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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05K
管理番号 1274233
審判番号 不服2011-3104  
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-02-10 
確定日 2013-05-15 
事件の表示 特願2006-550071「回路キャリアを製造する方法と当該方法の使用」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 8月18日国際公開、WO2005/076681、平成19年 7月19日国内公表、特表2007-520070〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成17年1月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年1月29日、ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成22年10月4日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成23年2月10日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、同時に手続補正がされたものであり、その後、当審において平成23年2月10日付け手続補正を平成24年6月12日付けで決定をもって却下するとともに同日付で拒絶理由を通知したところ、平成24年11月16日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされたものである。

2 本願発明
本願の請求項1ないし12に係る発明は、条約第34条補正の翻訳文提出書、平成22年7月8日付け手続補正書及び平成24年11月16日付けの手続補正書によって補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「回路キャリアを製造する方法であって、
a)少なくとも1つの内側層の回路を有する多層基板であるプリント基板を提供し、
b)多層基板の少なくとも一方の面を誘電体でコーティングし、
c)レーザーアブレーションを用いて溝及びビアを作るために誘電体を構造化し、溝は誘電体を完全に通って延びてはおらず、ここで、レーザーアブレーションは直接書き込み法を用いて実行され、直接書き込み法は、レーザービームのパルス化を有し、さらに、誘電体の表面領域に放射される連続的なエネルギーパルスのエネルギー量の減少を有し、
d)誘電体の表面全体に下塗り層を析出し又は作られた溝及びビアの壁にのみ下塗り層を析出し、
e)下塗り層に金属層を析出し、溝及びビアは導体構造を形成するために金属で完全に満たされ、
f)下塗り層が方法ステップd)で表面全体に析出された場合、誘電体を露出するために、溝及びビアを除いて金属層と下塗り層を除去する、方法ステップを有し、
方法ステップb)?f)を1回又は複数回連続的にそれぞれ実行することにより、多層基板の一方又は両方の面に導体構造の1又は複数の面を形成する方法。」

3 引用例
(1)引用例1
これに対して、平成24年6月12日付けの拒絶理由に引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開2000-261141号公報(以下、「引用例1」という。)には、「多層配線基板及びその製造方法並びに半導体装置」に関し、図面(特に、図1?図3)とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、多層配線基板及びその製造方法並びに半導体装置に関し、より詳細には、半導体パッケージとして供されるビルドアップ多層配線基板において微細配線を実現するのに有用な技術に関する。」
イ 「【0009】本発明は、かかる従来技術における課題に鑑み創作されたもので、サイドエッチングやエレクトロマイグレーション等の不都合を招くことなく、フルアディティブ法に近いレベルの微細配線を実現し、ひいては高アスペクト比のビア・ホールの形成に寄与することができる多層配線基板及びその製造方法並びに半導体装置を提供することを目的とする。」
ウ 「【0010】
【課題を解決するための手段】上述した従来技術の課題を解決するため、本発明の一形態によれば、表面に第1の配線が形成されたコア基材の上に絶縁層を形成する第1の工程と、前記絶縁層に、該絶縁層上に形成されるべき第2の配線の形状に応じた凹部を形成する第2の工程と、前記凹部内に前記第1の配線に到達するビア・ホールを形成する第3の工程と、前記ビア・ホール及び前記凹部を埋め込むように前記絶縁層上に金属膜を形成して層間接続部及び第2の配線を形成する第4の工程と、前記第1?第4の工程と同様の工程を必要な配線の層数となるまで繰り返す第5の工程とを含むことを特徴とする多層配線基板の製造方法が提供される。」
エ 「【0014】
【発明の実施の形態】以下、本発明の一実施形態に係るビルドアップ多層配線基板について、その製造工程を順に示す図1?図3を参照しながら説明する。先ず、最初の工程では(図1(a)参照)、配線基板のベースとなるコア基材(本実施形態ではコア基板10)の両面にパターニングされた銅(Cu)配線11上にそれぞれ2層構造の絶縁層12,13を形成する。すなわち、コア基板10上のCu配線11上に不織布入り絶縁層12を厚さ25μm程度で形成し、更にその上に熱硬化性絶縁層13を厚さ30μm程度で形成する。
【0015】なお、図示の例では簡単化のため、コア基板10の片面のみの断面構造が示されており、これは図1(b)以降についても同様である。上層の熱硬化性絶縁層13の材料については、後の工程で加熱された時に架橋反応によって硬化し熱的に安定した状態を呈示する性質を有していれば十分であり、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂等が用いられる。他方、下層の不織布入り絶縁層12については、低誘電率の材料からなり、更にその膜厚の制御が安定に行えること(膜厚制御安定性)が望ましい。このために、不織布としては例えば液晶ポリマー、アラミド繊維等が用いられ、絶縁層としては例えばエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等が用いられる。
【0016】また、コア基板10は絶縁層を構成し、その上に形成されたCu配線11(導体層)と共にビルドアップ多層配線基板のコア層(1層目)を構成する。コア基板10の材料については、例えばガラス-エポキシ樹脂、ガラスBT(ビスマレイミド-トリアジン)樹脂等が用いられる。コア層は、例えば、表面に銅箔を張り付けた銅張り樹脂板(ガラス-エポキシ樹脂複合板など)に対しレジスト塗布やエッチング等を行って銅(Cu)配線パターンを形成することにより、作製され得る。
【0017】次の工程では(図1(b)参照)、熱硬化性絶縁層13の上にポジ型のレジストとして用いる剥離可能な樹脂膜(本実施形態ではドライフィルム)を形成し、更にマスク(図示せず)を用いて2層目の配線の形状に従うようドライフィルムのパターニングを行い、露光とアルカリ系溶液による現像処理を施す。これによって、図示のように2層目の配線の形状にパターニングされたドライフィルム14が熱硬化性絶縁層13の上に形成される。このようにして形成されたドライフィルム14の膜厚は、2層目の配線の膜厚を規定し、本実施形態では厚さ25μm程度に選定されている。
【0018】次の工程では(図1(c)参照)、パターニングされたドライフィルム14を破壊しないように(つまりドライフィルム14の形状等を正確に保つように)、またコア基板10上のCu配線11を破壊しないように、基板の両面からプレス板15によって押圧する一方、熱を加えて熱硬化性絶縁層13を溶かすことによりこの絶縁層13中にドライフィルム14を埋め込みながら絶縁層13を硬化させる。
【0019】次の工程では(図2(a)参照)、弱アルカリ性の薬液(例えば水酸化ナトリウム(NaOH)の水溶液)を用いてドライフィルム14(図1(c)参照)を剥離し、除去する。これによって、図示のように熱硬化性絶縁層13においてドライフィルム14が形成されていた部分(破線で示す部分)に凹部16が形成される。この凹部16は、ドライフィルム14の膜厚すなわち2層目の配線の膜厚と同じ厚さを有している。
【0020】次の工程では(図2(b)参照)、レーザによる穴明け処理により、凹部16においてコア基板10上のCu配線11の位置に対応する部分の熱硬化性絶縁層13及び不織布入り絶縁層12にビア・ホール17を直径35μm程度で形成する。レーザとしてはYAGレーザ、エキシマレーザ又はCO_(2)レーザが用いられる。
【0021】この後、穴明け処理によって生じた樹脂片や汚れ等を除去するための処理(デバリング、デスミア等)を行う。次の工程では(図2(c)参照)、電解パネルめっき又は蒸着により、ビア・ホール17及び凹部16を埋め込むようにして基板表面全体に銅(Cu)のめっき膜又は蒸着膜を形成する。これによって、層間接続部(ビア・ホールの導通部分)18と2層目の配線部分19が形成される。但し、この段階では単に電解パネルめっき又は蒸着の処理が行われているにすぎないので、図示のように基板表面に凹凸部分が残っている。
【0022】次の工程では(図3(a)参照)、上述した基板表面の凹凸部分を機械研磨により研磨して平坦化する。図中、20は研磨に用いる微細砥粒を示しており、この微細砥粒の機械的な押込み及び引掻き作用により基板表面を加工することで平坦化を行う。次の工程では(図3(b)参照)、ウエットエッチングにより、2層目の配線部分19が露出するまでレベリング(金属膜の表面部分の除去)を行う。図中、破線で示す部分は、エッチングによって除去された部分を表している。この段階で、最終的な2層目のCu配線21が形成されたことになる。
【0023】最後の工程では(図3(c)参照)、図1(a)に示した工程と同様にして、2層目のCu配線21(導体層)の上に3層目の絶縁層(不織布入り絶縁層22及び熱硬化性絶縁層23)を2層構造で形成し、更に図1(b)?図3(b)に示した工程と同様の工程を繰り返す。そして、必要な層数となるまで上記の工程を適宜繰り返し、ビア・ホールを含む絶縁層と導体層(Cu配線)とを交互に積み重ねていく。」

上記摘記事項ア?エ及び図面(特に、図1?図3)の記載を総合すると、引用例1には、
「表面に第1の配線11が形成されたコア基材10の上に絶縁層12,13を形成する第1の工程(図1(a)参照)と、
前記絶縁層12,13に、該絶縁層12,13上に形成されるべき第2の配線21の形状に応じた凹部16を形成する第2の工程(図1(b)?図2(a)参照)と、
前記凹部16内に前記第1の配線11に到達するビア・ホール17をレーザによる穴明け処理により形成する第3の工程(図2(b)参照)と、
前記ビア・ホール17及び前記凹部16を埋め込むように前記絶縁層12,13上に金属膜を形成して層間接続部18及び第2の配線21を形成する第4の工程(図2(c)?図3(b)参照)と、
前記第1?第4の工程と同様の工程を必要な配線の層数となるまで繰り返す第5の工程と
を含む多層配線基板の製造方法。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2)引用例2
同じく特開2000-13022号公報(以下、「引用例2」という。)には、「多層配線回路基板及びその製造方法」に関し、図面(特に、図1?図3)とともに次の事項が記載されている。
オ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は多層配線回路基板及びその製造方法に関し、更に詳細には絶縁層を介して多層に積層された配線パターンの各々が、前記絶縁層を貫通するヴィアによって電気的に接続されて成る多層配線回路基板及びその製造方法に関する。」
カ 「【0005】
【発明が解決しようとする課題】図9に示すビルドアップ法によって得た多層の配線基板は、ドリル等の工作具を使用してヴィアを形成した多層の配線基板よりも配線パターンを高密度に形成できる。しかし、その製造工程は複雑であり、得られる配線基板は従来の配線基板よりも高価となる。……
……
【0007】……そこで、本発明の課題は、配線パターンの更なる高密度化を図ることができ、且つ製造工程を簡略化し得る多層配線回路基板及びその製造方法を提案することにある。」
キ 「【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者等は前記課題を解決すべく検討したところ、図8に示す配線基板は、図9及び図10に示す方法で得られる配線基板に比較して低コストで且つ簡略した製造工程で得ることができる。また、電子部品が実装される配線基板の実装面側に比較して、実装面に対して反対面で且つ配線基板の外部接続端子等が装着される外部接続端子装着面側の配線パターンは、実装面側よりも高密度であることを要せず、図8に示す配線基板で充分に対応できる。このため、本発明者は、前記課題を解決するには、配線基板の実装面側に、図8に示す配線基板に形成された配線パターン及びヴィア比較して、微細な微細配線パターンとヴィアとを形成し得るフィルム状基板を接着することが有効であると考え検討を重ねた結果、本発明に到達した。
【0009】……また、本発明は、絶縁層を介して多層に積層された配線パターンの各々が、前記絶縁層を貫通するヴィアにより電気的に接続されて成る多層配線回路基板を製造する際に、該多層配線回路基板の本体部を形成する本体部基板の少なくとも一面側に、前記本体部基板に形成された本体部配線パターンよりも微細な微細配線パターンが形成されたフィルム状基板を接着層によって接着すると共に、前記本体部配線パターンと微細配線パターンとを、前記フィルム状基板及び接着層を貫通し、且つ前記本体部基板に形成したヴィアよりも微細な微細ヴィアによって電気的に接続することを特徴とする多層配線回路基板の製造方法でもある。ここで、『本体部配線パターンよりも微細な微細配線パターン』とは、微細配線パターンを構成するラインのライン幅及びライン間のスペースが、本体部配線パターンを構成するラインのライン幅及びライン間のスペースよりも狭いことを意味する。
【0010】本願発明に係る多層配線回路基板は、多層配線回路基板の本体部を形成する本体部基板の少なくとも一面側に、この本体部基板に形成された本体部配線パターン及びヴィアよりも微細な微細配線パターン及びヴィアが形成されたフィルム状基板を、本体部配線パターンと微細配線パターンとを電気的に接続しつつ、接着層によって接着して成るものである。このため、例えば、半導体装置等の電子部品が実装される実装面側に、チップサイズパッケージ(CSP)等の小型化された半導体装置やその他の電子部品を実装し得るように、所望パターンの微細配線パターンを形成できる。更に、本発明に係る多層配線回路基板を主として形成する本体部基板には、絶縁層を介して多層に積層された本体部配線パターンを、例えばドリル等の工作具を用いて穿設した絶縁層を貫通する透孔の内壁に、めっき金属皮膜を形成したヴィアによって電気的に接続して成る本体部基板を用いることができ、多層配線回路基板を安価に製造できる。この様に、本発明によれば、例えば、CSP等の小型化された半導体装置等の電子部品を容易に実装し得る多層配線回路基板を安価に提供できる。」
ク 「【0011】
【発明の実施の形態】本発明に係る多層配線回路基板(配線基板)は、図1に示す様に、本体部基板10とフィルム状基板12とから構成されている。かかる本体部基板10は、絶縁層14、14・・を介して本体部配線パターン16、16・・が積層されている。この本体部基板10では、本体部配線パターン16の相互を電気的に接続するヴィア18は、ドリル等の工作具を用いて絶縁層14、14・・に穿設した透孔の内壁にめっきを施して形成されたものである。尚、ヴィア18は、必要に応じて導電性接着剤等の充填材が充填されていてもよい。
【0012】かかる本体部基板10の一面側に接着されるフィルム状基板12は、ポリイミド等の樹脂から成るフィルム20から成る。このフィルム20の一面側には、本体部基板10に形成された本体部配線パターン16よりも微細な微細配線パターン22が形成されていると共に、フィルム20の他面側には、熱可塑性樹脂から成る接着層24が形成されている。更に、微細配線パターン22に一端が接続されたヴィア26、26・・も、フィルム20及び接着層24を貫通して形成されている。このヴィア26は、本体部基板10に形成されたヴィア18よりも微細である。この様な、本体部基板10とフィルム状基板12とは、フィルム状基板12に形成された接着層24によって接着される。かかる接着の際に、フィルム状基板12の一面側に形成されたヴィア26の他端が本体部基板10の一面側に形成された本体部配線パターン16に当接し、フィルム状基板12の一面側に形成された微細配線パターン22と本体部配線パターン16とは電気的に接続される。
【0013】図1に示す配線基板を形成する本体部基板10は、ヴィア18が、ドリル等の工作具によって穿設した透孔の内壁に、めっき金属皮膜によって形成されたものであり、図9に示すビルドアップ法等によって形成された配線基板よりも安価に得ることができる。但し、本体部基板10では、前述した様に、ヴィア径等がドリル等の工作具の大きさ等で決定されるためにヴィア18の微細化には限界があり、本体部配線パターン16の微細化にも限界が存在する。この点、図1に示す配線基板では、本体部基板10の一面側に、本体部基板10の本体部配線パターン16及びヴィア18よりも微細な微細配線パターン22及びヴィア26が形成されたフィルム状基板12を接着することによって、小型化され外部接続端子が高密度に配設されているCSP等の電子部品の実装を可能にしている。その結果、図1に示す配線基板によれば、図9に示すビルドアップ法等によって形成された配線基板よりも安価に得ることができ、且つCSP等の小型化された電子部品の実装を可能とする。
【0014】図1に示す配線基板は、図2に示す様に、本体部基板10の一面側に、フィルム状基板12を接着層24により接着することによって得ることができる。かかる接着の際に、本体部配線パターン16と微細配線パターン22とをヴィア26によって電気的に接続させつつ、本体部基板10とフィルム状基板12とを接着すべく、一端が微細配線パターン22に接続されたヴィア26の他端を本体部配線パターン16に当接させると共に、本体部基板10の一面側に、フィルム状基板12の熱可塑性樹脂から成る接着層24を当接させる。次いで、両基板が当接した状態を保持して加圧しつつ、接着層24を形成する熱可塑性樹脂の接着力が発現する温度に加熱することによって、両基板を接着できる。
【0015】ここで、図1及び図2に示す本体部基板10は、従来から知られている方法で製造することができる。例えば、一面側に所定形状の本体部配線パターン16が形成された複数枚の樹脂板を積層した後、ドリル等の工作具によって透孔を形成し、次いで透孔の内壁にめっきを施してヴィア18を形成する。このめっきでは、先ず無電解めっき等によって、透孔の内壁面に銅等のフラッシュめっきを行った後、フラッシュめっきを電極の一方とする電解めっきによって透孔の内壁面に銅層を形成してヴィア18とする。尚、積層する樹脂板のうち、一部の樹脂板を積層した後、透孔を穿設してヴィア18を形成し、その後、残りの樹脂板を積層してもよい。
【0016】かかる本体部基板10の一面側に接着されるフィルム状基板12は、図3に示す方法で得ることができる。先ず、一面側に銅箔等の金属箔28が形成されている共に、他面側に熱可塑性樹脂から成る接着層24が形成されたポリイミド樹脂等の樹脂から成るフィルム20に、接着層24側に開口し且つ底面に金属箔28が露出する凹部30を形成する〔図3(a)(b)〕。この凹部30は、炭酸ガスレーザ等のレーザ加工によって形成できる。次いで、形成した凹部30には、金属箔28を電極の一方とする電解めっきによって、銅等の金属32を充填する〔図3(c)〕。金属32は、凹部30の開口面まで充填してもよいが、図3(c)に示す様に、凹部30の開口面よりも下方で金属32の充填を停止し、残存凹部33を残すことが好ましい。
【0017】この残存凹部33には、金属箔28及び金属32を電極の一方として、接着層24を形成する熱可塑性樹脂の溶融温度以下で溶融するはんだ等の低融点金属34を電解めっきにより充填し、ヴィア26を形成する〔図3(d)〕。その後、金属箔28にフォトリソ法等によってパターニングを施して微細配線パターン22を形成する。更に、形成した微細配線パターン22の所定箇所に、金めっき等の所要のめっきを施してもよい。尚、低融点金属としては、はんだ以外にも接着層24を形成する熱可塑性樹脂の溶融温度よりも低温で溶融する低融点金属、具体的には錫、鉛、亜鉛、ビスマス、アンチモン、インジウム等の単体又は二種以上の金属から成る合金であって、融点が400℃以下の金属を用いることができる。
【0018】この様に、ヴィア26の先端部を低融点金属34によって形成することによって、本体部基板10の一面側にフィルム状基板12を熱圧着して接着する際に、ヴィア26の先端部を形成する低融点金属34が溶融して本体部配線パターン16にヴィア26を確実に接着することができる。更に、低融点金属34として、金属箔28にフォトリソ法等によってパターニングを施して微細配線パターン22を形成する際に、エッチング液に対して保護層となる低融点金属、例えばはんだを選択することが好ましい。かかる保護層によって、ヴィア26の露出面をマスクによって覆うことを必要としないため、フィルム状基板12の製造工程を簡略化できる。」

(3)引用例3
同じく特開平7-283510号公報(以下、「引用例3」という。)には、「印刷回路板の製造方法」に関し、図面とともに次の事項が記載されている。
ケ 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、所要パターンに従って金属導体構造および穴を絶縁材料の基板に作る印刷回路板の製造方法に関する。特に、本発明はレーザーアブレーションを利用するそのような方法に関する。」
コ 「【0004】
【発明が解決しようとする課題】従来技術は、前述したような写真平板を使用する場合、露光、現像、エッチング、清掃、活性化、等の煩雑な処理が不可欠であり、そのため印刷回路板の製造コストや納期を圧迫すると言う問題点を有していた。一方、最近開発されたエキシマレーザーを利用した製造方法では、絶縁材料の担持基板に予め無電解メッキ処理を活性化させる触媒粒子含有層を設ける必要性があり、同レーザーによるプロセスの簡略化が望まれていた。
【0005】従来技術に鑑み、写真平板プロセス階梯を必要とせず、且つ絶縁用担体材料に触媒粒子を必要としない、印刷回路板を製造する方法を提供するのが本発明の目的である。
【0006】担持基板上に非常に高密度の導体構造を有する印刷回路板を作ることができ、1マイクロメートル以下の範囲の導体構造の大きさを作ることができる方法を提供するのが本発明の他の目的である。」
サ 「【0014】
【実施例】図1の(a)?(g)は本発明の方法の第1の実施例を示す。図1の(a)によれば、出発材料は誘電体材料、たとえば、ポリイミドから作られた箔1である。前記箔1の厚さは典型的には約10から約80マイクロメートルの範囲にある。図1の(b)に示す第1のプロセス階梯で、凹み2、3、4、5を、対応するマスクを通して伝えられるエキシマレーザーを使用してレーザーアブレーションにより前記箔1に作る。前記凹み3、4、5は印刷回路板の所要導体構造に対応し、前記凹み2は続く階梯で貫通穴2aが作られる場所に作られる(図1の(c))。
【0015】前記凹みの深さは前記箔1に入射するレーザーエネルギの全量を制御することにより制御される。このエネルギは、たとえば、前記箔1を打つレーザーパルスの数を適切に制御することにより、または前記箔にレーザー光が照射される全時間を制御することにより、調節することができる。前記凹み2、3、4、5の典型的な深さは約1から20マイクロメートルである。……(省略)
【0016】図1の(c)に示す、次の階梯で、前記貫通穴2aを前記箔1にレーザーアブレーションにより作る。この目的で、前記箔1に穴を作ろうとする場所に穴の位置でのみレーザー光に対して透明な対応する前記マスクを通して再び前記エキシマレーザーを照射する。前記貫通穴の典型的な直径は約20から約50マイクロメートルの範囲である。
【0017】次に、清掃階梯を行なってレーザーアブレーションプロセスからの残滓を酸素プラズマまたは水性媒体を使用して除去する。
【0018】図1の(d)による次の階梯では、前記箔1を前記凹み3、4、5を含むその全表面に関しておよび前記貫通穴2aの内壁に関して金属化する。この金属化階梯は、スパッタリングまたは陽極または陰極蒸発のような、物理的気相成長(PVD)を使用する。PVDプロセスの結果、ほぼ200 nmの厚さの金属層7が前記箔1の表面に付着する。典型的には、前記金属層7は銅から構成されているが、銀のような、他の金属も使用することができる。
【0019】その後で、別の金属層8(好適には銅)を前記PVD層7の上に化学的金属成長によりまたはガルヴァニックプロセス(電気めっき)によりにより付着させる。実際的例によれば、図1の(e)に示す得られる前記層8の厚さは約10から40マイクロメートルの範囲にある。好適に、前記層8の厚さは前記凹み2、3、4、5の深さに等しい。前記PVD層7の付着を改善するために、ニッケル、クロム、パラジウム、または銀のような、接着層を前記誘電体基板1の上に堆積することができ、またはPVD層を付着する前にPVDプロセスで施すことができる。代わりに、前記誘電体基板1を金属付着前にプラズマにより活性化することができる。
【0020】次の階梯で、金属(たとえば、銅)を前記箔1の、最終印刷回路で前記導体構造を必要としない区域から除去する。前記所要導体構造以外のこの金属の除去は、研削、研磨、または平削りのような、機械的加工階梯により行なわれる。結果を図1の(f)に示す。このようにして、前記所要導体構造、たとえば、9、10、11に、および前記貫通穴2aに、残った金属だけが存在する。その後で、前記箔を電気化学的に研磨するかまたは手短に化学的にエッチする。これは凹凸を補償するためにおよびプロセスの十分な安全を確保するために行なわれる。
【0021】次に、誘電体箔12および13をこのように作られた2層印刷回路の上側および下側にそれぞれ重ねる。結果を図1の(g)に示す。たとえば構成要素を取り付けるために電気的にアクセス可能でなければならない印刷回路の位置に、前記誘電体箔に開口を作る。このような開口を作るため、レーザが前記開口を作ろうとする前記箔の点にだけ当たるように適切な前記マスクを使用してレーザーアブレーションを行なう。
【0022】多層印刷回路を作る場合、余分の金属を機械的に除去する(研削する)階梯(図1の(f))の後、前記誘電体箔を印刷回路の両側に重ね、上に説明したプロセスを繰り返す。下にある層にアクセスを行なう前記盲穴の他に前記貫通穴を作り出すことが可能である。」
シ 「【0029】(省略)……これの代案として、レーザーアブレーションを、前記箔にレーザービームで直接『書き込む』かまたは適応光学系を使用することにより、前記マスクなしで行なうことができる。前記箔への直接書込は、たとえば、ミラーまたは屈折要素のシステムを使用してレーザービームを偏向させることによりまたは前記箔を静止ビームに対して移動させることにより行なう。」
ス 「【0045】
【発明の効果】本発明の印刷回路板の製造方法は、導体構造および、または穴の所要パターンに対応する凹みおよび、または穴をレーザーアブレーションにより絶縁材料の担持基板に作り、前記基板の実質上全面に導電材料を被着させ、そして 前記導体構造および、または穴の所要パターンを除き前記基板から前記導電材料を除去するので、既知の製造プロセスに比べて、本発明は、少数のプロセス階梯しか必要としない。したがって、複数のプロセス階梯(たとえば、露光、穴明けの複数サイクル)を行なわなければならない場合に特にきわだっている導体構造のレジストレーションという通常の問題はもはや存在しない。更に、本発明の製造プロセスは高速であり、コスト節約的であり、高い再現性および品質を確保する。他の効果として、従来技術のプロセスが高価で且つしばしば一定品質で入手することができない多層積層材料を必要とするということであるのに対し、本発明プロセスは誘電体箔のような、簡単且つ廉価な基礎材料から出発できる。
【0046】更に他の効果としては、得られる印刷回路の表面が実質上平面であり、したがって他の印刷回路と容易に重ね合わせて、更に処理し、多層印刷回路製造することができる。本発明の方法は、溶媒またはエッチャントのような湿式過程を使用する必要がないので、環境的に有益である。加法プロセスであるから、廃棄生成物が存在しないからである。本発明の方法は小さい導体構造および高い集積密度を作ることができる。」

(4)引用例4
同じく特開2002-185137号公報(以下、「引用例4」という。)には、「多層配線基板の製造方法」に関し、図面とともに次の事項が記載されている。
セ 「【0016】この多層配線基板100をめっき触媒液(アトテックジャパン社製アクチベイタ-ネオガント834:35℃)に5分間浸漬した(付着工程)。これにより、小孔61、62、63の内壁、特に樹脂(ガラスエポキシ)上にPdイオンが吸着された。これに続いて、Pdイオンの吸着した多層配線基板100をめっき触媒還元液(アトテックジャパン社製リデューサ-ネオガントWA:30℃)に5分間浸漬した(還元工程)。こうして、そのPdイオンが還元され、図1(e)に示すように触媒であるPd金属70が小孔61、62、63の内面に付与される(触媒付与工程)。
【0017】次に、図2(a)に示すように、切頭円錐状の小孔61、62、63の開孔部にのみ、大気中でレーザを照射して、前工程で付与したPd金属70を酸化させて失活させる(触媒失活工程)。なお、図2では、小孔61のみを拡大して示した(図3、図4についても同様)。小孔61の開口部にあるPd金属70がレーザ照射によりPd酸化物71へ変化して失活した様子を図2(b)に示した。そして、図3に示すように、触媒失活工程後の多層配線基板100を無電解銅めっき浴中に浸漬して、小孔61にめっき銅80を析出させて、めっき銅80が充填されたビアホール91、92、93を形成した(充填工程)。このとき使用した無電解銅めっき液は硫酸銅を主成分とする80℃の溶液であり、多層配線基板100をその溶液中に3時間浸漬して、めっき銅80を析出させた。また、図3に示すように、その浸漬中に小孔61にレーザを照射することにより、めっき銅80の析出を促進させた(析出促進工程)。このレーザの照射は、0.3WのArイオンレーザを30秒間照射することとした。」

(5)引用例5
同じく特表2001-516961号公報(以下、「引用例5」という。)には、「電気的に不導体な表面領域を有するサブストレートを金属化するための方法」に関し、次の事項が記載されている。
ソ 「【0003】
従来の電流の通じない金属化方法では、たいてい一次伝導性層として、銅層を不導体のプラスチック材表面と銅表面に施す。このためにはまず、表面をたいていパラジウム化合物含有溶液で、例えばパラジウムコロイド溶液で活性化する。続いてその表面を電流の通じない銅めっき浴で処理する。通常金属層を少なくとも0.1μmの膜厚で析出する(Guenther Herrmann、プリント配線回路基板技術のハンドブック、3巻、Eugen G. Leuze出版、Saulgau、1993、72ページ)。」
タ 「【0038】
プリント配線回路基板は、従来の設備で処理することができ、その際プリント配線回路基板はたいてい垂直方向の向きで処理浴内に浸漬される。別の好適な実施形態では、プリント配線回路基板が垂直又は水平状態に維持され、このために特に適して設けられた輸送システムで、水平方向に処理設備を通り抜けて搬送される。その際、プリント配線回路基板は、次々に様々な処理位置で異なる処理溶液と接触される。プリント配線回路基板に対し、処理溶液を下から、上から、あるいは両側からはねかけられ、吹き付けられ、あるいは射出され、あるいはプリント配線回路基板を実質的に静止した浴に浸し、その中を搬送する。液が孔内をよく貫流するために、さらに吸引ノズルが取り付けられ得、そのどぶずけノズル(ドレンチャー)はプリント配線回路基板に対して向かい合わせで配置されている。」

4 発明の対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「多層配線基板の製造方法」の各工程は、以下で認定するとおり、本願発明の「回路キャリアを製造する方法」の各方法ステップとの相違はあるものの、半導体パッケージ等を搭載する面に微細配線を実現する「回路キャリアを製造する方法」という点では共通する。
また、引用発明の第1の工程の「表面に第1の配線11が形成されたコア基材10」と、本願発明の方法ステップa)の「少なくとも1つの内側層の回路を有する多層基板であるプリント基板」とは、ともに「回路を有する基板」といえるから、引用発明と本願発明とは、「回路を有する基板を提供」するという方法ステップa)を有する点で共通する。
更に、引用発明の第1の工程の「絶縁層12,13を形成する」ことは、本願発明の方法ステップb)の「誘電体でコーティング」することに相当するから、引用発明と本願発明とは、「基板の少なくとも一方の面を誘電体でコーティング」するという方法ステップb)を有する点で共通する。
更に、引用発明の第2の工程の「凹部16を形成する」ことは、本願発明のステップc)の「溝を作るために誘電体を構造化」することに相当し、引用発明の上記「凹部16」は、本願発明の「溝は誘電体を完全に通って延びてはおらず」との構成に相当するものであり、また、引用発明の第3の工程の「ビア・ホール17をレーザによる穴明け処理により形成する」ことは、本願発明のステップc)の「ビアを作るために誘電体を構造化」することに相当するから、引用発明と本願発明とは、「溝及びビアを作るために誘電体を構造化し、溝は誘電体を完全に通って延びてはおらず」という方法ステップc)を有する点で共通する。
更に、引用発明の第4の工程の「前記ビア・ホール17及び前記凹部16を埋め込むように前記絶縁層12,13上に金属膜を形成」することは、本願発明のステップe)の「金属層を析出し、溝及びビアは導体構造を形成するために金属で完全に満たされ」ることに相当し、また、引用発明の第4の工程の「層間接続部18及び第2の配線21を形成する」ことは、引用例1の上記摘記事項エの段落【0022】及び図3(a)(b)の記載を参酌すれば、本願発明のステップf)の「誘電体を露出するために、溝及びビアを除いて金属層を除去する」ことに実質的に相当するから、引用発明と本願発明とは、「金属層を析出し、溝及びビアは導体構造を形成するために金属で完全に満たされ」るという方法ステップe)、及び、「誘電体を露出するために、溝及びビアを除いて金属層を除去する」という方法ステップf)を有する点で共通する。また、引用発明の「前記第1?第4の工程と同様の工程を必要な配線の層数となるまで繰り返す第5の工程」と本願発明の「方法ステップb)?f)を1回又は複数回連続的にそれぞれ実行することにより、多層基板の一方又は両方の面に導体構造の1又は複数の面を形成する」ことは、「方法ステップb)、c)、e)、f)を1回又は複数回連続的にそれぞれ実行することにより、基板の一方又は両方の面に導体構造の1又は複数の面を形成する」点で共通する。

よって、本願発明と引用発明とは、
[一致点]
「回路キャリアを製造する方法であって、
a)回路を有する基板を提供し、
b)基板の少なくとも一方の面を誘電体でコーティングし、
c)溝及びビアを作るために誘電体を構造化し、溝は誘電体を完全に通って延びてはおらず、
e)金属層を析出し、溝及びビアは導体構造を形成するために金属で完全に満たされ、
f)誘電体を露出するために、溝及びビアを除いて金属層を除去する、方法ステップを有し、
方法ステップb)、c)、e)、f)を1回又は複数回連続的にそれぞれ実行することにより、基板の一方又は両方の面に導体構造の1又は複数の面を形成する方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
方法ステップa)で提供される「回路を有する基板」が、本願発明では、「少なくとも1つの内側層の回路を有する多層基板であるプリント基板」であるのに対して、引用発明では、「表面に第1の配線11が形成されたコア基材10」である点。

[相違点2]
方法ステップc)で「溝及びビアを作るために誘電体を構造化」する手段が、本願発明では、溝及びビアともに、「レーザーアブレーションを用いて」おり、「レーザーアブレーションは直接書き込み法を用いて実行され、直接書き込み法は、レーザービームのパルス化を有し、さらに、誘電体の表面領域に放射される連続的なエネルギーパルスのエネルギー量の減少を有し」ているのに対して、引用発明では、ビア・ホール17(本願発明の「ビア」に相当する。)はレーザによる穴明け処理により形成しているものの、ビア・ホール17及び凹部16(本願発明の「溝」に相当する。)の形成には、レーザーアブレーションを用いていない点。

[相違点3]
本願発明は、「d)誘電体の表面全体に下塗り層を析出し又は作られた溝及びビアの壁にのみ下塗り層を析出し、」という方法ステップd)を有し、方法ステップe)で「下塗り層に」金属層を析出し、方法ステップf)で「下塗り層が方法ステップd)で表面全体に析出された場合、」誘電体を露出するために、溝及びビアを除いて金属層「と下塗り層」を除去するのに対して、引用発明は、本願発明のような「下塗り層」がない点。

5 当審の判断
(1)相違点1について
引用例2の上記摘記事項オ?ク及び図面(特に、図1?図3)の記載を総合すると、引用例2には、「配線パターンの更なる高密度化を図ることができ、且つ製造工程を簡略化し得る多層配線回路基板及びその製造方法を提案すること」(摘記事項カの段落【0007】参照)を課題とし、当該課題を解決するために、「多層配線回路基板の本体部を形成する本体部基板10の少なくとも一面側に、前記本体部基板10に形成された本体部配線パターン16よりも微細な微細配線パターン22が形成されたフィルム状基板12を接着層24によって接着する」(摘記事項キの段落【0009】参照)という手段を講じた発明が記載されているものと認められる。また、引用例2に記載された発明の「本体部基板10」は、本願発明の「少なくとも1つの内側層の回路を有する多層基板であるプリント基板」に相当するものである。
そして、引用発明はフルアディティブ法に近いレベルの微細配線を実現することを課題とし、引用例2に記載された発明は半導体パッケージ等を搭載する面の配線パターンを高密度化することを課題としているから、両者は課題が共通しているし、一般に多層配線基板のコア基材としてプリント基板を採用することも普通によくあることであるから、引用発明の「表面に第1の配線11が形成されたコア基材10」に代えて、引用例2に記載された発明の「本体部基板10」を適用する動機付けは十分にあるといえる。
よって、引用発明の「表面に第1の配線11が形成されたコア基材10」に代えて、引用例2に記載された発明の「本体部基板10」を適用することによって、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
引用例3には、レーザーアブレーションを利用する印刷回路板の製造方法(摘記事項ケ参照)であって、レーザーアブレーションで誘電体材料に凹み2や貫通穴2aを作ることが記載されている(摘記事項サ参照)。また、引用例3には、レーザーアブレーションを、箔にレーザービームで直接「書き込む」ことにより、行うことができる旨が記載されるとともに(摘記事項シ参照)、さらに、凹みの深さは箔1に入射するレーザーエネルギの全量を制御することにより制御され、このエネルギは、箔1を打つレーザーパルスの数を適切に制御することにより、または箔にレーザー光が照射される全時間を制御することにより、調節することができる旨が記載されている(摘記事項サの段落【0015】参照)。
これらの記載から、引用例3には、本願発明の「レーザーアブレーションは直接書き込み法を用いて実行され、直接書き込み法は、レーザービームのパルス化を有し」ているとの事項に相当する構成が記載されているということができる。
また、印刷基板の製造において、レーザーを用いて誘電体に溝やビアを形成する際に、金属層あるいは溝やビアなどへのダメージを小さくし、滑らかな凹壁を生成するために、エネルギーパルスのエネルギー量を徐々に小さくするように制御することは、従来周知の技術にすぎない。この点に関しては、例えば、特開2000-202668号公報の段落【0039】には「第1の実施形態では、スイープ処理として、Q-SW発振のパルス間隔を徐々に縮め、Q-SWパルスエネルギーを徐々に小さくすることによって、ブラインドビアホールをあける際の、内層の銅箔へのダメージは少ない。」と記載され、特開2003-48088号公報には「【0026】図6は、ガルバノ速度指令とDSPボード8からの指令及びビームON、OFF指令のタイミングチャートである。DSPボード8から出力調整装置10にビームOFFの指令が送られると、出力調整装置10からのビームON延長時間T1、出力低下の傾きの出力調整装置10にあらかじめ設定された条件に従い、レーザビーム出力が徐々に低下しOFFとなる。なお、レーザ出力低下の際には1パルス波形のピーク値のみが低下しパルス幅は一定の状態で1パルスエネルギーが徐々に低下しいく。」及び「【0027】本実施の形態によれば、P4の位置よりレーザ出力低下を行い、再び通過するP3の位置にてレーザ出力を停止するので、実施の形態1の効果に加え、加工穴内層導体部の外周部のビームラップ部分P3への溶融、貫通等のダメージを抑えることができる。また、従来のスキャンニング加工の場合、表面導体層の加工を一度行った部分を再度同じエネルギー出力のビームを通過させるため、内層導体層の外周部のラップ部分に溶融、貫通等のダメージが入り、その結果、メッキ工程でメッキ不良が発生していたが、本実施の形態によれば、一度加工された部分を通過するときに、絶縁層のみ加工できるレーザビーム出力まで低下させているので、内層導体層へのダメージを抑制し、高品質なビアホールを形成することができるので、メッキ不良問題も改善することができる。」と記載されている。また、特開平10-224015号公報には「【0011】穴加工品質を高めるためには、低い加工エネルギーのレーザーを多数回照射する方法や、本来のレーザーパルスの後にクリーニング用の低エネルギーレーザーパルスを照射する方法がある」と記載されている。
そして、引用発明と引用例3に記載された発明とは、どちらも誘電体に溝やビアを形成して回路キャリアを製造する方法に関するものであるから共通の技術分野に属するものであり、引用発明はフルアディティブ法に近いレベルの微細配線を実現することを課題とし(摘記事項イ参照)、引用例3に記載された発明は非常に高密度の導体構造を有する印刷回路板を作ることができ、1マイクロメートル以下の範囲の導体構造の大きさを作ることができる方法を提供することを課題としており(摘記事項コ参照)、両者は共通する課題を有している。
そうすると、引用発明及び引用例3に記載された発明に接した当業者であれば、引用発明において、微細配線を実現するために引用例3に記載された発明を適用し、ビア・ホール17及び凹部16をレーザーアブレーションにより形成するようにすることは格別創意を要することなく容易に想到できたことであり、その際に、溝やビアの加工精度をより高めるべく、エネルギーパルスのエネルギー量を徐々に減らすように制御するという周知技術を適用して、相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

(3)相違点3について
多層配線基板の製造工程において、金属層を析出する前の工程として、本願発明の「下塗り層」に相当する層を析出する工程を設けることは、従来周知の技術である(例えば、引用例4の上記摘記事項セ、引用例5の上記摘記事項ソを参照)。
そして、引用発明の第4の工程の「前記ビア・ホール17及び前記凹部16を埋め込むように前記絶縁層12,13上に金属膜を形成」する前に、上記周知の技術である「下塗り層」に相当する層を析出する工程を設けることは、当業者が必要に応じて適宜なし得ることである。
また、上記周知の技術である「下塗り層」に相当する層を析出する範囲は、当業者が必要に応じて適宜選択し得るから、本願発明の方法ステップd)のように、「誘電体の表面全体に下塗り層を析出」するか、又は、「作られた溝及びビアの壁にのみ下塗り層を析出」するかは、当業者が適宜選択し得る設計的事項であり、前者を選択した場合に、第4の工程を、相違点3に係る本願発明の構成のようにすることは、当業者が容易になし得たことである。即ち、上記「4 発明の対比」で説示したとおり、引用発明の第4の工程(図2(c)?図3(b)参照)においては、本願発明の「誘電体を露出するために、溝及びビアを除いて金属層を除去する」ことに相当する工程が実質的に行われるのであるから、下塗り層が表面全体に析出された場合には、第4の工程で誘電体を露出するために金属層だけでなく下塗り層も除去することは、むしろ当然のことである。
よって、相違点3に係る本願発明のように構成することは、当業者であれば容易に想到できたことである。

(4)作用効果について
本願発明が奏する作用効果は、引用例1ないし5に記載された発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲内のものであって格別なものとはいえない。

なお、審判請求人は、平成24年11月16日付け意見書の中で、「本発明では、誘電体のレーザーアブレーションの間に、エネルギー量が初期の高い値から段階的に下げられ、ビア及び溝の壁から除去されていない誘電体が損傷されるのを十分に防ぎ、これにより滑らかな凹壁の生成が可能になります(0060段落)。」(2.(3)の項参照)と主張し、これは、引用文献に記載されていない本発明に顕著な効果であり、ゆえに、滑らかな凹壁を調製する必要性に直面した当業者は、引用文献から動機付けられて「誘導体の表面領域に放射される連続的なエネルギーパルスのエネルギー量が減少される」という作用を使用することはない旨主張する。
しかしながら、上記「(2)相違点2について」で述べたとおり、レーザーを用いて誘電体に溝やビアを形成する際に、金属箔あるいは溝やビアなどへのダメージを小さくし、滑らかな凹壁を生成するために、エネルギーパルスのエネルギー量を徐々に小さくするように制御することは、従来周知の技術である。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

6 むすび
以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用例1ないし5に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項2ないし12に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-12-12 
結審通知日 2012-12-18 
審決日 2012-12-25 
出願番号 特願2006-550071(P2006-550071)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長清 吉範岡 由季子  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 常盤 務
窪田 治彦
発明の名称 回路キャリアを製造する方法と当該方法の使用  
代理人 藤田 アキラ  
代理人 今井 秀樹  
代理人 金沢 充博  

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