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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B21D
管理番号 1273667
審判番号 不服2012-7764  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-04-26 
確定日 2013-05-09 
事件の表示 特願2004-339473「パンチ金型」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 6月 8日出願公開、特開2006-142372〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本件出願は、平成16年11月24日の特許出願であって、平成22年10月13日付けで拒絶の理由が通知され、同年12月20日に意見書及び手続補正書が提出され、その後、平成23年5月31日付けで再度拒絶の理由が通知され、同年8月1日に意見書が提出されたが、平成24年2月9日付けで拒絶の査定がなされた。
そして、上記拒絶査定を不服として平成24年4月26日に審判の請求がなされ、同日付けで手続補正書が提出され、その後、当審の平成24年10月29日付けの拒絶の理由の通知に対して、同年12月27日付けで、特許請求の範囲及び明細書を補正対象書類とする手続補正書及び意見書が提出されたものである。
本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成24年12月27日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲及び明細書、出願当初の図面の記載からみて、本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる。(以下「本願発明」という。)
「 板状のワークの被加工部に対して打ち抜き加工を行う際に用いられるパンチ金型において、
パンチプレスにおけるパンチ金型保持部材に対して上下方向へ移動可能に保持され、下側に前記ワークの被加工部周辺を押圧するストリッパ部を有してあって、前記ストリッパ部に挿通孔が形成された筒状のパンチガイドと、
前記パンチガイド内に上下方向へ移動可能に設けられ、下側に前記挿通孔に挿通可能でかつ前記ワークにスリットを形成するための断面形状を呈した刃部を有したパンチボディと、
前記パンチボディの上端部に設けられたパンチヘッドと、
前記パンチヘッドの下側に設けられ、前記パンチボディを付勢可能なストリッパスプリングと、を備えてあって、
前記パンチガイドに対して前記パンチボディの回転を規制する第1回転規制手段と第2回転規制手段を備え、前記第1回転規制手段と前記第2回転規制手段は、前記パンチガイドの軸心を中心として対称関係になるように構成され、前記パンチガイド或いは前記パンチボディに上下に延びるように形成されたキー溝と、前記パンチボディ或いは前記パンチガイドに設けられかつ前記キー溝に上下方向へ移動可能に嵌合したキーとからそれぞれなることを特徴とするパンチ金型。」

2 引用刊行物記載の発明・事項
これに対して、当審での平成24年10月29日付けの拒絶の理由に引用された、本件出願前である平成14年10月2日に頒布された特開2002-282962号公報(以下「刊行物」という。)には、以下の記載がある。
ア 段落【0015】?【0016】
「【0015】図3には、この発明に係るパンチ金型Pを使用する加工機の例として、タレットパンチプレス1の全体が示されている。このタレットパンチプレス1では、フレーム3の中央部における上部フレーム5と下部フレーム7の間にギャップGを備えている。このギャップGには、上部フレーム5に回転自在に支持される上部タレット9と、下部フレーム7に回転自在に支持される下部タレット11を有している。
【0016】上部タレット9には複数のパンチ金型Pが装着され、下部タレット11には複数のダイ金型Dが装着されている。上部タレット9および下部タレット11は同期して回転され、加工位置Rに所望の加工を行うためのパンチ金型Pとダイ金型Dが割り出される。」
イ 段落【0021】?【0024】
「【0021】図1を参照するに、この発明に係る金型装置としてのパンチ金型Pが示されている。このパンチ金型Pは前述の上部タレット9に装着可能であり、パンチガイド29の内部には下端部にパンチ刃部31を備えたパンチボディ33が上下移動自在に設けられていて、パンチボディ33の上側には連結ボルト35によりパンチドライバ37が常態において一体的に取り付けられている。
【0022】なお、パンチボディ33とパンチドライバ37の境界付近には、キー39がボルト41により取り付けられており、パンチガイド29に対してパンチボディ33およびパンチドライバ37が、回転しないで且つ上下移動自在に一体的に支持されている。
【0023】また、パンチドライバ37は円盤状の下部37Lの上側に、外周面にネジ部43が設けられた凸部37Hを有している。凸部37Hの上部には前述の連結ボルト35の頭部35Hが嵌入する穴45が設けられており、凸部37Hおよび下部37Lには連結ボルト35の首下35Lが貫通する内径の貫通穴47が設けられている。
【0024】また、上記のパンチドライバ37の凸部37Hのネジ部43には、外側を覆うように円筒形状をしたガイド部材49が当該ガイド部材49の下部に設けたネジ穴のネジ部51により螺合されている。また、ガイド部材49の上部には前述した連結ボルト35を回転せしめるレンチなどの工具を挿入するための工具用穴53が設けられている。なお、ガイド部材49の外周面の下部には上下方向に長いキー溝55が図2に示されているように適宜間隔を介して多数設けられ、換言すれば歯車のギヤ状に全周に亘って設けられている。また、ガイド部材49の下端部には、外側に突出したフランジ部57が設けられている。」
ウ 段落【0028】?【0029】
「【0028】また、ガイド部材49の上端面には、連結ボルト73によりパンチヘッド75が一体的に取り付けられている。このパンチヘッド75の中央には前述した連結ボルト35を回転させるための工具挿入用穴77が設けられている。
【0029】パンチヘッド75の下面にはリング形状をなす平板状の押さえ部材79を介して押さえブロック59との間に弾性部材としての例えばストリッパスプリング81が設けられており、このストリッパスプリング81の反発力により、ガイド部材49はパンチヘッド75を介してパンチガイド29に対して相対的に離反する方向、すなわち上方へ付勢されることになるが、フランジ部57が押さえブロック59により上昇不可状態に押さえられるので上方へ脱落することはなく、下降可能に支持される。なお、上記の押さえ部材79の外周端面には、スプリング保持部材83との係合部を構成する第1テーパ部としての例えば第1テーパ面79Tが下方に向けて広がる方向に傾斜して設けられている。」
エ 段落【0031】
「【0031】したがって、パンチヘッド75がストライカ13により打圧されると、ストリッパスプリング81を縮めながらガイド部材49、パンチドライバ37およびパンチボディ33を介してパンチ刃部31が下降して、ダイDとの協働によりワークWにパンチング加工が行われる。」
オ 段落【0005】
「【0005】なお、パンチボディ105とパンチドライバ107の方向性は、パンチドライバ107にボルトによって取り付けたキー127によって保持されている。また、パンチガイド103の下端部にはストリッパプレート129が着脱交換自在に取り付けられている。」
カ ここで、図面の図3を参照すると、ワークWが見て取れる。ワークWが板状であること、及び、板状のワークWに対してパンチング加工が行われる部位が被加工部であることは明らかである。
摘記事項オから、図面の図4において、パンチガイド103の下側にストリッパプレート129が着脱交換自在に取り付けられているところ、図1においてもパンチガイド29の下側には同様の部材が取り付けられているところが見て取れるから、パンチガイド29の下側にはストリッパプレートが取り付けられていることは明らかである。ストリッパプレートが、ワークWの被加工部周辺を押圧するものであり、パンチ刃部31が挿通可能な挿通孔が形成されていることは技術常識である。また、図面の図1及び図2を参照することにより、パンチガイド29が筒状であることは明らかである。
さらに、図面の図1を参照すると、パンチドライバ37の円盤状の下部37Lには、キー39がボルト41により取り付けられているのが見て取れる。ここで、図1を参照すると、キー39の図中左側はパンチガイド29上に重なっているのが見て取れ、摘記事項イの「パンチガイド29に対してパンチボディ33およびパンチドライバ37が、回転しないで且つ上下移動自在に一体的に支持されている。」から、パンチガイド29には上下に延びるキー溝が設けられていることは明らかである。
キ 刊行物に記載された発明
以上アないしオの記載事項、及びカの認定事項から、刊行物には、以下の発明が記載されていると認められる。
「板状のワークWの被加工部に対してパンチング加工を行う際に用いられるパンチ金型Pにおいて、
上部タレット9に装着されたパンチ金型Pに設けられ、下側に前記ワークWの被加工部周辺を押圧するストリッパプレートが取り付けられ、前記ストリッパプレートに挿通孔が形成された筒状のパンチガイド29と、
前記パンチガイド29の内部に上下移動自在に設けられ、下端部に前記挿通孔に挿通可能なパンチ刃部31を備えたパンチボディ33と、前記パンチボディ33の上側に設けられ、連結ボルト35により一体的に取り付けられたパンチドライバ37と、前記パンチドライバ37の凸部37Hのネジ部43に螺合されたガイド部材49と、
前記ガイド部材49の上端面に連結ボルト73により一体的に取り付けられたパンチヘッド75と、
前記パンチヘッド75の下面に押さえ部材79を介して設けられ、前記ガイド部材49を前記パンチガイド29に対して上方へ付勢するストリッパスプリング81と、を備えてあって、
前記パンチガイド29に対して前記パンチボディ33およびパンチドライバ37が、回転しないで且つ上下移動自在に一体的に支持されるキー39を備え、前記パンチガイド29に上下に延びるように形成されたキー溝と、前記パンチドライバー37に設けられかつ前記キー溝に上下移動自在に設けられた前記キー39とからなるパンチ金型P。」(以下、「引用発明」という。)

3 対比
本願発明と引用発明を対比すると、引用発明の「ワークW」、「パンチ金型P」、「パンチガイド29」、「パンチヘッド75」、「ストリッパスプリング81」がそれぞれ、本願発明の「ワーク」、「パンチ金型」、「パンチガイド」、「パンチヘッド」、「ストリパスプリング」に相当することは明らかである。
引用発明の「パンチング加工」は、本願発明の「打ち抜き加工」に相当する。
引用発明の「上部タレット9」は、本願発明の「パンチプレスにおけるパンチ金型保持部材」に相当する。したがって、引用発明の「上部タレット9に装着されたパンチ金型Pに設けられ」ることは、「パンチプレスにおけるパンチ金型保持部材に保持され」るという限りで、本願発明の「パンチプレスにおけるパンチ金型保持部材に対して上下方向へ移動可能に保持され」ることと共通する。
引用発明の「ストリッパプレート」は、本願発明の「ストリッパ部」に相当する。したがって、引用発明の「下側にワークWの被加工部周辺を押圧するストリッパプレートが取り付けられ、前記ストリッパプレートに挿通孔が形成された筒状のパンチガイド29」は、本願発明の「下側にワークの被加工部周辺を押圧するストリッパ部を有してあって、前記ストリッパ部に挿通孔が形成された筒状のパンチガイド」に相当する。
引用発明の「パンチガイド29の内部に上下移動自在に設けられ」ることは、本願発明の「パンチガイド内に上下方向へ移動可能に設けられ」ることに相当する。また、引用発明の「パンチボディ33と、前記パンチボディ33の上側に設けられ、連結ボルト35により一体的に取り付けられたパンチドライバ37と、前記パンチドライバ37の凸部37Hのネジ部43に螺合されたガイド部材49」とは、合わせて、本願発明の「パンチボディ」に相当する。したがって、引用発明の「下端部に挿通孔に挿通可能なパンチ刃部31を備えたパンチボディ33と、前記パンチボディ33の上側に設けられ、連結ボルト35により一体的に取り付けられたパンチドライバ37と、前記パンチドライバ37の凸部37Hのネジ部43に螺合されたガイド部材49」は、本願発明の「下側に挿通孔に挿通可能でかつ刃部を有したパンチボディ」に相当する。
引用発明の「上端面」が「上端部」と言えるものであることは明らかである。
引用発明の「下面」が「下側」と言えるものであることは明らかである。そして、引用発明の「ガイド部材49をパンチガイド29に対して上方へ付勢する」ことは、本願発明の「パンチボディを付勢可能な」ことに相当する。
引用発明の「キー39」は、本願発明の「キー」、あるいは、「回転規制手段」に相当する。また、引用発明の「パンチガイド29に対してパンチボディ33およびパンチドライバ37が、回転しないで且つ上下移動自在に一体的に支持される」ことは、本願発明の「パンチガイドに対してパンチボディの回転を規制する」ことに相当する。さらに、引用発明の「上下移動自在」は、本願発明の「上下方向へ移動可能に嵌合した」ことに相当する。
以上の点から、両者は以下の点で一致し、また、以下の点で相違している。
<一致点>
「板状のワークの被加工部に対して打ち抜き加工を行う際に用いられるパンチ金型において、
パンチプレスにおけるパンチ金型保持部材に保持され、下側に前記ワークの被加工部周辺を押圧するストリッパ部を有してあって、前記ストリッパ部に挿通孔が形成された筒状のパンチガイドと、
前記パンチガイド内に上下方向へ移動可能に設けられ、下側に前記挿通孔に挿通可能でかつ刃部を有したパンチボディと、
前記パンチボディの上端部に設けられたパンチヘッドと、
前記パンチヘッドの下側に設けられ、前記パンチボディを付勢可能なストリッパスプリングと、を備えてあって、
前記パンチガイドに対して前記パンチボディの回転を規制する回転規制手段を備え、前記回転規制手段は、前記パンチガイドに上下に延びるように形成されたキー溝と、前記パンチボディに設けられかつ前記キー溝に上下方向へ移動可能に嵌合したキーとからなるパンチ金型。」
<相違点1>
パンチガイドに関して、本願発明では、「パンチプレスにおけるパンチ金型保持部材に対して上下方向へ移動可能に保持され」るものであるのに対して、引用発明では、パンチガイド29が上下方向へ移動可能かどうか不明な点。
<相違点2>
パンチボディの刃部の形状に関して、本願発明では、「ワークにスリットを形成するための断面形状を呈した」ものであると特定しているのに対して、引用発明では、刃部の形状について不明な点。
<相違点3>
回転規制手段に関して、本願発明では、「第1回転規制手段と第2回転規制手段を備え、前記第1回転規制手段と前記第2回転規制手段は、パンチガイドの軸心を中心として対称関係になるように構成され」るとしているのに対して、引用発明では、パンチガイド29に対してパンボディ33およびパンチドライバ37が、回転しないで且つ上下移動自在に一体的に支持されるキー39を備えているものの、2つのキーは備えていない点。

4 当審の判断
上記相違点について検討する。
(1) <相違点1>について
パンチプレスにおいて、ストリッパ部は通常ワークを上方から押さえる役割を果たすものであることから、パンチ金型保持部材に対して下側にストリッパ部を有するパンチガイドを上下方向へ移動可能に構成することは、たとえば、当審で拒絶理由に引用した特開2000-351024号公報の段落【0020】及び図面の図1にも示されているように(パンチガイド28が、リフトスプリング64を介してタレット6に装着されている点を参照。)、従来周知の事項である。したがって、引用発明においても、下側にストリッパプレートが取り付けられたパンチガイド29は上部タレット9に対して上下方向へ移動可能に構成されているものである。
したがって、相違点1は、実質的な相違点ではない。
(2) <相違点2>について
ワークにスリットを形成することは、通常パンチプレスにおいて、ニブリング加工(例えば、特許第2681872号公報の段落【0002】、【0003】、及び図面の図6参照。)と呼ばれているように従来周知の事項である。すなわち、パンチプレスにおいて、パンチ部分を重ね合わせながら、スリット状の打ち抜くニブリング加工は、従来周知の事項である。
ところで、本願発明において相違点2における発明特定事項は、「ワークにスリットを形成するための断面形状を呈した」ものであると特定している。
しかしながら、パンチプレスにおいてどのような断面形状の刃でも、ニブリング加工によりスリットを形成することが可能であることから、「ワークにスリットを形成するための断面形状」という特定では、刃部の形状についてなんらかの特定をしたものであるとすることはできない。
したがって、相違点2をもって、実質的な相違点であると判断することはできない。
(3) <相違点3>について
引用発明においても、パンチガイド29に対してパンチドライバ37の回転を規制するためにキー及びキー溝は設けられている。本願発明における相違点3の構成は、キー及びキー溝による回転規制手段を2つ設け、「第1回転規制手段」と「第2回転規制手段」と特定するとともに、「第1回転規制手段と第2回転規制手段は、パンチガイドの軸心を中心として対称関係になるように構成され」るものであると特定している。
しかしながら、パンチガイドに相当する部材に対してパンチボデイに相当する部材の回転規制手段をパンチガイドに相当する部材の軸心を中心として対称関係になるように2つ設けることは、当審で拒絶理由に引用した実願平3-35460号(実開平4-129514号)のマイクロフィルム(段落【0032】?【0039】、及び図面の図1参照。パンチガイドに相当するストリッパプレート19に対してパンチ16の回転を規制する回転規制部材である長溝116及び鋼球体30が、図1において、ストリッパプレート19に対して対称に設けられているのが見て取れる。)に示されている。また、複数の回転体状の部材を相互に結合する場合、キー及びキー溝からなる回転規制手段を、軸心を中心として対称関係になるように設けることは、例えば、実願昭58-13862号(実開昭59-118824号)のマイクロフィルム(第1図において、キー3参照。)、実願昭52-59003号(実開昭53-153176号)のマイクロフィルム(第3図、第4図において、ボールキー7参照。)、特公昭55-27811号公報(第7図、第8図において、ドライブキー8及びダミーキー22参照。)に記載されているように従来周知の事項であること、以上の点からすれば、引用発明において、キー及びキー溝を1つずつ設けることに代えて、2つずつ設けることとし、また、その配置を、パンチドライバ37の軸心を中心として対称関係になるように構成することが、当業者にとって格別困難なこととすることはできない。
請求人は、平成24年12月27日付けの意見書において、「本願の請求項1に係る発明と第2の御引用例に記載のパンチ金型では全体的な構成が大きく異なるものであり、第2の御引用例に記載のパンチ金型においては、前記パンチガイドに相当するストリッパープレート19と前記パンチボディに相当するパンチ16とのクリアランスの範囲内で、パンチ16がパンチホルダ2に対して周方向に変位するものではありません。また、ストリッパープレート19がパンチ16及びパンチホルダ2に対して周方向に変位しても、ワークの打ち抜き面に加工段差が生じることはありません。従って、第1の御引用例に記載のパンチ金型に第2の御引用例に記載の技術に適用することによって本願の請求項1に係る発明を容易に想到できたとする動機付けは存在しないものであります。また、一対の鋼球体30と一対の長溝116が本願の請求項1に係る発明の前記パンチボディに相当するパンチ16の回転でなく、本願の請求項1に係る発明の前記パンチガイドに相当するストリッパープレート19の回転を規制するものであり、第2の御引用例には、第1の御引用例と同様に、本願の請求項1に係る発明の要部については何ら開示も示唆もされておりません。」([2](B)(ii)参照。)と主張している。
しかしながら、回転体状の部材同士をキー及びキー溝により回転規制する場合、当該キー及びキー溝を複数設けることが一般に周知の事項であり、また、パンチプレスの分野においても上記したように従来知られていることからすれば、上記請求人の主張によっては、引用発明において、キー及びキー溝を複数設けることが当業者にとって容易であったという判断を覆す根拠とすることはできない。
(4) <作用・効果>について
請求人は、上記平成24年12月27日付け意見書において、「本願の請求項1に係る発明においては、前記パンチガイドに対して前記パンチボディの回転を規制する第1回転規制手段と第2回転規制手段を備え、前記第1回転規制手段と前記第2回転規制手段が前記パンチガイドの軸心を中心として対称関係になるように構成されているため、前記パンチボディに対して前記ニブリング加工方向の反対方向の偏荷重が働くと、前記パンチボディがいずれかの回転規制手段における前記キーを支点として周方向へ変位するのではなく、前記第1回転規制手段における前記キーと前記第2回転規制手段における前記キーを結ぶ方向(以下、2つのキーを結ぶ方向という)に直交する方向に向かって、前記ニブリング加工方向(スリットの加工方向)に対して平行移動することになります。つまり、2つのキーを結ぶ方向が前記ニブリング加工方向に直交する場合には、参考図2に示すように、打ち抜き面の加工段差が生じなくなり、前記ワークの加工精度を十分に高めると共に、ヒゲ状の打ち抜きカスが生じなくなります。また、2つのキーを結ぶ方向が前記ニブリング加工方向に直交しない場合、例えば、2つのキーを結ぶ方向が前記ニブリング加工方向に直交する方向に対して45度傾斜している場合でも、参考図3に示すように、2回目の打ち抜き加工時においては、前記パンチボディがその45度方向に向かって前記ニブリング加工方向に対して平行移動することによって打ち抜き面の加工段差及び抜きカスが生じるものの、3回目以降の打ち抜き加工においては、前記パンチボディがその45度方向に向かって前記ニブリング加工方向に対して平行移動した状態のままであるため、打ち抜き面の加工段差及び抜きカスが生じなくなります。
従って、本願の請求項1に係る発明によれば、前記ワークに対してニブリング加工を行ってスリットを形成する場合に、前記パンチガイド内における前記パンチボディの周方向の変位(回動)を防止して、前記パンチガイド内における前記パンチボディの方向性を高精度に維持することにより、前記ワークの打ち抜き面に加工段差が生じることを抑えて、前記ワークの加工精度を十分に高めると共に、ヒゲ状の抜きカスの生じることを抑えて、前記ワークの表面に圧痕が付き難くすることができます。」([2](A)参照。)と主張している。
しかしながら、上記(2)の<相違点2>についての判断で言及しているとおり、「ワークにスリットを形成するための断面形状を呈した」と特定したことによっては、パンチボディの刃部が当該意見書における参考図1ないし3に示されたような矩形状の断面形状であるとすることはできないし、また、本件出願の明細書及び図面の全記載を参照しても、パンチボディの刃部の断面形状が矩形状であるとする根拠も見当たらない。
また、仮に、パンチボディの刃部の断面形状が矩形状のものであると特定されているものであるとしても、2つのキーを結ぶ方向がニブリング加工方向に対して直交する方向であればともかく、2つのキーを結ぶ方向がニブリング加工方向に一致する方向である場合にはニブリング加工により打ち抜き面に加工段差が生じるものであり、2つのキーを結ぶ方向がニブリング加工方向に対して45度傾斜している場合には、2つのキーを制限としてパンチボディがパンチガイドとパンチボディとのクリアランスの範囲内で周方向に変位するから、キーを2つ設けた効果以上の格段の効果を期待することはできない。
したがって、請求人の上記主張は採用することができない。
その他の作用ないし効果についても、引用発明及び従来周知の事項から予想し得る範囲のものでしかない。

5 むすび
したがって、本願発明は、刊行物に記載された発明、及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-28 
結審通知日 2013-03-05 
審決日 2013-03-22 
出願番号 特願2004-339473(P2004-339473)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 健晴八木 敬太  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 豊原 邦雄
長屋 陽二郎
発明の名称 パンチ金型  
代理人 三好 秀和  

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