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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61L
管理番号 1273699
審判番号 不服2009-23317  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-11-27 
確定日 2013-05-08 
事件の表示 特願2002-567369「医療用インプラントで使用される架橋された超高分子量ポリエチレン」拒絶査定不服審判事件〔平成14年9月6日国際公開,WO02/68006,平成16年8月19日国内公表,特表2004-524900〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由
1.手続の経緯・本願発明

本願は,2002年2月25日(パリ条約による優先権主張 2001年2月23日,米国)を国際出願日とする出願であって,本願請求項1?15に係る発明は,平成24年10月17日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?15に記載されたとおりのものと認められるところ,そのうち,請求項1及び13に係る発明は,次のとおりである。

「 【請求項1】
UHMWPEを架橋し、
UHMWPEをアニールし、
UHMWPEを機械加工してインプラントを形成し、
インプラントを磨耗試験して磨耗粒子を発生し、
磨耗粒子を採取し、
粒子を0.05μm又はそれより小さな孔径を有するフィルターを用いてろ過し、
磨耗粒子の数を測定し、
メガサイクルあたりに発生する約5×10^(12)よりも少ない磨耗粒子を有するインプラントを提供する架橋線量を選択する
工程からなる、磨耗粒子の数が減少した体内で使用するためのUHMWPE医療用インプラントを製造する方法。」

「 【請求項13】
請求項1?12のいずれか1項に記載の方法で製造される、体内で使用するためのUHMWPE医療用インプラント。」

したがって,請求項13に係る発明のうち,請求項1を引用するものについて,請求項を引用しない形式で書き下すと,以下のとおりとなる(以下,「本願発明」という。)。

「UHMWPEを架橋し、
UHMWPEをアニールし、
UHMWPEを機械加工してインプラントを形成し、
インプラントを磨耗試験して磨耗粒子を発生し、
磨耗粒子を採取し、
粒子を0.05μm又はそれより小さな孔径を有するフィルターを用いてろ過し、
磨耗粒子の数を測定し、
メガサイクルあたりに発生する約5×10^(12)よりも少ない磨耗粒子を有するインプラントを提供する架橋線量を選択する
工程からなる、磨耗粒子の数が減少した体内で使用するためのUHMWPE医療用インプラントを製造する方法で製造される、体内で使用するためのUHMWPE医療用インプラント。」

2.引用文献

これに対して,当審において平成24年4月10日付けで通知した拒絶の理由に引用した本願優先権主張の日前に頒布された刊行物である特表2000-512323号公報(以下,「引用文献1」という。)には,以下の事項が記載されている。

(1)(請求項1?3)
「1. 体内使用のための医療用プロテーゼであって、検出可能なフリーラジカルを実質的に有しない放射線処理された超高分子量ポリエチレンから形成されるプロテーゼ。
2. ……
3. 前記超高分子量ポリエチレンが、前記プロテーゼの装着中の前記プロテーゼからの粒子の生成を減少させるように架橋構造を有する、請求項1に記載のプロテーゼ。」

(2)(第13頁第9行?第14頁第17行)
「 発明の分野
本発明は、整形外科分野および、股関節部および膝インプラントなどのプロテーゼの提供、並びにこのようなデバイスおよびそこで用いられる材料の製造方法に関する。
発明の背景
合成ポリマー、例えば、超高分子量ポリエチレンを金属合金と共に使用することは、プロテーゼインプラントの分野、例えば、股関節部または膝の全体的関節代替品におけるそれらの使用に革命をもたらした。しかしながら、関節の金属に対して合成ポリマーを装着することは、数年後に主として現れる重大な悪影響をもたらすことがある。様々な研究は、このような装着が、プロテーゼ周辺組織中へのポリエチレンの超微粒子の遊離をもたらすことがあると結論した。磨耗は、鎖が折り重なった微結晶を伸張して、関節表面で異方性フィブリル構造を形成することが示唆された。次いで、伸張しきったフィブリルは破断することがあり、サブミクロンの大きさの粒子の生産をもたらす。プロテーゼと骨との間のこれらポリエチレン粒子の漸進的侵入に応答して、マクロファージに誘導されたプロテーゼ周辺骨吸収が開始される。これらポリエチレン粒子をしばしば消化できないマクロファージは、多数のサイトカインおよび成長因子を合成して放出し、最終的に破骨細胞および単球による骨吸収を引き起こすことがある。この破骨細胞は、プロテーゼ構成部品の機械的ゆるみの原因となることによって、時々、その付随する問題で修正手術が必要となり得る。
発明の要旨
本発明の目的は、プロテーゼ装着中のプロテーゼからの微粒子の生成を減少させるように、検出可能なフリーラジカルを有しない放射線処理された超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)から少なくとも部分的に形成されるインプラント可能なプロテーゼデバイスを提供することである。
本発明のもう一つの目的は、プロテーゼインプラントに起因する骨溶解および炎症反応を減少させることである。
本発明の更にもう一つの目的は、人体内に長期間インプラントされたままあることができるプロテーゼを提供することである。
……
本発明のまた更にもう一つの目的は、向上した耐摩耗性を有する改良されたUHMWPEを提供することである。」

(3)(第2頁第9?14行)
「本発明のプロテーゼに用いられるUHMWPEのポリマー構造は、プロテーゼ装着中のプロテーゼからのUHMWPE粒子の生成の減少をもたらす。体内に放出される粒子の数が制限される結果として、そのプロテーゼは、より長いインプラント寿命を示す。好ましくは、プロテーゼは、少なくとも10年間、より好ましくは、少なくとも20年間、そして最も好ましくは患者の全生涯の間、体内にインプラントされたままである。」

(4)(第24頁第12行?第25頁第15行)
「本発明は、検出可能なフリーラジカルを実質的に有しない架橋したUHMWPEを製造する方法も提供する。好ましくは、このUHMWPEは、高耐摩性を有する耐力製品として用いるためのものである。……。UHMWPEは、ポリマー鎖を架橋させるように照射される。……。照射されたUHMWPEは、そのUHMWPE中では検出可能なフリーラジカルが実質的に存在しなくなるように、UHMWPEの融解温度を越えて加熱される。次に、加熱されたUHMWPEは室温まで冷却される。……。
この方法の一つの好ましい態様は、いわゆるCIR-SM、すなわち、低温照射と引続く融解である。この態様において、与えられるUHMWPEは、室温または室温未満である。好ましくは、それは約20℃である。UHMWPEの照射は、例えば、γ線照射または電子照射でありうる。……。照射は、ポリマー鎖を架橋させるために行われる。……。好ましくは、照射の総吸収線量は、約0.5?約1,000Mrad、より好ましくは約1?約100Mrad、またより好ましくは約4?約30Mrad、またより好ましくは約20Mrad、そして最も好ましくは約15Mradである。」

(5)(第43頁下から3行目?第44頁第第16行)
「実施例8:低温照射と引続く融解(CIR-SM)を用いるUHMWPEの製造方法
この実施例は、UHMWPEを低温照射した後、融解させることによって、架橋構造を有し且つ検出可能なフリーラジカルを実質的に有しないUHMWPEを製造する方法を例示する。
慣用的なUHMWPEラム押出棒材(……)を用いた。棒材に用いられたGUR 415樹脂は、5,000,000g/モルの分子量を有し且つ500ppmのステアリン酸カルシウムを含有した。その棒材を、“ホッケーパック”形の円筒(高さ4cm,直径8.5cm)に切断した。
それらパックに、室温において2.5Mrad/パスの線量率で、上面(電子ビーム入射)で測定される2.5、5、7.5、10、12.5、15、17.5、20、30および50Mradの総吸収線量まで照射した(……)。それらパックは包装されなかったし、そして照射は空気中で行われた。照射に続いて、ポリマーを融解させることによってフリーラジカルの再結合を引き起こして、残留する検出可能なフリーラジカルを実質的にようにするために、それらパックを真空下において150℃まで2時間加熱した。次に、それらパックを室温まで5℃/分の速度で冷却した。
……」

(6)(第45頁下から5行目?第46頁第5行)
「実施例11:GUR 415棒材パック、およびCIR-SMおよびWIR-AM処理された棒材パックの特性の比較
この実施例は、実施例8および10から得られたUHMWPE棒材GUR 415の照射および未照射試料の種々の特性を例示する。試験された試料は次の通りであった:(i)室温で照射され、続いてポリエチレン結晶を完全に融解させるために約150℃まで加熱された後、室温まで冷却された試験試料(パック)(CIR-SM)、(ii)……、および(iii)対照棒材(未加熱/未融解、未照射)。」

(7)(第48頁第14行?第29頁第12行)
「C.摩耗率のためのピンオンディスク実験
ピンオンディスク(POD)実験は、二軸ピンオンディスク摩耗試験機において2Hzの周波数で行われ、そこでポリマーのピンは、高度に磨かれたCo-Crディスクに対するピンの摩擦作用によって試験された。円筒形のピン(高さ13mm,直径9mm)を製造する前に、照射中および加工の前後に酸化された外層を除去するためにパック表面から1ミリメートルを機械加工して除去した。次に、それらピンをパックの心部から機械加工し、そしてeビーム入射面がCo-Crディスクに面するようなPODで試験した。摩耗試験は、ウシ血清中で合計2,000,000サイクルまで行われた。500,000サイクル毎にピンを秤量したが、その損失重量(摩耗率)平均値は、実施例8および10それぞれから得られた検体について表12および13で報告される。
表12:実施例8(CIR-SM)の検体のPOD摩耗率
検体 摩耗率(mg/100万サイクル)
未照射対照 9.78
2.5Mradまで照射 9.07
5Mradまで照射 4.80
7.5Mradまで照射 2.53
10Mradまで照射 1.54
15Mradまで照射 0.51
20Mradまで照射 0.05
30Mradまで照射 0.11
……
これら結果は、架橋UHMWPEが、未照射対照よりはるかに優れた耐摩耗性を有することを示す。」

3.対比・判断

(1)本願発明について

ア.本願発明は,その請求項の記載形式から見て,製造方法による生産物の特定を含むものであり,いわゆる「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」形式によるものであり,このような「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」形式で特定された発明の新規性の検討は,生産物が新規であるかどうかの検討となる。したがって,このようなクレーム形式による発明の新規性の検討では,発明特定事項のうち製造方法に関する部分については,何が,生産物の構造又は特性等に影響を及ぼし,何が,そうではないかに留意して検討する必要がある。
これを本願発明についてみると,製造方法に関する発明特定事項の部分は,次のとおりである。
「UHMWPEをアニールし、
UHMWPEを機械加工してインプラントを形成し、
インプラントを磨耗試験して磨耗粒子を発生し、
磨耗粒子を採取し、
粒子を0.05μm又はそれより小さな孔径を有するフィルターを用いてろ過し、
磨耗粒子の数を測定し、
メガサイクルあたりに発生する約5×10^(12)よりも少ない磨耗粒子を有するインプラントを提供する架橋線量を選択する
工程からなる、磨耗粒子の数が減少した体内で使用するためのUHMWPE医療用インプラントを製造する方法」
このうち工程が特定されている部分については,技術的にみて磨耗試験をした試験品のインプラントは当然に製品にはなり得ないことから,当該部分は,生産物であるインプラントを生産する際の製造条件である架橋線量として,「メガサイクルあたりに発生する約5×10^(12)よりも少ない磨耗粒子を有するインプラントを提供する架橋線量」を選択する手順が特定されているものと解する他はない。
ところで,製造条件を定めるための手順は,それがどのように相違しようとも,たどり着いた製造条件が同一であれば,生産物に何らの相違をもたらすものではなく,同一の製造条件により製造される生産物は同一になる。これを本願発明についてみれば,本願発明における製造方法の工程を特定する発明特定事項のうち,生産物たる「体内で使用するためのUHMWPE医療用インプラント」の構造又は特性等に何らかの影響を及ぼすものは,製造条件である架橋線量について「メガサイクルあたりに発生する約5×10^(12)よりも少ない磨耗粒子を有するインプラントを提供する架橋線量」を選択するとしている部分に限られ,この他の製造方法の工程を特定する発明特定事項,すなわち,前記「架橋線量」を選択するための手順を特定した部分は,生産物に対して何らの影響を及ぼすものではない。
そうすると,本願発明について,生産物としての新規性の検討は,結局,「メガサイクルあたりに発生する約5×10^(12)よりも少ない磨耗粒子を有するインプラントを提供する架橋線量を選択する工程からなる、磨耗粒子の数が減少した体内で使用するためのUHMWPE医療用インプラントを製造する方法で製造される、体内で使用するためのUHMWPE医療用インプラント。」についての新規性の検討を行うことと等しい(以下,これを便宜上,「本願発明a」という。)。そこで,以下では,本願発明aの新規性の検討を行うことにより,本願発明の新規性を検討することとする。

イ.本願発明aの新規性の検討に先立ち,「メガサイクルあたりに発生する約5×10^(12)よりも少ない磨耗粒子を有するインプラントを提供する架橋線量」には,具体的にどの程度の架橋線量が包含されているかについてみると,本願の特許請求の範囲,明細書又は図面には,線量に関して以下の記載がある。

(ア)(請求項7)
「架橋を、放射線を使って、5より大きいが15以下のメガラド(M Rad)の線量で行う請求項1?6のいずれか1項に記載の方法。」

(イ)(0055?0056段落)
「【0055】
本発明の他の実施態様は、UHMWPEを架橋し、UHMWPEをアニールし、UHMWPEを機械加工してインプラントを形成し、インプラントを磨耗試験して磨耗粒子を形成し、磨耗粒子を採取し、0.05μm以下の空隙寸法を有するフィルターを使用して粒子を濾過し、形成した磨耗粒子の数量を測定し、かつ100万サイクル当たりに発生する約5×10^(12)より少ない磨耗粒子を有するインプラントを与える、架橋に対する架橋線量を選択する工程によって発生される、粒子の低減された磨耗粒子数量を有する、体内で使用するためのUHMWPEの医療用インプラントである。……
【0056】
……。放射線による架橋は、5より大きいが15メガラド(MRad)以下の線量で、または5より大きいが10メガラド(MRad)以下の線量においてである。」

(ウ)(0079段落)
「本発明において、股関節シミュレーター試験は、3組の材料、(1)通常の(非照射の)UHMWPE(C-PE)、(2)5MRadガンマー線照射架橋されたUHMWPE(5-XLPE)、および(3)10MRadガンマー線照射架橋されたUHMWPE(10-XLPE)で行われた。刊行された文献により、5-XLPEと10-XLPEは、共に増加した照射線量による増加した改善度により、C-PEに比べて強化された磨耗抵抗を示すことが期待される。
重量分析は、これまでは1500万サイクル試験の耐性をも保持する傾向が期待できることを示した。しかしながら、粒子状破片について分析した場合、5-XLPE材料が、およそ500万サイクルでC-PEより多い磨耗破片を発生し始めることが発見された。他方、10-XLPE材料は、試験の全期間より少ない粒子を示した。……」

(エ)(0118?0123段落)
「【0118】
実施例8.解剖学的股関節シミュレーターで試験された通常および架橋されたUHMWPEの磨耗粒子分析
……
【0119】
解剖学的股関節シミュレーター(……)試験を、次の材料に対して1,000万サイクルまで行った。(i)通常のUHMWPE(C-PE)、(ii)5MRadで架橋されたUHMWPE(5-XPEまたは、5-XLPE)、および(iii)10MRadで架橋されたUHMWPE(10-XPEまたは、10-XLPE)。ラム押出しされたGUR1050材料(……)は、全ての試験に関して出発材料である。
架橋を、5および10MRadのガンマー線照射線量で行い(……)、溶融アニール(150℃で2時間)と徐冷に引き継いだ。寛骨臼内張り(32mmID)を棒状の丸太から機械加工し、……。……。股関節シミュレーター試験(各群に対して、n=3)を、100%ウシ血清中で、32mmのCoCrMo頭に対して行った。……
【0120】
磨耗粒子を、……、試験血清から蒐集した(……)。0.05μmの空隙寸法フィルター膜上に付着した粒子を、……、走査型電子顕微鏡の下でキャラクタライズした。……。各材料に関して、……、次の因子を100万サイクル当たりで計算した。(i)粒子の数、……。……
【0121】
磨耗重量率は、架橋放射線量の増加につれて低下した。C‐PEに関しては、磨耗率は36.9mg/Mサイクルであり、それは5-XPEについては9.0mg/Mサイクルに低下し、さらに10-XPEについては-1.1mg/Mサイクルまで低下した。SEM顕微鏡法を基にすれば、C-PE粒子は長さ5?10μmの小繊維を偶に有する……。
【0122】
最高の磨耗重量率に加え、C-PE材料は、発生した破片の最も大きな粒子直径、表面積、および容積を示す(全ての組み合わせについて、p<0.05、表3)。粒子の直径および粒子の表面積と容積は、架橋放射線量の増加と共に減少した。5-XPE材料は、結果としてC-PEよりMサイクル当たりで2倍の粒子数となる粒子の最高数を導き出した(表3)。10-XPE材料は、C-PEと比べて、Mサイクル当たりで半分以下の粒子数量以下を導き出した。
【0123】
【表3】



(オ)(0128?0132段落)
「【0128】
実施例10.通常および架橋されたUHMWPEに関する粒子寸法対粒子数量および容積
……
【0129】
解剖学的股関節シミュレーター(……)試験を、次の材料で1500万サイクルまで行った。(i)通常のUHMWPE(C-PE)、(ii)5MRadで架橋されたUHMWPE(5-XPE)、および(iii)10MRadで架橋されたUHMWPE(10-XPE)。ラム押出しされたGUR1050材料(……)は、全ての試験について開始材料である。架橋を、5および10MRadのガンマー線照射線量で行い(……)、ついでアニールおよび徐冷を行った。寛骨臼内張り(32mmID)を棒状の丸太から機械加工し、……。……
股関節シミュレーター試験(各群に対して、n=3)を、100%ウシ血清中で32mmのCoCrMo頭に対して行った。……。磨耗粒子を、……試験血清から蒐集した(……)。0.05μmの空隙寸法フィルター膜上に付着した粒子は、……、走査型電子顕微鏡(SEM)の下でキャラクタライズした。……
……。各材料条件について、試験のサイクル(N)当たりに発生する粒子の平均数量を測定した。……
【0130】
磨耗重量率は、架橋放射線量の増加によって低下した。C-PEに関しては、平均磨耗率±95%CIは36.9±0.5mg/Mサイクルであり、それは5-XPEについては9.0±0.6mg/Mサイクルに低下し、さらに10-XPEについては-0.5±0.2mg/Mサイクルまで低下した。SEM顕微鏡法を基にすれば、……。長さが5?10の小繊維は、C-PE粒子についてときとして見られた。
【0131】
5-XPE材料は、サイクル(N=11.1×10^(6)±2.5×10^(6))当たり最大の粒子数量を発生し、C-PE材料(N=6.2×10^(6)±1.1×10^(6))よりサイクル当たり78%より多い粒子となる(p<0.01)。10-XPE内張り(N=2.2×10^(6)±0.2×10^(6))は、C-PE内張りよりサイクル当たり65%少ない粒子を発生した(p<0.01)。
【0132】
3つの材料条件について粒子の寸法分布に対する数量を図12に示した。全粒子の寸法に対する容積の分布を図13に示した。3つの材料が、全試験期間で異なる粒子の数量と容積を生成したため、分布を、パーセント周期の代わりに絶対数量で示している。5-XPE内張りは、C-PE内張りよりも直径で0.2μm以下のより多数でより大きな容積の粒子を発生した。0.2μm以上のC-PE粒子は、5-XPE粒子より、数量と容積で勝っていた。C-PEおよび10-XPE内張りは、0.125μmより小さな直径を有する同等の数量と容積の粒子を発生した。0.125μmより上では、C-PE粒子は10-XPE粒子より数量と容積で勝っていた。
……」

(カ)(0166?0170段落)
「【0166】
実施例15.研磨条件下での架橋UHMWPE(XLPE)中の磨耗破片
……
【0167】
C-PE(非照射の)と10Mrad(ガンマー線照射され、150℃で熱的にアニールされた)架橋されたUHMWPE(10-XPE)の12mm内張りを、解剖学的股関節シミュレーター中で500万サイクルまで試験した(……)。内張りの両型を、(1)平滑CoCr、(2)粗面化CoCr、および(3)平滑ジルコニアに対して試験した。……
【0168】
本研究で試験された頭/内張りの組合せに関する磨耗重量率を、表9に示した。10-XPE内張りは、全ての頭に対してC-PEより顕著に(p<0.01)低い磨耗重量を示した。……。全ての大腿骨頭の型に対するC-PE内張りからの破片は、たまに5μm長さに及ぶ小繊維を有する……。平滑CoCrおよびジルコニア頭の両方に対する10-XPE内張りから発生した微粒子破片は、殆ど全くミクロン以下および円形だけであった。……。10-XPE内張りは、平滑CoCrおよびジルコニア頭に対して、C-PE内張りより少ない磨耗粒子(p<0.01)を発生した。……
【0169】
……。擦り傷抵抗性ジルコニアセラミック頭に対して、10-XPE内張りは、検出されざる重量的磨耗と粒子発生率が全ての他の内張り/頭の組合せより低いことを示した。加うるに、ジルコニア頭はC-PEに関してより少ない磨耗となる。
【0170】
股関節シミュレーターの研究は、CoCr頭に対する高度に架橋されたUHMWPEの磨耗特性の利点が、頭が生体中に見られるのと同じやり方で擦り傷をつけられた場合に、減少することを示した。しかしながら、擦り傷をつけた条件下では、重量的磨耗はC-PE関するよりも10-XPEに関していまだ大いに低く、粒子の発生率は統計学的に同等である。……」

ウ.これら本願明細書の記載によれば,「メガサイクルあたりに発生する約5×10^(12)よりも少ない磨耗粒子を有するインプラントを提供する架橋線量」としては,具体的には,5MRadより大きく15MRad以下の線量範囲が含まれているといえる(上記イ.(ア)及び(イ))。
また,上記イ.(エ)の記載をみれば,UHMWPEを5MRad(「5-XPE」)又は10MRad(「10-XPE」)で架橋し,アニールの上,機械加工して寛骨臼内張りを形成したものについて,通常のUHMWPE(「C-PE」)を用いたものと共に股関節シミュレーター試験を行い,発生した磨耗粒子を蒐集して,0.05μmの空隙寸法フィルター膜上に付着した粒子について,100万サイクル当たりの数等を計算して評価したことが記載されており,これは,本願発明における架橋線量を選択する所定の手順に従ったものであることが明らかである。また,その結果については,同じく上記イ.(エ)の記載をみれば,磨耗重量率,粒子の直径,表面積及び容積は,架橋線量の増加に従って低下し,粒子数は,10-XPEが最も少なく(2.28±0.25(×10^(12))),5-XPEが最も多いというものであった旨が記載されていることから,3つの試験品のうち,「メガサイクルあたりに発生する約5×1012よりも少ない磨耗粒子」という要件を満足し,かつ,最も良好な結果であった10-XPEの試験品を製造した際の架橋線量である10MRadが選択されるべきものとして記載されていることが理解できる。
さらに,上記イ.(ウ),(オ)及び(カ)の記載においても,10MRadの架橋線量のものが良好な結果を示したことが記載されている。
そうしてみると,本願発明における「メガサイクルあたりに発生する約5×10^(12)よりも少ない磨耗粒子を有するインプラントを提供する架橋線量」とは,さらに具体的には,10MRadの架橋線量を包含していることが,本願明細書の記載から明らかであると言える。

エ.したがって,本願発明aには,「5MRadより大きく15MRad以下,特に,10MRadの架橋線量を選択する工程からなる,磨耗粒子の数が減少した体内で使用するためのUHMWPE医療用インプラントを製造する方法で製造される,体内で使用するためのUHMWPE医療用インプラント」(以下,これを便宜上,「本願発明a’」という。)が,包含されているものと言える。

(2)引用文献1に記載された発明

引用文献1には,体内使用のための医療用プロテーゼであって,放射線処理された超高分子量ポリエチレン(すなわち,UHMWPE)から形成されたプロテーゼであり,前記超高分子量ポリエチレンが,プロテーゼの装着中の前記プロテーゼからの粒子の生成を減少させるように架橋構造を有するものについての発明が記載されている(2.(1)参照。)。また,前記放射線処理に関しては,ポリマー鎖を架橋させるように照射されるものであり,総吸収線量としては,「またより好ましくは約4?約30Mrad」及び「最も好ましくは約15Mrad」等と記載されている(2.(4)参照。)。さらに,具体例として,UHMWPEを,7.5;10;12.5;15Mrad等の総吸収線量で照射し,150℃まで2時間加熱したものについて磨耗試験を行って磨耗率を測定したところ,放射線未照射の対照が,9.78mg/100万サイクルであったのに対し,7.5Mradの総吸収線量では2.53mg/100万サイクル,また,10Mrad及び15Mradでは,それぞれ,1.54及び0.51mg/100万サイクルであったことが,「これら結果は、架橋UHMWPEが、未照射対照よりはるかに優れた耐摩耗性を有することを示す。」という評価と共に記載されている(2.(5)?(7)参照。)。
そして,引用文献1には,股関節部代替品等のプロテーゼインプラントの分野では,磨耗により超高分子量ポリエチレンのサブミクロンの大きさの超微粒子がプロテーゼ周辺組織中へ遊離し,プロテーゼと骨との間にこれらポリエチレン粒子が漸進的に侵入すると,マクロファージに誘導されてプロテーゼ周辺の骨吸収が起こることが記載されており(2.(2)参照。),これらが課題であったことが認められ,また,それらの課題を踏まえて,引用文献1に記載された発明の目的が,プロテーゼ装着中のプロテーゼからの微粒子の生成を減少させるようにすること,プロテーゼインプラントに起因する骨溶解等を減少させること,及び,向上した耐摩耗性を有する改良されたUHMWPEを提供すること等であることについても記載されている(2.(2)参照。)。さらに,引用文献1に記載された発明は,プロテーゼ装着中のプロテーゼからのUHMWPE粒子の生成の減少をもたらし,体内に放出される粒子の数が制限されるものであること等が記載されている(2.(3)参照。)ことから,当該プロテーゼは,体内に放出される粒子の数が制限されるプロテーゼであると言える。
そうしてみると,引用文献1には,「体内使用のための医療用プロテーゼであって,放射線処理された超高分子量ポリエチレンから形成された,体内に放出される粒子の数が制限されるプロテーゼであり,前記放射線処理が,磨耗試験により優れた耐摩耗性を有することが示された7.5Mrad,10Mrad,又は,15Mradの総吸収線量でポリマー鎖を架橋させるように照射されるもの。」(以下,「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(3)対比

ア.引用発明における「プロテーゼ」及び「超高分子量ポリエチレン」は,本願発明a’における「インプラント」及び「UHMWPE」に相当する。したがって,引用発明における「体内使用のための医療用プロテーゼであって,……超高分子量ポリエチレンから形成された,体内に放出される粒子の数が制限されるプロテーゼ」は,本願発明における「磨耗粒子の数が減少した体内で使用するためのUHMWPE医療用インプラントを製造する方法で製造される,体内で使用するためのUHMWPE医療用インプラント」に相当する。
また,引用発明における「総吸収線量」及び「Mrad」は,それぞれ,本願発明a’における,「架橋線量」及び「MRad」に相当する。また,引用発明において,「7.5Mrad,10Mrad,又は,15Mradの総吸収線量」に関して,「磨耗試験により優れた耐摩耗性を有することが示された」ということは,磨耗試験を経てそれらの総吸収線量を「選択する」ことをしたに等しい。そうすると,引用発明における「磨耗試験により優れた耐摩耗性を有することが示された7.5Mrad,10Mrad,又は,15Mradの総吸収線量でポリマー鎖を架橋させるように照射される」ところの「放射線処理された超高分子量ポリエチレンから形成された」とは,本願発明a’における「5MRadより大きく15MRad以下,特に,10MRadの架橋線量を選択する工程からなる,……製造する方法で製造される」に相当すると言える。
そうしてみると,本願発明a’は,引用発明と一致し,相違点は見当たらない。
したがって,本願発明a’は,新規なものではなく,引用文献1に記載された発明である。

イ.上記(1)エで述べたとおり,本願発明aは,本願発明a’を包含するものであるから,本願発明a’が新規性を有しなければ,当然に本願発明aは新規性を有しない。また,上記(1)アで述べたとおり,本願発明aの新規性の検討は,本願発明そのものの新規性の検討に等しい。
したがって,本願発明は,引用文献1に記載された発明と差違がないものであり,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができないものである。

4.請求人の主張について

請求人は,平成24年10月17日提出の意見書において,「補正により、補正前の請求項1は削除されています。そして、補正後の請求項1、2に対応する補正前の請求項2、3は引用文献1に対する新規性及び進歩性を欠くものとして拒絶されていません。」と主張している。
しかしながら,本願の請求項13は,平成24年10月17日提出の手続補正書による補正前の請求項15に対応するものであるところ,当審における平成24年4月10日付け拒絶理由通知書においては,「特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない」とした理由4)は,補正前請求項15を含む「請求項1,4?22」に対して示されていて,さらに,「線量において区別し得ない引用文献1記載のインプラントにおいても本願発明と同様な物性を有するものと解される。」とも指摘している。
したがって,上記請求人の主張は,当を得ないものである。

5.むすび

以上のとおり,本願発明,すなわち,請求項13に係る発明は,引用文献1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものである。
したがって,本願は,その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-11-28 
結審通知日 2012-12-04 
審決日 2012-12-18 
出願番号 特願2002-567369(P2002-567369)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A61L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松波 由美子  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 中村 浩
大久保 元浩
発明の名称 医療用インプラントで使用される架橋された超高分子量ポリエチレン  
代理人 野河 信太郎  

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