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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09B
管理番号 1273636
審判番号 不服2010-23091  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-10-13 
確定日 2013-05-09 
事件の表示 平成11年特許願第371910号「銅フタロシアニンセミクルードおよび銅フタロシアニンクルード」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 7月 3日出願公開、特開2001-181525〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成11年12月27日の出願であって、平成22年 2月18日付けで拒絶理由が通知され、同年 4月23日に意見書及び手続補正書が提出されたところ、同年 7月 9日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年10月13日に審判請求がされるとともに手続補正書が提出され、同年10月14日に手続補足書が提出され、平成24年 3月13日に審尋がされ、同年 5月14日付けで回答書が提出されたところ、同年10月18日付けで、当審において平成22年10月13日付けの手続補正を却下するとともに拒絶理由を通知し、これに対して平成24年12月25日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2 本件発明
本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成24年12月25日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の記載に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1には以下の事項が記載されている。

「銅フタロシアニン以外の有機化合物の含有率が、1重量%以下である銅フタロシアニンクルードであり、前記銅フタロシアニンクルードは、無水フタル酸またはその誘導体と、尿素またはその誘導体と、銅化合物とを反応させることによって得られる、合成直後の銅フタロシアニン未精製物を洗浄して得られることを特徴とする平版インキ用銅フタロシアニンクルード」
(以下、この請求項1に係る発明を「本件発明」という。また、平成24年12月25日付けの手続補正により補正された明細書を「本願明細書」という。)


第3 当審の拒絶の理由の概要
当審において、平成24年10月18日付けで通知した拒絶の理由は、
平成22年 4月23日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された発明をまとめて「本願発明」というとしたうえで、
「(拒絶の理由2)この出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で、特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
(拒絶の理由3)本願発明は、その出願前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受ける事ができない。」という理由を含む。

そして、上記拒絶の理由2は、概略、含有率が規定される「有機化合物」が明らかでなく、その「含有率」をどのようにして求めたものであるか明確でないため、請求項に記載された有機化合物の含有率が明確であるといえず、発明の詳細な説明も、有機化合物の含有率に関する事項について当業者が実施できる程度の記載がなされているともいえない、という理由を含む。

また、上記拒絶の理由3においてその「下記の刊行物」として提示されているものは以下の文献である。
「ア 特開昭62-72758号公報(・・・「刊行物1」という。)
イ 特開昭57-135866号公報(・・・「刊行物2」という。)
ウ 特開平7-252428号公報(・・・「刊行物3」という。)
エ 特開平11-116840号公報(・・・「刊行物4」という。)」


第4 当審の判断
当審は、依然として、
本願は、明細書及び図面の記載が下記の点で、特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たしておらず(理由1)
本件発明は、その出願前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない(理由2)、
と判断する。

以下、その理由を詳述する。

1 理由1について
(1)判断
請求項1の銅フタロシアニンクルード中の「銅フタロシアニン以外の有機化合物の含有率」が明確であるといえるか、また、発明の詳細な説明には当業者が銅フタロシアニンクルード中の「銅フタロシアニン以外の有機化合物の含有率」を測定できる程度の記載がなされているかといえるか、について検討する。

請求項1には、「銅フタロシアニン以外の有機化合物の含有率が、1重量%以下である銅フタロシアニンクルード」なる記載がある。
これに対して発明の詳細な説明には、銅フタロシアニン未精製物には「反応時に副生した低分子量の有機化合物や、未反応の銅化合物、反応時に使用したモリブデン化合物等の触媒に由来する無機化合物等が、不純物として通常約5?20重量%程度含まれて」おり、その「不純物のうち有機化合物としては、例えば以下に示すフタルイミド誘導体が挙げられる」として5種の化合物が例示記載されている(段落0010?0011)。そしてそのような有機化合物及び無機化合物の銅フタロシアニンクルード中の含有率は「高速液体クロマトグラフ法およびイオンクロマトグラフ法により求めた」(段落0021)との記載がなされるとともに実施例及び比較例では具体的な含有率の数値が記載されている。

銅フタロシアニンクルードに、「銅フタロシアニン以外の有機化合物」(以下、「有機化合物A」という。)が含まれていること自体は、本願の出願前に当業者に明らかな事項である。
請求人は平成24年12月25日付けの意見書において、「有機化合物は、未反応の原料である無水フタル酸またはその誘導体、及び尿素またはその誘導体、それらが加水分解して生じるフタルアミド酸及びフタル酸、さらに副生物としてフタルイミド誘導体(具体的な化合物は、本願明細書段落[0011]に一部列挙されております。)に限られる」としており、確かに上記の有機化合物Aとなる可能性のある物質とは、そのようなものであるかもしれない。

しかしながら、請求項1でいう有機化合物Aとは、その含有率によって、請求項1で特許を受けようとする発明を特定するものである。
発明の詳細な説明にその含有率を求める手法として示される2種のクロマトグラフ法は、測定に際して、溶液状態の試料を用意することが必要であるから、該手法で含有率の測定が可能な有機化合物Aとは、銅フタロシアニンクルードから何らかの手法で分離・溶離・抽出等がなされ溶液にすることのできた物質のみであることは明らかである。
ところが、発明の詳細な説明には、銅フタロシアニンクルード中の有機化合物Aを銅フタロシアニンクルードから分離・溶離・抽出して溶液にする手法、すなわち測定用試料の調製方法が記載されていない。

有機化合物Aは、上述のように種々の物質の混合物であるが、その物質自体の溶解性が明らかでないものも多い。粗銅フタロシアニンの洗浄に際して従前よりアルカリ溶液、有機溶剤、酸溶液、水等の種々の洗浄液が、種々の方法により適用されているが、これは、あるものはアルカリ可溶性、あるものは有機溶剤可溶性、あるものは酸可溶性、あるものは湯溶性、あるものは難溶性など、当該混合物を構成する化合物は、様々に溶解性が異なるからと考えられる。なお、上記の2手法で有機化合物Aを定量するに際して、銅フタロシアニンクルードから有機化合物Aを分離・溶離・抽出する常法も見あたらない。

そうすると、請求項1に含有率の上限が定められる有機化合物Aとは、測定のための試料調製方法(有機化合物Aの分離・溶離・抽出法を含む)によってその成分が変化し得るものであり、またその試料調製法によって測定結果も異なり得るものであるといわざるを得ない。
また、発明の詳細な説明には、測定用試料調製法について何らの記載もされてもいないので、発明の詳細な説明を参酌しても、有機化合物A及びその含有率が明らかであるということもできない。

してみると、請求項1の「銅フタロシアニン以外の有機化合物の含有率」は明確であるとはいえない。また、発明の詳細な説明には当業者が銅フタロシアニンクルードの有機化合物Aの含有率について、当業者がその技術的な内容を正確に理解し、またその含有率を測定できる程度の記載がなされているともいえない。

したがって、本願の請求項1の記載は特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。また、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしているともいえない。

(2)請求人の主張について
平成24年12月25日付けの意見書において、請求人は概略、本願明細書の記載に基づけば銅フタロシアニンクルードを作製することができ、原料が特定されれば不純物プロファイルは当業者に予測可能であるから有機不純物は明確であり、また、測定装置も公知のものであるので有機不純物の含有率は計測可能である、という主張をすると認める。
しかし、上記(1)に指摘した点(いかにして銅フタロシアニンクルードから不純物を分離・溶離・抽出し、測定装置の測定にかけることのできる試料を作製し、どのように計測したか)については何ら釈明がなされていない。
してみると、請求人の主張をもってしても、本願は、発明の明確性要件及び実施可能要件については依然としてこれを満足したものであるということはできない。

2 刊行物、刊行物に記載された事項及び刊行物に記載された発明
(1)刊行物等
上記第3に指摘し、当審が通知した拒絶理由通知書に引用した、以下の刊行物1、3及び4は、いずれも本願の出願前に頒布されたことが明らかな刊行物である。
刊行物1 特開昭62-72758号公報
刊行物3 特開平7-252428号公報
刊行物4 特開平11-116840号公報

また、本審決では、本願の出願時点の技術常識を示す文献として、以下の文献を示す。
特表平7-509506号公報(以下、「周知例1」という。)
特開平8-134368号公報(以下、「周知例2」という。)
特公昭52-6301号公報(以下、「周知例3」という。)

(2)刊行物等に記載された事項
ア 刊行物1に記載された事項
1a 第4頁右上欄第14行?同頁左下欄第6行
「製造例1
無水フタル酸26.6部、尿素50部、無水塩化第一銅4.4部、モリブデン酸アンモニウム0.01部、ソルベッソ150(エッソスタンダードオイル(株)製のアルキルベンゼン、沸点188?211℃)80部をオートクレーブに仕込み、190?200℃に加熱し、容器内の圧力が3kg/cm^(2)となるようにガス放出弁を調整し、5時間反応させた。冷却後、反応物を丸底フラスコに移し、ソルベッソ150を減圧下で蒸留除去し、さらに2%苛性ソーダ水溶液4Lおよび2%塩酸4Lでそれぞれ1時間煮沸後ロ過、水洗、90?100℃にて乾燥し、クルード銅フタロシアニン25.5部を得た。」

1b 第4頁左下欄第7行?第11行
「実施例1
製造例1で得られたクルード銅フタロシアニン100部をアトライターに仕込み、粉砕温度50℃で25分間乾式粉砕し、表-1のようにカサが半減した本発明粗製銅フタロシアニンを得た。」

1c 第4頁右下欄下から3行?第6頁左上欄第4行
「実施例5
実施例1で得られた本発明の粗製銅フタロシアニン250部、乾燥した塩化ナトリウム1000部およびポリエチレングリコール250部を2Lテストニーダーに仕込み、100?110℃で、4時間(その途中0.5、1、2、3時間でサンプリング)ニーディングし、得られた塊を、10%希硫酸25gを加えた5Lの温水に投入後、撹拌し、塩化ナトリウム、ポリエチレングリコールを完全に溶解した後、ロ過、アシッドフリーまで水洗し、ロ別された顔料を90?100℃で乾燥する。
・・・
(評価方法)
フーバーマーラー法により顔料分20%の濃色インキを作成した後、青顔料と白顔料の日が1対10になるように白インキでカットし、カラーマシンでL,a,bを測色する。着色力および鮮明性を表わす目安として、それぞれL値・・・、C値・・・を用いた。・・・
表-3、4の結果より実施例5・・・で示されるように、粗製銅フタロシアニンを出発原料とし4時間ニーディングした比較例3の品位を得るには、本発明の粗製銅フタロシアニンを出発原料とした場合、ニーディング時間が短縮が計れると同時に乾式粉砕を含めた総エネルギー量は少なくなる・・・また、本発明の粗製銅フタロシアニンのニーディング時間をさらに延長すれば、着色力、鮮明性に優れた銅フタロシアニン顔料を得ることができる。」

イ 刊行物3に記載された事項
3a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 フタル酸又はフタル酸誘導体、尿素又は尿素誘導体、銅化合物及び触媒としてモリブデン又はモリブデン化合物を用いて、不活性有機溶媒の存在下、加熱反応して銅フタロシアニンを製造する方法において、この反応系にルテニウム化合物及びオスミウム化合物から選ばれる1種又は2種以上の化合物を添加することを特徴とする銅フタロシアニンの製造方法。
【請求項2】 ルテニウム化合物及びオスミウム化合物から選ばれる1種又は2種以上の化合物を1?5000ppm(フタル酸又はフタル酸誘導体に対してルテニウム及びオスミウムの元素換算で)添加することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】 ルテニウム化合物及びオスミウム化合物から選ばれる1種又は2種以上の化合物を5?1000ppm(フタル酸又はフタル酸誘導体に対してルテニウム及びオスミウムの元素換算で)添加することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】 不活性有機溶媒が、炭化水素系の溶媒又はハロゲン化炭化水素系の溶媒である請求項1乃至3の何れか記載の方法。
【請求項5】 炭化水素系の溶媒が、芳香族炭化水素系の溶媒である請求項4記載の方法。
【請求項6】 ハロゲン化炭化水素系の溶媒が、塩素化芳香族炭化水素系の溶媒である請求項4記載の方法。」

3b 「【0004】
【発明が解決しようとする課題】前述の一般的な銅フタロシアニン化合物の製造法において、加熱反応終了後、反応生成物から溶媒を減圧留去し、得られた残渣を熱水洗浄することにより、通常、純度90?96%、遊離銅0.21?1.2%を含有する銅フタロシアニン化合物が通常の操作で得られる品質である。しかしながら、これらの銅フタロシアニンには、なお未反応物及び不純物が少なからず残存し、例えば顔料化する際に不都合が生じる場合が多い。顔料化としては、例えば、乾式粉砕後、溶剤処理する顔料化法であるドライミリング法(特開平4ー320458号等)があり、このドライミリング法において、これらの不純物が存在すると、一般には結晶転移速度が遅くなり、鮮明度や着色度等の顔料化品位の低下が認められる。
【0005】又、近年では、銅フタロシアニンを顔料化等の処理を行う場合においては、その処理の際に排出される廃液の中にできるだけ銅化合物等の金属イオンが少なくなることが求められている。反応によって得られる銅フタロシアニンは、反応後、溶媒留去し、熱水洗浄により得られたままの品質で使用することが、経済的には好ましいが、前述した通り、純度が低いこと及び遊離銅が多いことは製品の使用及び環境上の問題となる。特に、排水中に含まれる銅イオンは環境汚染の原因となるため、法的な規制対象となっている。
【0006】前述の熱水洗浄した銅フタロシアニンの純度を更に向上させ及び遊離銅を低減することを目的として、引き続いて希硫酸等を用いて、酸洗浄を行うことにより、通常、純度97%以上、遊離銅0.2?0.5%の製品を得ることができるが、酸洗浄に伴い製品歩留が低下し、又、使用した酸を中和処理する工程が必要となる欠点がある。また、ここで低減した遊離銅に相当する銅イオンは、洗浄濾液中に溶出し、銅イオンを除去する工程の負担を増大する欠点がある。
【0007】しかして、本発明は、従来の銅フタロシアニンの製造法より、不純物を低下させ、それによって顔料化、例えば、ドライミリング法等において結晶転移が容易であり、又遊離銅が少ないような製品を製造する方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者は、従来の銅フタロシアニンの製造法である、いわゆるワイラー法における不純物について鋭意検討した結果、N,N-ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略す。)に抽出される不純物の量が、特に顔料化、特にドライミリング法においては顕著に結晶の転移速度を阻害することを見出し、その不純物を指標として有効な助触媒を探索した結果、モリブデン化合物触媒の他に、ルテニウム化合物及び/又はオスミウム化合物の微量を反応系に添加することによって上記の課題を解決できることを見出して本発明を完成した。本発明に係る方法は、フタル酸又はフタル酸誘導体、尿素又は尿素誘導体、銅化合物及び触媒としてモリブデン又はモリブデン化合物を用いて、不活性有機溶媒の存在下、加熱反応して銅フタロシアニンを製造する方法において、この反応系にルテニウム化合物及びオスミウム化合物から選ばれる1種又は2種以上の化合物を添加することを特徴とする銅フタロシアニンの製造方法に存する。
・・・
【0014】本発明における銅フタロシアニンを製造する場合の反応条件は・・・・
【0015】・・・反応終了後、反応生成物から溶媒を減圧下に留去し、得られた残渣を3?10倍量の熱水(60?80℃)を使用して洗浄する。さらに、純度が高い製品を求める場合には、減圧留去後に得られた残渣を希硫酸(例えば、5?10倍量)で洗浄する精製方法を採用することができる。
【0016】本発明において、いわゆる助触媒として添加するルテニウム化合物及びオスミウム化合物としては・・・」

3c 「【0017】
【実施例】以下、本発明を実施例及び比較例によって詳細に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。なお、「%」は、特に断らない限り重量%を表し、純度、遊離銅含有率及びDMFにより抽出される不純物等に使用した数値は以下の測定法により算出した。
(1) 銅フタロシアニンの純度の測定法
試料3.0グラムを精秤したのち、硫酸30.0グラムを加えて溶解後、冷水150ミリリットルに加えて、90℃に保って30分攪拌する。次に、沈澱物を濾過し、取得したケーキは熱水で洗浄液が中性になるまで洗浄する。乾燥、冷却後秤量し、次式より純度を求める。
【0018】・・・
【0019】(2)遊離銅含有率の測定法
前述の(1)銅フタロシアニンの純度の測定において得た濾液及び洗浄液を合わせて200ミリリットルとする。この溶液中の銅分を原子吸光法により測定する。
【0020】(3)DMFにより抽出される不純物(DMF不純物という。)の測定法及び計算
試料10グラムを、100グラムのDMFにより、140°Cで処理し、不純物を抽出し、DMFを減圧留去して得られた残渣を不純物とし、使用した試料に対する重量百分率によって表示する。
【0021】[実施例01]フタルイミド・・・、尿素・・・、モリブデン酸アンモニウム・・・、溶媒として・・・ハイゾールP・・・及び助触媒として塩化ルテニウム(III)・3水和物・・・を・・・仕込み、反応温度を・・・上げ、圧力・・・で・・・反応させた。生成したスラリーから・・・溶媒を減圧留去した。この残留物に・・・熱水洗浄し・・・温水で洗浄して、乾燥して、・・・銅フタロシアニン(以下、このような温水洗浄した製品を「湯洗品」という。)を得た・・・一方、上記の残留物を、1%の希硫酸の1200グラムにより、60℃で、2時間スラリー洗浄した後、60℃の温水2000グラムを用いて、洗浄水中に酸が無くなるまで洗浄し、乾燥して・・・銅フタロシアニン精製品を得た。・・・このような希硫酸による洗浄製品を「酸洗品」という。・・・中のDMF不純物量は0.9%、遊離銅(未反応銅)は0.13%であった。又純度は98.9%であった。・・・
【0022】[実施例02]助触媒として・・・を用い他以外は、実施例01の方法と同様に実施した。その結果、・・・酸洗品としての銅フタロシアニン168グラムが得られ、DMF被準物量は0.9%及び遊離銅は0.12gであった。又、純度は99.0%であった。
【0023】[実施例03]助触媒として・・・を用いた以外は、実施例01の方法と同様に実施した。その結果、・・・酸洗品としての銅フタロシアニン168gが得られ、DMF不純物量は0.8%、遊離銅は0.13%であった。又純度は98.9%であった。
【0024】[実施例04]助触媒として・・・を用いた以外は、実施例01の方法と同様に実施した。その結果、・・・酸洗品としての銅フタロシアニン168gが得られ、DMF不純物量は0.8%、遊離銅は0.11%であった。又純度は99.1%であった。
・・・
【0027】[実施例05]フタルイミド・・・、塩化第一銅 ・・・、尿素・・・、モリブデン酸アンモニウム・・・、溶媒・・・及び助触媒として塩化ルテニウム(III)・3水和物・・・を・・・仕込み、反応温度を・・・上げ、圧力・・・で・・・反応させた。生成したスラリーから175°C/5mmHgで3時間かけて溶媒を減圧留去した。この残留物を、・・・熱水洗浄し、瀘過後、そのケーキを60℃の温水・・・で洗浄し、乾燥して、169グラムの銅フタロシアニンを得た・・・。一方、上記の残渣物を、1%の希硫酸の1200グラムにより、60℃、2時間、スラリー洗浄した後、60℃温水を用いて、ケーキ中の酸が無くなるまで洗浄し、乾燥して銅フタロシアニン酸洗品168グラムを得た。この酸洗品中のDMF不純物量は0.7%、遊離銅(未反応銅)は0.08%、純度は99.4%であった。その他、この実施例の結果については、表2に記載した。」

3d 「【0030】[実施例06]
「ドライミリング法による顔料化品位の比較」ドライミリング法では、先ず粗顔料を微粉砕するために、ボールミル等で乾式粉砕するが、この時、銅フタロシアニンの結晶型が一部、β型からα型に転移して強く凝集するので、そのままでは顔料として使用できない。このため、有機溶剤で処理し、α型をβ型に転移させるとともに、分散させ、顔料適性を有する銅フタロシアニンとする顔料化法である。従って、この方法による顔料化では、乾式粉砕の際に生ずるα型が少なく、溶剤処理の際に、α型からβ型への転移が速やかに起こることが望ましい。以下、実施例01の湯洗品と比較例01の湯洗品について以下の方法に基づくドライミリング法による顔料化品位の比較を行った。各試料100グラムをボールミルで、100°C、20時間乾式粉砕し、その後、エタノール/水(80/20重量比)の混合溶媒によって50°Cで処理した。この処理における経過時間毎の各試料についてのα型の割合(試料に対するα型結晶の百分率)を測定し、その結果を表3に示した。表3から明らかなように、実施例01の試料の方が乾式粉砕によるα型生成率が少なく、溶剤処理によるα型からβ型への転移も速やかであり、高品位と判断される。」

ウ 刊行物4に記載された事項
4a 「【0002】
【従来の技術】フタロシアニン系化合物は美しい青色の色相を有し、耐熱性、耐薬品性、耐候性等の諸性質が優れており、主として青色顔料として印刷インキ、塗料、樹脂着色等の用途に広く用いられており、中でも粗製銅フタロシアニン又はそれらの顔料の使用量は非常に多い。また、最近では機能性材料の素材として無金属フタロシアニンや中心金属が銅以外のフタロシアニンも使用されてきている。」

4b 「【0025】実施例1
【0025】実施例1
無水フタル酸122部、尿素154部、無水塩化第一銅20部、モリブデン酸アンモニウム0.5部及び有機溶剤として「ハイゾールP」(日本石油化学(株)製の芳香族炭化水素系溶剤)500部を反応容器に仕込み、撹拌しながら加熱し、反応容器内の圧力を0.30?0.35Mpaに保ちながら、180℃まで昇温させた後、同温度、同圧力下で2.5時間反応させて粗製銅フタロシアニンを合成して、粗製銅フタロシアニンの反応混合物を得た。
【0026】得られた反応混合物200部を撹拌機、コンデンサー、水蒸気導入管を備えた1000mlのガラス製円筒容器に仕込み、次いで0.8%苛性ソーダ水溶液300部を仕込み、さらに円筒容器の外部を油浴で90℃に加温した後、0.2MPaの水蒸気を吹き込んだ。およそ10分後から水と有機溶剤の混合液の留出が始まり、90分後に有機溶剤の留出は殆ど認められなくなり、水蒸気の吹き込みを停止した。次いで、得られたスラリーを80?90℃まで冷却した後、濾過、水洗し粗製銅フタロシアニンのウエットケーキを得た。さらに、このウエットケーキを2%塩酸水溶液1000部に分散し、70?80℃で1時間加熱後、濾過し、濾液のpHが6.5?7.5になるまで水洗した後、乾燥して粗製銅フタロシアニンを得た。
【0027】なお、水蒸気蒸留時の留出液蒸気の温度は96?98℃であり、蒸留終了時点においても粗製銅フタロシアニンと有機溶剤から成るダマ状の固形物は非常に少なかった。また、最初に仕込んだ有機溶剤の量と最終的に留出した有機溶剤の量から溶剤回収率を求めると、98%であった。」

エ 周知例1に記載された事項
5a 請求の範囲
「1 水の存在下で・・・固形物を精製する方法において、固形物を必要により、
A)主に・・・固形物を湿潤し、かつグラニュール形成を生じる相と、
B)主に
B1)水、1種以上の水と混和可能な有機液体および必要により無機酸または無機塩基または
B2)水および無機酸
からなる汚染物質を吸収する相
とから構成される1種または種々の二相系で数回熱時に処理し、引き続き形成されたグラニュールを水相から分離することを特徴とする、疎水性固形物を精製する方法」

5b 第2頁右上欄本文第3行?第16行
「 一般に化合物を製造する際に更に精製を必要とする形の化合物が生じる。たとえば顔料のような着色物質の場合は色彩および毒性の理由から、有機汚染物質、たとえば副生成物および未反応の出発化合物、更に無機の汚染物質、たとえば触媒としてまたは銅フタロシアニンのような金属含有の顔料の場合は出発物質として使用する金属塩を除去するために、粗製生成物の精製を行わなければならない。更に粗製顔料は一般になお調製を必要とし、すなわちその結晶の形および粒度をなお最適にしなければならない。
周知の精製法においては硫酸でまたは汚染物質のみを溶解する有機溶剤で処理することにより粗製顔料を処置する。両方の場合とも生じる懸濁液から濾過により顔料を分離し、引き続きなお大量の水で洗浄しなければならない。この場合に生じる溶剤および水の量の後処理は多くの経費を必要とする」

5c 第4頁左上欄第6行?第13行
「 必要により水相(B1)(またはB2)に添加される無機酸はたとえば燐酸およびアミドスルホン酸のほかに有利には硫酸および特に塩酸であり、有利な塩基は水酸化カリウムおよび特に水酸化ナトリウムおよびアンモニアであり、そのほかにたとえば・・・を使用することができる。多くの場合に無機酸の添加が有利である。」

オ 周知例2に記載された事項
6a 「【0010】
【実施例】・・・合成例無水フタル酸・・・、尿素・・・、塩化第一銅・・・、モリブデン酸アンモニウム・・・及び・・・ハイゾールP(日本石油社製アルキルベンゼン)・・・を・・・反応させ、粗製銅フタロシアニンのスラリー・・・を得た。
【実施例1】
・・・合成例で得た粗製銅フタロシアニンのスラリーを・・・乾燥を行った。・・・溶剤の除去は終了した・・・得られた解砕された銅フタロシアニンを、その20?30倍量の2%水酸化ナトリウム水溶液及び2%硫酸水溶液でそれぞれ加熱(90?100℃)処理して不純物(未反応物、副生物等)を除去し、水洗、乾燥して・・・銅フタロシアニン・・・を得た。」

カ 周知例3に記載された事項
7a 第3頁6欄第8行?第15行
「実施例1
無水フタル酸・・・、銅粉・・・、尿素・・・及びモリブデン酸アンモニウム・・・をニトロベンゼン・・・に加え、・・・反応させた後ロ過し、メタノール、水で洗浄し、さらに2%硫酸水溶液、2%水酸化ナトリウム水溶液で精製した後水で洗浄後乾燥することにより銅フタロシアニンを得る。」

(3)刊行物に記載された発明
ア 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、製造例1において得たクルード銅フタロシアニン(摘記1a)を、粗製銅フタロシアニンとした(摘記1b)うえで、顔料化すること(摘記1c)が記載されている。そしてその顔料をインキとしたうえで、各種評価を行っている(摘記1c)。そうすると、製造例1のクルード銅フタロシアニンはインキ用であるといえる。
してみると、刊行物1には、
「無水フタル酸26.6部、尿素50部、無水塩化第一銅4.4部、モリブデン酸アンモニウム0.01部、ソルベッソ150(エッソスタンダードオイル(株)製のアルキルベンゼン、沸点188?211℃)80部をオートクレーブに仕込み、190?200℃に加熱し、容器内の圧力が3kg/cm^(2)となるようにガス放出弁を調整し、5時間反応させ、冷却後、反応物を丸底フラスコに移し、ソルベッソ150を減圧下で蒸留除去し、さらに2%苛性ソーダ水溶液4Lおよび2%塩酸4Lでそれぞれ1時間煮沸後ロ過、水洗、90?100℃にて乾燥して得られた、25.5部の、インキ用クルード銅フタロシアニン。」
の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。

イ 刊行物3に記載された発明
刊行物3の請求項1に銅フタロシアニンの製造方法が記載されている(摘記3a)。
刊行物3には、上記請求項1に記載の「ルテニウム化合物及びオスミウム化合物から選ばれる1種又は2種以上の化合物」は、「助触媒」であることが記載されている(摘記3c)。
刊行物3には、「反応終了後、反応生成物から溶媒を減圧下に留去し」、「得られた残渣を希硫酸で洗浄する精製方法を採用することができる」ことが記載されている(摘記3b)。
刊行物3には、実施例1ないし5として、上記請求項1に記載の方法にしたがって銅フタロシアニンを製造し、その反応終了後、反応生成物から溶媒を減圧下に留去したのちの銅フタロシアニンを硫酸で洗浄(酸洗)した銅フタロシアニンについて、
DMFにより抽出される不純物(DMF不純物)の量、遊離銅の量、及び純度がそれぞれ
実施例01 0.9%、0.13%、98.9%
実施例02 0.9%、0.12%、99.0%
実施例03 0.8%、0.13%、98.9%
実施例04 0.8%、0.11%、99.1%
実施例05 0.7%、0.08%、99.1%
であったことが記載されている(摘記3c)。
このとき「%」は「特に断らない限り重量%を表」すとされているので(摘記3c)、上記の%は重量%である。
また、そのときの洗浄(酸洗)は、「1%の希硫酸の1200グラムにより、60℃で2時間スラリー洗浄した後、60℃の温水2000グラムを用いて、洗浄水中に酸が無くなるまで洗浄」する方法であったことが記載されている(摘記3c)。
ここで得られた洗浄(酸洗)後の銅フタロシアニンは、その後「顔料化」されるものであるから(摘記3a、3d)、顔料用の銅フタロシアニンであるといえる。

そうすると、刊行物3には、
「フタル酸又はフタル酸誘導体、尿素又は尿素誘導体、銅化合物、触媒としてモリブデン又はモリブデン化合物、及び助触媒としてルテニウム化合物及びオスミウム化合物から選ばれる1種又は2種以上の化合物を用いて、不活性有機溶媒の存在下、加熱反応して得られた反応生成物から溶媒を減圧下に留去して得た銅フタロシアニンを含む残渣を、希硫酸で洗浄することによって得られた、
DMFにより抽出される不純物(DMF不純物)の量、遊離銅の量、及び純度がそれぞれ
実施例01 0.9重量%、0.13重量%、98.9%
実施例02 0.9重量%、0.12重量%、99.0%
実施例03 0.8重量%、0.13重量%、98.9%
実施例04 0.8重量%、0.11重量%、99.1%
実施例05 0.7重量%、0.08重量%、99.1%
である、顔料用銅フタロシアニン精製品。」
の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されているといえる。

ウ 刊行物4に記載された発明
刊行物4には、実施例1において粗製銅フタロシアニンを得たことが示されており(摘記4b)、また、粗製銅フタロシアニンを含むフタロシアニン系顔料が「印刷インキ」等に広く用いられていることが示されている(摘記4a)。
そうすると、刊行物4の実施例1に記載の粗製銅フタロシアニンは印刷インキ用であることを含むといえる。
よって、刊行物4には、
「無水フタル酸122部、尿素154部、無水塩化第一銅20部、モリブデン酸アンモニウム0.5部及び有機溶剤として「ハイゾールP」(日本石油化学(株)製の芳香族炭化水素系溶剤)500部を反応容器に仕込み、撹拌しながら加熱し、反応容器内の圧力を0.30?0.35Mpaに保ちながら、180℃まで昇温させた後、同温度、同圧力下で2.5時間反応させて粗製銅フタロシアニンを合成して得た粗製銅フタロシアニンの反応混合物200部を、撹拌機、コンデンサー、水蒸気導入管を備えた1000mlのガラス製円筒容器に仕込み、次いで0.8%苛性ソーダ水溶液300部を仕込み、さらに円筒容器の外部を油浴で90℃に加温した後、0.2MPaの水蒸気を吹き込み、およそ10分後から水と有機溶剤の混合液の留出が始まり、90分後に有機溶剤の留出は殆ど認められなくなり、水蒸気の吹き込みを停止し、次いで、得られたスラリーを80?90℃まで冷却した後、濾過、水洗して得た粗製銅フタロシアニンのウエットケーキを、2%塩酸水溶液1000部に分散し、70?80℃で1時間加熱後、濾過し、濾液のpHが6.5?7.5になるまで水洗した後、乾燥して得られた、印刷インキ用の粗製銅フタロシアニン」
の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されているといえる。

3 理由2について
(1)本件発明の引用発明1との対比判断
ア 対比
引用発明1の「無水フタル酸26.6部」、「尿素50部」及び「無水塩化第一銅4.4部」は、本件発明の「無水フタル酸またはその誘導体」、「尿素またはその誘導体」及び「銅化合物」に相当する。
引用発明1は、反応に際してさらに「モリブデン酸アンモニウム0.01部」及び「ソルベッソ150(エッソスタンダードオイル(株)製のアルキルベンゼン、沸点188?211℃)80部」を用いており、これらは触媒及び溶媒として用いられていることは技術常識からみて明らかである。触媒及び溶媒を用いることについて本件発明に規定はないが、本願明細書の発明の詳細な説明を参照すると、「必要に応じてモリブデン酸アンモニウム等の触媒を用いて、有機溶媒存在下で」反応させること(段落0009)が記載されていることから、引用発明1の上記触媒及び溶媒は相違点を構成するものではない。
引用発明1は、上記物質を用い、「オートクレーブに仕込み、190?200℃に加熱し、容器内の圧力が3kg/cm^(2)となるようにガス放出弁を調整し、5時間反応」させており、これは、本件発明で、上記物質を「反応」させることに相当する。
引用発明1は、上記反応後に「冷却後、反応物を丸底フラスコに移し、ソルベッソ150を減圧下で蒸留除去」するが、これは反応時に通常行われる後処理であるから、本件発明の「反応」に含まれるといえる。また、たとえ含まれなくても、本件発明は、反応に際して当然に行われる通常の後処理工程の実施を排除するものではないので、引用発明1の上記反応後処理は相違点を構成するものではない。
本件発明の「合成直後の銅フタロシアニン未精製物」は、反応後のものであって、かつ洗浄により不純物を除去する前の銅フタロシアニンと認める。そうすると、引用発明1の、2%苛性ソーダ水溶液による処理がなされる前の反応物は、本件発明の「合成直後の銅フタロシアニン未精製物」に相当する。
引用発明1の製造方法は、反応のあと上記反応物を「2%苛性ソーダ水溶液4Lおよび2%塩酸4Lでそれぞれ1時間煮沸後ロ過、水洗」する工程を有しており、これは技術常識からみて洗浄工程であるので、本件発明の「合成直後の銅フタロシアニン未精製物を洗浄」する工程に相当する。
引用発明1は上記の洗浄工程後に「90?100℃にて乾燥」する工程を有するが、これは洗浄時に通常行われる後処理であるから、本件発明の「洗浄」に含まれるといえる。また、たとえ含まれなくても、本件発明は、洗浄に際して当然に行われる通常の後処理工程の実施を排除するものではなく、また本件発明の具体例と認める本願明細書の実施例を見ても、洗浄後に「乾燥して銅フタロシアニンクルードを得」ている。してみると、引用発明1の上記乾燥工程は本件発明との相違点を構成するものではない。
本件発明の「銅フタロシアニンクルード」は、洗浄後の物質を指すものであるところ、引用発明1の「クルード銅フタロシアニン」もまた、そのような物質であるので、本件発明の「銅フタロシアニンクルード」に相当する。
またその用途について、引用発明1の「インキ用」と、本件補正発明の「平版インキ用」とは、少なくとも「インキ用」である点で一致している。

してみると、本件発明と引用発明1とは、
「銅フタロシアニンクルードであって、
前記銅フタロシアニンクルードは、無水フタル酸またはその誘導体と、尿素またはその誘導体と、銅化合物とを反応させることにより得られる、合成直後の銅フタロシアニン未精製物を洗浄することによって得られるインキ用銅フタロシアニンクルード。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)銅フタロシアニンクルードに含まれる不純物について、本件発明は「銅フタロシアニン以外の有機化合物の含有率が1重量%以下」に特定したものであるが、引用発明1はそのように特定したものでない点
(相違点2)インキ用銅フタロシアニンクルードについて、本件発明は平版用にさらに特定したものであるが、引用発明1はそのようなさらなる特定をしたものではない点

イ 判断
(ア)相違点1について検討する。
相違点1に係る、「1重量%以下」と規定される、本件発明の「銅フタロシアニン以外の有機化合物の含有率」は、上記1のとおり、本願において、明確性要件も実施可能要件も、満たしたものではない。
そこで、本願明細書の発明の詳細な説明において、いかなる方法により、結果として、本件発明の「銅フタロシアニン以外の有機化合物の含有率」を「1重量%以下」にした「銅フタロシアニンクルード」を得たかについての記載を参照し、そのうえで、引用発明1がそのような物であるかについて検討することとする。

本願明細書には、「銅フタロシアニン未精製物に含まれる不純物のうち有機化合物としては、・・・フタルイミド誘導体が挙げられる・・・このようなフタルイミド誘導体等の不純物を含む銅フタロシアニン未精製物を無機塩基溶液で洗浄することによって、フタルイミド誘導体等の不純物が除去され、銅フタロシアニン以外の有機化合物の含有率が1重量%以下の銅フタロシアニンクルードを得ることができる」ことが記載されている(段落0010?0012)。そして続いて、「ここで使用される無機塩基としては・・・アルカリ金属水酸化物が挙げられ、通常、1?5重量%程度の水溶液として使用される。・・・ここで、銅フタロシアニン未精製物に含まれるフタルイミド誘導体等の有機不純物は、その大部分がアルカリ可溶化合物であるため、そのような方法で洗浄すると有機不純物の大部分は液相中に溶解し、その結果、銅フタロシアニン以外の有機化合物の含有率が1重量%以下に低減された銅フタロシアニンクルードを得ることができる」(段落0012?0013)ことが記載されている。
そうすると、本件発明の「銅フタロシアニン以外の有機化合物の含有率が、1重量%以下である銅フタロシアニンクルード」とは、「無水フタル酸またはその誘導体と、尿素またはその誘導体と、銅化合物とを反応させることによって得られる、合成直後の銅フタロシアニン未精製物を、1?5重量%程度のアルカリ金属水酸化物溶液で洗浄することによって得られる銅フタロシアニンクルード」と認める。

ここで引用発明1を再掲すると、以下のとおりである。
「無水フタル酸26.6部、尿素50部、無水塩化第一銅4.4部、モリブデン酸アンモニウム0.01部、ソルベッソ150(エッソスタンダードオイル(株)製のアルキルベンゼン、沸点188?211℃)80部をオートクレーブに仕込み、190?200℃に加熱し、容器内の圧力が3kg/cm^(2)となるようにガス放出弁を調整し、5時間反応させ、冷却後、反応物を丸底フラスコに移し、ソルベッソ150を減圧下で蒸留除去し、さらに2%苛性ソーダ水溶液4Lおよび2%塩酸4Lでそれぞれ1時間煮沸後ロ過、水洗、90?100℃にて乾燥して得られた、25.5部の、インキ用クルード銅フタロシアニン。」
そして引用発明1のうち「無水フタル酸26.6部、尿素50部、無水塩化第一銅4.4部、モリブデン酸アンモニウム0.01部、ソルベッソ150(エッソスタンダードオイル(株)製のアルキルベンゼン、沸点188?211℃)80部をオートクレーブに仕込み、190?200℃に加熱し、容器内の圧力が3kg/cm^(2)となるようにガス放出弁を調整し、5時間反応させ、冷却後、反応物を丸底フラスコに移し、ソルベッソ150を減圧下で蒸留除去し」たものは、上記アで対比したとおり、上記の本願明細書に記載された「無水フタル酸またはその誘導体と、尿素またはその誘導体と、銅化合物とを反応させることによって得られる、合成直後の銅フタロシアニン未精製物」に該当する。
その銅フタロシアニン未精製物に対して、引用発明1は「2%苛性ソーダ水溶液4L」で「1時間煮沸後ロ過、水洗」するという、洗浄工程を経たうえで、「クルード銅フタロシアニン」を得ているから、引用発明1の「クルード銅フタロシアニン」は、本件発明の銅フタロシアニンクルードが得られる方法として上記の本願明細書に記載された「銅フタロシアニンを1?5重量%程度のアルカリ金属水酸化物溶液で洗浄すること」によって得られる銅フタロシアニンクルードであると認める。
以上を参酌すると、引用発明1のクルード銅フタロシアニンは、上記の「無水フタル酸またはその誘導体と、尿素またはその誘導体と、銅化合物とを反応させることによって得られる、合成直後の銅フタロシアニン未精製物を、1?5重量%程度のアルカリ金属水酸化物溶液で洗浄することによって得られる銅フタロシアニンクルード」であるといえ、そうすると、本件発明の「銅フタロシアニン以外の有機化合物の含有率が、1重量%以下である銅フタロシアニンクルード」であると考えられる。
したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。

(イ)相違点2について検討する。
引用発明1が記載される刊行物1の技術の分野において、インキといえば平版用インキが代表的なものである。そうすると、単にインキ用であることが示される引用発明1のクルード銅フタロシアニンは、平版インキ用であることが示されているに等しい。
よって、相違点2は実質的な相違点ではない。

ウ 本件発明と引用発明1との対比判断についてのまとめ
以上のとおりであるので、本件発明と引用発明1との間に実質的な相違はない。

エ 請求人の主張について
請求人は、平成24年12月25日付けの意見書において、「本願実施例では、アルカリ金属水酸化物溶液で洗浄後、硫酸で洗浄しており、塩酸洗浄を行った引用発明1・・・とは異なります。そして、塩酸洗浄と硫酸洗浄では、洗浄効果が大きく異なることから、塩酸洗浄を行っている引用発明1・・・において、硫酸洗浄を行った本願実施例1?4と同程度まで不純物が洗浄除去されているとはいえません」と主張する。
しかしながら、まず、本件発明は、その「洗浄」の溶液が何であるかを規定するものではなく、実施例として酸洗浄の酸が異なる態様が記載されていても、本件発明と引用発明1とはいずれも洗浄を行う点に変わりはない。
そして、本願明細書には、「銅フタロシアニン未精製物を無機塩基溶液で洗浄することによって、フタルイミド誘導体等の不純物が除去され、銅フタロシアニン以外の有機化合物の含有率が1重量%以下の銅フタロシアニンクルードを得ることができる」こと(段落0012)、「銅フタロシアニン未精製物に含まれるフタルイミド誘導体等の有機不純物は、その大部分がアルカリ可溶化合物であるため、このような方法で洗浄すると有機化合物の大部分は液相中に溶解し、その結果、銅フタロシアニン以外の有機化合物の含有率が1重量%以下に低減された銅フタロシアニンクルードを得ることができる」こと(段落0013)、さらには「この際、同時に未反応の銅化合物や反応時に使用したモリブデン化合物等の触媒に由来する無機不純物も除去することができ」ること(段落0013)が記載されている。そうすると、本願明細書には、「銅フタロシアニン以外の有機化合物の含有率」については、上記イにも指摘したとおり、「無水フタル酸またはその誘導体と、尿素またはその誘導体と、銅化合物とを反応させることによって得られる、合成直後の銅フタロシアニン未精製物」を、「1?5重量%程度のアルカリ金属水酸化物溶液で洗浄すること」により達成されるとの記載しかなく、酸洗浄によって達成されるとも、酸溶液の種類によって含有量が相違するとも、記載されてはいない。
本願明細書には、酸洗浄について、「無機塩基溶液で銅フタロシアニン未精製物を洗浄することに加えて、硫酸、塩酸等の無機酸溶液でこれを洗浄してもよい。無機塩基溶液だけでなく、無機酸溶液で洗浄することによって、有機不純物、未反応の銅化合物、反応時に使用したモリブデン化合物等の触媒に由来する無機不純物(当審注:ここまでの不純物は、無機塩基溶液で除去される不純物として段落0013に記載されているので、無機塩基溶液で除去される不純物と認める。)の他、無機塩基溶液で銅フタロシアニン未精製物を洗浄した際に生成してしまうナトリウム化合物等も除去することができ、不純物をさらに低減できる」ことが記載されている(段落0015)。
すなわち、本願明細書には、最初の無機塩基溶液による洗浄が、「銅フタロシアニン以外の有機化合物の含有率」を「1重量%」とするものであり、続く無機酸溶液による洗浄は、最初の無機塩基溶液による洗浄によって生じた副生物を除去することを目的とした洗浄である旨の記載しかなされていない。
本件発明は「銅フタロシアニン以外の有機化合物の含有率」のみを規定しており、上記によればこれは無機塩基溶液による洗浄によって不純物が除去された結果であるから、「塩酸洗浄と硫酸洗浄では、洗浄効果が大きく異なる」としても、その違いが上記「銅フタロシアニン以外の有機化合物の含有率」すなわちそのような有機化合物の除去の程度を大幅に左右するものであるとはいえない。
そうすると、上記の請求人の主張は、当審の判断の結論に影響を与えるものではない。

(2)本件発明と引用発明3との対比判断
ア 対比
引用発明3の「フタル酸又はフタル酸誘導体、尿素又は尿素誘導体、銅化合物」は、本件発明の「無水フタル酸またはその誘導体」、「尿素またはその誘導体」及び「銅化合物」に相当する。
引用発明3は、反応に際してさらに「触媒としてモリブデン又はモリブデン化合物」「助触媒としてルテニウム化合物及びオスミウム化合物から選ばれる1種または2種以上の化合物」「不活性有機溶媒」を用いている。触媒系及び溶媒を用いることについて本件発明に規定はないが、本願明細書の発明の詳細な説明を参酌すると、「必要に応じてモリブデンアンモニウム等の触媒を用いて、有機溶媒存在下」で反応させること(段落0009)が記載されていることから、引用発明3の上記触媒系及び溶媒は相違点を構成するものではない。
引用発明3の上記物質の「加熱反応」は、本件発明の「反応」に相当する。
引用発明3は、反応後に「反応生成物から溶媒を減圧下に留去」する工程が存するが、これは反応時に通常行われる後処理であるから、本件発明の「反応」に含まれるといえる。また、たとえ含まれなくても、本件発明は、反応に際して当然に行われる通常の後処理工程の実施を排除するものではないので、引用発明3の上記反応後処理は相違点を構成するものではない。
そうすると、引用発明3の「銅フタロシアニンを含む残渣」が、本件発明の「合成直後の銅フタロシアニン未精製物」に相当する。
引用発明3は「希硫酸で洗浄」する工程を有しており、これは本件発明の「洗浄」する工程に相当する。
そして得られた引用発明3の「銅フタロシアニン精製品」は、本件発明の「銅フタロシアニンクルード」に相当する。
該銅フタロシアニンクルードの用途について、引用発明3は「顔料用」であるが、本件発明の「平版インキ用」も、実質は「平版印刷のためのインキに用いる顔料」であることを意味するものであるから、両者は「顔料用」である点で一致している。

してみると、本件発明と引用発明3とは、
「銅フタロシアニンクルードであって、
前記銅フタロシアニンクルードは、無水フタル酸またはその誘導体と、尿素またはその誘導体と、銅化合物とを反応させることにより得られる、合成直後の銅フタロシアニン未精製物を洗浄することによって得られる顔料用銅フタロシアニンクルード。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点4)銅フタロシアニンクルードに含まれる不純物について、本件発明は「銅フタロシアニン以外の有機化合物の含有率が1重量%以下」に特定したものであるが、引用発明3はそのように特定したものではなく、DMF不純物量、遊離銅量及び純度が所定値であることを規定する点
(相違点5)顔料用銅フタロシアニンクルードについて、本件発明は平版インキ用に特定したものであるが、引用発明3はそのような特定をしたものではない点

イ 判断
(ア)相違点4について検討する。
相違点4に係る、「1重量%以下」と規定される、本件発明の「銅フタロシアニン以外の有機化合物の含有率」は、上記1のとおり、本願において、明確性要件も実施可能要件も、満たしたものではない。
そこで、具体的には明らかではないが、本件発明の「銅フタロシアニン以外の有機化合物」とは、少なくとも、本件発明が特定するとおり、「無水フタル酸またはその誘導体と、尿素またはその誘導体と、銅化合物とを反応させることによって得られる、合成直後の銅フタロシアニン未精製物」に含まれ、その後の「洗浄」によっても除去しきれなかった、銅フタロシアニン以外の有機物の集合、であるとして、以下検討する。

(ア-1)DMF不純物量からの検討
本件発明の「銅フタロシアニン以外の有機化合物」と、引用発明3の「DMF不純物」の実質的な異同についてみる。
銅フタロシアニンの製造方法についてみるに、本件発明も引用発明3も、無水フタル酸またはその誘導体、尿素またはその誘導体、銅とその誘導体との反応による製造方法である点で一致している。そうすると、銅フタロシアニン未生成物に含まれる不純物(残存未反応物及び副生した不純物)の種類は概略一致しているものと認める。
本願明細書には、「銅フタロシアニン以外の有機化合物」は「有機不純物」(段落0013)であり、洗浄によりその量を低減することにより「β型結晶の含有率が高」い銅フタロシアニンが得られ、「α型からβ型への結晶転移が容易に進行するため」「顔料化工程に要する時間を大幅に短縮することができ」また「高い分散性を有するとともに着色力も大きく、顔料として優れた性能を有する」(段落0019?0020等)ものとなったことが示されている。
これに対して、引用発明3に記載の「DMF不純物」は、反応に特定の助触媒を追加してその量を低減させることで、「結晶転移速度が遅くなり、鮮明度や着色度等の顔料化品位の低下」(摘記3b等)するという課題を解決し、「乾式粉砕によるα型生成率が少なく、溶剤処理によるα型からβ型への転移も速やか」(摘記3d)な銅フタロシアニンクルードを得ることができたものであることが、刊行物3に記載されている。
そうすると、本件発明の有機不純物も、引用発明3のDMF不純物も、その銅フタロシアニンクルード中の含有量を1重量%程度以下とすることで、α型からβ型への結晶転移が速やかで、かつ鮮明度や着色度の面で顔料としても優れた品質となる、銅フタロシアニンクルードとするものという共通点を有する。
しかも、フタルイミド類がアルカリ水溶液に溶解すること、DMFは非プロトン性で極性の有機溶媒であって、無機塩のみならず非常に多くの有機物質を溶解し得る溶媒であることは、いずれも周知である。
そうすると、銅フタロシアニンクルードに含まれる不純物として、本件発明でいう「銅フタロシアニン以外の有機化合物」と、引用発明3Aの「DMF不純物」とは、主要な物質として実質的に同様の化合物を含むと考えられる。
そしてその含有量についてみるに、本件発明は1重量%以下と特定するのに対し、引用発明3はその範囲内の0.7?0.9%であるので、両者はほぼ同程度の量である。
以上のとおりであるので、引用発明3でDMF不純物量が0.7?0.9%であることとは、本件発明の銅フタロシアニン以外の有機化合物であるアルカリ可溶化合物の含有率が1重量%以下であることと、実質的に同じであるといえる。
よって、相違点4は実質的な相違点ではない。

(ア-2)純度からの検討
引用発明3の純度は、刊行物3にその測定方法が示されており、概略、銅フタロシアニン精製品を濃硫酸に溶解してから水にて再析出させたときの再析出物量である(摘記3c)。これは銅フタロシアニンの純度を求める際の常法であり、不純物である有機物及び無機物のいずれもが該再析出処理により除去されたときの純度であると見るのが通常である。
また、引用発明3の遊離銅の量は、上記の銅フタロシアニンの純度の測定において得た濾液及び洗浄液中の遊離銅の量の和から求められている(摘記3c)。そうすると、100%から上記純度及び遊離銅量含有率の和を引いたものが、有機物及び遊離銅以外の無機物からなる、銅フタロシアニン精製品中の不純物の含有率といえる。
この観点で引用発明3の数値をみると、有機物及び遊離銅以外の無機物からなる不純物の、銅フタロシアニン精製品中の含有率は、0.97%(実施例01)、0.88%(実施例02)、0.97%(実施例03)、0.79%(実施例04)及び0.82%(実施例05)と計算できる。銅フタロシアニン精製品において、有機物の不純物の含有率は、最大でこの程度であり、遊離銅以外の無機不純物の存在を考慮すれば、さらに含有率は低いと認める。
そうすると、引用発明3の銅フタロシアニン精製品は、「銅フタロシアニン以外の有機化合物の含有率が、1重量%以下である」といえ、相違点4は実質的な相違点であるとはいえない。

(ア-3)相違点4についてのまとめ
してみると、いずれの検討によっても、相違点4は実質的な相違点であるとはいえない。

(イ)相違点5について検討する。
引用発明3が記載される刊行物3の技術の分野において、銅フタロシアニン顔料の用途といえば平版印刷のためのインキ用途が代表的なものである。そうすると、引用発明3には単に顔料用と記載されているが、その銅フタロシアニンは、平版インキ用の顔料用であることは記載されているに等しい。
よって、相違点5は実質的な相違点ではない。

ウ 本件発明と引用発明3との対比判断についてのまとめ
以上のとおりであるので、本件発明と引用発明3との間に実質的な相違はない。

エ 請求人の主張について
請求人は、平成24年12月25日付けの意見書において、「引用発明3・・・では、反応系にルテニウム化合物及びオスミウム化合物をさらに添加している上に、洗浄処理として温水洗浄後に酸洗浄のみを行っており、アルカリ金属水酸化ナトリウム溶液による洗浄を行っておりません。このため、本願比較例1の結果(水酸化ナトリウム溶液による洗浄無し・・・)と本願実施例(水酸化ナトリウム溶液による洗浄有・・・)との結果を比較いただければお分かりのように、引用発明3・・・では、本願比較例1と同様に、多くの不純物を含有すると考えるのが妥当です」と主張する。
しかしながら、引用発明3が本願比較例1と同様に多くの不純物を含有すると考えるのは妥当であるとはいえない。
そもそも引用発明3のルテニウム化合物またはオスミウム化合物とは、反応の助触媒として添加されており、それは顔料品質及び結晶転換速度に影響を与える不純物量を低減するために添加されたものである(摘記3b)。ルテニウム化合物またはオスミウム化合物を添加していない例は刊行物3の比較例1及び比較例2であり、湯洗または酸洗だけでは依然としてDMF不純物量が1重量%以上であることが示されている一方、引用発明3のものはDMF不純物量が0.7?0.9重量%に低減していることからも、そのことが理解できる。
そうすると、引用発明3は、未精製物の段階ですでに不純物量を低減するという思想に基づき不純物量を低減できた銅フタロシアニンであるといえ、そのような助触媒を用いていないとみられる本願比較例1と同様に多くの不純物を含有すると考えることはできない。
なお、引用発明3は、加圧下での尿素法(ワイラー法)による反応を行っており、少なくとも今日では、そのような方法が、銅フタロシアニン中の反応不純物のうち有機性成分の比率が少なく通常の洗浄方法により容易に高純度化できるものであることも知られている(例えば、特開2003-20417段落0016等参照)ので、総不純物量が低減しても有機性成分の総量は実際には上がったものであると見ることもできない。
そうすると、上記の請求人の主張は、当審の判断の結論に影響を与えるものではない。

(3)本件発明と引用発明4との対比判断
ア 対比
引用発明4の「無水フタル酸122部」、「尿素154部」及び「無水塩化第一銅20部」は、本件発明の「無水フタル酸またはその誘導体」、「尿素またはその誘導体」及び「銅化合物」に相当する。
引用発明4は、反応に際してさらに「モリブデン酸アンモニウム0.5部及び有機溶剤として「ハイゾールP」(日本石油化学(株)製の芳香族炭化水素系溶剤)500部」を用いており、これらは触媒及び溶媒として用いられていることは技術常識である。触媒及び溶媒を用いることについて本件発明は特定されたものではないが、本願明細書の発明の詳細な説明を参照すると、「必要に応じてモリブデン酸アンモニウム等の触媒を用いて、有機溶媒存在下で」反応させること(段落0009)が記載されていることから、引用発明4の上記触媒及び溶媒は相違点を構成するものではない。
引用発明4は、上記物質を用い、「反応容器に仕込み、撹拌しながら加熱し、反応容器内の圧力を0.30?0.35Mpaに保ちながら、180℃まで昇温させた後、同温度、同圧力下で2.5時間反応」させており、これは、本件発明で、上記物質を「反応」させることに相当する。
その反応により得られた引用発明4の「粗製銅フタロシアニンの反応混合物200部」は、本件発明の「銅フタロシアニン未精製物」に相当する。
引用発明4は、その粗製銅フタロシアニンの反応混合物について、上記の反応のあと、「攪拌機、コンデンサー、水蒸気導入管を備えた1000mlのガラス製円筒容器に仕込み、次いで0.8%苛性ソーダ水溶液300部を仕込み、さらに円筒容器の外部を湯浴で90℃に加温した後、0.2MPaの水蒸気を吹き込み、およそ10分後から水と有機溶剤の混合液の溜出が始まり、90分後に有機溶剤の留出は殆ど認められなくなり、水蒸気の吹き込みを停止し、次いで、得られたスラリーを80?90℃まで冷却した後、濾過、」する工程を経る。この工程において、苛性ソーダは、留去されず粗製銅フタロシアニンと共に母液側に残存するものであり、粗製銅フタロシアニンとともに加温され、最終的に銅フタロシアニンとは濾別されるから、技術常識からみれば、本工程は、引用発明2の粗製銅フタロシアニン反応混合物は、苛性ソーダ水溶液で洗浄する工程ともいえる。引用発明2ではその後、「2%塩酸水溶液1000部に分散し、70?80℃で1時間加熱後、濾過し、濾液のpHが6.5?7.5になるまで水洗」する工程を行っており、本工程が洗浄工程であることは当業者に明らかである。そうすると、引用発明3のこれら洗浄工程は、本件発明の「洗浄」工程に相当する。
引用発明4は、上記洗浄後に乾燥を行っているが、洗浄後の乾燥工程は、上記(1)アで既に述べたとおり、本件発明との相違点を構成するものではない。
本件発明の「銅フタロシアニンクルード」は、洗浄後の物質を指すものであるところ、引用発明2の「粗製銅フタロシアニン」もまた、上で対比したように「洗浄」工程を経た物質であるので、本件発明の「銅フタロシアニンクルード」に相当する。
その「銅フタロシアニンクルード」の用途について、引用発明4の「インキ用」と、本件発明の「平版インキ用」とは、少なくとも「インキ用」である点で一致している。

してみると、本件発明と引用発明4とは、
「銅フタロシアニンクルードであって、
前記銅フタロシアニンクルードは、無水フタル酸またはその誘導体と、尿素またはその誘導体と、銅化合物とを反応させることにより得られる、合成直後の銅フタロシアニン未精製物を洗浄することによって得られることを特徴とするインキ用銅フタロシアニンクルード。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点6)銅フタロシアニンクルードに含まれる不純物について、本件発明は「銅フタロシアニン以外の有機化合物の含有率が1重量%以下」に特定したものであるが、引用発明4はそのように特定したものではない点
(相違点7)インキ用銅フタロシアニンクルードについて、本件発明は平版用にさらに特定したものであるが、引用発明4はそのようなさらなる特定をしたものではない点

イ 判断
(ア)相違点6について検討する。
相違点1に係る、「1重量%以下」と規定される、本件発明の「銅フタロシアニン以外の有機化合物の含有率」は、上記1のとおり、本願において、明確性要件も実施可能要件も、満たしたものではない。
そこで、本願明細書の発明の詳細な説明において、いかなる方法により、結果として「銅フタロシアニン以外の有機化合物の含有率」を「1重量%以下」にした「銅フタロシアニンクルード」を得たかについての記載を参照し、そのうえで、引用発明1がそのような物であるかについて検討すると、上記(1)イ(ア)のとおりである。
そうすると、本件発明の「銅フタロシアニン以外の有機化合物の含有率が、1重量%以下である銅フタロシアニンクルード」とは、「無水フタル酸またはその誘導体と、尿素またはその誘導体と、銅化合物とを反応させることによって得られる、合成直後の銅フタロシアニン未精製物を、1?5重量%程度のアルカリ金属水酸化物溶液で洗浄することによって得られる銅フタロシアニンクルード」と認める。

ここで引用発明4を再掲すると、以下のとおりである。
「無水フタル酸122部、尿素154部、無水塩化第一銅20部、モリブデン酸アンモニウム0.5部及び有機溶剤として「ハイゾールP」(日本石油化学(株)製の芳香族炭化水素系溶剤)500部を反応容器に仕込み、撹拌しながら加熱し、反応容器内の圧力を0.30?0.35Mpaに保ちながら、180℃まで昇温させた後、同温度、同圧力下で2.5時間反応させて粗製銅フタロシアニンを合成して得た粗製銅フタロシアニンの反応混合物200部を、撹拌機、コンデンサー、水蒸気導入管を備えた1000mlのガラス製円筒容器に仕込み、次いで0.8%苛性ソーダ水溶液300部を仕込み、さらに円筒容器の外部を油浴で90℃に加温した後、0.2MPaの水蒸気を吹き込み、およそ10分後から水と有機溶剤の混合液の留出が始まり、90分後に有機溶剤の留出は殆ど認められなくなり、水蒸気の吹き込みを停止し、次いで、得られたスラリーを80?90℃まで冷却した後、濾過、水洗して得た粗製銅フタロシアニンのウエットケーキを、2%塩酸水溶液1000部に分散し、70?80℃で1時間加熱後、濾過し、濾液のpHが6.5?7.5になるまで水洗した後、乾燥して得られた、印刷インキ用の粗製銅フタロシアニン」

そして引用発明4のうち、「無水フタル酸122部、尿素154部、無水塩化第一銅20部、モリブデン酸アンモニウム0.5部及び有機溶剤として「ハイゾールP」(日本石油化学(株)製の芳香族炭化水素系溶剤)500部を反応容器に仕込み、撹拌しながら加熱し、反応容器内の圧力を0.30?0.35Mpaに保ちながら、180℃まで昇温させた後、同温度、同圧力下で2.5時間反応させて粗製銅フタロシアニンを合成して得た粗製銅フタロシアニンの反応混合物200部」は、上記アで対比したとおり、上記の本願明細書に記載された「無水フタル酸またはその誘導体と、尿素またはその誘導体と、銅化合物とを反応させることによって得られる、合成直後の銅フタロシアニン未精製物」に該当する。
その「銅フタロシアニン未精製物」に対して、引用発明4は、「0.8%苛性ソーダ水溶液300部を仕込み、さらに円筒容器の外部を油浴で90℃に加温した後、0.2MPaの水蒸気を吹き込み、およそ10分後から水と有機溶剤の混合液の留出が始まり、90分後に有機溶剤の留出は殆ど認められなくなり、水蒸気の吹き込みを停止し、次いで、得られたスラリーを80?90℃まで冷却した後、濾過、水洗して得た粗製銅フタロシアニンのウエットケーキを、2%塩酸水溶液1000部に分散し、70?80℃で1時間加熱後、濾過し、濾液のpHが6.5?7.5になるまで水洗した後、乾燥」する工程を行ったうえで「銅フタロシアニンクルード」を得ている。この工程は「銅フタロシアニン未精製物」を0.8%苛性ソーダ水溶液を用いてアルカリ可溶化合物を濾別、すなわち0.8%苛性ソーダによる洗浄を含むものである。そうすると、引用発明4の「銅フタロシアニンクルード」は、本件発明の銅フタロシアニンクルードが得られる方法として上記の本願明細書に記載された「銅フタロシアニン未精製物を、1?5重量%程度のアルカリ金属水酸化物溶液で洗浄すること」によって得られる銅フタロシアニンクルードであると認める。
以上を参酌すると、引用発明4の銅フタロシアニンクルードは、上記の「無水フタル酸またはその誘導体と、尿素またはその誘導体と、銅化合物とを反応させることによって得られる、合成直後の銅フタロシアニン未精製物を、1?5重量%程度のアルカリ金属水酸化物溶液で洗浄することによって得られる銅フタロシアニンクルード」であるといえ、そうすると、本件発明の「銅フタロシアニン以外の有機化合物の含有率が、1重量%以下である銅フタロシアニンクルード」であると考えられる。
したがって、相違点6は実質的な相違点ではない。

(イ)相違点7について検討する。
引用発明4が記載される刊行物4の技術の分野において、印刷インキといえば平版用インキが代表的なものである。そうすると、単にインキ用であることが示される引用発明4の粗製銅フタロシアニンは、平版インキ用であることが示されているに等しい。
よって、相違点7は実質的な相違点ではない。

ウ 本件発明と引用発明4との対比判断についてのまとめ
以上のとおりであるので、本件発明と引用発明4との間に実質的な相違はない。

エ 請求人の主張について
請求人は、平成24年12月25日付けの意見書において、「本願実施例では、アルカリ金属水酸化物溶液で洗浄後、硫酸で洗浄しており、塩酸洗浄を行った・・・引用発明4・・・とは異なります。そして、塩酸洗浄と硫酸洗浄では、洗浄効果が大きく異なることから、塩酸洗浄を行っている・・・引用発明4・・・において、硫酸洗浄を行った本願実施例1?4と同程度まで不純物が洗浄除去されているとはいえません」と主張する。
しかしながら、本主張については、上記(1)エにおいて検討したとおりであって、該請求人の主張は、当審の判断の結論に影響を与えるものではない。

(4)まとめ
上記(1)ないし(3)をまとめると、本件発明は、刊行物1、3及び4のそれぞれに記載された発明である。


第5 むすび
以上のとおり、本件発明は特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。また、本願は特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていない。
したがって、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-08 
結審通知日 2013-03-12 
審決日 2013-03-26 
出願番号 特願平11-371910
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C09B)
P 1 8・ 536- WZ (C09B)
P 1 8・ 113- WZ (C09B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高橋 直子  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 東 裕子
齋藤 恵
発明の名称 銅フタロシアニンセミクルードおよび銅フタロシアニンクルード  
代理人 村山 靖彦  
代理人 志賀 正武  
代理人 西 和哉  
代理人 高橋 詔男  
代理人 鈴木 三義  
代理人 渡邊 隆  
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