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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H02K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02K
管理番号 1274200
審判番号 不服2012-16682  
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-08-27 
確定日 2013-05-16 
事件の表示 特願2007- 17988「回転電機の回転子及び回転電機」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 8月14日出願公開、特開2008-187802〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成19年1月29日の出願であって、平成23年7月6日付で拒絶の理由が通知され(発送日:平成23年7月12日)、これに対し、平成23年9月12日付で意見書及び手続補正書が提出されたが、平成24年5月22日付で拒絶査定がなされ(発送日:平成24年5月29日)、これに対し、平成24年8月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされると共に手続補正書が提出されたものである。


2.平成24年8月27日付の手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成24年8月27日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)本件補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「回転子の中心軸側に向かって凸となるように各極に永久磁石が埋め込まれた回転電機の回転子であって、
前記回転子には各極に複数層ずつフラックスバリアが設けられ、
前記永久磁石は各極毎に前記フラックスバリアのうち少なくとも1層に埋め込まれ、
前記永久磁石は、前記各層の中心と前記回転子の中心とを通る仮想直線に対して対象に配置された一対の平板状永久磁石を含み、当該一対の平板状永久磁石が前記回転子の中心軸側に向かうほど互いに近づくように配置されることで前記永久磁石が前記回転子の中心軸側に向かって凸となるように構成されており、
各極において前記永久磁石が埋め込まれた層のうち少なくとも1層について前記一対の平板状永久磁石の少なくとも前記回転子の外周に近い側の一端部は、磁化配向方向が前記仮想直線と平行な平行着磁となるように構成されていることを特徴とする回転電機の回転子。」
と補正された。

上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「永久磁石」について、形状を「前記各層の中心と前記回転子の中心とを通る仮想直線に対して対象に配置された一対の平板状永久磁石を含み、当該一対の平板状永久磁石が前記回転子の中心軸側に向かうほど互いに近づくように配置されることで前記永久磁石が前記回転子の中心軸側に向かって凸となるように構成されており」と限定し、磁化配向方向について実質的に「少なくとも前記回転子の外周に近い側の一端部は、磁化配向方向が前記仮想直線と平行な平行着磁となる」と限定するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。


(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平9-266646号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

1-a「ロータコア中に永久磁石が1極当たり複数個内蔵されるようにしたブラシレスDCモータにおいて、同一磁極を形成するロータ軸心側に配される永久磁石(以下内側磁石と称す)とロータ外周側に配される永久磁石(以下外側磁石と称す)とを、少なくともこのロータと対向するステータのスロットオープニング幅以上の間隔をもたせて配置したことを特徴とするブラシレスDCモータ。」(【請求項1】)

1-b「同一磁極を形成する全ての永久磁石が、ロータ軸心と当該磁極中央をラジアル方向に結ぶ線と平行な方向に磁気配向されていることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載のブラシレスDCモータ。」(【請求項4】)

1-c「本発明は、ロータ内部に永久磁石を埋め込んで配置した構成のブラシレスDCモータに関する。」(【0001】)

1-d「図5において、7は永久磁石2aと2bとの間に挿入した無方向性の磁性材料であり、その他の構成は図1?図3の実施例と同様である。図5に示すロータコア1bの場合は永久磁石2a,2b及び磁性材料7を一緒に挿入するための大きな収容孔が設けられることになるため」(【0018】)

1-e「図6は、同一磁極を形成する永久磁石2d,2e,2fが、ロータ軸心と当該磁極中央をラジアル方向に結ぶ線P-Pと平行な方向に磁気配向された例を示している。永久磁石2d,2e,2fを有する磁極以外の磁極も同構成となっており、図中矢印で示される磁気配向を有し、周方向にNS交互に着磁されて全体で4等配4極の磁極を構成している。」(【0020】)

1-f「このように図6?図8の実施例に示すように、永久磁石の磁気配向を種々設計操作することにより、エアギャップにおける磁束分布が変更可能となり、例えば磁束分布を正弦波に近づけることによって騒音や振動を低減したり、あるいは120゜通電を行うモータにおいて、該通電領域のみ誘起電圧が高くなるような磁束分布とすることによってモータ効率を向上させたりすることが容易となる。」(【0024】)

1-g「図10は本発明のさらに別の実施例を示すものであり、図1に示した1極を形成する円弧状の永久磁石2a,2b,2cに代えて、コの字状の永久磁石2m,2n,2oによって構成したものであり、図1に示したものと何ら変わりなく本発明の構成が適用可能である。またこれらの形状に限らず、極端な場合は、平板状の永久磁石を平行配列して組み合わせて構成したものにおいても本発明の適用効果は大いに期待できる。」(【0025】)

上記記載及び図面を参照すると、ロータのロータ軸側に向かって凸となるように各極に永久磁石が埋め込まれたブラシレスDCモータのロータが示されている。
上記記載及び図面を参照すると、ロータには各極に複数層ずつ収容孔が設けられ、永久磁石は各極毎に収容孔のうち少なくとも1層に埋め込まれている。
上記記載及び図面を参照すると、永久磁石は、ロータ軸心と当該磁極中央をラジアル方向に結ぶ線に対して対象に配置された円弧状永久磁石を含み、当該円弧状永久磁石は、ロータのロータ軸側に向かって凸となるよう構成されている。

上記記載事項からみて、引用例1には、
「ロータのロータ軸側に向かって凸となるように各極に永久磁石が埋め込まれたブラシレスDCモータのロータであって、
前記ロータには各極に複数層ずつ収容孔が設けられ、
前記永久磁石は各極毎に収容孔のうち少なくとも1層に埋め込まれ、
前記永久磁石は、ロータ軸心と当該磁極中央をラジアル方向に結ぶ線に対して対象に配置された円弧状永久磁石を含み、当該円弧状永久磁石が配置されることで前記永久磁石が前記ロータのロータ軸側に向かって凸となるように構成されており、
各極において前記永久磁石が埋め込まれた層のうち少なくとも1層について前記円弧状永久磁石は、ロータ軸心と当該磁極中央をラジアル方向に結ぶ線と平行な方向に磁気配向されているブラシレスDCモータのロータ。」
との発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。


(3)対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「ロータ」、「ロータ軸側」、「ブラシレスDCモータ」、「収容孔」は、それぞれ本願補正発明の「回転子」、「中心軸側」、「回転電機」、「フラックスバリア」に相当する。
引用発明の「ロータ軸心と当該磁極中央をラジアル方向に結ぶ線」は、本願補正発明の「前記各層の中心と前記回転子の中心とを通る仮想直線」に相当するから、引用発明の「ロータ軸心と当該磁極中央をラジアル方向に結ぶ線と平行な方向に磁気配向されている」は、本願補正発明の「磁化配向方向が前記仮想直線と平行な平行着磁となるように構成されている」に相当する。

引用発明の「円弧状永久磁石」と、本願補正発明の「一対の平板状永久磁石」は、「所定形状の永久磁石」との概念で共通する。
引用発明の「円弧状永久磁石が配置されることで前記永久磁石が前記ロータのロータ軸側に向かって凸となるように構成されており」と、本願補正発明の「当該一対の平板状永久磁石が前記回転子の中心軸側に向かうほど互いに近づくように配置されることで前記永久磁石が前記回転子の中心軸側に向かって凸となるように構成されており」は、「所定形状の永久磁石が所定配置されることで前記永久磁石が前記回転子の中心軸側に向かって凸となるように構成されており」との概念で共通する。
引用発明の「前記円弧状永久磁石は、ロータ軸心と当該磁極中央をラジアル方向に結ぶ線と平行な方向に磁気配向されている」と、本願補正発明の「前記一対の平板状永久磁石の少なくとも前記回転子の外周に近い側の一端部は、磁化配向方向が前記仮想直線と平行な平行着磁となるように構成されている」は、「所定形状の永久磁石の少なくとも前記回転子の外周に近い側の一端部は、磁化配向方向が前記仮想直線と平行な平行着磁となるように構成されている」との概念で共通する。

したがって、両者は、
「回転子の中心軸側に向かって凸となるように各極に永久磁石が埋め込まれた回転電機の回転子であって、
前記回転子には各極に複数層ずつフラックスバリアが設けられ、
前記永久磁石は各極毎に前記フラックスバリアのうち少なくとも1層に埋め込まれ、
前記永久磁石は、前記各層の中心と前記回転子の中心とを通る仮想直線に対して対象に配置された所定形状の永久磁石を含み、当該所定形状の永久磁石が所定配置されることで前記永久磁石が前記回転子の中心軸側に向かって凸となるように構成されており、
各極において前記永久磁石が埋め込まれた層のうち少なくとも1層について前記所定形状の永久磁石の少なくとも前記回転子の外周に近い側の一端部は、磁化配向方向が前記仮想直線と平行な平行着磁となるように構成されている回転電機の回転子。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点〕
本願補正発明は、所定形状の永久磁石が、回転子の中心軸側に向かうほど互いに近づくように配置される一対の平板状永久磁石であるのに対し、引用発明は、所定形状の永久磁石が円弧状永久磁石である点。


(4)判断
回転電機の分野において、回転子に用いる永久磁石が、一対の平板状永久磁石であって回転子の中心軸側に向かうほど互いに近づくように配置される(このような永久磁石の配置を通常V字配置、V字状の配置等という。)ことは、原査定の拒絶の理由に引用された特開2005-328679号公報(図面参照)、特開2005-318760号公報(図1参照)等にもみられるように周知の事項であり、また、V字配置の永久磁石を円弧状の永久磁石に変更可能であることも、特開2005-318760号公報(【0027】参照)、特開2002-354729号公報(【0011】)等にもみられるように周知の事項である。
引用発明の永久磁石は円弧状永久磁石であるが、上記1-gに、円弧状永久磁石の形状を変えてもよいことが示されている。また、引用発明において、平行着磁を行うのは、上記1-fにあるように、エアギャップにおける磁束分布を変更するためである。円弧状永久磁石を有する引用発明において、磁化配向方向を平行着磁とすることでエアギャップにおける磁束分布を既に変更しているから、引用発明の永久磁石の形状自体は円弧状に限られず、他の形状・配置を採用し得ることは当業者であれば容易に理解できるものと認められる。
そうであれば、引用発明において、円弧状永久磁石に代えて、所謂V字配置である、回転子の中心軸側に向かうほど互いに近づくように配置される一対の平板状永久磁石とすることは、当業者が容易に考えられることと認められる。

なお、審判請求人は、平成25年1月9日付回答書において、
『このように、本願発明では「複数の平板状永久磁石」を採用することで、例えば、円弧状の永久磁石を採用する場合に比較して永久磁石の加工等が容易となり、製造コスト等の増大を抑制することが可能である。』
と主張するが、
複数の平板状永久磁石の構成自体では減磁を抑制できるものではなく、当該構成自体では円弧状永久磁石に比して加工容易性が認められるのみであり、加工容易性のために複数の平板状永久磁石を採用することは常套手段であるから、請求人の上記主張は採用できない。

そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明及び上記周知の事項、常套手段から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び上記周知の事項、常套手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条の規定により却下されるべきものである。


3.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成23年9月12日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「回転子の中心軸側に向かって凸となるように各極に永久磁石が埋め込まれた回転電機の回転子であって、
前記回転子には各極に複数層ずつフラックスバリアが設けられ、
前記永久磁石は各極毎に前記フラックスバリアのうち少なくとも1層に埋め込まれ、
各極において前記永久磁石が埋め込まれた層のうち少なくとも1層の少なくとも一端部の磁化配向方向は、固定子からのd軸磁束の流れ方向となす角が90°以上180°未満になるように構成されていることを特徴とする回転電機の回転子。」


(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1及び、その記載事項は、上記「2.[理由](2)」に記載したとおりである。


(2)対比・判断
本願発明は、本願補正発明から、永久磁石の形状に関する「前記各層の中心と前記回転子の中心とを通る仮想直線に対して対象に配置された一対の平板状永久磁石を含み、当該一対の平板状永久磁石が前記回転子の中心軸側に向かうほど互いに近づくように配置されることで前記永久磁石が前記回転子の中心軸側に向かって凸となるように構成されており」との限定を省き、本願補正発明の、永久磁石の磁化配向方向に関する「少なくとも前記回転子の外周に近い側の一端部は、磁化配向方向が前記仮想直線と平行な平行着磁となる」との構成をも含んだ上位概念である「少なくとも一端部の磁化配向方向は、固定子からのd軸磁束の流れ方向となす角が90°以上180°未満になる」との構成とするものである。

そうすると、上記「2.[理由](3)〔相違点〕」に記載した相違点が無くなることとなり、本願発明と引用発明に差異は認められない。

したがって、本願発明は、引用発明と同一と認められる。


4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明と同一と認められるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-12 
結審通知日 2013-03-19 
審決日 2013-04-04 
出願番号 特願2007-17988(P2007-17988)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H02K)
P 1 8・ 113- Z (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 齋藤 健児高橋 祐介  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 川口 真一
槙原 進
発明の名称 回転電機の回転子及び回転電機  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  

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