_(3)SO_(3)、Li(CF_(3)SO_(2))_(2)N、Li(C_(2)F_(5)SO_(2))_(2)N、及び、Li(CF_(3)SO_(2))_(3)Cからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記(メタ)アクリル系ポリマーの酸価が10以下であることを特徴とする表面保護フィルム用粘着剤組成物。
【請求項2】
前記架橋剤が、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、メラミン系樹脂、アジリジン誘導体、及び、金属キレート化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の表面保護フィルム用粘着剤組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の表面保護フィルム用粘着剤組成物を架橋してなる粘着剤層。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の表面保護フィルム用粘着剤組成物を架橋してなる粘着剤層を支持体の片面または両面に形成してなることを特徴とする粘着シート類。
【請求項5】
剥離速度10m/分における粘着力が、0.1?1.3N/25mmであることを特徴とする請求項4に記載の粘着シート類。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の粘着シート類を用いてなることを特徴とする表面保護フィルム。」

第3 請求人の主張する無効理由の概要及び請求人が提出した証拠方法
1.無効理由の概要
請求人は、審判請求書において、請求の趣旨の欄を「『特許第4917267号の請求項1乃至請求項6に係る発明(以下、「本件特許発明1ないし6」という)についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。』との審決を求める。」とし、以下の無効理由を主張した。

【無効理由1】
本件特許明細書の発明の詳細な説明は、「前記(メタ)アクリル系ポリマーの酸価が10以下である」とする発明特定事項を含む本件特許発明1、及び本件特許発明1を引用する本件特許発明2乃至6を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載しているとはいえない。
よって、本件特許発明1乃至6は、特許法第36条第4項第1号に規定された要件を満たしているとはいえない特許出願に付与されたものであるから、特許法第123条第1項第4号の規定によって無効とされるべきものである。

【無効理由2】
「前記(メタ)アクリル系ポリマーの酸価が10以下である」とする発明特定事項を含む本件特許発明1、及び本件特許発明1を引用する本件特許発明2乃至6は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるといえない。
よって、本件特許発明1乃至6は、特許法第36条第6項第1号に規定された要件を満たしているとはいえない特許出願に付与されたものであるから、特許法第123条第1項第4号の規定によって無効とされるべきものである。

【無効理由3】
「前記(メタ)アクリル系ポリマーの酸価が10以下である」とする発明特定事項を含む本件特許発明1、及び本件特許発明1を引用する本件特許発明2乃至6は、明確であるとはいえない。
よって、本件特許発明1乃至6は、特許法第36条第6項第2号に規定された要件を満たしているとはいえない特許出願に付与されたものであるから、特許法第123条第1項第4号の規定によって無効とされるべきものである。

2.請求人が提出した証拠方法
請求人は、以下の証拠方法 、及び、参考文献を提出した。
[証拠方法]
甲第1号証:特許第4420389号公報
甲第2号証:特開2005-314579号公報
甲第3号証:特許第4562070号公報
[参考文献]
参考文献1:山下晋三、金子東助編「架橋剤ハンドブック」(大成社)昭和56年10月20日発行、第44?46頁
参考文献2:特開2005-298569号公報
参考文献3:特開2005-314476号公報
参考文献4:特開2006-111856号公報
(甲第1?3号証、参考文献2?3は、本件特許出願と同一出願人による先願に係る特許文献であり、参考文献4は、本件特許出願と同一出願人による同日の優先日の有する出願に係る特許文献である。)

第4 被請求人の主張の概要
被請求人は、審判事件答弁書において、「本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は審判請求人の負担とする」との審決を求め、「審判請求人の主張する無効理由は、妥当性を欠き、理由がないから、本件無効審判の請求は棄却されるべきものである。」旨の反論をした。

第5 当審の判断
当審は、請求人が主張する上記無効理由1?3は、いずれも理由がないものと判断する。その理由は、以下のとおりである。

1.発明の詳細な説明の記載事項
上記無効理由1?3はいずれも特許請求の範囲乃至発明の詳細な説明の記載要件に係るものであることに鑑み、まず、これらのうちのいずれかの無効理由に関連すると認められる発明の詳細な説明の記載を以下に摘記する。

a「【0001】
本発明は、アクリル系の粘着剤組成物に関する。さらに詳細には、帯電防止性粘着剤組成物とそれを用いた粘着シート類および表面保護フィルムに関する。
【0002】
特に本発明の粘着シート類は、静電気が発生しやすいプラスチック製品などに用いられ、なかでも特に、液晶ディスプレイなどに用いられる偏光板、波長板、位相差板、光学補償フィルム、反射シート、輝度向上フィルムなどの光学部材表面を保護する目的で用いられる表面保護フィルムとして有用である。」

b「【0010】
そこで、本発明の目的は、従来の帯電防止性粘着シート類における問題点を解消すべく、剥離した際に帯電防止されていない被着体への帯電防止が図れ、被着体への汚染性が低減された、接着信頼性に優れた帯電防止性粘着剤組成物、ならびにそれを用いてなる帯電防止性粘着シート類および表面保護フィルムを提供することにある。」

c「【0012】
すなわち、本発明の粘着剤組成物は、(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加物5?100重量%、前記以外の炭素数1?14であるアルキル基を有する(メタ)アクリル系モノマー0?95重量%、およびその他の重合性モノマー0?95重量%を単量体成分とする(メタ)アクリル系ポリマー、ならびにアルカリ金属塩とを含有してなる粘着剤組成物であって、前記(メタ)アクリル系ポリマーの酸価が10以下であることを特徴とする。」

d「【0014】
本発明の粘着剤組成物によると、実施例の結果に示すように、(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加物5?100重量%を単量体成分とし、酸価が10以下である(メタ)アクリル系ポリマーをベースポリマーとし、さらにアルカリ金属塩を含有するため、これを架橋した粘着剤層は、被保護体(被着体)への汚染性が低減され、剥離した際の帯電防止性に優れたものとなる。上記単量体成分を主成分として用いたベースポリマーの架橋物が、かかる特性を発現する理由の詳細は明らかではないが、アクリル酸アルキレンオキサイド付加物中のエーテル基にアルカリ金属塩が配位することでアルカリ金属塩がブリードしにくくなり、優れた帯電防止性と低汚染性を並立して実現していると推測される。」

e「【0015】
本発明における粘着剤組成物においては、(メタ)アクリル系ポリマーの酸価が10以下である(メタ)アクリル系ポリマーを用いることを特徴とする。本発明における(メタ)アクリル系ポリマーの酸価とは、試料1g中に含有する遊離脂肪酸、樹脂酸などを中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数のことをいう。(メタ)アクリル系ポリマー骨格中に、アルカリ金属塩との相互作用が大きいカルボキシル基やスルホネート基が多数存在することにより、イオン伝導が妨げられ、被着体への優れた帯電防止能が得られなかったと推測される。上記酸価が10を超える(メタ)アクリル系ポリマーでは、被着体への優れた帯電防止能が得られない場合がある。」

f「【0017】
上記において用いるアルカリ金属塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウムからなる金属塩などをあげることができるが、なかでも特に高い解離性を有するリチウム塩が好ましい。
【0018】
一方、本発明の粘着剤層は、上記いずれかに記載の粘着剤組成物を架橋してなることを特徴とする。本発明の粘着剤層によると、上記の如き作用効果を奏する粘着剤組成物を架橋してなるため、保護体への汚染性が低減され、剥離した際の帯電防止性に優れた粘着剤層となる。このため、特に帯電防止型の粘着剤層として有用となる。…」

g「【0026】
本発明における(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加物の具体例としては、たとえば、メトキシ-ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ-トリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどのメトキシ-ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート型、エトキシ-ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシ-トリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどのエトキシ-ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート型、ブトキシ-ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシ-トリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどのブトキシ-ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート型、フェノキシ-ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシ-トリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどのフェノキシ-ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート型、メトキシ-ジプロピレングリコール(メタ)アクリレートなどのメトキシ-ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート型などがあげられる。なかでも、エトキシ-ジエチレングリコールアクリレートなどが好適に用いられる。
【0027】
(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加物は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよいが、全体としての含有量は(メタ)アクリル系ポリマーの単量体成分中5?100重量%であることが好ましく、7?90重量%がより好ましく、9?80重量%が特に好ましい。(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加物の含有量が5重量%よりも少ない場合、アルカリ金属塩との相互作用が不十分となり、アルカリ金属塩のブリード抑制効果および被保護体の汚染低減効果が十分得られないために好ましくない。」

h「【0028】
また、本発明において、炭素数1?14であるアルキル基を有する(メタ)アクリル系モノマーを用いることができるが、炭素数2?13であるアルキル基を有する(メタ)アクリル系モノマーを用いることがより好ましい。たとえば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、s-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、へキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n-ドデシル(メタ)アクリレート、n-トリデシル(メタ)アクリレート、n-テトラデシル(メタ)アクリレートなどがあげられる。なかでも、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレートなどが好適に用いられる。
【0029】
本発明において、炭素数1?14であるアルキル基を有する(メタ)アクリル系モノマーは、単独で使用してもよいし、また2種以上を混合して使用してもよいが、全体としての含有量は(メタ)アクリル系ポリマーの単量体成分中0?95重量%であることが好ましく、10?93重量%であることがより好ましく、20?91重量%であることが特に好ましい。炭素数1?14であるアルキル基を有する(メタ)アクリル系モノマーを用いることにより、アルカリ金属塩との良好な相互作用、および良好な接着性を適宜調節することができる。」

i「【0032】
本発明における(メタ)アクリル系ポリマーには、酸価が10以下である(メタ)アクリル系ポリマーを用いるが、8以下であることが好ましく、6以下であることがより好ましい。
【0033】
具体的には、たとえば、カルボキシル基を有すアクリル系ポリマーとして2-エチルヘキシルアクリレートとアクリル酸を共重合したアクリル系ポリマーをあげることができるが、この場合、2-エチルヘキシルアクリレートとアクリル酸の合計量100重量部に対して、アクリル酸は1.3重量部以下であることを示す。」

j「【0034】
本発明においては、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル系モノマーを用いることができる。ヒドロキシル基含有モノマーとしては、たとえば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、12-ヒドロキシラウリル(メタ)アクリレート、(4-ヒドロキシメチルシクロへキシル)メチルアクリレート、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、ビニルアルコール、アリルアルコール、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテルなどがあげられる。
【0035】
上述のヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル系モノマーを含む場合において、(メタ)アクリル系ポリマーの全構成単位100重量部に対して、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル系モノマーが0.1?10重量部であることが好ましく、0.5?8重量部であることがより好ましい。」

k「【0036】
(メタ)アクリル系ポリマーにおいて用いられる、上記モノマー以外のその他の重合性モノマーとしては、たとえば、シアノ基含有モノマー、ビニルエステルモノマー、芳香族ビニルモノマーなどの凝集力・耐熱性向上成分や、アミド基含有モノマー、イミド基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー、N-アクリロイルモルホリン、ビニルエーテルモノマーなどの接着力向上や架橋化基点として働く官能基を有す成分を適宜用いることができる。これらのモノマー化合物は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0037】
シアノ基含有モノマーとしては、たとえば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルがあげられる。
【0038】
ビニルエステル類としては、たとえば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ラウリン酸ビニルなどがあげられる。
【0039】
芳香族ビニル化合物としては、たとえば、スチレン、クロロスチレン、クロロメチルスチレン、α-メチルスチレン、その他の置換スチレンなどがあげられる。
【0040】
アミド基含有モノマーとしては、たとえば、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、N-ビニルピロリドン、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N,N-ジエチルメタクリルアミド、N,N’-メチレンビスアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミドなどがあげられる。
【0041】
アミノ基含有モノマーとしては、たとえば、アミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルモルホリンなどがあげられる。
【0042】
イミド基含有モノマーとしては、たとえば、シクロヘキシルマレイミド、イソプロピルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、イタコンイミドなどがあげられる。
【0043】
エポキシ基含有モノマーとしては、たとえば、グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテルなどがあげられる。
【0044】
ビニルエーテル類としては、たとえば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテルなどがあげられる。
【0045】
本発明において、その他の重合性モノマーは、単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよいが、全体としての含有量は(メタ)アクリル系ポリマーの単量体成分中0?95重量%であることが好ましく、10?93重量%であることがより好ましく、20?91重量%であることが特に好ましい。その他の重合性モノマーを用いることにより、アルカリ金属塩との良好な相互作用、および良好な接着性を適宜調節することができる。」

l「【0049】
本発明に用いられるアルカリ金属塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウムからなる金属塩があげられ、…なかでも特に、LiBr、LiI、LiBF_(4)、LiPF_(6)、LiSCN、LiClO_(4)、LiCF_(3)SO_(3)、Li(CF_(3)SO_(2))_(2)N、Li(C_(2)F_(5)SO_(2))_(2)N、Li(CF_(3)SO_(2))_(3)Cなどのリチウム塩が好ましく用いられる。…
【0050】
上記粘着剤組成物において用いられるアルカリ金属塩の配合量については、(メタ)アクリル系ポリマー100重量部に対して、アルカリ金属塩を0.01?5重量部配合することが好ましく、0.05?3重量部配合することがより好ましい。0.01重量部より少なくなると十分な帯電特性が得られない場合があり、一方、5重量部より大きくなると被保護体への汚染が増加する傾向があるため、好ましくない。」

m「【0051】
本発明の粘着剤組成物は、(メタ)アクリル系ポリマーを適宜架橋することにより、より耐熱性に優れたものとなる。本発明に用いられる架橋剤としては、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、メラミン系樹脂、アジリジン誘導体、および金属キレート化合物などが用いられる。なかでも、主に適度な凝集力を得る観点から、イソシアネート化合物やエポキシ化合物が特に好ましく用いられる。…
【0052】
イソシアネート化合物としては、たとえば、ブチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの低級脂肪族ポリイソシアネート類、シクロペンチレンジイソシアネート、シクロへキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどの脂環族イソシアネート類、2,4-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどの芳香族イソシアネート類、トリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート3量体付加物(商品名コロネートL、日本ポリウレタン工業社製)、トリメチロールプロパン/へキサメチレンジイソシアネート3量体付加物(商品名コロネートHL、日本ポリウレタン工業社製)、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(商品名コロネートHX、日本ポリウレタン工業社製)などのイソシアネート付加物などがあげられる。これらの化合物は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0053】
エポキシ化合物としては、たとえば、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン(商品名TETRAD-X、三菱瓦斯化学社製)や1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロへキサン(商品名TETRAD-C、三菱瓦斯化学社製)などがあげられる。これらの化合物は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0054】
メラミン系樹脂としてはヘキサメチロールメラミンなどがあげられる。アジリジン誘導体としては、たとえば、市販品としての商品名HDU(相互薬工社製)、商品名TAZM(相互薬工社製)、商品名TAZO(相互薬工社製)などがあげられる。これらの化合物は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0055】
金属キレート化合物としては、金属成分としてアルミニウム、鉄、スズ、チタン、ニッケルなど、キレート成分としてアセチレン、アセト酢酸メチル、乳酸エチルなどがあげられる。これらの化合物は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0056】
本発明に用いられる架橋剤の含有量は、(メタ)アクリル系ポリマー100重量部に対し、0.01?15重量部含有されていることが好ましく、0.5?10重量部含有されていることがより好ましい。含有量が0.01重量部よりも少ない場合、架橋剤による架橋形成が不十分となり、粘着剤組成物の凝集力が小さくなって、十分な耐熱性が得られない場合もあり、また糊残りの原因となる傾向がある。一方、含有量が15重量部を超える場合、ポリマーの凝集力が大きく、流動性が低下し、偏光板への濡れが不十分となって偏光板と粘着剤組成物層との間に発生するフクレの原因となる傾向がある。また、これらの架橋剤は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。」

n「【0099】
また、本発明の粘着剤層の形成方法としては、粘着シート類の製造に用いられる公知の方法が用いられる。具体的には、たとえば、ロールコート、グラビアコート、リバースコート、ロールブラッシュ、スプレーコート、エアーナイフコート法、ダイコーターなどによる押出しコート法などがあげられる。
【0100】
本発明の粘着シート類は、通常、上記粘着剤層の厚みが3?100μm、好ましくは5?50μm程度となるように作製する。粘着シート類は、ポリエステルフィルムなどのプラスチックフィルムや、紙、不織布などの多孔質材料などからなる各種の支持体の片面または両面に、上記粘着剤層を塗布形成し、シート状やテープ状などの形態としたものである。特に表面保護フィルムの場合には支持体としてプラスチック基材を用いるのが好まし
い。
【0101】
本発明の粘着剤組成物を用いてなる粘着シート類を構成する支持体の厚みは、通常5?200μm、好ましくは10?100μm程度である。
【0102】
前記支持体には、必要に応じて、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系もしくは脂肪酸アミド系の離型剤、シリカ粉などによる離型および防汚処理や、酸処理、アルカリ処理、プライマー処理、コロナ処理、プラズマ処理、紫外線処理などの易接着処理、塗布型、練り込み型、蒸着型などの帯電防止処理をすることもできる。」

o「【0126】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例などについて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例などにおける評価項目は下記のようにして測定を行った。
【0127】
<酸価の測定>
酸価は、自動滴定装置(平沼産業株式会社製、COM-550)を用いて測定を行い、
下記式より求めた。
【0128】
A={(Y-X)×f×5.611}/n
A:酸価
Y:サンプル溶液の滴定量(ml)
X:混合溶媒50gのみの溶液の滴定量(ml)
f:滴定溶液のファクター
n:ポリマーサンプルの重量(g)

【0140】
<剥離帯電圧の測定>
粘着シートを幅70mm、長さ130mmのサイズにカットし、セパレーターを剥離した後、あらかじめ除電しておいたアクリル板(厚み:1mm、幅:70mm、長さ:100mm)に貼り合わせた偏光板(日東電工社製、SEG1425EWVAGS2B、幅:70mm、長さ:100mm)表面に片方の端部が30mmはみ出すようにハンドローラーにて圧着した。
【0141】
23℃×50%RHの環境下に一日放置した後、図1に示すように所定の位置にサンプルをセットした。30mmはみ出した片方の端部を自動巻取り機に固定し、剥離角度150°、剥離速度10n/minとなるように剥離した。このときに発生する偏光板表面の電位を所定の位置に固定してある電位測定機(春日電機社製、KSD-0103)にて測定した。測定は、23℃×50%RHの環境下で行った。
…」

p「【0149】
<(メタ)アクリル系ポリマーの調製>
〔アクリル系ポリマー(A)〕
攪拌羽根、温度計、窒素ガス導入管、冷却器、滴下ロートを備えた四つ口フラスコに2-エチルヘキシルアクリレート180重量部、エトキシ-ジエチレングリコールアクリレート20重量部、2-ヒドロキシエチルアクリレート8重量部、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.4重量部、トルエン47重量部、酢酸エチル265重量部を仕込み、緩やかに攪拌しながら窒素ガスを導入し、フラスコ内の液温を65℃付近に保って6時間重合反応を行い、アクリル系ポリマー(A)溶液(40重量%)を調製した。前記アクリル系ポリマー(A)の重量平均分子量は50万、ガラス転移温度(Tg)は-68℃、酸価は0であった。
【0150】
〔アクリル系ポリマー(B)〕
攪拌羽根、温度計、窒素ガス導入管、冷却器、滴下ロートを備えた四つ口フラスコに2-エチルヘキシルアクリレート140重量部、エトキシ-ジエチレングリコールアクリレート60重量部、2-ヒドロキシエチルアクリレート8重量部、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.4重量部、トルエン94重量部、酢酸エチル218重量部を仕込み、緩やかに攪拌しながら窒素ガスを導入し、フラスコ内の液温を65℃付近に保って6時間重合反応を行い、アクリル系ポリマー(B)溶液(40重量%)を調製した。前記アクリル系ポリマー(B)の重量平均分子量は50万、ガラス転移温度(Tg)は-68℃、酸価は0であった。

【0152】
〔アクリル系ポリマー(D)〕
攪拌羽根、温度計、窒素ガス導入管、冷却器、滴下ロートを備えた四つ口フラスコに2-エチルヘキシルアクリレート200重量部、2-ヒドロキシエチルアクリレート8重量部、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.4重量部、酢酸エチル312重量部を仕込み、緩やかに攪拌しながら窒素ガスを導入し、フラスコ内の液温を65℃付近に保って6時間重合反応を行い、アクリル系ポリマー(D)溶液(40重量%)を調製した。前記アクリル系ポリマー(D)の重量平均分子量は54万、ガラス転移温度(Tg)は-68℃、酸価は0であった。
【0153】
〔アクリル系ポリマー(E)〕
攪拌羽根、温度計、窒素ガス導入管、冷却器、滴下ロートを備えた四つ口フラスコに2-エチルヘキシルアクリレート140重量部、エトキシ-ジエチレングリコールアクリレート60重量部、アクリル酸4重量部、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.4重量部、トルエン47重量部、酢酸エチル265重量部を仕込み、緩やかに攪拌しながら窒素ガスを導入し、フラスコ内の液温を65℃付近に保って6時間重合反応を行い、アクリル系ポリマー(E)溶液(40重量%)を調製した。前記アクリル系ポリマー(E)の重量平均分子量は72万、ガラス転移温度(Tg)は-68℃、酸価は15であった。
【0154】
〔アクリル系ポリマー(F)〕
攪拌羽根、温度計、窒素ガス導入管、冷却器、滴下ロートを備えた四つ口フラスコに2-エチルヘキシルアクリレート190重量部、エトキシ-ジエチレングリコールアクリレート10重量部、2-ヒドロキシエチルアクリレート8重量部、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.4重量部、酢酸エチル312重量部を仕込み、緩やかに攪拌しながら窒素ガスを導入し、フラスコ内の液温を65℃付近に保って6時間重合反応を行い、アクリル系ポリマー(F)溶液(40重量%)を調製した。前記アクリル系ポリマー(F)の重量平均分子量は67万、ガラス転移温度(Tg)は-68℃、酸価は0であった。
【0155】
〔アクリル系ポリマー(G)〕
攪拌羽根、温度計、窒素ガス導入管、冷却器、滴下ロートを備えた四つ口フラスコに2-エチルヘキシルアクリレート180重量部、メトキシ-ジプロピレングリコールアクリレート20重量部、2-ヒドロキシエチルアクリレート8重量部、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.4重量部、酢酸エチル386重量部を仕込み、緩やかに攪拌しながら窒素ガスを導入し、フラスコ内の液温を65℃付近に保って6時間重合反応を行い、アクリル系ポリマー(G)溶液(35重量%)を調製した。前記アクリル系ポリマー(G)の重量平均分子量は41万、ガラス転移温度(Tg)は0℃以下、酸価は0であった。
【0156】
<帯電防止剤溶液の調製>
〔帯電防止剤溶液(a)〕
攪拌羽根、温度計、冷却器、滴下ロートを備えた四つ口フラスコにヨウ化リチウム5重量部、酢酸エチル20重量部を仕込み、フラスコ内の液温を25℃付近に保って2時間混合撹拌を行い、帯電防止剤溶液(a)(20重量%)を調製した。

【0158】
〔帯電防止剤溶液(c)〕
攪拌羽根、温度計、冷却器、滴下ロートを備えた四つ口フラスコにヨウ化リチウム0.1重量部、ポリプロピレングリコール(ジオール型、数平均分子量2000)7.9重量部、酢酸エチル8重量部を仕込み、フラスコ内の液温を80℃付近に保って2時間混合撹拌を行い、帯電防止剤溶液(c)(50重量%)を調製した。
【0159】
〔帯電防止剤溶液(d)〕
攪拌羽根、温度計、冷却器、滴下ロートを備えた四つ口フラスコにヨウ化リチウム0.1重量部、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール-ポリエチレングリコールのブロック共重合体(第一工業製薬社製、エパン450、数平均分子量2400、エチレングリコール比率:50重量%)9.9重量部、酢酸エチル10重量部を仕込み、フラスコ内の液温を80℃付近に保って2時間混合撹拌を行い、帯電防止剤溶液(d)(50重量%)を調製した。
【0160】
<帯電防止処理フィルムの作製>
帯電防止剤(ソルベックス社製、マイクロソルバーRMd-142、酸化スズとポリエステル樹脂を主成分とする)10重量部を、水30重量部とメタノール70重量部からなる混合溶媒で希釈することにより帯電防止剤溶液を調製した。
【0161】
得られた帯電防止剤溶液を、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚さ38μm)上にマイヤーバーを用いて塗布し、130℃で1分間乾燥することにより溶剤を除去して帯電防止層(厚さ0.2μm)を形成し、帯電防止処理フィルムを作製した。」
【0162】
<実施例1>
〔粘着剤溶液の調製〕
上記アクリル系ポリマー(A)溶液(40重量%)を酢酸エチルで20重量%に希釈し、この溶液100重量部に上記帯電防止剤溶液(a)(20重量%)0.4重量部、架橋剤としてトリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート3量体付加物(日本ポリウレタン工業社製、コロネートL、75重量%酢酸エチル溶液)1.1重量部、架橋触媒としてジラウリン酸ジブチルスズ(1重量%酢酸エチル溶液)0.6重量部を加えて混合撹拌し、アクリル系粘着剤溶液(1)を調製した。
【0163】
〔粘着シートの作製〕
上記アクリル粘着剤溶液(1)を上記の帯電防止処理フィルムの帯電防止処理面とは反対の面に塗布し、110℃で3分間加熱して、厚さ20μmの粘着剤層を形成した。次いで、前記粘着剤層の表面に、片面にシリコーン処理を施した厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムのシリコーン処理面を貼り合わせて粘着シートを作製した。
【0164】
<実施例2>
〔粘着剤溶液の調製〕
上記アクリル系ポリマー(A)溶液(40重量%)に代えて、上記アクリル系ポリマー(B)溶液(40重量%)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてアクリル系粘着剤溶液(2)を作製した。
【0165】
〔粘着シートの作製〕
上記アクリル系粘着剤溶液(1)に代えて、上記アクリル系粘着剤溶液(2)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により粘着シートを作製した。
【0167】
〔粘着シートの作製〕
上記アクリル系粘着剤溶液(1)に代えて、上記アクリル系粘着剤溶液(3)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により粘着シートを作製した。
【0169】
〔粘着シートの作製〕
上記アクリル系粘着剤溶液(1)に代えて、上記アクリル系粘着剤溶液(4)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により粘着シートを作製した。
【0170】
<比較例1>
〔粘着剤溶液の調製〕
上記アクリル系ポリマー(D)溶液(40重量%)を酢酸エチルで20重量%に希釈し、この溶液100重量部にアニオン系界面活性剤であるジアルキルスルホコハク酸エステルナトリウム塩(第一工業製薬社製、ネオコールP)2.0重量部、架橋剤としてトリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート3量体付加物(日本ポリウレタン工業社製、コロネートL、75重量%酢酸エチル溶液)1.1重量部、架橋触媒としてジラウリン酸ジブチルスズ(1重量%酢酸エチル溶液)0.6重量部を加えて混合撹拌し、アクリル系粘着剤溶液(5)を調製した。
【0171】
〔粘着シートの作製〕
上記アクリル系粘着剤溶液(1)に代えて、上記アクリル系粘着剤溶液(5)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により粘着シートを作製した。
【0172】
<比較例2>
〔粘着剤溶液の調製〕
上記アクリル系ポリマー(D)溶液(40重量%)を酢酸エチルで20重量%に希釈し、この溶液100重量部に上記帯電防止剤溶液(c)(50重量%)3.2重量部、架橋剤としてヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(日本ポリウレタン工業社製、コロネートHX)0.4重量部、架橋触媒としてジラウリン酸ジブチルスズ(1重量%酢酸エチル溶液)0.4重量部を加えて混合撹拌し、アクリル系粘着剤溶液(6)を調製した。
【0173】
〔粘着シートの作製〕
上記アクリル系粘着剤溶液(1)に代えて、上記アクリル系粘着剤溶液(6)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により粘着シートを作製した。
【0174】
<比較例3>
〔粘着剤溶液の調製〕
上記帯電防止剤溶液(a)を用いなかった以外は、実施例1と同様の方法によりアクリル系粘着剤溶液(7)を調製した。
【0175】
〔粘着シートの作製〕
上記アクリル系粘着剤溶液(1)に代えて、上記アクリル系粘着剤溶液(7)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により粘着シートを作製した。
【0176】
<比較例4>
〔粘着剤溶液の調製〕
上記アクリル系ポリマー(E)溶液(40重量%)を酢酸エチルで20重量%に希釈し、この溶液100重量部に上記帯電防止剤溶液(a)(20重量%)0.7重量部、架橋剤として1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン(三菱瓦斯化学社製、テトラッドC)0.7重量部を加えて混合撹拌し、アクリル系粘着剤溶液(8)を調製した。
【0177】
〔粘着シートの作製〕
上記アクリル系粘着剤溶液(1)に代えて、上記アクリル系粘着剤溶液(8)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により粘着シートを作製した。
【0179】
〔粘着シートの作製〕
上記アクリル系粘着剤溶液(1)に代えて、上記アクリル系粘着剤溶液(9)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により粘着シートを作製した。
【0180】
<実施例6>
〔粘着剤溶液の調製〕
上記アクリル系ポリマー(G)溶液(35重量%)を酢酸エチルで20重量%に希釈し、この溶液100重量部に上記帯電防止剤溶液(d)(50重量%)4重量部、架橋剤としてヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(日本ポリウレタン工業社製、コロネートHX)0.4重量部、架橋触媒としてジラウリン酸ジブチルスズ(1重量%酢酸エチル溶液)0.4重量部を加え、常温(25℃)下で約1分間混合撹拌し、アクリル系粘着剤溶液(10)を調製した。
【0181】
〔粘着シートの作製〕
上記アクリル系粘着剤溶液(1)に代えて、上記アクリル系粘着剤溶液(10)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により粘着シートを作製した。
【0182】
<比較例5>
〔粘着剤溶液の調製〕
上記アクリル系ポリマー(D)溶液(40重量%)を酢酸エチルで20重量%に希釈し、この溶液100重量部に上記帯電防止剤溶液(d)(50重量%)2.8重量部、架橋剤としてヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(日本ポリウレタン工業社製、コロネートHX)0.4重量部、架橋触媒としてジラウリン酸ジブチルスズ(1重量%酢酸エチル溶液)0.4重量部を加え、常温(25℃)下で約1分間混合撹拌し、アクリル系粘着剤溶液(11)を調製した。
【0183】
〔粘着シートの作製〕
上記アクリル系粘着剤溶液(1)に代えて、上記アクリル系粘着剤溶液(11)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により粘着シートを作製した。
【0184】
上記方法に従い、作製した粘着シートの剥離帯電圧の測定、汚染性の評価、および粘着力の測定を行った。得られた結果を表1に示す。
【0185】
【表1】


【0186】
上記表1の結果より、本発明によって作製された(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加物を有するアクリル系ポリマーをベースポリマーとして含む粘着剤組成物を用いた場合(実施例1?6)、いずれの実施例においても、偏光板の剥離帯電圧の絶対値が1.0kV未満という低い値に抑制され、かつ、被着体たる偏光板への汚染の発生もないことが明らかとなった。
【0187】
これに対して、(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加物を含有していない場合(比較例1?2、5)では、剥離帯電圧は低く抑えられているものの、偏光板への汚染の発生が認められた。また、(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加物を含有しているがアルカリ金属塩を含有していない場合(比較例3)、および酸価が10より大きい(メタ)アクリル系ポリマーを用いた場合(比較例4)では、偏光板への汚染は認められないものの、剥離帯電圧の絶対値が-1.0kV以上という高い値となった。従って、比較例ではいずれも、剥離帯電圧の抑制ならびに偏光板への汚染の発生の抑制を並立することができない結果となり、帯電防止性粘着シート用の粘着剤組成物には適さないことが明らかとなった。
【0188】
また、本発明の実施例1?4の粘着シートは、剥離速度が10m/minでの180°ピール粘着力が0.1?6N/25mmの範囲にあり、再剥離型の表面保護フィルム用として適用可能な粘着シートであることがわかる。
【0189】
よって、本発明の粘着剤組成物は、剥離した際の帯電防止性に優れるとともに、被保護体への汚染性が低減された、接着信頼性に優れた粘着剤組成物であることが確認できた。」

2.無効理由1について
(1)本件特許発明について
本件特許発明(前記「第2 本件特許に係る発明」参照。)は、「剥離した際に帯電防止されていない被着体への帯電防止が図れ、被着体への汚染性が低減された、接着信頼性に優れた」粘着剤組成物、粘着シート類、及び表面保護フィルムを提供することを課題とするものであって(摘記b)、発明の詳細な説明の「…上記単量体成分を主成分として用いたベースポリマーの架橋物が、かかる特性を発現する理由の詳細は明らかではないが、アクリル酸アルキレンオキサイド付加物中のエーテル基にアルカリ金属塩が配位することでアルカリ金属塩がブリードしにくくなり、優れた帯電防止性と低汚染性を並立して実現していると推測される。」(摘記d)、「…(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加物の含有量が5重量%よりも少ない場合、アルカリ金属塩との相互作用が不十分となり、アルカリ金属塩のブリード抑制効果および被保護体の汚染低減効果が十分得られないために好ましくない。」(摘記g)、「…炭素数1?14であるアルキル基を有する(メタ)アクリル系モノマーを用いることにより、アルカリ金属塩との良好な相互作用、および良好な接着性を適宜調節することができる。」(摘記h)、「…その他の重合性モノマーを用いることにより、アルカリ金属塩との良好な相互作用、および良好な接着性を適宜調節することができる。」(摘記k)等の記載からみて、(メタ)アクリル系ポリマーを構成する必須のアクリルモノマーとして、「(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加物」を使用することによってアルカリ金属塩のブリードを抑制して帯電防止性、低汚染性を向上させ、「炭素数1?14であるアルキル基を有する(メタ)アクリル系モノマー」や「その他の重合モノマー」等を使用してアルカリ金属塩との良好な相互作用、及び、接着性を適宜調節する等によって、発明の課題の解決を達成するものと認められる。
そして、本件特許発明における「酸価が10以下」との事項は、発明の詳細な説明の「上記酸価が10を超える(メタ)アクリル系ポリマーでは、被着体への優れた帯電防止能が得られない場合がある。」(摘記e)等の記載からみて、「(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加物」等のアクリルモノマーによって達成される帯電防止能が妨げられる場合がないようにするためのものであって、本件特許発明における3種類の必須のアクリルモノマーの酸価がいずれも0であり(メタ)アクリル系ポリマーの酸価が0を超える値となるのはその他の任意の重合モノマー(摘記k)の有する遊離のカルボキシル基に起因することは明らかなことを考慮すると、本件特許発明における「酸価が10以下」との事項は、本件特許発明において必須でない任意の重合モノマーによって本件特許発明の課題の達成が妨げられる場合がないように、その他の重合モノマーにおける遊離のカルボキシル基の量を制限するための事項と認められる(3種類の必須のアクリルモノマーの酸価が0であることについて付言すると、「(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加物」、「ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル系モノマー」、「前記以外の炭素数1?14であるアルキル基を有する(メタ)アクリル系モノマー」は、順に、カルボキシル基にアルキレンオキサイド(-COO-(AO)_(n)R)、ヒドロキシルアルキル(-COOR(OH))、炭素数1?14であるアルキル基(-COOR)が付加したものであって、いずれも遊離のカルボキシル基(-COO^(-))を有するものでないから、酸価0のモノマーである。)。
すなわち、本件特許発明は、帯電防止能、低汚染性、接着信頼性についての発明の課題の解決が図られるように、「(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加物」等の特定の3種類のアクリルモノマー、アルカリ金属塩、架橋剤を使用することを必須とし、帯電防止能についての課題の達成が妨げられる場合がないように必須でない任意の重合モノマーにおける遊離のカルボキシル基の量を酸価の値によって制限する発明である(なお、本件特許発明が単に酸価を規定することのみによって発明の課題の解決を図るものでないことは明らかである。)。


(2)本件特許発明の実施可能要件について
前記「(1)本件特許発明について」に記載したとおり、本件特許発明は、(「酸価が10以下」と規定するほか、)特定の3種類のアクリルモノマー、アルカリ金属塩等の種類、配合量等を規定することによって、帯電防止能のほか、低汚染性、接着信頼性についての発明の課題の達成を図るものと認められるが、発明の詳細な説明は、そのような本件特許発明を当業者が理解し、実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるか否かについて検討する。

発明の詳細な説明には、(メタ)アクリル系ポリマーを構成する3種類の必須の構成モノマーについてその種類、使用量、作用等について具体的に開示されているから(摘記g、h、j)、当業者は、適切な構成モノマーを適切な量で採用することができたものと認められる。
また、必須でない任意の重合モノマー、架橋剤、アルカリ金属塩についてもその種類、使用量等について具体的に開示されているから(摘記k、l、m)、当業者は、それらの成分についても適切な種類、使用量を採用することができたものと認められる。
また、発明の詳細な説明には、実施例等の記載からみて酸価を調整する方法が当業者であれば理解できるように記載されていると認められるし(摘記p、o、i)、「酸価が10以下」とすることの技術的意味を当業者が理解できるように記載されている(摘記e)と認められる。
そして、発明の詳細な説明の実施例には、剥離帯電圧、汚染性、粘着力のデータが開示され、本件特許発明の実施例品のそれらの特性が良好であることが示されているものと認められる(摘記p)。
そうすると、発明の詳細な説明に記載された本件特許発明の粘着剤組成物を構成する各成分の種類や使用量、及び、「酸価が10以下」とする技術的意味が被着体への優れた帯電防止能が得られなくなる場合がないようにするためであることを考慮して、本件特許発明1の帯電防止能等の優れた粘着剤組成物を製造することは、当業者が発明の詳細な説明の記載から、実施することができたことと認められる。
さらに、発明の詳細な説明には、本件特許発明1に係る粘着剤組成物を粘着剤層やフィルムにすることに関する記載(摘記a、n、p)もされており、本件特許発明1に係る粘着剤組成物を粘着剤層、粘着シート類、及び、表面保護フィルムとすることも当業者が発明の詳細な説明の記載から実施することができたことと認められる。
そうすると、発明の詳細な説明は、本件特許発明を当業者が理解し、実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものと認められる。

(3)請求人の主張について
無効理由1について、請求人は、審判請求書、平成24年11月30日付け口頭審理陳述要領書において、以下の事項を主張している。

(ア)本件特許発明は、「前記(メタ)アクリル系ポリマーの酸価が10以下である」、「ことを特徴とする表面保護フィルム用粘着剤組成物」を発明特定事項として含むものであるが、発明の詳細な説明に記載された実施例の酸価はすべて0であり「酸価が10以下」の根拠となる実施例等が全く記載されておらず、また、段落【0015】等の発明の詳細な説明の記載は「酸価が10以下」の根拠となる実施例等を明確に説明するものとはいえない(少なくとも、酸価の上限値である酸価10の実験データ、及び、上限値を外れた、例えば、酸価11の実験データを必須とするものである。)から、本件特許発明が発明の詳細な説明に明確に記載されているといえない。(審判請求書第8?9頁(ウ)丸数字1)

(イ)本件特許発明の酸価10は、架橋された(メタ)アクリル系ポリマーの酸価であると考えるべきであり、その場合、発明の詳細な説明は、架橋された粘着剤層のアクリル系ポリマーの酸価を明記した粘着シートを作製できるようにするための記載を有していなければならないが、発明の詳細な説明は、そのような粘着シートを作製できるようにするための記載、使用できるようにするための記載を一切有していないから、発明の詳細な説明に、本件特許発明が「作ることができるように」及び「使用することができるように」記載されているとはいえない。(審判請求書第9?10頁(ウ)丸数字2)

(ウ)発明の詳細な説明に記載された比較例4は、架橋前の酸価が15であり、架橋後の酸価は不明なものであるが、架橋の進行状況によっては架橋後の酸価が10以下になっている可能性があることを否定できない。その場合、比較例4は比較例とはなりえないことが明らかである。(審判請求書第10?11頁(エ)?(カ))

(エ)本件特許発明は、その課題である表面保護フィルム用粘着剤組成物の帯電防止について、「剥離帯電圧の絶対値が1.0kV未満であるか否か」によって解決されたか否かの判定を行うものである。そして、粘着シート上の粘着剤層はその架橋の程度によりカルボキシル基の残基量が変動するものであり、また、アルカリ金属塩の種類と配合量、架橋の程度により剥離帯電圧が変動することを考えると、本件特許発明1に含まれる(メタ)アクリル系ポリマーの「酸価が10以下(0を除く)」の酸価が、本件特許発明4の架橋された粘着剤層を有する粘着シート類の剥離帯電圧を一義的に決定できるものでないことは明らかであり、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。(平成24年11月30日付け口頭審理陳述要領書第2?11頁(1))

以下、これらの主張について検討する。
[主張(ア)について]
主張(ア)は、発明の詳細な説明に記載された実施例の酸価はすべて0であり、酸価の上限値である酸価10の実験データ、及び、上限値を外れた、例えば、酸価11の実験データがないことを根拠に発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たさないことを主張するものと認められる。
しかしながら、前記「(2)本件特許発明の実施可能要件について」に記載したように、発明の詳細な説明には、本件特許発明において、架橋前の「酸価が10以下」とする技術的意味が記載されている(摘記e)し、架橋後の酸価は架橋前の酸価よりも大きな値とならないという技術常識を考慮すると、粘着シートの帯電防止能を妨げられる場合がないように架橋前の酸価の上限値を設定すれば、架橋後の粘着剤組成物においても帯電防止能を妨げる場合がないようにできることは当業者にとって明らかなことである。
そして、前記の特定の3種類のアクリルモノマーを必須とする本件特許発明については「本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識を考慮しても、発明の詳細な説明の実施例に記載された場合のほかは当業者が本件特許発明を実施することができないもの」とは認められないし、また、本件特許発明が明らかに実施できない場合を包含するものとも認められない(なお、明らかに実施できない場合を包含するものと認められないこと、については、後記[主張(エ)について]も、参照のこと。)。
そうすると、請求人の主張(ア)は、認められないものである。

[主張(イ)、(ウ)について]
主張(イ)、(ウ)は、本件特許発明の発明特定事項である(メタ)アクリル系ポリマーの「酸価が10以下」において規定される酸価が架橋後の酸価の意味であることを前提とした主張であるが、特許請求の範囲の請求項1に「単量体成分として…を含有する(メタ)アクリル系ポリマー、ならびにアルカリ金属塩と、架橋剤とを含有してなる表面保護フィルム用粘着剤組成物であって、…前記(メタ)アクリル系ポリマーの酸価が10以下であることを特徴とする表面保護フィルム用粘着剤組成物。」と表面保護フィルム用粘着剤組成物に架橋剤等とともに含有される(メタ)アクリル系ポリマー、即ち、架橋前の(メタ)アクリル系ポリマーの酸価が10以下であることが記載されていること、及び、発明の詳細な説明に「本発明における粘着剤組成物においては、(メタ)アクリル系ポリマーの酸価が10以下である(メタ)アクリル系ポリマーを用いることを特徴とする。…」(摘記e)と架橋前の(メタ)アクリル系ポリマー、の酸価が10以下であることが記載されていること、反対に、架橋後の(メタ)アクリル系ポリマーの酸価が10以下であることを意味する記載はないこと、を考慮すると、本件特許発明の発明特定事項である(メタ)アクリル系ポリマーの「酸価が10以下」において規定される酸価は架橋前の酸価の意味と認められる。
そうすると、当該酸価が架橋後の酸価の意味であることを前提とした主張(イ)、(ウ)は、前提において誤りがあり、認められないものである。

[主張(エ)について]
主張(エ)は、アルカリ金属塩の種類と配合量、架橋の程度等によって剥離帯電圧は変動するため、本件特許発明1における(メタ)アクリル系ポリマーの架橋前の「酸価が10以下」であることによって、架橋後の粘着シート類の剥離帯電圧を一義的に決定できないことを根拠に発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たさないことを主張するものと認められる。
しかしながら、架橋後のアクリル系ポリマーの酸価、剥離帯電圧が各種の要因によって変動するものであるとしても、前記の特定の3種類のアクリルモノマーを必須とする本件特許発明については、架橋前の酸価が10以下のアクリル系ポリマーの場合において架橋後に発明の課題の解決が妨げられることを実証するのに十分な証拠等の存在は認められない(なお、請求人は、平成24年12月28日付け上申書において、本件特許発明等の酸価と剥離帯電圧との関係をグラフにした参考図(図3(a)、(b)、図4)を提出し、酸価が10以下であっても本願特許発明の課題の達成が図られない場合があり得ることを主張しているが、提出された参考図は少数のデータをもとにして2点を結ぶ等の方法によってグラフ化したものであって、多数の実験データー等から導かれたものではなく、酸価と剥離帯電圧との関係が必ず提出された参考図に示すようなものであると客観的に認めるに十分なものとはいえないから、請求人の主張を認めることはできない。)から、請求人の主張(エ)は、認められないものである。

(4)無効理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由1によっては、本件特許を無効とすることはできない。

3.無効理由2について
(1)本件特許発明のサポート要件について
ア.サポート要件の判断手法について
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(平成17年(行ケ)第10042号判決参照)。
そこで、以下、この観点に立って、この出願の特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かについて検討することにする。

イ.本件特許発明
本件特許発明は、「第2 本件特許に係る発明」に記載されたとおりのものである。
そして、前記「2.(1)本件特許発明について」に記載したとおり、本件特許発明は、特定の3種類の必須の構成モノマーを使用し、それらの構成モノマーの作用等によって本件特許発明の課題の解決を図りつつ、任意成分であるその他の構成モノマーによって課題の達成が妨げたげられる場合がないように架橋前の「酸価が10以下」との特定を行ったものであって、「酸価が10以下」との数値は、任意成分としての遊離のカルボキシル基を有するモノマー(アクリル酸等)の量を制限しようとするものである(本件特許発明が酸価を規定することのみによって発明の課題の解決を図るものでないことは明らかである。)。

ウ.本件特許発明の課題について
摘記bの事項からみて、本件特許発明の課題は、「従来の帯電防止性粘着シート類における問題点を解消すべく、剥離した際に帯電防止されていない被着体への帯電防止が図れ、被着体への汚染性が低減された、接着信頼性に優れた帯電防止性粘着剤組成物、ならびにそれを用いてなる帯電防止性粘着シート類および表面保護フィルムを提供すること」と認められる。

エ.検討
(ア)本件特許発明1
発明の詳細な説明の記載をみると、「(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加物5?100重量%、前記以外の炭素数1?14であるアルキル基を有する(メタ)アクリル系モノマー0?95重量%、およびその他の重合性モノマー0?95重量%を単量体成分とする(メタ)アクリル系ポリマー、ならびにアルカリ金属塩とを含有してなる粘着剤組成物であって、前記(メタ)アクリル系ポリマーの酸価が10以下である」粘着剤組成物に係る発明(摘記c)が記載され、
(メタ)アクリル系ポリマーを構成する3種類の必須の構成モノマーについてその種類、使用量等について具体的に開示され(摘記g、h、j)、また、任意成分としてのその他の構成モノマー、架橋剤、アルカリ金属塩についてもその種類、使用量等について具体的に開示されており(摘記k、l、m)、実施例等の記載からみて酸価を調整する方法が当業者であれば理解できるように記載されているものと認められるし(摘記p、o、i)、「酸価が10以下」とすることの技術的意味が当業者が理解できるように記載されている(摘記e)ものと認められる。
また、本件特許発明が「表面保護フィルムに関する」ものであること(摘記a、n)が記載され、ウレタンアクリレート、ダイアセトンアクリルアミドを含まない実施例(摘記p)が記載されている。
よって、摘記cに記載された粘着剤組成物、及び、摘記e,g?pに記載された当該粘着剤組成物を構成する各成分や酸価に関する事項に照らせば、本件特許明細書の詳細な説明には、本件特許発明1が記載されているといえる。
そして、発明の詳細な説明の実施例の記載をみると、実施例1、2、6として、本件特許発明1に相当する実施例について、剥離した際に帯電防止されていない被着体への帯電防止が図られ(偏向板の剥離帯電圧の絶対値が0?0.3と低い。)、被着体への汚染性が低減され、良好な粘着力が得られたことが示されているものと認められる(摘記p)。
また、発明の詳細な説明には、実施例以外の記載として、「酸価が10以下」であることについての技術的説明(摘記e)、及び、その他の本件特許発明の発明特定事項についての技術的な説明(摘記f?m等)が当業者が理解できる程度に十分に記載されていると認められる。
よって、発明の詳細な説明の記載は、実施例としては酸価=0のもののみが記載されているとしても、発明の詳細な説明の記載全体を考慮すれば、特定の3種類のアクリルモノマーを使用することを必須とし、本件特許発明の課題の達成が妨げられる場合がないように、必須でない任意の重合モノマーのうち遊離のカルボキシル基を有するものの量を「酸価が10以下」として制限する本件特許発明1について、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものと認められるから、本件特許発明1については「特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のもの」と認められる。

(イ)本件特許発明2?6
本件特許発明2は、本件特許発明1にさらに架橋剤の種類の限定を付した発明であるが、架橋剤の種類については、発明の詳細な説明に技術的な説明が記載されている(摘記m)から、本件特許明細書の詳細な説明には、本件発明2が記載されているといえる。
また、本願特許発明3は、本件特許発明1、2を架橋してなる粘着剤層に係る発明、本願特許発明4、5は、該粘着剤層を用いた粘着シート類に係る発明、本件特許発明6は、該粘着シート類を用いた表面保護フィルムに係る発明であるが、発明の詳細な説明の記載(摘記a、n、p等)からみて、本件特許明細書の詳細な説明には、本件特許発明3?6が記載されているといえる。
そして、発明の詳細な説明の実施例の記載(摘記p)等からみて、本件特許発明2?6も本件特許発明1と同様に、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものと認められるから、本件特許発明2?6については「特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のもの」と認められる。

(2)無効理由2についてのまとめ
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由2によっては、本件特許を無効とすることはできない。

4.無効理由3について
特許請求の範囲の明確性について、請求人の主張する無効理由は、
(1)本件特許発明の「酸価が10以下」が技術的意義を欠如すること
、及び、
(2)本件特許発明の「酸価が10以下」が架橋後の酸価であるとの定義がされていないことから技術的意義を欠如していること
、と認められる。

そこで、これらの(1)、(2)の無効理由について検討する。

(1)「酸価が10以下」が技術的意義を欠如することについて
前記「2.(1)本件特許発明について」に記載したとおり、本件特許発明は、発明の課題の解決が図られるように、「(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加物」等の特定の3種類のアクリルモノマーを使用することを必須とし、帯電防止剤としてのアルカリ金属塩、架橋剤を使用し、本件特許発明の課題の達成が妨げられる場合がないように必須でない任意の重合モノマーのうち遊離のカルボキシル基を有するものの量を酸価の値によって制限する発明であって、発明の詳細な説明には、「酸価が10以下」とすることの技術的意味について、「(メタ)アクリル系ポリマー骨格中に、アルカリ金属塩との相互作用が大きいカルボキシル基やスルホネート基が多数存在することにより、イオン伝導が妨げられ、被着体への優れた帯電防止能が得られなかったと推測される」ため、(メタ)アクリル系ポリマー骨格中に存在するカルボキシル基を一定量以下として、アルカリ金属塩による帯電防止能が妨げられる場合がないようにする意味であることが記載されており(摘記e)、当業者にとって、「酸価が10以下」とすることの技術的意義は明確なものと認められる。

(2)「酸価が10以下」が架橋後の酸価であるとの定義がされていないことから技術的意義を欠如していることについて
前記「2.(3)請求人の主張について」の[主張(イ)、(ウ)について]に記載したとおり、本件特許発明における「酸価が10以下」の酸価が架橋前の酸価の意味であることは、発明の詳細な説明の記載を参照すると明らかなことと認められる。
そして、前記「3.無効理由2について」に記載したとおり本件特許発明は、特定の3種類のアクリルモノマーを使用することを必須とし、架橋前の酸価を「酸価が10以下」と規定したことによって発明の課題の解決を図ることができると発明の詳細な説明の記載から当業者が認識できるものであり、また、「2.(3)請求人の主張について」の[主張(エ)について]に記載したとおり、架橋前の酸価を「酸価が10以下」と規定したことによって、架橋後に発明の課題の解決が妨げられることを実証するのに十分な証拠等の存在は認められない。
そうすると、本件特許発明の「酸価が10以下」は、架橋後の酸価であるとの定義がされていないことから技術的意義を欠如しているとは認められないものである。

(3)請求人の主張について
無効理由3について、請求人は、審判請求書、平成24年11月30日付け口頭審理陳述要領書において、以下の主張をしていると認められる。

(ア)本件特許発明における「酸価10が以下」との特定事項は、優れた帯電防止能が得られないものと差別するものであるのか、あるいは、単に帯電防止能が得られないものと差別するものであるのかが明らかでない。(審判請求書第13?14頁(ア))

(イ)本件特許発明における「酸価が10以下」との発明特定事項は、10≧酸価>0の実施例を有していないため、実施例の実験データ等によって決定されたものでなく、推測に基づいているものであるから、技術的意義が明確にされているといえない。(審判請求書第14?15頁(イ))

(ウ)本件特許発明における「酸価が10以下」との発明特定事項は、甲第1?3号証、及び、参考文献2?4に記載された、表面保護フィルム等として用いられる粘着シート用粘着剤組成物の帯電防止能のための酸価についての記載を見ると、技術的意義が不明確である。(審判請求書第14?18頁(ウ)?(オ))

これらの主張について検討する。
[主張(ア)について]
本件特許発明は、特定の3種類のアクリルモノマーを使用することを前提としたものであって、斯かる前提を離れて「酸価が10以下」との記載のみを取り上げて技術的意義が明確であるか否かを問題とするべきものではないと認められる。
なお、帯電防止剤としてアルカリ金属塩を含有させた粘着剤組成物から形成した粘着シート等が帯電防止性を有することは技術常識であること、及び、本件特許明細書の段落【0014】に「…本発明の粘着剤組成物によると…剥離した際の帯電防止性に優れたものとなる。…」(摘記d)との記載等を考慮すると、本件特許発明は、特定の3種類のアクリルモノマーを使用することを前提としたうえで「酸価10が以下」とすることによって、優れた帯電防止能が得られるようにするものであることは明らかなことと認められる。

[主張(イ)について]
前記「(1)「酸価が10以下」が技術的意義を欠如することについて」に記載したとおり、実施例として酸価0の実施例のみが記載されているとしても、発明の詳細な説明の実施例以外の記載も参照すると、「酸価が10以下」と規定する技術的意義は、酸価を低く抑え、帯電防止剤であるアルカリ金属塩との相互作用の大きいカルボキシル基等が多数存在しない(メタ)アクリル系ポリマーを調整し、アルカリ金属塩による帯電防止能が妨げられる場合がないようにして(摘記e)、帯電防止性の向上を図ること(摘記d)であることは明らかなことと認められる。

[主張(ウ)について]
前記「(1)「酸価が10以下」が技術的意義を欠如することについて」に記載したとおり、本件特許発明において「酸価が10以下」と規定する技術的意義が発明の詳細な説明の記載に照らして明確と認められる以上、本件特許発明とは発明の解決課題が異なる別異の発明に係る甲第1?3号証及び参考文献2?4において、個々の発明に応じて異なる帯電防止のための酸価についての規定や説明がされていたとしても、本件特許発明における「酸価が10以下」の技術的意義が不明確とはいえないものと認められる。

(4)無効理由3についてのまとめ
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由3によっては、本件特許を無効とすることはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、審判請求書、平成24年11月30日付け口頭審理陳述要領書、及び、平成24年12月28日付け上申書における請求人の主張、及び、証拠方法を考慮しても、請求人の主張する無効理由1?3によっては、本件特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-28 
結審通知日 2013-03-12 
審決日 2013-03-25 
出願番号 特願2005-76890(P2005-76890)
審決分類 P 1 113・ 537- Y (C09J)
P 1 113・ 536- Y (C09J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 天野 宏樹  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 松浦 新司
星野 紹英
登録日 2012-02-03 
登録番号 特許第4917267号(P4917267)
発明の名称 粘着剤組成物、粘着シート類、および表面保護フィルム  
代理人 江藤 保子  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ