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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09B
管理番号 1273637
審判番号 不服2010-23092  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-10-13 
確定日 2013-05-09 
事件の表示 平成11年特許願第371911号「銅フタロシアニンセミクルードの製法および銅フタロシアニンクルードの製法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 7月 3日出願公開、特開2001-181529〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成11年12月27日の出願であって、平成22年 2月18日付けで拒絶理由が通知され、同年 4月23日に意見書及び手続補正書が提出されたところ、同年 7月 9日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年10月13日に審判請求がされるとともに手続補正書が提出され、平成24年 3月13日に審尋がされ、同年 5月14日付けで回答書が提出されたところ、同年10月18日付けで、当審において平成22年10月13日付けの手続補正を却下するとともに拒絶理由を通知し、これに対して平成24年12月25日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2 本件発明
本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成24年12月25日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の記載に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1には以下の事項が記載されている。

「アルキルベンゼンの存在下で、無水フタル酸またはその誘導体と、尿素またはその誘導体と、銅化合物とを反応させて得られる銅フタロシアニン未精製物を洗浄して得る銅フタロシアニンクルードの製法において、
銅フタロシアニン未精製物を少なくともアルカリ金属水酸化物溶液で洗浄した後、硫酸溶液で洗浄することを特徴とする銅フタロシアニンクルードの製法」
(以下、この請求項1に係る発明を「本件発明」という。)


第3 当審の拒絶の理由の概要
当審において、平成24年10月18日付けで通知した拒絶の理由は、
平成22年 4月23日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された発明をまとめて「本願発明」というとしたうえで、
「(拒絶の理由3)」として、「本願発明は、その出願前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づき当業者が容易に想到し得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」という理由を含む。
そして、その刊行物とは以下のものである。
「ア 特開昭62-72758号公報(・・・「刊行物1」という。)
イ 特開平11-116840号公報(・・・「刊行物2」という。)
ウ 特開昭52-56134号公報(以下、「刊行物3」という。)
エ 特開昭57-3859号公報(以下、「刊行物4」という。)
オ 特開平7-252428号公報(以下、「刊行物5」という。)
カ 特開昭57-135866号公報(以下、「刊行物6」という。)」


第4 当審の判断
当審は、依然として、本件発明は、その出願前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、と判断する。

以下、その理由を詳述する。

1 刊行物等
上記第3に指摘した、当審が通知した拒絶理由通知書に引用した、以下の刊行物1ないし6は、いずれも本願の出願前に頒布されたことが明らかな刊行物である。
(刊行物1)特開昭62-72758号公報
(刊行物2)特開平11-116840号公報
(刊行物3)特開昭52-56134号公報
(刊行物4)特開昭57-3859号公報
(刊行物5)特開平7-252428号公報
(刊行物6)特開昭57-135866号公報

また、本審決では、本願の出願時点の技術常識を示す文献として、以下の文献を示す。
特開昭63-163470号公報(以下、「周知例1」という。)
特表平7-509506号公報(以下、「周知例2」という。)
特開平8-134368号公報(以下、「周知例3」という。)
特公昭52-6301号公報(以下、「周知例4」という。)

2 刊行物等に記載された事項
(1)刊行物1に記載された事項
1a 第4頁右上欄第14行?同頁左下欄第6行
「製造例1
無水フタル酸26.6部、尿素50部、無水塩化第一銅4.4部、モリブデン酸アンモニウム0.01部、ソルベッソ150(エッソスタンダードオイル(株)製のアルキルベンゼン、沸点188?211℃)80部をオートクレーブに仕込み、190?200℃に加熱し、容器内の圧力が3kg/cm^(2)となるようにガス放出弁を調整し、5時間反応させた。冷却後、反応物を丸底フラスコに移し、ソルベッソ150を減圧下で蒸留除去し、さらに2%苛性ソーダ水溶液4Lおよび2%塩酸4Lでそれぞれ1時間煮沸後ロ過、水洗、90?100℃にて乾燥し、クルード銅フタロシアニン25.5部を得た。」

1b 第4頁左下欄第7行?第11行
「実施例1
製造例1で得られたクルード銅フタロシアニン100部をアトライターに仕込み、粉砕温度50℃で25分間乾式粉砕し、表-1のようにカサが半減した本発明粗製銅フタロシアニンを得た。」

1c 第4頁右下欄下から3行?第6頁左上欄第4行
「実施例5
実施例1で得られた本発明の粗製銅フタロシアニン250部、乾燥した塩化ナトリウム1000部およびポリエチレングリコール250部を2Lテストニーダーに仕込み、100?110℃で、4時間(その途中0.5、1、2、3時間でサンプリング)ニーディングし、得られた塊を、10%希硫酸25gを加えた5Lの温水に投入後、撹拌し、塩化ナトリウム、ポリエチレングリコールを完全に溶解した後、ロ過、アシッドフリーまで水洗し、ロ別された顔料を90?100℃で乾燥する。
・・・
(評価方法)
フーバーマーラー法により顔料分20%の濃色インキを作成した後、青顔料と白顔料の日が1対10になるように白インキでカットし、カラーマシンでL,a,bを測色する。着色力および鮮明性を表わす目安として、それぞれL値・・・、C値・・・を用いた。・・・
表-3、4の結果より実施例5・・・で示されるように、粗製銅フタロシアニンを出発原料とし4時間ニーディングした比較例3の品位を得るには、本発明の粗製銅フタロシアニンを出発原料とした場合、ニーディング時間が短縮が計れると同時に乾式粉砕を含めた総エネルギー量は少なくなる・・・また、本発明の粗製銅フタロシアニンのニーディング時間をさらに延長すれば、着色力、鮮明性に優れた銅フタロシアニン顔料を得ることができる。」

(2)刊行物2に記載された事項
2a 「【0002】
【従来の技術】フタロシアニン系化合物は美しい青色の色相を有し、耐熱性、耐薬品性、耐候性等の諸性質が優れており、主として青色顔料として印刷インキ、塗料、樹脂着色等の用途に広く用いられており、中でも粗製銅フタロシアニン又はそれらの顔料の使用量は非常に多い。また、最近では機能性材料の素材として無金属フタロシアニンや中心金属が銅以外のフタロシアニンも使用されてきている。」

2b 「【0025】実施例1
【0025】実施例1
無水フタル酸122部、尿素154部、無水塩化第一銅20部、モリブデン酸アンモニウム0.5部及び有機溶剤として「ハイゾールP」(日本石油化学(株)製の芳香族炭化水素系溶剤)500部を反応容器に仕込み、撹拌しながら加熱し、反応容器内の圧力を0.30?0.35Mpaに保ちながら、180℃まで昇温させた後、同温度、同圧力下で2.5時間反応させて粗製銅フタロシアニンを合成して、粗製銅フタロシアニンの反応混合物を得た。
【0026】得られた反応混合物200部を撹拌機、コンデンサー、水蒸気導入管を備えた1000mlのガラス製円筒容器に仕込み、次いで0.8%苛性ソーダ水溶液300部を仕込み、さらに円筒容器の外部を油浴で90℃に加温した後、0.2MPaの水蒸気を吹き込んだ。およそ10分後から水と有機溶剤の混合液の留出が始まり、90分後に有機溶剤の留出は殆ど認められなくなり、水蒸気の吹き込みを停止した。次いで、得られたスラリーを80?90℃まで冷却した後、濾過、水洗し粗製銅フタロシアニンのウエットケーキを得た。さらに、このウエットケーキを2%塩酸水溶液1000部に分散し、70?80℃で1時間加熱後、濾過し、濾液のpHが6.5?7.5になるまで水洗した後、乾燥して粗製銅フタロシアニンを得た。
【0027】なお、水蒸気蒸留時の留出液蒸気の温度は96?98℃であり、蒸留終了時点においても粗製銅フタロシアニンと有機溶剤から成るダマ状の固形物は非常に少なかった。また、最初に仕込んだ有機溶剤の量と最終的に留出した有機溶剤の量から溶剤回収率を求めると、98%であった。」

(3)刊行物3に記載された事項
3a 第1頁左下欄第4行?第9行
「2.特許請求の範囲
無水フタル酸、フタルイミドまたはこれらの誘導体、尿素化合物、少量の触媒及び銅源として酸化銅または水酸化銅を、不活性溶媒中でハロゲン化合物の存在下に反応させることを特徴とする銅フタロシアニンの製造方法。」

3b 第2頁右下欄第12行?末行
「 本発明に用いる不活性溶媒としてはキシレン、モノクロルベンゼン、オルソ-ジクロルベンゼン、トリクロルベンゼン、ニトロベンゼン、ドデシルベンゼン、ナフタリン、アントラセン、灯油、クロルナフタリン、ケロシン、ジイソプロピルトルエンなど、またこれらの混合物に代表される高沸点溶媒が用いられる。その使用量は無水フタル酸に対し同量以上有利には3?10倍量用いる。」

3c 第3頁左上欄第1行?第13行
「 本発明方法はたとえば次のように実施される。
不活性溶媒としてトリクロルベンゼンを仕込み、撹拌をはじめながら無水フタル酸又はフタルイミド、尿素、モリブデン酸アンモニウム、酸化銅又は水酸化銅、塩化アンモニウムを仕込み昇温をはじめる。110℃以上有利には120℃以上において2?6時間保温撹拌して反応は終了する。反応終了後は内容物を濾過器に移し、銅フタロシアニンを分離する。アルコール類で十分洗滌してトリクロルベンゼンを除去した後、たとえば5%塩酸水で処理して不純物を溶解せしめ、濾別、水洗、乾燥することによって85%以上の高収率で銅フタロシアニンを得る。」

(4)刊行物4に記載された事項
4a 第1頁左下欄第4行?第9行
「2 特許請求の範囲
フタル酸またはその誘導体、窒素供給体、金属供給体を触媒の存在下に反応させて金属フタロシアニン化合物を得るにあたり、溶媒としてオルトニトロトルエンを使用することを特徴とする金属フタロシアニン化合物の製造方法。」

4b 第2頁右下欄第2行?第14行
「 本発明はたとえば次のように実施することができる。銅フタロシアニンを目的物とする場合、無水フタル酸、尿素、銅ハロゲン化物、触媒をオルトニトロトルエン中に仕込み、昇温し、170-200℃で数時間反応させる。反応終了後、熱濾過し、アルコールで洗浄し、湯洗浄して乾燥するか、あるいは水蒸気蒸留、減圧蒸留などによりオルトニトロトルエンを回収した後、更に希酸、希アルカリ等で精製することにより粗製の銅フタロシアニンを得ることができる。粗製の銅フタロシアニンは、通常の顔料化処理を行うことにより銅フタロシアニン顔料とすることができる。」

4c 第2頁右下欄最終行?第3頁左上欄第17行
「実施例1
オルトニトロトルエン・・・、無水フタル酸・・・、尿素・・・、塩化第一銅・・・およびモリブデン酸アンモニウム・・・を仕込み、180℃まで昇温した後、180-200℃で4時間保温撹拌する。
反応終了後、反応混合物を熱ろ過し、オルトニトロトルエン300部、メタノール500部ついで湯1000部でそれぞれ洗浄した後、5%硫酸水1000部の中に加え、60-70℃で1時間撹拌する。ついでろ過、水洗、乾燥する。銅フタロシアニン・・・を得た・・・。」(当審注:上記摘記における「ろ過」の「ろ」字はさんずいに戸)

(5)刊行物5に記載された事項
5a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 フタル酸又はフタル酸誘導体、尿素又は尿素誘導体、銅化合物及び触媒としてモリブデン又はモリブデン化合物を用いて、不活性有機溶媒の存在下、加熱反応して銅フタロシアニンを製造する方法において、この反応系にルテニウム化合物及びオスミウム化合物から選ばれる1種又は2種以上の化合物を添加することを特徴とする銅フタロシアニンの製造方法。
【請求項2】 ルテニウム化合物及びオスミウム化合物から選ばれる1種又は2種以上の化合物を1?5000ppm(フタル酸又はフタル酸誘導体に対してルテニウム及びオスミウムの元素換算で)添加することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】 ルテニウム化合物及びオスミウム化合物から選ばれる1種又は2種以上の化合物を5?1000ppm(フタル酸又はフタル酸誘導体に対してルテニウム及びオスミウムの元素換算で)添加することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】 不活性有機溶媒が、炭化水素系の溶媒又はハロゲン化炭化水素系の溶媒である請求項1乃至3の何れか記載の方法。
【請求項5】 炭化水素系の溶媒が、芳香族炭化水素系の溶媒である請求項4記載の方法。
【請求項6】 ハロゲン化炭化水素系の溶媒が、塩素化芳香族炭化水素系の溶媒である請求項4記載の方法。」

5b 「【0004】
【発明が解決しようとする課題】前述の一般的な銅フタロシアニン化合物の製造法において、加熱反応終了後、反応生成物から溶媒を減圧留去し、得られた残渣を熱水洗浄することにより、通常、純度90?96%、遊離銅0.21?1.2%を含有する銅フタロシアニン化合物が通常の操作で得られる品質である。しかしながら、これらの銅フタロシアニンには、なお未反応物及び不純物が少なからず残存し、例えば顔料化する際に不都合が生じる場合が多い。顔料化としては、例えば、乾式粉砕後、溶剤処理する顔料化法であるドライミリング法(特開平4ー320458号等)があり、このドライミリング法において、これらの不純物が存在すると、一般には結晶転移速度が遅くなり、鮮明度や着色度等の顔料化品位の低下が認められる。
【0005】又、近年では、銅フタロシアニンを顔料化等の処理を行う場合においては、その処理の際に排出される廃液の中にできるだけ銅化合物等の金属イオンが少なくなることが求められている。反応によって得られる銅フタロシアニンは、反応後、溶媒留去し、熱水洗浄により得られたままの品質で使用することが、経済的には好ましいが、前述した通り、純度が低いこと及び遊離銅が多いことは製品の使用及び環境上の問題となる。特に、排水中に含まれる銅イオンは環境汚染の原因となるため、法的な規制対象となっている。
【0006】前述の熱水洗浄した銅フタロシアニンの純度を更に向上させ及び遊離銅を低減することを目的として、引き続いて希硫酸等を用いて、酸洗浄を行うことにより、通常、純度97%以上、遊離銅0.2?0.5%の製品を得ることができるが、酸洗浄に伴い製品歩留が低下し、又、使用した酸を中和処理する工程が必要となる欠点がある。また、ここで低減した遊離銅に相当する銅イオンは、洗浄濾液中に溶出し、銅イオンを除去する工程の負担を増大する欠点がある。
【0007】しかして、本発明は、従来の銅フタロシアニンの製造法より、不純物を低下させ、それによって顔料化、例えば、ドライミリング法等において結晶転移が容易であり、又遊離銅が少ないような製品を製造する方法を提供することにある。」

5c 「【0013】溶媒としては、公知の比較的高沸点の不活性有機溶媒、例えば、脂肪族炭化水素系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、又はこれらのハロゲン等により置換された溶媒系が挙げられる。例えば、アルキルベンゼンを主成分とした不活性有機溶媒、例えば、ジイソプロピルベンゼン、モノイソプロピルキシレン、ジイソプロピルトルエン、tert.?アミルベンゼン等のアルキルベンゼン化合物、イソプロピルナフタレン、tert.-ブチルナフタレン等のナフタレン化合物等の芳香族炭化水素系溶媒;1,2,4?トリクロルベンゼン、ジクロルトルエン等の塩素化ベンゼン化合物、クロルナフタレン等のハロゲン化芳香族炭化水素系溶媒;ニトロベンゼン、オルソニトロトルエン等のニトロ置換芳香族炭化水素系溶媒等が挙げられる。しかしなから、これらの反応系溶媒のうち、ハロゲン化系溶媒を用いた場合には、微量のポリクロルビフェニル類(PCB)が生成し、製品に残留する可能性があり、又ニトロ化化合物系溶媒は環境規制が厳しく、環境保全上使用しにくい欠点があり、これら環境衛生及び価格を勘案すれば芳香族炭化水素系溶媒、特にアルキルベンゼン系溶媒が好ましい。一般的には、日本やドイツのように製品中にPCBが検出されることが認められないところでは、もっぱらアルキルベンゼン系溶媒が用いられており、アメリカ合衆国のように規制値以下であれば、PCBの残存が許容される国では、アルキルベンゼンの他にトリクロルベンゼンもかなり使用されている。溶媒の使用量は、通常はフタル酸等に対して1.5?7重量倍、好ましくは1.7?3重量倍である。」

5d 「【0021】[実施例01]フタルイミド・・・、尿素・・・、モリブデン酸アンモニウム・・・、溶媒として・・・ハイゾールP・・・及び助触媒・・・を・・・仕込み、反応温度を・・・上げ、圧力・・・で・・・時間反応させた。生成したスラリーから・・・溶媒を減圧留去した。この残留物を・・・1%の希硫酸の1200グラムにより、60℃で、2時間スラリー洗浄した後、60℃の温水2000グラムを用いて、洗浄水中に酸が無くなるまで洗浄し、乾燥して・・・銅フタロシアニン精製品を得た。・・・このような希硫酸による洗浄製品を「酸洗品」という。・・・」

(6)刊行物6に記載された事項
6a 第2頁右上欄第2行?第14行
「 本発明の方法によれば、第一に銅フタロシアニンを極めて高収率(97%以上)で与え、第二に特別の精製工程を加えなくとも極めて高品質、高純度の銅フタロシアニンを与える。従って、顔料化した場合、赤味鮮明な色調で着色強度の高い銅フタロシアニン顔料を容易に与え、また顔料化時の磨砕時間を短縮させることができる。」

6b 第3頁左上欄第5行?第12行
「 反応終了後は、反応マスをただちにまたは水もしくはメタノール希釈後、熱濾過し、熱水洗浄もしくはメタノール洗浄して乾燥するろ過法あるいは反応マスをそのまま減圧下に溶媒を蒸発(たとえば180℃、15mmHg)し、ついで粉体を水洗、ろ過することによって無機塩類他を除去し、乾燥する蒸留法により、高純度の銅フタロシアニンを得ることができる。」(当審注:上記摘記中の「ろ過」の「ろ」字はさんずいに戸)

6c 第3頁左下欄第18行?同頁右下欄末行
「 実施例3
スルホラン835g、無水フタル酸148g、モリブデン酸アンモン0.43g、四塩化チタン14.4g、尿素248gおよび塩化第一銅26.3gを実施例1と同様に反応させ後処理する。141.8gの銅フタロシアニンが得られた。純度は99.9%で純収率は98.4gであった。
得られた銅フタロシアニンを公知のソルトシリング法により磨砕して得た顔料はβ型結晶であり、オフセット印刷インキテストあるいはグラビア印刷インキテストによって比較すると公知の溶剤によって同様の方法で得られた顔料よりもはるかに鮮明でかつ着色力も大であった。」

(7)周知例1に記載された事項
7a 「例1
無水フタル酸26.6部、尿素50部、無水塩化第一銅4.4部、モリブデン酸アンモン0.01部を用い常法により不活性有機溶媒中で加圧反応させ、冷却後不活性有機溶媒を減圧除去し、さらにアルカリ水、酸性水、次いで水で順次洗浄して不純物を洗浄し乾燥してクルード銅フタロシアニンを得た。」

(8)周知例2に記載された事項
8a 請求の範囲
「1 水の存在下で・・・固形物を精製する方法において、固形物を必要により、
A)主に・・・固形物を湿潤し、かつグラニュール形成を生じる相と、
B)主に
B1)水、1種以上の水と混和可能な有機液体および必要により無機酸または無機塩基または
B2)水および無機酸
からなる汚染物質を吸収する相
とから構成される1種または種々の二相系で数回熱時に処理し、引き続き形成されたグラニュールを水相から分離することを特徴とする、疎水性固形物を精製する方法」

8b 第2頁右上欄本文第3行?第16行
「 一般に化合物を製造する際に更に精製を必要とする形の化合物が生じる。たとえば顔料のような着色物質の場合は色彩および毒性の理由から、有機汚染物質、たとえば副生成物および未反応の出発化合物、更に無機の汚染物質、たとえば触媒としてまたは銅フタロシアニンのような金属含有の顔料の場合は出発物質として使用する金属塩を除去するために、粗製生成物の精製を行わなければならない。更に粗製顔料は一般になお調製を必要とし、すなわちその結晶の形および粒度をなお最適にしなければならない。
周知の精製法においては硫酸でまたは汚染物質のみを溶解する有機溶剤で処理することにより粗製顔料を処置する。両方の場合とも生じる懸濁液から濾過により顔料を分離し、引き続きなお大量の水で洗浄しなければならない。この場合に生じる溶剤および水の量の後処理は多くの経費を必要とする」

8c 第4頁左上欄第6行?第13行
「 必要により水相(B1)(またはB2)に添加される無機酸はたとえば燐酸およびアミドスルホン酸のほかに有利には硫酸および特に塩酸であり、有利な塩基は水酸化カリウムおよび特に水酸化ナトリウムおよびアンモニアであり、そのほかにたとえば・・・を使用することができる。多くの場合に無機酸の添加が有利である。」

(9)周知例3に記載された事項
9a 「【0010】
【実施例】・・・合成例無水フタル酸・・・、尿素・・・、塩化第一銅・・・、モリブデン酸アンモニウム・・・及び・・・ハイゾールP(日本石油社製アルキルベンゼン)・・・を・・・反応させ、粗製銅フタロシアニンのスラリー・・・を得た。
【実施例1】
・・・合成例で得た粗製銅フタロシアニンのスラリーを・・・乾燥を行った。・・・溶剤の除去は終了した・・・得られた解砕された銅フタロシアニンを、その20?30倍量の2%水酸化ナトリウム水溶液及び2%硫酸水溶液でそれぞれ加熱(90?100℃)処理して不純物(未反応物、副生物等)を除去し、水洗、乾燥して・・・銅フタロシアニン・・・を得た。」

(10)周知例4に記載された事項
10a 第3頁6欄第8行?第15行
「実施例1
無水フタル酸・・・、銅粉・・・、尿素・・・及びモリブデン酸アンモニウム・・・をニトロベンゼン・・・に加え、・・・反応させた後ロ過し、メタノール、水で洗浄し、さらに2%硫酸水溶液、2%水酸化ナトリウム水溶液で精製した後水で洗浄後乾燥することにより銅フタロシアニンを得る。」

3 刊行物に記載された発明
(1)刊行物1に記載された発明
刊行物1には、製造例1においてクルード銅フタロシアニンの製造方法(摘記1a)が記載されている。
してみると、刊行物1には、
「無水フタル酸26.6部、尿素50部、無水塩化第一銅4.4部、モリブデン酸アンモニウム0.01部、ソルベッソ150(エッソスタンダードオイル(株)製のアルキルベンゼン、沸点188?211℃)80部をオートクレーブに仕込み、190?200℃に加熱し、容器内の圧力が3kg/cm^(2)となるようにガス放出弁を調整し、5時間反応させ、冷却後、反応物を丸底フラスコに移し、ソルベッソ150を減圧下で蒸留除去し、さらに2%苛性ソーダ水溶液4Lおよび2%塩酸4Lでそれぞれ1時間煮沸後ロ過、水洗、90?100℃にて乾燥することによる、25.5部の、クルード銅フタロシアニンの製造方法。」
の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。

(2)刊行物2に記載された発明
刊行物2には、実施例1において粗製銅フタロシアニンの製造方法(摘記2b)が記載されている。
よって、刊行物2には、
「無水フタル酸122部、尿素154部、無水塩化第一銅20部、モリブデン酸アンモニウム0.5部及び有機溶剤として「ハイゾールP」(日本石油化学(株)製の芳香族炭化水素系溶剤)500部を反応容器に仕込み、撹拌しながら加熱し、反応容器内の圧力を0.30?0.35Mpaに保ちながら、180℃まで昇温させた後、同温度、同圧力下で2.5時間反応させて粗製銅フタロシアニンを合成して得た粗製銅フタロシアニンの反応混合物200部を、撹拌機、コンデンサー、水蒸気導入管を備えた1000mlのガラス製円筒容器に仕込み、次いで0.8%苛性ソーダ水溶液300部を仕込み、さらに円筒容器の外部を油浴で90℃に加温した後、0.2MPaの水蒸気を吹き込み、およそ10分後から水と有機溶剤の混合液の留出が始まり、90分後に有機溶剤の留出は殆ど認められなくなり、水蒸気の吹き込みを停止し、次いで、得られたスラリーを80?90℃まで冷却した後、濾過、水洗して得た粗製銅フタロシアニンのウエットケーキを、2%塩酸水溶液1000部に分散し、70?80℃で1時間加熱後、濾過し、濾液のpHが6.5?7.5になるまで水洗した後、乾燥することによる、粗製銅フタロシアニンの製造方法。」
の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。

4 本件発明の引用発明1に基づく想到容易性について
(1)対比
引用発明1の「ソルベッソ150(エッソスタンダードオイル(株)製のアルキルベンゼン、沸点188?211℃)80部」、「無水フタル酸26.6部」、「尿素50部」及び「無水塩化第一銅4.4部」は、本件発明の「アルキルベンゼン」、「無水フタル酸またはその誘導体」、「尿素またはその誘導体」及び「銅化合物」に相当する。
引用発明1の「モリブデン酸アンモニウム0.01部」は反応のための触媒である。本件発明にモリブデン酸アンモニウムまたは触媒の存在下で反応させるとの規定はないが、モリブデン酸アンモニウムは上記原料により銅フタロシアニンを製造する際に通常使用する触媒であり、平成24年12月25日の手続補正により補正された明細書(以下、「本件明細書」という。)の段落0009?0010にも「必要に応じて、モリブデン酸アンモニウム等の触媒を用い」ることが記載され、本件発明の具体例と認める本件明細書の実施例1においても「モリブデン酸アンモニウム触媒の存在下」で反応させる例が記載されている。そうすると、本件発明はモリブデン酸アンモニウム等の通常の触媒の使用を排除するものとはいえないので、引用発明1の「モリブデン酸アンモニウム0.01部」は相違点を構成するものではない。
引用発明1において、上記物質を「オートクレーブに仕込み、190?200℃に加熱し、容器内の圧力が3kg/cm^(2)となるようにガス放出弁を調整し、5時間反応」させることは、本件発明で、上記物質を「反応」させることに相当する。
引用発明1は、上記反応後に「冷却後、反応物を丸底フラスコに移し、ソルベッソ150を減圧下で蒸留除去」するが、これは反応時に通常行われる後処理であるから、本件発明の「反応」に含まれるといえる。また、たとえ含まれなくても、本件発明は、反応に際して当然に行われる通常の後処理工程の実施を排除するものではないので、引用発明1の上記反応後処理は相違点を構成するものではない。
本件発明の「銅フタロシアニン未精製物」は、反応後のものであって、かつ洗浄により不純物を除去する前の銅フタロシアニンと認める。そうすると、引用発明1の、2%苛性ソーダ水溶液による処理がなされる前の反応物は、本件発明の「銅フタロシアニン未精製物」に相当する。
引用発明1の製造方法は、上記の反応のあと反応物を「2%苛性ソーダ水溶液4L及び2%塩酸4Lでそれぞれ1時間煮沸後ロ過」する工程を有しており、これは技術常識からみて洗浄工程であるので、これは本件発明の「銅フタロシアニン未精製物を洗浄」する工程に相当する。
引用発明1のこの洗浄工程は「2%苛性ソーダ水溶液4L及び2%塩酸4Lでそれぞれ」行うとされるから、先に「2%苛性ソーダ水溶液4L」で「1時間煮沸後ロ過」する洗浄を行い、次に「2%塩酸4L」で「1時間煮沸後ロ過」する洗浄を行うものと認める。そうすると、この先の洗浄は、本件発明が、先に「アルカリ金属水酸化物溶液で洗浄」することと一致する。また、この後の洗浄は、本件発明での後の「硫酸溶液」での「洗浄」とは、少なくとも、後に「酸溶液で洗浄」を行うものである点で一致している。
引用発明1は上記の苛性ソーダ水溶液及び塩酸での洗浄後に「水洗、90?100℃にて乾燥」するが、これは洗浄時に通常行われる後処理であるから、本件発明の「洗浄」に含まれるといえる。また、たとえ含まれなくても、本件発明は、洗浄に際して当然に行われる通常の後処理工程の実施を排除するものではなく、また本件発明の具体例と認める本件明細書の実施例1を見ても、硫酸溶液での処理の後、「濾過して固液分離し、固形分を水洗、乾燥して銅フタロシアニンクルードを得」ている。してみると、引用発明1の上記水洗及び乾燥工程は本件発明との相違点を構成するものではない。
本件発明の「銅フタロシアニンクルード」は、洗浄後の物質を指すものであるところ、引用発明1の「25.5部の、クルード銅フタロシアニン」もまた、そのような物質であるので、本件発明の「銅フタロシアニンクルード」に相当する。

してみると、本件発明と引用発明1とは、
「アルキルベンゼンの存在下で、無水フタル酸またはその誘導体と、尿素またはその誘導体と、銅化合物とを反応させるて得られる銅フタロシアニン未精製物を洗浄して得る銅フタロシアニンクルードの製法において、
銅フタロシアニン未精製物を少なくともアルカリ金属水酸化物溶液で洗浄した後、酸溶液で洗浄する、銅フタロシアニンクルードの製法。」
である点で一致しており、以下の点で相違する。

(相違点1)アルカリ金属水酸化物溶液で洗浄した後の酸溶液の洗浄において、本件発明は「硫酸溶液」を用いるのに対し、引用発明1は「2%塩酸」を用いる点

(2)判断
相違点1について検討する。
刊行物1には、引用発明1である製造例1において、合成した銅フタロシアニンを苛性ソーダ水溶液及び塩酸で洗浄することが記載されており、これは銅フタロシアニンの洗浄をアルカリ水溶液や酸水溶液で行うという常法にのっとってなされたものであることは該刊行物1の記載に接した当業者であれば通常理解することである(常法であることについて、例えば、刊行物2摘記2b、刊行物4摘記4b、周知例1摘記7a、周知例2摘記8a、周知例3摘記9a、周知例4摘記10a等 参照)。
そして、銅フタロシアニンの酸水溶液による洗浄に際しては、塩酸水溶液(例えば、引用発明1、引用発明2等 参照)、及び硫酸水溶液(例えば刊行物4摘記4c、刊行物5摘記5b、周知例2摘記8b?8c、周知例3摘記9a、周知例4摘記10a等 参照)のいずれも、従前より用いられている。
また、銅フタロシアニンを水酸化ナトリウム水溶液及び酸溶液の両者で洗浄する際の酸洗浄溶液としては、塩酸水溶液(例えば、引用発明1、引用発明2等 参照)、及び硫酸水溶液(例えば、周知例3摘記9a、周知例4摘記10a等 参照)のいずれも用いられており、アルカリ金属水酸化物溶液による洗浄に加えて酸洗浄を行う場合の酸洗浄溶液としては塩酸水溶液しか選ばれないという技術常識もない。
そうすると、引用発明1の2%塩酸を、刊行物4及び5に記載され、また、銅フタロシアニンの酸洗浄に用いる水溶液として従前より用いられている、硫酸溶液に変更することは、当業者であれば容易になし得る事項である。

(3)効果について
本件発明の効果として、本件明細書には、「銅フタロシアニンクルードを少なくとも水酸化ナトリウム水溶液で洗浄することによって、銅フタロシアニン以外の有機化合物の含有率を1重量%以下に、無機化合物の含有率を0.01重量%以下に低減することができ、この銅フタロシアニンクルードから製造された銅フタロシアニン顔料は、表1から明らかなように、着色力、分散性がともに優れていた」こと(段落0029)、及び「図1のグラフから明らかなように、銅フタロシアニン以外の有機化合物の含有率が1重量%以下で、無機化合物の含有率が0.01重量%以下に低減された銅フタロシアニンセミクルードは、少ない処理時間で顔料化が進んだ」こと(段落0033)が記載され、まとめとして「【発明の効果】以上説明したように本発明の銅フタロシアニンクルードの製法および銅フタロシアニンセミクルードの製法によれば、不純物、特に有機不純物が従来よりも低減された銅フタロシアニンおよびセミクルードが得られたため、高い分散性を有し着色力も大きく、優れた性能を有する銅フタロシアニン顔料を、短い顔料化時間で生産性よく製造することができる」(段落0035)ことが記載される。
該本件発明の効果を確認する具体例として本件明細書に示されているのは、比較例はアルカリ洗浄を行わず酸洗浄のみを行った例であり、実施例はいずれも少なくともアルカリ洗浄及び酸洗浄を行ったものであることから、上記本件発明の効果に関する記載も参照すると、本件発明の上記効果とは、銅フタロシアニン粗生成物の洗浄に際して、アルカリ洗浄及び酸洗浄を行った場合に達成される効果と認める。

これに対して、引用発明1は、銅フタロシアニン粗生成物の洗浄に際して、水酸化ナトリウム水溶液及び酸水溶液での洗浄を既に行っているものである。また、刊行物1には、該洗浄を経て得られたクルード銅フタロシアニンを用いて製造した銅フタロシアニン顔料は、本件発明同様の効果を有する、すなわち「着色力および鮮明性」に優れ「ニーディング時間が短縮が計れる」ものであったことが記載されている(摘記1c)。
引用発明1は、酸洗浄が塩酸水溶液によるものであって硫酸水溶液によるものではない点で本件発明と相違するが、銅フタロシアニンの製造において酸洗浄は無機不純物等を溶解除去することを目的とするものであることは周知であり、塩酸水溶液か硫酸水溶液かでその除去能が格段に異なるという技術常識も見あたらない。
また、刊行物1には、粗生成物の洗浄(不純物や未反応原料等の除去)と、顔料特性及び顔料化時の利点について直接関連付ける記載はないが、銅フタロシアニンに未反応物及び不純物等が残存すると結晶転移速度が遅くなることや鮮明度や着色度等の顔料化品位の低下があること(例えば、刊行物5摘記5b、周知例2摘記8b等 参照)や、銅フタロシアニンが高純度となれば顔料化した場合に色調及び着色強度が良好となり且つ顔料化時の磨砕時間が短縮できること(例えば、刊行物6摘記6a等 参照)は、本願出願前に当業者に広く知られた事項である。

そうすると、上記の本件発明の効果は、刊行物1の記載及び技術常識に基づき当業者が予測可能な範囲内のものであって格別ではない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明は、本願出願前に日本国内または外国において頒布された刊行物1ないし6に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 本件発明の引用発明2に基づく想到容易性について
(1)対比
引用発明2の「「ハイゾールP」(日本石油化学(株)製の芳香族炭化水素系溶剤)」がアルキルベンゼン混合物であることは明らかである(必要あれば、例えば特開平7-252428号公報の実施例01等参照)。
そうすると、引用発明2の「有機溶剤として「ハイゾールP」(日本石油化学(株)製の芳香族炭化水素系溶剤500部」、「無水フタル酸122部」、「尿素154部」及び「無水塩化第一銅20部」は、本件発明の「アルキルベンゼン」、「無水フタル酸またはその誘導体」、「尿素またはその誘導体」及び「銅化合物」に相当する。
引用発明2の「モリブデン酸アンモニウム0.5部」は反応のための触媒であるが、この存在が本件発明との相違点を構成するものではない点は上記4(1)で既に述べたとおりである。
引用発明2において、上記物質を「反応容器に仕込み、撹拌しながら加熱し、反応容器内の圧力を0.30?0.35Mpaに保ちながら、180℃まで昇温させた後、同温度、同圧力下で25時間反応させ」ることは、本件発明で、上記物質を「反応」させることに相当する。
その反応により得られた引用発明2の「粗製銅フタロシアニンの反応混合物200部」は、本件発明の「銅フタロシアニン未精製物」に相当する。
引用発明2は、その粗製銅フタロシアニンの反応混合物について、上記の反応のあと、「攪拌機、コンデンサー、水蒸気導入管を備えた1000mlのガラス製円筒容器に仕込み、次いで0.8%苛性ソーダ水溶液300部を仕込み、さらに円筒容器の外部を湯浴で90℃に加温した後、0.2MPaの水蒸気を吹き込み、およそ10分後から水と有機溶剤の混合液の溜出が始まり、90分後に有機溶剤の留出は殆ど認められなくなり、水蒸気の吹き込みを停止し、次いで、得られたスラリーを80?90℃まで冷却した後、濾過、」する工程を経る。この本工程において、苛性ソーダは、留去されず粗製銅フタロシアニンと共に母液側に残存するものであり、粗製銅フタロシアニンとともに加温され、最終的に銅フタロシアニンとは濾別されるから、技術常識からみれば、引用発明2の粗製銅フタロシアニン反応混合物は、苛性ソーダ水溶液で洗浄されてもいるといえる。そうすると、この工程は、本件発明の「アルカリ金属水酸化物溶液で洗浄」する工程に相当する。
引用発明2ではその後、「2%塩酸水溶液1000部に分散し、70?80℃で1時間加熱後、濾過」する工程を行っており、技術常識からみれば、これは塩酸水溶液で洗浄する工程といえ、そうすると、本件発明の後の「硫酸溶液」での「洗浄」とは、少なくとも、後に「酸溶液で洗浄」を行うものである点で一致している。
引用発明2は、上記苛性ソーダ水溶液の洗浄後に水洗、また上記塩酸水溶液での洗浄の後に水洗、乾燥を行っているが、該洗浄後の水洗・乾燥工程は、上記4(1)で既に述べたとおり、本件発明との相違点を構成するものではない。
本件発明の「銅フタロシアニンクルード」は、洗浄後の物質を指すものであるところ、引用発明2の「粗製銅フタロシアニン」もまた、そのような物質であるので、本件発明の「銅フタロシアニンクルード」に相当する。

してみると、本件発明と引用発明2とは、
「アルキルベンゼンの存在下で、無水フタル酸またはその誘導体と、尿素またはその誘導体と、銅化合物とを反応させて得られる銅フタロシアニン未精製物を洗浄して得る銅フタロシアニンクルードの製法において、
銅フタロシアニン未精製物を少なくともアルカリ金属水酸化物溶液で洗浄した後、酸溶液で洗浄する、銅フタロシアニンクルードの製法。」
である点で一致しており、以下の点で相違する。

(相違点2)アルカリ金属水酸化物溶液で洗浄した後の酸溶液の洗浄において、本件発明は、「硫酸溶液」を用いるのに対し、引用発明2は、「2%塩酸水溶液」を用いる点

(2)判断
相違点2について検討する。
刊行物2には、引用発明2である実施例1において、合成した銅フタロシアニンを苛性ソーダ水溶液及び塩酸水溶液で洗浄することが記載されており、これは銅フタロシアニンの洗浄をアルカリ水溶液や酸水溶液で行うという常法にのっとってなされたものであることは該刊行物2の記載に接した当業者であれば通常理解することである(常法であることについて、例えば、刊行物1摘記1a、刊行物4摘記4b、周知例1摘記7a、周知例2摘記8a、周知例3摘記9a、周知例4摘記10a等 参照)。
そして、銅フタロシアニンの酸水溶液による洗浄に際しては、塩酸水溶液(例えば、引用発明1、引用発明2等 参照)、及び硫酸水溶液(例えば刊行物4摘記4c、刊行物5摘記5b、周知例2摘記8b?8c、周知例3摘記9a、周知例4摘記10a等 参照)のいずれも、従前より用いられている。
また、銅フタロシアニンを水酸化ナトリウム水溶液及び酸溶液の両者で洗浄を行う際の酸洗浄溶液としては、塩酸水溶液(例えば、引用発明1、引用発明2等 参照)、及び硫酸水溶液(例えば、周知例3摘記9a、周知例4摘記10a等 参照)のいずれも用いられており、アルカリ金属水酸化物溶液による洗浄に加えて酸洗浄を行う場合の酸洗浄溶液としては塩酸水溶液しか選ばれないという技術常識もない。
そうすると、引用発明2の2%塩酸を、刊行物4及び5に記載され、また、銅フタロシアニンの酸洗浄に用いる水溶液として従前より用いられている、硫酸溶液に変更することは、当業者であれば容易になし得る事項である。

(3)効果について
本件発明の効果に関しては、上記4(3)に指摘したとおりである。

これに対して、引用発明2は、銅フタロシアニン粗生成物の洗浄に際して、水酸化ナトリウム水溶液及び酸水溶液での洗浄を既に行っているものである。
引用発明2は、酸洗浄が塩酸水溶液によるものであって硫酸水溶液によるものではない点で本件発明と相違するが、銅フタロシアニンの製造において酸洗浄は無機不純物等を溶解除去することを目的とするものであることは周知であり、塩酸水溶液か硫酸水溶液かでその除去能が格段に異なるという技術常識も見あたらない。
また、刊行物2には、粗生成物の洗浄(不純物や未反応原料等の除去)がもたらす顔料特性及び顔料化時の利点について直接の記載はないが、銅フタロシアニンに未反応物及び不純物等が残存すると結晶転移速度が遅くなることや鮮明度や着色度等の顔料化品位の低下があること(摘記5b、8b)や、銅フタロシアニンが高純度となれば顔料化した場合に色調及び着色強度が良好となり且つ顔料化時の磨砕時間が短縮できること(摘記6a)は、本願出願前に当業者に広く知られた事項である。

そうすると、上記の本件発明の効果は、刊行物2の記載及び技術常識に基づき当業者が予測可能な範囲内のものであって格別ではない。

6 まとめ
以上のとおりであるから、本件発明は、本願出願前に日本国内または外国において頒布された刊行物1ないし6に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易にその発明をすることができたものである。


第5 むすび
以上のとおり、本件発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-08 
結審通知日 2013-03-12 
審決日 2013-03-26 
出願番号 特願平11-371911
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C09B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高橋 直子  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 東 裕子
齋藤 恵
発明の名称 銅フタロシアニンセミクルードの製法および銅フタロシアニンクルードの製法  
代理人 志賀 正武  
代理人 高橋 詔男  
代理人 西 和哉  
代理人 鈴木 三義  
代理人 渡邊 隆  
代理人 村山 靖彦  
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