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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) A61M
管理番号 1273841
判定請求番号 判定2012-600047  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2013-06-28 
種別 判定 
判定請求日 2012-11-19 
確定日 2013-05-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第3594032号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号広告リーフレットに示す「旭ホローファイバー人工腎臓APS ポリスルホンダイアライザー APS-EL」は、特許第3594032号の請求項1に係る発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3594032号に係る出願は、平成15年8月29日の出願であって、その特許権の設定登録は平成16年9月10日にされたものである。以下、本件判定請求以後の経緯を示す。

平成24年11月19日 判定請求書の提出(請求人より)
平成25年 2月 8日 判定請求答弁書の提出(被請求人より)
平成25年 3月29日 判定請求弁駁書の提出(請求人より)

第2 請求の趣旨
本件判定請求の趣旨は、イ号広告リーフレット(甲第2号証の1)に示す「旭ホローファイバー人工腎臓APS ポリスルホンダイアライザー APS-EL」(以下、「イ号物品」という。)は、特許第3594032号の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。

第3 本件特許発明
本件特許発明は、願書に添付された明細書(以下、「本件特許明細書」という。)、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
なお、便宜上判定請求書における分説に従って示す。
「【請求項1】
(I)親水性高分子を含有するポリスルホン系疎水性高分子中空糸膜において、
(II)該親水性高分子の中空糸膜よりの溶出が10ppm以下であり、かつ
(III)該親水性高分子の中空糸膜の外表面における存在割合が25?50質量%であり、
(IV)膜厚が10?50μmであり、
(V)外表面の開孔率が8?25%であり、
(VI)中空糸膜の偏肉度が0.6以上であり、さらに
(VII)バースト圧が0.5MPa以上、2.0MPa未満であって、しかも
(VIII)血液接触面に緻密層を有する中空糸膜よりなる血液浄化器であり、
(IX)該血液浄化器の透水率が150ml/m^(2)/hr/mmHg以上、2000ml/m^(2)/hr/mmHg以下である
(X)ことを特徴とする高透水性中空糸膜型血液浄化器。」

第4.当事者の主張
1.請求人の主張の概要
請求人は、甲第2号証の1(イ号物品が掲載されている被請求人発行の広告リーフレット)、甲第2号証の2(イ号物品「APS-ELシリーズのV型」に添付された文書)、甲第2号証の3(イ号物品が紹介されている被請求人のホームページ)、甲第2号証の4(「わかりやすい透析工学」p53-61)、甲第3号証の1(APS-15EL(ロット番号:00161E)の分析データ:外表面の開孔率23%)、甲第3号証の2(APS-15EL(ロット番号:00161E)について2010年3月16日から6月28日までの間に行われた実験成績報告書:外表面の開口率23%)、甲第4号証(APS-15EL(ロット番号:00161E)について2012年10月15日から10月17日までの間に行われた実験成績報告書:10視野平均の外表面の開口率22.7%)を提出し、
イ号物品の構成は、次のとおりのものであって、イ号物品は、本件特許発明の構成要件(I)?(X)を全て充足するから、本件特許発明の技術的範囲に属する、
と主張する。
「親水性高分子を含有するポリスルホン系疎水性高分子中空糸膜において、
該親水性高分子の中空糸膜よりの溶出が8ppmであり、
かつ該親水性高分子の中空糸膜の外表面における存在割合が45質量%であり、
膜厚が45μmであり、
外表面の開孔率が22.7%であり、
中空糸膜の偏肉度が0.8であり、さらに
バースト圧が0.6MPaであって、しかも
血液接触面に緻密層を有する中空糸膜よりなる血液浄化器であり、
該血液浄化器の透水率が210ml/m^(2)/hr/mmHgである
ことを特徴とする高透水性中空糸膜型血液浄化器。」

2.被請求人の主張の概要
被請求人は、乙第5号証(甲第4号証の視野1乃至視野10の写真につき、「外表面の開孔」についての被請求人の解釈に基づいて「中空糸膜外表面の開口率測定」を行った実験成績報告書)等を提出し、イ号物品が本件特許発明の構成要件(V)「外表面の開口率8?25%であり、」を充足しないことは明らかであるから、構成要件(II),(III),(VI),(VII),及び(IX)の充足性について検討するまでもなく、イ号物品は、本件特許発明の技術的範囲に属しない、と主張する。

3.両者の具体的主張
3-1.本件特許発明に係る「外表面の開孔」の解釈について
(1)請求人の主張
i.本件特許明細書の記載に基づく解釈
本件特許明細書(【0048】)の記載からして、本件特許発明に係る「外表面の開孔」は、強調・フィルタ操作によって外表面の視認性を高めた画像の「暗く見える部分」と「本来は孔部でありながら下層のポリマー鎖によって明るく見えてしまった部分」であって、下層のポリマー鎖が見て取れる場合にはこれらを結合して一孔とみなしたものである。
なお、表面から落ち窪んでいる部分の傾斜が緩やかなものは、明るく見えるから表層部と解釈されるべきであって、本件特許発明に係る「開孔」と判断されるべきではない。(判定請求書8頁上段、弁駁書10頁中段?11頁中段、14頁下段)

ii.被請求人の解釈について
被請求人が主張するように輪郭を繋いで孔部とすることは、本件特許明細書の記載から逸脱している。
また、被請求人が主張する本件特許発明に係る「外表面の開孔」が「中空糸膜の外側の表面上において、表面から窪んで開いている部分」を意味するとの解釈は、「落ち窪んではいるが開いていないもの」を開孔率計算中に取り込むために、「穴・孔」が「向こうまで突き抜けた所」を意味する(乙第2号証)ことや「開く」が「閉じているものが開け放たれる」ことを意味する(乙第3号証)ことを軽視した、妥当性を欠くものである。
加えて、被請求人は、本件特許発明に係る「外表面の開孔」の技術的意義に関連して、該「外表面の開孔」は、表面から落ち窪んでいることによって中空糸膜同士の物理的接触面積を減少させて固着を防ぐことができる旨主張する。
しかしながら、表面から落ち窪んでいる場合において、特にそれがなだらかに傾斜している程度では、親水性高分子の介在による固着を免れることができず、この部分における親水性高分子の介在による固着状況は、外表面における固着状況と殆ど区別し得ないほどであるから、被請求人の主張は「窪み部分は固着に寄与しない」という一方的認定に基づく根拠のないものである。(弁駁書3頁下段?6頁上段、8頁中段、12頁中段、17頁上段)

(2)被請求人の主張
i.「表面」とは「物の表面」(乙第1号証)を意味し、「孔」とは「くぼんだ所。(または、向こうまで突き抜けた所。)」(乙第2号証)を意味し、「開く」とは「閉じているものがあけ放たれる。」こと(乙第3号証)を意味することからすれば、本件特許発明に係る中空糸膜の「外表面の開孔」とは、「中空糸膜の外側の表面上において、表面から窪んで開いている部分」を意味するといえる。
そうすると、表面からなだらかに傾斜して落ち窪んでいる部分も「孔内部の下層のポリマー鎖」であるから、「外表面の開孔」としてカウントすべきであって、落ち窪んだ部分を「表層部の連続層にすぎず、孔内部の下層のポリマー鎖ではない」ことを理由に、これを「外表面」として、孔部ではないと評価する合理的理由は無い。(答弁書6頁上段?下段、17頁下段?19頁上段)

ii.本件特許明細書(【0008】、【0035】)の記載からすれば、本件特許発明に係る「外表面の開孔」の技術的意義は、中空糸膜同士の固着を防ぐ点にある。
そして、「外表面から窪んで開いている部分」では、互いに接する中空糸膜外表面の間に隙間が生じるから、この部分は互いに接する中空糸膜外表面同士の接触面積を減らし、固着抑制に寄与するといえる。
このように、本件特許発明に係る「外表面の開孔」についての上記解釈は、本件特許明細書に記載された本件特許発明の技術的意義と整合する。(答弁書8頁上段、21頁中段?下段)。

3-2.請求人による開孔率の測定値(甲第4号証)について
(1)請求人の主張
被請求人は、請求人による甲第4号証の測定における孔部のカウントにおいて、輪郭を補った部分と補わなかった部分とがあったり、明度が閾値以下となったように見受けられるにもかかわらず孔部としてカウントしていない箇所があったり、強調・フィルタ操作された後の画像で孔部とされていた部分が開孔率測定時の画像では欠落していたりする(例えば、視野1)から、甲第4号証の測定における孔部のカウントの仕方に一貫性が無い旨主張する。
しかしながら、請求人は、輪郭を補うとか補わないといった判別乃至識別作業は行っていない。
甲第4号証の視野1の孔部の欠落はノイズレベルであり、視野1について再測定しても、その開孔率は21.7%が21.8%(甲第9号証)と極めて僅か高くなるのみであって、全視野1?10の平均開孔率に変わりはないから、甲第4号証の測定値は妥当なものである。(甲第4号証、弁駁書14頁下段?16頁中段)

(2)被請求人の主張
i.請求人による甲第4号証の測定における孔部のカウントは、輪郭を補った部分と補わなかった部分とがあったり、明度が閾値以下となったように見受けられるにもかかわらず孔部としてカウントしていない箇所があったり、強調・フィルタ操作された後の画像で孔部とされていた部分が開孔率測定時の画像では欠落していたりする(例えば、視野1)から、甲第4号証の測定における孔部のカウントの仕方に一貫性が無い。
したがって、請求人の測定値(甲第4号証)は妥当性を欠くものである。(答弁書23頁下段?26頁上段)。

ii.甲第4号証の測定において、「輪郭の一部が表面に繋がった状態で開孔しており、輪郭が一部欠け(当審注:「掛け」は「欠け」の誤記と解した。)ている場合は輪郭が欠けた部位を滑らかに繋いで孔とする。」という作業を行っている箇所が多々あり(乙第6号証において赤矢印で指し示す箇所。)、請求人の主張と整合しない。(答弁書23頁中段)。

3-3.被請求人による開孔率の測定値(乙第5号証)について
(1)請求人の主張
甲第4号証(平均開孔率22.7%)を算出し直した乙第5号証(平均開孔率29.1%)は、窪み部を含めたものを孔と定義し、輪郭を補正するなど明細書に規定されていない方法を導入したものであり、妥当性を欠くものである。(弁駁書8頁下段?9頁上段)

(2)被請求人の主張
「外表面の開孔」とは、中空糸膜の外側の表面上において、表面から窪んで開いている部分を意味し、「外表面の開孔率」とは、外側の表面から窪んで開いている部分の、当該表面上における面積の存在割合を意味する、との解釈に基づいて、甲第4号証の視野1乃至視野10の写真について、「外表面の開孔率」を改めて算出したところ、イ号物品にかかる中空糸膜の「外表面の開孔率」は、29.1‰と算出された(乙第5号証)。
したがって、イ号物品は本件特許発明の構成要件(V)を充足しない。(答弁書16頁中段?下段)

第5.当審の判断
請求人と被請求人の主張は、実質的にイ号物品が本件特許発明の「外表面の開孔率」に係る構成要件(V)を充足するか否かについてのものであるから、まず、この点について検討する。

1.構成要件(V)の充足性
請求人が提出した甲第4号証(実験成績報告書)におけるイ号物品の「中空糸膜外表面の開孔率」の測定方法が、本件特許明細書に記載されたものであるか否か検討する。
(1)本件特許明細書に記載された「中空糸膜外表面の開孔率」の測定方法
i.本件特許明細書には、「中空糸膜外表面の開孔率」の測定方法について次の記載(【0048】)が存在する。
「8.中空糸膜外表面の開孔率
中空糸膜外表面を10,000倍の電子顕微鏡で観察し写真(SEM写真)を撮影する。その画像を画像解析処理ソフトで処理して中空糸膜外表面の開孔率を求めた。画像解析処理ソフトは、例えばImage Pro Plus(Media Cybernetics,Inc.)を使用して測定する。取り込んだ画像を孔部と閉塞部が識別されるように強調・フィルタ操作を実施する。その後、孔部をカウントし、孔内部に下層のポリマー鎖が見て取れる場合には孔を結合して一孔とみなしてカウントする。測定範囲の面積(A)、および測定範囲内の孔の面積の累計(B)を求めて開孔率(%)=B/A×100で求めた。これを10視野実施してその平均を求めた。初期操作としてスケール設定を実施するものとし、また、カウント時には測定範囲境界上の孔は除外しないものとする。」

上記記載について以下検討する。
上記「取り込んだ画像を孔部と閉塞部が識別されるように強調・フィルタ操作を実施する。」との記載は、SEM写真の画像を、強調・フィルタ操作によって、明るさが所定閾値以上の明部と明るさが所定閾値未満の暗部とに分け、暗部を孔として、明部を閉塞部、つまり孔の無い中空糸膜外表面として識別することをいうものと解される。
該記載に続く「その後、孔部をカウントし」との記載は、暗部を孔としてカウントすることをいうものと解される。
該「その後、孔部をカウントし」との記載に続いて「孔内部に下層のポリマー鎖が見て取れる場合には孔を結合して一孔とみなしてカウントする。」との記載が存在するが、「孔内部に下層のポリマー鎖が見て取れる」ことからして、「孔内部」がSEM写真の画像を強調・フィルタ操作して得られた明るさが所定閾値未満の暗部の内部でないことは明らかである。
そうすると、本件特許明細書に記載された「中空糸膜外表面の開孔率」の測定方法は、請求人が主張するような「暗く見える部分」と「本来は孔部でありながら下層のポリマー鎖によって明るく見えてしまった部分」とが含まれる「本来の孔」の領域の存在を前提とするものといえるから、上記「孔内部に下層のポリマー鎖が見て取れる場合には孔を結合して一孔とみなしてカウントする。」との記載は、本来の孔の領域の内部に、中空糸膜外表面に対して下層のポリマー鎖(明部)が見て取れる場合には、該本来の孔の領域の内部に存在する孔(暗部)と下層のポリマー鎖(明部)とを結合し、一つの孔とみなしてカウントすることをいうものと解される。
また、本件特許明細書には、「下層のポリマー鎖」について「孔内部に下層のポリマー鎖が見て取れる場合には孔を結合して一孔とみなしてカウントする。」と記載されているのみであるが、「下層のポリマー鎖」が中空糸膜外表面に対して下側の層を形成するものであることは明らかであるから、中空糸膜外表面に対して下側の層を形成する「ポリマー鎖」は、中空糸膜外表面から連続しているか否かにかかわらず、「下層のポリマー鎖」といえる。
しかも、中空糸膜外表面に対して下側の層を形成する「ポリマー鎖」は、中空糸膜外表面から連続しているか否かにかかわらず、「本来の孔内部に」明るく「見て取れる」ことは明らかである。
そして、「下層のポリマー鎖」についてのこのような解釈は、本件特許明細書における「下層のポリマー鎖」についての上記記載と整合するものである。

以上によれば、本件特許明細書に記載された「中空糸膜外表面の開孔率」の測定方法は、SEM写真の画像を強調・フィルタ操作によって、明るさが所定閾値以上の明部と明るさが所定閾値未満の暗部とに分け、暗部を孔として、明部を閉塞部、つまり孔の無い中空糸膜外表面として識別し、その後、暗部を孔としてカウントし、本来の孔の領域の内部に、中空糸膜外表面に対して下層のポリマー鎖(明部)が見て取れる場合には、該本来の孔の領域の内部に存在する孔(暗部)と下層のポリマー鎖(明部)とを結合し、一つの孔とみなしてカウントするものである。

ii.本件特許明細書における、
「上記したもう一つの課題である中空糸膜同士の固着を回避する方法としては、膜の外表面の開孔率を25%以上にする方法が開示されている。(例えば、特許文献5参照)。確かに、該方法は固着を回避する方法としては好ましい方法であるが、開孔率が高いために膜強度が低くなり前記した血液リークの課題につながるという問題を有している。また、膜の外表面の開孔率や孔面積を特定値化した方法が開示されている。(例えば、特許文献6参照)。該方法は透水率が低いという課題を有している。」(【0008】)との記載、
「また、本発明においては、請求項1に記載のごとく、中空糸膜外表面の開孔率が8?25%であることや、中空糸膜外表面における開孔部の平均孔面積が0.3?1.0μm^(2)であることが前記した特性を付与するために有効であり、好ましい実施態様である。開孔率が8%未満や平均孔面積は0.3μm^(2)の場合には、透水率が低下する可能性がある。そのため、開孔率は9%以上がより好ましく、10%以上がさらに好ましい。平均孔面積は0.4μm^(2)がより好ましく、0.5μm^(2)がさらに好ましく、0.6μm^(2)がよりさらに好ましい。また、膜を乾燥させた時に膜外表面に存在する親水性高分子が介在し中空糸膜同士が固着し、モジュール組み立て性が悪化する等の課題を引き起こす。逆に開孔率が25%を超えたり、平均孔面積が1.0μm^(2)を超える場合には、バースト圧が低下することがある。そのため、開孔率は23%以下がより好ましく、20%以下がさらに好ましく、17%以下がよりさらに好ましく、特に好ましくは15%以下である。平均孔面積は0.95μm2以下がより好ましく、0.90μm^(2)以下がさらに好ましい。」(【0008】)との記載からして、
本件特許明細書には、本件特許発明における「外表面の開孔率」を所定範囲とすることにより、透水率を低下させず中空糸膜同士の固着を回避し、かつ、バースト圧が低下しないようにできることが記載されているといえる。

本件特許明細書には、「孔内部に」「見て取れる」「下層のポリマー鎖」が中空糸膜外表面から連続している場合には上記作用効果を奏することができないとか、「孔内部に」「見て取れる」「下層のポリマー鎖」が中空糸膜外表面から連続していない場合にのみ上記作用効果を奏することができると解すべき記載や、「孔内部に」「見て取れる」「下層のポリマー鎖」が中空糸膜外表面から連続しているか否かにより、中空糸膜外表面に形成された孔の3次元的連続構造が左右されると解すべき記載は見出せない。
そして、中空糸膜外表面に形成された孔は3次元的に連続している可能性があって、取り込んだ中空糸外表面の画像を見ただけでは中空糸外表面の孔の3次元的連続構造を判断することができないことからすれば、本件特許明細書に記載された「中空糸膜外表面の開孔率」の測定方法は、孔の構造にかかわらず取り込んだ中空糸外表面の画像を強調・フィルタ操作したものの明暗情報に基づいて孔の領域を判断するようにしたものと解されるから、「孔内部」の「下層のポリマー鎖」が中空糸膜外表面から連続していても、「見て取れる」程度に明るければ、本来の孔の領域内のものとみなして暗部と結合し、孔としてカウントするものといえる。

iii.請求人は、本件特許明細書の記載からすれば、表面から落ち窪んでいる部分の傾斜が緩やかものは、明るく見えるから表層部と解釈されるべきであり、本件特許発明に係る「開孔」とはいえない旨主張する。
しかしながら、本件特許明細書の記載からして、本件特許発明に係る「中空糸膜外表面の開孔率」の測定方法が、SEM写真の画像を強調・フィルタ操作によって、明るさが所定閾値以上の明部と明るさが所定閾値未満の暗部とに分け、暗部を孔として、明部を閉塞部、つまり孔の無い中空糸膜外表面として識別し、その後、暗部を孔としてカウントし、本来の孔の領域の内部に、中空糸膜外表面に対して下層のポリマー鎖(明部)が見て取れる場合には、該本来の孔の領域の内部に存在する孔(暗部)と下層のポリマー鎖(明部)とを結合し、一つの孔とみなしてカウントするものであることは前記i.のとおりであって、請求人が主張するように、表面から落ち窪んでいる部分の傾斜が緩やかなものが明るく見えたとしても、それは、本件特許明細書の記載からすれば、本来の孔の領域の内部に存在する下層のポリマー鎖(明部)として識別されるとともに、本来の孔の領域の内部に存在する孔(暗部)と結合され、一つの孔とみなしてカウントされるものであるから、請求人の上記主張は採用することができない。

iv.請求人は、表面から落ち窪んでいる場合において、特にそれがなだらかに傾斜している程度では、親水性高分子の介在による固着を免れることができず、この部分における親水性高分子の介在による固着状況は、外表面における固着状況と殆ど区別し得ないほどであると主張する。
しかしながら、請求人が主張するような事象が生じるとしても、この事象により本件特許明細書の記載から導かれる上記「中空糸膜外表面の開孔率」の測定方法が否定される程の根拠は見出せず、請求人の上記主張は採用することができない。

v.以上のとおり、本件特許明細書に記載された「中空糸膜外表面の開孔率」の測定方法は、本来の孔の領域の内部に見て取れる、中空糸膜外表面に対して下層のポリマー鎖(明部)が中空糸膜外表面から連続している場合にも、該本来の孔の領域の内部に存在する孔(暗部)と下層のポリマー鎖(明部)とを結合し、一つの孔とみなしてカウントするものといえる。

(2)請求人の「中空糸膜外表面の開孔率」の測定方法について
i.請求人がイ号物品について中空糸膜外表面の開孔率測定を行った実験成績報告書(甲第4号証)の「6.測定方法」の項には、次の記載が存在する。
「・・・(3)画像解析ソフトウェアにより取り込んだ画像を特許第3594032号の明細書における段落【0048】の記載に従い、孔部と閉塞部
が識別されるように強調・フィルタ操作を実施し、ノイズを除去後、孔部を認識させカウントを行った。・・・尚、視野1を代表的に選んで補足説明すると、開孔率測定画像に赤丸で示したような部分で見て取れるのは、表層部の連続層に過ぎず、孔内部の下層のポリマー層ではないので孔を結合して一孔とみなすような処理は行わない。」
上記「開孔率測定画像に赤丸で示したような部分で見て取れるのは、表層部の連続層に過ぎず、孔内部の下層のポリマー層ではないので孔を結合して一孔とみなすような処理は行わない。」との記載からして、請求人による中空糸膜外表面の開孔率測定においては、「孔内部に」「見て取れる」「下層のポリマー鎖」が中空糸膜外表面から連続している場合には「孔を結合して一孔とみなしてカウント」しないものといえ、この点で、請求人の「中空糸膜外表面の開孔率」の測定方法は、本件特許明細書に記載された「中空糸膜外表面の開孔率」の測定方法と相違する。

(3)したがって、請求人が提出した甲第4号証(実験成績報告書)におけるイ号物品の中空糸膜の「外表面の開孔率」についての測定結果(22.7%)は、本件特許明細書に記載された「中空糸膜外表面の開孔率」の測定方法に従って測定されたものとはいえない。
また、請求人が提出した甲第3号証の1(分析データ:外表面の開孔率23%)、甲第3号証の2(実験成績報告書:外表面の開孔率22.7%)に示されるイ号物品の中空糸膜の「外表面の開孔率」についての測定結果は、甲第4号証の「中空糸膜外表面の開孔率」の測定方法と同じ測定方法によるものであることが明らかであるから、本件特許明細書に記載された「中空糸膜外表面の開孔率」の測定方法に従って測定されたものとはいえない。
よって、請求人が提出した甲第4号証、甲第3号証の1、甲第3号証の2の測定結果からでは、イ号物品の中空糸膜の「外表面の開孔率」が8?25%であるとはいえない。
(なお、被請求人が指摘する乙第6号証において赤矢印で指し示す箇所は、甲第4号証の測定において輪郭を補うとか補わないといった判別乃至識別作業は行っていないとの請求人の主張と整合するとはいえない。)

(4)以上のとおりであるから、請求人が提出した甲第4号証、甲第3号証の1、甲第3号証の2の測定結果からでは、イ号物品の中空糸膜について本件特許明細書に記載された「中空糸膜外表面の開孔率」の測定方法により測定した「外表面の開孔率」が8?25%であるとはいえず、イ号物品は、本件特許発明の構成要件(V)を充足しない。

第6.むすび
以上のとおり、イ号物品は、本件特許発明の構成要件(V)を充足しないから、本件特許発明の他の構成要件について判断するまでもなく、本件特許発明の技術的範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。

イ号広告リーフレット(甲第2号証の1)

 
判定日 2013-04-26 
出願番号 特願2003-209839(P2003-209839)
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 稲村 正義  
特許庁審判長 横林 秀治郎
特許庁審判官 松下 聡
関谷 一夫
登録日 2004-09-10 
登録番号 特許第3594032号(P3594032)
発明の名称 高透水性中空糸膜型血液浄化器  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 根本 浩  
代理人 植木 久彦  
代理人 菅河 忠志  
代理人 柴田 有佳理  
代理人 内藤 和彦  
代理人 上野 さやか  
代理人 植木 久一  
代理人 山田 拓  

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