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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  A23L
審判 全部無効 2項進歩性  A23L
管理番号 1274150
審判番号 無効2011-800050  
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-03-31 
確定日 2013-05-14 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3929101号発明「酸味のマスキング方法」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3929101号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は,被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3929101号の出願についての手続の概要は,以下のとおりである。なお,以下,本件無効審判請求人であるツルヤ化成工業株式会社を「請求人」という。また,三栄源エフ・エフ・アイ株式会社を「被請求人」という。
平成 9年 3月 3日 :特許出願
平成19年 3月16日 :特許権の設定登録(請求項の数1)
平成23年 4月 1日 :審判請求書及び
甲第1,2号証の1,2号証の2,
3ないし7号証提出
平成23年 4月21日 :請求人による手続補正書提出
平成23年 6月24日 :答弁書及び乙第1ないし4,5-1,
5-2号証提出
同日 :訂正請求書提出
平成23年 7月27日 :弁駁書提出
平成23年10月27日付け:口頭審理審理事項通知
平成23年11月28日 :請求人口頭審理陳述要領書及び
甲第8号証提出
平成23年11月29日 :被請求人口頭審理陳述要領書及び
乙第6ないし25号証提出
平成23年12月13日 :口頭審理

第2 訂正の適否
1 訂正事項
平成23年6月24日付け訂正請求は,本件特許明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであって,その訂正の内容は以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
酸味を呈する製品に,スクラロースを,該製品の重量に対して0.012?0.015重量%で用いることを特徴とする酸味のマスキング方法。」を

「【請求項1】
クエン酸,酒石酸及び酢酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸味剤を含有し,経口摂取又は口内利用時に酸味を呈する製品に,スクラロースを,該製品の重量に対して0.012?0.015重量%で用いることを特徴とする酸味のマスキング方法。」と訂正する。(なお,下線は訂正箇所を表す。)

(2)訂正事項2
発明の詳細な説明の欄の段落【0019】の記載
「【0019】
【発明の効果】
本発明によれば,酸味を呈する製品に,スクラロースを添加することにより,製品本来の味のバランスを保持し,さらに長期安定性,熱安定性にすぐれた酸味のマスキング効果を十分に発揮することができる。また,スクラロース自体,甘味剤として良質の甘味を呈する物質であるため,マスクングされた後の酸味自体の風味を良質なものにすることができる。」を

「【0019】
【発明の効果】
本発明によれば,クエン酸,酒石酸及び酢酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸味剤を含有し,経口摂取又は口内利用時に酸味を呈する製品に,スクラロースを添加することにより,製品本来の味のバランスを保持し,さらに長期安定性,熱安定性にすぐれた酸味のマスキング効果を十分に発揮することができる。また,スクラロース自体,甘味剤として良質の甘味を呈する物質であるため,マスキングされた後の酸味自体の風味を良質なものにすることができる。」と訂正する。(なお,下線は訂正箇所を表す。)

2 訂正の目的の適否,新規事項の有無,及び特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 「クエン酸,酒石酸及び酢酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸味剤を含有し,」とする訂正は,訂正前の請求項1に記載の「酸味を呈する製品」について,「クエン酸,酒石酸及び酢酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸味剤を含有」することを限定するもので,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして,この訂正は,本件特許明細書の段落【0007】の「本発明における酸味を呈する製品とは,経口摂取又は口内利用時に酸味を呈する製品を意味し,・・・これら製品中において酸味を呈する物質としては,例えば,各種の天然素材,クエン酸,酒石酸,・・・酢酸,・・・等の天然又は合成酸味剤等が挙げられる。」,及び実施例1のクエン酸及び酒石酸,実施例2のクエン酸,及び実施例3のワインビネガー,つまり被請求人口頭審理陳述要領書第32頁によると,酢酸を主成分としてクエン酸及び酒石酸を含有する実施例の記載内容に基づくものであり,新規事項の追加に該当せず,実質上,特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

イ 「経口摂取又は口内利用時に」酸味を呈する製品とする訂正は,訂正前の請求項1に記載の「酸味を呈する製品」について,「経口摂取又は口内利用時に」酸味を呈するものであることを明りょうにしたもので,明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして,これらの訂正は本件特許明細書の段落【0007】の「本発明における酸味を呈する製品とは,経口摂取又は口内利用時に酸味を呈する製品を意味し」の記載内容に基づくものであり,新規事項の追加に該当せず,実質上,特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
「クエン酸,酒石酸及び酢酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸味剤を含有し,経口摂取又は口内利用時に」とする訂正は,請求項1に係る上記訂正事項1に対応して,発明の詳細な説明の記載を整合させるものであり,明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
また,訂正前の「マスクング」を「マスキング」とする訂正は,誤記の訂正を目的とするものである。

3 訂正請求に対する結論
以上のとおり,本件訂正は特許法第134条の2第1項ただし書,及び同条第5項において準用する特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するから,当該訂正を認める。

第3 請求人の主張の概要
請求人は,特許第3929101号の請求項1に係る発明の特許を無効とする,審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め,審判請求書,弁駁書及び口頭審理陳述要領書において,下記に示した証拠を提出して,次に示す無効理由を主張している。

(無効理由1)
本件特許の請求項1に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載された発明でないため,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を欠き,同法第123条第1項第4号の規定により無効にされるべきである。

(無効理由2-1)
本件特許の請求項1に係る発明は,甲第1号証を公然実施の証拠方法とする,公然と実施された発明,及び甲第2?6号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に想到できた発明であるから,本件発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当し,本件特許は無効とすべきである。

(無効理由2-2)
本件特許の請求項1に係る発明は,甲第3号証に記載された発明,及び甲第2,4?6号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に想到できた発明であるから,本件発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当し,本件特許は無効とすべきである。

請求人が提出した証拠方法は以下のとおりである。

甲第1号証:品川潤等編,STANDARD COCKTAIL BOOK BARTENDER'S GUIDE,全日本バーテンダー協会発行,1956年11月15日,改訂再版,p.274
甲第2号証の1:行政文書開示決定通知書,厚生労働省発1220第1号,平成22年12月20日
甲第2号証の2:甲第2号証の1で開示された「第6章 使用基準案に関する資料」,食品衛生調査会毒性・添加物合同部会報告(食調第5号 平成11年1月6日)の別添資料
甲第3号証:浜島教子,「基本的四味の相互関係について」,調理科学,Vol.8,No.3(1975),p.132-136
甲第4号証:特開昭59-21369号公報
甲第5号証:特開昭61-177980号公報
甲第6号証:小川敏男,「漬物製造学」,株式会社光琳,平成元年3月20日,p.124
甲第7号証:特開平10-215793号公報
甲第8号証:ツルヤ化成株式会社脇田修平による実験報告書,平成23年8月22日作成

第4 被請求人の主張の概要
被請求人は,本件審判請求は成り立たない,審判の費用は請求人の負担とするとの審決を求め,答弁書,訂正請求書及び口頭審理陳述要領書において,下記に示した証拠を提出して,本件訂正は認められるべきであり,請求人の主張する理由及び証拠によっては本件訂正発明を無効とすることはできないと主張している。
被請求人の提出した証拠方法は以下のとおりである。

乙第1号証:岩間保憲,「酸味料,pH調整剤」,月刊フードケミカル,2008年3月号,p.56-60
乙第2号証:濱田正一,「1997年注目食品素材の動向」,月刊フードケミカル,1997年1月号,Vol.13,No.1,平成9年1月1日,p.57-62
乙第3号証:白川真由美,「新規甘味料「ネオテーム」の特徴と食品への応用」,食品と科学,2009年2月号,第51巻第2号,p.78-81
乙第4号証:特表平8-503206号公報
乙第5-1号証:三栄源エフ・エフ・アイ株式会社芳仲幸治による実験報告書1,2011年5月27日作成
乙第5-2号証:三栄源エフ・エフ・アイ株式会社芳仲幸治による実験報告書2,2011年6月3日作成
乙第6号証:「呈味の改善効果(矯味効果)」,食品と開発,Vol.32,No.1,1997年1月1日,p.45-46
乙第7号証:早川幸男編,「オリゴ糖の新知識」,食品化学新聞社,1998年11月20日,p.214-215
乙第8号証:G.E.Inglett et al.,’Dihydrochalcone Sweeteners-Sensory and Stability Evaluation’,Journal of Food Science,Vol.34,(1969),p.101-103
乙第9号証:中谷弘実,「人工甘味料問題と新甘味料」,食品開発,Vol.6,No.2,昭和46年,p.21-24
乙第10号証:日本味と匂学会編,「味のなんでも小事典 甘いものはなぜ別腹?」,講談社,2004年4月20日,第1刷,p.38-39
乙第11号証:清水達,「高甘味度甘味料とフレーバー」,高砂香料時報,復刊第142号・通巻第199号,平成14年5月10日,p.12-15
乙第12号証:伊藤汎等編,「食品と甘味料」,株式会社光琳,平成20年10月1日,p.84-93
乙第13号証:伊藤汎等編,「食品と甘味料」,株式会社光琳,平成20年10月1日,p.196-201
乙第14号証:三栄源エフ・エフ・アイ株式会社松田康正による実験報告書3,2011年11月14日作成
乙第15号証:太田圭介等,「甘味物質と甘味の受容機構」,FFIジャーナル,Vol.213,No.4,2008年4月1日,p.315-327
乙第16号証:津田謙太郎,「独自の製剤化技術によって酸味・酸臭を抑制した酢酸ナトリウム製剤「ミカクファインZ」」,食品と科学,平成23年4月号,第53巻第4号,平成23年3月10日,p.84-89
乙第17号証:櫻井敬展等,「酸性ジペプチドによる苦味抑制効果を味覚シグナル分子論から検証する」,化学と生物,Vol.48,No.3,2010,p.195-200
乙第18号証:日本味と匂学会編,「味のなんでも小事典 甘いものはなぜ別腹?」,講談社,2004年4月20日,第1刷,p.22-23
乙第19号証:飴山實・大塚滋編,「酢の科学」,朝倉書店,2004年7月1日,初版7刷,p.111,180
乙第20号証:三栄源エフ・エフ・アイ株式会社芳仲幸治による実験報告書4,2011年9月21日作成
乙第21号証:小川敏男,「漬物製造学」,株式会社光琳,平成11年5月20日,改訂2版,p.148-151
乙第22号証:新村出編,「広辞苑」,昭和58年12月6日,第3版第1刷,p.1102
乙第23号証:「ティースプーン」出典:フリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」(2011年4月28日検索)
(URL:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%97%E3%83%BC%E3%83%B3)
乙第24号証:「中国銘茶&物産 良茶良縁 春安」「甘い!中国茶外茶「甜葉菊」カロリー”ゼロ”だから”アンシン”」2009年2月24日更新,(2011年4月28日検索)桜ヶ丘三丁目IT-Service system,(URL:http://www.it-service.co.jp/cgi-local/multi_view.cgi?right_menu=32&TNO=3459&GROUP=00000&numbers=27941&menw_flg=1)
乙第25号証:「丸善食品総合辞典」,丸善株式会社,平成10年3月25日,p.337,553,549

第5 証拠の記載事項
1 甲各号証の記載内容
(1)甲第1号証
甲第1号証は,本件出願前の1956年11月15日に頒布されたものであって
(甲1-1)「Weissmuller Cocktail
曾ての世界的水泳の王者ワイズミュラーの名をとったカクテール
バカーディ・ラム 1/2オンス
ジン 1/2オンス
レモン汁 1/4オンス
砂糖 1茶匙
グレナデン 1/2茶匙
以上を振盪してカクテール・グラスに注いで供する。」(第274頁第3?9行)

(2)甲第2号証の1
甲第2号証の1は,本件出願後の平成22年10月19日付けの行政文書の開示請求について,同年12月20日に行政文書開示決定を行った通知書文書であって
(甲2-1)「1 開示する行政文書の名称
「スクラロースの食品添加物指定要請」に係る食品衛生調査会毒性・添加物合同部会報告(食調第5号 平成11年1月6日)の別添資料のうち分冊2一式,分冊4一式,及び分冊21一式」(第1頁第5?7行)

(3)甲第2号証の2
甲第2号証の2は,甲第2号証の1に記載のとおり,平成22年12月20日に行政文書開示決定がされた,「スクラロースの食品添加物指定要請」に係る食品衛生調査会毒性・添加物合同部会報告(食調第5号 平成11年1月6日)の別添資料のうち「第6章 使用基準案に関する資料」であって
(甲2-2-1)「スクラロースは,食品の製造又は加工の工程で,甘味の付与または増強による味覚の向上又は改善のために使用される添加物である。スクラロースは,においが無く,ショ糖の600倍の甘味を有する白?淡灰白色の粉末であって,水あるいはエタノールに溶けやすく,物理化学的に安定な食品添加物であって,広範囲の食品への使用が可能である。スクラロースは,乳酸菌で分解されないので,醗酵乳製品への使用も可能である。表6-1-1に,使用可能な食品を,昭和54年11月8日環食第299号に示された食品の例示に従って示した。」(第2頁第2?8行)

(甲2-2-2)「また,1991年9月食品添加物として許可したカナダは,表6-2-2に示したように,使用許可食品と最大使用量を設定した。・・・

」(第5頁第3行?下から第4行)

(4)甲第3号証
甲第3号証は,本件出願前の1975年に頒布されたものであって
(甲3-1)「食物の味は単独で味わわれることもあるが,種々の味の混合味として味わわれることが多く,各種の味は互に関連し合っている。甘味食物に少量の食塩を添加すると甘味が強くなるとか,酸味食物に砂糖を加えると酸味が減少するとか,食べ方の順序により味が変化するなどは経験的によく知られた味の相互作用を示す例である。」(第132頁左欄第4?9行)

(甲3-2)「IV 甘味と酸味の関係
甘味試料としては煮物,ジュース,ゼリー,羊かん等に相当するように5,10,25,50%ショ糖溶液を調製し,それらに対し,5段階の量の酢酸を添加し,甘味と酸味の関係を検討した。一方,酸味試料としては閾値,酢のもの料理,調味酢,酸味の強い食物に相当する0.01,0.1,0.3,0.5%酢酸溶液を調製し,それらに対し各々5段階の量のショ糖を添加し,酸味と甘味の関係を検討した。
味覚テストの方法は前述と同様に行った。
実験結果の要約は次のようであった。
1.甘味は閾値程度の少量の酢酸添加によっても減少し,添加量を増すに従って更に減少することがわかった。
2.酸味はショ糖添加により減少する。その添加量は多くなるに従って更に減少するが,量的に比例するのではなく,pHに関係するので0.3%以上の酢酸溶液になると非常に多量のショ糖を添加しても酸味はなかなか消えないという結果であった。
3.0.1%酢酸溶液にショ糖5?10%添加の味は酸味と甘味のつり合いがよく,被験者の多くに好まれたが,これらは,調味酢や中国料理のくずあんの濃度にほぼ同じである。」(第135頁右欄第2?22行)

(5)甲第4号証
甲第4号証は,本件出願前の昭和59年2月3日に頒布されたものであって
(甲4-1)「1.酸味の強い調味料又は食品の製造において,最終製品濃度で1?200mg%のα-L-アスパルチル-L-フェニルアラニンメチルエステルを添加することを特徴とする酸性調味料又は食品の製造法。」(特許請求の範囲)

(甲4-2)「本発明は,α-L-アスパルチル-L-フェニルアラニンメチルエステル(以下アスパルテームと記載する)の添加により,酸味がマイルドで嗜好性の高い酸性調味料又は食品の製造法に関する。」(第1頁左欄最終行?右欄第3行)

(甲4-3)「従来,酸味を緩和するとして知られている呈味成分には,糖類,アミノ酸等がある。しかし,これらの呈味成分を用いることによる酸味緩和効果は必ずしも十分なものではない。例えば,砂糖の場合,比較的多量に添加しないと満足な効果が得られず,その際,甘味がつきすぎて味のバランスが崩れてしまうし,褐変が促進されることにもなり,更にはベタツキ食感となり物性的にも影響を与える。
呈味性,物性等に影響を与えずに酸味を緩和するための試みとしては,例えばpH低下剤の選択など種々行われてきているが,必ずしも満足な結果を得ていないのが実情である。
本発明者らは,上記現状に鑑み,酸味の強い調味料又は食品の酸味を味全体のバランスを崩すことなく緩和し,嗜好性,保存性を高める方法を開発すべく鋭意検討を重ねた結果,アスパルテームの添加により,従来の酸味緩和剤に比べて顕著な効果,即ち,いわゆる”酢カド”がとれて,非常にマイルドな酸味になり,しかも,味全体の調和が図られることを見い出し,本発明を完成したものである。」(第2頁左上欄最終行?左下欄第1行)

(甲4-4)「本発明の対象となる酸味の強い食品,調味料としては,例えば,以下のものが挙げられる。
(1)醸造酢,ビネガー,合成酢等の食酢,すし酢,合せ酢等の加工酢
(2)マヨネーズ,ドレッシング類,ソース類
(3)酢豚の素,冷麺のたれ等の中華料理用たれ・調味料類
(4)酢漬,マリネ類,酢煮等の漬物・加工食品
(5)梅ぼし,梅酢,梅肉合え,梅びしお等の梅加工食品
(6)サワークリーム,ヨーグルト,酸乳等の乳製品
(7)有機酸その他のpH低下剤の添加により,本来のpHを低下して保存性を高めた食品・調味料類。例えば,
(イ)カレー,シチュー,ハンバーグその他の密封保存食品
(ロ)包装麺類
(ハ)蒲鉾,魚肉ソーセージ
(ニ)佃煮,惣菜」(第2頁左下欄第2行?右下欄第1行)

(甲4-5)「実施例1

」(第4頁右上欄第1?11行)

(甲4-6)「実施例2
市販の乳化型ドレッシング(砂糖6%含有,酸度3.5%)1000mlに更に酢50ml及びアスパルテームを各20,36,50mgを添加混合したドレッシングを調製した。」(第4頁左下欄第1?5行)

(甲4-7)「実施例3
キュウリ1kgを6%食塩水1lに3日間浮かし漬した下漬けキュウリに,食酢380ml,砂糖120gと水300mlを一旦煮立て50℃にまで降温させたものにアスパルテーム0.35gを混合溶解した甘酢液を加えて2日間本漬けを行ってキュウリ甘酢漬ピクルスを得た。」(第5頁左上欄第2?8行)

(甲4-8)「実施例4
常法に従ってポタージュスープ(pH6.2)を調製し,これにクエン酸35%,グルタミン酸50%,アスパラギン酸10%及びリンゴ酸5%から成る有機酸組成物をポタージュスープに対し0.13%並びにアスパルテームを0.005%添加し,密封フィルム包装して湯浴中95℃,30分間加熱殺菌して本発明のポタージュスープ(pH5.2)を調製した。」(第5頁右上欄第1?9行)

(甲4-9)「実施例5
常法に従って調製したポテトサラダ(pH5.5)原料に0.25%のクエン酸及び0.01%のアスパルテームを添加し,pH4.5のポテトサラダを調製した。」(第5頁左下欄第1?5行)

(6)甲第5号証
甲第5号証は,本件出願前の昭和61年8月9日に頒布されたものであって
(甲5-1)「酢酸3?5重量%を含有する醸造酢100重量部に対し,ステビア甘味料が,総ステビオサイドとして0.1?1.5重量部の範囲にあることを特徴とする甘味料配合の低カロリー醸造酢。」(特許請求の範囲)

(甲5-2)「本発明者は,甘味倍数の高い各種の甘味料と種々の酢との配合について検討を重ね,その結果,食品としての安全性の確保についてはもちろんのこと,良好な味質の付与,酸味の緩和,刺激臭の低減,化学的安定性の維持などを実現し,その上砂糖の併用を皆無とし得るか,あるいは砂糖使用量を大幅に減じ得るのは,いわゆる酢酸発酵によって得られる醸造酢と天然のステビア甘味料との組合せだけに限られることを見出し,本発明に到達したものである。」(第2頁左上欄第8?17行)

(甲5-3)「実施例 1
次の組成からなる本発明の醸造酢を製造した。
米酢(酢酸含有量4.0重量%)
・・・・・・・・・・100重量部
ステビア甘味料(ステビアフィンH)
・・・・・・・・・・0.3重量部」(第2頁右上欄第18行?左下欄第3行)

(甲5-4)「実施例 2
次の組成からなる本発明の醸造酢を製造した。
かす酢(酢酸含有量4.0重量%)
・・・・・・・・・・100重量部
ステビア甘味料(SKスィート)
・・・・・・・・・・0.5重量部」(第2頁左下欄第10?15行)

(7)甲第6号証
甲第6号証は,本件出願前の平成元年3月20日に頒布されたものであって
(甲6-1)「

」(第124頁)

(甲6-2)「表4-10は酸の添加とサッカリンの苦味を試験した結果であるが,・・・また同表によれば,酸の添加量が多くてもサッカリンの甘味によって味覚的に刺激的な酸味をあまり感じさせないという酸味の面からの効果もみられる。酢漬にサッカリンがよいといわれるのも,これらの理由によるものであろう。」(第124頁第5?11行)

(8)甲第7号証
甲第7号証は,本件出願後の平成10年8月18日に頒布されたものであって
(甲7-1)「【0016】実施例2:ピクルス
醸造酢(酸度10%)15部,食塩6.5部,ハーブ(ディル)抽出物0.4部,ウコン粉末0.2部,ディルフレーバー0.1部,スクラロース0.0028部,又はハイステビア500(ステビア抽出物 池田糖化工業株式会社製)0.013部を水にて100部とし,ローレル,カッシャ,唐辛子を適量加える。この調味液と塩抜きしたきゅうりを4対6の割合で合わせ,瓶詰めする。その結果,スクラロース又はステビア抽出物を添加していないピクルスに比べて,酸味がマイルドで嗜好性の高いピクルスに仕上がった。」

(9)甲第8号証
甲第8号証は,本件出願後の平成23年8月22日に作成されたものであって
(甲8-1)「実験方法
1.材料の調整
下記の分量で試料A及び試料Bを調整した。
(1)試料A:砂糖添加のワイズミュラーカクテル(処方表略)
(2)試料B:試料Aのカクテルの砂糖に代えて,粘度調整剤(パインデックス#2)を用いたもの。
・・・
3.パネラーの評価(官能検査)
(1)各パネラーは試料A,試料Bをブラインドで試飲し,酸味のマスキング効果を,下記の5段階で,個別に評価した。
5:酸味が十分緩和されている
4:酸味が緩和されている
3:どちらとも言えない
2:酸味が強い
1:酸味がとても強い」(第1頁第4行?第2頁第8行)

(甲8-2)「実験結果
・・・
2.パネラーの点数(表1)
(1)試料Aの平均値:4.3,分散:0.92,標準偏差:0.99
(2)試料Bの平均値:3.4,分散:1.24,標準偏差:1.16」(第2頁第13?15行)

(甲8-3)「統計量t>t値(両側,危険率5%)から,帰無仮説が棄却され,標本Aと標本Bに有意差があることが確認できた。」(第3頁第11?12行)

(甲8-4)「結論
「試料A(砂糖添加)の酸味は,試料B(砂糖無添加)に比較し緩和されている」ことが統計的に認められた。」(第3頁第13?15行)

2 乙各号証の記載内容
(1)乙第1号証
乙第1号証は,本件出願後の2008年に頒布されたものであって
(乙1-1)「酸味料は,その種類によって酸味の質や呈味時間が異なる。」(第56頁右欄下から第8?7行)

(乙1-2)「

」(第57頁)

(乙1-3)「図2に有機酸の酸味度と呈味時間との関係を示した。酒石酸は,酸味の立ち上がりが早いが,呈味を感じる時間は短い。逆にDL-リンゴ酸は,酸味の立ち上がりは遅いが,呈味は長続きする。クエン酸はその中間的な傾向を示す。」(第57頁右欄第8?12行)

(2)乙第2号証
乙第2号証は,本件出願前の平成9年1月1日に頒布されたものであって
(乙2-1)「

」(第61頁)

(乙2-2)「また,酸味料の種類や他の呈味物質の存在により酸味が強調されたり,マスキングされたりする不可解な現象を確認している。」(第62頁第2?4行)

(3)乙第3号証
乙第3号証は,本件出願後の平成21年に頒布されたものであって
(乙3-1)「ネオテームは,フルーツ(シトラス等),バニラ,ミント等のフレーバーおよびクエン酸の酸味を増強する効果がある。」(第80頁第2段第23?28行)

(乙3-2)「乳酸菌飲料や酢飲料においては,刺激のある酸味を和らげ,風味を改善することができる。」(第80頁第4段第14?16行)

(4)乙第4号証
乙第4号証は,本件出願前の平成8年4月9日に頒布されたものであって
(乙4-1)「【特許請求の範囲】
1.下記一般式で示される化合物,およびこれらの生理学上許容可能な塩。

上記式中,
Rは,・・・,(CH_(3))_(3)CCH_(2)CH_(2),・・・からなるグループから選択される基を示し,
Xは,・・・からなるグループから選択される基を示し,
Zは水素原子叉はOH基を示す
2. 下記一般式で示されることを特徴とする請求項1記載の化合物。

上記式中,Rはクレーム1で限定した通りである」

(5)乙第5-1号証
乙第5-1号証は,本件出願後の2011年5月27日に作成されたものであって
(乙5-1-1)「目的 酸味剤として,酢酸,クエン酸,及び酒石酸を用い,甘味料として,スクラロース,砂糖,アセスルファムK,アスパルテーム,ステビア抽出物,サッカリンNaを用いて,甘味料による酸味マスキング効果を比較する。」(第1頁第1?3行)

(乙5-1-2)「評価方法 表2に記載したように,スクラロースと各種甘味料(砂糖,アセスルファムK,アスパルテーム,ステビア抽出物,サッカリンNa)について,2点比較試験を行った。
(1)表1の添加量に従って,スクラロースとその他の甘味料を,それぞれ各種の酸味剤0.2%水溶液に添加する。
(2)スクラロース又はその他の甘味料の入った溶液のどちらか一方にA,他方にB(どちらにするかはランダムにし,パネラーにはわからないようにする。)の記号をつける。
(3)パネラーに,このAとBの中から酸味のマスキング効果の高い溶液(酸味の低い溶液)を選択してもらい,選択された溶液に1ポイントを付与する。」

(乙5-1-3)「評価結果 1?10の試験(当審注:試験番号を表す1乃至10の数字は全て数字を○で囲むものである。)について,各酸味剤毎の評価結果を下記の表3に示す。
結果は,パネラー(9名×3回)によって,各酸味剤に対する酸味マスキング効果が高いと評価された各溶液に対するポイント総数を示す。

上記結果から,各酸味剤(0.2%クエン酸,酒石酸,酢酸)に対して,スクラロースは他の甘味料(1,2:砂糖,3,4:アセスルファムK,5,6:アスパルテーム,7,8:ステビア抽出物,9,10:サッカリンNa)よりも酸味のマスキング効果が極めて高いことが確認された(危険率1%以下)。」(第1頁下から第3行?第2頁最終行)

(6)乙第5-2号証
乙第5-2号証は,本件出願後の2011年6月3日に作成されたものであって
(乙5-2-1)「目的 酸味剤として,甲3において砂糖ではマスキングできないと記載されている「0.3%酢酸」を用い,甘味料として,スクラロース,砂糖,アスパルテームを用いて,酸味マスキング効果を比較する。」(第1頁第1?3行)

(乙5-2-2)「評価結果 1?4の試験(当審注:試験番号を表す1乃至4の数字は全て数字を○で囲むものである。)についての評価結果を下記の表3に示す。
結果は,パネラー(9名×3回)によって,酸味マスキング効果が高いと評価された各溶液に対するポイント総数を示す。

上記の結果から,0.3%酢酸水溶液に対して,スクラロースは他の甘味料(1,2:砂糖,3,4:アスパルテーム)よりも酸味のマスキング効果が極めて高いことが確認された(危険率1%以下)。」(第1頁下から第5行?最終行)

(7)乙第6号証
乙第6号証は,本件出願前の平成9年1月1日に頒布されたものであって
(乙6-1)「トレハオースによる矯味・矯臭作用とその応用例
・・・
(2)酸味
・・・一方,食酢そのものに添加しますと,刺激臭や酸味が強調される・・・」(第45頁中欄第6?26行)

(8)乙第7号証
乙第7号証は,本件出願後の1998年11月20日に頒布されたものであって
(乙7-1)「2.2製品の種類と規格
現在市販されているトレハロース製品は高純度含水結晶トレハロース「トレハオースR(当審注:Rは○の中にRを示す)」でこの規格を表1に示す。「トレハオースR」はトレハロースを98%以上含む白色の高純度結晶品である。」(第214頁下から第2行?第215頁第1行)

(9)乙第8号証
乙第8号証は,本件出願前の1969年に頒布されたものであって
(乙8-1)「SUMMARY - The sensory and stability properties of neohesperidin dihydrochalcone were evaluated.・・・Tests indicated that the presence of neohesperidin dihydrochalcone gave, for most tasters, an apparent increase in flavor. The ethoxy homolog, homoneohesperidin dihydrochalcone, gave the same effect as the neohesperidin dihydrochalcone.」(第101頁左欄第1?12行)

(乙8-2)「Neohesperidin dihydrochalcone was compared with other sweeteners in food and beverage products such as gelatin and lemonade.・・・In a lemonade type beverage the sweeteners were used at a 10% sucrose equivalence level. Table 4 gives the characteristics of lemonade with the four different sweeteners. The apparent greater tartness in lemon flavored products containing neohesperidin dihydrochalcone suggests a possible synergistic action with citrus or acidic flavors.」(第102頁右欄第6?24行)

(乙8-3)「Table 4. Lemonade product
Sweetner ・・・ Tartness
Neohesperidin dihydrochalcone More tart, harsh acidic」(第103頁)

(10)乙第9号証
乙第9号証は,本件出願前の昭和46年に頒布されたものであって
(乙9-1)「(1)Dihydrochalcone類
1963年Horowitzらが見出した甘味物質で,最近特に注目されるようになった。甘味の強いものとして,・・・neohesperidin dihydrochalcone・・・などがあげられる・・・またこれらの甘味物質はいずれも水溶性で,かつ安定性が良いので飲食品や医薬品の甘味料に適しているといわれる。Inglettらはおもにneohesperidin dihydrochalconeの甘味や安定性を調べ,さらに食品への添加実験を行った。・・・本物質をゼリー様食品やレモン水に加えてその甘さを評価したが,本品を添加した食品では砂糖を加えたものに比較して甘味の出現がおそく,酸性を強く感じたと述べている。」(第22頁右欄下から第7行?第23頁右欄第2行)

(11)乙第10号証
乙第10号証は,本件出願後の2004年4月20日に頒布されたものであって
(乙10-1)「たとえば,甘味を引き起こす物質は,砂糖(ショ糖),ブドウ糖,果糖,一部のアミノ酸などの天然物から人工甘味料まで,その数は数千を下らないといわれています。苦味やうま味も同様に,さまざまな物質によって引き起こされます。酸味のもとは水素イオン(H^(+))ですから,水に溶けてH^(+)を出すものは基本的には酸っぱいことになります。」(第38頁第3?6行)

(12)乙第11号証
乙第11号証は,本件出願後の平成14年5月10日に頒布されたものであって
(乙11-1)「

」(第12頁)

(乙11-2)「

」(第13頁)

(13)乙第12号証
乙第12号証は,本件出願後の平成20年10月1日に頒布されたものであって
(乙12-1)「(8)果糖
果糖は,果物や蜂蜜の中に多く含まれている天然の糖の1つである・・・このほかに各種食肉加工品,味噌,醤油,食酢等同様の理由で相性がよく,それぞれの食品の香りや味を引き立てる働きを持っている。」(第85頁第4行?第93頁最終行)

(14)乙第13号証
乙第13号証は,本件出願後の平成20年10月1日に頒布されたものであって
(乙13-1)「エリスリトールは,酸味・塩味をエンハンス(増強)し,苦味・渋味や青臭み,ビタミン臭はマスキング(減退)する。」(第200頁第11?12行)

(15)乙第14号証
乙第14号証は,本件出願後の2011年11月14日に作成されたものであって
(乙14-1)「(目的)
高甘味度甘味料としてソーマチンを用いて,各種酸味剤(クエン酸または酒石酸)を含有するチューインガムの酸味に対するソーマチンのエンハンスまたはマスキング効果を調べる。」(第1頁第1?4行)

(乙14-2)「(結果)
上記表2に示すように,ソーマチンを添加することにより,チューインガムに使用された酸味剤であるクエン酸及び酒石酸の酸味がいずれもエンハンス(増強)されることが判明した。このことから,高甘味度甘味料の1種であるソーマチンは,クエン酸及び酒石酸の酸味をエンハンスするように作用することがわかる。」(第2頁第1?5行)

(16)乙第15号証
乙第15号証は,本件出願後の2008年4月1日に頒布されたものであって
(乙15-1)「甘味を呈する物質の種類は極めて多く,低分子から高分子に至るまで多岐にわたり,構造も多様である。例えば,ショ糖,アミノ酸,ペプチド,タンパク質,多価アルコール類,ニトロアニリン,サッカリン,クロロホルムなどが甘味を呈し,これらの甘味物質に共通の構造を見出す研究,いわゆる構造-活性相関の研究が古くから行われている。・・・その後,水酸基,カルボキシル基,アミノ基の数と甘味の関係も注目されたが,詳細な検討の結果,特異的な関係は否定された。・・・しかし,調べが進むにつれ,この構造も不十分であり,必ずしもこの構造が分子内に認められなくとも甘味を呈する化合物もあり,逆にこの構造を満たしているにも関わらず,甘味を呈しない化合物も明らかになった。・・・現段階では味受容体(taste receptor)のT1R2+T1R3のヘテロ二量体が甘味受容体とされ,上記の低分子から高分子に至る様々な甘味化合物が,このT1R2+T1R3受容体と結合すると報告されている(詳細後述)。」(第316頁左欄第16行?右欄第28行)

(乙15-2)「甘味受容体と甘味物質の相互作用については未だ不明な点が多い。」(第326頁下から第4?3行)

(17)乙第16号証
乙第16号証は,本件出願後の平成23年3月10日に頒布されたものであって
(乙16-1)「酸味に応答する味覚細胞の膜には,酢酸などの酸味物質と直接的に結合する受容体「PKD1L3-PKD2L1チャネル」が存在している。PKD1L3-PKD2L1チャネルは,酸による刺激を受けたときではなく,その刺激が取り除かれたときに活性化するという応答特性について,デューク大学および自然科学研究機構のグループが発表した。彼らは,このような応答特性を「オフ応答」と名付け,一方,これに対して酸味以外の旨味,甘味,塩味および苦味の受容体のように刺激を受けた時に活性化する応答特性を「オン応答」と呼んでいる。」(第85頁第4段第4?19行)

(乙16-2)「そして,酸味をマスキングするためには,オフ応答のタイミングに合わせて呈味を発現させる必要があることに気付いた。酸味を酸味以外の味(旨味,甘味,塩味および苦味)でマスキングするという着想は妥当であると思っていたが,味を感じる時間がズレている場合,その効果は期待できないということが,オフ応答から示唆される。例えば,口に入った瞬間に呈味が発現されるような素材の場合(図3の物質A),酢酸ナトリウムの酸味を感じるタイミングと異なるため,うまくマスキングされることができないと推測される。また,オフ応答時に呈味が発現するような素材の場合(図3の物質BやC),酸味の情報と同時に呈味情報が脳に伝達されるため,脳が酸味を正確に判断できなくなる可能性があると考えた。」(第86頁第1段第2行?第2段第14行)

(18)乙第17号証
乙第17号証は,本件出願後の2010年に頒布されたものであって
(乙17-1)「このような味の相互作用が,どのような分子機序で生じているかについてはほとんどわかっていない。」(第195頁左欄第10?12行)

(19)乙第18号証
乙第18号証は,本件出願後の2004年4月20日に頒布されたものであって
(乙18-1)「じつは,「対比」のメカニズムはまだよくわかっていません。」(第23頁第4行)

(20)乙第19号証
乙第19号証は,本件出願後の2004年7月1日に頒布されたものであって
(乙19-1)「f.ブドウ酢(ワインビネガー)」(第111頁第12行)

(乙19-2)「

」(第180頁)

(21)乙第20号証
乙第20号証は,本件出願後の2011年9月21日に作成されたものであって
(乙20-1)「目的 酸味剤としてクエン酸を用い,甘味料としてスクラロースを用いて,甘味料による酸味マスキング効果を評価する。
酸味剤 最終濃度0.05%,0.1%,5%のクエン酸(水溶液)
(一般的な飲料の酸味は,クエン酸濃度で0.1?0.4%程度。一般的な梅干しの酸味は,クエン酸換算で3?5%程度である。)
甘味料 スクラロースを使用する。
スクラロースの添加量:最終濃度0.012%及び0.015%」(第1頁第1?7行)

(乙20-2)「上記結果から,各濃度(0.05%,0.1%,5%)のクエン酸水溶液に対して,スクラロースの添加は,0.012%及び0.015%濃度のいずれでも,酸味のマスキング効果を発揮することが確認された。」(第2頁第1?2行)

(22)乙第21号証
乙第21号証は,本件出願後の平成11年5月20日に頒布されたものであって
(乙21-1)「表5-6は著者が市販の梅干しを分析した結果で,一般市販品には酸を3?5%,食塩を10?14%を含むものが多い。」(第150頁第3?4行)

(23)乙第22号証
乙第22号証は,本件出願前の昭和58年12月6日に頒布されたものであって
(乙22-1)「じ-めい【自明】何等の証明を要さず,それ自身ですでに明白なこと。」(第1102頁第4段第4?5行)

(24)乙第23号証
乙第23号証は,本件出願後にインターネットで利用可能となったものであって
(乙23-1)「1テーブルスプーン単位は3ティースプーン単位とされている。なお,オーストラリアでは4ティースプーン単位が1テーブルスプーン単位とされている。
攪拌のための一般的なティースプーンはこのように厳密でなく,2.5?6ml程度である。」

(25)乙第24号証
乙第24号証は,本件出願後にインターネットで利用可能となったものであって
(乙24-1)「茶さじ一杯の砂糖(6g)」

(26)乙第25号証
乙第25号証は,本件出願後の平成10年3月25日に頒布されたものであって
(乙25-1)「グレナディンシロップ[grenadine syrup] 単に,グレナディンとかグレナジンシロップともいう。これは,ざくろまたはあかすぐりの果汁を煮詰めて得たシロップをいうが,前者を言う場合が多い。フランス語に由来している。」(第337頁右欄下から第10?6行)

(乙25-2)「シロップ[syrup] →シラップ」(第553頁左欄第25行)

(乙25-3)「シラップ[syrup] シロップと同じ。一般に砂糖濃度10?60%の糖液をいう。・・・グレナディンシラップ(ざくろの香味を添加)・・・などがある。」(第549頁左欄下から第8行?右欄第2行)

第6 当審の判断
1 無効理由1(特許法第36条第6項第1号)について
(1)請求人の主張
ア 酸味のマスキングについて,「どのような状態が,酸味の程度が緩和されている状態か,それをどのように判断するかは一切開示がなく,当業者においても,その判断は不可能である。」(弁駁書第6頁下から第5?3行)と主張している。
イ 特許請求の範囲は,製品の酸味の程度を問わず,所定量のスクラロースを添加すれば,本件発明の作用効果を奏するというものである。(審判請求書第7?9頁)
ウ 明細書には,3例の実施例が記載されているにすぎず,製品の酸味の程度にかかわらず,所定量のスクラロースを添加すれば,本件発明の課題を解決しうると認識できない。(審判請求書第7?9頁)
エ 特許請求の範囲には,酸味の程度に関する特定がないから,所定量のスクラロースで課題を解決できると認識できない。(弁駁書第4?7頁)
以上のとおり,本件特許の特許請求の範囲に記載された説明は,発明の詳細な説明に記載された発明でも,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決することができると認識し得る範囲のものではないから,特許法第36条第6項第1号のサポート要件に違反して特許されたものであることは明らかである。

(2)当審の判断
ア 請求項1に記載された「酸味のマスキング」について,その意味するところを検討する。
酸味のマスキングについて,本件特許明細書には「酸味のマスキング」の定義は記載されていない。
しかしながら,従来技術として,段落【0004】に「これに対して,種々の呈味成分が酸味を緩和するものとして知られている。例えば,糖類やアミノ酸等が挙げられるが,これらを食品等に添加することにより十分な酸味緩和作用を発揮させようとすると,甘味がつきすぎたりして製品自体の味のバランスが損なわれるという問題があった。」と記載され,糖類等で酸味を緩和することが従来から行われていたことが記載されている。
そして,段落【0008】「スクラロース自体,甘味剤として良質の甘味を呈する物質であるため,マスキングされた後の酸味自体の風味を良質なものにすることができる。」と記載され,マスキングされた後でも良質な酸味があることが記載されている。
また,段落【0016】の実施例2に「不快な酸味がマスキングされ,梅の酸味のさわやかなフィズであった。」,段落【0018】に「ワインビネガー由来の酢酸臭が,スクラロースによってマスキングされ,酸味の不快味がマスキングされたバーベキューソースであった。」と記載され,不快な酸味がマスキングされることが記載されている。
さらに,段落【0019】の発明の効果に「スクラロース自体,甘味剤として良質の甘味を呈する物質であるため,マスクングされた後の酸味自体の風味を良質なものにすることができる。」と記載され,マスキングされた後でも良質な酸味があることが発明の効果として記載されている。
したがって,本件特許明細書の上記記載からみて,本件発明の「酸味のマスキング」は,酸味を完全に隠蔽することを意味しておらず,不快な酸味をマスキングすることを意味しているとするのが相当といえる。そして,不快な酸味のマスキングは,少なくとも酸味の不快な部分の減少を伴っているとするのが相当であり,飲食することで,スクラロースの添加前と後とを比較して酸味の不快な部分が減少されれば酸味がマスキングされたと判断できる。

イ そして,本件特許明細書の段落【0008】には,「スクラロースの添加量は,得られた製品の味の総合的なバランス等を考慮して適宜調整することができる。」「これによって,酸味のマスキング効果を十分に発揮するとともに,製品本来の味のバランスを保持し,さらに長期安定性,熱安定性にすぐれた酸味のマスキングを行うことができる。また,スクラロース自体,甘味剤として良質の甘味を呈する物質であるため,マスキングされた後の酸味自体の風味を良質なものにすることができる。」と記載され,さらに,本件特許明細書の実施例1に,クエン酸と酒石酸の酸味のマスキングが0.013重量%のスクラロースで,実施例2に,クエン酸の酸味のマスキングが0.015重量%のスクラロースで,実施例3に,ワインビネガーの酸味のマスキングが0.012重量%のスクラロースで行えることが記載されていることから,0.012?0.015重量%のスクラロースにより,経口摂取又は口内利用時に酸味を呈する量のクエン酸,酒石酸,酢酸含有製品の「酸味のマスキング」ができることが認識できるといえる。ここで,ワインビネガーは,ワインから製造した酢であり,酢酸を主成分とし,酒石酸とクエン酸も含有することは技術常識である(被請求人口頭審理陳述要領書第32頁参照)。
本件発明は,スクラロースの「0.012?0.015重量%」の添加により製品の酸味がマスキングされる方法であり,酸味が強い等の理由により,0.012?0.015重量%のスクラロースの添加によっても製品の酸味がマスキングされない方法は,本件発明に包含されるものでない。
したがって,クエン酸,酒石酸及び酢酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸味剤を含有し,経口摂取又は口内利用時に酸味を呈する製品に対して,スクラロースを,該製品の重量に対して0.012?0.015重量%で用いた酸味のマスキング方法は,発明の詳細な説明の記載から,当業者であれば認識できるものである。

(3)小括
よって,本件特許の請求項1に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載された発明であるため,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。

2 無効理由2-1(甲第1号証からの進歩性)について
(1)本件特許発明
上記「第2」の項において述べたように,本件の平成23年6月24日付け訂正請求が認められることとなるので,本件特許明細書の請求項1に係る発明(以下,「本件訂正発明」という。)は,以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
クエン酸,酒石酸及び酢酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸味剤を含有し,経口摂取又は口内利用時に酸味を呈する製品に,スクラロースを,該製品の重量に対して0.012?0.015重量%で用いることを特徴とする酸味のマスキング方法。」

(2)甲第1号証から認定できる公然実施された発明
上記摘記事項(甲1-1)に記載された事項,及び,単位「オンス」はカクテルにおいては「液量オンス」であるという技術常識からみて,甲第1号証に記載された発明は以下のものと認められる。
「バカーディ・ラム1/2液量オンス,ジン1/2液量オンス,レモン汁1/4液量オンス,砂糖1茶匙,グレナデン1/2茶匙を振盪するカクテールの作成方法。」
そして,甲第1号証は,1956年11月15日に改訂再版の,全日本バーテンダー協会監修の下発行された刊行物である。ここには,各種カクテルのレシピが記載されており,甲第1号証に接した者が,摘記事項(甲1-1)のレシピに従い,カクテルを作った事が十分推認できる。したがって,上記カクテールの作成方法は,本出願前から公然と実施されていた発明(以下,「甲1発明」という。)と認められる。

(3)対比
本件訂正発明と甲1発明とを比較する。
ア 甲1発明のカクテールに含有される「レモン汁」は,酸味を呈することは明らかであり,クエン酸を含有することは技術常識であるから,本件訂正発明の「クエン酸,酒石酸及び酢酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸味剤」に相当する。

イ 甲1発明の「カクテール」は,「バカーディ・ラム1/2液量オンス,ジン1/2液量オンス」,つまり酒類合計1液量オンスに対して,レモン汁がその1/4量加えられていることから,砂糖を加える前の状態のカクテールは,経口摂取又は経口利用時に酸味を呈するとするのが自然であり,本件訂正発明の「経口摂取又は経口利用時に酸味を呈する製品」に相当する。

ウ 甲1発明の「砂糖1茶匙」と本件訂正発明の「スクラロースを0.012?0.015重量%」とは,所定量の甘味剤である点で共通する。

エ 本件訂正発明の製品の「酸味のマスキング方法」は,酸味をマスキングして製品を作成する方法ともいえるから,刊行物1発明の「カクテールの作成方法」と本件訂正発明の製品の「酸味のマスキング方法」とは,製品を作成する方法である点で共通する。

したがって,両者の間には,以下の一致点及び相違点がある。
(一致点)
クエン酸,酒石酸及び酢酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸味剤を含有し,経口摂取又は経口利用時に酸味を呈する製品に,所定量の甘味剤を用いる製品を作成する方法である点。
(相違点1)
製品を作成する方法が,本件訂正発明では,製品の「酸味のマスキング方法」であるのに対して,甲1発明は「カクテールの作成方法」である点。
(相違点2)
所定量の甘味剤が,本件訂正発明では「スクラロースを0.012?0.015重量%」であるのに対して,甲1発明では,「砂糖1茶匙」である点。

(4)検討・判断
(相違点1について)
甲第1号証には,砂糖を添加した意図が,レモン汁の酸味をマスキングするためであることも,甲1発明のカクテールが,酸味がマスキングされたものであることも記載も示唆もない。
(甲8-1)?(甲8-4)に,砂糖添加のワイズミュラーカクテルである試料は,砂糖無添加の試料と比較して,酸味がより緩和されているという結果が示されている。しかしながら,作成されたカクテールの酸味が結果的にマスキングされていたとしても,甲1発明は「カクテールの作成方法」であって「酸味のマスキング方法」であるとすることはできない。
次に,レモン汁等の酸味剤を含有するカクテールに添加された砂糖等の甘味剤が,酸味をマスキングするためのものであることが,公知又は周知であったか検討する。
甲第3号証には,「酸味食物に砂糖を加えると酸味が減少する」ことが「経験的によく知られた味の相互作用を示す例である。」と記載され,酸味をマスキングする製品として,具体的には「調味酢や中華料理のくずあん」が記載され,甲第4号証には「酸性調味料又は食品」,甲第5号証には「醸造酢」,甲第6号証には「酢漬け」が記載されているものの,いずれにも,カクテールはもとより,アルコール飲料の酸味をマスキングすることについて記載も示唆もない。
甲第2号証の2には,スクラロースについて「1991年9月食品添加物として許可したカナダは,表6-2-2に示したように,使用許可食品と最大使用量を設定した。」と記載され,表6-2-2として示された,スクラロースの「カナダにおける使用基準」の表は,カナダにおけるスクラロースの許可が1991年9月であることから,本件出願前にカナダで頒布されたと推認される。そして,この表には「アルコール飲料」についてのスクラロースの使用基準が記載されているが,甘味料としての使用を記載したものであり,酸味のマスキングについては,記載も示唆もされていない。
そうすると,レモン汁等の酸味剤を含有するカクテールにおいて,砂糖等の甘味剤を添加することが酸味をマスキングするためであることが公知又は周知であったとすることはできない。そして,甲第1号証に記載されたカクテールの,砂糖は,カクテールに甘味を付加して風味を改善するために添加されていると認識できるに止まる。
以上のとおり,甲1発明の「カクテールの作成方法」を,「酸味のマスキング方法」とする動機付けを見出すことはできないから,「カクテールの作成方法」を,「酸味のマスキング方法」とすることを当業者が容易になし得たとすることはできない。
(相違点2について)
スクラロースは,甲第2号証の2の記載から,甘味の付与のために食品に添加されるものとして知られていただけでなく,例えば以下の特許文献(下記「第6 3(4)」参照)にも記載されるように,本件出願前周知の人工甘味料である。また,甲第4?6号証に,アスパルテーム,ステビア,サッカリンが酢酸,クエン酸等の酸味を緩和させることが記載されている。しかしながら,上記相違点1で記載したとおり,甲1発明の砂糖は,酸味のマスキングのために添加されているとすることはできず,さらに,酸味のマスキング方法とする動機付けがない以上,砂糖に代えて,酸味のマスキングのために人工甘味料の中からスクラロースを選択して用いることを当業者が容易になし得たとすることはできない。
仮に甘味剤として,砂糖を人工甘味料であるスクラロースに代替したとしても,それはあくまでも甘味の付加のためであって,酸味のマスキング方法とすることが容易になし得たとすることはできないことは,上記(相違点1について)で記載したとおりである。

(5)小括
したがって,本件訂正発明は,上記公然と実施された甲1発明,及び甲第2?6号証に記載された発明に基づいて,出願前に当業者が容易に想到できた発明であるといえない。

3 無効理由2-2(甲第3号証からの進歩性)について
(1)本件訂正発明
上記「第6 2(1)」の項において述べたとおりのものと認める。

(2)甲第3号証記載の発明
(甲3-2)に記載された事項からみて,甲第3号証に係る発明(以下,「甲3発明」という。)は以下のものと認められる。
「0.1%酢酸溶液に,5?10%のショ糖を添加して,酸味を減少させ,酸味と甘味のつり合いを良くする方法。」

(3)対比
本件訂正発明と甲3発明とを比較する。
ア 本件訂正発明の「酸味のマスキング方法」は,上記「第6 1(2)ア」で記載したとおり,不快な酸味をマスキングする方法といえる。そして,本件特許明細書の段落【0008】には,「これによって,酸味のマスキング効果を十分に発揮するとともに,製品本来の味のバランスを保持」と記載されている。
さらに,(乙5-1-2)に,酸味のマスキング効果が高い溶液が,酸味が低い溶液,つまり酸味が減少した溶液であることが記載されていることも考慮すると,甲3発明の「酸味を減少させ,酸味と甘味のつり合いを良くする方法」は,本件訂正発明の「酸味のマスキング方法」に相当する。

イ 甲3発明の「0.1%酢酸溶液」は,酸味を呈するものであり,(甲3-2)に,被験者の多くに好まれたと記載されているから経口摂取することは明らかであり,本件訂正発明の「クエン酸,酒石酸及び酢酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸味剤を含有し,経口摂取又は経口利用に酸味を呈する製品」に相当する。

ウ 甲3発明の「5?10%のショ糖」と本件訂正発明の「スクラロースを0.012?0.015重量%」とは,所定量の甘味剤である点で共通する。

したがって,両者の間には,以下の一致点及び相違点がある。
(一致点)
クエン酸,酒石酸及び酢酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸味剤を含有し,経口摂取又は経口利用に酸味を呈する製品に,所定量の甘味剤を用いる酸味のマスキング方法である点。
(相違点)
所定量の甘味剤が,本件訂正発明では,「スクラロースを0.012?0.015重量%」であるのに対して,甲3発明では,「5?10%のショ糖」である点。

(4)検討・判断
上記相違点について検討する。
甲第4号証には,アスパルテームが食酢,梅ぼし,有機酸等の酸味の強い調味料又は食品の酸味を味全体のバランスを崩すことなく緩和すること((甲4-3)?(甲4-9)),甲第5号証には,ステビア甘味料が,酢酸の酸味の緩和を実現すること((甲5-1)?(甲5-4)),甲第6号証には,サッカリンが刺激的な酸味をあまり感じさせなくする効果を有し,酢漬けにサッカリンがよいこと(甲6-2)が記載されている。そして,アスパルテーム,ステビア,サッカリンはスクラロースと同様に高度甘味料であることは周知である(以下の周知例2,3,5,6,8参照)。
そして,スクラロースは,甲第2号証の2の記載から,甘味の付与のために食品に添加されるものとして知られたものであるだけでなく,例えば以下の特許文献にも記載されるように,本件出願前に,ショ糖の600倍という高甘味度で甘みが良質であり,耐熱性があるという性質も知られている周知の人工甘味料である。

周知例1:特開平8-224075号公報
「【0006】また,アルコール飲料にシュクラロースを添加するアルコール飲料の風味向上法が提供される。本発明において,シュクラロースとは,4,1’,6’-トリクロロ-4,1’,6’-トリデオキシ-ガラクトスクロースまたは1’,6’-ジクロロ-1’,6’-ジデオキシ-β-D-フラクトフラノシル4-クロロ-4-デオキシ-α-D-ガラクトピラノシドとして知られている甘味度甘味料である。シュクラロースは,しょ糖に非常に近い甘味質を持つ良質の甘味料として知られており,甘味料としての有用性については様々な研究がなされている。例えば,特開昭52-087275号公報で飲食物の甘味剤として,特開昭57-186459号公報にチューインガム,飲料,練り歯みがき,口洗剤,パイ充填物等に使用すること,特開昭61-132153号公報に冷菓,製菓などに使用すること,特開平02-062887号公報に焼き製品,スナック,飲料,冷凍食品,キャンデーその他の食品組成物に使用すること,特開平5-15337号公報にポリデキストロースと併用し,低カロリー非う食性可食組成物を調製する方法が記載されている。」

周知例2:特開平3-160953号公報
「これらの人工甘味料の他に,他の人工甘味料,即ちスクラロースが近年米国特許4,380,476号に記載されており,また,摂取可能な製品中のその使用が米国特許4,549,013号および4,435,440号に記載されている。スクラロースはスクロースの600?650倍の甘味を示すと報告されており,その化学名は4.1’,6’-トリクロロガラクトスクロースであり,略してスクロースのクロロ誘導体と称される。この特定の甘味料は,スクロースの約300倍の甘味のサッカリン,スクロースの約200倍の甘味のアスパルテーム,そしてスクロースの約200倍の甘味のエースサルフェームーKと同様,スクロースそのものよりもはるかに甘味が強いため,強力人工甘味料である。」(第3頁右下欄第12行?第4頁左上欄第8行)

周知例3:特開平6-165633号公報
「【0023】使用可能な高甘味度甘味料の例を挙げれば,アスパルテーム,グリチルリチン,サッカリン,ステビオシド,レバウシドA,ズルチン,アリテーム,トリクロロシュクロース(スクラロース)などがある。」

周知例4:特開平6-189666号公報
「【0011】(b)甘味料
用いる甘味料は,好適には,スクラロースの如き高強度甘味料(低カロリーの糖代替物),或はベーキング温度に耐えるに充分な熱安定性を示す他の高強度甘味料であり,そしてこれはまた,蔗糖,フルクトース,トウモロコシ甘味料,蜂蜜,糖アルコールなどの糖を減少した量(即ち,カロリーが豊富な同じ種類の焼き製品で通常用いられているよりも低い比率)で含んでいてもよいか,或は減少した量の糖と熱安定性を示す高強度甘味料の組み合わせを含んでいてもよい。」

周知例5:特開平5-271101号公報
「【0009】スクラロースと特定の他の高強度の甘味料間の相乗作用は英国特許第2,098,848B号及び第2,154,850B号に開示されるが,これらの他の甘味料(サッカリン,アセサルフェーム-K,ステビオサイド及びシクラメート)はネオDCより良質の甘味を有しそして甘味力における増加は他の甘味料が甘味に殆ど又は全く寄与しない組成物に拡大しない。」

周知例6:特開平7-184570号公報
「【0007】通常カロリーの固形物の多い製品に全体的官能的性質が近いような,低カロリーの,固形物の少ないフルーツスプレッド製品を提供することが,本発明の目的である。本目的は多成分ガム系を,アスパルテーム;サッカリン;アセスルフェーム-K;これらの混合物;及びアスパルテーム,サッカリン,又はアセスルフェーム-Kとスクラロースとの混合物から成るグループから選ばれる1種又はそれ以上の強力な甘味料と併用して使用することにより達成される。・・・」

周知例7:特開平2-177870号公報
「3)クロロデオキシ糖誘導体が4,1′,6′-トリクロロ-4,1′,6′-トリデオキシガラクトスクロースである請求項2記載の組成物。」(特許請求の範囲請求項3)
「4,1′,6′-トリクロロ-4,1′,6′-トリデオキシガラクトスクロース(スクラロース)」(第10頁左上欄第6?7行)

周知例8:特開平5-038258号公報
「【0035】カプセル化された甘味料成分を添加しなければならない場合は,これは,強力な甘味を付与できるような,固体の天然または合成の甘味料から選択してよい。制限しないこれらの甘味料の例は,アミノ酸系甘味料,ジペプチド甘味料,グリチルリチン,サッカリンおよびその塩,エースサルフェーム塩,サイクラメート,ステビオサイド,タリン,ジヒドロカルコン化合物,塩素化スクロース重合体,例えばスクラロース,およびこれらの混合物を包含する。」

また,スクラロースの量の数値限定について,本件訂正発明の「酸味のマスキング」は,本件特許明細書には,「不快な酸味がマスキングされた」と記載されるだけであり,その判断基準が明らかでないし,0.012?0.015重量%という数値範囲は,実施例に記載されたものを採用したもので,この数値の意義を示す比較例もなく,臨界的意義があるとすることはできない。そして,口頭審理において被請求人は「数値限定について,進歩性の根拠となる意義はない。」(口頭審理調書)と認めるところでもある。
そうすると,味は食品にとって非常に重要な要素であり,各種人工甘味料の味に関する特性を調べることは至極当たり前のことであるといえ,前記したように高度甘味料であるアスパルテーム,ステビア,サッカリンが酢酸等の酸味を緩和するということが知られていたのであるから,甲3発明において,ショ糖に代えて,周知の高度甘味料であるスクラロースを採用し,その際に酸味に対してマスキングが起きることを確かめ,スクラロースの濃度を0.012?0.015重量%という範囲に適宜決定することで,本件訂正発明のごとくすることは,当業者が容易になし得たことといえる。
阻害要因について検討すると,乙第2,6号証にトレハロースがレモン汁及び梅干しの酸っぱさを減少させるが,醸造酢の酸っぱさは増加させることが記載され,乙第3号証にネオテームが,クエン酸の酸味を増強し,酢飲料の酸味を和らげることが記載され,乙第8?9号証に,ネオヘスペリジンジヒドロカルコンが酸味を増強することが記載され,乙第12号証に,果糖が食酢の香りや味を引き立てる働きを持っていると記載され,乙第13号証に,エリスリトールが酸味を増強することが記載され,乙第14号証に,ソーマチンがチューインガムに使用されたクエン酸及び酒石酸の酸味を増強することが記載されていることから,酸味剤と甘味剤の組合せによっては,甘味料が酸味を増強するという対比現象が起こることは事実といえる。
その一方で,上記のとおり,甲第4?6号証に記載されるように,アスパルテーム,ステビア,サッカリンが酢酸等の酸味を緩和するという現象も知られていたことである。
そして,甘味剤と酸味剤との相互作用,つまり添加された甘味が,酸味の増強又は緩和のいずれに作用するかについて,実際に味見をすることで確認することは慣用の手段であるといえ,各種人工甘味料に対して,味の相互作用が未だ科学的に解明されていない事実((乙17-1)(乙18-1))並びに酸味を増強するような場合があることも参酌すれば,当業者であれば,酸味との相互作用等の特性を実際に確認することを自然に考えるものである。
したがって,乙第2,3,6,8,9,12?14号証に記載された事実は,甲3発明において,ショ糖に代えてスクラロースを用い,酸味がマスキングされるか否かを実際に確かめてみることの阻害要因とはならないといえる。
(本件訂正発明の効果について)
本件特許明細書に記載された効果である,長期安定性と熱安定性に優れた酸味のマスキング方法である点,マスキング後の味のバランスを保持し,酸味自体の風味を良質なものにする点については,スクラロースの性質である熱安定性及び良質な甘味を有することから,予測し得た効果であり,格別顕著なものとはいえない。
被請求人が主張するところの,スクラロースの酸味のマスキング効果が他の甘味料より顕著に優れているとする点((乙5-1-3)(乙5-2-2))については,甘味剤と酸味剤の組合せにより,酸味が減少したり増強したりすること,その程度も様々であることが,乙第2,7,9号証に記載されているように本件出願前に知られていたことを考えると,スクラロースのマスキング効果が驚くべきものとすることはできず,当該マスキング特性が他の甘味料から予想される範囲を超えてまで格別に優れているものとはいえない。

(5)小括
したがって,本件訂正発明は,甲第3号証に記載された発明,及び甲第2,4?6号証に記載された発明に基づいて,出願前に当業者が容易に想到できた発明であるといえる。

第7 むすび
以上のとおり,本件請求項1に係る発明についての特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから,特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである。
また,審判に関する費用については,特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
酸味のマスキング方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クエン酸、酒石酸及び酢酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸味剤を含有し、経口摂取又は口内利用時に酸味を呈する製品に、スクラロースを、該製品の重量に対して0.012?0.015重量%で用いることを特徴とする酸味のマスキング方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は酸味のマスキング方法に関し、より詳細には酸味を呈する製品に、スクラロースを添加することからなる酸味のマスキング方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
酸味は、食品、医薬品及び医薬部外品等の経口摂取又は口内利用可能な製品において、塩味、苦味、甘味等とともに総合的な味覚の完成に重要な要素であり、食品等の上述の製品素材が本来備える場合もあるが、通常は酸味剤等を添加することにより付与される。
【0003】
また、これら酸味剤等は、食品等に酸味を付与するだけでなく、防腐、保存、抗菌、凝固、緩衝作用、粘性調整、ゲル化の調整及び膨張剤として、種々の作用を示すため、単に味覚の構成にとどまらず、これらの作用を期待して食品等の製品中に添加する場合がある。しかし、有用な作用を期待して添加される酸味剤であっても、一方においてはpHを低下させたり、物性や化学的特性を変化させる場合があり、これにより、食品等の本来の味のバランスを損ない、また、不快な酸味を増強したりして、食品等の嗜好性に悪影響を及ぼす問題があった。
【0004】
これに対して、種々の呈味成分が酸味を緩和するものとして知られている。例えば、糖類やアミノ酸等が挙げられるが、これらを食品等に添加することにより十分な酸味緩和作用を発揮させようとすると、甘味がつきすぎたりして製品自体の味のバランスが損なわれるという問題があった。
また、特公平4-60626号において、アスパルテームが、漬物や梅加工食品において酸味をマイルドにすることが記載されている。しかし、アスパルテーム自体、pH、温度等によって分解し易く、対象の食品によっては長期間安定に保存することができない場合がある。
【0005】
よって、酸味のマスキング効果を十分に発揮するとともに、製品本来の味のバランスを保持し、さらに長期安定性及び熱安定性にすぐれた酸味のマスキング方法が求められている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本出願人は、種々の呈味成分を、酸味を呈する製品に添加することにより、酸味自体、他の味成分とのバランス、長期保存又は熱安定性等について鋭意検討を行い本発明を完成するに至った。
つまり、本発明によれば、酸味を呈する製品に、スクラロースを添加する酸味のマスキング方法が提供される。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明における酸味を呈する製品とは、経口摂取又は口内利用時に酸味を呈する製品を意味し、また、本来酸味は必要ではないが、保存等の目的で酸味剤等を添加したために酸味を呈するに至った製品も含まれ、食品、医薬品、医薬部外品等が挙げられる。これら製品は摂取時又は利用時に液体、半固体、固体状のいずれの形態のものであってもよい。これら製品中において酸味を呈する物質としては、例えば、各種の天然素材、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、乳酸、酢酸、グルコノデルタラクトン、アジピン酸、コハク酸及びリン酸等の天然又は合成酸味剤等が挙げられる。よって、酸味を呈する製品の具体例としては、サイダー、レモンスカッシュ等の炭酸飲料;天然果汁飲料;粉末飲料;乳飲料;乳酸菌飲料;スポーツ飲料;栄養飲料;フラワーペースト、ジャム等を含有する菓子パン類;うどん、ラーメン等のめん類;インスタント米飯;キャンデー、ガム、錠菓、グミキャンデー、スナック等の菓子類;ゼリー、みつまめ、杏仁豆腐、ヨーグルト等のデザート食品;シャーベット等の冷菓;梅干し、ピクルス、しそ漬け等の漬物類;豆腐・油揚げ類;酢、ウスターソース、タルタルソース、マヨネーズ、ドレッシング、トマトケチャップ、ハンバーグソース、ステーキソース等の風味調味料;即席麺(スープ)、ポタージュ、スパゲティーソース、デミグラスソース、チリソース、カレー、ハヤシライス、クリームシチュー、ビーフシチュー、グラタン、ドリア、炊き込みご飯の素、マーボー豆腐の素、酢豚の素、ちらし寿司、いなり寿司、いなり揚げ等のレトルト・調理食品;ピラフ、スパゲティー、親子丼、スープ等の電子レンジ食品等の種々食品、ビタミン剤及び口腔錠剤等の医薬品、口内清涼剤及び歯磨粉等の医薬部外品等が挙げられる。なおこれら製品は、酸味を呈する限り、甘味、塩味、渋味、苦味等の他の味を呈するものであってもよく、保存剤、殺菌剤等の種々の添加剤を含有していてもよい。また、本来酸味は必要ないが、保存剤等の目的で酸味剤等を添加したために、酸味を呈するに至ったものも含む。
【0008】
本発明においては、上記の酸味を呈する製品にスクラロースを添加する。スクラロースの添加量は、得られた製品の味の総合的なバランス等を考慮して適宜調整することができる。スクラロースは高甘味度甘味剤と称され、少量で通常の甘味を呈するため、多量に使用すると他の味の成分とのバランスを損なう。また、スクラロースは甘味を呈する最小値以下の量、つまり甘味の閾値以下の量でも酸味のマスキング効果を奏することができる。ここで、甘味の閾値とは、上述のように、甘味剤の甘味を呈する最小値を意味するが、この値は必ずしも絶対値として表されるものではない。つまり、本願発明者らの試験によれば、クエン酸(結晶)0.1%の水溶液に対するスクラロースの甘味の閾値は0.00075%、クエン酸(結晶)0.3%の水溶液に対する閾値は0.003%であることが確認されている。このように、甘味の閾値は、対象製品の形態(液体、流動体、固体等)、製品中の酸味の種類あるいは強弱、製品中の他の味成分(塩味、渋味等)、製品の摂取又は利用時の温度等により変動する値であると考えられるが、一般に甘味剤として使用する場合の量よりも小さい値である。これによって、酸味のマスキング効果を十分に発揮するとともに、製品本来の味のバランスを保持し、さらに長期安定性、熱安定性にすぐれた酸味のマスキングを行うことができる。また、スクラロース自体、甘味剤として良質の甘味を呈する物質であるため、マスキングされた後の酸味自体の風味を良質なものにすることができる。
【0009】
酸味を呈する製品にスクラロースを添加する方法としては、スクラロースの所定量を、酸味を呈する製品に均一に添加できる限り特に限定されるものではない。例えば、酸味を呈する製品の最終形態、つまり摂取又は利用時の形態が固体の場合は、成型されるまでの製造工程における液体、半固体の形態の時に、所定量のスクラロースをそのまま、又は希釈された溶液の状態で均一に添加し、その後に固体形状に形成する方法、成型された固体形状の製品に、希釈された溶液状のスクラロースを塗布又は噴霧等により均一に添加する方法等が挙げられる。また、酸味を呈する製品の摂取又は利用時の形態が液体又は半固体の場合は、その製造工程中又は最終製品にそのまま又は溶液の状態で均一に添加する方法等が挙げられる。
【0010】
【実施例】
試験例1
スクラロースの安定性を、高甘味度甘味剤であるアスパルテームの安定性と比較した。まず、100gの水に対して5gの砂糖を溶解した水溶液と同等の甘味を有するスクラロース及びアスパルテーム水溶液をそれぞれ調製した。これらの水溶液を、pH4.0に調節し、80℃に加熱して、10?16日間保持した。その際の各水溶液中のスクラロース又はアスパルテームの量を測定した。その結果を図1に示す。
【0011】
図1によれば、特に熱が加わる条件下では、アスパルテームは経時的に分解し、この分解にともなって、酸味のマスキング効果も消失していくことが認められた。一方、スクラロースでは、経時的な分解はほとんど認められず、酸味のマスキング効果の消失も認められなかった。
【0012】
実施例1
1/5濃縮グレープ果汁4.5重量部(以下「部」と記す)、クエン酸(結晶)0.12部、L-酒石酸0.05部、グレープエッセンスNo.66815(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)0.1部、サンレッドYMF(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)0.03部、スクラロース0.013部を水にて100部とし、93℃まで加熱し、熱時瓶に充填した。このように調製した直後のグレープ果汁飲料は、酸味のさわやかなグレープ果汁飲料であった。
【0013】
また、このグレープ果汁飲料を、180日間、常温(24±1℃)で保存した。この際、スクラロース0.013部の代わりにアスパルテーム0.0365部、酵素処理ステビア0.048部、サッカリンナトリウム0.024部を用いたグレープ果汁飲料(すべての甘味料は、砂糖7.3部使用のグレープ果汁飲料と同等の甘味に調整した)を同様に180日間保存し、評価した。その結果を表1に示す。
【0014】
【表1】

【0015】
表1から、酸味と甘味とを総合すると、スクラロースが最も高い評価であった。
【0016】
実施例2:梅フィズ
炭酸水50部、ホワイトリカー15部、1/5濃縮梅透明果汁1部、クエン酸(結晶)0.35部、ウメフレーバーNo.58715(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)0.1部、サンレッドBM(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)0.02部、スクラロース0.015部を水にて100部とし、瓶に充填する。70℃の湯浴上で30分間殺菌する。このように調製したアルコール飲料は、不快な酸味がマスキングされ、梅の酸味のさわやかなフィズであった。
【0017】
実施例3:バーベキューソース
トマトベースト35部、ワインビネガー30部、食塩3部、サラダ油3部、スパイス0.2部、ガーリックパウダー0.05部、スクラロース0.012部を水にて100部とし、容器に充填する。80℃の湯浴上で30分間殺菌する。
【0018】
このように調製したバーベキューソースは、ワインビネガー由来の酢酸臭が、スクラロースによってマスキングされ、酸味の不快味がマスキングされたバーベキューソースであった。
【0019】
【発明の効果】
本発明によれば、クエン酸、酒石酸及び酢酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸味剤を含有し、経口摂取又は口内利用時に酸味を呈する製品に、スクラロースを添加することにより、製品本来の味のバランスを保持し、さらに長期安定性、熱安定性にすぐれた酸味のマスキング効果を十分に発揮することができる。また、スクラロース自体、甘味剤として良質の甘味を呈する物質であるため、マスキングされた後の酸味自体の風味を良質なものにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】スクラロースとアスパルテームの経時的な安定性を示すグラフである。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2012-01-06 
出願番号 特願平9-47929
審決分類 P 1 113・ 537- ZA (A23L)
P 1 113・ 121- ZA (A23L)
P 1 113・ 841- ZA (A23L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 三原 健治  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 郡山 順
▲高▼岡 裕美
登録日 2007-03-16 
登録番号 特許第3929101号(P3929101)
発明の名称 酸味のマスキング方法  
代理人 井上 裕史  
代理人 小林 幸夫  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 田中 千博  
代理人 村林 ▲隆▼一  
代理人 田中 千博  
代理人 小林 幸夫  
代理人 溝内 伸治郎  
代理人 溝内 伸治郎  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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