• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1273656
審判番号 不服2012-964  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-01-18 
確定日 2013-05-09 
事件の表示 特願2005-355683「半導体装置の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 6月28日出願公開,特開2007-165350〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成17年12月9日の出願であって,平成22年12月20日付けで拒絶の理由が通知され,平成23年2月25日に意見書と手続補正書が提出され,同年10月12日付けで拒絶査定がなされ,平成24年1月18日に前記拒絶査定に対する不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され,同年5月28日付けで審尋がおこなわれ,同年7月24日に前記審尋に対する回答書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成24年1月18日に提出された手続補正書による補正を却下する。

[理 由]
1 補正の内容
平成24年1月18日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は,補正前の特許請求の範囲の請求項1-10を補正して,補正後の請求項1-10とするとともに明細書を補正するものであり,補正前後の請求項1は,各々次のとおりである。

(補正前)
「半導体基板上に,下部電極と,前記下部電極上に形成された強誘電体膜と,前記強誘電体膜上に形成された上部電極とを有する強誘電体キャパシタを形成する工程と,
前記半導体基板上及び前記強誘電体キャパシタ上に,第1の絶縁膜を形成する工程と,
前記第1の絶縁膜上に第1の配線を形成する工程と,
前記第1の絶縁膜上及び前記第1の配線上に,水素又は水分の拡散を防止する第1のバリア膜を形成する工程と,
前記第1のバリア膜上に,第2の絶縁膜を形成する工程と,
前記第2の絶縁膜の表面を平坦化する工程と,
熱処理炉を用いて熱処理を行うことにより,前記第2の絶縁膜中から水分を除去する工程と,
N_(2)Oガス又はN_(2)ガスを用いて生成されたプラズマ雰囲気中にて熱処理を行うことにより,前記第2の絶縁膜中から水分を除去するとともに,前記第2の絶縁膜の表面を窒化する工程と,
前記第2の絶縁膜上に,水素又は水分の拡散を防止する平坦な第2のバリア膜を形成する工程と,
前記第2のバリア膜,前記第2の絶縁膜及び前記第1のバリア膜に,前記第1の配線に達する第1のコンタクトホールを形成する工程と,
前記第1のコンタクトホール内に第1の導体プラグを埋め込む工程と
を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。」

(補正後)
「半導体基板上に,下部電極と,前記下部電極上に形成された強誘電体膜と,前記強誘電体膜上に形成された上部電極とを有する強誘電体キャパシタを形成する工程と,
前記半導体基板上及び前記強誘電体キャパシタ上に,第1の絶縁膜を形成する工程と,
前記第1の絶縁膜上に第1の配線を形成する工程と,
前記第1の絶縁膜上及び前記第1の配線上に,水素又は水分の拡散を防止する第1のバリア膜を,前記第1の配線に接するように形成する工程と,
前記第1のバリア膜上に,第2の絶縁膜を,前記第1のバリア膜に接するように形成する工程と,
前記第2の絶縁膜の表面を平坦化する工程と,
熱処理炉を用いて熱処理を行うことにより,前記第2の絶縁膜中から水分を除去する工程と,
N_(2)Oガス又はN_(2)ガスを用いて生成されたプラズマ雰囲気中にて熱処理を行うことにより,前記第2の絶縁膜中から水分を除去するとともに,前記第2の絶縁膜の表面を窒化する工程と,
前記第2の絶縁膜上に,水素又は水分の拡散を防止する平坦な第2のバリア膜を形成する工程と,
前記第2のバリア膜,前記第2の絶縁膜及び前記第1のバリア膜に,前記第1の配線に達する第1のコンタクトホールを形成する工程と,
前記第1のコンタクトホール内に第1の導体プラグを埋め込む工程と
を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。」

2 補正事項の整理
本件補正の補正事項を整理すると次のとおりである。

(1)補正事項1
補正前の請求項1の「前記第1の絶縁膜上及び前記第1の配線上に,水素又は水分の拡散を防止する第1のバリア膜を形成する工程」,「前記第1のバリア膜上に,第2の絶縁膜を形成する工程」を,それぞれ「前記第1の絶縁膜上及び前記第1の配線上に,水素又は水分の拡散を防止する第1のバリア膜を,前記第1の配線に接するように形成する工程」,「前記第1のバリア膜上に,第2の絶縁膜を,前記第1のバリア膜に接するように形成する工程」として,補正後の請求項1にすること。

(2)補正事項2
補正前の明細書の【0010】を補正して,補正後の【0010】にすること。

3 新規事項追加の有無,及び,補正の目的の適否についての検討
(1)補正事項1について
補正事項1により補正された部分は,本願の願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書」という。また,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面を「当初明細書等」という。)等に記載されているものと認められるから,補正事項1は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって,補正事項1は,当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから,特許法第17条の2第3項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項をいう。以下同じ。)に規定する要件を満たす。
また,補正事項1は,補正前の請求項1に係る発明における,「第1の配線」と「第1のバリア膜」,及び,「第1のバリア膜」と「第2の絶縁膜」との位置関係について,それぞれ「接するように形成」するものに限定しようとするものであるから,特許法第17条の2第4項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項をいう。以下同じ。)第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
したがって,補正事項1は,特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たす。

(2)補正事項2について
補正事項2は,補正事項1と整合するように明細書の記載を修正するものであるから,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすことは明らかである。

(3)新規事項追加の有無,及び,補正の目的の適否についてのまとめ
以上検討したとおりであるから,本件補正は,特許法第17条の2第3項及び第4項に規定する要件を満たすものである。
そして,本件補正は,特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであるから,本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か,すなわち,本件補正がいわゆる独立特許要件を満たすものであるか否かについて,以下において更に検討する。

4 独立特許要件についての検討
(1)補正後の発明
本件補正による補正後の請求項1-10に係る発明は,本件補正により補正された明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1-10に記載されている事項により特定されるとおりのものであり,そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願補正発明1」という。)は,請求項1に記載されている事項により特定される上記「第2 1 補正の内容」の「(補正後)」の箇所に記載したとおりのものであり,再掲すると次のとおりである。

「半導体基板上に,下部電極と,前記下部電極上に形成された強誘電体膜と,前記強誘電体膜上に形成された上部電極とを有する強誘電体キャパシタを形成する工程と,
前記半導体基板上及び前記強誘電体キャパシタ上に,第1の絶縁膜を形成する工程と,
前記第1の絶縁膜上に第1の配線を形成する工程と,
前記第1の絶縁膜上及び前記第1の配線上に,水素又は水分の拡散を防止する第1のバリア膜を,前記第1の配線に接するように形成する工程と,
前記第1のバリア膜上に,第2の絶縁膜を,前記第1のバリア膜に接するように形成する工程と,
前記第2の絶縁膜の表面を平坦化する工程と,
熱処理炉を用いて熱処理を行うことにより,前記第2の絶縁膜中から水分を除去する工程と,
N_(2)Oガス又はN_(2)ガスを用いて生成されたプラズマ雰囲気中にて熱処理を行うことにより,前記第2の絶縁膜中から水分を除去するとともに,前記第2の絶縁膜の表面を窒化する工程と,
前記第2の絶縁膜上に,水素又は水分の拡散を防止する平坦な第2のバリア膜を形成する工程と,
前記第2のバリア膜,前記第2の絶縁膜及び前記第1のバリア膜に,前記第1の配線に達する第1のコンタクトホールを形成する工程と,
前記第1のコンタクトホール内に第1の導体プラグを埋め込む工程と
を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。」

(2)引用例とその記載事項,及び,引用発明
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願前に頒布された刊行物である下記の引用例1-4には,次の事項が記載されている。(なお,下線は,当合議体において付したものである。以下同じ。)

ア 引用例1:国際公開第2004/095578号
(1a)「(第2の実施形態)
次に,本発明の第2の実施形態について説明する。但し,ここでは,便宜上,半導体装置の構造については,その製造方法と共に説明する。図3A乃至図3Eは,本発明の第2の実施形態に係る強誘電体メモリ(半導体装置)の製造方法を工程順に示す断面図である。
第2の実施形態では,第1の実施形態と同様にして,半導体素子(図示せず)等を半導体基板(図示せず)上に形成した後,図3Aに示すように,半導体基板の上方に層間絶縁膜31を形成する。
次に,層間絶縁膜31上に,下部電極の原料膜(下部電極膜),強誘電体膜及び上部電極の原料膜(上部電極膜)を順次堆積し,上部電極膜及び強誘電体膜をパターニングすることにより,上部電極34及び強誘電体容量絶縁膜33を形成する。次いで,全面にアルミナ膜35を形成し,アルミナ膜35及び下部電極膜をパターニングすることにより,下部電極32を形成する。そして,全面にアルミナ膜36を形成する。アルミナ膜35及び36の厚さは,例えば夫々50nm程度,20nm程度である。
その後,全面に層間絶縁膜37を形成し,層間絶縁膜37,アルミナ膜36及び層間絶縁膜31に,コンタクトホールを形成し,このコンタクトホール内にWプラグ38を埋め込む。更に,眉間絶縁膜37,アルミナ膜36及びアルミナ膜35に,夫々上部電極34及び下部電極32まで達するコンタクトホールを形成する。そして,層間絶縁膜37上に,上部電極34に接続されるAl配線39,下部電極32に接続されるAl配線40,Wプラグ38に接続されるAl配線41を形成する。続いて,全面に,厚さが20nm程度のアルミナ膜42を形成し,その上に層間絶縁膜43を形成する。
次に,層間絶縁膜43及びアルミナ膜42にAl配線41等まで達するコンタクトホールを形成し,このコンククトホール内にWプラグ44を埋め込む。次いで,層間絶縁膜43上にAl配線45を形成する。
その後,図3Bに示すように,プラズマCVD法により,TEOSを原料として厚さが2.2μm程度のSiO_(2)膜46を形成する。そして,CMPによりSiO_(2)膜46を1.0μm程度の厚さになるまで研磨して平坦化する。その後,N_(2)Oを用いたプラズマ処理をSiO_(2)膜46に対して施すことにより,SiO_(2)膜46中に存在する水分を低減する。
続いて,図3Cに示すように,全面にプラズマCVD法により,TEOSを原料として厚さが100nm程度のSiO_(2)膜47を形成する。そして,N_(2)Oを用いたプラズマ処理をSiO_(2)膜47に対して施すことにより,SiO_(2)膜47中に存在する水分を低減する。次に,SiO_(2)膜47の上に水分進入防止膜としてアルミナ膜48を形成し,その上にプラズマCVD法により,TEOSを原料として厚さが100nm程度のSiO_(2)膜49を形成する。そして,N_(2)Oを用いたプラズマ処理をSiO_(2)膜49に対して施すことにより,SiO_(2)膜49中に存在する水分を低減する。そして,Al配線45まで達するコンタクトホールを形成し,このコンタクトホール内にWプラグ50を埋め込む。アルミナ膜48の厚さは,例えば50nm程度である。
但し,SiO_(2)膜46をHDP(高密度プラズマ)CVD法により形成し,SiO_(2)膜46中にボイド(す)が発生していない場合には,CMPによる平坦化の後に,必要に応じてN_(2)Oプラズマ処理を行い,SiO_(2)膜47を形成することなくSiO_(2)膜46上に直接アルミナ膜48を形成してもよい。
次いで,図3Dに示すように,SiO_(2)膜49上にAl配線51を形成する。このとき,図3Eに示すように,Al配線51と同じ層にワイヤボンディング用のパッド54も形成する。即ち,SiO_(2)膜49上にAl膜を形成し,これをパターニングすることにより,Al配線51及びパッド54を同じAl膜から形成する。
その後,図3D及び図3Eに示すように,全面にパッシベーション膜として,高密度プラズマSiO_(2)膜52及びSi_(3)N_(4)膜53を順次形成する。そして,パッド54の一部を露出する開口部を高密度プラズマSiO_(2)膜52及びSi_(3)N_(4)膜53に形成する。
このような第2の実施形態によれば,より確実に水分の半導体素子(強誘電体キャパシタ等)への進入を防止することができる。即ち,強誘電体キャパシタや配線等を覆うようにして水分進入防止膜が形成されている場合には,水分進入防止膜上まで水分が進入してそこに水分が集中し,その後,半導体素子まで進入してしまう虞があるが,本実施形態のように,パッド54と最上層の配線層との間に水分進入防止膜(アルミナ膜48)が形成されていれば,水分は半導体素子までより到達しにくくなり,進入をより確実に防止することができる。
また,第2の実施形態で水分進入防止膜として用いているアルミナ膜48は,水素の拡散を防止する作用をも奏する。このため,強誘電体キャパシタの水素劣化をより抑制することも可能である。従って,水分進入防止膜としては,水分の進入を防止することができるだけでなく,水素の拡散をも防止できるものを用いることが好ましい。」(明細書第7頁第12行-第9頁第19行)

イ 引用発明
以上の記載から,引用例1には,引用例1に記載された発明の「第2の実施形態」として,以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「(ア)半導体基板の上方に層間絶縁膜31を形成する工程と,
(イ)層間絶縁膜31上に,下部電極の原料膜(下部電極膜),強誘電体膜及び上部電極の原料膜(上部電極膜)を順次堆積し,上部電極膜及び強誘電体膜をパターニングすることにより,上部電極34及び強誘電体容量絶縁膜33を形成し,全面にアルミナ膜35を形成し,アルミナ膜35及び下部電極膜をパターニングすることにより下部電極32を形成する工程と,
(ウ)全面にアルミナ膜36を形成する工程と,
(エ)全面に層間絶縁膜37を形成する工程と,
(オ)層間絶縁膜37,アルミナ膜36及び層間絶縁膜31に,コンタクトホールを形成する工程と,
(カ)このコンタクトホール内にWプラグ38を埋め込む工程と,
(キ)眉間絶縁膜37,アルミナ膜36及びアルミナ膜35に,夫々上部電極34及び下部電極32まで達するコンタクトホールを形成する工程と,
(ク)層間絶縁膜37上に,上部電極34に接続されるAl配線39,下部電極32に接続されるAl配線40,Wプラグ38に接続されるAl配線41を形成する工程と,
(ケ)全面に,アルミナ膜42を形成する工程と,
(コ)その上に層間絶縁膜43を形成する工程と,
(サ)層間絶縁膜43及びアルミナ膜42にAl配線41等まで達するコンタクトホールを形成する工程と,
(シ)このコンククトホール内にWプラグ44を埋め込む工程と,
(ス)層間絶縁膜43上にAl配線45を形成する工程と,
(セ)プラズマCVD法により,TEOSを原料として厚さが2.2μm程度のSiO_(2)膜46を形成する工程と,
(ソ)CMPによりSiO_(2)膜46を1.0μm程度の厚さになるまで研磨して平坦化する工程と,
(タ)N_(2)Oを用いたプラズマ処理をSiO_(2)膜46に対して施すことにより,SiO_(2)膜46中に存在する水分を低減する工程と,
(チ)全面にプラズマCVD法により,TEOSを原料として厚さが100nm程度のSiO_(2)膜47を形成する工程と,
(ツ)N_(2)Oを用いたプラズマ処理をSiO_(2)膜47に対して施すことにより,SiO_(2)膜47中に存在する水分を低減する工程と,
(テ)SiO_(2)膜47の上に水分進入防止膜としてアルミナ膜48を形成する工程と,
(ト)その上にプラズマCVD法により,TEOSを原料として厚さが100nm程度のSiO_(2)膜49を形成する工程と,
(ナ)N_(2)Oを用いたプラズマ処理をSiO_(2)膜49に対して施すことにより,SiO_(2)膜49中に存在する水分を低減する工程と,
(ニ)Al配線45まで達するコンタクトホールを形成する工程と,
(ヌ)このコンタクトホール内にWプラグ50を埋め込む工程と,
を有する半導体装置の製造方法において,
(ネ)前記SiO_(2)膜46をHDP(高密度プラズマ)CVD法により形成し,SiO_(2)膜46中にボイド(す)が発生していない場合には,前記CMPによる平坦化の後に,必要に応じてN_(2)Oプラズマ処理を行い,前記SiO_(2)膜47を形成することなく前記SiO_(2)膜46上に直接前記アルミナ膜48を形成してもよいとする,より確実に水分の半導体素子(強誘電体キャパシタ等)への進入を防止することができる半導体装置の製造方法。」

ウ 引用例2:国際公開第2005/106957号
(2a)「このような第4の実施形態では,強誘電体キャパシタ1の近傍にアルミナ膜41を形成しているため,例え外部から水分等が侵入してきたとしても,強誘電体膜1bまで到達する前にその拡散を抑制することができる。」(明細書第7頁第23-25行)

エ 引用例3:特開2002-176149号公報
(3a)「【請求項1】 半導体基板上に誘電体膜を含む誘電体キャパシタが形成され,上記誘電体キャパシタの上方に層間絶縁膜および金属配線が単層または多層で形成されてなる半導体記憶素子において,
上記層間絶縁膜または金属配線の少なくとも一方の上面または底面の少なくとも一方が水素拡散バリア膜で被覆されていることを特徴とする半導体記憶素子。」(【特許請求の範囲】)

(3b)「【請求項4】 請求項1に記載の半導体記憶素子において,
Alの酸化物,Alの窒化物,Alの酸化窒化物,Taの酸化物,Taの酸化窒化物,Tiの酸化物,Zrの酸化物のうちの少なくともいずれか1つを,上記水素拡散バリア膜に用いたことを特徴とする半導体記憶素子。」(【特許請求の範囲】)

(3c)「層間絶縁膜は400℃前後で形成されるため,膜中に水素や多量の水分を含んでおり,層間絶縁膜形成後の熱処理工程や,さらに上層の層間絶縁膜形成時の熱処理工程で,水素が脱離したり,水分が脱離したりする。特に,脱離した水分は,アルミニュウム配線まで拡散するとアルミニュウム配線は容易に酸化され,この酸化過程で多量の水素が発生する。(2Al+3H_(2)O→Al_(2)O_(3)+3H_(2)↑)。この多層のアルミニュウム配線形成時の水素の発生量は多量であり,従来,用いていた強誘電体キャパシタを被覆するように形成した拡散バリア層だけでは,十分なバリア性を得ることが難しく,キャパシタ特性が劣化する。」(【0015】)

(3d)「この発明の半導体記憶素子では,上記上記層間絶縁膜または金属配線の少なくとも一方の上面または底面の少なくとも一方が,水素拡散バリア膜で被覆されている。上記構成の水素拡散バリア膜によって,層間絶縁膜や金属配線を形成する工程で発生する水素が上記誘電体キャパシタに浸入することを防げる。したがって,強誘電体膜あるいは高誘電体膜の劣化が生じず,強誘電体キャパシタの水素による劣化を防ぎ,特性の良好な強誘電体キャパシタを有する信頼性の高い半導体記憶素子となる。」(【0023】)

(3e)「その後,DCマグネトロンスパッタリング法により,膜厚700nmのAl膜を形成し,公知のフォトリソグラフィー法およびドライエッチング法により,Alおよび拡散バリアを加工し,第一金属配線92が形成される(図9(c))。
次に,第1の実施形態と同様に,スパッタリング法で拡散バリア膜93を形成し(図10(a)),第三層間絶縁膜94を形成する。さらに,拡散バリア膜95を形成し(図10(b)),第一金属配線と第二金属配線を接続するために,公知のフォトリソグラフィー法およびドライエッチング法によって,拡散バリア膜/層間絶縁膜/拡散バリア膜の三層をエッチングして,直径0.8μmのビアホールを開口する。DCマグネトロンスパッタリング法により,膜厚700nmのAl膜を形成し,公知のフォトリソグラフィー法およびドライエッチング法によりAlをおよび拡散バリアを加工し,第二金属配線96が形成される。第1,第2実施形態と同様,スパッタリング法で拡散バリア膜97を形成し,最後に,表面保護膜98を形成し完成する(図10(c))。」(【0086】-【0087】)

オ 引用例4:特開2004-23086号公報
(4a)「このCMP法による平坦化の際に使用されるスラリー中の水分や,その後の洗浄時に使用される洗浄液中の水分は,第1層間絶縁膜10表面に付着したりその内部に吸収される。
そこで,加熱炉(ファーネス)内にシリコン基板1を入れる。そして,図2(b) に示す状態で,窒素雰囲気中で第1層間絶縁膜10内の水分を除去するために脱ガスする。脱水及び脱ガスの条件として,加熱炉内に窒素(N_(2))を10000?50000sccmで導入し,圧力を常圧,基板温度を500?700℃に設定して,30?120分間アニールする。
その後,シリコン基板1を加熱炉からプラズマ装置に搬送する。
そして,図3(a) に示すように,N_(2)O をプラズマ化した雰囲気中で第1層間絶縁膜10をアニールしてさらに脱ガスする。N_(2)O プラズマアニールは,例えば,プラズマ雰囲気にN_(2)O を500?1000sccmの流量で,N_(2)を100?300sccmの流量でそれぞれ導入し,プラズマ発生用の高周波電力を300W以上に設定し,プラズマ雰囲気内の圧力を1?5Torrとし,基板温度を350?400℃に設定し,約2分間以上に設定する条件とする。なお,プラズマ雰囲気中にはN_(2)を導入しなくてもよい。N_(2)O プラズマ処理によれば,第1層間絶縁膜10内で深く窒素が含まれる。」(【0032】-【0035】)

(4b)「これにより,第1の層間絶縁膜10の上には,下部電極12a,誘電体膜13a,上部電極14aからなるキャパシタQが形成されることになる。
次に,図5(b) に示すように,エンキャップ層15,キャパシタQ及び第1層間絶縁膜10の上に,第2層間絶縁膜17として膜厚1500nm程度のSiO_(2)膜を形成する。第2層間絶縁膜17の成長は,例えばシラン(SiH_(4))を用いてCVD法により形成してもよいし,TEOSを用いてプラズマCVD法により形成してもよい。
続いて,CMPにより第2層間絶縁膜17の表面を平坦化する。このCMP法による平坦化の際に使用されるスラリー中の水分や,その後の洗浄時に使用される洗浄液中の水分は,第2層間絶縁膜17表面に付着したりその内部に吸収される。
そこで,N_(2)が導入された加熱炉内で第2層間絶縁膜17をアニールすることにより,その表面及び内部の水を外部に放出させる。このような脱水処理の後に,図6(a) に示すように,第2の層間絶縁膜15をN_(2)O プラズマに曝して脱水とともに膜質を改善する。これにより,後の工程での加熱と水によるキャパシタQの劣化が防止される。なお,第2の層間絶縁膜15に対するN_(2)アニールとN_(2)O プラズマアニールの条件は,上記した第1の層間絶縁膜10に対するN_(2)アニールとN_(2)O プラズマアニールと同じにする。」(【0056】-【0059】)

(4c)「上記した実施形態では,N_(2)が導入された加熱炉内で層間絶縁膜10をアニールした後に,その層間絶縁膜10をN_(2)O プラズマに曝すという2つの工程によって,層間絶縁膜10を脱水処理している。この方法は,本発明者による実験結果によって導き出されたものである。
次に,脱水処理の効果についての実験結果を示す。
まず,CVD法によりシリコン酸化膜が上に形成されたシリコン基板を複数枚用意する。
そして,アニール及びプラズマ処理の双方が施されないシリコン酸化膜を有するシリコン基板を第1の試料とする。また,N_(2)が導入された加熱炉内でアニールされただけのシリコン酸化膜を有するシリコン基板を第2の試料とする。N_(2)Oプラズマに曝されただけのシリコン酸化膜を有するシリコン基板を第3の試料とする。また,N_(2)O プラズマに曝された後に,N_(2)が導入された加熱炉内でアニールされたシリコン酸化膜を有するシリコン基板を第4の試料とする。さらに,N_(2)が導入された加熱炉内でアニールされた後にN_(2)O プラズマに曝されたシリコン酸化膜を有するシリコン基板を第5の試料とする。
N_(2)が導入された加熱炉内でのアニール条件は,第2の試料,第4の試料,第5の試料ともに同じであり,650℃で常圧にした。また,N_(2)O プラズマに曝す条件は,第3の試料,第4の試料,第5の試料ともに同じであり,上記した第1層間絶縁膜10への条件と同じにした。
そして,第1?第5の試料に対して昇温脱離ガス分析(TDS)法によりシリコン酸化膜からの脱水量を調べたところ,図9に示すような結果が得られた。図9において,“NO ANL" は第1の試料を,“FA ANL ONLY"は第2の試料を,“N_(2)O PLA ONLY" は第3の試料を,“N_(2)O PLA + FA ANL" は第4の試料を,“FA ANL + N_(2)O PLA" は第5の試料を示している。また,図9の横軸はTDSによる分析の際の基板温度を示し,縦軸は等価的に脱水量を示している。
図9によれば,第1の試料においてN_(2)アニール処理,N_(2)O プラズマ処理の双方とも施されないシリコン酸化膜からの脱ガス量が最も多かった。これは,シリコン酸化膜がCVD法による成長する工程で水が含まれることを示している。
また,第2の試料においてN_(2)アニール処理だけが施されたシリコン酸化膜は脱水量が減ったものの,第1の試料に比べてピーク値で1/4程度減ったに過ぎない。
第3の試料においてN_(2)O プラズマ処理だけが施されたシリコン酸化膜は,第1の試料に比べて脱水量がピーク値で3/4程度減っていて効果が大きかった。
第4の試料においてN_(2)O プラズマ処理後にN_(2)アニール処理が施されたシリコン酸化膜は,脱水量が第3の試料と同じ程度になっていた。
ところが,第4の試料について行われたN_(2)O プラズマ処理とN_(2)アニール処理との処理の順を逆にした第5の試料では,シリコン酸化膜からの脱水量が第1の試料に比べてピーク値が約1/9となり,第3及び第4の試料に比べて半分以下になった。
なお,特に図示しないが,N_(2)O プラズマ処理だけがなされたシリコン酸化膜からのTDS分析による脱水量は,N_(2)アニールプラズマ処理されたシリコン酸化膜からの脱水量よりも少なくなっている。
以上のことから,第5の試料のシリコン酸化膜に施された処理によって,シリコン酸化膜からの脱水量を最も少なくすることができることがわかる。このことは,上記したキャパシタQの下と上に形成されるシリコン酸化膜(絶縁膜)の少なくとも一方に対して,N_(2)アニール処理後にN_(2)O プラズマ処理を施すことがシリコン酸化膜から出る水分の量が最も少なくすることを示している。」(【0072】-【0084】)

(3)本願補正発明1と引用発明との対比
ア 引用発明の「下部電極32」,「強誘電体容量絶縁膜33」及び「上部電極34」は,それぞれ,本願補正発明1の「下部電極」,「下部電極上に形成された強誘電体膜」及び「強誘電体膜上に形成された上部電極」に相当する。そうすると,引用発明の「下部電極32」,「強誘電体容量絶縁膜33」及び「上部電極34」は,本願補正発明1の「強誘電体キャパシタ」に相当する素子を構成しているものと認められる。

イ 一方,引用発明は,半導体基板の上方に層間絶縁膜31を形成し,次いで,前記層間絶縁膜31上に,下部電極の原料膜を堆積することから,引用発明の「強誘電体キャパシタ」は,「半導体基板の上方に位置する層間絶縁膜31上に」形成されているといえるところ,本願補正発明1の強誘電体キャパシタは,「半導体基板上に」形成されると特定されている。

ウ ところで,一般に,「○○上に□□を形成する」と記載されている場合に,前記「上に」という用語を用いて規定することによって特定しようとする意味内容としては,(a)□□の位置が,単に○○の位置に比べて高いという状態,すなわち,□□と○○との間に他の部材の介在を許容する構造を意味している場合と,(b)□□が○○の表面に位置するという状態,すなわち,□□と○○とが接していることを要する構造を意味している場合の,二種類の場合があることは周知の事項である。

エ そこで,本願補正発明1において用いられている前記「上に」という用語が,前記二種類の内のいずれの意味内容を備えたものであるかについて検討する。

オ 本願補正発明1は,以下の発明特定事項を備えた発明である。
(a)「半導体基板上に」「強誘電体キャパシタを形成する」
(b)「半導体基板上及び前記強誘電体キャパシタ上に」「第1の絶縁膜を形成する」
(c)「第1のバリア膜に接するように形成」された「第2の絶縁膜上に」「平坦な第2のバリア膜を形成する」

カ 一方,本願の明細書の【0036】以降,及び,本願の図3-図17には,本発明の一実施形態として,以下の構成を備えた半導体装置の製造方法が説明されている。
(a-1)半導体基板10上に,SiON膜25とシリコン酸化膜26及びシリコン酸化膜34を順次積層し,その上に強誘電体キャパシタ42の下部電極36を形成する。
(b-1)強誘電体キャパシタ42を形成した後に,強誘電体膜38及び上部電極40の上面及び側面を覆うようにバリア膜44を形成し,バリア膜44により覆われた強誘電体キャパシタ42上及びシリコン酸化膜34上にバリア膜46を形成し,前記バリア膜46上にシリコン酸化膜よりなる層間絶縁膜48を形成する。
(c-1)バリア膜58に接するように形成されたシリコン酸化膜60上に,シリコン酸化膜61を形成し,前記シリコン酸化膜61上にバリア膜62を形成する。

キ そうすると,本願補正発明1の一実施形態である半導体装置の製造方法の説明において,本願補正発明1の「上に」の具体的な態様として,前記「上に」の前後に記載された各部材の間に,他の部材を介在させた構成(例えば,「半導体基板上に」,「SiON膜25」,「シリコン酸化膜26」及び「シリコン酸化膜34」を介して,「強誘電体キャパシタを形成する」構成)が示されていることが認められるから,本願補正発明1における前記「上に」という用語は,上記(a)の「□□の位置が,単に○○の位置に比べて高いという状態,すなわち,□□と○○との間に他の部材の介在を許容する構造」という意味内容を備えたものであると解することが相当といえる。

ク してみれば,引用発明の,「強誘電体キャパシタ」が「半導体基板の上方に位置する層間絶縁膜31上に」形成されている構成は,本願補正発明1の,強誘電体キャパシタが「半導体基板上に」形成されるとする構成に相当するものといえるから,本願補正発明1と引用発明とは,いずれも「半導体基板上に,下部電極と,前記下部電極上に形成された強誘電体膜と,前記強誘電体膜上に形成された上部電極とを有する強誘電体キャパシタを形成する工程」を有する点で一致する。

ケ 引用発明の「層間絶縁膜43」,「Al配線45」,「SiO_(2)膜46」,「CMPによりSiO_(2)膜46を1,0μm程度の厚さになるまで研磨して平坦化」,『「水分進入防止膜」として形成される「アルミナ膜48」』,「Al配線45まで達するコンタクトホール」,及び「Wプラグ50」は,
それぞれ,本願補正発明1の『「半導体基板上及び前記強誘電体キャパシタ上に」形成する「第1の絶縁膜」』,「第1の配線」,「第2の絶縁膜」,「第2の絶縁膜の表面を平坦化」,「水素又は水分の拡散を防止する平坦な第2のバリア膜」,「第1の配線に達する第1のコンタクトホール」,及び「第1の導体プラグ」に相当する。

コ 引用発明は「N_(2)Oを用いたプラズマ処理をSiO_(2)膜46に対して施すことにより,SiO_(2)膜46中に存在する水分を低減する工程」を有するところ,前記「N_(2)Oを用いたプラズマ処理をSiO_(2)膜46に対して施すこと」により,「SiO_(2)膜46」の表面が窒化されることは明らかであるから,本願補正発明1と引用発明とは,いずれも「N_(2)Oガス又はN_(2)ガスを用いて生成されたプラズマ雰囲気中にて熱処理を行うことにより,前記第2の絶縁膜中から水分を除去するとともに,前記第2の絶縁膜の表面を窒化する工程」を有する点で一致する。

上記ア-コの対応関係によれば,本願補正発明1と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。

<一致点>
「半導体基板上に,下部電極と,前記下部電極上に形成された強誘電体膜と,前記強誘電体膜上に形成された上部電極とを有する強誘電体キャパシタを形成する工程と,
前記半導体基板上及び前記強誘電体キャパシタ上に,第1の絶縁膜を形成する工程と,
前記第1の絶縁膜上に第1の配線を形成する工程と,
第2の絶縁膜を形成する工程と,
前記第2の絶縁膜の表面を平坦化する工程と,
N_(2)Oガス又はN_(2)ガスを用いて生成されたプラズマ雰囲気中にて熱処理を行うことにより,前記第2の絶縁膜中から水分を除去するとともに,前記第2の絶縁膜の表面を窒化する工程と,
前記第2の絶縁膜上に,水素又は水分の拡散を防止する平坦な第2のバリア膜を形成する工程と,
前記第2のバリア膜及び前記第2の絶縁膜に,前記第1の配線に達する第1のコンタクトホールを形成する工程と,
前記第1のコンタクトホール内に第1の導体プラグを埋め込む工程と
を有する半導体装置の製造方法。」

<相違点>
・相違点1:本願補正発明1が「『「第1の配線に接するように形成する」「水素又は水分の拡散を防止する第1のバリア膜』,」を有し,「第2の絶縁膜」が「前記第1のバリア膜に接するように形成」されているのに対して,引用発明では,「SiO_(2)膜46」が「Al配線45」に接するように形成されている点。

・相違点2:本願補正発明1が「熱処理炉を用いて熱処理を行うことにより,前記第2の絶縁膜中から水分を除去する工程」を有するのに対して,引用発明では,このような特定がなされていない点。

(4)相違点についての判断
・相違点1について
ア 引用例2の上記摘記(2a),引用例3の上記摘記(3a)-(3e)の記載からも明らかなように,強誘電体膜まで水分等が到達する前にその拡散を抑制するために,強誘電体キャパシタの近傍の層間絶縁膜,金属配線の上面,底面をAlの酸化物等のバリア膜で被覆することは周知の事項といえる。

イ そうすると,「より確実に水分の半導体素子(強誘電体キャパシタ等)への進入を防止することができる半導体装置の製造方法」である引用発明において,更に確実に水分の半導体素子(強誘電体キャパシタ等)への進入を防止することを目的として,強誘電体キャパシタの近傍の層間絶縁膜,金属配線である引用発明の層間絶縁膜43上及びAl配線45上に,アルミナ膜を,前記Al配線45に接するように形成することで,引用発明のSiO_(2)膜46を,前記Al配線45に接するように形成した前記アルミナ膜上に,前記アルミナ膜に接するように形成して,引用発明において,上記相違点1について本願補正発明1の構成となすことは当業者が容易に想到し得たことである。また,このような構成を採用したことによる効果は当業者が予測する範囲内のものである。

・相違点2について
ア 引用例4の上記摘記(4b)の「CMPにより第2層間絶縁膜17の表面を平坦化する。このCMP法による平坦化の際に使用されるスラリー中の水分や,その後の洗浄時に使用される洗浄液中の水分は,第2層間絶縁膜17表面に付着したりその内部に吸収される。」及び「そこで,N_(2)が導入された加熱炉内で第2層間絶縁膜17をアニールすることにより,その表面及び内部の水を外部に放出させる。このような脱水処理の後に,図6(a) に示すように,第2の層間絶縁膜15をN_(2)O プラズマに曝して脱水とともに膜質を改善する。これにより,後の工程での加熱と水によるキャパシタQの劣化が防止される。」との記載から,当業者であれば以下の事項を把握することができるものといえる。
(a)層間絶縁膜の平坦化にCMPを使用した際に,水分が層間絶縁膜の表面に付着したりその内部に吸収されること。
(b)後の工程での加熱と水によるキャパシタQの劣化を防止するために,前記水分が表面に付着したりその内部に吸収された層間絶縁膜を,N_(2)が導入された加熱炉内でアニールして,その表面及び内部の水を外部に放出させ,このような脱水処理の後に,層間絶縁膜をN_(2)O プラズマに曝して脱水とともに膜質を改善すること。

イ 一方,引用発明は「CMPによりSiO_(2)膜46を1.0μm程度の厚さになるまで研磨して平坦化する工程」を有する「より確実に水分の半導体素子(強誘電体キャパシタ等)への進入を防止することができる半導体装置の製造方法」である。

ウ そうすると,引用例4に接した当業者であれば,引用発明の,CMPによって平坦化されるSiO_(2)膜46の表面及び内部に水分が付着ないし吸収されることに思い至るといえるところ,引用発明は「より確実に水分の半導体素子(強誘電体キャパシタ等)への進入を防止することができる半導体装置の製造方法」であり,水分の存在が望ましくない点で,引用例4の「後の工程での加熱と水によるキャパシタQの劣化を防止する」ことと解決しようとする課題を共通するものといえるから,引用発明に引用例4に記載された前記「前記水分が表面に付着したりその内部に吸収された層間絶縁膜を,N_(2)が導入された加熱炉内でアニールして,その表面及び内部の水を外部に放出させ,このような脱水処理の後に,層間絶縁膜をN_(2)O プラズマに曝して脱水とともに膜質を改善する」工程を適用すること,すなわち,引用発明の「(タ)N_(2)Oを用いたプラズマ処理をSiO_(2)膜46に対して施すことにより,SiO_(2)膜46中に存在する水分を低減する工程」に,より一層の水分の低減を目的として,前記「N_(2)Oを用いたプラズマ処理」に先立つ,引用例4に記載された,「N_(2)が導入された加熱炉内でアニールして,その表面及び内部の水を外部に放出させ」る工程を付加して,上記相違点2について,本願補正発明1の構成となすことは当業者が容易になし得たことである。また,このような構成を採用したことによる効果は,引用例4の上記摘記(4a),(4c)等の記載に照らして,当業者が予測する範囲内のものである。

なお,審判請求人は,平成24年7月24日に提出した回答書において,「しかしながら,請求項1-10に係る本願発明は,強誘電体キャパシタを埋め込むように第1の絶縁膜を形成するものです。引用文献1の層間絶縁膜43は,強誘電体キャパシタを埋め込むように形成されるものではありません。従って,引用文献1の層間絶縁膜43は,請求項1-10に係る本願発明の第1の絶縁膜に対応するものではありません。・・・(省略)・・・従いまして,当業者といえども引用文献1-4に基づいて請求項1-10に係る本願発明を容易に為し得るものではありません。」と主張するので,この点について検討する。
本願の補正後の請求項1には,「第1の絶縁膜」について,「前記半導体基板上及び前記強誘電体キャパシタ上に,第1の絶縁膜を形成する」,「前記第1の絶縁膜上に第1の配線を形成する」及び「前記第1の絶縁膜上及び前記第1の配線上に,水素又は水分の拡散を防止する第1のバリア膜を,前記第1の配線に接するように形成する」ことが特定されている。
しかしながら,当該請求項1においては,強誘電体キャパシタを「埋め込むように」第1の絶縁膜を形成することは特定されていない。
また,本願補正発明1の「強誘電体キャパシタ上に,第1の絶縁膜を形成する」における「上に」の用語は,上記「(3)本願補正発明1と引用発明との対比」のウ-キにおいて検討したように,第1の絶縁膜の位置が,単に強誘電体キャパシタの位置に比べて高いという状態,すなわち,第1の絶縁膜と強誘電体キャパシタとの間に他の部材の介在を許容する構造を意味しているものと解されるから,本願の明細書または図面の記載,及び,本願の出願時の技術常識等を参酌しても,請求項1の前記「強誘電体キャパシタ上に,第1の絶縁膜を形成する」を,「強誘電体キャパシタを埋め込むように第1の絶縁膜を形成する」と限定して解することはできない。
そうすると,審判請求人の前記主張は請求項の記載に基づかない主張であるから採用することはできない。

また,仮に,本願補正発明1の「強誘電体キャパシタ上に,第1の絶縁膜を形成する」を「強誘電体キャパシタを埋め込むように第1の絶縁膜を形成する」と限定して解したとしても,以下の理由によって,本願補正発明1に進歩性を認めることはできない。
すなわち,引用発明の「層間絶縁膜37」が,強誘電体キャパシタを埋め込むように形成されていることから,引用発明の「層間絶縁膜37」が,本願補正発明1の「第1の絶縁膜」に相当する。
この場合,引用発明の「Al配線41」,「アルミナ膜42」,「層間絶縁膜43」及び「アルミナ膜48」は,それぞれ,本願補正発明1の「第1の配線」,「第1のバリア膜」,「第2の絶縁膜」及び「第2のバリア膜」に相当することになり,引用発明と本願補正発明1との相違点は次のようになる。
・相違点3:本願補正発明1では,第2の絶縁膜の表面を平坦化し,熱処理炉を用いて熱処理を行い,N_(2)Oガス又はN_(2)ガスを用いて生成されたプラズマ雰囲気中にて熱処理を行うのに対して,引用発明では,層間絶縁膜43ではなく,前記層間絶縁膜43の上に形成されたSiO_(2)膜46に対して,表面を平坦化し,N_(2)Oガス又はN_(2)ガスを用いて生成されたプラズマ雰囲気中にて熱処理を行うものである点。
しかしながら,半導体装置において,配線層の層数は設計事項といえるから,引用発明において,Al配線45及びSiO_(2)膜46からなる配線層を除き,層間絶縁膜43の上にアルミナ膜48を形成することは当業者が適宜なし得たことである。そして,その際に,層間絶縁膜43に対して,前記除かれたSiO_(2)膜46に対して行われていた前記処理を施すこと,すなわち,層間絶縁膜43の表面を平坦化し,熱処理等を行うことに格別の困難は認められない。
あるいは,引用発明において,Al配線45及びSiO_(2)膜46からなる配線層を除くことができない場合においても,引用発明が「より確実に水分の半導体素子(強誘電体キャパシタ等)への進入を防止することができる半導体装置の製造方法」に係る発明であることから,更に確実に水分の半導体素子(強誘電体キャパシタ等)への進入を防止するために,引用発明の層間絶縁膜43についても,SiO_(2)膜46に施すものと同様の表面の平坦化と熱処理を行い,さらに,その表面にアルミナ膜を配して,引例発明が,更に確実に水分の半導体素子(強誘電体キャパシタ等)への進入を防止することができるものとなすことは当業者が適宜なし得たことである。
したがって,審判請求人の主張するように本願補正発明1を解したとしても,本願補正発明1の進歩性を認めることができない。

(5)判断についてのまとめ
相違点1-2については,以上のとおりであるから,本願補正発明1は,上記引用例1-4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。したがって,本願補正発明1は,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 補正の却下の決定のむすび
したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成24年1月18日に提出された手続補正書による補正を上記のとおり却下したので,本願の請求項1-10に係る発明は,平成23年2月25日に提出された手続補正書により補正された明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1-10に記載されている事項により特定されるとおりのものであるところ,そのうち,請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は,次のとおりであると認める。

「半導体基板上に,下部電極と,前記下部電極上に形成された強誘電体膜と,前記強誘電体膜上に形成された上部電極とを有する強誘電体キャパシタを形成する工程と,
前記半導体基板上及び前記強誘電体キャパシタ上に,第1の絶縁膜を形成する工程と,
前記第1の絶縁膜上に第1の配線を形成する工程と,
前記第1の絶縁膜上及び前記第1の配線上に,水素又は水分の拡散を防止する第1のバリア膜を形成する工程と,
前記第1のバリア膜上に,第2の絶縁膜を形成する工程と,
前記第2の絶縁膜の表面を平坦化する工程と,
熱処理炉を用いて熱処理を行うことにより,前記第2の絶縁膜中から水分を除去する工程と,
N_(2)Oガス又はN_(2)ガスを用いて生成されたプラズマ雰囲気中にて熱処理を行うことにより,前記第2の絶縁膜中から水分を除去するとともに,前記第2の絶縁膜の表面を窒化する工程と,
前記第2の絶縁膜上に,水素又は水分の拡散を防止する平坦な第2のバリア膜を形成する工程と,
前記第2のバリア膜,前記第2の絶縁膜及び前記第1のバリア膜に,前記第1の配線に達する第1のコンタクトホールを形成する工程と,
前記第1のコンタクトホール内に第1の導体プラグを埋め込む工程と
を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。」

2 進歩性について
(1)引用例及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願前に頒布された刊行物である引用例1-4に記載されている事項は,上記「第2 4 (2)引用例とその記載事項,及び,引用発明」の項で指摘したとおりである。

(2)当審の判断
本願発明1を特定するに必要な事項を全て含み,さらに具体的に特定したものに相当する本願補正発明1が,前記「第2 4 (4)相違点についての判断」に記載したとおり,引用例1-4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明1も同様に,引用例1-4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,引用例1-4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。したがって,本願の他の請求項に係る発明については検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-11 
結審通知日 2013-03-12 
審決日 2013-03-25 
出願番号 特願2005-355683(P2005-355683)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 瀧内 健夫宮部 裕一  
特許庁審判長 北島 健次
特許庁審判官 西脇 博志
加藤 浩一
発明の名称 半導体装置の製造方法  
代理人 北野 好人  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ