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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C10M 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C10M 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C10M |
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管理番号 | 1273723 |
審判番号 | 不服2011-20978 |
総通号数 | 162 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-06-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-09-29 |
確定日 | 2013-05-08 |
事件の表示 | 特願2000-366537「流動性向上剤及び油組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 8月14日出願公開、特開2001-220591〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は、平成12年12月1日(優先権主張:平成11年12月3日、特願平11-344283号)の特許出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。 平成23年 3月18日付け 拒絶理由通知 平成23年 5月10日 意見書・手続補正書 平成23年 7月 6日付け 拒絶査定 平成23年 9月29日 本件審判請求 同日 手続補正書 平成23年10月11日付け 前置審査移管 平成23年11月 4日付け 前置報告書 平成23年11月11日付け 前置審査解除 平成24年 8月28日付け 審尋 平成24年10月16日 回答書 第2 平成23年 9月29日付け手続補正の却下の決定 <決定の結論> 平成23年 9月29日付けの手続補正を却下する。 <決定の理由> I.補正の内容 上記平成23年 9月29日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲につき下記のとおり補正することを含むものである。 1.本件補正前(平成23年5月10日付け手続補正後のもの) 「【請求項1】 下記一般式(1)で表されるアルコキシアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート(a1)を必須構成単位とする(共)重合体(A)からなる流動性向上剤であって、該(a1)のホモポリマーの溶解性パラメータが8.9?9.4である流動性向上剤。 一般式R^(1)-O-(XO)p-R^(2) (1) {式中、R^(1)は(メタ)アクリロイル基、R^(2)はアルキル基である。Xは炭素数2?20のアルキレン基、pは1?10の数を示す。pが2以上の場合のXは同一でも異なっていてもよく、(XO)p部分はランダム付加でもブロック付加でもよい。} 【請求項2】 該(A)が、該(a1)とアルキル(メタ)アクリレート(a2)とを必須構成単位とする共重合体である請求項1記載の流動性向上剤。 【請求項3】 該(共)重合体(A)中の(a1)の含有量が1?100重量%であり、(a2)の含有量が0?99重量%である請求項1又は2記載の流動性向上剤。 【請求項4】 該(共)重合体(A)の溶解性パラメータが8.7?9.7である請求項1?3のいずれか記載の流動性向上剤。 【請求項5】 一般式(1)において、R^(2)が炭素数8?30のアルキル基であり、(XO)p部分が下記一般式(2)で表されるものである請求項1?4のいずれか記載の流動性向上剤。 一般式[(C_(2)H_(4)O)m/(C_(3)H_(6)O)n] (2) {式中、mは0?6、nは0?6、nとmの合計は1?6の数である。[(C_(2)H_(4)O)m/(C_(3)H_(6)O)n]は、ランダム付加でもブロック付加でもよい。} 【請求項6】 該(共)重合体(A)の数平均分子量が1,000?500,000である請求項1?5のいずれか記載の流動性向上剤。 【請求項7】 該(共)重合体(A)の示差走査熱量計により測定した吸熱ピーク温度が、-75?80℃である請求項1?6のいずれか記載の流動性向上剤。 【請求項8】 該(共)重合体(A)のHLB値が0.5?9.6である請求項1?7のいずれか記載の流動性向上剤。 【請求項9】 少なくとも炭素数18?40のワックスを含有する潤滑油用基油と請求項1?8のいずれか記載の流動性向上剤からなり、該流動性向上剤の含有量が0.01?25重量%である潤滑油組成物。 【請求項10】 少なくとも炭素数18?27のワックスを含有する燃料油と請求項1?8のいずれか記載の流動性向上剤からなり、該流動性向上剤の含有量が10?5000ppmである燃料油組成物。 【請求項11】 該燃料油の硫黄含有量が0.05重量%以下である請求項10記載の燃料油組成物。」 (以下、項番に従い「旧請求項1」?「旧請求項11」という。) 2.本件補正後 「【請求項1】 下記一般式(1)で表されるアルコキシアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート(a1)を必須構成単位とする(共)重合体(A)からなる流動性向上剤であって、該(a1)のホモポリマーの溶解性パラメータが8.9?9.0である流動性向上剤。 一般式R^(1)-O-(XO)p-R^(2) (1) {式中、R^(1)は(メタ)アクリロイル基、R^(2)はアルキル基である。Xは炭素数2?20のアルキレン基、pは1?10の数を示す。pが2以上の場合のXは同一でも異なっていてもよく、(XO)p部分はランダム付加でもブロック付加でもよい。} 【請求項2】 該(A)が、該(a1)とアルキル(メタ)アクリレート(a2)とを必須構成単位とする共重合体である請求項1記載の流動性向上剤。 【請求項3】 該(共)重合体(A)中の(a1)の含有量が1?100重量%であり、(a2)の含有量が0?99重量%である請求項1又は2記載の流動性向上剤。 【請求項4】 該(共)重合体(A)の溶解性パラメータが8.7?9.7である請求項1?3のいずれか記載の流動性向上剤。 【請求項5】 一般式(1)において、R^(2)が炭素数8?30のアルキル基であり、(XO)p部分が下記一般式(2)で表されるものである請求項1?4のいずれか記載の流動性向上剤。 一般式[(C_(2)H_(4)O)m/(C_(3)H_(6)O)n] (2) {式中、mは0?6、nは0?6、nとmの合計は1?6の数である。[(C_(2)H_(4)O)m/(C_(3)H_(6)O)n]は、ランダム付加でもブロック付加でもよい。} 【請求項6】 該(共)重合体(A)の数平均分子量が1,000?500,000である請求項1?5のいずれか記載の流動性向上剤。 【請求項7】 該(共)重合体(A)の示差走査熱量計により測定した吸熱ピーク温度が、-75?80℃である請求項1?6のいずれか記載の流動性向上剤。 【請求項8】 該(共)重合体(A)のHLB値が0.5?9.6である請求項1?7のいずれか記載の流動性向上剤。 【請求項9】 少なくとも炭素数18?40のワックスを含有する潤滑油用基油と請求項1?8のいずれか記載の流動性向上剤からなり、該流動性向上剤の含有量が0.01?25重量%である潤滑油組成物。 【請求項10】 少なくとも炭素数18?27のワックスを含有する燃料油と請求項1?8のいずれか記載の流動性向上剤からなり、該流動性向上剤の含有量が10?5000ppmである燃料油組成物。 【請求項11】 該燃料油の硫黄含有量が0.05重量%以下である請求項10記載の燃料油組成物。」 (以下、項番に従い「新請求項1」?「新請求項11」といい、それらを併せて「新請求項」ということがある。) II.補正事項に係る検討 1.補正の目的の適否 本件補正は、上記I.のとおり、特許請求の範囲に係る補正事項を含むので、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項各号に掲げる事項を目的とするものか否かにつき検討する。 本件補正では、旧請求項1における「(a1)のホモポリマーの溶解性パラメータ」の範囲「8.9?9.4」につき、新請求項1では、「8.9?9.0」と限定されるとともに、旧請求項2ないし11については、旧請求項1を引用する引用関係はそのままに新請求項2ないし11としている。 してみると、新請求項1ないし11に係る各発明は、旧請求項1ないし11に係る各発明との間で、解決しようとする課題及び産業上の利用分野をそれぞれ一にするものであることが明らかであるから、旧請求項1ないし11から新請求項1ないし11とする本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものといえる。 2.独立特許要件 上記1.のとおり、上記特許請求の範囲に係る手続補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、新請求項1に記載された発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるか否かにつき検討する。(なお、当該検討にあたり、本件補正により補正された本願明細書を「本願補正明細書」という。) (1)新請求項に係る発明 新請求項1に係る発明は、新請求項1に記載された事項で特定されるとおりのものであり、再掲すると以下のとおりの記載事項により特定されるものである。 「下記一般式(1)で表されるアルコキシアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート(a1)を必須構成単位とする(共)重合体(A)からなる流動性向上剤であって、該(a1)のホモポリマーの溶解性パラメータが8.9?9.0である流動性向上剤。 一般式R^(1)-O-(XO)p-R^(2) (1) {式中、R^(1)は(メタ)アクリロイル基、R^(2)はアルキル基である。Xは炭素数2?20のアルキレン基、pは1?10の数を示す。pが2以上の場合のXは同一でも異なっていてもよく、(XO)p部分はランダム付加でもブロック付加でもよい。}」 (以下、「本件補正発明」という。) (2)検討 しかるに、本件補正発明については、下記の理由により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。 理由1:本件補正発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。 理由2:本件補正発明は、その出願前に当業者が日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 引用刊行物: ・特開平7-292377号公報 (上記刊行物は、原審において引用された「引用文献1」である。以下、「引用例」という。) ア.引用例に記載された事項 上記引用例には、以下の事項が記載されている。 (a) 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 構成単位として、炭素数10以下のアルキル基を有するアルキルアクリレート(a1)80?99.5重量%、飽和及び/または不飽和脂肪族モノアルコールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリル酸エステル(a2)0.5?20重量%を含有する重合体(A)からなる潤滑油添加剤。 【請求項2】 (a1)が、炭素数1?4のアルキル基を有するアルキルアクリレート(a1-1)と炭素数5?10のアルキル基を有するアルキルアクリレート(a1-2)との併用である請求項1記載の添加剤。 【請求項3】 (a1)が、炭素数1および/または4のアルキル基を有するアルキルアクリレート(a1-1)と、炭素数8のアルキル基を有するアルキルアクリレート(a1-2)との併用である請求項2記載の添加剤。 【請求項4】 (a1-1)と(a1-2)の重量比が0:100?30:70である請求項2または3記載の添加剤。 【請求項5】 更に流動点降下剤(B)を含有する請求項1?4のいずれか記載の添加剤。 【請求項6】 (A)と(B)の重量比が80:20?99:1である請求項5記載の添加剤。 【請求項7】 ギヤ油用、自動変速機油用、パワーステアリング油用もしくはショックアブソーバー油用である請求項1?6のいずれか記載の添加剤。 【請求項8】 鉱物油、異性化パラフィンを含有する高粘度指数鉱物油、炭化水素系合成潤滑油、エステル系合成潤滑油およびこれらの2種以上の混合物から選ばれる潤滑油基油(C)に請求項1?7のいずれか記載の潤滑油添加剤を添加してなる潤滑油。 【請求項9】 請求項8記載の潤滑油からなるギヤ油、自動変速機油、パワーステアリング油もしくはショックアブソーバー油。」 (b) 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、潤滑油添加剤および潤滑油に関する。特に、粘度指数向上能、低温粘度特性向上能および耐酸化特性に優れた潤滑油添加剤およびこのものが添加された潤滑油に関する。」 (c) 「【0003】 【発明が解決しようとする課題】最近のCAFE規制強化とこれに呼応し新たに設定される潤滑油規格に対応するため、特に乗用車用潤滑油は、低温粘度特性、抗酸化性、清浄分散性の向上に対する要望が強くなってきている。しかし、従来のポリアルキル(メタ)アクリレートでは、低温粘度特性、抗酸化性および清浄分散性の向上要求に対しては不十分あるという問題が生じてきた。特に、ギヤ油や自動変速機油では、これら性能が強く要望されている。 【0004】 【課題を解決するための手段】本発明者らは、これらの課題に対し鋭意検討した結果、構成単位として、特定の炭素数のアルキル基を有するアルキルアクリレートと、飽和及び/または不飽和脂肪族モノアルコールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリル酸エステルを含有する重合体からなる潤滑油添加剤が粘度指数向上能、低温粘度特性に優れると共に抗酸化性、清浄分散性にも優れていることを見い出した。」 (d) 「【0008】本発明において飽和および/または不飽和脂肪族モノアルコールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリル酸エステル(a2)を構成する飽和および不飽和脂肪族モノアルコールとしては、通常炭素数が1?40(例えばメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、オクチルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、テトラデシルアルコール、ヘキサデシルアルコール、ヘキサデシルアルコール等の飽和アルコール;オレイルアルコール、ヘキセニルアルコール、デセニルアルコール、ヘキサデセニルアルコール等の不飽和アルコール)のモノアルコールであり、アルキル基は直鎖のもの側鎖を有するものいずれでも良く、またアルキル基の炭素数が単一のものでも混合されたたものでも良い。好ましくは、炭素数1?20の飽和脂肪族モノアルコールである。(a2)を構成するアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、グリシドール等が挙げられ、単独でも2種以上を併用してもかまわない。好ましくはエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、またはブチレンオキサイドである。アルキレンオキサイド付加モル数は、通常脂肪族モノアルコール1モルに対し1?30モルであり、好ましくは1?10モルであり、特に好ましくは1?5モルである。付加モル数が多くなり過ぎると溶解性に問題を生じるとともに、耐酸化性に問題を生じる場合がある。」 (e) 「【0009】 本発明において、該重合体(A)は構成単位として、25重量%以下、好ましくは10重量%以下の範囲で、(a1)および(a2)以外に、重合可能な二重結合を有する他の単量体(a3)を含有することができる。重合可能な二重結合を有する他の化合物(a3)としては例えば、炭素数1?10のアルキル基を有するアルキルメタクリレート;炭素数11?30のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート(ドデシルメタアクリレート、テトラデシルメタアクリレート、ヘキサデシルメタアクリレート、オクタデシルメタアクリレートやこれらアルキル基を有するアクリレート類等);アルキル基の炭素数1?30の不飽和モノカルボン酸エステル類(ブチルクロトネート、オクチ ルクロトネート、ドデシルクロトネート、オクチルクロトネート等);不飽和ポリカルボン酸の炭素数1?30のアルキルエステル類(ジブチルマレエート、ジオクチルマレエート、ジラウリルマレエート、ジステアリルマレエート、ジオクチルフマレート、ジラウリルフマレートなど);ビニル芳香族化合物(スチレン、4-メチルスチレンなど);窒素含有化合物(N-ビニルピロリドン、アルキル基の炭素数が1?4のN,N-ジアルキルアミノアルキルメタクリレート、ビニルピリジン、モルフォリノエチルメタクリレート、ビニルイミダゾール)などが挙げられ、これらのうち一種以上を(a3)として用いることが出来る。 【0010】これらのうち好ましいものは炭素数11?20のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート、スチレン、N-ビニルピロリドンおよびアルキル基の炭素数が1?4のN,N-ジアルキルアミノアルキル(メタ)クリレートである。(a3)として炭素数10?20のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを用いると、流動点降下剤を併用しなくても優れた低温流動性を示し好ましい。・・(後略)」 (f) 「【0018】 【実施例】以下実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお実施例中、部および%はそれぞれ重量部ならびに重量%を表すものとする。 【0019】実施例1 攪拌装置、加熱装置、温度計、窒素吹き込み管、冷却管を備えた反応装置に100ニュートラルの鉱物油を300部仕込み、窒素置換を行った後85℃に昇温した。アルキル基の炭素数12?18の混合物である脂肪族モノアルコールのエチレンオキサイド5モル付加物のアクリル酸エステル70部、n-ブチルアクリレート70部、2-エチルヘキシルアクリレート560部及びアゾビスイソブチロニトリル7部の混合物を3時間にわたり連続的に滴下し、さらに1時間熟成し、重量平均分子量が5万で、濃度69%の共重合体溶液を得た。この溶液93部にポリメタクリレート系流動点降下剤としてアクルーブ133(三洋化成製)を7部配合し、本発明の潤滑油添加剤(1)を得た。 ・・(中略)・・ 【0025】比較例1 n-ブチルアクリレート70部、2-エチルヘキシルアクリレート630部、を用い実施例1と同様な方法で重合を行い、重量平均分子量が5.2万で、濃度68%の鉱物油溶液を得た。この溶液93部に、アクルーブ133を7部配合して、比較の潤滑油添加剤(比1)を得た。 ・・(中略)・・ 【0029】試験例 実施例1?6で得た本発明の潤滑油添加剤(1)?(6)、比較例1?3で得た比較の潤滑油添加剤(比1)?(比4)を各々用い、下記方法で低温粘度試験、カーボンブラック分散性試験および耐酸化性試験をした結果を表1に示す。 (低温粘度試験の方法)潤滑油添加剤(1)?(6)、(比1)?(比4)を各々10部、100ニュートラルの鉱物油90部に均一に溶解させた。そして、日本石油学会で定められているギヤー油の低温粘度試験方法(JPI-5S-26-85)に従い、-40℃で低温粘度の測定を行った。 ・・(中略)・・ 【0031】(耐酸化性試験の方法)100ニュートラルの鉱物油90部に、潤滑油添加剤(1)?(6)、(比1)?(比4)を各々10部均一に溶解させ、JIS-K2514に従い、165.5℃で98時間耐酸化性試験を行ない、B法によるスラッジ発生量を測定した。ここでB法とは、試験後の潤滑油にスラッジ凝集剤を加え遠心分離し沈降するスラッジ量を測定したものであり、B法によるスラッジ量が耐酸化性を示す。 【0032】 【表1】 ------------------------------ 検体(添加剤) -40℃の粘度 吸光度 スラッジ量 (cSt) (%) ------------------------------ (1) 48000 0.55 1.6 (2) 48000 0.62 1.5 (3) 55000 0.71 2.9 (4) 44000 0.69 1.4 (5) 57000 0.50 3.0 (6) 49000 0.66 2.0 ----------------------------- (比1) 75000 0.02 4.5 (比2) 95000 0.43 4.4 (比3) 80000 0.45 3.8 (比4) 86000 0.36 4.5 ------------------------------」 (g) 「【0033】 【発明の効果】 本発明の潤滑油添加剤は、従来のメタクリレート重合体系潤滑油添加剤に比べ、優れた低温粘度特性と耐酸化特性を有する。従って、本発明の潤滑油添加剤を使用した本発明の潤滑油は、低温での流動特性や高温時の酸化安定性に優れ、過酷な環境でも使用することができる。」 イ.検討 (ア)引用例に記載された発明 上記引用例には、「構成単位として、炭素数10以下のアルキル基を有するアルキルアクリレート(a1)80?99.5重量%、飽和及び/または不飽和脂肪族モノアルコールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリル酸エステル(a2)0.5?20重量%を含有する重合体(A)からなる潤滑油添加剤」が記載され(摘示(a)参照)、当該「潤滑油添加剤」が、「粘度指数向上能、低温粘度特性向上能および耐酸化特性に優れた」ものであり(摘示(b)参照)、当該「潤滑油添加剤を使用した・・潤滑油は、低温での流動特性や高温時の酸化安定性に優れ」ることも記載されている(摘示(g)参照)。 そして、上記引用例には、上記「飽和及び/または不飽和脂肪族モノアルコールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリル酸エステル」として、「飽和および不飽和脂肪族モノアルコール」としては、「例えばメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、オクチルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、テトラデシルアルコール、ヘキサデシルアルコール、ヘキサデシルアルコール等の」「好ましくは、炭素数1?20の飽和脂肪族モノアルコールである」とともに、「アルキレンオキサイド」としては、「好ましくはエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、またはブチレンオキサイドであ」り「単独でも2種以上を併用してもかまわ」ず、その「アルキレンオキサイド付加モル数は、・・特に好ましくは1?5モルである」ことも記載されている(摘示(d)参照)。 また、上記引用例には、具体例として、上記「潤滑油添加剤」を使用した場合、-40℃における粘度が44000?57000cStであるのに対して、それ以外の添加剤を使用した場合、75000?95000cStであったことも記載されている(摘示(f)参照)。 してみると、上記引用例には、上記(a)ないし(g)の記載事項からみて、 「構成単位として、炭素数10以下のアルキル基を有するアルキルアクリレート(a1)80?99.5重量%、炭素数1?20の飽和脂肪族モノアルコールの炭素数2?4のアルキレンオキサイド1?5モル付加物の(メタ)アクリル酸エステル(a2)0.5?20重量%を含有する重合体(A)からなる低温粘度特性向上能に優れた潤滑油添加剤」 に係る発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 (イ)本件補正発明との対比・検討 (a)対比 本件補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「炭素数1?20の飽和脂肪族モノアルコールの炭素数2?4のアルキレンオキサイド1?5モル付加物の(メタ)アクリル酸エステル(a2)」は、本件補正発明における「一般式(1)」により表現すると、R^(1)は(メタ)アクリロイル基、R^(2)は炭素数1?20の飽和脂肪族基、Xは炭素数2?4のアルキレン基、pは1?5の数であると定義できるものであり、上記「炭素数1?20の飽和脂肪族基」が「炭素数1?20のアルキル基」を意味することがいずれも当業者に自明であるから、本件補正発明における「下記一般式(1)で表されるアルコキシアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート(a1)」及び「一般式R^(1)-O-(XO)p-R^(2) (1){式中、R^(1)は(メタ)アクリロイル基、R^(2)はアルキル基である。Xは炭素数2?20のアルキレン基、pは1?10の数を示す。pが2以上の場合のXは同一でも異なっていてもよく、(XO)p部分はランダム付加でもブロック付加でもよい。}」に相当する。 そして、引用発明における「低温粘度特性向上能に優れた潤滑油添加剤」は、低温粘度特性を向上、すなわち低温における粘度を低下させ、当該添加剤の添加をもって潤滑油の低温における流動性を向上させること(摘示(b)及び(g)参照)を意味するのであるから、本件補正発明における「流動性向上剤」に相当するものといえる。 なお、引用発明における「炭素数10以下のアルキル基を有するアルキルアクリレート(a1)80?99.5重量%」は、本件補正発明を引用してなる新請求項2に記載された「アルキル(メタ)アクリレート(a2)」に相当し、新請求項3に記載された「該(共)重合体(A)中の(a1)の含有量が1?100重量%であり、(a2)の含有量が0?99重量%である」と重複することが明らかであるから、実質的な相違点であるとはいえない。 したがって、本件補正発明と引用発明とは、 「下記一般式(1)で表されるアルコキシアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート(a1)を必須構成単位とする(共)重合体(A)からなる流動性向上剤。 一般式R^(1)-O-(XO)p-R^(2) (1) {式中、R^(1)は(メタ)アクリロイル基、R^(2)はアルキル基である。Xは炭素数2?20のアルキレン基、pは1?10の数を示す。pが2以上の場合のXは同一でも異なっていてもよく、(XO)p部分はランダム付加でもブロック付加でもよい。}」 の点で一致し、以下の点で相違するものと認められる。 <相違点>:本件補正発明では、「該(a1)のホモポリマーの溶解性パラメータが8.9?9.0である」のに対して、引用発明では、「炭素数1?20の飽和脂肪族モノアルコールの炭素数2?4のアルキレンオキサイド1?5モル付加物の(メタ)アクリル酸エステル(a2)」のホモポリマーの溶解性パラメータにつき特定されていない点 (b)相違点に係る検討 上記相違点につき検討すると、上記引用例には、引用発明における「炭素数1?20の飽和脂肪族モノアルコールの炭素数2?4のアルキレンオキサイド1?5モル付加物の(メタ)アクリル酸エステル」には、オクチルアルコール、ラウリルアルコール、テトラデシルアルコール及びヘキサデシルアルコールなどを含む炭素数1?20の飽和脂肪族モノアルコールに対して、プロピレンオキサイドなどの炭素数2?4のアルキレンオキサイドを1?5モル付加させたものの(メタ)アクリレートが含まれることが記載されており(摘示(d)参照)、当該「(メタ)アクリル酸エステル」として、オクチルアルコールに対してプロピレンオキサイドを2モル付加させたもののメタアクリレートなどの化合物(本願補正明細書の【表1】の記載からみてホモポリマーのSP値が8.9?9.0である。)を使用する態様についても包含されることが、当業者に自明である。 そして、本願補正明細書の発明の詳細な説明の記載(特に実施例に係る記載)を検討すると、ホモポリマーのSP値が8.9?9.0である(メタ)アクリル酸エステルを必須構成単位とする共重合体の場合(実施例3及び7を除く各実施例)とそれ以外の(メタ)アクリル酸エステルを必須構成単位とする共重合体の場合(実施例3及び7)との対比において、流動性の向上効果につき有意な差異が存するものとは認められず、当該共重合体を配合する基油の種別によっては、ホモポリマーのSP値が8.9?9.0である(メタ)アクリル酸エステル以外の(メタ)アクリル酸エステルを必須構成単位とする共重合体の場合(実施例3及び7)の方が流動性に優れるものと認められる(【表3】参照)。 してみると、本件補正発明において、「該(a1)のホモポリマーの溶解性パラメータが8.9?9.0である」と規定した点に、格別な技術的意義が存するものとは認められず、また、当該規定を行うことに格別な技術的創意を要するものとは認められない。 したがって、上記相違点に係る事項は、実質的な相違点ではないか、当業者が所望に応じて適宜なし得ることというほかはない。 (c)本件補正発明の効果について 本件補正発明の効果につき検討すると、上記引用例には、引用発明につき、「粘度指数向上能、低温粘度特性向上能および耐酸化特性に優れた」ものであり(摘示(b)参照)、当該「潤滑油添加剤を使用した・・潤滑油は、低温での流動特性や高温時の酸化安定性に優れ」ると記載されている(摘示(g)参照)とおり、引用発明の「潤滑油添加剤」は、その添加剤を添加した潤滑油組成物の低温における流動性を向上させるものであるから、引用発明のものであっても、潤滑油基油などに添加した場合、潤滑油組成物の低温における流動性が向上するであろうことは、当業者が予期し得ることと認められる。 してみると、本件補正発明の効果は、引用発明のものに比して、当業者が予期し得ない程度の格別顕著なものということができない。 (d)小括 したがって、本件補正発明は、引用発明であるか、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (ウ)審判請求人の主張について なお、審判請求人は、本件審判請求書において、SP値が8.9?9.0の範囲にない(メタ)アクリル酸エステルを必須構成単位とする共重合体を使用した場合(引用発明に係る実施例における共重合体の場合を含む)に係る追試結果を提示し、その追試の際には流動性の向上が見られなかったことにより、本件補正発明が新規性及び進歩性を有する旨主張している(「2.本願発明が特許されるべき理由」の「(4)拒絶理由について」の欄)。 しかるに、上記(イ)(b)でも説示したとおり、本願補正明細書には、当該SP値につき8.9?9.0の範囲にない(メタ)アクリル酸エステルを必須構成単位とする共重合体を使用した場合(実施例3及び7)であっても、SP値につき8.9?9.0の範囲にある(メタ)アクリル酸エステル共重合体を使用する場合と同等以上の流動性向上が図られることが記載されているのであるから、上記主張は、本願補正明細書の記載に基づかないものであることが明らかである。 したがって、請求人の本件審判請求書における上記主張は、当を得ないものであり、採用する余地がないものであって、上記(イ)の対比・検討結果を左右するものではない。 ウ.理由1及び2に係る検討のまとめ 以上のとおりであるから、本件補正発明は、上記引用発明であるか、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するか、同法同条第2項の規定により、いずれにしても特許を受けることができるものではない。 (3)独立特許要件に係る検討のまとめ 以上のとおり、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。 III.補正の却下の決定のまとめ 以上のとおりであるから、本件補正は、上記II.1.で説示したとおり、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正事項を含むものであって、かつ、上記II.2.で説示したとおり、同法同条第5項で準用する特許法第126条第5項に違反するものである。 よって、本件補正は、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願についての当審の判断 1.本願に係る発明 平成23年9月29日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願に係る発明は、平成23年5月10日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項によりそれぞれ特定されるとおりのものであり、その内、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は再掲すると以下の事項により特定されるとおりのものである。 「下記一般式(1)で表されるアルコキシアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート(a1)を必須構成単位とする(共)重合体(A)からなる流動性向上剤であって、該(a1)のホモポリマーの溶解性パラメータが8.9?9.4である流動性向上剤。 一般式R^(1)-O-(XO)p-R^(2) (1) {式中、R^(1)は(メタ)アクリロイル基、R^(2)はアルキル基である。Xは炭素数2?20のアルキレン基、pは1?10の数を示す。pが2以上の場合のXは同一でも異なっていてもよく、(XO)p部分はランダム付加でもブロック付加でもよい。}」 2.原審の拒絶査定の概要 原審において、平成23年3月18日付け拒絶理由通知書で以下の内容を含む拒絶理由が通知され、当該拒絶理由が解消されていない点をもって下記の拒絶査定がなされた。 <拒絶理由通知> 「 理 由 1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) 理由 :1,2 請求項:1?12 引用文献等:1,2 <備考> 引用文献1,2には、本願所定の(a1)及び(a2)を構成単位とする共重合体からなる潤滑油又は燃料油添加剤が記載されており(引用文献1,2の特許請求の範囲及び実施例等を参照)、上記添加剤は、低温流動性を向上するものであるから、本願発明における流動性向上剤に相当するものと認められる。 また、上記添加剤と、本願発明の流動性向上剤との間に差異はないから、上記添加剤も、本願発明の流動性向上剤と同様に、本願請求項に規定される溶解性パラメータ、吸熱ピーク温度及びHLB値の要件を満たすものと認められる。 ・・(中略)・・ 引 用 文 献 等 一 覧 1.特開平07-292377号公報 ・・(後略)」 <拒絶査定> 「この出願については、平成23年 3月18日付け拒絶理由通知書に記載した理由1,2によって、拒絶をすべきものです。 なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。 備考 ・理由1について 先の拒絶理由通知で引用した引用文献1には、飽和及び/または不飽和脂肪族モノアルコールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリル酸エステルを必須成分とする共重合体からなる潤滑油添加剤が記載されており、前記添加剤が潤滑油の流動性を向上することも記載され、さらに、前記飽和及び/または不飽和脂肪族モノアルコールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリル酸エステルとして、「アルキル基の炭素数12?18の混合物である脂肪族モノアルコールのエチレンオキサイド5モル付加物のアクリル酸エステル」、「アルキル基の炭素数10?14の混合物である脂肪族モノアルコールのプロピレンオキサイド10モル付加物のアクリル酸エステル」等を用いて得られた共重合体の具体例が記載されている(特許請求の範囲及び実施例等を参照)。 ここで、上記引用文献1には、上記「アルキル基の炭素数12?18の混合物である脂肪族モノアルコールのエチレンオキサイド5モル付加物のアクリル酸エステル」、「アルキル基の炭素数10?14の混合物である脂肪族モノアルコールのプロピレンオキサイド10モル付加物のアクリル酸エステル」のホモポリマーの溶解性パラメータは記載されていないが、これらのアクリル酸エステルは、本願請求項1に規定される一般式(1)の要件を満たし、さらに、本願請求項5に規定される一般式(2)の要件をも満たすものであるから、本願発明の(a1)成分と同様に、本願請求項1に規定される溶解性パラメータの要件を満たす蓋然性が非常に高く、よって、依然として先の拒絶理由1が解消したものとすることはできない。 ・理由2について 仮に、上記「アルキル基の炭素数12?18の混合物である脂肪族モノアルコールのエチレンオキサイド5モル付加物のアクリル酸エステル」、「アルキル基の炭素数10?14の混合物である脂肪族モノアルコールのプロピレンオキサイド10モル付加物のアクリル酸エステル」のホモポリマーの溶解性パラメータが本願請求項1に規定される8.9?9.4の範囲にないとしても、上記引用文献1には、飽和及び/または不飽和脂肪族モノアルコールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリル酸エステルにおけるアルキレンオキサイドの付加モル数を、好ましくは1?10モル、特に好ましくは1?5モルとすること、付加モル数が多くなり過ぎると溶解性に問題が生じる場合があることが記載されているから(段落[0008]等を参照)、かかる観点から、上記引用文献1に記載された発明において、飽和及び/または不飽和脂肪族モノアルコールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリル酸エステルにおけるアルキレンオキサイドの付加モル数の範囲を好適化し、その好適な範囲を本願請求項に規定されるような溶解性パラメータの数値範囲として規定することは当業者であれば容易になし得ることである。 そして、本願実施例及び比較例の記載内容を参照しても、本願請求項に規定される(a1)のホモポリマーの溶解性パラメータの数値範囲に格別な臨界的意義が存するものとも認められない。 よって、補正後の本願請求項1?11に係る発明も、依然として少なくとも先の拒絶理由通知で引用した引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。」 3.当審の判断 当審は、 本願は、下記の理由により、特許法第49条第2号の規定に該当し、拒絶すべきものである、 と判断する。 理由1’:本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。 理由2’:本願発明は、その出願前に当業者が日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 引用刊行物: ・特開平7-292377号公報 (原審において引用された「引用文献1」である。以下、引き続き「引用例」という。) (1)引用例に記載された事項及び発明 ここで、上記拒絶理由通知及び拒絶査定で引用された引用文献1は、上記第2の補正の却下の決定のII.2.(2)で引用した引用例である。 したがって、上記引用例には、上記第2のII.2.(2)ア.で摘示した各事項が記載されており、上記引用例には、上記第2のII.2.(2)イ.(ア)に示した「引用発明」が記載されているものと認められる。 (2)本願発明についての検討 ア.対比 本願発明と上記引用発明とを対比すると、下記の点で相違し、その余で一致することが明らかである。 <相違点X>:本願発明では、「該(a1)のホモポリマーの溶解性パラメータが8.9?9.4である」のに対して、引用発明では、「炭素数1?20の飽和脂肪族モノアルコールの炭素数2?4のアルキレンオキサイド1?5モル付加物の(メタ)アクリル酸エステル(a2)」のホモポリマーの溶解性パラメータにつき特定されていない点 イ.相違点に係る検討 上記相違点Xにつき検討すると、上記引用例には、引用発明における「炭素数1?20の飽和脂肪族モノアルコールの炭素数2?4のアルキレンオキサイド1?5モル付加物の(メタ)アクリル酸エステル」には、オクチルアルコール、ラウリルアルコール、テトラデシルアルコール及びヘキサデシルアルコールなどを含む炭素数1?20の飽和脂肪族モノアルコールに対して、プロピレンオキサイドなどの炭素数2?4のアルキレンオキサイドを1?5モル付加させたものの(メタ)アクリレートが含まれることが記載されており(摘示(d)参照)、当該「(メタ)アクリル酸エステル」として、オクチルアルコールに対してプロピレンオキサイドを2モル付加させたもののメタアクリレートなどの化合物(本願補正明細書の【表1】の記載からみてホモポリマーのSP値が8.9?9.4である。)を使用する態様についても包含されることが、当業者に自明である。 そして、本願明細書の発明の詳細な説明の記載(特に実施例に係る記載)を検討すると、ホモポリマーのSP値が8.9?9.4である(メタ)アクリル酸エステルを必須構成単位とする共重合体の場合(実施例3及び7を除く各実施例)とそれ以外の(メタ)アクリル酸エステルを必須構成単位とする共重合体の場合(実施例3及び7)との対比において、流動性の向上効果につき有意な差異が存するものとは認められず、当該共重合体を配合する基油の種別によっては、むしろホモポリマーのSP値が8.9?9.4である(メタ)アクリル酸エステル以外の(メタ)アクリル酸エステルを必須構成単位とする共重合体の場合(実施例3及び7)の方が流動性に優れるものと認められる(【表3】参照)。 してみると、本願発明において、「該(a1)のホモポリマーの溶解性パラメータが8.9?9.4である」と規定した点に、格別な技術的意義が存するものとは認められず、また、当該規定を行うことに格別な技術的創意を要するものとは認められない。 したがって、上記相違点Xに係る事項は、実質的な相違点ではないか、当業者が所望に応じて適宜なし得ることというほかはない。 ウ.本願発明の効果について 本願発明の効果につき検討すると、上記引用例には、引用発明につき、「粘度指数向上能、低温粘度特性向上能および耐酸化特性に優れた」ものであり(摘示(b)参照)、当該「潤滑油添加剤を使用した・・潤滑油は、低温での流動特性や高温時の酸化安定性に優れ」ると記載されている(摘示(g)参照)とおり、引用発明の「潤滑油添加剤」は、その添加剤を添加した潤滑油組成物の低温における流動性を向上させるものであるから、引用発明のものであっても、潤滑油基油などに添加した場合、潤滑油組成物の低温における流動性が向上するであろうことは、当業者が予期し得ることと認められる。 してみると、本願発明の効果は、引用発明のものに比して、当業者が予期し得ない程度の格別顕著なものということができない。 エ.小括 したがって、本願発明は、引用発明であるか、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 オ.審判請求人の主張について なお、審判請求人は、平成23年5月10日付け意見書において、本願発明の新規性及び進歩性につきるる主張している。 しかるに、上記ウ.でも説示したとおり、本願明細書には、当該SP値につき8.9?9.4の範囲にない(メタ)アクリル酸エステルを必須構成単位とする共重合体を使用した場合(実施例3及び7)であっても、SP値につき8.9?9.4の範囲にある(メタ)アクリル酸エステル共重合体を使用する場合と同等以上の流動性向上が図られることが記載されているのであるから、上記主張は、根拠を欠くものであることが明らかである。 また、本件審判請求書に添付・提示された追試結果からみて、SP値が9.2の(メタ)アクリル酸エステルを必須構成単位とする共重合体を使用した場合には流動性の向上が見られなかったのであるから、本願発明において、SP値につき8.9?9.4の範囲にある(メタ)アクリル酸エステル共重合体を使用することにより、本願発明の所期の効果が奏されているとは認められない。。 したがって、請求人の上記意見書における主張は、当を得ないものであり、採用する余地がないものであって、上記ア.ないしエ.の対比・検討結果を左右するものではない。 カ.理由1’及び2’に係る検討のまとめ 以上のとおりであるから、本願発明は、上記引用発明であるか、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するか、同法同条第2項の規定により、いずれにしても特許を受けることができるものではない。 4.当審の判断のまとめ 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するか、同法同条第2項の規定により、いずれにしても特許を受けることができるものではないから、本願は、同法第49条第2号の規定に該当し、拒絶すべきものである。 第4 むすび 以上のとおりであるから、本願は、その余について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-02-27 |
結審通知日 | 2013-03-05 |
審決日 | 2013-03-18 |
出願番号 | 特願2000-366537(P2000-366537) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C10M)
P 1 8・ 575- Z (C10M) P 1 8・ 113- Z (C10M) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 坂井 哲也 |
特許庁審判長 |
松浦 新司 |
特許庁審判官 |
小出 直也 橋本 栄和 |
発明の名称 | 流動性向上剤及び油組成物 |