• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2010800087 審決 特許
無効2009800243 審決 特許
無効2012800032 審決 特許
無効2012800042 審決 特許
無効2013800042 審決 特許

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A61K
管理番号 1274140
審判番号 無効2010-800088  
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-05-11 
確定日 2013-04-15 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3973280号「医薬」の特許無効審判事件についてされた平成23年 3月22日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成23年(行ケ)第10146号、10147号、平成24年 4月11日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3973280号の請求項1ないし9に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3973280号(以下、「本件特許」という。)は、平成8年6月18日(国内優先権主張日 平成7年6月20日)にした特願平8-156725号の一部を平成9年12月26日に新たな特許出願としたもので、平成19年6月22日に特許権の設定の登録がされたものである。
これに対して、請求人は、平成22年5月11日に、請求項1?10に係る各発明についての特許を無効とする審決を求めて特許無効審判を請求し、被請求人は同年7月27日に答弁書を提出するとともに特許請求の範囲の訂正を請求し、平成23年2月2日に訂正請求書に添付した訂正明細書を補正する手続補正書を提出した。
平成23年3月22日付けで「訂正を認める。請求項1?6に係る発明についての特許を無効とする。請求項7?9に係る発明についての審判請求は、成り立たない。」との審決がされたが、知的財産高等裁判所において同審決を取消す判決がされ(平成23年(行ケ)10146号、10147号、平成24年4月11日判決言渡)、最高裁判所において上記判決に対する上告を棄却する旨及び上告審として受理しない旨の決定(平成24年(行ツ)第00219号,平成24年(行ヒ)第00255号,平成24年10月16日)がされ、上記判決は確定した。
その後、平成24年12月17日付けで、被請求人に対して請求項1?6についての無効理由を通知するとともに、請求人に対して同じ内容の職権審理結果を通知し、相当の期間を指定して意見を申し立てる機会を与えたが、当事者双方から意見は申し立てられなかった。

第2 訂正請求について
(1)平成22年7月27日付け訂正請求(以下、「本件訂正」という。)の内容
本件訂正は、特許請求の範囲を訂正明細書のとおり訂正することを求めるものである。平成23年2月2日付けの手続補正は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項2において引用請求項として記載していた「請求項2」を「請求項1」と補正するものであるが、訂正明細書の特許請求の範囲における明らかな誤記を補正するもので、請求の要旨を変更するものではない。
よって、訂正事項は、以下のとおりと認める(下線部は訂正箇所である)。

訂正事項1:
訂正前の請求項1
「【請求項1】ピオグリタゾンまたはその薬理学的に許容しうる塩と,ビグアナイド剤およびスタチン系化合物の少なくとも一種とを組み合わせてなる,糖尿病または糖尿病性合併症の予防・治療用医薬。」 を
「【請求項1】ピオグリタゾンまたはその薬理学的に許容しうる塩と,ビグアナイド剤とを組み合わせてなる,糖尿病または糖尿病性合併症の予防・治療用医薬。」
と訂正する。

訂正事項2:
訂正前の請求項2を削除する。

訂正事項3:
上記削除に伴い、訂正前の請求項3?10の請求項番号をそれぞれ、2?9と訂正するとともに、訂正前の請求項3、4が引用していた「請求項2」を「請求項1」と、訂正前の請求項6が引用していた「請求項5」を「請求項4」と、訂正前の請求項9が引用していた「請求項8」を「請求項7」と、訂正前の請求項10が引用していた「請求項9」を「請求項8」と、訂正する。

(2)訂正の確定
訂正前の請求項2を削除する訂正(訂正事項2に係る訂正)は、これを認めるとした平成23年3月22日付け審決の送達とともに確定した。

(3)訂正請求の適否
訂正事項1は、訂正前の請求項1における「ビグアナイド剤およびスタチン系化合物の少なくとも一種」を「ビグアナイド剤」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項3は、先行する請求項の削除に伴って請求項の項番号又は引用する請求項の項番号を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、上記訂正事項1及び3はいずれも、無効審判請求の対象となっている請求項についての訂正であるところ、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、本件訂正は、平成23年法律第63号改正前特許法第134条の2第1項ただし書の規定及び同条第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3 当事者の主張の概要
1.請求人の主張の概要
請求人は、訂正前の請求項1?10に対して無効理由1?3を主張していたが、上記のとおり訂正の一部が確定し残りの訂正も認容されたので、無効理由の対象となる請求項は、訂正後の請求項1?9となる。請求人が主張する無効理由の概要は、次のとおりであり、甲第1号証?甲第7号証(以下、「甲1」?「甲7」ということがある)を提出している。

(1)無効理由1
発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第4項第1号(審決注;平成14年法律第24号改正前特許法第36条第4項の誤りと認める)及び同条第6項第1号に違反しており、本件請求項1?9に係る発明は特許を受けることができない。
(2)無効理由2
本件請求項1に係る発明は、甲4に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(3)無効理由3
本件請求項1、4?9に係る発明は、甲1?甲4に基づいて、請求項2及び3に係る発明は、甲1?5に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<証拠方法>
甲第1号証: medicina vol.30, no.8, (1993-8) p.1471-1473
甲第2号証: medicina vol.30, no.8, (1993-8) p.1540-1542
甲第3号証: Therapeutic Research vol.14, no.10, (1993) p.4122-4126
甲第4号証: 総合臨床 vol.43, no.11 (1994:11) p.2615-2621
甲第5号証: 医薬ジャーナル,Vol.30,No.4, (1994)p.1141-1144
甲第6号証: Drugs 44(Suppl.3) p.21-28 (1992)
甲第7号証: Diabete & Metabolisme 19(6) p.547-559 (1993)

2.被請求人の主張
被請求人は、請求人の主張する無効理由1?3はいずれも理由がないと主張し、乙第1号証?乙第34号証(以下、「乙1」?「乙24」ということがある)を提出している。

<証拠方法>
乙第1号証: アクトスインタビューフォーム
乙第2号証: アクトス添付文書
乙第3号証: スターシス添付文書
乙第4号証: グルファスト添付文書
乙第5号証: ジャヌビア添付文書
乙第6号証: ベイスン添付文書
乙第7号証: グルコバイ添付文書
乙第8号証: セイブル添付文書
乙第9号証: メルビン添付文書
乙第10号証: ジベトス添付文書
乙第11号証: オイグルコン添付文書
乙第12号証: アマリール添付文書
乙第13号証: ラスチノン添付文書
乙第14号証: グリミクロン添付文書
乙第15号証: エクア添付文書
乙第16号証: ネシーナ添付文書
乙第17号証: Diabetes Research and Clinical Practice, 11, p.147-153 (1991)
乙第18号証: Arzneimittel Forschung/Drug Research, Vol.40 (1) p.263-267 (1990)
乙第19号証: 「インクレチンとSU薬の適正使用について」日本糖尿病協会ホームページ(http://www.nittokyo.or.jp/kinkyu_incretin100408m.html)
乙第20号証: Diabetes Care, 13, (1990) p.1-8,及び抄訳
乙第21号証: MARTINDALE The Extra Pharmacopoeia, thirtieth edition, p.276 and p.289,及び抄訳
乙第22号証: 平成19年1月15日付意見書抜粋
乙第23号証: 再検定結果
乙第23号証の2: 乙第23号証を補充する実験成績証明書
乙第24号証: 対応欧州特許出願提出書類(1)抜粋,及び抄訳
乙第24号証の2: 乙第24号証を補充する実験成績証明書
乙第25号証: 対応欧州特許出願提出書類(2)抜粋,及び抄訳
乙第25号証の2: 乙第25号証を補充する実験成績証明書
乙第26号証: 対応欧州特許出願提出書類(3)抜粋,及び抄訳
乙第26号証の2: 乙第26号証を補充する実験成績証明書
乙第27号証: Am J Clin Nutri, 32, p.2723-2733 (1979),及び抄訳
乙第28号証: Diabetologia, 24, p.404-411 (1983),及び抄訳
乙第29号証: 甲第1号証と甲第3号証の著者である川崎医科大学 加来浩平教授の陳述書
乙第34号証: メルビン錠250mgインタビューフォーム
参考資料1: 経口血糖降下薬の臨床評価方法に関するガイドライン
参考資料2: 「経口血糖降下薬の臨床評価方法に関するガイドライン」に関する質疑応答集(Q&A)

第4 本件発明
上記第2で示したとおり訂正の一部が確定し残りの訂正も認容されたので、本件特許の請求項に係る発明は、訂正請求書に添付され、平成23年2月2日付けで補正された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1?9に記載された以下のとおりのものである。

【請求項1】ピオグリタゾンまたはその薬理学的に許容しうる塩と、ビグアナイド剤とを組み合わせてなる、糖尿病または糖尿病性合併症の予防・治療用医薬。
【請求項2】ビグアナイド剤がフェンホルミン、メトホルミンまたはブホルミンである請求項1記載の医薬。
【請求項3】ビグアナイド剤がメトホルミンである請求項1記載の医薬。
【請求項4】医薬組成物である請求項1記載の医薬。
【請求項5】医薬組成物が錠剤である請求項4記載の医薬。
【請求項6】0.05?5mg/kg体重の用量のピオグリタゾンまたはその薬理学的に許容しうる塩を含有する請求項1記載の医薬。
【請求項7】0.05?5mg/kg体重の用量のピオグリタゾンまたはその薬理学的に許容しうる塩と、グリメピリドとを組み合わせてなる、糖尿病または糖尿病性合併症の予防・治療用医薬。
【請求項8】医薬組成物である請求項7記載の医薬。
【請求項9】医薬組成物が錠剤である請求項8記載の医薬。

以下、請求項1?9に係る各発明を、それぞれの請求項の番号に対応させて、「本件発明1」?「本件発明9」という。

第5 当審の判断
1.本件発明7?9について
知的財産高等裁判所は、平成24年4月11日言渡の判決において、甲3(判決でいう「引用例3」)に基づく、本件発明7?9の容易想到性につき、以下のとおり判示した。

「・・・引用例3の図3には,「ピオグリタゾン又はその薬理学的に許容し得る塩と,グリメピリドとを組み合わせてなる,糖尿病又は糖尿病性合併症の予防・治療薬」という発明が記載されているものと認められ,その結果,本件審決が認定した本件発明7との相違点1は存在しないものというべきである。すなわち,本件審決による引用発明の認定は誤りであり,これに伴い,本件審決が認定した相違点1も,その存在を認めることができず,本件発明7と引用例3に記載の発明との相違点は,本件審決が認定した相違点2にとどまる。
そこで,次に,相違点2に係る容易想到性についてみると,ピオグリタゾンの作用機序は,前記1(4)に認定のとおり,本件出願日当時の技術常識であったことに加えて,引用例3には,前記1(3)ウ(イ)に記載のとおり,ピオグリタゾンが30mg/日で十分な血糖降下作用を発揮するものと思われる旨の記載があるところ,糖尿病患者の体重を50ないし100kg と仮定すると,ピオグリタゾンの当該用量は,0.3ないし0.6mg/kg ということになるが,これは,本件発明6で特定されている用量(0.05?5mg/kg)と重複するものである。したがって,引用例3に接した当業者は,本件発明7の相違点2に係る上記構成を容易に想到することができたものといえる。
また,引用例3に記載の発明及び本件発明7が,糖尿病又は糖尿病合併症の予防・治療薬という同じ技術分野に属する以上,当業者は,当該技術分野の技術常識に基づいて本件発明7を医薬組成物(本件発明8)とし,あるいは当該医薬組成物を錠剤(本件発明9)とすることを容易に想到することができたものといえる。
よって,本件発明7ないし9は,いずれも引用例3に記載の発明及び当該技術分野の技術常識に基づいて容易に想到することができたものというべきであって,本件発明7ないし9を無効とすることができないとした本件審決は,容易想到性に関する判断を誤るものとして取消しを免れない。」

上記判決は、行政事件訴訟法第33条第1項の規定により、本特許無効審判事件について、当合議体を拘束する。
よって、本件発明7?9は、甲3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件請求項7?9に係る発明についての特許は特許法第123条第1項第2号に該当する。

2.本件発明1?6について
本件発明1?6は、平成24年12月17日付けで通知した以下の無効理由のとおり、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件請求項1?6に係る発明についての特許は特許法第123条第1項第2号に該当する。

2-1.請求項1に係る発明(本件発明1)について
(1)引用文献の記載
本件優先日前に頒布された刊行物であるDiabetes Research and Clinical Practice, 11, (1991) p.147-153(被請求人が提出した乙17)には、以下の事項が記載されている(以下、乙17に添付された翻訳文にしたがって摘示する。下線は当審による。)。

ア.「CS-045・・・は、インスリン非依存型糖尿病(NIDDM)のいくつかの動物モデルにおいて、おそらくはインスリン感受性を高めることによって血漿グルコースを低下させる。有害作用は、健常男性被験者での第1相試験でほとんど見出されなかった。男性のNIDDMでの血漿グルコース低下作用の効力を試験するために、CS-045のパイロット多施設臨床試験を、その血糖コントロールが食事および/または他の経口血糖降下薬では十分でない(FPG>140mg/dL)146名のNIDDM患者で実施した。以前からの治療に加えて、CS-045を、1日量200mgまたは400mgで12週間経口投与した。・・・FPGが初期値の20%を超えて低下したという点で、薬物は患者の39%で有効であった。この有効率は、CS-045を単独で投与した場合と他の経口血糖降下剤と一緒に投与した場合で同一であった。・・・」(要約)
イ.「CS-045を204名の患者に投与した。61名にはCS-045のみを与え、143名は他の血糖降下薬を併用して服用した(120名はスルホニルウレアを、22名はスルホニルウレアとビグアナイドを服用し、1名はインスリンで治療した。)」(149頁左欄2?7行)
ウ.「有効性を評価するために、血糖コントロールの改善の程度を、ベースライン値からのFPGの減少パーセントによって、4つのカテゴリーに分類した。そのFPGが、30%またはそれ以上、20?29%、10?19%、および10%未満減少したものを、それぞれ、著しい改善、中等度の改善、わずかな改善、改善なしと判断した。表2に示すように、著しい改善と中等度の改善とを合わせた比率は、39%であり、CS-045を単独で投与した群と、CS-045に加えて他の経口血糖降下薬を使用した群との間に差異はなかった。」(149頁右欄19行?150頁左欄1行)

上記ア.イ.の記載事項から、乙17には、「CS-045と、スルホニルウレア及びビグアナイドとを組み合わせてなる、インスリン非依存型糖尿病の治療用医薬」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)技術常識を示す文献の記載
甲1(medicina, vol.30, no.8, (1993-8) p.1471-1473 )には、以下の事項が記載されている。
「末梢でのインスリン抵抗性を改善する薬剤として、CS-045、AD-4833がある・・・」(1472頁右欄末行?1473行左欄2行)

甲2(medicina, vol.30, no.8, (1993-8) p.1540-1542)には、以下の事項が記載されている。
「インスリン感受性改善剤
1. CS-045
・・・
2. Pioglitazone(AD-4833)
・・・」(1540頁左欄13行?右欄14行)

甲3(Therapeutic Research, vol.14, no.10, (1993) p.4122-4126)には、以下の事項が記載されている。
ア.「いわゆるインスリン抵抗性改善薬の開発は臨床サイドから長年望まれていた。10年まえに開発されたシグリタゾン(ADD3878)は臨床応用にいたらなかったが、近年その類似物質としてCS-045(トログリタゾン)、AD4833(ピオグリタゾン)が登場し臨床上での有用性が期待されている。」(4123頁右欄15?21行)
イ.「2)AD-4833(ピオグリタゾン)
・・・用量的には30mg/日で十分な血糖降下作用を発揮するものと思われる。」(4124頁左欄下から9行、右欄12?14行)

甲4(総合臨床,vol.43, no.11 (1994:11) p.2615-2621)には、以下の事項が記載されている。
「空腹時血糖が110mg/dlから139mg/dlであれば、空腹時の肝糖産生抑制するために就寝前にスルフォニール尿素剤の経口投与、あるいはインスリン抵抗性改善剤やビグアナイド剤の投与が認められるが、やはりそれらとα-グリコシダーゼ阻害剤の併用が好ましい。」(2620頁左欄9行?右欄3行)

甲5(医薬ジャーナル,vol.30, no.4, (1994) p.1141-1144)には、以下の事項が記載されている。
ア.「2.BG剤の変遷
・・・1957年、フェンホルミンが登場したのを皮切りに、わが国でもその後、これに加えてメトホルミン(metformin)、ブホルミン(buformin)が使用されるに至った(図1)。」(1141頁(43頁)右欄1?11行)
イ.「BG剤は前述の理由で、わが国ではSU剤使用のみでは良好な血糖コントロールが得られないNIDDM患者に補助的に用いられているのが実情であるが、ヨーロッパでは以下の3つの場合が適応と考えられている。
第1は、肥満NIDDM患者である。・・・このような肥満NIDDMに対して、BG剤を使用することで内因性インスリンを有効に利用して血糖コントロールが得られる場合がある。
ヨーロッパでは、フェンホルミン事故以来、放棄されていたこのような肥満NIDDMに対するBG剤単独使用法が見直されつつある。わが国でもこの事例における系統的な臨床検討を行っても良い時期に来ていると、筆者らは考えている。・・・」(1142頁左欄下から9行?右欄13行)

(3)本件発明1と引用発明の対比
引用発明における「インスリン非依存型糖尿病」が本件発明1における「糖尿病」に相当することは明らかである。また、本件発明1におけるピオグリタゾン及び引用発明におけるCS-045が、いずれも、インスリン抵抗性改善剤であることは、本件優先日前に周知の事項であった(上記(2)甲1?甲3の記載等参照)。
そうすると、本件発明1と引用発明とは、「インスリン抵抗性改善剤とビグアナイド剤とを組み合わせてなる、糖尿病の治療用医薬」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]
インスリン抵抗性改善剤が、本件発明1においては「ピオグリタゾン」であるのに対し、引用発明においては「CS-045」である点。
[相違点2]
引用発明においてはさらにスルホニルウレアも組み合わせているのに対し、本件発明1においてはスルホニルウレアを組み合わせることが特定されていない点。

(4)相違点についての検討
ア.相違点1について
上記のとおり、CS-045及びピオグリタゾンはいずれもインスリン抵抗性改善剤という同じ作用機序の薬剤であるから、乙17に記載された、CS-045とスルホニルウレア及びビグアナイド剤との組み合わせにより得られるのと同様の効果を期待して、引用発明におけるCS-045に代えて、同じインスリン抵抗性改善剤であるピオグリタゾンを用いることは、当業者が容易になし得ることである。

イ.相違点2について
請求項1には、「ピオグリタゾンまたはその薬理学的に許容しうる塩と、ビグアナイド剤とを組み合わせてなる・・・医薬」と記載されており、この記載は、ピオグリタゾンまたはその薬理学的に許容しうる塩とビグアナイド剤とを組み合わせた医薬であればよく、この二成分にさらに第三の成分を組み合わせた医薬を排除するものではないから、相違点2は実質的な相違点であるとはいえない。
仮に、相違点2を実質的な相違点であると解したとしても、以下の理由により、引用発明においてスルホニルウレアを組み合わせないことは、当業者が容易に想到することである。
乙17には、血糖コントロールが他の経口血糖降下薬では十分でないNIDDM(インスリン非依存型糖尿病)患者に対して、他の経口血糖降下薬による治療に加えてCS-045を併用投与する試験において(上記(1)ア.)、他の経口血糖降下薬として、スルホニルウレア、スルホニルウレアとビグアナイド、又はインスリンが用いられたこと(上記(1)イ.)、CS-045を単独で投与した群と、CS-045を他の経口血糖降下剤(スルホニルウレア、スルホニルウレアとビグアナイド剤、又はインスリン)と一緒に投与した群とは、FPG(空腹時血漿グルコース)が初期値(ベースライン値)の20%を超えて低下したという点において有効率が同一であったこと(上記(1)ア.ウ.)が記載されている。このことから、スルホニルウレア、スルホニルウレア及びビグアナイド剤、又はインスリンと、CS-045とを併用した場合、CS-045とスルホニルウレア、ビグアナイド剤又はインスリンとは拮抗することなく、スルホニルウレア、スルホニルウレア及びビグアナイド剤、又はインスリンによっては十分に低下しない血糖値をCS-045がさらに低下させることが認められる。
一方、上記(2)の甲4の記載及び甲5のイ.の記載によれば、患者の病状によっては、ビグアナイド剤がスルホニルウレアと併用されることなく使用されることが認められる。
以上のことから、乙17に記載された、「他の経口血糖降下剤」としてスルホニルウレアとビグアナイドを服用している患者に対してCS-045を併用投与することに代えて、「他の経口血糖降下剤」としてビグアナイドのみを服用している患者に対してCS-045を併用しても、CS-045とビグアナイド剤は拮抗することなく、ビグアナイド剤による血糖値の低下に加えてCS-045がさらに血糖値を低下させて、糖尿病を治療できると理解できる。
したがって、引用発明においてスルホニルウレアを組み合わせないことは、当業者が容易に想到することである。

ウ.本件発明1の効果について
被請求人は、乙22の実験データは、ピオグリタゾンとメトホルミンの併用投与により、それぞれの単独投与に比べて血漿グルコース濃度が著しく低下し、ピオグリタゾン単独投与に比較して体重増加が抑制されることを実証しており、また、乙24の実験データは、ピオグリタゾンとブホルミンの併用投与により、それぞれの単独投与に比べて血漿グルコース濃度が著しく低下し、ピオグリタゾン単独投与に比較して体重増加が抑制されることを実証しているとして、本件発明の構成により、それぞれ単独で使用する場合に比較して少量で優れた血糖降下作用が得られ、それゆえ体重増加の副作用を低減できるという作用効果が達成されると主張する(答弁書30?31頁の7.7.2のA.、同34?35頁の7.7.3)。
しかしながら、上記イ.で述べたとおり、乙17からはCS-045とビグアナイドを併用した場合、CS-045とビグアナイド剤は拮抗することなく、ビグアナイド剤による血糖値の低下に加えてCS-045がさらに血糖値を低下させることが理解できるところ、CS-045とピオグリタゾンはインスリン抵抗性改善剤という同じ作用機序の薬剤であることから、ピオグリタゾンとビグアナイド剤を併用しても、同様に、ピオグリタゾンとビグアナイド剤は拮抗することなく、ビグアナイド剤による血糖値の低下に加えてCS-045がさらに血糖値を低下させ、いわゆる相加的効果が得られることが予想される。乙22、乙24に示された血漿グルコース濃度に関する実験データは、乙17及び技術常識から当業者が予想しうる相加的効果を示すものにすぎない。仮に、乙22、乙24に示された血漿グルコース濃度に関する実験データが、乙17及び技術常識から当業者が予想できる程度を越える相乗的効果を示すものであると主張するのであれば、本件明細書には、ピオグリタゾンとビグアナイドの併用による効果を示す具体的なデータは何ら示されていないばかりか、本件発明1がそのような相乗的効果を奏することを伺わせる記載も示唆もないのであるから、出願後に提出された乙22、乙24の血漿グルコース濃度に関するデータを参酌すべき基礎がないということになり、乙22、乙24を参酌することはできない。
また、本件明細書には、本件各発明が副作用を低減できることについて一般的ないし抽象的な記載があるにとどまり(段落[0004]、[0040]、[0045])、ピオグリタゾンとビグアナイドの併用により体重増加の副作用が低減できることについて具体的な記載はないから、出願後に提出された乙22、乙24の体重増加量に関する実験データを参酌すべき基礎がなく、乙22、乙24を参酌することはできない。

エ.まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は、乙17に記載された発明及び甲1?5の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2-2.請求項2、3に係る発明(本件発明2、3)について
ビグアナイド剤として、フェンホルミン、メトホルミン又はブホルミンがあることは本件優先日前に公知であった(上記2-1.(2)の甲5のア.の記載参照)から、ビグアナイド剤としてこれらの薬剤を用いることは、当業者が容易になし得ることである。
したがって、本件発明2、3は、乙17に記載された発明及び甲1?5の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2-3.請求項4、5に係る発明(本件発明4、5)について
ピオグリタゾンとビグアナイドを併用投与する際に、両成分を医薬組成物とすること、さらにこれを錠剤とすることは、当業者が適宜なし得ることにすぎない。
したがって、本件発明4、5に係る発明は、乙17に記載された発明及び甲1?5の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2-4.請求項6に係る発明(本件発明6)について
甲3に記載されたピオグリタゾンの用量30mg/日(上記2-1.(2)の甲3のイ.の記載参照)を、糖尿病患者の体重を50ないし100kgと仮定して体重当たりに換算すると、0.3ないし0.6mg/kgになり、これは、請求項6に規定された用量の範囲(0.05?5mg/kg体重)と重複する。
したがって、本件発明6に係る発明は、乙17に記載された発明及び甲1?5の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1?9に係る発明についての特許は、他の無効理由について検討するまでもなく、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
医薬
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、インスリン感受性増強剤とそれ以外の作用機序を有する他の糖尿病予防・治療薬とを組み合わせてなる医薬に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、糖尿病の病態の解明が進み、それに対応する薬物の開発が進められた結果、次々と新しい作用機序をもった薬物が臨床の場に登場してきた。なかでも、インスリン感受性増強剤は、インスリン作用が障害を受けている受容体の機能を正常化する作用、すなわち、インスリン抵抗性解除剤とも言われるもので、脚光を浴びつつある。
このインスリン感受性増強剤としては、ピオグリタゾンに代表される優れたインスリン感受性増強剤が開発されている〔Fujita et al.,Diabetes,vol.32,804-810(1983)、特開昭55-22636(EP-A 8203)、特開昭61-267580(EP-A 193256)〕。ピオグリタゾンは、障害を受けているインスリン受容体の機能を元に戻すことによって、糖輸送担体の細胞内局在性を正常化したり、グルコキナーゼ等の糖代謝の中心となる酵素系あるいはリポ蛋白リパーゼ等の脂質代謝関連酵素系を正常化する。その結果、インスリン抵抗性は解除され、耐糖能が改善されるのみならず、中性脂肪や遊離脂肪酸も低下する。このピオグリタゾンの作用は比較的緩徐であり、長期投与においても殆ど副作用がなく、肥満を伴うインスリン抵抗性の強いと思われる患者には極めて有効である。
また、インスリン感受性増強剤であるCS-045、チアゾリジン誘導体または置換チアゾリジン誘導体とインスリンとを併用した報告がある(特開平4-66579、特開平4-69383、特開平5-202042)。しかしながら、本発明の特定の組み合わせを有する医薬については知られていない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
糖尿病は慢性の病気であり、かつその病態は複雑で、糖代謝異常と同時に脂質代謝異常や循環器系異常を伴う。その結果、病状は多種の合併症を伴って進行してゆく場合が多い。従って、個々の患者のそのときの症状に最も適した薬剤を選択する必要があるが、個々の薬剤の単独での使用においては、症状によっては充分な効果が得られない場合もあり、また投与量の増大や投与の長期化による副作用の発現など種々の問題があり、臨床の場ではその選択が困難な場合が多い。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記した状況に鑑み、薬物の長期投与においても副作用が少なく、且つ多くの糖尿病患者に効果的な糖尿病予防・治療薬について鋭意研究を重ねた結果、インスリン感受性増強剤を必須の成分とし、さらにそれ以外の作用機序を有する他の糖尿病予防・治療薬を組み合わせることでその目的が達成されることを見いだし、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、
(1)インスリン感受性増強剤と、アルドース還元酵素阻害剤、ビグアナイド剤、スタチン系化合物、スクアレン合成阻害剤、フィブラート系化合物、LDL異化促進剤およびアンジオテンシン変換酵素阻害剤の少なくとも一種とを組み合わせてなる医薬;
(2)一般式
【化9】

〔式中、R’はそれぞれ置換されていてもよい炭化水素または複素環基;Yは-CO-、-CH(OH)-または-NR^(3)-(ただしR^(3)は置換されていてもよいアルキル基を示す。)で示される基;mは0または1;nは0、1または2;XはCHまたはN;Aは結合手または炭素数1?7の2価の脂肪族炭化水素基;Qは酸素原子または硫黄原子;R^(1)は水素原子またはアルキル基をそれぞれ示す。環Eはさらに1?4個の置換基を有していてもよく、該置換基はR^(1)と結合して環を形成していてもよい。LおよびMはそれぞれ水素原子を示すかあるいは互いに結合して結合手を形成していてもよい。ただし、mおよびnが0;XがCH;Aが結合手;Qが硫黄原子;R^(1),LおよびMが水素原子;かつ環Eがさらに置換基を有しないとき、R’はベンゾピラニル基でない。〕で示される化合物またはその薬理学的に許容しうる塩と、インスリン分泌促進剤および/またはインスリン製剤とを組み合わせてなる医薬;および
(3)一般式
【化10】

〔式中、R’はそれぞれ置換されていてもよい炭化水素または複素環基;Yは-CO-、-CH(OH)-または-NR^(3)-(ただしR^(3)は置換されていてもよいアルキル基を示す。)で示される基;mは0または1;nは0、1または2;XはCHまたはN;Aは結合手または炭素数1?7の2価の脂肪族炭化水素基;Qは酸素原子または硫黄原子;R^(1)は水素原子またはアルキル基をそれぞれ示す。環Eはさらに1?4個の置換基を有していてもよく、該置換基はR^(1)と結合して環を形成していてもよい。LおよびMはそれぞれ水素原子を示すかあるいは互いに結合して結合手を形成していてもよい。ただし、mおよびnが0;XがCH;Aが結合手;Qが硫黄原子;R^(1),LおよびMが水素原子;かつ環Eがさらに置換基を有しないとき、R’はジヒドロベンゾピラニル基でない。〕で示される化合物またはその薬理学的に許容しうる塩と、インスリン分泌促進剤および/またはインスリン製剤とを組み合わせてなる医薬に関する。
以下に、
1)インスリン感受性増強剤と、α-グルコシダーゼ阻害剤、アルドース還元酵素阻害剤、ビグアナイド剤、スタチン系化合物、スクアレン合成阻害剤、フィブラート系化合物、LDL異化促進剤およびアンジオテンシン変換酵素阻害剤の少なくとも一種とを組み合わせてなる医薬、
2)インスリン感受性増強剤が一般式
【化11】

〔式中、Rはそれぞれ置換されていてもよい炭化水素または複素環基;Yは-CO-、-CH(OH)-または-NR^(3)(ただしR^(3)は置換されていてもよいアルキル基を示す。)で示される基;mは0または1;nは0、1または2;XはCHまたはN;Aは結合手または炭素数1?7の2価の脂肪族炭化水素基;Qは酸素原子または硫黄原子;R^(1)は水素原子またはアルキル基をそれぞれ示す。環Eはさらに1?4個の置換基を有していてもよく、該置換基はR^(1)と結合して環を形成していてもよい。LおよびMはそれぞれ水素原子を示すかあるいは互いに結合して結合手を形成していてもよい。〕で示される化合物またはその薬理学的に許容しうる塩である上記1)記載の医薬、
3)一般式(I)で示される化合物がピオグリタゾンである上記2)記載の医薬、
4)インスリン感受性増強剤とα-グルコシダーゼ阻害剤とを組み合わせてなる上記1)記載の医薬、
5)α-グルコシダーゼ阻害剤がボグリボースである上記4)記載の医薬、
6)インスリン感受性増強剤がピオグリタゾンであり、α-グルコシダーゼ阻害剤がボグリボースである上記4)記載の医薬、
7)糖尿病予防・治療薬である上記1)記載の医薬、
8)一般式
【化12】

〔式中、R’はそれぞれ置換されていてもよい炭化水素または複素環基;Yは-CO-、-CH(OH)-または-NR^(3)-(ただしR^(3)は置換されていてもよいアルキル基を示す。)で示される基;mは0または1;nは0、1または2;XはCHまたはN;Aは結合手または炭素数1?7の2価の脂肪族炭化水素基;Qは酸素原子または硫黄原子;R^(1)は水素原子またはアルキル基をそれぞれ示す。環Eはさらに1?4個の置換基を有していてもよく、該置換基はR^(1)と結合して環を形成していてもよい。LおよびMはそれぞれ水素原子を示すかあるいは互いに結合して結合手を形成していてもよい。ただし、mおよびnが0;XがCH;Aが結合手;Qが硫黄原子;R^(1),LおよびMが水素原子;かつ環Eがさらに置換基を有しないとき、R’はベンゾピラニル基でない。〕で示される化合物またはその薬理学的に許容しうる塩と、インスリン分泌促進剤および/またはインスリン製剤とを組み合わせてなる医薬、
9)一般式(II)で示される化合物が一般式
【化13】

で示される化合物である上記8)記載の医薬、
10)一般式(II)で示される化合物がピオグリタゾンである上記8)記載の医薬、
11)インスリン分泌促進剤がグリベンクラミドである上記8)記載の医薬、
12)一般式(II)で表される化合物がピオグリタゾンであり、インスリン分泌促進剤がグリベンクラミドである上記8)記載の医薬、および
13)糖尿病予防・治療薬である上記8)記載の医薬について詳述する。
【0005】
本発明に用いられるインスリン感受性増強剤は、障害を受けているインスリン受容体機能を元に戻し、インスリン抵抗性を解除し、その結果インスリンの感受性を増強する薬剤の総称であって、その具体例としては、例えば前記した一般式(I)で表される化合物またはその薬理学的に許容しうる塩が挙げられる。
【0006】
一般式(I)中、Rで示される置換されていてもよい炭化水素基における炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、脂環族-脂肪族炭化水素基、芳香脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基が挙げられる。これらの炭化水素基における炭素数は、好ましくは1?14である。
脂肪族炭化水素基としては、炭素数1?8の脂肪族炭化水素基が好ましい。該脂肪族炭化水素基としては、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec.-ブチル、t.-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、t.-ペンチル、ヘキシル、イソヘキシル、ヘプチル、オクチルなど炭素数1?8の飽和脂肪族炭化水素基(例、アルキル基等);例えばビニル、1-プロペニル、2-プロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、2-メチル-1-プロペニル、1-ペンテニル、2-ペンテニル、3-ペンテニル、4-ペンテニル、3-メチル-2-ブテニル、1-ヘキセニル、3-ヘキセニル、2,4-ヘキサジエニル、5-ヘキセニル、1-ヘプテニル、1-オクテニル、エチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-ブチニル、2-ブチニル、3-ブチニル、1-ペンチニル、2-ペンチニル、3-ペンチニル、4-ペンチニル、1-ヘキシニル、3-ヘキシニル、2,4-ヘキサジイニル、5-ヘキシニル、1-ヘプチニル、1-オクチニルなど炭素数2?8の不飽和脂肪族炭化水素基(例、アルケニル基、アルカジエニル基、アルキニル基、アルカジイニル基等)が挙げられる。
脂環族炭化水素基としては、炭素数3?7の脂環族炭化水素基が好ましい。該脂環族炭化水素基としては、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルなど炭素数3?7の飽和脂環族炭化水素基(例、シクロアルキル基等)および1-シクロペンテニル、2-シクロペンテニル、3-シクロペンテニル、1-シクロヘキセニル、2-シクロヘキセニル、3-シクロヘキセニル、1-シクロヘプテニル、2-シクロヘプテニル、3-シクロヘプテニル、2,4-シクロヘプタジエニルなど炭素数5?7の不飽和脂環族炭化水素基(例、シクロアルケニル基、シクロアルカジエニル基等)が挙げられる。
【0007】
脂環族-脂肪族炭化水素基としては、上記脂環族炭化水素基と脂肪族炭化水素基とが結合したもの(例、シクロアルキル-アルキル基、シクロアルケニル-アルキル基等)が挙げられ、なかでも炭素数4?9の脂環族-脂肪族炭化水素基が好ましい。該脂環族-脂肪族炭化水素基としては、例えばシクロプロピルメチル、シクロプロピルエチル、シクロブチルメチル、シクロペンチルメチル、2-シクロペンテニルメチル、3-シクロペンテニルメチル、シクロヘキシルメチル、2-シクロヘキセニルメチル、3-シクロヘキセニルメチル、シクロヘキシルエチル、シクロヘキシルプロピル、シクロヘプチルメチル、シクロヘプチルエチルなどが挙げられる。
芳香脂肪族炭化水素基としては、炭素数7?13の芳香脂肪族炭化水素基(例、アラルキル基等)が好ましい。該芳香脂肪族炭化水素基としては、例えばベンジル、フェネチル、1-フェニルエチル、3-フェニルプロピル、2-フェニルプロピル、1-フェニルプロピルなど炭素数7?9のフェニルアルキル、α-ナフチルメチル、α-ナフチルエチル、β-ナフチルメチル、β-ナフチルエチルなど炭素数11?13のナフチルアルキルなどが挙げられる。
芳香族炭化水素基としては、炭素数6?14の芳香族炭化水素基(例、アリール基等)が好ましい。該芳香族炭化水素基としては、例えばフェニル、ナフチル(α-ナフチル,β-ナフチル)などが挙げられる。
【0008】
一般式(I)中、Rで示される置換されていてもよい複素環基における複素環基としては、環構成原子として炭素原子以外に酸素原子、硫黄原子および窒素原子から選ばれるヘテロ原子を1ないし4個含有する5?7員の複素環基または縮合環基が挙げられる。縮合環としては、例えばこのような5?7員の複素環と、1ないし2個の窒素原子を含む6員環、ベンゼン環または1個の硫黄原子を含む5員環との縮合環が挙げられる。
複素環基の具体例としては、例えば2-ピリジル、3-ピリジル、4-ピリジル、2-ピリミジニル、4-ピリミジニル、5-ピリミジニル、6-ピリミジニル、3-ピリダジニル、4-ピリダジニル、2-ピラジニル、2-ピロリル、3-ピロリル、2-イミダゾリル、4-イミダゾリル、5-イミダゾリル、3-ピラゾリル、4-ピラゾリル、イソチアゾリル、イソオキサゾリル、2-チアゾリル、4-チアゾリル、5-チアゾリル、2-オキサゾリル、4-オキサゾリル、5-オキサゾリル、1,2,4-オキサジアゾール-5-イル、1,2,4-トリアゾ-ル-3-イル、1,2,3-トリアゾ-ル-4-イル、テトラゾ-ル-5-イル、ベンズイミダゾ-ル-2-イル、インド-ル-3-イル、1H-インダゾ-ル-3-イル、1H-ピロロ〔2,3-b〕ピラジン-2-イル、1H-ピロロ〔2,3-b〕ピリジン-6-イル、1H-イミダゾ〔4,5-b〕ピリジン-2-イル、1H-イミダゾ〔4,5-c〕ピリジン-2-イル、1H-イミダゾ〔4,5-b〕ピラジン-2-イル、ベンゾピラニル等が挙げられる。該複素環基は、好ましくはピリジル、オキサゾリルまたはチアゾリル基である。
【0009】
一般式(I)中、Rで示される炭化水素基および複素環基は、それぞれ置換可能な任意の位置に1?5個、好ましくは1?3個の置換基を有していてもよい。該置換基としては、例えば脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、アリール基、芳香族複素環基、非芳香族複素環基、ハロゲン原子、ニトロ基、置換されていてもよいアミノ基、置換されていてもよいアシル基、置換されていてもよいヒドロキシル基、置換されていてもよいチオール基、エステル化されていてもよいカルボキシル基、アミジノ基、カルバモイル基、スルファモイル基、スルホ基、シアノ基、アジド基、ニトロソ基が挙げられる。
脂肪族炭化水素基としては、炭素数1?15の直鎖状または分枝状の脂肪族炭化水素基、例えばアルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられる。
アルキル基の好適な例としては、炭素数1?10のアルキル基、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec.-ブチル、t.-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、t.-ペンチル、1-エチルプロピル、ヘキシル、イソヘキシル、1,1-ジメチルブチル、2,2-ジメチルブチル、3,3-ジメチルブチル、2-エチルブチル、ヘキシル、ペンチル、オクチル、ノニル、デシルなどが挙げられる。アルケニル基の好適な例としては、炭素数2?10のアルケニル基、例えばビニル、アリル、イソプロペニル、1-プロペニル、2-メチル-1-プロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、2-エチル-1-ブテニル、3-メチル-2-ブテニル、1-ペンテニル、2-ペンテニル、3-ペンテニル、4-ペンテニル、4-メチル-3-ペンテニル、1-ヘキセニル、2-ヘキセニル、3-ヘキセニル、4-ヘキセニル、5-ヘキセニルなどが挙げられる。
アルキニル基の好適な例としては、炭素数2?10のアルキニル基、例えばエチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-ブチニル、2-ブチニル、3-ブチニル、1-ペンチニル、2-ペンチニル、3-ペンチニル、4-ペンチニル、1-ヘキシニル、2-ヘキシニル、3-ヘキシニル、4-ヘキシニル、5-ヘキシニルなどが挙げられる。
【0010】
脂環式炭化水素基としては、炭素数3?12の飽和または不飽和の脂環式炭化水素基、例えばシクロアルキル基、シクロアルケニル基、シクロアルカジエニル基などが挙げられる。
シクロアルキル基の好適な例としては、炭素数3?10のシクロアルキル基、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、ビシクロ〔2.2.1〕ヘプチル、ビシクロ〔2.2.2〕オクチル、ビシクロ〔3.2.1〕オクチル、ビシクロ〔3.2.2〕ノニル、ビシクロ〔3.3.1〕ノニル、ビシクロ〔4.2.1〕ノニル、ビシクロ〔4.3.1〕デシルなどが挙げられる。
シクロアルケニル基の好適な例としては、炭素数3?10のシクロアルケニル基、例えば2-シクロペンテン-1-イル、3-シクロペンテン-1-イル、2-シクロヘキセン-1-イル、3-シクロヘキセン-1-イルなどが挙げられる。
シクロアルカジエニル基の好適な例としては、炭素数4?10のシクロアルカジエニル基、例えば2,4-シクロペンタジエン-1-イル、2,4-シクロヘキサジエン-1-イル、2,5-シクロヘキサジエン-1-イルなどが挙げられる。
アリール基の好適な例としては、炭素数6?14のアリール基、例えばフェニル、ナフチル(1-ナフチル、2-ナフチル)、アントリル、フェナントリル、アセナフチレニルなどが挙げられる。
【0011】
芳香族複素環基の好適な例としては、例えばフリル、チエニル、ピロリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、1,2,3-オキサジアゾリル、1,2,4-オキサジアゾリル、1,3,4-オキサジアゾリル、フラザニル、1,2,3-チアジアゾリル、1,2,4-チアジアゾリル、1,3,4-チアジアゾリル、1,2,3-トリアゾリル、1,2,4-トリアゾリル、テトラゾリル、ピリジル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニル、トリアジニルなどの芳香族単環式複素環基;例えばベンゾフラニル、イソベンゾフラニル、ベンゾ〔b〕チエニル、インドリル、イソインドリル、1H-インダゾリル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾオキサゾリル、1,2-ベンゾイソオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、1,2-ベンゾイソチアゾリル、1H-ベンゾトリアゾリル、キノリル、イソキノリル、シンノリニル、キナゾリニル、キノキサリニル、フタラジニル、ナフチリジニル、プリニル、プテリジニル、カルバゾリル、α-カルボリニル、β-カルボリニル、γ-カルボリニル、アクリジニル、フェノキサジニル、フェノチアジニル、フェナジニル、フェノキサチイニル、チアントレニル、フェナトリジニル、フェナトロリニル、インドリジニル、ピロロ〔1,2-b〕ピリダジニル、ピラゾロ〔1,5-a〕ピリジル、イミダゾ〔1,2-a〕ピリジル、イミダゾ〔1,5-a〕ピリジル、イミダゾ〔1,2-b〕ピリダジニル、イミダゾ〔1,2-a〕ピリミジニル、1,2,4-トリアゾロ〔4,3-a〕ピリジル、1,2,4-トリアゾロ〔4,3-b〕ピリダジニルなどの芳香族縮合複素環基などが挙げられる。
【0012】
非芳香族複素環基の好適な例としては、例えばオキシラニル、アゼチジニル、オキセタニル、チエタニル、ピロリジニル、テトラヒドロフリル、チオラニル、ピペリジル、テトラヒドロピラニル、モルホリニル、チオモルホリニル、ピペラジニル、ピロリジノ、ピペリジノ、モルホリノなどが挙げられる。
ハロゲン原子の例としてはフッ素、塩素、臭素およびヨウ素が挙げられる。
置換されていてもよいアミノ基において、置換されたアミノ基としては、N-モノ置換アミノ基およびN,N-ジ置換アミノ基が挙げられる。該置換アミノ基としては、例えばC_(1-10)アルキル基、C_(2-10)アルケニル基、C_(2-10)アルキニル基、芳香族基、複素環基またはC_(1-10)アシル基を、1個または2個置換基として有するアミノ基(例、メチルアミノ、ジメチルアミノ、エチルアミノ、ジエチルアミノ、ジブチルアミノ、ジアリルアミノ、シクロヘキシルアミノ、フェニルアミノ、N-メチル-N-フェニルアミノ、アセチルアミノ、プロピオニルアミノ、ベンゾイルアミノ、ニコチノイルアミノ等)が挙げられる。
【0013】
置換されていてもよいアシル基におけるアシル基としては、例えば炭素数1?13のアシル基、例えば炭素数1?10のアルカノイル基、炭素数3?10のアルケノイル基、炭素数4?10のシクロアルカノイル基、炭素数4?10のシクロアルケノイル基、炭素数6?12の芳香族カルボニル基等が挙げられる。
炭素数1?10のアルカノイル基の好適な例としては、例えばホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、ヘプタノイル、オクタノイルなどが挙げられる。
炭素数3?10のアルケノイル基の好適な例としては、例えばアクリロイル、メタクリロイル、クロトノイル、イソクロトノイル等が挙げられる。
炭素数4?10のシクロアルカノイル基の好適な例としては、例えばシクロブタンカルボニル、シクロペンタンカルボニル、シクロヘキサンカルボニル、シクロヘプタンカルボニル等が挙げられる。
炭素数4?10のシクロアルケノイル基の好適な例としては、例えば2-シクロヘキセンカルボニル等が挙げられる。
炭素数6?12の芳香族カルボニル基の好適な例としては、例えばベンゾイル、ナフトイル、ニコチノイル等が挙げられる。
置換されたアシル基における置換基としては、例えば炭素数1?3のアルキル基、例えば炭素数1?3のアルコキシ基、ハロゲン原子(例、塩素,フッ素,臭素など)、ニトロ基、ヒドロキシル基、アミノ基等が挙げられる。
【0014】
置換されていてもよいヒドロキシル基において、置換されたヒドロキシル基としては、例えばアルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、アルケニルオキシ基、シクロアルケニルオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシ基、アリールオキシ基等が挙げられる。アルコキシ基の好適な例としては、炭素数1?10のアルコキシ基、例えばメトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec.-ブトキシ、t.-ブトキシ、ペンチルオキシ、イソペンチルオキシ、ネオペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、ノニルオキシ等が挙げられる。シクロアルキルオキシ基の好適な例としては、炭素数3?10のシクロアルキルオキシ基、例えばシクロブトキシ、シクロペンチルオキシ、シクロヘキシルオキシ等が挙げられる。
アルケニルオキシ基の好適な例としては、炭素数2?10のアルケニルオキシ基、例えばアリル(allyl)オキシ、クロチルオキシ、2-ペンテニルオキシ、3-ヘキセニルオキシ等が挙げられる。
シクロアルケニルオキシ基の好適な例としては、炭素数3?10のシクロアルケニルオキシ基、例えば2-シクロペンテニルオキシ、2-シクロヘキセニルオキシ等が挙げられる。
アラルキルオキシ基の好適な例としては、炭素数7?10のアラルキルオキシ基、例えばフェニル-C_(1-4)アルキルオキシ(例、ベンジルオキシ、フェネチルオキシなど)等が挙げられる。
アシルオキシ基の好適な例としては、炭素数2?13のアシルオキシ基、さらに好ましくは炭素数2?4のアルカノイルオキシ基(例、アセチルオキシ、プロピオニルオキシ、ブチリルオキシ、イソブチリルオキシなど)等が挙げられる。アリールオキシ基の好適な例としては、炭素数6?14のアリールオキシ基、例えばフェノキシ、ナフチルオキシ等が挙げられる。該アリールオキシ基は、1ないし2個の置換基を有していてもよく、このような置換基としては、例えばハロゲン原子(例、塩素,フッ素,臭素など)等が挙げられる。置換されたアリールオキシ基としては、例えば4-クロロフェノキシ等が挙げられる。
【0015】
置換されていてもよいチオール基において、置換されたチオール基としては、例えばアルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アルケニルチオ基、シクロアルケニルチオ基、アラルキルチオ基、アシルチオ基、アリールチオ基などが挙げられる。
アルキルチオ基の好適な例としては、炭素数1?10のアルキルチオ基、例えばメチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ、イソプロピルチオ、ブチルチオ、イソブチルチオ、sec.-ブチルチオ、t.-ブチルチオ、ペンチルチオ、イソペンチルチオ、ネオペンチルチオ、ヘキシルチオ、ヘプチルチオ、ノニルチオ等が挙げられる。
シクロアルキルチオ基の好適な例としては、炭素数3?10のシクロアルキルチオ基、例えばシクロブチルチオ、シクロペンチルチオ、シクロヘキシルチオ等が挙げられる。アルケニルチオ基の好適な例としては、炭素数2?10のアルケニルチオ基、例えばアリル(allyl)チオ、クロチルチオ、2-ペンテニルチオ、3-ヘキセニルチオ等が挙げられる。
シクロアルケニルチオ基の好適な例としては、炭素数3?10のシクロアルケニルチオ基、例えば2-シクロペンテニルチオ、2-シクロヘキセニルチオ等が挙げられる。
アラルキルチオ基の好適な例としては、炭素数7?10のアラルキルチオ基、例えばフェニル-C_(1-4)アルキルチオ(例、ベンジルチオ、フェネチルチオなど)等が挙げられる。アシルチオ基の好適な例としては、炭素数2?13のアシルチオ基、さらに好ましくは炭素数2?4のアルカノイルチオ基(例、アセチルチオ、プロピオニルチオ、ブチリルチオ、イソブチリルチオなど)等が挙げられる。
アリールチオ基の好適な例としては、炭素数6?14のアリールチオ基、例えばフェニルチオ、ナフチルチオ等が挙げられる。該アリールチオ基は、1ないし2個の置換基を有していてもよく、このような置換基としては、例えばハロゲン原子(例、塩素,フッ素,臭素など)等が挙げられる。置換されたアリールチオ基としては、例えば4-クロロフェニルチオ等が挙げられる。
【0016】
エステル化されていてもよいカルボキシル基としては、例えばアルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基等が挙げられる。
アルコキシカルボニル基の好適な例としては、炭素数2?5のアルコキシカルボニル基、例えばメトキシカルボニル,エトキシカルボニル,プロポキシカルボニル,ブトキシカルボニル等が挙げられる。
アラルキルオキシカルボニル基の好適な例としては、炭素数8?10のアラルキルオキシカルボニル基、例えばベンジルオキシカルボニル等が挙げられる。
アリールオキシカルボニル基の好適な例としては、炭素数7?15のアリールオキシカルボニル基、例えばフェノキシカルボニル,p-トリルオキシカルボニル等が挙げられる。
Rで示される炭化水素基および複素環基における置換基は、好ましくは炭素数1?10のアルキル基、芳香族複素環基、炭素数6?14のアリール基であり、さらに好ましくはC_(1-3)アルキル,フリル,チエニル,フェニル,ナフチルである。
【0017】
一般式(I)中、Rで示される炭化水素基および複素環基上の置換基は、それらが脂環式炭化水素基,アリール基,芳香族複素環基または非芳香族複素環基であるときはさらにそれぞれ適当な置換基を1個以上、好ましくは1?3個有していてもよく、このような置換基としては、例えば炭素数1?6のアルキル基、炭素数2?6のアルケニル基、炭素数2?6のアルキニル基、炭素数3?7のシクロアルキル基、炭素数6?14のアリール基、芳香族複素環基(例、チエニル,フリル,ピリジル,オキサゾリル,チアゾリルなど)、非芳香族複素環基(例、テトラヒドロフリル,モルホリノ,ピペリジノ,ピロリジノ,ピペラジノなど)、炭素数7?9のアラルキル基、アミノ基、N-モノ-C_(1-4)アルキルアミノ基、N,N-ジ-C_(1-4)アルキルアミノ基、炭素数2?8のアシルアミノ基(例、アセチルアミノ,プロピオニルアミノ,ベンゾイルアミノなど)、アミジノ基、炭素数2?8のアシル基(例、炭素数2?8のアルカノイル基など)、カルバモイル基、N-モノ-C_(1-4)アルキルカルバモイル基、N,N-ジ-C_(1-4)アルキルカルバモイル基、スルファモイル基、N-モノ-C_(1-4)アルキルスルファモイル基、N,N-ジ-C_(1-4)アルキルスルファモイル基、カルボキシル基、炭素数2?8のアルコキシカルボニル基、ヒドロキシル基、炭素数1?4のアルコキシ基、炭素数2?5のアルケニルオキシ基、炭素数3?7のシクロアルキルオキシ基、炭素数7?9のアラルキルオキシ基、炭素数6?14のアリールオキシ基、メルカプト基、炭素数1?4のアルキルチオ基、炭素数7?9のアラルキルチオ基、炭素数6?14のアリールチオ基、スルホ基、シアノ基、アジド基、ニトロ基、ニトロソ基、ハロゲン原子などが挙げられる。
一般式(I)中、Rは、好ましくは置換されていてもよい複素環基である。Rは、さらに好ましくはC_(1-3)アルキル,フリル,チエニル,フェニルおよびナフチルから選ばれる1ないし3個の置換基を有していてもよいピリジル,オキサゾリルまたはチアゾリル基である。
【0018】
また、一般式(II)のR’は、mおよびnが0;XがCH;Aが結合手;Qが硫黄原子;R^(1),LおよびMが水素原子;かつ環Eがさらに置換基を有しないとき、R’はベンゾピラニル基でないという点を除き、上記一般式(I)のRと同意義を有する。
【0019】
一般式(I)および(II)中、Yは、-CO-,-CH(OH)-または-NR^(3)-(ただしR^(3)は置換されていてもよいアルキル基を示す。)を示すが、-CH(OH)-または-NR^(3)-が好ましい。ここにおいて、R^(3)で示される置換されていてもよいアルキル基におけるアルキル基としては、炭素数1?4のアルキル基、例えばメチル,エチル,プロピル,イソプロピル,ブチル,イソブチル,sec.-ブチル,t.-ブチルなどが挙げられる。また、置換基としては、例えばハロゲン原子(例、フッ素,塩素,臭素,ヨウ素),炭素数1?4のアルコキシ基(例、メトキシ,エトキシ,プロポキシ,ブトキシ,イソブトキシ,sec.-ブトキシ,t.-ブトキシなど),ヒドロキシル基,ニトロ基,炭素数1?4のアシル基(例、ホルミル,アセチル,プロピオニルなど)などが挙げられる。
mは、0または1を示すが、好ましくは0である。
nは、0,1または2を示すが、好ましくは0または1である。
Xは、CHまたはNを示すが、好ましくはCHである。
【0020】
一般式(I)および(II)中、Aは、結合手または炭素数1?7の2価の脂肪族炭化水素基を示す。該脂肪族炭化水素基は、直鎖状または分枝状のいずれでもよく、また飽和または不飽和のいずれでもよい。その具体例としては、例えば-CH_(2)-,-CH(CH_(3))-,-(CH_(2))_(2)-,-CH(C_(2)H_(5))-,-(CH_(2))_(3)-,-(CH_(2))_(4)-,-(CH_(2))_(5)-,-(CH_(2))_(6)-,-(CH_(2))_(7)-などの飽和のもの、例えば-CH=CH-,-C(CH_(3))=CH-,-CH=CH-CH_(2)-,-C(C_(2)H_(5))=CH-,-CH_(2)-CH=CH-CH_(2)-,-CH_(2)-CH_(2)-CH=CH-CH_(2)-,-CH=CH-CH=CH-CH_(2)-,-CH=CH-CH=CH-CH=CH-CH_(2)-などの不飽和のものが挙げられる。Aは、好ましくは結合手または炭素数1?4の2価の脂肪族炭化水素基であり、該脂肪族炭化水素基は、さらに飽和であることが好ましい。Aは、さらに好ましくは結合手または-(CH_(2))_(2)-である。
R^(1)で示されるアルキル基としては、前記したR^(3)におけるアルキル基と同様のものが用いられる。R^(1)は、好ましくは水素原子である。
【0021】
一般式(I)および(II)中、部分構造式
【化14】

〔式中、各記号は前記と同意義を示す。〕を示す。
また、環Eは、置換可能な任意の位置に、さらに1ないし4個の置換基を有していてもよい。このような置換基としては、アルキル基、置換されていてもよいヒドロキシル基,ハロゲン原子,置換されていてもよいアシル基,および置換されていてもよいアミノ基が挙げられる。これらは、いずれも前述のRで示される炭化水素基および複素環基の置換基として述べたものと同様のものが用いられる。
【0022】
環E、すなわち部分構造式
【化15】

〔式中、R^(2)は、水素原子,アルキル基,置換されていてもよいヒドロキシル基,ハロゲン原子,置換されていてもよいアシル基,ニトロ基または置換されていてもよいアミノ基を示す。〕を示す。
R^(2)で示されるアルキル基,置換されていてもよいヒドロキシル基,ハロゲン原子,置換されていてもよいアシル基,および置換されていてもよいアミノ基としては、いずれも前述のRで示される炭化水素基および複素環基の置換基として述べたものと同様のものが挙げられる。R^(2)は、好ましくは水素原子、置換されていてもよいヒドロキシル基またはハロゲン原子である。R^(2)は、さらに好ましくは水素原子または置換されていてもよいヒドロキシル基であり、特に好ましくは水素原子または炭素数1?4のアルコキシ基である。
【0023】
一般式(I)および(II)中、LおよびMは、水素原子あるいは互いに結合して結合手を示すが、好ましくは水素原子である。
ここで、LとMが互いに結合して結合手を形成する化合物には、アゾリジンジオン環の5位の二重結合に関し、(E)体および(Z)体が存在する。
また、LおよびMがそれぞれ水素原子を示す化合物には、アゾリジンジオン環の5位の不斉炭素による(R)-体および(S)-体の光学異性体が存在し、該化合物は、これら(R)-体および(S)-体の光学活性体およびラセミ体を含む。
【0024】
一般式(I)または(II)で表される化合物の好ましい例としては、例えば、RまたはR’がC_(1-3)アルキル,フリル,チエニル,フェニルおよびナフチルから選ばれる1ないし3個の置換基を有していてもよいピリジル,オキサゾリルまたはチアゾリル基;mが0;nが0または1;XがCH;Aが結合手または-(CH_(2))_(2)-;R^(1)が水素原子;環Eすなわち部分構造式
【化16】

かつR^(2)が水素原子またはC_(1-4)アルコキシ基;LおよびMが水素原子である化合物が挙げられる。
【0025】
一般式(I)で示される化合物の好適な例としては、例えば
▲1▼5-〔4-〔2-(3-エチル-2-ピリジル)エトキシ〕ベンジル〕-2,4-チアゾリジンジオン、
5-〔4-〔2-(4-エチル-2-ピリジル)エトキシ〕ベンジル〕-2,4-チアゾリジンジオン、
5-〔4-〔2-(5-エチル-2-ピリジル)エトキシ〕ベンジル〕-2,4-チアゾリジンジオン(一般名:ピオグリタゾン)、および
5-〔4-〔2-(6-エチル-2-ピリジル)エトキシ〕ベンジル〕-2,4-チアゾリジンジオンの一般式(III)で示される化合物;
▲2▼(R)-(+)-5-〔3-〔4-〔2-(2-フリル)-5-メチル-4-オキサゾリルメトキシ〕-3-メトキシフェニル〕プロピル〕-2,4-オキサゾリジンジオン;および
▲3▼5-〔〔4-〔(3,4-ジヒドロ-6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチル-2H-1-ベンゾピラン-2-イル)メトキシ〕フェニル〕メチル〕-2,4-チアゾリジンジオン(一般名:トログリタゾン/CS-045)などが挙げられる。一般式(I)で示される化合物は、特に好ましくはピオグリタゾンである。
【0026】
一般式(II)で示される化合物は、好ましくは一般式(III)で示される化合物および(R)-(+)-5-〔3-〔4-〔2-(2-フリル)-5-メチル-4-オキサゾリルメトキシ〕-3-メトキシフェニル〕プロピル〕-2,4-オキサゾリジンジオンであり、さらに好ましくはピオグリタゾンである。
【0027】
一般式(I)および(II)で示される化合物の薬理学的に許容し得る塩としては、例えば無機塩基との塩、有機塩基との塩、無機酸との塩、有機酸との塩、塩基性または酸性アミノ酸との塩などが挙げられる。
無機塩基との塩の好適な例としては、例えばナトリウム,カリウムなどのアルカリ金属、カルシウム,マグネシウムなどのアルカリ土類金属、ならびにアルミニウム、アンモニウムなどとの塩が挙げられる。
有機塩基との塩の好適な例としては、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N-ジベンジルエチレンジアミンなどとの塩が挙げられる。
無機酸との塩の好適な例としては、例えば塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などとの塩が挙げられる。
有機酸との塩の好適な例としては、例えばギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フマール酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸などとの塩が挙げられる。
塩基性アミノ酸との塩の好適な例としては、例えばアルギニン、リジン、オルニチンなどとの塩が挙げられ、酸性アミノ酸との塩の好適な例としては、例えばアスパラギン酸、グルタミン酸などとの塩が挙げられる。
前記した一般式(III)で示される化合物の薬理学的に許容し得る塩は、好ましくは無機酸との塩であり、さらに好ましくは塩酸との塩である。特にピオグリタゾンは塩酸塩として用いることが好ましい。
【0028】
一般式(I)または(II)で示される化合物またはその薬理学的に許容し得る塩は、例えば特開昭55-22636(EP-A 8203)、特開昭60-208980(EP-A 155845)、特開昭61-286376(EP-A208420)、特開昭61-85372(EP-A 177353)、特開昭61-267580(EP-A 193256)、特開平5-86057(WO 92/18501)、特開平7-82269(EP-A 605228)、特開平7-101945(EP-A 612743)、EP-A-643050、EP-A-710659等に記載の方法あるいはそれに準ずる方法により製造することができる。
【0029】
本発明に用いられるインスリン感受性増強剤としては、上記した以外に、さらに例えば5-〔〔3,4-ジヒドロ-2-(フェニルメチル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル〕メチル〕-2,4-チアゾリジンジオン(一般名:エングリタゾン)またはそのナトリウム塩;
5-〔〔4-〔3-(5-メチル-2-フェニル-4-オキサゾリル)-1-オキソプロピル〕フェニル〕メチル〕-2,4-チアゾリジンジオン(一般名:ダルグリタゾン/CP-86325)またはそのナトリウム塩;
5-〔2-(5-メチル-2-フェニル-4-オキサゾリルメチル)ベンゾフラン-5-イルメチル〕-2,4-オキサゾリジンジオン(CP-92768);
5-(2-ナフタレニルスルフォニル)-2,4-チアゾリジンジオン(AY-31637);
4-〔(2-ナフタレニル)メチル〕-3H-1,2,3,5-オキサチアジアゾール-2-オキシド(AY-30711);および
5-〔〔4-〔2-(メチル-2-ピリジニルアミノ)エトキシ〕フェニル〕-メチル〕-2,4-チアゾリンジオン(BRL-49653)なども挙げられる。
【0030】
本発明において、前述のインスリン感受性増強剤と組み合わせて用いられる薬剤としては、α-グルコシダーゼ阻害剤、アルドース還元酵素阻害剤、ビグアナイド剤、スタチン系化合物、スクアレン合成阻害剤、フィブラート系化合物、LDL異化促進剤およびアンジオテンシン変換酵素阻害剤が挙げられる。
α-グルコシダーゼ阻害剤は、アミラーゼ、マルターゼ、α-デキストリナーゼ、スクラーゼなどの消化酵素を阻害して、澱粉や蔗糖の消化を遅延させる作用を有する薬剤である。該α-グルコシダーゼ阻害剤の具体例としては、例えばアカルボース、N-(1,3-ジヒドロキシ-2-プロピル)バリオールアミン(一般名:ボグリボース)、およびミグリトールなどが挙げられ、なかでもボグリボースが好ましい。
アルドース還元酵素阻害剤は、ポリオール経路の最初のステップの律速酵素を阻害することにより糖尿病性合併症を阻止する薬剤である。糖尿病の高血糖状態では、このポリオール経路を介したグルコースの代謝が亢進し、その結果生成したソルビトールが細胞内に過剰に蓄積して種々の組織障害をきたし、糖尿病性の神経障害,網膜症,腎症などの合併症が発症すると考えられている。アルドース還元酵素阻害剤の具体例としては、例えばトルレスタット;エパルレスタット;3,4-ジヒドロ-2,8-ジイソプロピル-3-チオキソ-2H-1,4-ベンゾオキサジン-4-酢酸;
2,7-ジフルオロ-スピロ(9H-フルオレン-9,4’-イミダゾリジン)-2’,5’-ジオン(一般名:イミレスタット);
3-〔(4-ブロモ-2-フルオロフェニル)メチル〕-7-クロロ-3,4-ジヒドロ-2,4-ジオキソ-1(2H)-キナゾリン酢酸(一般名:ゼナレスタット);
6-フルオロ-2,3-ジヒドロ-2’,5’-ジオキソ-スピロ〔4H-1-ベンゾピラン-4,4’-イミダゾリジン〕-2-カルボキサミド(SNK-860);ゾポルレスタット;ソルビニル;および
1-〔(3-ブロモ-2-ベンゾフラニル)スルフォニル〕-2,4-イミダゾリジンジオン(M-16209)などが挙げられる。
ビグアナイド剤は、嫌気性解糖促進作用、抹消でのインスリン作用増強、腸管からのグルコース吸収抑制、肝糖新生の抑制、脂肪酸酸化阻害などの作用を有する薬剤である。該ビグアナイド剤の具体例としては、例えばフェンホルミン、メトホルミン、ブホルミンなどが挙げられる。
【0031】
スタチン系化合物は、ヒドロキシメチルグルタリルCoA(HMG-CoA)リダクターゼを阻害することにより、血中コレステロールを低下させる薬剤である。該スタチン系化合物の具体例としては、例えばプラバスタチンおよびそのナトリウム塩、シンバスタチン、ロバスタチン、アトルバスタチン、フルバスタチンなどが挙げられる。
スクアレン合成阻害剤は、スクアレン合成を阻害することにより、血中コレステロールを低下させる薬剤である。該スクアレン合成阻害剤の具体例としては、例えば
(S)-α-〔ビス(2,2-ジメチル-1-オキソプロポキシ)メトキシ〕ホスフィニル-3-フェノキシベンゼンブタンスルホン酸モノカリウム塩(BMS-188494)などが挙げられる。
フィブラート系化合物は、肝臓でのトリグリセリド合成および分泌を抑制し、リポタンパク質リパーゼを活性化することにより、血中トリグリセリドを低下させる薬剤である。該フィブラート系化合物の具体例としては、例えばベザフィブラート、ベクロブラート、ビニフィブラート、シプロフィブラート、クリノフィブラート、クロフィブラート、クロフィブリン酸、エトフィブラート、フェノフィブラート、ゲムフィブロジル、ニコフィブラート、ピリフィブラート、ロニフィブラート、シムフィブラート、テオフィブラートなどが挙げられる。
LDL異化促進剤は、LDL(低密度リポタンパク質)受容体を増加することにより血中コレステロールを低下させる薬剤である。該LDL異化促進剤の具体例としては、例えば特開平7-316144に記載された一般式
【化17】

〔式中、R^(4),R^(5),R^(6)およびR^(7)は同一もしくは異なって水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基または低級アルコキシ基を示し、rは0?2を示し、sは2?4を示し、pは1?2を示す。〕で表される化合物またはその塩、具体的にはN-〔2-〔4-ビス(4-フルオロフェニル)メチル-1-ピペラジニル〕エチル〕-7,7-ジフェニル-2,4,6-ヘプタトリエン酸アミド等などが挙げられる。
上記したスタチン系化合物、スクアレン合成阻害剤、フィブラート系化合物およびLDL異化促進剤は、血中のコレステロールやトリグリセリドを低下させる作用を有する他の薬剤と置き換えてもよい。このような薬剤としては、例えばニコモールやニセリトロール等のニコチン酸誘導体製剤;プロブコール等の抗酸化剤;コレスチラミン等のイオン交換樹脂製剤などが挙げられる。
【0032】
アンジオテンシン変換酵素阻害剤は、アンジオテンシン変換酵素を阻害することにより、血圧を低下させると同時に糖尿病患者において部分的に血糖を低下させる薬剤である。該アンジオテンシン変換酵素阻害剤の具体例としては、例えばカプトプリル、エナラプリル、アラセプリル、デラプリル、ラミプリル、リジノプリル、イミダプリル、ベナゼプリル、セロナプリル、シラザプリル、エナラプリラート、フォシノプリル、モベルトプリル、ペリンドプリル、キナプリル、スピラプリル、テモカプリル、トランドラプリルなどが挙げられる。
本発明において、特にインスリン感受性増強剤とα-グルコシダーゼ阻害剤とを組み合わせてなる医薬が好ましい。ここにおいて、インスリン感受性増強剤は、特に好ましくはピオグリタゾンであり、α-グルコシダーゼ阻害剤は、特に好ましくはボグリボースである。
【0033】
本発明において、一般式(II)で示される化合物またはその薬理学的に許容しうる塩と組み合わせて用いられる薬剤としては、インスリン分泌促進剤および/またはインスリン製剤が挙げられる。
インスリン分泌促進剤は、膵B細胞からのインスリン分泌促進作用を有する薬剤である。該インスリン分泌促進剤としては、例えばスルフォニル尿素剤(SU剤)が挙げられる。該スルフォニル尿素剤(SU剤)は、細胞膜のSU剤受容体を介してインスリン分泌シグナルを伝達し、膵B細胞からのインスリン分泌を促進する薬剤である。SU剤の具体例としては、例えばトルブタミド;クロルプロパミド;トラザミド;アセトヘキサミド;4-クロロ-N-〔(1-ピロリジニルアミノ)カルボニル〕-ベンゼンスルフォンアミド(一般名:グリクロピラミド)およびそのアンモニウム塩;グリベンクラミド(グリブリド);グリクラジド;1-ブチル-3-メタニリルウレア;カルブタミド;グリボルヌリド;グリピジド;グリキドン;グリソキセピド;グリブチアゾール;グリブゾール;グリヘキサミド;グリミジン;グリピナミド;フェンブタミド;およびトルシクラミドなどが挙げられる。
その他、インスリン分泌促進剤としては、例えば
N-〔〔4-(1-メチルエチル)シクロヘキシル〕カルボニル〕-D-フェニルアラニン(AY-4166);
(2S)-2-ベンジル-3-(シス-ヘキサヒドロ-2-イソインドリニルカルボニル)プロピオン酸カルシウム 2水和物(KAD-1229);およびグリメピリド(Hoe490)等が挙げられる。インスリン分泌促進剤は、特に好ましくはグリベンクラミドである。
インスリン製剤としては、例えばウシ,ブタの膵臓から抽出された動物インスリン製剤、大腸菌,イーストを用い、遺伝子工学的に合成したヒトインスリン製剤などが挙げられる。インスリン製剤には、速効型、二相性、中間型、持続型など種々のものが含まれるが、これらは患者の病態により選択投与することができる。
【0034】
本発明において、特に一般式(II)で示される化合物またはその薬理学的に許容しうる塩とインスリン分泌促進剤とを組み合わせてなる医薬が好ましい。ここにおいて、一般式(II)で示される化合物またはその薬理学的に許容しうる塩は、特に好ましくはピオグリタゾンであり、インスリン分泌促進剤は、特に好ましくはグリベンクラミドである。
【0035】
本発明の、インスリン感受性増強剤とα-グルコシダーゼ阻害剤、アルドース還元酵素阻害剤、ビグアナイド剤、スタチン系化合物、スクアレン合成阻害剤、フィブラート系化合物、LDL異化促進剤およびアンジオテンシン変換酵素阻害剤の少なくとも一種とを組み合わせてなる医薬;および一般式(II)で示される化合物またはその薬理学的に許容しうる塩とインスリン分泌促進剤および/またはインスリン製剤とを組み合わせなる医薬は、これらの有効成分を別々にあるいは同時に、生理学的に許容されうる担体、賦形剤、結合剤、希釈剤などと混合し、医薬組成物として経口または非経口的に投与することができる。このとき有効成分を別々に製剤化した場合、別々に製剤化したものを使用時に希釈剤などを用いて混合して投与することができるが、別々に製剤化したものを、別々に、同時に、または時間差をおいて同一対象に投与してもよい。
上記医薬組成物としては、経口剤として、例えば顆粒剤,散剤,錠剤,カプセル剤,シロップ剤,乳剤,懸濁剤等、非経口剤として、例えば注射剤(例、皮下注射剤,静脈内注射剤,筋肉内注射剤,腹腔内注射剤等),点滴剤,外用剤(例、経鼻投与製剤,経皮製剤,軟膏剤等),坐剤(例、直腸坐剤,膣坐剤等)等が挙げられる。
これらの製剤は、製剤工程において通常一般に用いられる自体公知の方法により製造することができる。以下に、製剤の具体的な製造法について詳述する。
【0036】
経口剤は、有効成分に、例えば賦形剤(例、乳糖,白糖,デンプン,マンニトールなど)、崩壊剤(例、炭酸カルシウム,カルボキシメチルセルロースカルシウムなど)、結合剤(例、α化デンプン,アラビアゴム,カルボキシメチルセルロース,ポリビニールピロリドン,ヒドロキシプロピルセルロースなど)または滑沢剤(例、タルク,ステアリン酸マグネシウム,ポリエチレングリコール6000など)などを添加して圧縮成形し、次いで必要により、味のマスキング、腸溶性あるいは持続性の目的のため自体公知の方法でコーティングすることにより製造される。ここにおいて、コーティング剤としては、例えばエチルセルロース,ヒドロキシメチルセルロース,ポリオキシエチレングリコール,セルロースアセテートフタレート,ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートおよびオイドラギット(ローム社製、ドイツ、メタアクリル酸・アクリル酸共重合物)などが用いられる。
【0037】
注射剤は、有効成分を分散剤(例、ツイーン(Tween)80(アトラスパウダー社製、米国),HCO 60(日光ケミカルズ製),ポリエチレングリコール,カルボキシメチルセルロース,アルギン酸ナトリウムなど)、保存剤(例、メチルパラベン,プロピルパラベン,ベンジルアルコール,クロロブタノール,フェノールなど)、等張化剤(例、塩化ナトリウム,グリセリン,ソルビトール,ブドウ糖,転化糖など)などと共に水性溶剤(例、蒸留水,生理的食塩水,リンゲル液等)あるいは油性溶剤(例、オリーブ油,ゴマ油,綿実油,コーン油などの植物油、プロピレングリコール等)などに溶解、懸濁あるいは乳化することにより製造される。この際、所望により溶解補助剤(例、サリチル酸ナトリウム,酢酸ナトリウム等)、安定剤(例、ヒト血清アルブミン等)、無痛化剤(例、塩化ベンザルコニウム,塩酸プロカイン等)等の添加物を用いてもよい。
【0038】
外用剤は、有効成分を固状、半固状または液状の組成物とすることにより製造される。例えば、上記固状の組成物は、有効成分をそのまま、あるいは賦形剤(例、ラクトース,マンニトール,デンプン,微結晶セルロース,白糖など)、増粘剤(例、天然ガム類,セルロース誘導体,アクリル酸重合体など)などを添加、混合して粉状とすることにより製造される。上記液状の組成物は、注射剤の場合とほとんど同様にして製造される。半固状の組成物は、水性または油性のゲル剤、あるいは軟骨状のものがよい。また、これらの組成物は、いずれもpH調節剤(例、炭酸,リン酸,クエン酸,塩酸,水酸化ナトリウムなど)、防腐剤(例、パラオキシ安息香酸エステル類,クロロブタノール,塩化ベンザルコニウムなど)などを含んでいてもよい。
坐剤は、有効成分を油性または水性の固状、半固状あるいは液状の組成物とすることにより製造される。該組成物に用いる油性基剤としては、例えば高級脂肪酸のグリセリド〔例、カカオ脂,ウイテプゾル類(ダイナマイトノーベル社製)など〕、中級脂肪酸〔例、ミグリオール類(ダイナマイトノーベル社製)など〕、あるいは植物油(例、ゴマ油,大豆油,綿実油など)などが挙げられる。水性基剤としては、例えばポリエチレングリコール類,プロピレングリコールなどが挙げられる。また、水性ゲル基剤としては、例えば天然ガム類,セルロース誘導体,ビニール重合体,アクリル酸重合体などが挙げられる。
【0039】
本発明の医薬は、毒性も低く、哺乳動物(例、ヒト,マウス,ラット,ウサギ,イヌ,ネコ,ウシ,ウマ,ブタ,サル等)に対し、安全に用いられる。
本発明の医薬の投与量は、個々の薬剤の投与量に準ずればよく、投与対象,投与対象の年齢および体重,症状,投与時間,剤形,投与方法,薬剤の組み合わせ等により、適宜選択することができる。例えばインスリン感受性増強剤は、成人1人当たり経口投与の場合、臨床用量である0.01?10mg/kg体重(好ましくは0.05?10mg/kg体重、さらに好ましくは0.05?5mg/kg体重)、非経口的に投与する場合は0.005?10mg/kg体重(好ましくは0.01?10mg/kg体重、さらに好ましくは0.01?1mg/kg体重)の範囲で選択でき、それらと組み合わせて用いる他の作用機序を有する薬剤も、それぞれ臨床上用いられる用量を基準として適宜選択することができる。投与回数は、一日1?3回が適当である。
【0040】
本発明の医薬において、薬剤の配合比は、投与対象,投与対象の年齢および体重,症状,投与時間,剤形,投与方法,薬剤の組み合わせ等により、適宜選択することができる。例えばヒトに対し、インスリン感受性増強剤である一般式(I)で示される化合物またはその薬理学的に許容しうる塩(例、ピオグリタゾン)とα-グルコシダーゼ阻害剤であるボグリボースとを組み合わせて用いる場合、該化合物またはその薬理学的に許容し得る塩1重量部に対し、ボグリボースを通常0.0001?0.2重量部程度、好ましくは0.001?0.02重量部程度用いればよい。また、例えばヒトに対し、一般式(II)で示される化合物またはその薬理学的に許容し得る塩とインスリン分泌促進剤であるグリベンクラミドとを組み合わせて用いる場合、該化合物またはその薬理学的に許容し得る塩1重量部に対し、グリベンクラミドを通常0.002?5重量部程度、好ましくは0.025?0.5重量部程度用いればよい。
本発明の医薬は、各薬剤の単独投与に比べて著しい増強効果を有する。例えば、遺伝性肥満糖尿病ウイスター・ファティー(Wistar fatty)ラットにおいて、2種の薬剤をそれぞれ単独投与した場合に比較し、これらを併用投与すると高血糖あるいは耐糖能低下の著明な改善がみられた。したがって、本発明の医薬は、薬剤の単独投与より一層効果的に糖尿病時の血糖を低下させ、糖尿病性合併症の予防あるいは治療に適用しうる。
また、本発明の医薬は、各薬剤の単独投与の場合と比較した場合、少量を使用することにより十分な効果が得られることから、薬剤の有する副作用(例、下痢等の消化器障害など)を軽減することができる。
【0041】
【発明の実施の形態】
【実施例】
以下に、実施例および実験例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるべきものではない。
本発明の医薬は、例えば次のような処方によって製造することができる。

(1),(2),(3),(4)の各全量および(5)の1/2量をよく混和したのち、常法により顆粒化し、これに残りの(5)を加えて混和し、全体をゼラチン・ハードカプセルに封入する。
【0042】

(1),(2),(3),(4),(5)の各全量、(6),(7)の各2/3量および(8)の1/2量をよく混和後、常法により顆粒化する。残りの(6),(7)および(8)をこの顆粒に加えてよく混和し、打錠機で圧縮成形する。成人の場合、この錠剤3錠を日1回ないし3回に分けて服用する。

(1),(2),(3),(4)の各全量および(5)の1/2量をよく混和し、常法により顆粒化して、これに残りの(5)を加えて、全体をゼラチンカプセルに封入する。成人の場合、このカプセル3個を1日1?3回に服用する。
【0043】
実験例1
遺伝性肥満糖尿病ウイスター・ファティー(Wistar fatty)ラットにおける塩酸ピオグリタゾンとα-グルコシダーゼ阻害剤との併用効果
各群5?6匹からなる14?19週齢の雄性ウイスター・ファティー(Wistar fatty)ラットを4群に分け、塩酸ピオグリタゾン(1mg/kg体重/日、経口投与)あるいはα-グルコシダーゼ阻害剤、ボグリボース(0.31mg/kg体重/日、5ppmの割合で市販飼料に混合して投与)をそれぞれ単独あるいは両薬剤を併用して14日間投与した。ついでラットの尾静脈から血液を採取し、血漿グルコース及びヘモグロビンA_(1)を酵素法(アンコール ケミカルシステム ベーカー社)及び市販のキット(NC-ROPET、日本ケミファ社)によって測定した。その結果を、各群(N=5?6)の平均±標準偏差で表わし、ダンネット試験(Dunnett’s test)で比較検定して〔表1〕に示した。また、危険率1%未満を有意とした。
【表1】

〔表1〕から明らかなように、血漿グルコース及びヘモグロビンA_(1)は、ピオグリタゾンまたはボグリボースの単独投与よりも、併用投与により著しく低下した。
【0044】
実験例2
遺伝性肥満糖尿病ウイスター・ファティー(Wistar fatty)ラットにおける塩酸ピオグリタゾンとインスリン分泌促進剤との併用効果
各群5匹からなる13?14週齢の雄性ウイスター・ファティー(Wistar fatty)ラットを4群に分け、塩酸ピオグリタゾン(3mg/kg/日、経口投与)あるいはインスリン分泌促進剤、グリベンクラミド(3mg/kg/日、経口投与)をそれぞれ単独あるいは併用して7日間投与した後、一晩絶食し、経口ブドウ糖負荷試験(2g/kg/5mlのブドウ糖を経口投与)を行った。ブドウ糖負荷前および120,240分後にラットの尾静脈から血液を採取し、血漿グルコースを酵素法(アンコール ケミカルシステム ベーカー社)によって測定した。その結果を、各群(N=5)の平均±標準偏差で表わし、ダンネット試験(Dunnett’s test)で比較検定して〔表2〕に示した。
【表2】

〔表2〕から明らかなように、ブドウ糖負荷後の血糖値の上昇は、ピオグリタゾンまたはグリベンクラミドの単独投与よりも、併用投与により著しく抑制された。
【0045】
【発明の効果】
本発明の医薬は、糖尿病時の高血糖に対して優れた低下作用を発揮し、糖尿病の予防及び治療に有効である。また、該医薬は高血糖に起因する神経障害,腎症,網膜症,大血管障害,骨減少症などの糖尿病性合併症の予防及び治療にも有効である。さらに、症状に応じて各薬剤の種類、投与法、投与量などを適宜選択すれば、長期間投与しても安定した血糖低下作用が期待され、副作用の発現も極めて少ない。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピオグリタゾンまたはその薬理学的に許容しうる塩と、ビグアナイド剤とを組み合わせてなる、糖尿病または糖尿病性合併症の予防・治療用医薬。
【請求項2】
ビグアナイド剤がフェンホルミン、メトホルミンまたはブホルミンである請求項1記載の医薬。
【請求項3】
ビグアナイド剤がメトホルミンである請求項1記載の医薬。
【請求項4】
医薬組成物である請求項1記載の医薬。
【請求項5】
医薬組成物が錠剤である請求項4記載の医薬。
【請求項6】
0.05?5mg/kg体重の用量のピオグリタゾンまたはその薬理学的に許容しうる塩を含有する請求項1記載の医薬。
【請求項7】
0.05?5mg/kg体重の用量のピオグリタゾンまたはその薬理学的に許容しうる塩と、グリメピリドとを組み合わせてなる、糖尿病または糖尿病性合併症の予防・治療用医薬。
【請求項8】
医薬組成物である請求項7記載の医薬。
【請求項9】
医薬組成物が錠剤である請求項8記載の医薬。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2013-02-08 
結審通知日 2013-02-13 
審決日 2013-03-06 
出願番号 特願平9-360756
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (A61K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 瀬下 浩一内藤 伸一  
特許庁審判長 今村 玲英子
特許庁審判官 前田 佳与子
荒木 英則
登録日 2007-06-22 
登録番号 特許第3973280号(P3973280)
発明の名称 医薬  
復代理人 上野 晋  
代理人 元井 成幸  
代理人 松任谷 優子  
代理人 金本 恵子  
代理人 金本 恵子  
代理人 大野 聖二  
代理人 松任谷 優子  
代理人 高橋 隆二  
代理人 大野 聖二  
復代理人 生田 哲郎  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ