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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A47J |
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管理番号 | 1273668 |
審判番号 | 不服2012-8547 |
総通号数 | 162 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-06-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-05-10 |
確定日 | 2013-05-09 |
事件の表示 | 特願2010-148607号「加熱調理器」拒絶査定不服審判事件〔平成22年9月24日出願公開、特開2010-207638号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成20年1月31日にした特願2008-20793号の一部を平成22年6月30日に新たな特許出願としたものであって、平成24年3月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年5月10日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がされたものである。 第2 平成24年5月10日の手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成24年5月10日の手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1.補正後の本願発明 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、 「加熱調理中に発生する容器内の蒸気を案内する蒸気導管と、 該蒸気導管により案内された蒸気を回収して水にする水槽と、 蒸気を凝縮させるのに最低限必要な水量以上であって、加熱調理時の発生蒸気を全て凝縮しても前記水槽の水が漏れない限界の水位であり、調理開始後に前記水槽の満水を検知するための満水検知手段により検知される前記水槽の満水よりも低い水位である該水槽の初期満水を検知するための初期満水検知手段と、 調理開始の操作を検知した際に、前記初期満水検知手段により初期満水が検知されているかどうかを判定し、初期満水が検知されているときは前記水槽の水位調整を報知する制御手段と、を備えた ことを特徴とする加熱調理器。」と補正された。 上記請求項1に係る補正は、発明を特定するための事項である、初期満水検知手段が検知する水槽の初期満水の水位に関し、「調理開始後に前記水槽の満水を検知するための満水検知手段により検知される前記水槽の満水よりも低い水位である」ことを限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。 2.引用刊行物 (1)引用刊行物1 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された実願昭58-204139号(実開昭60-106532号)のマイクロフイルム(以下「引用刊行物1」という。)には、第1?2図とともに以下の事項が記載されている。 ア.「炊飯器に炊飯中の蒸気を回収する着脱自在な容器(1)を内蔵するとともに容器(1)に通路(11)を設け,この通路(11)に逆止弁(12)を備えてなる炊飯中の蒸気の通過室(15)を連設するとともにこの通過室(15)に水タンク(16)を連設したことを特徴とする炊飯器の蒸気回収装置。」(実用新案登録請求の範囲) イ.「本考案の構成は第1,2図に示す如く,1は中空直方体状の容器で,その内部に,央部に連通孔21を備えたパツキン2を開口に取着してある断面L字形の蒸気の通路11を設けるとともにこの通路11の横引部分の上部に逆止弁12を備えた蒸気の上部通過孔13と,下部通過孔14とを設けてある断面矩形の蒸気の通過室15を連設してあり,且つ通過室15の上部に,その開口にキヤツプ3を取着するとともに断面矩形の冷却水17を満してある水タンク16を連設してある。4は炊飯器の本体で,その内部に内釜5を収納する内容器6を設けるとともに内釜5の開口を覆う内蓋7を取着してある開閉自在な外蓋8をその上部に設けてあり,且つ着脱自在な容器1を内蔵したものである。9は蒸気の導入管で,U字形に形成してあり,一方の端部開口を内蓋7を貫通して内釜5開口に臨む位置に設けるとともに,その近傍に蒸気孔91を備えた他方の端部開口を前記パツキン2の連通孔21にやや下がり傾斜を持たせて設けたものである。」(明細書第2頁第7行?第3頁第5行) ウ.「炊飯中に内釜5で発生した蒸気は内蓋7にその一方の端部開口を設けてある蒸気導入管9を通つて容器1に取着してあるパツキン2の連通孔21に至り,・・・(中略)・・・蒸気導入管9の他方の端部開口から通路11内に入る。通路11内を通つた蒸気は下部通過孔13を介して蒸気圧によつて逆止弁12を押し上げて通過室15内に入り,更に上部通過孔14を介して水タンク16内に入つて冷却水17によつて冷却されて混合する。」(明細書第3頁第10?19行) エ.「以上,本考案によると炊飯中に発生する蒸気の過剰分を炊飯器の内部で冷却して水に変えることが出来るので,外気に蒸気を放出しなくなり,炊飯器使用場所近傍の壁面等の結露も防止出来るので使用者に不快感を与えない装置を提供出来る。」(明細書第4頁第7?11行) これらの記載事項ア.?エ.及び図面を総合すると、上記引用刊行物1には、 「炊飯中に発生する内釜5の蒸気が通る蒸気導入管9、断面L字形の蒸気の通路11、及び下部通過孔13と上部通過孔14とを設けてある断面矩形の蒸気の通過室15と、 上部通過孔14を介して水タンク16内に入つて冷却水17によつて冷却されて混合されて、炊飯中に発生する蒸気の過剰分を炊飯器の内部で冷却して水に変えることが出来る、冷却水17を満してある水タンク16と、を備えた 炊飯器。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 (2)引用刊行物2 同じく引用され、本願の出願前に頒布された特開平8-140836号公報(以下「引用刊行物2」という。)には、図1?6とともに以下の事項が記載されている。 ア.「【請求項1】 空間部を有する二重構造とされ且つ内部に収容される内鍋を加熱する加熱手段を有する容器本体と、該容器本体の上部開口を開閉自在に覆蓋し且つ炊飯時に発生する水蒸気を外部へ排出する蒸気排出通路を有する蓋体とを備えた電気炊飯器であって、炊飯時に発生する水蒸気を前記蓋体内を通して前記容器本体の空間部に導く水蒸気導出通路を設ける一方、前記容器本体における空間部には、前記水蒸気導出通路の出口側に接続され且つ水蒸気を冷却して水として回収する復水器を配設するとともに、前記容器本体の底壁および外側壁には、前記復水器と接触して水蒸気を冷却する冷却風の入口および出口をそれぞれ形成し且つ前記容器本体の下部には、前記復水器において水蒸気から回収された水を貯溜するための回収タンクを着脱自在に設けたことを特徴とする電気炊飯器。 ・・・(中略)・・・ 【請求項7】 前記回収タンクの収容限界水位を検知する水位センサーと、該水位センサーの検知信号により警報手段を作動させる制御手段とを付設したことを特徴とする前記請求項1ないし請求項6のいずれか一項記載の電気炊飯器。」(特許請求の範囲) イ.「本願発明は、電気炊飯器に関し、さらに詳しくは炊飯時に発生する水蒸気を外部へ排出しない構造の電気炊飯器に関するものである。」(段落【0001】) ウ.「前記容器本体1において、前記復水器25が配設されている個所の下方には、・・・(中略)・・・復水器25において凝縮液化された回収水Wを貯溜するための上部開放型の回収タンク67が着脱自在に収納されている。・・・(中略)・・・ 前記回収タンク67は、図4に示すように、横断面矩形状のタンク本体67と、該タンク本体67の後部に一体形成された上下方向に延びる凸条部67bとからなる透明な合成樹脂成形品とされており、3回の炊飯により回収される回収水Wを収容し得る容積を有している。 そして、前記凸条部67bの両側には、収容限界水位L(例えば、2回の炊飯により回収される回収水Wを収容した時の水位)を検知する水位センサー68が配設されている。該水位センサー68は、・・・(中略)・・・発光素子68aと受光素子68bとからなるフォトカプラーとされている。これらの発光素子68aおよび受光素子68bは、・・・(中略)・・・収容限界水位Lを検知して検知信号を出力し、後述するように、例えば容器本体1の適所に付設した警報手段である警報ブザー69および警報ランプ70(図5参照)を作動させることとされている。」(段落【0044】?【0046】) エ.「炊飯の度に回収水Wが回収タンク67に回収されると、回収タンク67が一杯になるおそれがあるが、本実施例の場合、2回の炊飯により回収された回収水Wの水位(即ち、収容限界水位L)を水位センサー68が検知すると、警報ブザー69および警報ランプ70が作動することとなっている。・・・(中略)・・・ ステップS_(1)において炊飯スイッチ(図示省略)がON操作されたか否かの判定がなされ、肯定判定されると、ステップS_(2)において水位センサー68のON判定がなされる。ここで、肯定判定された場合には、ステップS_(3)において警報ブザー69が5秒間隔で吹鳴作動され、ステップS_(4)において警報ランプ70が点滅され、その後ステップS_(1)へリターンする。これにより、そのまま炊飯実行すると、回収タンク67から回収水Wが溢れるおそれがあることをユーザに警告する。そこで、ユーザは炊飯実行の前に回収タンク67に回収水Wを捨てた後、回収タンク67を再セットすれば、回収水Wの漏れ出し事故が防止できる。・・・(中略)・・・ ステップS_(2)において否定判定された場合(即ち、回収水Wの水位が収容限界水位Lより低い場合)には、ステップS_(5)において警報ランプ70が消灯され、ステップS_(6)において炊飯実行される。その後の炊飯実行中にステップS_(7)において水位センサー68のON判定がなされ、肯定判定されると、ステップS_(8)において警報ランプ70が点灯され、ユーザに注意を促した後、ステップS_(6)にリターンする。この場合、今回の炊飯により回収される回収水Wの量では回収タンク67から回収水Wが溢れ出すことはないが、次回の炊飯時には溢れ出すおそれがあるので、ユーザの注意を促すのである。ステップS_(7)において否定判定された場合には、ステップS_(5)にリターンして警報ランプ70を消灯した後、以後の処理がなされる。」(段落【0055】?【0057】) (3)引用刊行物3 同じく引用され、本願の出願前に頒布された特開2004-337465号公報(以下「引用刊行物3」という。)には、図1?6とともに以下の事項が記載されている。 ア.「蒸発容器を有する装置と、タンクとを筐体に備えた蒸し器において、前記タンクの外側に回収タンクを設け、この回収タンクと前記タンクとを樹脂部材で一体に形成したことを特徴とする蒸し器。」(請求項1) イ.「水タンク26の内部には、この水タンク26ひいては蒸発容器23内の液位を監視するために、第1の液位検知手段としての給水センサ46が設けられると共に、結露回収タンク38の内部にも、この結露回収タンク38内の液位を監視するために、第2の液位検知手段としての回収センサ47が設けられる。」(段落【0028】) ウ.「ショーケースの外面をなすガラス7は、筐体1内部の充満した上記に比べて低温であるため、ガラス7の内壁に結露水が付着する。特に、加湿ヒータ24を通電する加熱時には、蒸気容器23から常時蒸気が発生しているため、ガラス7の内壁への結露水も常時発生し、この結露水はガラス7の内壁を伝って下方に滴下する。この滴下した水滴は、ガラス7を載せる取付座12をさらに伝って、取付座12に連なる結露回収タンク38に流入し、結露回収タンク38には回収した結露水が次第に溜まってゆく。 やがて、結露回収タンク38の水位が上昇し満水状態になると、回収センサ47がこれを検知して動作し、基体3に内蔵する制御装置(図示せず)は、ランプによる表示を行なうと共に、ブザーなどによる警報を鳴らして、蒸し器としての運転を停止する。」(段落【0031】及び【0032】) 3.対比・判断 本願補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「炊飯中」はその機能からみて、前者の「加熱調理中」に相当し、以下同様に、後者の「内釜5」は前者の「容器」に、後者の「水タンク16」は前者の「水槽」に、後者の「炊飯器」は前者の「加熱調理器」にそれぞれ相当する。 また、後者の「炊飯中に発生する内釜5の蒸気が通る蒸気導入管9、断面L字形の蒸気の通路11、及び下部通過孔13と上部通過孔14とを設けてある断面矩形の蒸気の通過室15」は、内釜5の蒸気を通過させるものであるから、前者の「加熱調理中に発生する容器内の蒸気を案内する蒸気導管」に相当する。 後者の「上部通過孔14を介して水タンク16内に入つて冷却水17によつて冷却されて混合されて、炊飯中に発生する蒸気の過剰分を炊飯器の内部で冷却して水に変えることが出来る、冷却水17を満してある水タンク16」は、蒸気を通過させる上部通過孔14から入った蒸気を水に変えるものであって、蒸気から変えた水を回収するものといえるから、前者の「該蒸気導管により案内された蒸気を回収して水にする水槽」に相当する。 そうすると、両者は、「加熱調理中に発生する容器内の蒸気を案内する蒸気導管と、 該蒸気導管により案内された蒸気を回収して水にする水槽と、を備えた 加熱調理器。」である点で一致し、以下の点で相違すると認められる。 相違点:本願補正発明が「蒸気を凝縮させるのに最低限必要な水量以上であって、加熱調理時の発生蒸気を全て凝縮しても前記水槽の水が漏れない限界の水位であり、調理開始後に前記水槽の満水を検知するための満水検知手段により検知される前記水槽の満水よりも低い水位である該水槽の初期満水を検知するための初期満水検知手段と、 調理開始の操作を検知した際に、前記初期満水検知手段により初期満水が検知されているかどうかを判定し、初期満水が検知されているときは前記水槽の水位調整を報知する制御手段と」を備えているのに対して、引用発明はそのようなものを備えていない点。 そこで、上記相違点について検討する。 ア.「加熱調理時の発生蒸気を全て凝縮しても前記水槽の水が漏れない限界の水位であ」「る該水槽の初期満水を検知するための初期満水検知手段」について 引用刊行物2には、炊飯時に発生する水蒸気を冷却し,回収された水を貯溜するための回収タンク67を設ける炊飯器において、回収タンク67が、3回の炊飯により回収される回収水Wを収容し得る容積を有し、2回の炊飯により回収された回収水Wの水位(即ち、収容限界水位L)を検知する水位センサー68を配設することが記載されている。 そして、水位センサー68がON判定されるとき、つまり水位センサ68の検知する水位を超えるとき、そのまま炊飯実行すると、回収タンク67から回収水Wが溢れるおそれがあることをユーザに警告し、回収水Wの漏れ出し事故が防止する。一方、否定判定された場合(即ち、回収水Wの水位が収容限界水位Lより低い場合)には、そのまま炊飯実行しても、つまり次の炊飯による回収水Wを貯留しても、回収タンク67から回収水Wが溢れるおそれがないものである。 したがって、引用刊行物2の収容限界水位Lとはそのまま炊飯実行すると、回収タンク67から回収水Wが溢れるおそれがある限界の水位である。 本願補正発明の「炊飯時の発生蒸気を全て凝縮しても水槽7の水が漏れない限界の水位であ」る初期満水の水位も、「初期満水が検知されているときは前記水槽の水位調整を報知する」ものであるから、そのまま炊飯すると水槽の水が漏れるおそれがある限界の水位であって、それ以下の水位であれば水槽7の水が漏れるおそれがないものであるといえる。 したがって、引用刊行物2の収容限界水位Lは、本願補正発明の「加熱調理時の発生蒸気を全て凝縮しても水槽の水が漏れない限界の水位」に相当する。 そして、引用刊行物2の回収タンク67に配設された「回収水Wの水位(即ち、収容限界水位L)を検知する水位センサー68」は、本願補正発明の「加熱調理時の発生蒸気を全て凝縮しても水槽の水が漏れない限界の水位であ」「る該水槽の初期満水を検知するための初期満水検知手段」に相当する。 また、引用刊行物2に記載の炊飯器は、引用発明と同様の、炊飯時に発生する水蒸気を外部へ排出しなように、炊飯時に発生する水蒸気を冷却し,回収された水を貯溜するための回収タンク67を設けるものであるから、引用刊行物2に記載された、次の炊飯による回収水を回収しても回収タンク67から水が溢れることを防止するための、回収タンク67に配設された「回収水Wの水位(即ち、収容限界水位L)を検知する水位センサー68」を、引用発明の回収された水を貯溜する水タンク16に配設して、本願補正発明の「加熱調理時の発生蒸気を全て凝縮しても水槽の水が漏れない限界の水位であ」「る該水槽の初期満水を検知するための初期満水検知手段」を設けるようなすことは当業者が容易になし得たことである。 イ.「調理開始の操作を検知した際に、前記初期満水検知手段により初期満水が検知されているかどうかを判定し、初期満水が検知されているときは」「報知する制御手段」について 引用刊行物2に記載の炊飯器は、上記収容限界水位Lを検知する水位センサー68とともに、炊飯スイッチがON操作されて判定されると、水位センサーのON判定がされて収容限界水位Lを検知すると、警報ブザー69および警報ランプ70が作動し、そのまま炊飯実行すると、回収タンク67から回収水Wが溢れるおそれがあることをユーザに警告し、ユーザに炊飯実行の前に回収タンク67に回収水Wを捨てるよう促すことで、回収水Wの漏れ出し事故を防止するものであって、その水位センサー68を設ける目的を達成するために必要な制御・警告をしているといえる。 したがって、上記ア.で述べたように、引用発明の水タンク16に引用刊行物2に記載の収容限界水位Lを検知する水位センサー68を設けるとき、同時に、その水位センサー68の目的を達成するために必要な、上記の制御・警告も行うようにして、本願補正発明の「調理開始の操作を検知した際に、前記初期満水検知手段により初期満水が検知されているかどうかを判定し、初期満水が検知されているときは」「報知する制御手段」を備えるようなすことも、当業者が容易になし得たことにすぎない。 ウ.初期満水の水位が「蒸気を凝縮させるのに最低限必要な水量以上であ」ること及び「水槽の水位調整を報知する」ことについて 本願補正発明の「水位調整」とは、「初期満水が検知されているとき」にそれを「報知」(段落【0006】)し、それにより「炊飯中に満水検知で加熱停止ということが殆どなくなる」(段落【0007】)というものであるから、その水位調整は、初期満水より低い水位とするものである。一方、本願補正発明の水槽は、「蒸気を水で凝縮させるのに必要な最低限の水位」(段落【0012】)である下限水位の水が必要であるから、上記水位調整とは、下限水位より高い水位とするものでもある。すると、本願補正発明の「水位調整」とは初期満水より低く、下限水位より高い水位にすることといえる。 引用発明の水タンク16は、水タンク16に入った蒸気を、満してある冷却水17によつて冷却し混合して、水に変えるものであるから、水タンク16に必要な量の冷却水17を満して使用するものであって、最低限の量の冷却水17は必須であるといえる。 上記イ.で述べたように、上記引用刊行物2に記載の水位センサー68を設けるに際して、検知する収容限界水位Lを最低限の量の冷却水17の水位より高いものとすることは、当業者が当然なす筈のことであるといえる。 また、引用発明の水タンク16が最低限の量の冷却水17を必須とする以上、そのまま炊飯実行すると、水タンク16から水が溢れるおそれがあることをユーザに警告するに際し、単にユーザに水タンク16から単に水を捨てさせるのではなく、必要な最低限の量の冷却水17を残すように、つまり収容限界水位Lより低く必要な最低限の量の冷却水17の水位より高い水位となるような水位調整をするよう報知することも当業者が当然なす程度のことにすぎずない。 エ.初期満水の水位が「調理開始後に前記水槽の満水を検知するための満水検知手段により検知される前記水槽の満水よりも低い水位である」ことについて 引用刊行物3には、炊飯器ではないものの、蒸気からの水を回収するタンクを有する装置において、タンクの満水を検知する検知手段が示されており、また除湿器等でも除湿したタンクの満水を検知することが通常であるように回収した水を貯留するタンクから水が溢れないように満水を検知する検知手段が周知でもあることから、引用発明や引用刊行物2に記載のものの蒸気からの水を回収するタンクに満水を検知する検知手段を設けることも当業者が何ら格別の困難性を要することなくなし得たことである。 そして、引用刊行物2に記載の収容限界水位Lは、3回の炊飯により回収される回収水Wを収容し得る容積を有する回収タンク67において、2回の炊飯により回収される回収水Wを収容した時の限界の水位であるから、回収水Wが溢れるおそれのある満水よりも低い水位である。 なお、収容限界水位Lは、2.(2)エ.で摘示するように、炊飯実行中に、水位センサー68により収容限界水位Lが検出されると、警報ランプ70を点灯し、「今回の炊飯により回収される回収水Wの量では回収タンク67から回収水Wが溢れ出すことはないが、次回の炊飯時には溢れ出すおそれがあるので、ユーザの注意を促すものでもある」ことからも、満水の水位とはいえない。 オ.まとめ 以上ア.?エ.で述べたとおりであるから、相違点に係る本願補正発明の構成とすることは当業者が容易になし得たことといえ、その効果も、引用発明並びに引用刊行物2及び3に記載の事項から当業者が予測できる程度のものであって、格別の作用効果が奏されるとは認められない。 4.むすび 上記したように、本願補正発明は、引用発明並びに引用刊行物2及び3に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。 したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成24年2月17日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「加熱調理中に発生する容器内の蒸気を案内する蒸気導管と、 該蒸気導管により案内された蒸気を回収して水にする水槽と、 蒸気を凝縮させるのに最低限必要な水量以上であって、加熱調理時の発生蒸気を全て凝縮しても前記水槽の水が漏れない限界の水位である該水槽の初期満水を検知するための初期満水検知手段と、 調理開始の操作を検知した際に、前記初期満水検知手段により初期満水が検知されているかどうかを判定し、初期満水が検知されているときは前記水槽の水位調整を報知する制御手段と、を備えた ことを特徴とする加熱調理器。」 1.引用刊行物 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物の記載事項は、前記「第2の2.」に記載したとおりである。 2.対比・判断 本願発明は、前記「第2の1.」で検討した本願補正発明を特定するための事項である、初期満水検知手段が検知する水槽の初期満水の水位に関し、「調理開始後に前記水槽の満水を検知するための満水検知手段により検知される前記水槽の満水よりも低い水位である」との限定を省いたものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2の3.」に記載したとおり、引用発明並びに引用刊行物2及び3に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用発明並びに引用刊行物2及び3に記載の事項の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 3.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明並びに引用刊行物2及び3に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。そうすると、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-03-07 |
結審通知日 | 2013-03-12 |
審決日 | 2013-03-25 |
出願番号 | 特願2010-148607(P2010-148607) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A47J)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 丹治 和幸 |
特許庁審判長 |
竹之内 秀明 |
特許庁審判官 |
平上 悦司 山崎 勝司 |
発明の名称 | 加熱調理器 |
代理人 | 村田 健誠 |
代理人 | 小河 卓 |
代理人 | 小河 卓 |
代理人 | 安島 清 |
代理人 | 山東 元希 |
代理人 | 安島 清 |
代理人 | 高梨 範夫 |
代理人 | 村田 健誠 |
代理人 | 小林 久夫 |
代理人 | 大谷 元 |
代理人 | 山東 元希 |
代理人 | 大谷 元 |
代理人 | 小林 久夫 |
代理人 | 高梨 範夫 |