• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B29C
管理番号 1273671
審判番号 不服2012-12038  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-06-27 
確定日 2013-05-09 
事件の表示 特願2009-150159「樹脂材のレーザー溶着方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 1月13日出願公開、特開2011- 5705〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願は、平成21年6月24日の出願であって、平成24年3月21日付けで拒絶査定され、これに対して、平成24年6月27日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がされたものである。

2.平成24年6月27日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年6月27日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
平成24年6月27日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
レーザー光を吸収する吸収性樹脂材と、レーザー光を透過させる透過性樹脂材とを重ね合わせて加圧し、その接合面に透過性樹脂材側からレーザー光を照射して走査することで、吸収性樹脂材を溶融させて、両樹脂材を溶着する樹脂材のレーザー溶着方法において、
透過性樹脂材の接合面に、断面形状が三角形で先端の角度が45°±15°、高さが5mm以下に形成された突起を複数設け、当該突起が吸収性樹脂材の接合面に当接するように加圧した状態で、レーザー光を照射して走査することを特徴とする樹脂材のレーザー溶着方法。」と補正された(補正された部分に下線を付した。)。

上記特許請求の範囲についての補正は、補正前の請求項1に記載された「突起」について、その高さを「5mm以下」と限定するものであって、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)原査定の拒絶の理由に引用例6として示された、特開2008-279730号公報(以下「刊行物」という。)には、樹脂成形部材のレーザー溶着に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。
・「【0027】
(実施例1)
本発明の実施例にかかる成形樹脂製品及びその製造方法につき、図1?図8を用いて説明する。
本例の成形樹脂製品1は、図1に示すごとく、熱可塑性ポリエステルを主成分としたレーザー光を透過する透過材2と、ポリフェニレンスルフィド(PPS)を主成分としたレーザー光を吸収する吸収材3とを重ね合せた重ね合せ部11に対し、透過材2側からレーザー光Lを照射することにより、透過材2と吸収材3とを溶着してなる。図1において、符号14が溶着部を示す。
そして、透過材2は、熱可塑性ポリエステルにポリアミド6(PA6)を配合してなる。
本例においては、熱可塑性ポリエステルとして、ポリブチレンテレフタレート(PBT)を用いる。
【0028】
吸収材3における透過材2との対向面32には突起部31が形成されている。即ち、吸収材3は、重ね合せ部11において、透過材2との対向面32に、例えば断面略三角形状の突起部31を、透過材2側へ突出するように設けてある。突起部31は、例えば0.1mm以上の高さを有する。
そして、吸収材3に対して、透過材2を重ね合せるに当っては、吸収材3の突起部31に透過材2における吸収材3との対向面22を押し当てる。この状態で、レーザー光Lを、突起部31を略中心とした、重ね合せ部11の所定領域に照射する。」
・「【0035】
次いで、接合部53(重ね合せ部11)を加圧しながら、該接合部53に、素子カバー部52(透過材2)側からレーザー光Lを照射する(図1、図3)。レーザー光Lの照射は、接合部53の全周にわたって行う。このときのレーザー出力は70?100W、レーザー溶接の速度は30?40mm/秒とする。」
・「【0051】
(実施例2)
本例は、図9に示すごとく、透過材2に突起部21を設けた例である。
即ち、重ね合せ部11における透過材2の吸収材3との対向面22に、断面略三角形状の突起部21が設けてある。一方、吸収材3には、突起部を設けていない。
そして、吸収材3に対して、透過材2を重ね合せるに当っては、吸収材3の対向面32に、透過材2の突起部21を押し当てる。この状態で、突起部21を略中心とした、重ね合せ部11の所定領域にレーザー光Lを照射する。
その他は、実施例1と同様である。
【0052】
本例の場合にも、突起部21を含めた重ね合せ部11にレーザー光Lを照射したとき、
突起部21を起点に透過材2に混入したPA6と吸収材3のPPSとが充分に溶け合うことにより、透過材2と吸収材3との接合強度を向上させることができる。
その他、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0053】
なお、透過材2と吸収材3との双方に突起部21、31を設けてもよい。また、突起部21、31は、それぞれ複数個形成することもできる。」
・「【0056】
(実施例4)
本例は、図11?図14に示すごとく、透過材2のPBTにPA6を配合したことによる、レーザー溶着強度の向上の効果につき確認した例である。
即ち、種々の組成の透過材2と、吸収材3との溶着強度を以下の方法で測定した。
まず、図11に示すごとく、吸収材3として、幅20mm、長さ80mm、厚み3mmの試験片を用意した。吸収材3は、PPSに、ガラス繊維を40重量%、カーボンブラックを0.5重量%添加したものからなる。
【0057】
一方、透過材2として、幅20mm、長さ80mm、厚さ1mmの試験片を用意した。この透過材2の試験片は、各水準ごとに以下に示す組成を有する。即ち、水準1は、PA6を配合しない透過材2を用い、水準2は、PBT:PA6=7:3となる割合でPA6を配合した透過材2を用い、水準3及び水準4は、PBT:PA6=6:4となる割合でPA6を配合した透過材2を用いた。これらの透過材2は、全て、ガラス繊維を30重量%添加してなる。
また、水準1?3については、吸収材3に断面略三角形状の突起部31(図1参照)を設けてなる。この突起部31の高さは0.3mmである。また、水準4については、吸収材3に突起部31を設けていない。」

ここで、刊行物の「(実施例2)」には、透過材2と吸収材3とを重ね合わせて加圧し、その接合面に透過材2側からレーザー光を照射するレーザー溶着方法について、透過材2側に突起部を設けたものが記載されていることから、刊行物には、次の発明が開示されているものと認められる(以下、この発明を「引用発明」という。)。
「ポリフェニレンスルフィドを主成分としたレーザー光線を吸収する吸収材3と、熱可塑性ポリエステルを主成分としたレーザー光線を透過する透過材2とを重ね合わせて加圧し、その接合面に透過材2側からレーザー光を照射することで、吸収材3を溶融させて、両樹脂材を溶着する樹脂材のレーザー溶着方法において、透過材2の接合面に、断面略三角形状の突起部21を複数設け、当該突起部が吸収材3の接合面に当接するように加圧した状態で、レーザー光を照射する樹脂材のレーザー溶着方法。」

(3)本願補正発明と引用発明との対比
両発明を対比すると、引用発明の「ポリフェニレンスルフィドを主成分としたレーザー光線を吸収する吸収材3」「熱可塑性ポリエステルを主成分としたレーザー光を透過する透過材2」が、本願補正発明の「レーザー光を吸収する吸収性樹脂材」「レーザー光を透過させる透過性樹脂材」にそれぞれ相当する。また、本願補正発明の「断面形状が三角形」の「突起」と、引用発明の「断面略三角形状の突起部21」とは、ともに「断面形状が略三角形の突起」との点で概念上共通する。

そうすると、両発明の一致点、相違点は次のとおりである。
(一致点)
「レーザー光を吸収する吸収性樹脂材と、レーザー光を透過させる透過性樹脂材とを重ね合わせて加圧し、その接合面に透過性樹脂材側からレーザー光を照射することで、吸収性樹脂材を溶融させて、両樹脂材を溶着する樹脂材のレーザー溶着方法において、透過性樹脂材の接合面に、断面形状が略三角形の突起を複数設け、当該突起が吸収性樹脂材の接合面に当接するように加圧した状態で、レーザー光を照射する樹脂材のレーザー溶着方法。」

(相違点)
(ア)本願補正発明のレーザー光の照射が「走査」して行うのに対して、引用発明は走査をするか否か明らかでない点。
(イ)本願補正発明が、「断面形状が三角形で先端の角度が45°±15°、高さが5mm以下に形成された突起」を設けているのに対して、引用発明は「断面略三角形状の突起部21」を設けている点。

(4)相違点についての判断
相違点(ア)について
引用発明を開示する刊行物において、「(実施例1)」に関し、段落【0035】に、レーザー光を「接合部53の全周にわたって行う。」との記載があり、「(実施例4)」に関し、段落【0058】に「走査速度」などの記載があることから、引用発明においても同様に照射を走査により行ってよいはずである。

相違点(イ)について
引用発明を開示する刊行物には、吸収性樹脂材側に断面形状が略三角形の突起を設けた「(実施例4)」に関してではあるが、突起の高さを0.3mmとした例が記載されている(段落【0057】)。
もとより、突起の高さは、レーザー溶接しようとする樹脂材の厚み等を勘案して決められるべき性格のものであるが、引用発明の透過性樹脂材に設けられた断面形状が略三角形の突起にあっても、0.3mm程度の高さに形成することは、当業者が適宜なし得たことというべきである。
そして、引用発明のレーザー溶着方法においても、本願補正発明と同様に、先ず吸収材が溶融し、続いて透過材が溶融するのであって、透過材側の突起が吸収材に沈み込むように溶着していくことになり、このことからすれば、突起先端の角度がある程度鋭角である方が溶着強度向上に有利であることは、当業者が容易に想起し得ることである。本願補正発明においては、その角度を45°±15°としているが、本件出願の明細書の記載の限りでは、その値にいわゆる臨界的な意義もなく、そのような角度の設定には、当業者にとっての格別の創意工夫を見いだすことはできない。
ちなみに、本願補正発明や引用発明と同様のレーザー溶着方法を開示する特開2004-63331号公報には、その段落【0018】?【0021】に、透過性の樹脂製部材の側に接合凸部21を、不透過性の樹脂製部材の側に接合凹部31を設けるものにおいて、透過性の樹脂製部材の側に設ける接合凸部21の形状が「断面三角形」であって、幅Wが「約0.5?2.5mm」、高さHが「約0.5?1.5mm」との例が記載されており、これは、本願補正発明における「突起」に含まれるものである。

以上からすると、本願補正発明の発明特定事項は、相違点(ア)(イ)にかかわらず、引用発明に基づいて当業者が格別の創作能力を要さずに採用し得たものである。
そして、本願補正発明の発明特定事項により、引用発明から予期される以上の格別顕著な効果が奏されるとも言えない。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項に係る発明は、平成23年7月25日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1には次のとおり記載されている。
「【請求項1】
レーザー光を吸収する吸収性樹脂材と、レーザー光を透過させる透過性樹脂材とを重ね合わせて加圧し、その接合面に透過性樹脂材側からレーザー光を照射して走査することで、吸収性樹脂材を溶融させて、両樹脂材を溶着する樹脂材のレーザー溶着方法において、
透過性樹脂材の接合面に、断面形状が三角形で先端の角度が45°±15°に形成された突起を複数設け、当該突起が吸収性樹脂材の接合面に当接するように加圧した状態で、レーザー光を照射して走査することを特徴とする樹脂材のレーザー溶着方法。」(以下、この請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

(2)刊行物及び引用発明
原査定の拒絶の理由に示された刊行物及びその記載事項並びに引用発明は、前記2.(2)に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明から、前記限定事項を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記2.(4)に記載したとおり、引用発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件出願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-11 
結審通知日 2013-03-12 
審決日 2013-03-25 
出願番号 特願2009-150159(P2009-150159)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B29C)
P 1 8・ 575- Z (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川端 康之  
特許庁審判長 新海 岳
特許庁審判官 加藤 友也
松岡 美和
発明の名称 樹脂材のレーザー溶着方法  
代理人 仲石 晴樹  
代理人 北出 英敏  
代理人 西川 惠清  
代理人 坂口 武  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ